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3124 女歌,恋 [題詞](問答歌) 雨毛零 夜毛更深利 今更 君将行哉 紐解設<名> あめもふり よもふけにけり いまさらに きみいなめやも ひもときまけな ・・・・・・・・・・
雨が降っている 夜も更けてゆく 雨の中を今さら帰すなんて出来るでしょうか 下着のひもをゆるめて寝る支度をしましょう ・・・・・・・・・・ 3125 枕詞,恋,女歌 [題詞](問答歌) 久堅乃 雨零日乎 我門尓 蓑笠不蒙而 来有人哉誰 [ひさかたの] あめのふるひを わがかどに みのかさきずて けるひとやたれ ・・・・・・・・・・
雨降りの日に吾が家の門口に 雨具蓑笠もなしで来ている男は誰なの ・・・・・・・・・・ サ3126 桜井,奈良,難渋,恋 [題詞](問答歌) 纒向之 病足乃山尓 雲居乍 雨者雖零 所<沾>乍<焉>来 [まきむくの] あなしのやまに くもゐつつ あめはふれども ぬれつつぞこし ・・・・・・・・・・
* 「巻向の穴師の山」は、奈良三輪町穴師にある山。恋しさに 巻向の穴師山を雨雲が覆う その痛足(あなし)の山を越えて 雨に濡れながらやってきたよ ・・・・・・・・・・ * 「雲居」は名詞。後に「つつ」で動詞「雲居る」となる。 * 「つつ」は継続の接続助詞。 * 「ども」は逆接の接続助詞 〜けれども * 「ぞ」は強調の係助詞。 * 「来し」は、カ行変格活用動詞「来」の連用形「来(こ)」に、過去の助動詞「き」の連体形「し」で、「ぞ」の結び。 やって来た。 羇旅發思 <羇旅に思を発(おこ)す> 3127 作者:柿本人麻呂歌集,三重県,伊勢,序詞,恋 [題詞]羇旅發思 度會 大川邊 若歴木 吾久在者 妹戀鴨 [わたらひの おほかはのへの わかひさぎ] わがひさならば いもこひむかも ・・・・・・・・・・
度会大川の岸の若い芽の久木よ わたくしの旅が久しく長くなったら 妻は恋しがるでしょうかね わたしを ・・・・・・・・・・ 3128 作者:柿本人麻呂歌集,奈良,恋 [題詞](羇旅發思) 吾妹子 夢見来 倭路 度瀬別 手向吾為 わぎもこを いめにみえこと やまとぢの わたりぜごとに たむけぞわがする ・・・・・・・・・・
妻よ せめて夢にその姿を見せてよと 大和路の徒歩で渡ることのできる浅瀬ごとに 土地の神にお供えをして祈っているのだ ・・・・・・・・・・ 3129 作者:柿本人麻呂歌集,恋 [題詞](羇旅發思) 櫻花 開哉散 <及>見 誰此 所見散行 さくらばな さきかもちると みるまでに たれかもここに みえてちりゆく ・・・・・・・・・・
桜の花が咲いて散るように みなさんは誰なのでしょう ここに集まっては また散って行く人々は ・・・・・・・・・・ 3130 作者:柿本人麻呂歌集,北九州市,序詞,恋 [題詞](羇旅發思) 豊洲 聞濱松 心<哀> 何妹 相云始 [とよくにの きくのはままつ ねもころに] なにしかいもに あひいひそめけむ ・・・・・・・・・・
豊国の企玖の浜松の根のように 相思相愛の深い間柄になって 根っから惚れてしまって忘れられない 今は旅空はるか 逢うことも叶わず ・・・・・・・・・・ 3131 恋 [題詞](羇旅發思) 月易而 君乎婆見登 念鴨 日毛不易為而 戀之重 つきかへて きみをばみむと おもへかも ひもかへずして こひのしげけむ ・・・・・・・・・・
あなたとは月を変えて逢えばいい そう思っていたのに 毎日逢わなくては 収まらなくなってしまったわ ・・・・・・・・・・ サ3132 恋 [題詞](羇旅發思) 莫去跡 變毛来哉常 顧尓 雖徃不歸 道之長手矣 なゆきそと かへりもくやと かへりみに ゆけどかへらず みちのながてを ・・・・・・・・・・
行かないで 帰って来るのか 別れかも 振り返り振り返り行ってしまった 長い道のりを ・・・・・・・・・・ 3133 恋,望郷 [題詞](羇旅發思) 去家而 妹乎念出 灼然 人之應知 <歎>将為鴨 たびにして いもをおもひいで [いちしろく] ひとのしるべく なげきせむかも ・・・・・・・・・・
旅中で 恋人を思い出しただけ それがどうして はっきりと 周囲に知られたのか ・・・・・・・・・・ 3134 恋,望郷 [題詞](羇旅發思) 里離 遠有莫國 草枕 旅登之思者 尚戀来 さとさかり とほくあらなくに [くさまくら] たびとしおもへば なほこひにけり ・・・・・・・・・・
里を離れ それほど遠くへ来たわけではないが 旅の途中だと思えば 無性に妻が恋しいのだ ・・・・・・・・・・ 3135 恋,望郷,うわさ [題詞](羇旅發思) 近有者 名耳毛聞而 名種目津 今夜従戀乃 益々南 ちかくあれば なのみもききて なぐさめつ こよひゆこひの いやまさりなむ ・・・・・・・・・・
近くにいれば噂も聞けて 寂しさを慰めてもくれようが 今夜からは恋しさが まさり深まるばかりだろう ・・・・・・・・・・ |
・・万葉集(〃)
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3113 怨,恋 [題詞](問答歌) 在有而 後毛将相登 言耳乎 堅要管 相者無尓 ありありて のちもあはむと ことのみを かたくいひつつ あふとはなしに ・・・・・・・・・・
* 動詞「あり」の連用形を重ねた「ありあり」+接続助詞「て」。ずっとこのままの状態でいて 後にも逢おうと言葉でかたく約束したのに 直接逢う事もなくなって ・・・・・・・・・・ ずっとこのままの状態でいて、 このまま生き長らえて。 3114 恋,うわさ,女歌 [題詞](問答歌) 極而 吾毛相登 思友 人之言社 繁君尓有 ありありて われもあはむと おもへども ひとのことこそ しげききみにあれ ・・・・・・・・・・
ずっとこのままでいて 私も逢おうと思うけれど 他の人から とかく恋の噂の絶えないあなたですから ・・・・・・・・・・ 3115 恋 [題詞](問答歌) 氣緒尓 言氣築之 妹尚乎 人妻有跡 聞者悲毛 いきのをに わがいきづきし いもすらを ひとづまなりと きけばかなしも ・・・・・・・・・・
* 「いき‐の‐お」息の緒 いのち。たまのお。魂。命のかぎり私は精一杯に息をしとめたよ 愛するひとが人妻だったなんて そんなことを聞けば悲しくて ・・・・・・・・・・ ふつう「息の緒に」の形で、命のかぎりの意に用いる。 3116 恋,慰め,女歌 [題詞](問答歌) 吾故尓 痛勿和備曽 後遂 不相登要之 言毛不有尓 わがゆゑに いたくなわびそ のちつひに あはじといひし こともあらなくに ・・・・・・・・・・
私のことでひどく哀しまないで 最後まであなたと会わないなんて 言ったことはありませんよ ・・・・・・・・・・ 3117 恋 [題詞](問答歌) 門立而 戸毛閇而有乎 何處従鹿 妹之入来而 夢所見鶴 かどたてて ともさしてあるを いづくゆか いもがいりきて いめにみえつる ・・・・・・・・・・
* 「妹」…いも…恋人…愛人…妻門を閉じて戸締りもしたのに どこからか愛人が部屋の中に 入って来る夢を見てしまう ・・・・・・・・・・ 3118 恋,女歌 [題詞](問答歌) 門立而 戸者雖闔 盗人之 穿穴従 入而所見牟 かどたてて とはさしたれど ぬすびとの ほれるあなより いりてみえけむ ・・・・・・・・・・
* 「けむ」 過去の助動詞「き」の未然形の古形「け」+推量の助動詞「む」から活用語の連用形に付く。門を閉じ戸締りもしたのでしょうが 私は盗人が掘った穴にもぐって あなたを見ていたのですよ ・・・・・・・・・・
過去の事実についての推量を表す。…ただろう。…だったろう。
3119 恋[題詞](問答歌) 従明日者 戀乍将<去> 今夕弾 速初夜従 綏解吾妹 あすよりは こひつつゆかむ こよひだに はやくよひより ひもとけわぎも ・・・・・・・・・・
明日になればおまえを恋つつの旅立ちなんだ だからまだ早いけれど今宵ばかりは ひもを解いてさあ思いっきり抱き合おう ・・・・・・・・・・ 3120 女歌,恋 [題詞](問答歌) 今更 将寐哉我背子 荒田<夜>之 全夜毛不落 夢所見欲 いまさらに ねめやわがせこ あらたよの ひとよもおちず いめにみえこそ ・・・・・・・・・・
今さら抱き合ってもあなたは明け方には行ってしまう 夜毎ひと晩も絶やさず夢に出てきてよね ・・・・・・・・・・ 3121 女歌,恋 [題詞](問答歌) 吾<勢>子之 使乎待跡 笠不著 出乍曽見之 雨零尓 わがせこが つかひをまつと かさもきず いでつつぞみし あめのふらくに ・・・・・・・・・・
愛する人からの連絡を待って 雨具も無しで 外で見てたの雨が降る中を ・・・・・・・・・・ 3122 人目,うわさ,恋 [題詞](問答歌) 無心 雨尓毛有鹿 人目守 乏妹尓 今日谷相<乎> こころなき あめにもあるか ひとめもり ともしきいもに けふだにあはむを ・・・・・・・・・・
心無い雨であることよ 人目を避けてめったに逢えないあの娘に きょうこそ逢おうというのに ・・・・・・・・・・ 3123 枕詞,恋 [題詞](問答歌) 直獨 宿杼宿不得而 白細 袖乎笠尓著 沾乍曽来 ただひとり ぬれどねかねて しろたへの そでをかさにき ぬれつつぞこし ・・・・・・・・・・
独り寝がどうしても出来なくて 袖を笠にして難渋したけど 雨に濡れながら飛んできたよ ・・・・・・・・・・ |
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3102 歌垣,枕詞,求婚拒否 [題詞](問答歌) 足千根乃 母之召名乎 雖白 路行人乎 孰跡知而可 [たらちねの] ははがよぶなを まをさめど みちゆくひとを たれとしりてか ・・・・・・・・・・・
素敵なあなたは ただの行きずりの人 母だけが呼ぶ私の名をお教えしたいけれども 通りすがりのあなたが誰かも知らずに たとえ高貴なお方でも お教えできませんことよ ・・・・・・・・・・・ 3103 女歌,恋,枕詞 [題詞](問答歌) 不相 然将有 玉<梓>之 使乎谷毛 待八金<手>六 あはなくは しかもありなむ [たまづさの] つかひをだにも まちやかねてむ ・・・・・・・・・・・
逢えないのならそれはそれで忍びもしましょう でも お便りを運ぶお使いさえも 待ちかねなければならないのでしょうか ・・・・・・・・・・・ 3104 人目,うわさ,恋 [題詞](問答歌) 将相者 千遍雖念 蟻通 人眼乎多 戀乍衣居 あはむとは ちたびおもへど [ありがよふ] ひとめをおほみ こひつつぞをる ・・・・・・・・・・・
逢いたいと幾度思うか知れないが 蟻が行き来するように人目が多くて 逢いにも行けず 一人で恋い焦がれているんだよ ・・・・・・・・・・・ 3105 人目,うわさ,恋 [題詞](問答歌) 人目太 直不相而 盖雲 吾戀死者 誰名将有裳 ひとめおほみ ただにあはずて けだしくも あがこひしなば たがなならむも ・・・・・・・・・・・
* 「けだしく‐も」副詞「けだしく」+係助詞「も」から、人目が多いからと 逢いに来てくれないままでは 私が恋い死にしたら あなたの名がでて噂になるでしょう ・・・・・・・・・・・ 1 (あとに推量または疑問の意味を表す語を伴って) おそらく。ひょっとしたら。 2 (あとに仮定の意味を表す語を伴って)もしも。 3106 女歌,恋 [題詞](問答歌) 相見 欲為者 従君毛 吾曽益而 伊布可思美為也 あひみまく ほしきがためは きみよりも われぞまさりて いふかしみする ・・・・・・・・・・・
逢いたい気持ちは 君よりも私の方が強いのに 訝しいことを言うものだね ・・・・・・・・・・・ 3107 人目,うわさ,恋 [題詞](問答歌) 空蝉之 人目乎繁 不相而 年之經者 生跡毛奈思 [うつせみの] ひとめをしげみ あはずして としのへぬれば いけりともなし ・・・・・・・・・・・
心の中ではあの娘のことを強く思っているけれど この世の人たちの目にふれないようにしながら 年を重ねることは 生きた心地もしないことだなぁ ・・・・・・・・・・・ 3108 枕詞,人目,うわさ,恋 [題詞](問答歌) 空蝉之 人目繁者 夜干玉之 夜夢乎 次而所見欲 うつせみの ひとめしげくは [ぬばたまの] よるのいめにを つぎてみえこそ ・・・・・・・・・・・
この世の人たちの目にふれないように 夜の夢で絶えず逢いましょう ・・・・・・・・・・・ 3109 人目,うわさ,恋 [題詞](問答歌) 慇懃 憶吾妹乎 人言之 繁尓因而 不通比日可聞 ねもころに おもふわぎもを ひとごとの しげきによりて よどむころかも ・・・・・・・・・・・
* 「ねもころ」[形動ナリ]「ねんごろ」の古形。親密な間柄のわが妻になかなか逢えない 人目陰口が煩くて水が淀むようなこの頃であるよ ・・・・・・・・・・・ 「ねもごろ」とも。 [副]も同じ。 1 心がこもっているさま。親身であるさま。 「―にとむらう」「―なもてなし」 2 親しいさま。特に、男女の仲が親密であるさま。 「―な間柄」[名]1 親密になる ... 3110 人目,うわさ,恋 [題詞](問答歌) 人言之 繁思有者 君毛吾毛 将絶常云而 相之物鴨 ひとごとの しげくしあらば きみもあれも たえむといひて あひしものかも ・・・・・・・・・・・
人目陰口が煩くて逢えないという あなたと私は切れ切れになると言いながら いつも逢ってきたのかしら ・・・・・・・・・・・ 3111 恋,女歌 [題詞](問答歌) 為便毛無 片戀乎為登 比日尓 吾可死者 夢所見哉 すべもなき かたこひをすと このころに わがしぬべきは いめにみえきや ・・・・・・・・・・・
どうしようもなく恋ひ恋ふ私の片想い その恋ゆえに死にそうになっているのに あなたの夢にさえ現れないのでしょうか ・・・・・・・・・・・ 3112 恋 [題詞](問答歌) 夢見而 衣乎取服 装束間尓 妹之使曽 先尓来 いめにみて ころもをとりき よそふまに いもがつかひぞ さきだちにける ・・・・・・・・・・・
正に夢に見たからこそ 衣を取り出して身支度をしている時に 愛しいあなたからの使いが先に来たのですよ ・・・・・・・・・・・ |
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3091 恋 [題詞](寄物陳思) 鴨尚毛 己之妻共 求食為而 所遺間尓 戀云物乎 かもすらも おのがつまどち あさりして おくるるあひだに こふといふものを ・・・・・・・・・・
* 「あさる」…漁る…えさを捜し求める…むさぼる…あざる…狂る…とり乱す。鴨ですら連れ合いどうしで 餌をあさるうちに ちょっと離ればなれになっても 恋しがるというのに ・・・・・・・・・・ * 「どち」動作・性質・状態などにおいて、互いに共通点を持っている人。同じ仲間。名詞の下に付いて、接尾語的にも用いる。 * 「後るる間に」ちょっと遅れて間が離れる意。 3092 枕詞,恋,序詞 [題詞](寄物陳思) 白檀 斐太乃細江之 菅鳥乃 妹尓戀哉 寐宿金鶴 [しらまゆみ] ひだのほそえの すがどりの] いもにこふれか いをねかねつる ・・・・・・・・・・
白真弓の生える斐太の細江に住む菅鳥のように 妻に恋い焦がれているせいで 夜毎なかなか寝つかれない ・・・・・・・・・・ 3093 序詞,恋 [題詞](寄物陳思) 小竹之上尓 来居而鳴<鳥> 目乎安見 人妻め尓 吾戀二来 [しののうへに きゐてなくとり めをやすみ] ひとづまゆゑに あれこひにけり ・・・・・・・・・・
* 「篠」は、群がって生える細く小さな竹の総称。篠の上に来て鳴く鳥が 見た目の感じがとてもいいので 人妻なのに恋してしまいました ・・・・・・・・・・ * 「こひ」…恋い…乞い…求める。 3094 恋 [題詞](寄物陳思) 物念常 不宿起有 旦開者 和備弖鳴成 鶏左倍 ものもふと いねずおきたる あさけには わびてなくなり にはつとりさへ ・・・・・・・・・・
* 「もの思う」…何かに悩む…言い難いことを思う…情欲にふける。あなたを思って眠むれず 夜明けの鶏の声さえ 侘しく聞こえる ・・・・・・・・・・ * 「あさけ」朝明 「あさあけ」の音変化、 夜明け。 * 「にわ‐つ‐とり」庭つ鳥。[名]ニワトリの古名。 [枕]庭に飼う鳥の意から、「鶏(かけ)」にかかる。 3095 女歌,後朝 [題詞](寄物陳思) 朝烏 早勿鳴 吾背子之 旦開之容儀 見者悲毛 あさがらす はやくななきそ わがせこが あさけのすがた みればかなしも ・・・・・・・・・・
夜明けを告げる朝烏よ そんなに早くから鳴かないでおくれ あの方が朝帰りなさる姿を 見るのが悲しくてつらいもの ・・・・・・・・・・ 3096 序詞,恋 [題詞](寄物陳思) ○○越尓 麦咋駒乃 雖詈 猶戀久 思不勝焉 [ませごしに むぎはむこまの のらゆれど] なほしこひしく おもひかねつも ・・・・・・・・・・
馬柵越しに首を伸ばして 隣りの麦を食う子馬が叱られるように 親にどんなに叱られても いっそう恋しく思ってしまう ・・・・・・・・・・ サ3097 明日香,奈良,恋,歌垣 [題詞](寄物陳思) 左桧隈 <桧隈>河尓 駐馬 馬尓水令飲 吾外将見 [さひのくま] ひのくまかはに うまとどめ うまにみづかへ われよそにみむ ・・・・・・・・・・
* 「檜の隈川」は、奈良明日香の「檜前」を流れる川。檜隈を流れる檜隈川に馬を留めて 馬に水を飲ませてくださいな あなたの姿をこっそりと見たいから ・・・・・・・・・・ * 「飼へ」は、動詞「飼ふ」の已然・命令形。 動物に食物などをを与えること。水を飲ませてくださいな * 「外」は名詞(遠く離れたところ)。 * 「に」は、場所の格助詞。 * 「見」は、マ行上一段活用動詞「見る」の未然形。 * 「む」は、意志の助動詞。 遠いところで見ることにしよう。 3098 紀皇女,高安王,平群文屋益人,怨,伝承,歌語り [題詞](寄物陳思) 於能礼故 所詈而居者 ○馬之 面高夫駄尓 乗而應来哉 おのれゆゑ のらえてをれば あをうまの おもたかぶだに のりてくべしや ・・・・・・・・・・
<高安王にひそかに嫁して非難されているところへ、高安王が馬に乗って得意そうに来たのをたしなめた、ということ>。あなたのために罵られていますのに 雑役の馬で無思慮にも 乗ってこられるなんて ・・・・・・・・・・ 3099 恋 [題詞](寄物陳思) 紫草乎 草跡別々 伏鹿之 野者殊異為而 心者同 むらさきを くさとわくわく ふすしかの のはことにして こころはおやじ ・・・・・・・・・・
鹿は紫草を他の草と区別して臥所にするように 私たちが愛を語る場は別でも ほかの男には目もくれない心は同じです ・・・・・・・・・・ サ3100 怨,皮肉,恋,橿原市,奈良 [題詞](寄物陳思) 不想乎 想常云者 真鳥住 卯名手乃<社>之 神<思>将御知 おもはぬを おもふといはば [まとりすむ] うなてのもりの かみししらさむ ・・・・・・・・・・
* 「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。思ってもいないのに 思っていると偽るなら 鷲の住む雲梯の杜の神様に知れて 必ず偽りごとをお裁きになるでしょう ・・・・・・・・・・ * 「を」は逆接助詞。 * 「言は」は、ハ行四段活用動詞「言ふ」の未然形。 * 「ば」は、仮定条件の接続助詞。 言ったとすれば。 * 「真鳥」は、立派な鳥。鷲の異名。 * 「卯名手の杜」は奈良橿原の雲梯(うなて)にある神社。 * 「し」は強調副助詞。 * 「知ら」は、ラ行四段活用動詞「知る」の未然形。 * 「さ」は、尊敬の助動詞「す」の未然形。 * 「む」は、推量の助動詞。 お知りになって 問答歌 3101 奈良,桜井,歌垣,染色,問いかけ,求婚 [題詞]問答歌 紫者 灰指物曽 海石榴市之 八十街尓 相兒哉誰 むらさきは はひさすものぞ [つばいちの] やそのちまたに あへるこやたれ ・・・・・・・・・・
紫は灰を加えて美しくなるもの その名も海石榴市の 八方に通じる広場の歌垣で出会ったおまえ 名を告げて私の妻になっておくれ 私が美しく染め上げてあげたい ・・・・・・・・・・ |
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3079 序詞,恋,女歌 [題詞](寄物陳思) 海若之 奥津玉藻乃 靡将寐 早来座君 待者苦毛 [わたつみの おきつたまもの なびきねむ] はやきませきみ またばくるしも ・・・・・・・・・・
大海原の沖合いに漂う玉藻のように 靡き寄り添いながら寝ましょう すぐいらしてください あなた これ以上待たせてわたしを苦しめないで ・・・・・・・・・・ 3080 序詞,恋 [題詞](寄物陳思) 海若之 奥尓生有 縄<乗>乃 名者曽不告 戀者雖死 [わたつみの おきにおひたる なはのりの] なはかつてのらじ こひはしねとも ・・・・・・・・・・
* 「わたつみ」は、神の意味と、海そのものの意として捉える。大海原の沖に生えている縄のりが 切れて絶えないようにように あなたの名はだれにも告げますまい 恋い死ぬことがあっても ・・・・・・・・・・ 3081 序詞,恋 [題詞](寄物陳思) 玉緒乎 片緒尓搓而 緒乎弱弥 乱時尓 不戀有目八方 [たまのをを かたをによりて ををよわみ] みだるるときに こひずあらめやも ・・・・・・・・・・
* 「片緒(糸)」は、2本の糸をより合わせて1本にするときの、その片方の糸。多く片思い、弱い、はかないの意をこめて使われる。縒り合わす別の糸がなければ 強い糸が出来ないように 片思いに心乱れて あなたを恋せずにいられましょうか ・・・・・・・・・・ 3082 女歌,枕詞,恋 [題詞](寄物陳思) 君尓不相 久成宿 玉緒之 長命之 惜雲無 きみにあはず ひさしくなりぬ [たまのをの] ながきいのちの をしけくもなし ・・・・・・・・・・
君知るや 逢わない時の長さを こんな苦しい想いをするくらいなら 私は命も惜しいことはない ・・・・・・・・・・ 3083 枕詞,恋 [題詞](寄物陳思) 戀事 益今者 玉緒之 絶而乱而 可死所念 こふること まされるいまは [たまのをの] たえてみだれて しぬべくおもほゆ ・・・・・・・・・・
* 「玉の緒」は霊魂が宿るという信仰の一種の祭器であったらしい。恋しくて恋しくて気が狂いそう もう死んでしまいたいくらいですよ ・・・・・・・・・・ 「タマ」という音が「魂」に通じる。「玉の緒」は、玉と玉を糸で繋いだもので、切れやすく、すぐにバラバラになってしまう。ここから「絶ゆ」「乱る」「継ぐ」などにかかり、玉を貫き通す紐の長いことから「長き」にかかる。 生命の意から「現し心」に、緒と同音であることから「惜し」にもかかる。 また、「魂・寿命」が儚く短いものであることから「短い」意を持つ。 3084 序詞,恋 [題詞](寄物陳思) 海處女 潜取云 忘貝 代二毛不忘 妹之容儀者 [あまをとめ かづきとるといふ わすれがひ] よにもわすれじ いもがすがたは ・・・・・・・・・・
忘れ貝は海人娘子が 潜水して採る二枚貝 浜辺でその貝殻の片方を拾うと 恋を忘れるそうな でもねえ その貝殻が あの人を忘れさせてくれるかなぁ 後々の世までも 忘れることはないと思うけど ・・・・・・・・・・ 3085 枕詞,恋 [題詞](寄物陳思) 朝影尓 吾身者成奴 玉蜻 髣髴所見而 徃之兒故尓 あさかげに あがみはなりぬ [たまかぎる] ほのかにみえて いにしこゆゑに ・・・・・・・・・・
朝日の中の影ぼうし 私は細長く伸びた影ぼうし 僅かな間居てどこかへ去った娘を 思い詰めてる影ぼうし ・・・・・・・・・・ 3086 恋 [題詞](寄物陳思) 中々二 人跡不在者 桑子尓毛 成益物乎 玉之緒<許> なかなかに ひととあらずは くはこにも ならましものを たまのをばかり ・・・・・・・・・・
* 「玉の緒」は、ここでは「短い間でも」「ほんのしばらくの間でも」の意。「桑子」は、桑を食べる蚕のこと。かえって 人でないなら 蚕にでも生まれたらよかった 蚕が短い命だとしても これほど恋が苦しいものなら ・・・・・・・・・・ サ3087 枕詞,序詞,奈良,恋 [題詞](寄物陳思) 真菅吉 宗我乃河原尓 鳴千鳥 間無吾背子 吾戀者 [ますげよし] そがのかはらに なくちどり] まなしわがせこ あがこふらくは ・・・・・・・・・・
* ク語法 活用語に準体言詞「く」「らく」の付いた形をク語形(法)という。真菅が生える宗我の川原に鳴く千鳥のように 私も絶え間なく夫を恋い慕っています ・・・・・・・・・・ 「く」は四段・ラ変の未然形、形容詞「−ケ」「−シケ」の未然形、助動詞「り」の未然形、「ず」「む」「けり」の未然形に付く。また「き」の連体形につく。 「らく」は上一段の未然形と上二段・下二段・カ変・サ変およびに助動詞「しむ」「ゆ」「つ」「ぬ」などの終止形につく。 「く」「らく」は接続の仕方は異なるが「こと」という意味を表す点では同じである。普通上接の活用語を体言化する接尾語として扱われる。 「恋ふらく」なり「有らく」なりは一語の体言となる。(接尾語という品詞は存在しない) 3088 奈良,掛詞,序詞,恋 [題詞](寄物陳思) 戀衣 著<楢>乃山尓 鳴鳥之 間無<時無> 吾戀良苦者 [こひごろも きならのやまに なくとりの] まなくときなし あがこふらくは ・・・・・・・・・・
愛しいあなた 私の恋する気持ちは 絶え間もなく 奈良の山に鳴く鳥の声よ ・・・・・・・・・・ サ3089 枕詞,序詞,奈良,恋 [題詞](寄物陳思) 遠津人 猟道之池尓 住鳥之 立毛居毛 君乎之曽念 [とほつひと] かりぢのいけに すむとりの] たちてもゐても きみをしぞおもふ ・・・・・・・・・・
* 「遠つ人」は、雁(猟)を言い出す枕詞。猟道の池に住む鳥のように 立っていても座っていても いつも一途に貴方だけを思い続けています ・・・・・・・・・・ * 「狩道の池」は奈良桜井の鹿路にある池。 * 「君」は人称名詞。 * 「を」は、対象の格助詞。 * 「し」は、強調の副助詞。 * 「ぞ」は、強調の係助詞。 * 「思ふ」は、ハ行四段活用動詞の連体形。(「ぞ」の結び) 一途に貴方だけを思い続ける。 サ3090 序詞,うわさ,恋 [題詞](寄物陳思) 葦邊徃 鴨之羽音之 聲耳 聞管本名 戀度鴨 [あしへゆく かものはおとの おとのみに] ききつつもとな こひわたるかも ・・・・・・・・・・
* 「もと‐な」[副]「もと」は根本の意。「な」は形容詞「無し」の語幹。 わけもなく。みだりに。葦辺を飛んでゆく鴨の羽音のように うわさだけ聞いて お会いすることもできず ただいたづらに あなたを恋し続けるのでしょうか ・・・・・・・・・・ * 「音に聞く」は、うわさに聞く。 * 「わたる」は、動詞の連用形に付いて、 ずっと〜し続ける。 * 「かも」は詠嘆の終助詞。 |



