|
2953 枕詞,不安 [題詞](正述心緒) 戀君 吾哭<涕> 白妙 袖兼所漬 為便母奈之 きみにこひ わがなくなみた [しろたへの] そでさへひちて せむすべもなし ・・・・・・・・・・・
あなたに恋い焦がれて泣く涙は 袖さえぐっしょりと濡れ通って どうしようもありません ・・・・・・・・・・・ 2954 枕詞,不安 [題詞](正述心緒) 従今者 不相跡為也 白妙之 我衣袖之 干時毛奈吉 いまよりは あはじとすれや [しろたへの] わがころもでの ひるときもなき ・・・・・・・・・・・
今からは一切逢わないと 決めているわけでもないのでしょうが 逢えないと不安で 着物の袖はあなた恋しの涙で 乾くひまもありません ・・・・・・・・・・・ 2955 女歌 [題詞](正述心緒) 夢可登 情班 月數<多> 干西君之 事之通者 いめかと こころまどひぬ つきまねく かれにしきみが ことのかよへば ・・・・・・・・・・・
夢でないかと心が戸惑いました 幾月も離れて通ってこないあなたの便りに ・・・・・・・・・・・ 2956 枕詞,女歌 [題詞](正述心緒) 未玉之 年月兼而 烏玉乃 夢尓所見 君之容儀者 [あらたまの] としつきかねて [ぬばたまの] いめにみえけり きみがすがたは ・・・・・・・・・・・
新年を迎えて新たに思うの 恋に生きた長い年月 望みが続くように祈ったら 夢に見えましたあなたのお姿 ・・・・・・・・・・・ 2957 [題詞](正述心緒) 従今者 雖戀妹尓 将相<哉>母 床邊不離 夢<尓>所見乞 いまよりは こふともいもに あはめやも とこのへさらず いめにみえこそ ・・・・・・・・・・・
今からはいくら恋いしくても おまえに逢えはしない せめてわたしの枕辺にいつもいてくれ 思うだけの愛しい恋人よ ・・・・・・・・・・・ 2958 異伝,人目,うわさ [題詞](正述心緒) 人見而 言害目不為 夢谷 不止見与 我戀将息 ひとのみて こととがめせぬ いめにだに やまずみえこそ あがこひやまむ ・・・・・・・・・・・
人が見ても咎め立てはされない 夢のなかに 絶えず姿を見せてくれ わたしの恋の苦しみも それで少しはおさまるだろうから ・・・・・・・・・・・ 2958S 異伝,人目,うわさ [題詞](正述心緒)或本歌頭云 人目多 直者不相 ひとめおほみ ただにはあはず,,, ・・・・・・・・・・・
人目が多すぎる いまは逢いには行けない ・・・・・・・・・・・ 2959 [題詞](正述心緒) 現者 言絶有 夢谷 嗣而所見与 直相左右二 うつつには こともたえたり いめにだに つぎてみえこそ ただにあふまでに ・・・・・・・・・・・
現実には連絡も途絶えて噂さえ聞かない 夢にだけでも絶えずお顔を見せてよ じかに逢うまで ・・・・・・・・・・・ 2960 [題詞](正述心緒) 虚蝉之 宇都思情毛 吾者無 妹乎不相見而 年之經去者 うつせみの うつしごころも われはなし いもをあひみずて としのへぬれば ・・・・・・・・・・・
自分がこの世に生きているという気がしない 妻と会えぬままこんなに年月が経ってしまっては ・・・・・・・・・・・ サ2961 [題詞](正述心緒) 虚蝉之 常辞登 雖念 継而之聞者 心遮焉 [うつせみの] つねのことばと おもへども つぎてしきけば こころまどひぬ ・・・・・・・・・・・
* 「ことば」は、万葉時代「こと」と云う方が多い。空蝉言とわかっていても 好きです・愛してますなんて 何度も聞かされると 変に心がとまどう ・・・・・・・・・・・ * 「空蝉の言葉」は、ありきたりの内容の無い言葉。=「つねのことば」。 * 「つねの」は、並みの。 * 「と」引用。決まり文句。 * 「ども」「ど・ども」 接続助詞 逆接既定条件。活用語の已然形に付いて、逆接の既定条件を示す。「〜けれど」「〜けれども」「〜であっても」などの意。「ど」と「ども」の意味は全く同じ。 * 「継ぎて」何度も何度も。 * 「し」 副助詞。種々の語を承け、それを強く指示して強調する。 * 「聞け」動詞「聞く」の已然形。 * 「ば」は仮定条件(もし〜ならば)・既定条件(すでに〜なので)の両方に用いられる。 * 「遮」は、「まどひぬ」惑う。いぶせ・し=いとわしい、うっとうしい。 * 「焉・ぬ」は強調の助辞。 2962 枕詞 [題詞](正述心緒) 白<細>之 袖不數而<宿> 烏玉之 今夜者<早毛> 明<者>将開 [しろたへの] そでかれてぬる [ぬばたまの] こよひははやも あけばあけなむ ・・・・・・・・・・・
袖を交わして寝られない 独り寝の夜など 早く明けてしまえばいい 恋しいあの子と離れて独り寝する夜は ・・・・・・・・・・・ 2963 枕詞 [題詞](正述心緒) 白細之 手本寛久 人之宿 味宿者不寐哉 戀将渡 [しろたへの] たもとゆたけく ひとのぬる うまいはねずや こひわたりなむ ・・・・・・・・・・・
人は手枕を交わしあって幸せに寝ているのに わたしは独り寝の恋に悩みながら過ごすか ・・・・・・・・・・・ |
・・万葉集(〃)
[ リスト | 詳細 ]
|
2942 女歌 [題詞](正述心緒) 吾兄子尓 戀跡二四有四 小兒之 夜哭乎為乍 宿不勝苦者 わがせこに こふとにしあらし みどりこの よなきをしつつ いねかてなくは ・・・・・・・・・・
父親に甘えられたらと 赤子が夜泣きして 眠れないみたい 居てあやして欲しい わたしも眠りに就けません ・・・・・・・・・・ 2943 怨,戯歌 [題詞](正述心緒) 吾命之 長欲家口 偽乎 好為人乎 執許乎 わがいのちの ながくほしけく いつはりを よくするひとを とらふばかりを ・・・・・・・・・・
吾が命が長くあって欲しいと願い求める そんな偽り上手ないい人を捕まえられればなあ ・・・・・・・・・・ 2944 うわさ [題詞](正述心緒) 人言 繁跡妹 不相 情裏 戀比日 ひとごとを しげみといもに あはずして こころのうちに こふるこのころ ・・・・・・・・・・
中傷が鬱陶しいので 妻とは会わずにいるが 心の中で思わない時はない ・・・・・・・・・・ 2945 枕詞,女歌 [題詞](正述心緒) 玉<梓>之 君之使乎 待之夜乃 名凝其今毛 不宿夜乃大寸 [たまづさの] きみがつかひを まちしよの なごりぞいまも いねぬよのおほき ・・・・・・・・・・
あなたからの便りを待つ夜の その使者の気配を心待ちしながら いつまでも眠れない そんな夜がとても多い ・・・・・・・・・・ 2946 枕詞 [題詞](正述心緒) 玉桙之 道尓行相而 外目耳毛 見者吉子乎 何時鹿将待 たまほこの みちにゆきあひて よそめにも みればよきこを いつとかまたむ ・・・・・・・・・・
通う道でよく出会う 見るほどによい子 妻となる日はいつになるのだろう 待っていられないなあ ・・・・・・・・・・ 2947 作者:柿本人麻呂歌集,異伝,うわさ [題詞](正述心緒) 念西 餘西鹿齒 為便乎無美 吾者五十日手寸 應忌鬼尾 おもひにし あまりにしかば すべをなみ われはいひてき いむべきものを ・・・・・・・・・・
* 「忌むべきもの」:言ってはならないこと。ここでは相手の名を言うこと。思いにあまって堪えかねて どうしようもなく 言ってしまった 口にしてはならない相手の名を ・・・・・・・・・・ 2947S1 異伝,うわさ,人目 [題詞](正述心緒)或本歌曰 門出而 吾反側乎 人見<監>可毛 [一云 無乏 出行 家當見] かどにいでて わがこいふすを ひとみけむかも [すべをなみ いでてぞゆきし いへのあたりみに] ・・・・・・・・・・
門前に臥い伏す私を 人はなんと見るだろう ・・・・・・・・・・ 2947S2 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,人目,異伝 [題詞](正述心緒)柿本朝臣人麻呂歌集云 にほどりの なづさひこしを ひとみけむかも ・・・・・・・・・・
冬の池にすむにほ鳥が 慣れ親しんで来たのだなあと 人は見るだろうか ・・・・・・・・・・ 2948 [題詞](正述心緒) 明日者 其門将去 出而見与 戀有容儀 數知兼 あすのひは そのかどゆかむ いでてみよ こひたるすがた あまたしるけむ ・・・・・・・・・・
明日はあなたの家の門に行く 出て見たらわかるはずだよ 恋いやつれた姿の私の思いが 世間にも知れ渡るなあ きっと ・・・・・・・・・・ 2949 女歌 [題詞](正述心緒) 得田價異 心欝悒 事計 吉為吾兄子 相有時谷 うたてけに こころいぶせし ことはかり よくせわがせこ あへるときだに ・・・・・・・・・・
ほんとうに心がなごみませんわ なにか楽しい計画でも立てられないのかしら せめ逢えるその時だけでも ・・・・・・・・・・ 2950 [題詞](正述心緒) 吾妹子之 夜戸出乃光儀 見而之従 情空有 地者雖踐 わぎもこが よとでのすがた みてしより こころそらなり つちはふめども ・・・・・・・・・・
妻がこそこそと夜に外出する姿を 偶然見てしまった それからというもの私の気持ちは上の空で 足は地につかなくない ・・・・・・・・・・ 2951 桜井,奈良県,歌垣 [題詞](正述心緒) 海石榴市之 八十衢尓 立平之 結紐乎 解巻惜毛 つばいちの やそのちまたに たちならし むすびしひもを とかまくをしも ・・・・・・・・・・
<海石榴(つばき)は山茶花(さざんか)のこと。海石榴市の幾つもに別れ交わる辻道に立って 夜通し踊った歌垣で 契って結びあった紐を解くのはとても惜しい 腕に結んだあの人だけの紐だから ・・・・・・・・・・ 市は山人たちが、山茶花の杖をついて来て鎮魂していく所でもあり、昔は市で結婚が行われたと伝えられている。他国の男女どうしが一夜を共にし、別れるときに結んでくれた紐を、解くのが惜しいと歌っている。> * 海石榴市(つばいち):奈良県桜井市金屋付近にあった古代の大規模な市場。主な街道がこの地で交わっていた。 * 「ま‐く」推量の助動詞「む」のク語法。上代語》…だろうこと。…しようとすること。 2952 枕詞,女歌 [題詞](正述心緒) 吾<齡>之 衰去者 白細布之 袖乃<狎>尓思 君乎母准其念 わがいのちの おとろへぬれば [しろたへの] そでのなれにし きみをしぞおもふ ・・・・・・・・・・
歳を重ねて衰えても むかし交わした袖をみて 長年なれ親しんだあなたを 今も思い出されてなりません ・・・・・・・・・・ |
|
2931 枕詞,女歌 [題詞](正述心緒) 念管 座者苦毛 夜干玉之 夜尓至者 吾社湯龜 おもひつつ をればくるしも [ぬばたまの] よるにいたらば われこそゆかめ ・・・・・・・・・・
ひぐらし思っているだけではたまりません 夜になったら私の方から押しかけますからね ・・・・・・・・・・ 2932 人目,うわさ [題詞](正述心緒) 情庭 燎而念杼 虚蝉之 人目乎繁 妹尓不相鴨 こころには もえておもへど うつせみの ひとめをしげみ いもにあはぬかも ・・・・・・・・・・
心が燃えるほどあの娘を思っているのに 人目が煩わしくて逢えないままでいるかなあ ・・・・・・・・・・ 2933 女歌 [題詞](正述心緒) 不相念 公者雖座 肩戀丹 吾者衣戀 君之光儀 あひおもはず きみはまさめど かたこひに あれはぞこふる きみがすがたに ・・・・・・・・・・
貴方は私を思わないしおいでになるはずもない でもあなたのお姿は素敵 私の心の中ではいつもあなたとご一緒です ・・・・・・・・・・ 2934 枕詞 [題詞](正述心緒) 味澤相 目者非不飽 携 不問事毛 苦勞有来 [あぢさはふ] めはあかざらね たづさはり こととはなくも くるしくありけり ・・・・・・・・・・
相聞したしみうた眼に見て飽かず 手を取り合い 話しなどする そんなことがなかったら 苦しいよなあ いつもいつも手をたずさえて逢っていても 恋しさが消える恋ではないもの ・・・・・・・・・・ * 「あぢさはふ」「目」「夜昼」にかかる。 「あじ」は(あじ鴨) 「さはふ」はさえぎる意の「障(さ)ふ」に、継続の意の「ふ」がついたもの。 あじ鴨を網で捕らえる、その網の「目」と、網を夜昼見張る意で「夜昼知らず」にかかる。 サ2935 枕詞 [題詞](正述心緒) 璞之 年緒永 何時左右鹿 吾戀将居 壽不知而 [あらたまの] としのをながく いつまでか あがこひをらむ いのちしらずて ・・・・・・・・・・
* 「年の緒」は、年が長く続くのを緒にたとえていう語。年年歳歳を玉にして 吾が恋の緒に繋いでいくのさ この命が尽きるまで ・・・・・・・・・・ * 「ずて」は、打消し「ず」の連用形。 * 「て」は、接続助詞。 〜ずに。 2936 女歌 [題詞](正述心緒) 今者吾者 指南与我兄 戀為者 一夜一日毛 安毛無 いまはわは しなむよわがせ こひすれば ひとよひとひも やすけくもなし ・・・・・・・・・・
今私は死んでしまうほうがまし あなた 昼は昼じゅう夜は夜じゅう 独りっきりで心の休まることがないもの ・・・・・・・・・・ 2937 枕詞 [題詞](正述心緒) 白細布之 袖<折>反 戀者香 妹之容儀乃 夢二四三湯流 [しろたへの] そでをりかへし こふればか いもがすがたの いめにしみゆる ・・・・・・・・・・
寝衣の袖を折り返して 恋を念じれば 妻の姿を夢で見られるだろうか ・・・・・・・・・・ 2938 うわさ,女歌 [題詞](正述心緒) 人言乎 繁三毛人髪三 我兄子乎 目者雖見 相因毛無 ひとごとを しげみこちたみ わがせこを めにはみれども あふよしもなし ・・・・・・・・・・
世間のいわれない中傷が激しくて 夫を目で見ても逢うこともできない ・・・・・・・・・・ 2939 [題詞](正述心緒) 戀云者 薄事有 雖然 我者不忘 戀者死十万 こひといへば うすきことなり しかれども われはわすれじ こひはしぬとも ・・・・・・・・・・
恋しくてどれほど切なくても 言葉に出せば薄っぺらなもの でも私は忘れない この恋が終わったとしても ・・・・・・・・・・ 2940 [題詞](正述心緒) 中々二 死者安六 出日之 入別不知 吾四九流四毛 なかなかに しなばやすけむ いづるひの いるわきしらぬ われしくるしも ・・・・・・・・・・
なまじっか生きているより 死んだほうが気も収まるだろう 日の出から日の入りまで 別れて話も出来ない私は苦しい ・・・・・・・・・・ 2941 [題詞](正述心緒) 念八流 <跡>状毛我者 今者無 妹二不相而 年之經行者 おもひやる たどきもわれは いまはなし いもにあはずて としのへぬれば ・・・・・・・・・・
* 「思ひ遣る」;古くは 「気を晴らす(=物思いをよそにやる)」意。物思いをよそにやる方便など今はない あなたに逢わないまま もう幾とせ過ぎたことだろう ・・・・・・・・・・ |
|
サ2919 羈旅 [題詞](正述心緒) 二為而 結之紐乎 一為而 吾者解不見 直相及者 ふたりして むすびしひもを ひとりして あれはときみじ ただにあふまでは ・・・・・・・・・・
* 「して」は、サ変動「為(す)」の連用形「し」に、接助「て」が付いたもの。使役の助動詞と共に用い、そのことをする人を指す。また、行う人の数などをあらわす。一夜を共にあかし 翌朝二人で結んだ下着の紐は 一人の時にわたしは勝手に解きはしない またじかに逢うその時まで ・・・・・・・・・・ * 「じ」は、「む」の意の打消し、推量を表す。活用語の未然形につく。ここでは「見」。「べし」に対する「まじ」に似るが、確信生は「まじ」より劣る。 2920 [題詞](正述心緒) 終命 此者不念 唯毛 妹尓不相 言乎之曽念 をへむいのち ここはおもはず ただしくも いもにあはざる ことをしぞおもふ ・・・・・・・・・・
死ぬかもしれない などと今は思わない ただ 愛する人に逢えないこと そのことを辛く思う ・・・・・・・・・・ 2921 女歌 [題詞](正述心緒) 幼婦者 同情 須臾 止時毛無久 将見等曽念 たわやめは おやじこころに しましくも やむときもなく みてむとぞおもふ ・・・・・・・・・・
* 「たわや‐め」手弱女;「たわや」は「撓(たわ)」に接尾語「や」の付いたもの。「手弱」は当て字。 しなやか・なよなよ、とした女性。まだ幼い女ですが こころはあなたと同じです しばしも止むときなく お逢いしたいと思っています ・・・・・・・・・・ 2922 女歌 [題詞](正述心緒) 夕去者 於君将相跡 念許<増> 日之晩毛 れ有家礼 ゆふさらば きみにあはむと おもへこそ ひのくるらくも うれしくありけれ ・・・・・・・・・・
夕方になるとあなたに逢えると思うからこそ 日が暮れるのがいつも嬉しい でも あなたはなかなか来てくださらない ・・・・・・・・・・ 2923 うわさ,女歌 [題詞](正述心緒) 直今日毛 君尓波相目跡 人言乎 繁不相而 戀度鴨 ただけふも きみにはあはめど ひとごとを しげみあはずて こひわたるかも ・・・・・・・・・・
今日だってあなたにお逢いしたいけれど 人の勝手な噂が激しくて 私は一人っきりで あなたに恋い続けています ・・・・・・・・・・ 2924 女歌 [題詞](正述心緒) 世間尓 戀将繁跡 不念者 君之手本乎 不枕夜毛有寸 よのなかに こひしげけむと おもはねば きみがたもとを まかぬよもありき ・・・・・・・・・・
* 「けむ」は、過去の助動詞「き」の未然形の古形「け」+推量の助動詞「む」ー 活用語の連用形に付く。 過去の事実についての推量を表す。…ただろう。世の中は恋がしきりにできるとは 思っていなかったのに 逢えた頃になぜ毎晩逢わなかったのだろう ・・・・・・・・・・ 2925 女歌,戯歌 [題詞](正述心緒) 緑兒之 為社乳母者 求云 乳飲哉君之 於毛求覧 みどりこの ためこそおもは もとむといへ ちのめやきみが おももとむらむ ・・・・・・・・・・
幼児に乳をあたえる乳母を求めるとおっしゃりながら あなたが乳を飲むような幼児なのでしょうか 私は年上のおばあちゃんなのに 私に愛を求められるなんて ・・・・・・・・・・ 2926 戯歌 [題詞](正述心緒) 悔毛 老尓来鴨 我背子之 求流乳母尓 行益物乎 くやしくも おいにけるかも わがせこが もとむるおもに ゆかましものを ・・・・・・・・・・
老いてしまったのが悔しい 若ければあなたの求める乳母として参りますのに ・・・・・・・・・・ 2927 [題詞](正述心緒) 浦觸而 可例西袖○ 又巻者 過西戀<以> 乱今可聞 うらぶれて かれにしそでを またまかば すぎにしこひい みだれこむかも ・・・・・・・・・・
悲しみに沈んで裂けてしまったあの人の袖を またどうにか巻いたら あの過ぎてしまった恋が 乱れ込んで来ないだろうか ・・・・・・・・・・ 2928 [題詞](正述心緒) 各寺師 人死為良思 妹尓戀 日異羸沼 人丹不所知 おのがじし ひとしにすらし いもにこひ ひにけにやせぬ ひとにしらえず ・・・・・・・・・・
それぞれに 人は死んでいくらしい 女に恋して日増しに痩せて 相手には恋していることも知られない 人は恋のために命を削るのか それぞれに ・・・・・・・・・・ 2929 女歌 [題詞](正述心緒) 夕々 吾立待尓 若雲 君不来益者 應辛苦 よひよひに わがたちまつに けだしくも きみきまさずは くるしかるべし ・・・・・・・・・・
* 「けだしく‐も」副詞「けだしく」+係助詞「も」毎夜毎夜わたしは立ちんぼうで待ってます もしもあなたがお出でにならなかったら ああ 思っただけでも苦しいことです ・・・・・・・・・・ 1 (あとに推量または疑問の意味を表す語を伴って)おそらく。ひょっとしたら。 2 (あとに仮定の意味を表す語を伴って)もしも。 2930 女歌 [題詞](正述心緒) 生代尓 戀云物乎 相不見者 戀中尓毛 吾曽苦寸 いけるよに こひといふものを あひみねば こひのうちにも われぞくるしき ・・・・・・・・・・
生きたこの世で恋というものに 私は出会ったことはなかったけれど これが恋なら私の恋が一番苦しいと思う ・・・・・・・・・・ |
|
2907 [題詞](正述心緒) 大夫之 <聡>神毛 今者無 戀之奴尓 吾者可死 ますらをの さときこころも いまはなし こひのやつこに われはしぬべし ・・・・・・・・・・・
おとこの中の漢たるその聡明な心も 今はその跡形もない情欲の奴僕になったか 俺は骨なしとして死んだも当然さ ・・・・・・・・・・・ 2908 [題詞](正述心緒) 常如是 戀者辛苦 ○毛 心安目六 事計為与 つねかくし こふればくるし しましくも こころやすめむ ことはかりせよ ・・・・・・・・・・・
巡る日々いつも眺めていたいが 恋は募るほど苦しいものよ 暫しでも忘れるはからいをたてて 心身を打ち込み砕け ・・・・・・・・・・・ 2909 [題詞](正述心緒) 凡尓 吾之念者 人妻尓 有云妹尓 戀管有米也 おほろかに われしおもはば ひとづまに ありといふいもに こひつつあらめや ・・・・・・・・・・・
いい加減な気持ちなど私にはないのだ かりにも人妻と知りつつ思い続けている この気持ちがどうして止められようか ・・・・・・・・・・・ 2910人目,うわさ [題詞](正述心緒) 心者 千重百重 思有杼 人目乎多見 妹尓不相可母 こころには ちへにももへに おもへれど ひとめをおほみ いもにあはぬかも ・・・・・・・・・・・
心では百重にも恋しく思っているのに 人目が千重にも多くてあの娘に逢えない ・・・・・・・・・・・ 2911人目,うわさ [題詞](正述心緒) 人目多見 眼社忍礼 小毛 心中尓 吾念莫國 ひとめおほみ めこそしのぶれ すくなくも こころのうちに わがおもはなくに ・・・・・・・・・・・
人目が多すぎて避けても近づけず 心の内に忍んでなどではなく 逢いたいんだよ本当に ・・・・・・・・・・・ 2912人目,うわさ [題詞](正述心緒) 人見而 事害目不為 夢尓吾 今夜将至 屋戸閇勿勤 ひとのみて こととがめせぬ いめにわれ こよひいたらむ やどさすなゆめ ・・・・・・・・・・・
人目には見えないから咎められない 夢で今夜行くから 戸をけっして閉めてはいけないよ ・・・・・・・・・・・ 2913 [題詞](正述心緒) 何時左右二 将生命曽 凡者 戀乍不有者 死上有 いつまでに いかむいのちぞ おほかたは こひつつあらずは しなましものを ・・・・・・・・・・・
だいたい命には限りがあるのだから こんな辛い片恋を続けるよりは いいところで早めにさ 死んだほうがましだよまったく ・・・・・・・・・・・ 2914遊仙窟 [題詞](正述心緒) <愛>等 念吾妹乎 夢見而 起而探尓 無之不怜 うつくしと おもふわぎもを いめにみて おきてさぐるに なきがさぶしさ ・・・・・・・・・・・
可愛くてたまらないで いつも思うあの子の夢に見ていた ふと目覚めて 思わずそのぬくもりを 傍らに手探りする寂しさよ ・・・・・・・・・・・ 2915 [題詞](正述心緒) 妹登曰者 無礼恐 然為蟹 懸巻欲 言尓有鴨 いもといはば なめしかしこし しかすがに かけまくほしき ことにあるかも ・・・・・・・・・・・
* 「いも」妹彼女を恋人と呼んだら 無作法であるしもったいない そうはいうもの 言葉に出してそう言ってみたいことよ ・・・・・・・・・・・ 1 男が女を親しんでいう語。主として妻・恋人をさす。⇔兄(せ)。 2 男の側から姉または妹をよぶ語。 * 「なめ・し」無礼し [形ク] 無礼である。無作法である。 * 「しか‐す‐がに」然すがに; そうはいうものの。そうではあるが。 「しか」副詞。 「す」サ変動詞。 「がに」接続助詞。 2916 [題詞](正述心緒) 玉勝間 相登云者 誰有香 相有時左倍 面隠為 [たまかつま] あはむといふは たれなるか あへるときさへ おもかくしする ・・・・・・・・・・・
逢おうといったのは一体誰す せっかく逢ったのに顔を隠したりして ・・・・・・・・・・・ 2917 [題詞](正述心緒) 寤香 妹之来座有 夢可毛 吾香惑流 戀之繁尓 うつつにか いもがきませる いめにかも われかまとへる こひのしげきに ・・・・・・・・・・・
うつつのはず 妻が来たのは夢だったってか 激しい恋の衝撃に私は戸惑うばかり ・・・・・・・・・・・ 2918 [題詞](正述心緒) 大方者 何鴨将戀 言擧不為 妹尓依宿牟 年者近<綬> おほかたは なにかもこひむ ことあげせず いもによりねむ としはちかきを ・・・・・・・・・・・
いつも恋心を感じれば それと語らなくとも添い寝する 今のうちみたいな気もして ・・・・・・・・・・・ |



