|
3318 肝女歌,恋,送別 [題詞] ・・・・・・・・・・・
木國之ー紀の国のーきのくにのー紀伊の国の 濱因云ー浜に寄るといふーはまによるといふー浜辺に打ち寄せるという <鰒>珠ー鰒玉ーあはびたまー鮑貝の真珠を 将拾跡云而ー拾はむと言ひてーひりはむといひてー拾って来ると言って 妹乃山ー妹の山ーいものやまー紀ノ川の妹山と 勢能山越而ー背の山越えてーせのやまこえてー背の山を越えて 行之君ー行きし君ーゆきしきみー出かけていった夫は 何時来座跡ーいつ来まさむとーいつきまさむとーいつ帰って来るかと 玉桙之ー玉桙のー[たまほこの]ー 道尓出立ー道に出で立ちーみちにいでたちー道に出て 夕卜乎ー夕占をーゆふうらをーツゲの櫛を持ち、夕方道の辻に立って、最初に通る人の言葉を聞いて吉凶を判断する占い師に 吾問之可婆ー吾がが問ひしかばーわがとひしかばー問いかけてみると 夕卜之ー夕占のーゆふうらのー夕占が 吾尓告良久ー吾れに告らくーわれにつぐらくーわたしに告げた 吾妹兒哉ー吾妹子やーわぎもこやー愛しき奥さんよ 汝待君者ー汝が待つ君はーながまつきみはーあなたが待っている夫は 奥浪ー沖つ波ーおきつなみー沖の波に 来因白珠ー来寄る白玉ーきよるしらたまー乗ってくる真珠や 邊浪之ー辺つ波のーへつなみのー岸辺の波が 緑<流>白珠ー寄する白玉ーよするしらたまー引き寄せる真珠を 求跡曽ー求むとぞーもとむとぞー採ろうとして 君之不来益ー君が来まさぬーきみがきまさぬー帰って来ないのだ 拾登曽ー拾ふとぞーひりふとぞー拾おうとして 公者不来益ー君は来まさぬーきみはきまさぬー帰って来ないのだ 久有ー久ならばーひさならばー遅くとも 今七日許ーいま七日ばかりーいまなぬかばかりーあと七日 早有者ー早くあらばーはやくあらばー早ければ 今二日許ーいま二日ばかりーいまふつかばかりーあと二日 将有等曽ーあらむとぞーと夫は言っているぞ 君<者>聞之二々ー君は聞こししーきみはきこししー夕占はわたしに云い 勿戀吾妹ーな恋ひそ吾妹ーなこひそわぎもーそんなに恋しがるなと告げた ・・・・・・・・・・・ 3319 送別 [題詞]反歌 杖衝毛 不衝毛吾者 行目友 公之将来 道之不知苦 つゑつきも つかずもわれは ゆかめども きみがきまさむ みちのしらなく ・・・・・・・・・・・
杖をついてでもつかなくても わたしは迎えに行きたい だけどあなたが帰って来る道筋を 知らないし わからないでは ・・・・・・・・・・・ 3320 奈良,御所市,恋,女歌 [題詞] 直不徃 此従巨勢道柄 石瀬踏 求曽吾来 戀而為便奈見 ただにゆかず こゆこせぢから いはせふみ もとめぞわがこし こひてすべなみ ・・・・・・・・・・・
真っ直ぐに行かず近道の こっちから越せという巨勢の道を 滑りやすい川の飛び石を踏み 私は帰って来た 貴女が恋しくてしかたがないので ・・・・・・・・・・・ 3321 和歌山,送別,恋 [題詞] 左夜深而 今者明奴登 開戸手 木部行君乎 何時可将待 さよふけて いまはあけぬと とをあけて きへゆくきみを いつとかまたむ ・・・・・・・・・・・
まだ夜中なのに今に夜は明けると 暗い内に戸を開けて紀伊へお出掛けになった あなたをいつ還っていらっしゃるかと 待ちましょう ・・・・・・・・・・・ 3322 五条市,占い [題詞] 門座 郎子内尓 雖至 痛之戀者 今還金 かどにゐる わがせはうちに いたるとも いたくしこひば いまかへりこむ ・・・・・・・・・・・
いつも門口に居る夫が 今は五条の宇智に着いていても 私がこんなに恋い慕っているのだから その思いが通じて今すぐ帰ってくるはずだわ ・・・・・・・・・・・ 譬喩歌 3323 滋賀県,米原,女歌,民謡,歌垣 [題詞]譬喩歌
・・・・・・・・・・・
師名立ー[しなたつ]ー 都久麻左野方ー筑摩さのかたーつくまさのかたー米原の筑摩の方 息長之ー息長のー[おきながの]ー息長の 遠智能小菅ー越智の小菅ーをちのこすげー越智の野に繁る小菅を 不連尓ー編まなくにーあまなくにー蔓籠に編む気もないのに 伊苅持来ーい刈り持ち来ーいかりもちきー刈り取って 不敷尓ー敷かなくにーしかなくにー敷く気もないのに 伊苅持来而ーい刈り持ち来てーいかりもちきてー刈っただけで 置而ー置きてーおきてー捨て置いたままにして 吾乎令偲ー吾れを偲はすーわれをしのはすー私を見向きもしない 息長之ー息長のー[おきながの]ー息長の 遠智能子菅ー越智の小菅ーをちのこすげー越智の小管を ・・・・・・・・・・・ |
・・万葉集(〃)
[ リスト | 詳細 ]
|
3306 [題詞]反歌 何為而 戀止物序 天地乃 神乎祷迹 吾八思益 いかにして こひやむものぞ あめつちの かみをいのれど われはおもひます どのようにして貴方への恋は止むのか
天地の神に祈るが 貴方を慕う気持ちはいっそう募るばかり 3307 序詞 しかれこそ としのやとせを きりかみの よちこをすぎ たちばなの ほつえをすぎて このかはの したにもながく ながこころまて ようやくの八歳の放髪の幼さを過ぎ
橘の薫り高い末枝の花芽の時を過ぎて この川の下流が広く大きく長いようにと 始めて女として貴方の情けを待っています 3308 [題詞]反歌 天地之 神尾母吾者 祷而寸 戀云物者 都不止来 あめつちの かみをもわれは いのりてき こひといふものは かつてやまずけり ・・・・・・・・・・
天と地の神に私も祈りを捧げています 貴女との恋は未だかつてなく 引き止めることは出来ないことだと ・・・・・・・・・・ 3309 人麻呂歌集,異伝,恋,女歌,歌垣 [題詞]柿本朝臣人麻呂之集歌 ・・・・・・・・・・
物不念ー物思はずーものもはずー物思いもせず 路行去裳ー道行く行くもーみちゆくゆくもー道を行き 青山乎ー青山をーあをやまをー草木が茂る青山を 振酒見者ー振り放け見ればーふりさけみればー仰ぎ見れば 都追慈花ーつつじ花ーつつじばなーツツジの花のような 尓太遥越賣ーにほえ娘子ーにほえをとめー美しい少女 作樂花ー桜花ーさくらばなーサクラの花のような 佐可遥越賣ー栄え娘子ーさかえをとめー娘盛りの少女 汝乎叙母ー汝れをぞもーなれをぞもー君はまあ<「ぞ‐も」係助詞「ぞ」+係助詞「も」。古くは「そも」とも。 文中にあって、その付く語を感動を込めて強く示す意を表す> 吾尓依云ー吾れに寄すといふーわれによすといふー私に関心を寄せているという 吾乎叙物ー吾れをぞもーわれをぞもー私も同じように 汝尓依云ー汝れに寄すといふーなれによすといふー君に好意を寄せている 汝者如何念也ー汝はいかに思ふやーなはいかにおもふやー君はどう思うのだろうか 念社ー思へこそーおもへこそー思えば君に出会ってから 歳八<年>乎ー年の八年をーとしのやとせをー8年もの年月が過ぎた 斬髪ー切り髪のーきりかみのー切り髪だった 与知子乎過ーよち子を過ぎーよちこをすぎー稚児の時代を過ぎ 橘之ー橘のーたちばなのー身長も橘の 末枝乎須具里ーほつ枝をすぐりーほつえをすぐりー薫り高い上の枝を過ぎた 此川之ーこの川のーこのかはのーこの川が 下母長久ー下にも長くーしたにもながくー下流に長く広く続くまで 汝心待ー汝が心待てーながこころまてー始めて女として貴方の情けを待っています ・・・・・・・・・・ [題詞] ・・・・・・・・・・
隠口乃ー隠口のー[こもりくの]ー 泊瀬乃國尓ー泊瀬の国にーはつせのくににー泊瀬の国まで 左結婚丹ーさよばひにー夜這いにきた 吾来者ー吾が来ればーわがきたればー君の家に着いたら 棚雲利ーたな曇りーたなぐもりーすっかり曇って 雪者零来ー雪は降り来ーゆきはふりくー雪が降りだした 左雲理ーさ曇りーさぐもりーさらに曇って 雨者落来ー雨は降り来ーあめはふりくー雪が雨になった 野鳥ー野つ鳥ー[のつとり]ー 雉動ー雉は響むーきぎしはとよむー野鳥のキジが鳴き声をひびかせる 家鳥ー家つ鳥ー[いえつとり] 可鶏毛鳴ー鶏も鳴くーかけもなくー家禽のニワトリも鳴いた 左夜者明ーさ夜は明けーさよはあけー夜が明け 此夜者昶奴ーこの夜は明けぬーこのよはあけぬーしかし私のの夜は明けない 入而<且>将眠ー入りてかつ寝むーいりてかつねむー君の部屋に入って君と抱き合って寝たい 此戸開為ーこの戸開かせーこのとひらかせー早くこの扉を開けておくれ ・・・・・・・・・・ 集歌3310の歌以下四首の歌で、集歌3313の歌には棚機津女(たなはたつめ)と乞巧奠(きつこうてん)の行事が混在した状態と推測されますから、歌が詠われたのは飛鳥時代後半以降でしょうか。そして、泊瀬の地名から推測して、奈良の京時代までは下らずに藤原京時代のものでしょうか。 ただし、人麻呂歌集から推定して、集歌3310の歌の世界が示す屋敷を持つような身分の妻問いでは、事前にお互いの家同士で連絡があり、妻問いを受ける女性の方で訪れる男性の使う寝具と枕を準備します。つまり、この歌の世界と実際の当時の貴族たちの生活とは違います。そこで、これらの歌は藤原京時代の宮中での歌垣の一コマである可能性が、高いと思っています。ちょうど、男側の代表が長歌で情景を詠い、その詠い納めに一呼吸置いて反歌で閉めます、その情景を受けて女側の代表が長歌と反歌で返します。そんな受取で一話が終わると、男女の集団で旋頭歌を交換する。そんな情景でしょうか。 3311 奈良,榛原,枕詞 [題詞]反歌 隠来乃 泊瀬小國丹 妻有者 石者履友 猶来々 [こもりくの] はつせをぐにに つましあれば いしはふめども なほしきにけり ・・・・・・・・・・
隠口の泊瀬の小さな里に 妻が住んでいるので でこぼこ石の道を踏んでも それでも通っていることですよ ・・・・・・・・・・ 3312 枕詞,榛原,奈良,拒否,女歌 [題詞] ・・・・・・・・・・
隠口乃ー隠口のー[こもりくの] 長谷小國ー泊瀬小国にーはつせをぐににー泊瀬小国まで 夜延為ーよばひせすーよばひせすー私を婚ばって来られた 吾天皇寸与ー吾が天皇よーわがすめろきよーわがきみよ 奥床仁ー奥床にーおくとこにー奥の部屋では 母者睡有ー母は寐ねたりーはははいねたりー母が寝ています 外床丹ー外床にーとどこにー玄関そばの部屋では 父者寐有ー父は寐ねたりーちちはいねたりー父が寝ています 起立者ー起き立たばーおきたたばー深夜に目を覚ませば 母可知ー母知りぬべしーははしりぬべしー母は気づくでしょう 出行者ー出でて行かばーいでてゆかばー寝室を抜け出そうとすれば 父可知ー父知りぬべしーちちしりぬべしー父も気づくでしょう 野干<玉>之ー[ぬばたまの] 夜者昶去奴ー夜は明けゆきぬーよはあけゆきぬー夜は明けて行きます 幾許雲ーここだくもーこんなにも 不念如ー思ふごとならぬーおもふごとならぬー思い通りにならない 隠つ香聞ー隠り妻かもーこもりづまかもー日陰の身の隠し妻の私なのか ・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 川瀬之 石迹渡 野干玉之 黒馬之来夜者 常二有沼鴨 かはのせの いしふみわたり [ぬばたまの] くろまくるよは つねにあらぬかも ・・・・・・・・・・
川の浅瀬の石を踏み渡り あの方が乗った黒毛の馬が 私を訪れる夜は毎日ではないものか ・・・・・・・・・・ 3314 女歌,恋 [題詞] ・・・・・・・・・・
次嶺經ー[つぎねふ]ー嶺越えの 山背道乎ー山背道をーやましろぢをー山城への道を 人都末乃ー人夫のーひとづまのーよその夫は 馬従行尓ー馬より行くにーうまよりゆくにー馬に乗って行くのに 己夫之ー己夫しーおのづましーわたしの夫は 歩従行者ー徒歩より行けばーかちよりゆけばーただ歩いて行く 毎見ー見るごとにーみるごとにーその姿を見ながら 哭耳之所泣ー音のみし泣かゆーねのみしなかゆー泣きたくなってしまう 曽許思尓ーそこ思ふにーそこおもふにー夫の心情を思うと 心之痛之ー心し痛しーこころしいたしー同行しながら心が痛い 垂乳根乃ーたらちねのー[たらちねの]ー 母之形見跡ー母が形見とーははがかたみとー母の形見として 吾持有ー吾が持てるーわがもてるー私が持っている 真十見鏡尓ーまそみ鏡にーまそみかがみにー真澄の白銅の鏡に 蜻領巾ー蜻蛉領巾ーあきづひれーあきづひれを 負並持而ー負ひ並め持ちてーおひなめもちてー添え持って行って売り 馬替吾背ー馬買へ吾が背ーうまかへわがせーぜひ馬を買いなさいよ 夫よ ・・・・・・・・・・ * 「蜻蛉領巾」(あきつひれ):薄手で美しい領巾 3315 木津川,女歌,恋 [題詞]反歌 泉<川> 渡瀬深見 吾世古我 旅行衣 蒙沾鴨 いづみがは わたりぜふかみ わがせこが たびゆきごろも ひづちなむかも ・・・・・・・・・・
* 「渡り瀬」:徒歩・馬で渡ることができる浅瀬。泉川は渡り瀬が深いので 馬に乗らず歩いて行くあのひとの旅衣は きっと濡れてしまうのでしょうね ・・・・・・・・・・ 3316 女歌 [題詞]或本反歌曰 清鏡 雖持吾者 記無 君之歩行 名積去見者 まそかがみ もてれどわれは しるしなし きみがかちより なづみゆくみれば ・・・・・・・・・・
白銅のまそ鏡なんて立派な鏡を持っていても わたしには何の甲斐もありません 難儀そうに歩む姿をみていると ・・・・・・・・・・ 3317 [題詞] 馬替者 妹歩行将有 縦恵八子 石者雖履 吾二行 うまかはば いもかちならむ よしゑやし いしはふむとも わはふたりゆかむ ・・・・・・・・・・
* 一つの長歌に対して男女の両方から反歌を歌った例は珍しい。わたしが馬を買ったら 今度はきみだけが歩かねばならなくなるじゃないか かまうものか 川の瀬の石を踏もうと構わしないよ わたしはおまえと二人で歩いて行くのがいいんだよ ・・・・・・・・・・ |
|
3298 [題詞]反歌 縦恵八師 二々火四吾妹 生友 各鑿社吾 戀度七目 よしゑやし しなむよわぎも いけりとも かくのみこそあが こひわたりなめ えいままよ
* 「二ゞ火四」の「二ゞ」は九九算の二二ヶ四の「シ」、「火」は中国の五行説から方角「南」を表し、 「ナム」で「二ゞ火四」は「しなむよ」と読むとされる。「二ゞ火四」は、熒や燚(せつ)の文字にも当たり、「くらみし」・「かげろし」とも訓める。ほのかに灯る愛しい女よ 生きているからこそ このように鑿で刻むように 私ははっきりと貴女に恋しよう * 「鑿 のみ」は刃の付いた金属部分と柄からなる。刃の付いた金属部分のうち、先端の太くなっている部分を「穂(穂先)」、柄とつながり細くなっている部分を「首」といい、柄とは口金で固定されている。 3299 衒採恋情,七夕 [題詞] 見渡尓ー見わたしにーみわたしにー見渡せる川に向き立って<「みわたし」、見渡すこと、見渡した向こう側、はるか彼方。「に」...格助詞、空間的な場所を表す...「〜で・〜に」>
妹等者立志ー妹らは立たしーいもらはたたしー向こうに貴女は立っているらしい <肉親として、大切な女性、妻・恋人・姉妹。「ら」...接尾語、名詞・代名詞について複数・親しみの気持ちなどを表す。「たたし」が連用形で切れるのは中止法で、次に続く文節と対等な関係となる...「われはたちて」に続く > 是方尓ーこの方にーこのかたにーこちらの方に<「このかた」名詞、こちらの方、こちら側、反対語は「をちかた(彼方)」> 吾者立而ー吾れは立ちてーわれはたちてー 私は立って<「たちて」自動詞タ行四段「立つ」の連用形に、単純接続の接続助詞「て」> 思虚ー思ふそらーおもふそらー貴女を慕っているけれど <「おもふ」他動詞ハ行四段「思ふ」の連体形、「愛する、恋しく思う」。「そら」うわのそら> 不安國ー安けなくにーやすけなくにー想うようにならず 千々に乱れ <「やすからなく」の方が、すっきり読める。形容詞「安し」の未然形「安から」に「なく」は打消しの助動詞「ず」の未然形の古形「な」に、名詞をつくる接尾語「く」のついたもので、「ないこと」の意「安らかならず」> 嘆虚ー嘆くそらーなげくそらー嘆きの胸苦しさは<「なげく」自動詞カ行四段「嘆く」の連体形、嘆息する、悲しんで泣く。> 不安國ー安けなくにーやすけなくにー思うようにならずどうしょうもない <同上> 左丹と之ーさ丹塗りのーさにぬりのー丹(に)塗りの<「さ」は接頭語、語調を整えたり、「若々しい」の意を添える。「に(丹)」、黄味を帯びた赤色、赤色の顔料。「さ丹塗り」で、名詞形、「赤く塗ったもの」> 小舟毛鴨ー小舟もがもーをぶねもがもー美しい小舟が欲しい<「もがも」終助詞「もが」に終助詞「も」が付いたもの。願望の意を表し、「〜であればなあ・〜があればなあ」> 玉纒之ー玉巻きのーたままきのー玉をちりばめた<玉で飾ったもの、玉には、美しいという意がある> 小楫毛鴨ー小楫もがもーをかぢもがもー美しい小さな楫も欲しい<をかぢ(小楫)」、舟を漕ぐ道具> 榜渡乍毛ー漕ぎ渡りつつもーこぎわたりつつもーこの川を漕ぎ渡って<自動詞ラ行四段「漕ぎ渡る」の連用形、舟を漕いで渡る。「つつも」純接続の接続助詞「つつ」と、仮定希望の係助詞「も」> 相語妻遠ー語らふ妻をーかたらふつまをー語り合いましょう 貴女と 相語妻遠の「妻」が「益」の誤写だとする説では、「相語益遠」、「語り合っただろうに」という、反実仮想の助動詞「まし」の連体形に詠嘆の助詞「を」。 3299S 奈良,異伝 [題詞]或本歌頭句云(或る本の歌の初句では)云う 己母理久乃 波都世乃加波乃 乎知可多尓 伊母良波多々志 己乃加多尓 和礼波多知弖 こもりくの はつせのかはの をちかたに いもらはたたし このかたに,われはたちて 隠口の泊瀬の川の彼方に貴女は立っていて
こちらの方に私は立って 3300 大阪,うわさ,女歌,民謡 忍照ー[おしてる]ー
難波乃埼尓ー難波の崎にーなにはのさきにー難波の崎の淀川を 引登ー引き泝るーひきのぼるー曳き船する 赤曽朋舟ー赤のそほ舟ーあかのそほぶねー朱塗り舟 曽朋舟尓ーそほ舟にーそほぶねにーその舟に 綱取繋ー網取り懸けーあみとりかけー引き綱を掛けて 引豆良比ー引こづらひーひこづらひー引っ張りのぼるのに難儀するように 有雙雖為ーありなみすれどー(語義未詳) 日豆良賓ー言ひづらひーいひづらひー恋愛などしていないのに 有雙雖為ーありなみすれどー(語義未詳) 有雙不得叙ーありなみえずぞー(語義未詳)ごまかしきれないで 所言西我身ー言はえにし我が身ーいはえにしあがみー噂にのぼった私です 「有雙雖為ーありなみすれど」「不満を・表明する」 3301 三重県,枕詞,女歌,民謡,恨 [題詞] 神風之ー神風のー[かむかぜの]ー
伊勢<乃>海之ー伊勢の海のーいせのうみのー伊勢の海の 朝奈伎尓ー朝なぎにーあさなぎにー朝凪に 来依深海松ー来寄る深海松ーきよるふかみるー岸に寄ってくるふかみる 暮奈藝尓ー夕なぎにーゆふなぎにー夕凪に 来因俣海松ー来寄る俣海松ーきよるまたみるー岸に寄ってくるまたみる 深海松乃ー深海松のーふかみるのー深海松の言葉のように 深目師吾乎ー深めし吾れをーふかめしわれをー貴方への想いを深めた私を 俣海松乃ー俣海松のーまたみるのー俣海松が 復去反ーまた行き帰りーまたゆきかへりー波間に漂いまた見ることなく 都麻等不言登可聞ー妻と言はじとかもーつまといはじとかもー私を妻とお呼びにならないのですか 思保世流君ー思ほせる君ーおもほせるきみー私が恋する貴方 [題詞] 紀伊國之ー紀の国のーきのくにのー紀の国の
室之江邊尓ー牟婁の江の辺にーむろのえのへにー牟婁の入江のの里で 千<年>尓ー千年にーちとせにー千年の後までも 障事無ー障ることなくーさはることなくー差し障りなく 万世尓ー万代にーよろづよにー万代の後までも 如是将<在>登ーかくしもあらむとーこんなふうにあろうと 大舟之ー大船のー[おほぶねの]ー 思恃而ー思ひ頼みてーおもひたのみてー大船を頼もしく思いように 出立之ー出立のーいでたちのーやって来た 清瀲尓ー清き渚にーきよきなぎさにー清らかな渚に 朝名寸二ー朝なぎにーあさなぎにー朝凪に 来依深海松ー来寄る深海松ーきよるふかみるー来寄る深海松 夕難岐尓ー夕なぎにーゆふなぎにー夕凪に 来依縄法ー来寄る縄海苔ーきよるなはのりー来寄る縄海苔 深海松之ー深海松のーふかみるのー深海松の言葉のように 深目思子等遠ー深めし子らをーふかめしこらをー想いを深めた貴女を 縄法之ー縄海苔のーなはのりのー縄海苔のように 引者絶登夜ー引けば絶ゆとやーひけばたゆとやー引くとちぎれる仲とでも言うのか 散度人之ー里人のーさとびとのー行き交う里人の 行之屯尓ー行きの集ひにーゆきのつどひにー貴女がやって来る歌垣で 鳴兒成ー泣く子なすーなくこなすー泣く赤子が母親を探すように 行取左具利ー行き取り探りーゆきとりさぐりー背に着ける靫を取り探り 梓弓ー梓弓ー[あづさゆみ]ー 弓腹振起ー弓腹振り起しーゆばらふりおこしー手に持つ梓弓の弓腹を振り立てて縦に起こし 志乃岐羽矣ーしのぎ羽をーしのぎはをーしのき羽の 二手<狭>ー二つ手挟みーふたつたばさみー矢を二本手に挟み持って 離兼ー放ちけむーはなちけむー矢を放つように素早くあの子をとっていった 人斯悔ー人し悔しもーひとしくやしもー別れた貴女よ 悔しく心残りです 戀思者ー恋ふらく思へばーこふらくおもへばー恋しく思えばこそ 里人之ー里人のーさとびとのー里人が
吾丹告樂ー吾れに告ぐらくーあれにつぐらくーわたしに告げた <汝>戀ー汝が恋ふるーながこふるー貴女が恋しがる 愛妻者ーうつくし夫はーうつくしづまはー愛しい恋人は 黄葉之ー黄葉のーもみちばのー黄葉の葉が 散乱有ー散り乱ひたるーちりまがひたるー散り乱れる 神名火之ー神なびのーかむなびのー神名火の 此山邊柄ーこの山辺からーこのやまへからーこの山辺の道を通って [或本云 彼山邊]ー [或本云 その山辺]ー[そのやまへ]ー「その山辺」 烏玉之ー[ぬばたまの]ー 黒馬尓乗而ー黒馬に乗りてーくろまにのりてー真っ黒な黒馬に乗って 河瀬乎ー川の瀬をーかはのせをー川の渡りの早い流れの瀬を 七湍渡而ー七瀬渡りてーななせわたりてー幾つも渡って来て 裏觸而ーうらぶれてーうらぶれてー貴女に逢えなくてしょんぼりしいたと 妻者會登ー夫は逢ひきとーつまはあひきとーそんな貴女の恋人に逢ったと人は 人曽告鶴ー人ぞ告げつるーひとぞつげつるー私に告げたことよ 3304 挽歌 [題詞]反歌 不聞而 黙然有益乎 何如文 <公>之正香乎 人之告鶴 きかずして もだもあらましを なにしかも きみがただかを ひとのつげつる 聞きたくなかった
* 「もだ」【黙】 黙っていること。黒馬に乗って冥界へ逝ったですって どうして里人はうつそみの背の君の姿を 私に告げるのでしょう 恋の想いを心に内に小さく仕舞い込んでいたのに 3305 恋 [題詞]問答 物不念ーものもはずー余計なことを考えず
道行去毛ー道行く行くもーみちゆくゆくもー道を行き来て 青山乎ー青山をーあをやまをー青葉の山 振放見者ー振り放け見ればーふりさけみればー見上げると 茵花ーつつじ花ーつつじばなーツツジの花が 香<未>通女ーにほえ娘子ーにほえをとめー芳しく香る未通女のようで 櫻花ー桜花ーさくらばなー桜の花は 盛未通女ー栄え娘子ーさかえをとめー盛りを迎えた未通女のようだ 汝乎曽母ー汝れをぞもーなれをぞもーそんな貴女は 吾丹依云ー吾れに寄すといふーわれによすといふー私を信頼して気持ちを寄り添え 吾○毛曽ー吾れをもぞーわれをもぞー私も同じように 汝丹依云ー汝れに寄すといふーなれによすといふー貴女に気持ちを寄せる 荒山毛ー荒山もーあらやまもーひと気のない険しい山も(恋愛に無関心な男でも) 人師依者ー人し寄すればーひとしよすればー人が感心を寄せると 余所留跡序云ー寄そるとぞいふーよそるとぞいふーすぐに寄り来て手を入れると云います 汝心勤ー汝が心ゆめーながこころゆめーひたすら、貴女は私のことだけ |
|
3288 神祭り,女歌 [題詞]或本歌曰 ・・・・・・・・・・
大船之ー大船のー[おほぶねの]ー大船を 思憑而ー思ひ頼みてーおもひたのみてー深く信頼するように 木<妨>己ーさな葛ー[さなかづら]ー 弥遠長ーいや遠長くーいやとほながくー貴方との仲が永遠であるように 我念有ー我が思へるーあがおもへるー私が想う 君尓依而者ー君によりてはーきみによりてはー貴方を信じては 言之故毛ー言の故もーことのゆゑもー神の御告げからの障害も 無有欲得ーなくありこそとーないはずと 木綿手次ー木綿たすきーゆふたすきー木綿のタスキを 肩荷取懸ー肩に取り懸けーかたにとりかけー肩に懸け 忌戸乎ー斎瓮をーいはひへをー神に祈りを捧げる斎瓮を 齊穿居ー斎ひ掘り据ゑーいはひほりすゑー謹んで掘り据えて 玄黄之ー天地のーあめつちのー天と地の 神祇二衣吾祈ー神にぞ吾が祷むーかみにぞわがのむー神に私は祈願する 甚毛為便無見ーいたもすべなみーいたもすべなみー恋の障害にどうしようもなくて ・・・・・・・・・・ 3289 奈良,橿原,女歌,序詞,恋 [題詞] ・・・・・・・・・・
御佩乎ーみ佩かしをー[みはかしを]ー 劔池之ー剣の池のーつるぎのいけのー剣の池の 蓮葉尓ー蓮葉にーはちすはにー蓮の葉の上に 渟有水之ー溜まれる水のーたまれるみづのー溜まっている水が 徃方無ーゆくへなみーどちらにあふれていくか分からないように 恋の行方を私は知らない 我為時尓ー我がする時にーわがするときにー貴方が私のことを恋想う時に 應相登ー逢ふべしとーあふべしとー私に逢えるはずと 相有君乎ー逢ひたる君をーあひたるきみをー逢いに来た貴方を 莫寐等ーな寐ねそとーないねそとー共寝をしてはいけないと 母寸巨勢友ー母聞こせどもーははきこせどもー母はおっしゃるけれど 吾情ー吾が心ーあがこころー私の気持は 清隅之池之ー清隅の池のーきよすみのいけのー清隅の池の 池底ー池の底ーいけのそこーその池の底の水が絶えないように 吾者不<忘>ー吾れは忘れじーわれはわすれじー私は耐えることが出来ない 正相左右二ー直に逢ふさへにーただにあふさへにー直接貴方に逢うからには ・・・・・・・・・・ 3290 [題詞]反歌 古之 神乃時従 會計良思 今心<文> 常不所<忘> いにしへの かみのときより あひけらし いまのこころも つねわすらえず ・・・・・・・・・・
神代のむかしから会っていたらしい 恋人同士は会う運命に結ばれている 今も忘れられず あのかたが心にかかる ・・・・・・・・・・ 3291 枕詞,赴任,恋,大君,奈良,吉野 [題詞] ・・・・・・・・・・
三芳野之ーみ吉野のーみよしののー美しい吉野の 真木立山尓ー真木立つ山にーまきたつやまにー立派な樹木が立つ山に<良質な樹木(ヒノキ スギなど)イヌマキ コウヤマキ> 青生ー青く生ふるーあをくおふるー青々と生え延びる 山菅之根乃ー山菅の根のーやますがのねのー藪蘭の根の 慇懃ーねもころにーいとしく秘めやかに懇ろに <、「山菅之根乃慇懃(やますげのねのねもころ)」と「菅根之根毛一伏三向凝呂尓(すがのねのねもころごろ)」>藪蘭・カヤツリ草の「菅」の違い。 吾念君者ー吾が思ふ君はーあがおもふきみはー私が慕う貴方は 天皇之ー大君のーおほきみのー天皇の 遣之万々ー任けのまにまにーまけのまにまにー任命に従って [或本云 王 命恐]ー[或本云 大君の 命かしこみ]ー[おほきみの みことかしこみ]ー或る本に云はく、王のご命令を謹んで 夷離ー鄙離るー[ひなざかる]ー藤原の京から遠く夷に離れた 國治尓登ー国治めにとーくにをさめにとー国を行政しなさいと [或本云 天踈 夷治尓等]ー [或本云 天離る 鄙治めにと]ー[あまざかる ひなをさめにと]ー或る本に云はく、藤原の京から離れた夷を行政しなさいと 群鳥之ー群鳥のー[むらとりの]ー群れた鳥が 朝立行者ー朝立ち去なばーあさだちいなばー朝に巣から飛び立つように 後有ー後れたるーおくれたるー後に残る 我可将戀奈ー我れか恋ひむなーあれかこひむなー私は貴方が恋しいでしょう 客有者ー旅ならばーたびならばー旅の途中ならば 君可将思ー君か偲はむーきみかしのはむー貴方を偲びましょう 言牟為便ー言はむすべーいはむすべー貴方の無事を神に祈る 将為須便不知ー為むすべ知らにーせむすべしらにー作法も知らないのですが [或書有 足日木 山之木末尓 句也]ー[或書有 あしひきの 山の木末に 句也]ー[あしひきの やまのこぬれに]ー葦や桧の生える山の梢に 延津田乃ー延ふ蔦のーはふつたのー野を這う蔦の枝々の 歸之ー行きのーゆきのー行きの [或本無歸之句也] ー[或本無歸之句也]ー或る本に「行きの」句なし 別之數ー別れのあまたーわかれのあまたー別れの生き別れが多い 惜物可聞ー惜しきものかもーをしきものかもーとても心残りです ・・・・・・・・・・ 3292 [題詞]反歌 打蝉之 命乎長 有社等 留吾者 五十羽旱将待 [うつせみの] いのちをながく ありこそと とまれるわれは いはひてまたむ ・・・・・・・・・・
貴方のこの世の命が 無事長く在ってほしいと 藤原の京に留まる私は 神を祭り祈って貴方のご帰宅を待っています ・・・・・・・・・・ サ3293 民謡,恋情,吉野,奈良,伝承 <3291の歌の反歌のような歌> ・・・・・・・・・・
三吉野之ーみ吉野のーみよしののー吉野にあるという 御金高尓ー御金が岳にーみかねがたけにー御金の山岳には 間無序ー間なくぞーまなくぞー絶え間なく 雨者落云ー雨は降るといふーあめはふるといふー雨は降るふるという 不時曽ー時じくぞーときじくぞー時となく 雪者落云ー雪は降るといふーゆきはふるといふー雪は降るという 其雨ーその雨のーそのあめのーその雨が 無間如ー間なきがごとーまなきがごとー絶え間ないように 彼雪ーその雪のーそのゆきのーその雪が 不時如ー時じきがごとーときじきがごとー時となく降るように 間不落ー間もおちずーまもおちずー決して休むことなく間をおかず 吾者曽戀ー吾れはぞ恋ふるーあれはぞこふるー私はただひたすらに恋しく思い続ける 妹之正香尓ー妹が直香にーいもがただかにー貴女のその香しい姿に ・・・・・・・・・・ 三吉野之 御金高尓 間無序、雨者落云 不時曽、雪者落云 其雨、無間如 彼雪、不時如 間不落 吾者曽戀 妹之正香尓 3294 奈良,序詞,恋 [題詞]反歌 三雪落 吉野之高二 居雲之 外丹見子尓 戀度可聞 みゆきふる よしののたけに ゐるくもの よそにみしこに こひわたるかも ・・・・・・・・・・
み雪降る吉野嶽を隠して漂う雲を見るように おぼろげに他所ながらその姿を見ていた娘なのに いまは恋し続けることよ ・・・・・・・・・・ 13 3295 奈良,田原本,問答,親子,歌垣,民謡 [題詞] ・・・・・・・・・・
打久津ー[うちひさつ]ー日が射しこむ 三宅乃原従ー三宅の原ゆーみやけのはらゆー三宅の原から 常土ー直土にーひたつちにーいつも土まで 足迹貫ー足踏み貫きーあしふみぬきー足で踏み分けて 夏草乎ー夏草をーなつくさをー夏草に 腰尓魚積ー腰になづみーこしになづみー腰まで没して難儀し婚(よば)いをしているそうだが 如何有哉ーいかなるやーさてどのような 人子故曽ー人の子ゆゑぞーひとのこゆゑぞー人の子のために 通簀<文>吾子ー通はすも吾子ーかよはすもあこー通っておいでなのかね わが子よ 諾々名ーうべなうべなーいかにもごもっとも 母者不知ー母は知らじーはははしらじー母上はご存じありますまい 諾々名ーうべなうべなーそうですとも 父者不知ー父は知らじーちちはしらじー父上はご存じありますまい 蜷腸ー蜷の腸ー[みなのわた]ー蜷貝の中身のようにつややかで 香黒髪丹ーか黒き髪にーかぐろきかみにー黒々とした髪に 真木綿持ー真木綿もちーまゆふもちー神聖な木綿で 阿邪左結垂ーあざさ結ひ垂れーあざさゆひたれー花蓴菜を結わえ垂らし 日本之ー大和のーやまとのー大和の 黄<楊>乃小櫛乎ー黄楊の小櫛をーつげのをぐしをー黄楊の小櫛を 抑刺ー押へ刺すーおさへさすー押さえに刺している <卜>細子ーうらぐはし子ーうらぐはしこー<「うら」は心、「くはし」は美しい意。>心優しい姿の可愛い子 彼曽吾○ーそれぞ吾が妻ーそれぞわがつまーそれが私の相手です ・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 父母尓 不令知子故 三宅道乃 夏野草乎 菜積来鴨 ちちははに しらせぬこゆゑ みやけぢの なつののくさを なづみけるかも ・・・・・・・・・・
父にも母にも知らせないいとしい子だから 三宅への道の 夏野の草いきれややぶ蚊に苦しみながら 踏み分けて 身を隠して通うことですよ ・・・・・・・・・・ <旅人>http://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/28066694.html?type=folderlist 親の問いかけに、息子が打ち明ける、 ♪うちひさつ 三宅の原ゆ 直土(ひたつち)に 足踏み貫き 夏草を 腰になづみ いかなるや 人の子ゆえぞ 通はすも我子 うべなうべな 母は知らじ うべなうべな 父は知らじ 蜷(みな)の 腸(わた) か黒き髪に 真木綿(まゆふ)もち あざさ結ひ垂れ 大和の 黄楊の小櫛を 押へ刺す うらぐはし子 それぞ我が妻 (万葉集・巻13・3295) (うちひさつ 三宅の原を 地べたに 裸足なんかを踏みこんで 夏草に 腰をからませて まあ いったいどこのどんな娘御ゆえに 通っておいでなのだね お前。 ごもっともごもっとも 母さんはご存知ありますまい ごもっともごもっとも 父さんはご存知ありますまい 蜷の腸そっくりの 黒々とした髪に 木綿の緒で あざさを結わえて垂らし 大和の黄楊の小櫛を 押えにさしている 妙とも妙ともいうべき子 それが私の相手なのです)
反歌
♪父母に 知らせぬ子ゆえ 三宅道の 夏野の草を なづみ来るかも (万葉集・巻13・3296)(父や母にも 打ち明けていない子ゆえ 草深い三宅道の 夏野 その野の草に足を取られながら 私は辿って行く。そういうことだったのです) 父母にも打ち明けられなかった相手だったけど、幸いに事情を尋ねてくれたので、夏草に足を取られて通う苦しみも、今は過去のものとなった。 長歌では、父より母が先に出て来る。 男女の仲については、当時母親が監督権を握っていた。 両親は、裸足なんかで草踏み分けて通うとは、相手はとんでもない子ではあるまいなと、詰問している。 息子は、即座に相手は、「うらぐはし子」だから、心配ご無用と応じた。 そして、これでほっとした、という反歌をうたう。 草深い里にいる野趣豊かな女性、だから妙味ある女性なんだから、安心してほしいという。 「あざさ」は、現在あさざと呼ばれるリンドウ科の多年生水草。 夏秋の頃、黄色い花をつける。 髪飾りにその花をつけたらしい。 「大和の」は、異国ではないこの国のといって、相手を身近に感じさせる表現。(了) 3297 [題詞] ・・・・・・・・・・
玉田次ー玉たすきー[たまたすき]ー 不懸時無ー懸けぬ時なくーかけぬときなくー沢山の美しい竹玉を紐に貫いて懸けることをしないことがないように 吾念ー吾が思ふーあがおもふー私は思う 妹西不會波ー妹にし逢はねばーいもにしあはねばー繋がるように私が慕う貴女に逢わないのでは 赤根刺ー[あかねさす]ー 日者之弥良尓ー昼はしみらにーひるはしみらにー日が射す日中は終始 烏玉之ー[ぬばたまの]ー 夜者酢辛二ー夜はすがらにーよるはすがらにー漆黒の夜は夜通し 眠不睡尓ー寐も寝ずにーいもねずにー寝ることもなく 妹戀丹ー妹に恋ふるにーいもにこふるにー貴女に恋焦がれるほかに 生流為便無ー生けるすべなしーいけるすべなしー生きる意味がありません ・・・・・・・・・・ |
|
サ3278 歌劇,女歌 [題詞] ・・・・・・・・・・・
赤駒ー赤駒をーあかごまをー赤駒を 厩立ー馬屋に立てーうまやにたてー厩を建てて飼い 黒駒ー黒駒をーくろこまをー黒駒を 厩立而ー馬屋に立ててーうまやにたててー厩を建てて飼い 彼乎飼ーそを飼ひーそをかひー大事に育てて 吾徃如ー吾が行くがごとーわがゆくがごとー私が乗って行くように 思妻ー思ひ妻ーおもひづまー可愛い妻が 心乗而ー心に乗りてーこころにのりてー私の心に乗ってくる 高山ー高山のーたかやまのー高い山の 峯之手折丹ー嶺のたをりにーみねのたをりにー峯の窪みに作った 射目立ー射目立ててーいめたててー射目に身を伏せて 十六待如ー鹿猪待つがごとーししまつがごとー鹿猪を待つように 床敷而ー床敷きてーとこしきてー床を敷いて 吾待君ー吾が待つ君をーわがまつきみをー待っている人を 犬莫吠行<年>ー犬な吠えそねーいぬなほえそねー犬よ吠えてはいけない ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 蘆垣之 末掻別而 君越跡 人丹勿告 事者棚知 あしかきの すゑかきわけて きみこゆと ひとになつげそ ことはたなしれ ・・・・・・・・・・・
* 「たな」は大和(やまと)ことばで、「たな」の「た」は手の古形、「な」は連体助詞であり、「たなびく」とか「たな雲」と同根の、水平の状態を表す。「事はたな知れ」わきまえを知れ。葦垣の上をかきわけて いい人が越えて通ってくるのに 人に告げるように吠えないでおくれ 夫がいることが知られてしまうでしょう あのお方には吠え掛かってはいけません ・・・・・・・・・・・ 3280 恋 [題詞] ・・・・・・・・・・・
<妾>背兒者ー吾が背子はーわがせこはー夫が妻問うのを 雖待来不益ー待てど来まさずーまてどきまさずー待っていても私の元にはおいでにはなりません 天原ー天の原ー[あまのはら]ー 振左氣見者ー振り放け見ればーふりさけみればー天空を仰いで見れば 黒玉之ー[ぬばたまの]ー 夜毛深去来ー夜も更けにけりーよもふけにけりー夜も更けて 左夜深而ーさ夜更けてーさよふけてーしだいに深まり 荒風乃吹者ーあらしの吹けばーあらしのふけばー嵐が吹いている 立<待留>ー立ち待てるーたちまてるー立ったままで待つうちに 吾袖尓ー吾が衣手にーわがころもでにー私の袖口に 零雪者ー降る雪はーふるゆきはー降る雪は 凍渡奴ー凍りわたりぬーこほりわたりぬー凍ってしまう 今更ー今さらにーいまさらにー今さら 公来座哉ー君来まさめやーきみきまさめやーあなたは私の元に来てくれはしないのに 左奈葛ーさな葛ー[さなかづら]ーさな葛の根のように 後毛相得ー後も逢はむとーのちもあはむとー後々いつか会えるかと 名草武類ー慰むるーなぐさむるー気をまぎらわす 心乎持而ー心を持ちてーこころをもちてー心をきめ <二>袖持ーま袖もちーまそでもちー左右の袖を持って 床打拂ー床うち掃ひーとこうちはらひー床を清め掃除する 卯管庭ーうつつにはー現実には 君尓波不相ー君には逢はずーきみにはあはずーあなたには会うことはない 夢谷ー夢にだにーいめにだにーせめて夢にでも 相跡所見社ー逢ふと見えこそーあふとみえこそーあなたに会えないものか 天之足夜<乎>ー天の足り夜をーあめのたりよをー夢だけでも愛しい貴方に逢えれば 年に一度の天の原での恋人たちの夜のように 満ち足りるのに ・・・・・・・・・・・ 3281 恋,女歌 [題詞]或本歌曰 ・・・・・・・・・・・
吾背子者ー吾が背子はーわがせこはー妻問いにくるのを 待跡不来ー待てど来まさずーまてどきまさずー待っていても夫は来ない 鴈音<文>ー雁が音もーかりがねもー雁の鳴き声が 動而寒ー響みて寒しーとよみてさむしー空に響いて寒さが沁みる 烏玉乃ー[ぬばたまの]ー 宵文深去来ー夜も更けにけりーよもふけにけりー夜も更けて 左夜深跡ーさ夜更くとーさよふくとーなおしだいに更けてゆく 阿下乃吹者ーあらしの更けばーあらしのふけばー嵐が去るのを 立待尓ー立ち待つにーたちまつにー立ちんぼで待っていると 吾衣袖尓ー吾が衣手にーわがころもでにー私の袖口に 置霜<文>ー置く霜もーおくしももー降り付いた霜が 氷丹左叡渡ー氷にさえわたりーひにさえわたりー氷にななって冴えわたる 落雪母ー降る雪もーふるゆきもー降る雪も 凍渡奴ー凍りわたりぬーこほりわたりぬー凍ってしまう 今更ー今さらにーいまさらにー今さら 君来目八ー君来まさめやーきみきまさめやーあなたは私の元に来てくれはしないが 左奈葛ーさな葛ー[[さなかづら]ーさな葛の根のように 後<文>将會常ー後も逢はむとーのちもあはむとー後々に会えるかと 大舟乃ー大船のー[おほぶねの]ー 思憑迹ー思ひ頼めどーおもひたのめどーかすかな望を当てにするけれど 現庭ーうつつにはー現実には 君者不相ー君には逢はずーきみにはあはずーあなたには会うことはない 夢谷ー夢にだにーいめにだにーせめて 夢見たい 相所見欲ー逢ふと見えこそーあふとみえこそーあなたに会えると願う 天之足夜尓ー天の足り夜にーあめのたりよにー七夕の二人のように ・・・・・・・・・・・ 3282 孤独 [題詞]反歌 衣袖丹 山下吹而 寒夜乎 君不来者 獨鴨寐 ころもでに あらしのふきて さむきよを きみきまさずは ひとりかもねむ ・・・・・・・・・・・
嵐が吹き荒れて寒い夜だのに あなたは来ない 私は嵐の夜を たったひとりで寝るのね ・・・・・・・・・・・ 3283 [題詞] 今更 戀友君<二> 相目八毛 眠夜乎不落 夢所見欲 いまさらに こふともきみに あはめやも ぬるよをおちず いめにみえこそ ・・・・・・・・・・・
今さらあなたをどう恋い慕っても もう会えないと知りました だから毎夜欠かさず夢で逢いますことよ ・・・・・・・・・・・ 3284 うわさ,恋,掛け合い歌,神祭り [題詞] ・・・・・・・・・・・
菅根之ー菅の根のー[すがのねの]ー 根毛一伏三向凝呂尓ーねもころごろにー夫婦としてねんごろに結ばれて 吾念有ー吾が思へるーあがおもへるー吾が愛する 妹尓緑而者ー妹によりてはーいもによりてはー妻のために 言之禁毛ー言の忌みもーことのいみもー不吉な言葉を避け 無在乞常ーなくありこそとー不幸がないように 齊戸乎ー斎瓮をーいはひへをー斎瓮を 石相穿居ー斎ひ掘り据ゑーいはひほりすゑー地中に掘り据え 竹珠乎ー竹玉をーたかたまをー竹玉を 無間貫垂ー間なく貫き垂れーまなくぬきたれー隙間なく貫い垂らして 天地之ー天地のー[あめつちの]ー 神祇乎曽吾祈ー神をぞ吾が祷むーかみをぞわがのむー神に吾が祈祷する 甚毛為便無見ーいたもすべなみーこの恋心はどうしようもないから ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 足千根乃 母尓毛不謂 ○有之 心者縦 <公>之随意 たらちねの ははにもいはず つつめりし こころはよしゑ きみがまにまに ・・・・・・・・・・・
母にもいえない秘めた心 たとえどうなろうと あなたの意のままに生きていく ・・・・・・・・・・・ 3286 神祭り [題詞]或本歌曰 ・・・・・・・・・・・
玉手<次>ー玉たすきー[たまたすき]ー 不懸時無ー懸けぬ時なくーかけぬときなくー掛けないでいる時はない 吾念有ー吾が思へるーあがおもへる--私が愛する 君尓依者ー君によりてはーきみによりてはーあなたのために 倭<文>幣乎ーしつ幣をーしつぬさをー倭文織りの幣を 手取持而ー手に取り持ちてーてにとりもちてー手にとって 竹珠○ー竹玉をーたかたまをー竹玉を 之自二貫垂ー繁に貫き垂れーしじにぬきたれー紐に貫いて垂らして 天地之ー天地のー[あめつちの]ー 神○曽吾乞ー神をぞ吾が祷むーかみをぞわがのむー神に私が祈祷する 痛毛須部奈見ーいたもすべなみーこの恋心はどうしようもないから ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 乾坤乃 神乎祷而 吾戀 公以必 不相在目八 あめつちの かみをいのりて あがこふる きみいかならず あはずあらめやも ・・・・・・・・・・・
天地の神に祈って 私が恋するあなただから 会えないことなどあるはずはないでしょう ・・・・・・・・・・・ |



