ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

・万葉集(〃)

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3588遣新羅使,天平8年,悲別,出発,恋,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

波呂波呂尓 於<毛>保由流可母 之可礼杼毛 異情乎 安我毛波奈久尓

はろはろに 思ほゆるかも しかれども 異しき心を 吾が思はなくに 

はろはろに おもほゆるかも しかれども けしきこころを あがもはなくに
・・・・・・・・・・・
遥か新羅に旅立つことになり

君との別れが辛いと思われることです

しかしながら

わたしは 貴女だけをいつも

思い続けることに変わりはありません
・・・・・・・・・・・
* 「はろはろに」(副) はるかに。はるばると。
* 「しかれ‐ども」〔接続〕逆態の確定条件。そうであるが。しかしながら。されども。
* 「異しき心」 あだしごころ。浮気心。



3589遣新羅使,天平8年,作者:秦間満,奈良,難波,大阪,出発,恋

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

由布佐礼婆 比具良之伎奈久 伊故麻山 古延弖曽安我久流 伊毛我目乎保里

夕されば ひぐらし来鳴く 生駒山 越えてぞ吾が来る 妹が目を欲り 

ゆふされば ひぐらしきなく いこまやま こえてぞあがくる いもがめをほり
・・・・・・・・・・・
夕暮れになると

ひぐらしが来て鳴く生駒山を

私は越えてきた

妻に少しでも早く逢いたくて
・・・・・・・・・・・



3590遣新羅使,天平8年,奈良,難波,大阪,出発,恋

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

伊毛尓安波受 安良婆須敝奈美 伊波祢布牟 伊故麻乃山乎 故延弖曽安我久流

妹に逢はず あらばすべなみ 岩根踏む 生駒の山を 越えてぞ吾が来る 

いもにあはず あらばすべなみ いはねふむ いこまのやまを こえてぞあがくる
・・・・・・・・・・・
出帆前に今一度

君に会わないではいられなくて

険しい生駒の岩根を踏み越えて

わたしは戻ってきたんだよ
・・・・・・・・・・・



3591遣新羅使,天平8年,悲別,恋情,出発,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

妹等安里之 時者安礼杼毛 和可礼弖波 許呂母弖佐牟伎 母能尓曽安里家流

妹とありし 時はあれども 別れては 衣手寒き ものにぞありける 

いもとありし ときはあれども わかれては ころもでさむき ものにぞありける
・・・・・・・・・・・
妻と一緒だった時はともかく

別れてからは

いつも衣の袖は心寒いものだな
・・・・・・・・・・・



サ3592遣新羅使,天平8年,悲別,出発,難波,大阪,恋

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

海原尓 宇伎祢世武夜者 於伎都風 伊多久奈布吉曽 妹毛安良奈久尓

海原に 浮き寝せむ夜は 沖つ風 いたくな吹きそ 妹もあらなくに 

うなはらに うきねせむよは おきつかぜ いたくなふきそ いももあらなくに
・・・・・・・・・・・
海原に浮いて寝る夜は

沖の風よそんなに強く吹くな

寒さを忘れさせる

愛しい妻がいないのだから
・・・・・・・・・・・
* 「せむ」は、サ行変格動詞「す」の未然形「せ」に、婉曲の助動詞「む」の連体形で、〜するような
* 「うき‐ね」1 水鳥が水に浮いたまま寝ること。2 人が船の中で寝ること。3 心が落ち着かないで、安眠できず横になっていること。 



3593遣新羅使,天平8年,出発,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

大伴能 美津尓布奈能里 許藝出而者 伊都礼乃思麻尓 伊保里世武和礼

大伴の 御津に船乗り 漕ぎ出ては いづれの島に 廬りせむ吾れ 

おほともの みつにふなのり こぎでては いづれのしまに いほりせむわれ
・・・・・・・・・・・
大伴の御津から船に乗り

漕ぎ出して さて

次はどこにの島に停泊しようか

われわれは
・・・・・・・・・・・
* 「せむ」は、サ変動詞「す」の未然形「せ」に、推量の助動詞「む」が付いたもの、と解した。



3594遣新羅使,天平8年,悲別,恋,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

之保麻都等 安里家流布祢乎 思良受之弖 久夜之久妹乎 和可礼伎尓家利

潮待つと ありける船を 知らずして 悔しく妹を 別れ来にけり 

しほまつと ありけるふねを しらずして くやしくいもを わかれきにけり
・・・・・・・・・・・
船出に良い潮時を待って

停船しているとも知らないで

残念なことに あわただしく

貴女と別れて来てしまった
・・・・・・・・・・・



3595遣新羅使,天平8年,兵庫県,武庫川,出発,叙景,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

安佐妣良伎 許藝弖天久礼婆 牟故能宇良能 之保非能可多尓 多豆我許恵須毛

朝開き 漕ぎ出て来れば 武庫の浦の 潮干の潟に 鶴が声すも 

あさびらき こぎでてくれば むこのうらの しほひのかたに たづがこゑすも
・・・・・・・・・・・
朝明けで

船を漕ぎ出てくると

武庫の浦の潮の干潟で

妻呼ぶ鶴の声がする
・・・・・・・・・・・



3596遣新羅使,天平8年,悲別,望郷,加古川,兵庫

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

和伎母故我 可多美尓見牟乎 印南都麻 之良奈美多加弥 与曽尓可母美牟

吾妹子が 形見に見むを 印南都麻 白波高み 外にかも見む 

わぎもこが かたみにみむを いなみつま しらなみたかみ よそにかもみむ
・・・・・・・・・・・
いとしい妻を形見に偲ぼうと

都麻(つま)の名のある 

印南都麻を近くから見たかったが

白波が高くて

遠くからしか見られないようだ

おぼろげながら

沖合からいつまでも見ていこう
・・・・・・・・・・・



3597遣新羅使,天平8年,叙景,兵庫


[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

和多都美能 於伎津之良奈美 多知久良思 安麻乎等女等母 思麻我久<流>見由

わたつみの 沖つ白波 立ち来らし 海人娘子ども 島隠る見ゆ 

[わたつみの] おきつしらなみ たちくらし あまをとめども しまがくるみゆ
・・・・・・・・・・・
沖から白波が立って来るらしい

海人の娘たちが乗った船も

島影に隠れて行くのが見える
・・・・・・・・・・・


第十五巻
(遣新羅使歌)




3578遣新羅使,天平8年,兵庫県,武庫川,女歌,悲別,序詞,恋,出発,難波,大阪

[題詞]遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌

武庫能浦乃 伊里江能渚鳥 羽具久毛流 伎美乎波奈礼弖 古非尓之奴倍之

武庫の浦の 入江の洲鳥 羽ぐくもる 君を離れて 恋に死ぬべし 

[むこのうらの いりえのすどり] はぐくもる きみをはなれて こひにしぬべし
・・・・・・・・・・・
武庫の浦の入江にいる州鳥が

親鳥の羽に包まれるように

可愛がってくださったあなたと離れ

私は恋い焦がれてきっと死んでしまうでしょう
・・・・・・・・・・・
* 「す‐どり」州鳥/渚鳥。 州(す)にいる鳥。シギ・チドリなど。



3579遣新羅使,天平8年,恋,悲別,出発,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

大船尓 伊母能流母能尓 安良麻勢<婆> 羽具久美母知弖 由可麻之母能乎

大船に 妹乗るものに あらませば 羽ぐくみ持ちて 行かましものを 

おほぶねに いものるものに あらませば はぐくみもちて ゆかましものを
・・・・・・・・・・・
乗る大船に貴女を乗せてよいのなら

雛を羽で包み隠すようにして連れて行くものを
・・・・・・・・・・・



3580遣新羅使,天平8年,女歌,出発,悲別,恋,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

君之由久 海邊乃夜杼尓 奇里多々婆 安我多知奈氣久 伊伎等之理麻勢

君が行く 海辺の宿に 霧立たば 吾が立ち嘆く 息と知りませ 

きみがゆく うみへのやどに きりたたば あがたちなげく いきとしりませ
・・・・・・・・・・・
貴方が行く海辺の宿が霧に包まれたならば

私が門に立って嘆くため息だと思って下さい
・・・・・・・・・・・



3581遣新羅使,天平8年,悲別,出発,慰撫,恋,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

秋佐良婆 安比見牟毛能乎 奈尓之可母 奇里尓多都倍久 奈氣伎之麻佐牟

秋さらば 相見むものを 何しかも 霧に立つべく 嘆きしまさむ 

あきさらば あひみむものを なにしかも きりにたつべく なげきしまさむ
・・・・・・・・・・・
秋になったら会えるものを

どうして霧が立ち込めるような

深い嘆きをなさるのですか
・・・・・・・・・・・


3582遣新羅使,天平8年,女歌,出発,悲別,恋,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

大船乎 安流美尓伊太之 伊麻須君 都追牟許等奈久 波也可敝里麻勢

大船を 荒海に出だし います君 障むことなく 早帰りませ 

おほぶねを あるみにいだし いますきみ つつむことなく はやかへりませ
・・・・・・・・・・・
大船を荒海に漕ぎ出されるあなた

無事で早く帰ってきてください
・・・・・・・・・・・



3583遣新羅使,天平8年,出発,悲別,恋,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

真幸而 伊毛我伊波伴伐 於伎都奈美 知敝尓多都等母 佐波里安良米也母

ま幸くて 妹が斎はば 沖つ波 千重に立つとも 障りあらめやも 

まさきくて いもがいははば おきつなみ ちへにたつとも さはりあらめやも
・・・・・・・・・・・
平安無事にと

妻が忌み謹んで神に祈るのですから

沖波千重に高くても

私の航海に障害など起こるものですか
・・・・・・・・・・・



3584遣新羅使,天平8年,女歌,恋,出発,悲別,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

和可礼奈波 宇良我奈之家武 安我許呂母 之多尓乎伎麻勢 多太尓安布麻弖尓

別れなば うら悲しけむ 吾が衣 下にを着ませ 直に逢ふまでに 

わかれなば うらがなしけむ あがころも したにをきませ ただにあふまでに
・・・・・・・・・・・
別れたら悲しいでしょう

私の衣を下着にしていてください

じかに逢うまで
・・・・・・・・・・・



3585遣新羅使,天平8年,羈旅,恋,出発,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

和伎母故我 之多尓毛伎余等 於久理多流 許呂母能比毛乎 安礼等可米也母

吾妹子が 下にも着よと 贈りたる 衣の紐を 吾れ解かめやも 

わぎもこが したにもきよと おくりたる ころものひもを あれとかめやも
・・・・・・・・・・・
私の衣を下に着ていてくださいと

妻が贈ってくれた衣の紐を

帰ってじかに会うまで

私が解くことがあろうか
・・・・・・・・・・・



3586遣新羅使,天平8年,出発,悲別,餞別,恋,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

和我由恵尓 於毛比奈夜勢曽 秋風能 布可武曽能都奇 安波牟母能由恵

吾がゆゑに 思ひな痩せそ 秋風の 吹かむその月 逢はむものゆゑ 

わがゆゑに おもひなやせそ あきかぜの ふかむそのつき あはむものゆゑ
・・・・・・・・・・・
私のことを思い悩んで痩せないでください

秋風の吹くその月には

また逢えるのですから
・・・・・・・・・・・
* 「な〜そ」禁止。
* 「ものゆゑ」は、活用語の連体形に付ける、順接・逆接・理由の接続助詞。理由・原因の順接で、「〜ので」「〜のだから」。「ものゆゑに」ともつかう。



3587遣新羅使,天平8年,韓国,枕詞,悲別,餞別,女歌,難波,大阪

[題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌)

多久夫須麻 新羅邊伊麻須 伎美我目乎 家布可安須可登 伊波比弖麻多牟

栲衾 新羅へいます 君が目を 今日か明日かと 斎ひて待たむ 

[たくぶすま] しらきへいます きみがめを けふかあすかと いはひてまたむ
・・・・・・・・・・・
栲衾の新羅へ行かれる貴方に

私を直接に見ていただけるのを

今日か明日かと祈り

潔斎しながら待っています
・・・・・・・・・・・


防人歌




サ14 3567;東歌,相聞,恋,出発

[題詞]防人歌

[左注](右二首<問>答)

於伎弖伊可婆  伊毛婆麻可奈之  母知弖由久  安都佐能由美乃  由都可尓母我毛

置きて行かば 妹はま愛し 持ちて行く 梓の弓の 弓束にもがも

おきていかば いもはまかなし もちてゆく あづさのゆみの ゆづかにもがも

・・・・・・・・・
おいてゆくには妻はしんから愛しい

持ってゆく梓弓の弓束であればいいのに
・・・・・・・・・



3568東歌,相聞,女歌,恋,出発

[題詞]

於久礼為弖  古非波久流思母  安佐我里能  伎美我由美尓母  奈良麻思物能乎

後れ居て 恋ひば苦しも 朝猟の 君が弓にも ならましものを 

おくれゐて こひばくるしも あさがりの きみがゆみにも ならましものを
・・・・・・・・・
残されてどうすればいいのかつらい

朝狩のあなたの弓にでもなれないものか
・・・・・・・・・



サ3569東歌,相聞,防人,出発,旅,望郷,恋

[題詞]

佐伎母理尓  多知之安佐氣乃  可奈刀○尓  手婆奈礼乎思美  奈吉思兒良<波>母

防人に 立ちし朝開の 金門出に たばなれ惜しみ 泣きし子らはも 

さきもりに たちしあさけの かなとでに たばなれをしみ なきしこらはも
・・・・・・・・・
防人にたつ夜明けのかどでで

別れを惜しみ門で泣いた妻よ

私の心は今も張り裂けそうだよ
・・・・・・・・・
* 「子ら」はここでは単数。
* 「かなとで」は かどで。
* 「たばなれ」は手離れ、別れること。
* 「はも」は終助詞「は」に終助詞「も」がついて強い詠嘆を表す。




サ14 3570;東歌,相聞,望郷,恋

[題詞]

安之能葉尓  由布宜里多知弖  可母我鳴乃  左牟伎由布敝思  奈乎波思努波牟

葦の葉に 夕霧立ちて 鴨が音の 寒き夕し 汝をば偲はむ

あしのはに ゆふぎりたちて かもがねの さむきゆふへし なをばしのはむ
・・・・・・・・・
夕暮れの霧で葦の葉もかすむ難波

どこからか聞こえる鴨の声も寒々しい

遠いおまえのことをまた思い出しては

寂しさを耐え忍ぶ自分であることよ
・・・・・・・・・
* 「し」間助、語調・強意。
* 防人は、663年に百済救済のために出兵した白村江の戦いで唐・新羅連合軍に敗れたのを機に、北九州沿岸の防衛のため、軍防令が発せられて設置された。大宰府に防人司(さきもりのつかさ)が置かれ、諸国の軍団の兵士の中から選抜、難波に集結後、各地に配属された。定員は約1000名、勤務期間は3年とされた。





サ3571東歌,相聞,防人,望郷,不安,恋

[題詞]

於能豆麻乎  比登乃左刀尓於吉  於保々思久  見都々曽伎奴流  許能美知乃安比太

己妻を 人の里に置き おほほしく 見つつぞ来ぬる この道の間 

おのづまを ひとのさとにおき おほほしく みつつぞきぬる このみちのあひだ
・・・・・・・・・・
自分の妻なのに

よその里に置き去りにして来た

気がかりで振返っても

ただ隔たるばかり

防人としての別れも告げず

この道は果てしのない

非情の道になってしまうのだろうか
・・・・・・・・・・
* 「おほほし」は形容詞シク活用、心が晴れない、おぼろげである、憂鬱である意。




譬喩歌
(心情を表に出さず、隠喩(いんゆ)的に詠んだ歌。多くは恋愛感情を詠む。)




3572東歌,譬喩歌,茨城県,子飼山,婚姻

[題詞]譬喩歌

安杼毛敝可 阿自久麻<夜>末乃 由豆流波乃 布敷麻留等伎尓 可是布可受可母

あど思へか 阿自久麻山の 弓絃葉の ふふまる時に 風吹かずかも 

あどもへか あじくまやまの ゆづるはの ふふまるときに かぜふかずかも
・・・・・・・・・・・
どう思っているのかな

阿自久麻山のゆずりはの莢(さや)が

これから美しく開く頃だが

いつ風が吹くか分からない

いつどこの誰かに言い寄られるかもしれないぞ

心配はないのかい
・・・・・・・・・・・
「弓弦葉ゆづるは」は「譲葉ゆずりは」のこと。



3573東歌,譬喩歌,植物,婚姻

[題詞]

安之比奇能 夜麻可都良加氣 麻之波尓母 衣我多奇可氣乎 於吉夜可良佐武

あしひきの 山かづらかげ ましばにも 得がたきかげを 置きや枯らさむ 

[あしひきの] やまかづらかげ ましばにも えがたきかげを おきやからさむ
・・・・・・・・・・・
めったに得られない日陰葛を

そのまま大事にして枯らすのか

深窓の麗人も

年月を経れば老婆になってしまうのに

ご両親よ
・・・・・・・・・・・



3574東歌,譬喩歌,婚姻

[題詞]

乎佐刀奈流 波奈多知波奈乎 比伎余治弖 乎良無登須礼杼 宇良和可美許曽

小里なる 花橘を 引き攀ぢて 折らむとすれど うら若みこそ 

をさとなる はなたちばなを ひきよぢて をらむとすれど うらわかみこそ
・・・・・・・・・・・
里にある花橘をつかんで引っ張り

折るつもりが

こずえがあまりにも若々しくなよやかなので

だれかにその気にさせてもらいたいものだ
・・・・・・・・・・・
* 「お‐さと」[を:]小里。〔名〕(「お」は接頭語)里。
* 「うら」植物の葉や枝の先。こずえ。うれ。
* 「うら若み」若々しいので。若々しくなよやかなので。



3575東歌,譬喩歌,恋

[題詞]

美夜自呂乃 <須>可敝尓多弖流 可保我波奈 莫佐吉伊<R>曽祢 許米弖思努波武

美夜自呂の すかへに立てる かほが花 な咲き出でそね こめて偲はむ 

みやじろの すかへにたてる かほがはな なさきいでそね こめてしのはむ
・・・・・・・・・・・
美夜自呂の砂地に立っている顔花のように

目立って咲いたりはしないよ

偲ぶようにして思っているからね
・・・・・・・・・・・



14 3576東歌,譬喩歌,植物,恋

[題詞]

奈波之呂乃 <古>奈宜我波奈乎 伎奴尓須里 奈流留麻尓末仁 安是可加奈思家

苗代の 小水葱が花を 衣に摺り なるるまにまに あぜか愛しけ 

なはしろの こなぎがはなを きぬにすり なるるまにまに あぜかかなしけ
・・・・・・・・・・・
苗代田で育てている

小水葱の花を

衣にこすり付けたら

着慣れるにつれて

愛しくなってくる
・・・・・
大切に育てられた娘さんを妻にした

新婚当時は気恥ずかしかったが

月日を経るにつれ

愛しくてたまらない
・・・・・・・・・・・




挽歌




3577東歌,挽歌,恋,後悔

[題詞]挽歌

可奈思伊毛乎 伊都知由可米等 夜麻須氣乃 曽我比尓宿思久 伊麻之久夜思母

愛し妹を いづち行かめと 山菅の 背向に寝しく 今し悔しも 

かなしいもを いづちゆかめと [やますげの] そがひにねしく いましくやしも
・・・・・・・・・・・
愛しい妻が何処へ行くことがあろうかと

山菅の葉のように

背中合わせで寝てしまったこともあった

つまらない事で喧嘩して

今は後悔がつのって辛いばかりだよ
・・・・・・・・・・・
3551東歌,相聞,恋,女歌,序詞,浮気

[題詞]

阿遅可麻能 可多尓左久奈美 比良湍尓母 比毛登久毛能可 加奈思家乎於吉弖

阿遅可麻の 潟にさく波 平瀬にも 紐解くものか 愛しけを置きて 

[あぢかまの かたにさくなみ ひらせにも] ひもとくものか かなしけをおきて
川の流れがゆるやかで

波がたたない水面の平らな瀬でも 

愛しい者を家に置いているのに

紐を解くことがあろうか

いや 絶対に解かないぞ
* 「かなしけ」愛。〔形〕「かなし」の連体形「かなしき」の上代東国方言。いとしい(こと・もの)。




サ3552東歌,相聞,宮城県,福島県,うわさ,恋,女歌

[題詞]

麻都我宇良尓 佐和恵宇良太知 麻比<登>其等 於毛抱須奈母呂 和賀母抱乃須 

まつが浦に さわゑうら立ち ま人言 思ほすなもろ 吾が思ほのすも 

[まつがうらに さわゑうらだち] まひとごと おもほすなもろ わがもほのすも
・・・・・・
松が浦に潮騒が群がり騒ぐように

人の噂はうるさいけれど

きっとあの方は私のことを

かわらずお思いになってくださっている

私があなたを愛しく思うように
・・・・・・
* 「さわ・は」低地の沢・渓谷・谷川。
* 「ゑ」(間助)上代語。嘆息を表す。・・よ。
* 「さわゑ」騒いで。
* 「うらだち」群がり立って。
* 「うら」には、「群」・「末」・「浦」・「占」などの意がある。
* 「ま」接頭語。
* 「人言」は、人の言う言葉・うわさ・世間の評判など。
* 「おもほす」他サ四「思ふ」の未然形に上代の尊敬の助動詞「す」の付いた「おもはす」の転。「思う」の尊敬語。お思いになる。
* 「なも」推量の助動詞。(係助)上代語。強く指示する意を表す。他に対してのあつらえの意を表す・・して欲しい。
* 「ろ」上代間助として感動を表す。・・よ。
* 「なも‐ろ」 [連語]推量の助動詞「なも」+間投助詞「ろ」。上代東国方言》…ているだろうよ。
* 「吾が思ほのすも」
* 「のす」(接尾)上代東国方言。「似る」と同源。・・のように。
* 「も」詠嘆。



3553東歌,相聞,愛知県,序詞,うわさ,恋

[題詞]

安治可麻能 可家能水奈刀尓 伊流思保乃 許弖多受久毛可 伊里弖祢麻久母

あじかまの 可家の港に 入る潮の こてたずくもが 入りて寝まくも 

[あぢかまの かけのみなとに いるしほの] こてたずくもが いりてねまくも
あぢ鴨の棲む可家川の

入江に入る潮が緩やかなように

ひとの噂がおさまったら 

あの子の寝床を訪れてかき抱こうものを
http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/29762332.html


3554東歌,相聞,恋

[題詞]

伊毛我奴流 等許<能>安多理尓 伊波具久留 水都尓母我毛与 伊里弖祢末久母

妹が寝る 床のあたりに 岩ぐくる 水にもがもよ 入りて寝まくも 

いもがぬる とこのあたりに [いはぐくる] みづにもがもよ いりてねまくも
あの娘が寝る床の周りは堅城鉄壁だが

岩をくぐる水になれれば部屋に潜り込めるだろう

さっそく布団の中に入って大願成就なりさ

みづにもがもよ みづにもがもよ



3555東歌,相聞,茨城県,古河,序詞,うわさ,恋

[題詞]

麻久良我乃 許我能和多利乃 可良加治乃 於<登>太可思母奈 宿莫敝兒由恵尓

麻久良我の 許我の渡りの 韓楫の 音高しもな 寝なへ子ゆゑに 

[まくらがの] こがのわたりの からかぢの] おとだかしもな ねなへこゆゑに
麻久良我の許我の渡し場に響き渡る

韓楫の音の高さよ 

そのように噂が高い訳がわからない 

だってそうだろ 相手の女性とは

なんの関わりもないのだから




3556東歌,相聞,枕詞,恋,うわさ

[題詞]

思保夫祢能 於可礼婆可奈之 左宿都礼婆 比登其等思氣志 那乎杼可母思武

潮船の 置かれば愛し さ寝つれば 人言繁し 汝をどかもしむ 

[しほぶねの] おかればかなし さねつれば ひとごとしげし なをどかもしむ
潮船に乗らねばわが恥 きみは悲しむ

潮船に乗られねば君の恥 わが苦しみ

潮船に二人で乗れば二人の恥 世間の餌食

君をなんとしよう



3557東歌,相聞,序詞,恋

[題詞]

奈夜麻思家 比登都麻可母与 許具布祢能 和須礼波勢奈那 伊夜母比麻須尓

悩ましけ 人妻かもよ 漕ぐ舟の 忘れはせなな いや思ひ増すに 

[なやましけ ひとづまかもよ こぐふねの] わすれはせなな いやもひますに
悩ましげにするあの娘は人妻

人妻との恋は禁忌なんだ

いけないんだよ

漕ぐ舟が去るように消えてくれ

思いをつのらせる困った女よ
* 「悩ましけ」は「悩ましき」の東国訛り。
* 「かもよ」は、助詞「かも」・「よ」が結び付き、詠嘆の意をあらわす。
* 「よ」は強調の終助詞 「や」と同じく元来は掛け声に由来する語であろうか。のち間投助詞としてはたらくようになり、文末にも用いられるようになった。意を強めるはたらきをする。
 聞き手に対し、同意を求めたり念を押したりする気持をあらわす。のち、詠嘆的な用法にも使われる。現代口語で「〜だよ」などと言う時の「よ」、女言葉の「〜よ」に繋がっている。
* 「よ」は、格助詞、上代語。動作・作用の時間的・空間的な起点を表す。・・から。 経過する場所を示して、・・を通って。 比較の基準、・・より。 手段・方法、・・で。
 体言・活用語の連体形につく。
1.詠嘆・感動。
2.呼びかけ。
3.命令の意志を確かめる。
4.強く指示する。
5.告示の気持ちを表す。



3558東歌,相聞,茨城県,古河,遊行女婦,女歌

[題詞]

安波受之弖 由加婆乎思家牟 麻久良我能 許賀己具布祢尓 伎美毛安波奴可毛

逢はずして 行かば惜しけむ 麻久良我の 許我漕ぐ船に 君も逢はぬかも 

あはずして ゆかばをしけむ [まくらがの] こがこぐふねに きみもあはぬかも
会わないまま都に行かせるのは惜しい

古河を漕ぐ船の中ででも会えないものか




3559東歌,相聞,序詞,うわさ,恋

[題詞]

於保夫祢乎 倍由毛登母由毛 可多米提之 許曽能左刀妣等 阿良波左米可母

大船を 舳ゆも艫ゆも 堅めてし 許曽の里人 あらはさめかも 

[おほぶねを へゆもともゆも かためてし] こそのさとびと あらはさめかも
大船を舳先も艫も綱で固く結んだように

固く契った二人のことは

許曽の里人も顕にすることはないでしょう




3560東歌,相聞,奈良,吉野,岐阜,序詞,うわさ,恋

[題詞]

麻可祢布久 尓布能麻曽保乃 伊呂尓R<弖> 伊波奈久能未曽 安我古布良久波

ま金ふく 丹生のま朱の 色に出て 言はなくのみぞ 吾が恋ふらくは 

まかねふく にふのまそほの いろにでて いはなくのみぞ あがこふらくは
鉄を精錬する炎のように

水銀の湧く赤土のように

顔色に出して言わないだけだ

私の恋する思いは




3561東歌,相聞,序詞,恋,女歌

[題詞]

可奈刀田乎 安良我伎麻由美 比賀刀礼婆 阿米乎万刀能須 伎美乎等麻刀母

金門田を 荒垣ま斎み 日が照れば 雨を待とのす 君をと待とも 

[かなとだを あらがきまゆみ] ひがとれば あめをまとのす きみをとまとも
門のそばの田の荒垣を慎み清めて

日が照れば雨を待つように

貴方をお待ちしていますとも
* 「かなと‐だ」金門田〔名〕金門(かなと)の近くにある田。門のそばの田。門田(かどた)。
* 「のす」(接尾) 上代東国方言。・・のように。



3562東歌,相聞,序詞,恋,孤独

[題詞]

安里蘇夜尓 於布流多麻母乃 宇知奈婢伎 比登里夜宿良牟 安乎麻知可祢弖

荒礒やに 生ふる玉藻の うち靡き ひとりや寝らむ 吾を待ちかねて 

[ありそやに おふるたまもの うちなびき] ひとりやぬらむ あをまちかねて
荒礒に生える藻が波に靡くように

黒髪を床に靡かせて独り寝しているだろうなあ

私を待ちかねながら



3563東歌,相聞,茨城県,序詞,恋

[題詞]

比多我多能 伊蘇乃和可米乃 多知美太要 和乎可麻都那毛 伎曽毛己余必母

比多潟の 礒のわかめの 立ち乱え 吾をか待つなも 昨夜も今夜も 

[ひたがたの いそのわかめの たちみだえ] わをかまつなも きぞもこよひも
比多潟の磯のわかめが立ち揺らぐように

思い乱れて私を待っているだろうか

ゆうべも今夜も




3564東歌,相聞,東京都,小菅町,恋

[題詞]

古須氣呂乃 宇良布久可是能 安騰須酒香 可奈之家兒呂乎 於毛比須吾左牟

古須気ろの 浦吹く風の あどすすか 愛しけ子ろを 思ひ過ごさむ 

こすげろの うらふくかぜの あどすすか かなしけころを おもひすごさむ
古須気の

浦吹く風でも

なんとしても

わが愛しい娘への思いを  

吹き流せはしない
* 「あど」上代東国方言。なんと・如何に。
* 「すす」上代東国方言。しつつ、しながら。(サ変「す」の終止形を重ねたもの。)
* 「こ‐ろ」子等。 「ろ」は接尾語。上代東国方言。「こら(子等)」に同じ。



3565東歌,相聞,長野県,恋

[題詞]

可能古呂等 宿受夜奈里奈牟 波太須酒伎 宇良野乃夜麻尓 都久可多与留母

かの子ろと 寝ずやなりなむ はだすすき 宇良野の山に 月片寄るも 

かのころと ねずやなりなむ はだすすき うらののやまに つくかたよるも
あの娘と今夜は寝られないかも

はだ薄の揺れている宇良野の山に

もう月が傾いてしまった




3566東歌,相聞,恋

[題詞]

和伎毛古尓 安我古非思奈婆 曽和敝可毛 加未尓於保世牟 己許呂思良受弖

吾妹子に 吾が恋ひ死なば そわへかも 神に負ほせむ 心知らずて 

わぎもこに あがこひしなば そわへかも かみにおほせむ こころしらずて
妻に恋い焦がれておれが死んだら

死神は運命だと言うだろう

そのむくいを心なしな

神様におわそう

だれもおれの心は知らない


3541 東歌,相聞,序詞,恋

[題詞]

安受倍可良 古麻<能>由胡能須 安也波刀文 比<登>豆麻古呂乎 麻由可西良布母

あずへから 駒の行ごのす 危はとも 人妻子ろを まゆかせらふも 

あずへから こまのゆごのす あやはとも ひとづまころを まゆかせらふも
・・・・・・・・・・・
断崖の上を駒が行く時は危ういが

そんな気持ちにさせる

人妻のあの女を

ただ見ているだけでいられようか
・・・・・
崩岸(あず)のあたりを

駒で行くようにあやういが

こっそり逢ってみよう
・・・・・・・・・・・
* 「目(ま)ゆかせらふも」ただみていられようか。




3542 東歌,相聞,恋,妻問い

[題詞]

<佐>射礼伊思尓 古馬乎波佐世弖 己許呂伊多美 安我毛布伊毛我 伊敝<能>安多里可聞

さざれ石に 駒を馳させて 心痛み 吾が思ふ妹が 家のあたりかも 

[さざれいしに こまをはさせて こころいたみ] あがもふいもが いへのあたりかも
・・・・・・・・・・・
小石の原に駒を走らせて心が痛むが

思うあの女の家があるからか

つい来てしまうこのあたりよ
・・・・・・・・・・・
* 「さざれ石」(細石、さざれいし)は、もともと小さな石の意味であるが、長い年月をかけて小石の欠片の隙間を炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化鉄が埋めることによって、1つの大きな岩の塊に変化したものも指す。




3543 東歌,相聞,山梨県,上野原町,恋

[題詞]

武路我夜乃 都留能都追美乃 那利奴賀尓 古呂波伊敝<杼>母 伊末太<年>那久尓

むろがやの 都留の堤の 成りぬがに 子ろは言へども いまだ寝なくに 

[むろがやの] つるのつつみの なりぬがに ころはいへども いまだねなくに
・・・・・・・・・・・
都留の堤はやっと出来そうだ

あの子は出来たと云うけど

共寝もしていないんだから

出来てるはないんじゃないのかい
・・・・・・・・・・・
* がに[接助]《上代語》動詞や完了の助動詞「ぬ」の終止形に付く。
「がに」に上接する動詞の表す意が、今にも実現したり行われたりする状態や程度であることを表す。…しそうに。…するほどに。…するかのように。



3544 東歌,相聞,明日香,奈良,浮気,恋,後悔,恨

[題詞]

阿須可河泊 之多尓其礼留乎 之良受思天 勢奈那登布多理 左宿而久也思母

あすか川 下濁れるを 知らずし 背ななと二人 さ寝て悔しも 

[あすかがは] したにごれるを しらずして せななとふたり さねてくやしも
・・・・・・・・・・・
他に好きな女がいたなんて

下流の水が濁っている川みたい

夫として幾度となく寝たのが悔しいわ

心根が濁っている人だったとは!

これで さよならね
・・・・・・・・・・・



3545 東歌,相聞,明日香,奈良,恋

[題詞]

安須可河泊 世久登之里世波 安麻多欲母 為祢弖己麻思乎 世久得四里世<婆>

あすか川 堰くと知りせば あまた夜も 率寝て来ましを 堰くと知りせば 

[あすかがは] せくとしりせば あまたよも ゐねてこましを せくとしりせば
・・・・・・・・・・・
飛鳥川みたいな二人の仲が

親御さんに堰き止められるとわかっていれば

毎晩でも二人抱き合って過ごしたものを

堰き止められることがわかっていたら
・・・・・・・・・・・



3546 東歌,相聞,女歌,恋

[題詞]

安乎楊木能 波良路可波刀尓 奈乎麻都等 西美度波久末受 多知度奈良須母

青柳の 張らろ川門に 汝を待つと 清水は汲まず 立ち処平すも 

[[あをやぎの] はらろかはとに なをまつと せみどはくまず たちどならすも
・・・・・・・・・・・
柳が芽吹き根を張る川の渡し場が

いつもの秘密の待ちあわせ場所

水汲み場だのに水も汲まずに

足元の地面を踏んでならして待ってる わたし
・・・・・・・・・・・
* 「はらろ」〔連語〕(動詞「はる(張)」に、完了の助動詞「り」の連体形の付いた「張れる」にあたる上代東国方言)ふくらんでいる。芽をふいている。



3547 東歌,相聞,恋,序詞

[題詞]

阿遅乃須牟 須沙能伊利江乃 許母理沼乃 安奈伊伎豆加思 美受比佐尓指天

あぢの棲む 須沙の入江の 隠り沼の あな息づかし 見ず久にして 

[あぢのすむ すさのいりえの こもりぬの] あないきづかし みずひさにして
・・・・・・・・・・・
あぢ鴨の棲む渚沙の入江の澱み沼のように

鬱陶しく息苦しい 

長く会っていないのに嬉しくない
・・・・・・・・・・・



3548 東歌,相聞,うわさ,恋

[題詞]

奈流世<呂>尓 木都能余須奈須 伊等能伎提 可奈思家世呂尓 比等佐敝余須母

鳴る瀬ろに こつの寄すなす いとのきて 愛しけ背ろに 人さへ寄すも 

なるせろに こつのよすなす いとのきて かなしけせろに ひとさへよすも
・・・・・・・・・・・
音をたてる川の瀬には

流れに乗ってきた木屑がたまるけど

ことのほか愛しい夫にまで

人がいろいろ近寄って来るのよ
・・・・・・・・・・・
* 「なるせ‐ろ」〔連語〕(「ろ」は接尾語)音をたてて流れる川の瀬。
* 「こつ」木屑。 流れにたまった木のくず。こつみ。
* 「いと のきて」(「のきて」は動詞「のく(除・退)」の連用形に助詞「て」が付いたもの)通常的、一般的なものから、それだけを、格別な特色があるとして区別し強調する意味で用いる。ことのほか。いやがうえに。普通以上に。



3549 東歌,相聞,福井県,恋,女歌,妻問い

[題詞]

多由比我多 志保弥知和多流 伊豆由可母 加奈之伎世呂我 和賀利可欲波牟

多由比潟 潮満ちわたる いづゆかも 愛しき背ろが 吾がり通はむ 

たゆひがた しほみちわたる いづゆかも かなしきせろが わがりかよはむ
・・・・・・・・・・・
多由比潟に潮は満ちて

どこを通って 

吾が家にくるのかしら

愛しい夫は
・・・・・・・・・・・
* 「せろ」夫ろ/兄ろ 「せこ(夫子)」の上代東国方言。



3550 東歌,相聞,恋,作業歌,歌謡,孤独

[題詞]

於志弖伊奈等 伊祢波都可祢杼 奈美乃保能 伊多夫良思毛与 伎曽比登里宿而

おしていなと 稲は搗かねど 波の穂の いたぶらしもよ 昨夜ひとり寝て 

おしていなと いねはつかねど なみのほの いたぶらしもよ きぞひとりねて
・・・・・・・・・・・
しいていやだと想って稲を搗いていたわけではないのよ

でも 昨夜はひとりで寝ることになってしまったので

今も稲の穂が揺れるように心が揺れて落ち着きません
・・・・・・・・・・・
* 「おして」無理に、しいて。
* 「いたぶらし」は、心が落ち着かない。



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