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3588遣新羅使,天平8年,悲別,出発,恋,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 波呂波呂尓 於<毛>保由流可母 之可礼杼毛 異情乎 安我毛波奈久尓 はろはろに おもほゆるかも しかれども けしきこころを あがもはなくに ・・・・・・・・・・・
* 「はろはろに」(副) はるかに。はるばると。遥か新羅に旅立つことになり 君との別れが辛いと思われることです しかしながら わたしは 貴女だけをいつも 思い続けることに変わりはありません ・・・・・・・・・・・ * 「しかれ‐ども」〔接続〕逆態の確定条件。そうであるが。しかしながら。されども。 * 「異しき心」 あだしごころ。浮気心。 3589遣新羅使,天平8年,作者:秦間満,奈良,難波,大阪,出発,恋 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 由布佐礼婆 比具良之伎奈久 伊故麻山 古延弖曽安我久流 伊毛我目乎保里 ゆふされば ひぐらしきなく いこまやま こえてぞあがくる いもがめをほり ・・・・・・・・・・・
夕暮れになると ひぐらしが来て鳴く生駒山を 私は越えてきた 妻に少しでも早く逢いたくて ・・・・・・・・・・・ 3590遣新羅使,天平8年,奈良,難波,大阪,出発,恋 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 伊毛尓安波受 安良婆須敝奈美 伊波祢布牟 伊故麻乃山乎 故延弖曽安我久流 いもにあはず あらばすべなみ いはねふむ いこまのやまを こえてぞあがくる ・・・・・・・・・・・
出帆前に今一度 君に会わないではいられなくて 険しい生駒の岩根を踏み越えて わたしは戻ってきたんだよ ・・・・・・・・・・・ 3591遣新羅使,天平8年,悲別,恋情,出発,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 妹等安里之 時者安礼杼毛 和可礼弖波 許呂母弖佐牟伎 母能尓曽安里家流 いもとありし ときはあれども わかれては ころもでさむき ものにぞありける ・・・・・・・・・・・
妻と一緒だった時はともかく 別れてからは いつも衣の袖は心寒いものだな ・・・・・・・・・・・ サ3592遣新羅使,天平8年,悲別,出発,難波,大阪,恋 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 海原尓 宇伎祢世武夜者 於伎都風 伊多久奈布吉曽 妹毛安良奈久尓 うなはらに うきねせむよは おきつかぜ いたくなふきそ いももあらなくに ・・・・・・・・・・・
* 「せむ」は、サ行変格動詞「す」の未然形「せ」に、婉曲の助動詞「む」の連体形で、〜するような海原に浮いて寝る夜は 沖の風よそんなに強く吹くな 寒さを忘れさせる 愛しい妻がいないのだから ・・・・・・・・・・・ * 「うき‐ね」1 水鳥が水に浮いたまま寝ること。2 人が船の中で寝ること。3 心が落ち着かないで、安眠できず横になっていること。 3593遣新羅使,天平8年,出発,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 大伴能 美津尓布奈能里 許藝出而者 伊都礼乃思麻尓 伊保里世武和礼 おほともの みつにふなのり こぎでては いづれのしまに いほりせむわれ ・・・・・・・・・・・
* 「せむ」は、サ変動詞「す」の未然形「せ」に、推量の助動詞「む」が付いたもの、と解した。大伴の御津から船に乗り 漕ぎ出して さて 次はどこにの島に停泊しようか われわれは ・・・・・・・・・・・ 3594遣新羅使,天平8年,悲別,恋,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 之保麻都等 安里家流布祢乎 思良受之弖 久夜之久妹乎 和可礼伎尓家利 しほまつと ありけるふねを しらずして くやしくいもを わかれきにけり ・・・・・・・・・・・
船出に良い潮時を待って 停船しているとも知らないで 残念なことに あわただしく 貴女と別れて来てしまった ・・・・・・・・・・・ 3595遣新羅使,天平8年,兵庫県,武庫川,出発,叙景,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 安佐妣良伎 許藝弖天久礼婆 牟故能宇良能 之保非能可多尓 多豆我許恵須毛 あさびらき こぎでてくれば むこのうらの しほひのかたに たづがこゑすも ・・・・・・・・・・・
朝明けで 船を漕ぎ出てくると 武庫の浦の潮の干潟で 妻呼ぶ鶴の声がする ・・・・・・・・・・・ 3596遣新羅使,天平8年,悲別,望郷,加古川,兵庫 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 和伎母故我 可多美尓見牟乎 印南都麻 之良奈美多加弥 与曽尓可母美牟 わぎもこが かたみにみむを いなみつま しらなみたかみ よそにかもみむ ・・・・・・・・・・・
いとしい妻を形見に偲ぼうと 都麻(つま)の名のある 印南都麻を近くから見たかったが 白波が高くて 遠くからしか見られないようだ おぼろげながら 沖合からいつまでも見ていこう ・・・・・・・・・・・ 3597遣新羅使,天平8年,叙景,兵庫 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 和多都美能 於伎津之良奈美 多知久良思 安麻乎等女等母 思麻我久<流>見由 [わたつみの] おきつしらなみ たちくらし あまをとめども しまがくるみゆ ・・・・・・・・・・・
沖から白波が立って来るらしい 海人の娘たちが乗った船も 島影に隠れて行くのが見える ・・・・・・・・・・・ |
・万葉集(〃)
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第十五巻 (遣新羅使歌) 3578遣新羅使,天平8年,兵庫県,武庫川,女歌,悲別,序詞,恋,出発,難波,大阪 [題詞]遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌 武庫能浦乃 伊里江能渚鳥 羽具久毛流 伎美乎波奈礼弖 古非尓之奴倍之 [むこのうらの いりえのすどり] はぐくもる きみをはなれて こひにしぬべし ・・・・・・・・・・・
* 「す‐どり」州鳥/渚鳥。 州(す)にいる鳥。シギ・チドリなど。武庫の浦の入江にいる州鳥が 親鳥の羽に包まれるように 可愛がってくださったあなたと離れ 私は恋い焦がれてきっと死んでしまうでしょう ・・・・・・・・・・・ 3579遣新羅使,天平8年,恋,悲別,出発,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 大船尓 伊母能流母能尓 安良麻勢<婆> 羽具久美母知弖 由可麻之母能乎 おほぶねに いものるものに あらませば はぐくみもちて ゆかましものを ・・・・・・・・・・・
乗る大船に貴女を乗せてよいのなら 雛を羽で包み隠すようにして連れて行くものを ・・・・・・・・・・・ 3580遣新羅使,天平8年,女歌,出発,悲別,恋,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 君之由久 海邊乃夜杼尓 奇里多々婆 安我多知奈氣久 伊伎等之理麻勢 きみがゆく うみへのやどに きりたたば あがたちなげく いきとしりませ ・・・・・・・・・・・
貴方が行く海辺の宿が霧に包まれたならば 私が門に立って嘆くため息だと思って下さい ・・・・・・・・・・・ 3581遣新羅使,天平8年,悲別,出発,慰撫,恋,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 秋佐良婆 安比見牟毛能乎 奈尓之可母 奇里尓多都倍久 奈氣伎之麻佐牟 あきさらば あひみむものを なにしかも きりにたつべく なげきしまさむ ・・・・・・・・・・・
秋になったら会えるものを どうして霧が立ち込めるような 深い嘆きをなさるのですか ・・・・・・・・・・・ 3582遣新羅使,天平8年,女歌,出発,悲別,恋,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 大船乎 安流美尓伊太之 伊麻須君 都追牟許等奈久 波也可敝里麻勢 おほぶねを あるみにいだし いますきみ つつむことなく はやかへりませ ・・・・・・・・・・・
大船を荒海に漕ぎ出されるあなた 無事で早く帰ってきてください ・・・・・・・・・・・ 3583遣新羅使,天平8年,出発,悲別,恋,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 真幸而 伊毛我伊波伴伐 於伎都奈美 知敝尓多都等母 佐波里安良米也母 まさきくて いもがいははば おきつなみ ちへにたつとも さはりあらめやも ・・・・・・・・・・・
平安無事にと 妻が忌み謹んで神に祈るのですから 沖波千重に高くても 私の航海に障害など起こるものですか ・・・・・・・・・・・ 3584遣新羅使,天平8年,女歌,恋,出発,悲別,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 和可礼奈波 宇良我奈之家武 安我許呂母 之多尓乎伎麻勢 多太尓安布麻弖尓 わかれなば うらがなしけむ あがころも したにをきませ ただにあふまでに ・・・・・・・・・・・
別れたら悲しいでしょう 私の衣を下着にしていてください じかに逢うまで ・・・・・・・・・・・ 3585遣新羅使,天平8年,羈旅,恋,出発,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 和伎母故我 之多尓毛伎余等 於久理多流 許呂母能比毛乎 安礼等可米也母 わぎもこが したにもきよと おくりたる ころものひもを あれとかめやも ・・・・・・・・・・・
私の衣を下に着ていてくださいと 妻が贈ってくれた衣の紐を 帰ってじかに会うまで 私が解くことがあろうか ・・・・・・・・・・・ 3586遣新羅使,天平8年,出発,悲別,餞別,恋,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 和我由恵尓 於毛比奈夜勢曽 秋風能 布可武曽能都奇 安波牟母能由恵 わがゆゑに おもひなやせそ あきかぜの ふかむそのつき あはむものゆゑ ・・・・・・・・・・・
* 「な〜そ」禁止。私のことを思い悩んで痩せないでください 秋風の吹くその月には また逢えるのですから ・・・・・・・・・・・ * 「ものゆゑ」は、活用語の連体形に付ける、順接・逆接・理由の接続助詞。理由・原因の順接で、「〜ので」「〜のだから」。「ものゆゑに」ともつかう。 3587遣新羅使,天平8年,韓国,枕詞,悲別,餞別,女歌,難波,大阪 [題詞](遣新羅使人等悲別贈答及海路慟情陳思并當所誦之古歌) 多久夫須麻 新羅邊伊麻須 伎美我目乎 家布可安須可登 伊波比弖麻多牟 [たくぶすま] しらきへいます きみがめを けふかあすかと いはひてまたむ ・・・・・・・・・・・
栲衾の新羅へ行かれる貴方に 私を直接に見ていただけるのを 今日か明日かと祈り 潔斎しながら待っています ・・・・・・・・・・・ |
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3551東歌,相聞,恋,女歌,序詞,浮気 [題詞] 阿遅可麻能 可多尓左久奈美 比良湍尓母 比毛登久毛能可 加奈思家乎於吉弖 [あぢかまの かたにさくなみ ひらせにも] ひもとくものか かなしけをおきて 川の流れがゆるやかで
* 「かなしけ」愛。〔形〕「かなし」の連体形「かなしき」の上代東国方言。いとしい(こと・もの)。波がたたない水面の平らな瀬でも 愛しい者を家に置いているのに 紐を解くことがあろうか いや 絶対に解かないぞ サ3552東歌,相聞,宮城県,福島県,うわさ,恋,女歌 [題詞] 麻都我宇良尓 佐和恵宇良太知 麻比<登>其等 於毛抱須奈母呂 和賀母抱乃須 [まつがうらに さわゑうらだち] まひとごと おもほすなもろ わがもほのすも ・・・・・・
* 「さわ・は」低地の沢・渓谷・谷川。松が浦に潮騒が群がり騒ぐように 人の噂はうるさいけれど きっとあの方は私のことを かわらずお思いになってくださっている 私があなたを愛しく思うように ・・・・・・ * 「ゑ」(間助)上代語。嘆息を表す。・・よ。 * 「さわゑ」騒いで。 * 「うらだち」群がり立って。 * 「うら」には、「群」・「末」・「浦」・「占」などの意がある。 * 「ま」接頭語。 * 「人言」は、人の言う言葉・うわさ・世間の評判など。 * 「おもほす」他サ四「思ふ」の未然形に上代の尊敬の助動詞「す」の付いた「おもはす」の転。「思う」の尊敬語。お思いになる。 * 「なも」推量の助動詞。(係助)上代語。強く指示する意を表す。他に対してのあつらえの意を表す・・して欲しい。 * 「ろ」上代間助として感動を表す。・・よ。 * 「なも‐ろ」 [連語]推量の助動詞「なも」+間投助詞「ろ」。上代東国方言》…ているだろうよ。 * 「吾が思ほのすも」 * 「のす」(接尾)上代東国方言。「似る」と同源。・・のように。 * 「も」詠嘆。 3553東歌,相聞,愛知県,序詞,うわさ,恋 [題詞] 安治可麻能 可家能水奈刀尓 伊流思保乃 許弖多受久毛可 伊里弖祢麻久母 [あぢかまの かけのみなとに いるしほの] こてたずくもが いりてねまくも あぢ鴨の棲む可家川の
http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/29762332.html入江に入る潮が緩やかなように ひとの噂がおさまったら あの子の寝床を訪れてかき抱こうものを 3554東歌,相聞,恋 [題詞] 伊毛我奴流 等許<能>安多理尓 伊波具久留 水都尓母我毛与 伊里弖祢末久母 いもがぬる とこのあたりに [いはぐくる] みづにもがもよ いりてねまくも あの娘が寝る床の周りは堅城鉄壁だが
岩をくぐる水になれれば部屋に潜り込めるだろう さっそく布団の中に入って大願成就なりさ みづにもがもよ みづにもがもよ 3555東歌,相聞,茨城県,古河,序詞,うわさ,恋 [題詞] 麻久良我乃 許我能和多利乃 可良加治乃 於<登>太可思母奈 宿莫敝兒由恵尓 [まくらがの] こがのわたりの からかぢの] おとだかしもな ねなへこゆゑに 麻久良我の許我の渡し場に響き渡る
韓楫の音の高さよ そのように噂が高い訳がわからない だってそうだろ 相手の女性とは なんの関わりもないのだから 3556東歌,相聞,枕詞,恋,うわさ [題詞] 思保夫祢能 於可礼婆可奈之 左宿都礼婆 比登其等思氣志 那乎杼可母思武 [しほぶねの] おかればかなし さねつれば ひとごとしげし なをどかもしむ 潮船に乗らねばわが恥 きみは悲しむ
潮船に乗られねば君の恥 わが苦しみ 潮船に二人で乗れば二人の恥 世間の餌食 君をなんとしよう 3557東歌,相聞,序詞,恋 [題詞] 奈夜麻思家 比登都麻可母与 許具布祢能 和須礼波勢奈那 伊夜母比麻須尓 [なやましけ ひとづまかもよ こぐふねの] わすれはせなな いやもひますに 悩ましげにするあの娘は人妻
* 「悩ましけ」は「悩ましき」の東国訛り。人妻との恋は禁忌なんだ いけないんだよ 漕ぐ舟が去るように消えてくれ 思いをつのらせる困った女よ * 「かもよ」は、助詞「かも」・「よ」が結び付き、詠嘆の意をあらわす。 * 「よ」は強調の終助詞 「や」と同じく元来は掛け声に由来する語であろうか。のち間投助詞としてはたらくようになり、文末にも用いられるようになった。意を強めるはたらきをする。 聞き手に対し、同意を求めたり念を押したりする気持をあらわす。のち、詠嘆的な用法にも使われる。現代口語で「〜だよ」などと言う時の「よ」、女言葉の「〜よ」に繋がっている。 * 「よ」は、格助詞、上代語。動作・作用の時間的・空間的な起点を表す。・・から。 経過する場所を示して、・・を通って。 比較の基準、・・より。 手段・方法、・・で。 体言・活用語の連体形につく。 1.詠嘆・感動。 2.呼びかけ。 3.命令の意志を確かめる。 4.強く指示する。 5.告示の気持ちを表す。 3558東歌,相聞,茨城県,古河,遊行女婦,女歌 [題詞] 安波受之弖 由加婆乎思家牟 麻久良我能 許賀己具布祢尓 伎美毛安波奴可毛 あはずして ゆかばをしけむ [まくらがの] こがこぐふねに きみもあはぬかも 会わないまま都に行かせるのは惜しい
古河を漕ぐ船の中ででも会えないものか 3559東歌,相聞,序詞,うわさ,恋 [題詞] 於保夫祢乎 倍由毛登母由毛 可多米提之 許曽能左刀妣等 阿良波左米可母 [おほぶねを へゆもともゆも かためてし] こそのさとびと あらはさめかも 大船を舳先も艫も綱で固く結んだように
固く契った二人のことは 許曽の里人も顕にすることはないでしょう 3560東歌,相聞,奈良,吉野,岐阜,序詞,うわさ,恋 [題詞] 麻可祢布久 尓布能麻曽保乃 伊呂尓R<弖> 伊波奈久能未曽 安我古布良久波 まかねふく にふのまそほの いろにでて いはなくのみぞ あがこふらくは 鉄を精錬する炎のように
水銀の湧く赤土のように 顔色に出して言わないだけだ 私の恋する思いは 3561東歌,相聞,序詞,恋,女歌 [題詞] 可奈刀田乎 安良我伎麻由美 比賀刀礼婆 阿米乎万刀能須 伎美乎等麻刀母 [かなとだを あらがきまゆみ] ひがとれば あめをまとのす きみをとまとも 門のそばの田の荒垣を慎み清めて
* 「かなと‐だ」金門田〔名〕金門(かなと)の近くにある田。門のそばの田。門田(かどた)。日が照れば雨を待つように 貴方をお待ちしていますとも * 「のす」(接尾) 上代東国方言。・・のように。 3562東歌,相聞,序詞,恋,孤独 [題詞] 安里蘇夜尓 於布流多麻母乃 宇知奈婢伎 比登里夜宿良牟 安乎麻知可祢弖 [ありそやに おふるたまもの うちなびき] ひとりやぬらむ あをまちかねて 荒礒に生える藻が波に靡くように
黒髪を床に靡かせて独り寝しているだろうなあ 私を待ちかねながら 3563東歌,相聞,茨城県,序詞,恋 [題詞] 比多我多能 伊蘇乃和可米乃 多知美太要 和乎可麻都那毛 伎曽毛己余必母 [ひたがたの いそのわかめの たちみだえ] わをかまつなも きぞもこよひも 比多潟の磯のわかめが立ち揺らぐように
思い乱れて私を待っているだろうか ゆうべも今夜も 3564東歌,相聞,東京都,小菅町,恋 [題詞] 古須氣呂乃 宇良布久可是能 安騰須酒香 可奈之家兒呂乎 於毛比須吾左牟 こすげろの うらふくかぜの あどすすか かなしけころを おもひすごさむ 古須気の
* 「あど」上代東国方言。なんと・如何に。浦吹く風でも なんとしても わが愛しい娘への思いを 吹き流せはしない * 「すす」上代東国方言。しつつ、しながら。(サ変「す」の終止形を重ねたもの。) * 「こ‐ろ」子等。 「ろ」は接尾語。上代東国方言。「こら(子等)」に同じ。 3565東歌,相聞,長野県,恋 [題詞] 可能古呂等 宿受夜奈里奈牟 波太須酒伎 宇良野乃夜麻尓 都久可多与留母 かのころと ねずやなりなむ はだすすき うらののやまに つくかたよるも あの娘と今夜は寝られないかも
はだ薄の揺れている宇良野の山に もう月が傾いてしまった 3566東歌,相聞,恋 [題詞] 和伎毛古尓 安我古非思奈婆 曽和敝可毛 加未尓於保世牟 己許呂思良受弖 わぎもこに あがこひしなば そわへかも かみにおほせむ こころしらずて 妻に恋い焦がれておれが死んだら
死神は運命だと言うだろう そのむくいを心なしな 神様におわそう だれもおれの心は知らない |
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3541 東歌,相聞,序詞,恋 [題詞] 安受倍可良 古麻<能>由胡能須 安也波刀文 比<登>豆麻古呂乎 麻由可西良布母 あずへから こまのゆごのす あやはとも ひとづまころを まゆかせらふも ・・・・・・・・・・・
* 「目(ま)ゆかせらふも」ただみていられようか。断崖の上を駒が行く時は危ういが そんな気持ちにさせる 人妻のあの女を ただ見ているだけでいられようか ・・・・・ 崩岸(あず)のあたりを 駒で行くようにあやういが こっそり逢ってみよう ・・・・・・・・・・・ 3542 東歌,相聞,恋,妻問い [題詞] <佐>射礼伊思尓 古馬乎波佐世弖 己許呂伊多美 安我毛布伊毛我 伊敝<能>安多里可聞 [さざれいしに こまをはさせて こころいたみ] あがもふいもが いへのあたりかも ・・・・・・・・・・・
* 「さざれ石」(細石、さざれいし)は、もともと小さな石の意味であるが、長い年月をかけて小石の欠片の隙間を炭酸カルシウム(CaCO3)や水酸化鉄が埋めることによって、1つの大きな岩の塊に変化したものも指す。小石の原に駒を走らせて心が痛むが 思うあの女の家があるからか つい来てしまうこのあたりよ ・・・・・・・・・・・ 3543 東歌,相聞,山梨県,上野原町,恋 [題詞] 武路我夜乃 都留能都追美乃 那利奴賀尓 古呂波伊敝<杼>母 伊末太<年>那久尓 [むろがやの] つるのつつみの なりぬがに ころはいへども いまだねなくに ・・・・・・・・・・・
* がに[接助]《上代語》動詞や完了の助動詞「ぬ」の終止形に付く。都留の堤はやっと出来そうだ あの子は出来たと云うけど 共寝もしていないんだから 出来てるはないんじゃないのかい ・・・・・・・・・・・ 「がに」に上接する動詞の表す意が、今にも実現したり行われたりする状態や程度であることを表す。…しそうに。…するほどに。…するかのように。 3544 東歌,相聞,明日香,奈良,浮気,恋,後悔,恨 [題詞] 阿須可河泊 之多尓其礼留乎 之良受思天 勢奈那登布多理 左宿而久也思母 [あすかがは] したにごれるを しらずして せななとふたり さねてくやしも ・・・・・・・・・・・
他に好きな女がいたなんて 下流の水が濁っている川みたい 夫として幾度となく寝たのが悔しいわ 心根が濁っている人だったとは! これで さよならね ・・・・・・・・・・・ 3545 東歌,相聞,明日香,奈良,恋 [題詞] 安須可河泊 世久登之里世波 安麻多欲母 為祢弖己麻思乎 世久得四里世<婆> [あすかがは] せくとしりせば あまたよも ゐねてこましを せくとしりせば ・・・・・・・・・・・
飛鳥川みたいな二人の仲が 親御さんに堰き止められるとわかっていれば 毎晩でも二人抱き合って過ごしたものを 堰き止められることがわかっていたら ・・・・・・・・・・・ 3546 東歌,相聞,女歌,恋 [題詞] 安乎楊木能 波良路可波刀尓 奈乎麻都等 西美度波久末受 多知度奈良須母 [[あをやぎの] はらろかはとに なをまつと せみどはくまず たちどならすも ・・・・・・・・・・・
* 「はらろ」〔連語〕(動詞「はる(張)」に、完了の助動詞「り」の連体形の付いた「張れる」にあたる上代東国方言)ふくらんでいる。芽をふいている。柳が芽吹き根を張る川の渡し場が いつもの秘密の待ちあわせ場所 水汲み場だのに水も汲まずに 足元の地面を踏んでならして待ってる わたし ・・・・・・・・・・・ 3547 東歌,相聞,恋,序詞 [題詞] 阿遅乃須牟 須沙能伊利江乃 許母理沼乃 安奈伊伎豆加思 美受比佐尓指天 [あぢのすむ すさのいりえの こもりぬの] あないきづかし みずひさにして ・・・・・・・・・・・
あぢ鴨の棲む渚沙の入江の澱み沼のように 鬱陶しく息苦しい 長く会っていないのに嬉しくない ・・・・・・・・・・・ 3548 東歌,相聞,うわさ,恋 [題詞] 奈流世<呂>尓 木都能余須奈須 伊等能伎提 可奈思家世呂尓 比等佐敝余須母 なるせろに こつのよすなす いとのきて かなしけせろに ひとさへよすも ・・・・・・・・・・・
* 「なるせ‐ろ」〔連語〕(「ろ」は接尾語)音をたてて流れる川の瀬。音をたてる川の瀬には 流れに乗ってきた木屑がたまるけど ことのほか愛しい夫にまで 人がいろいろ近寄って来るのよ ・・・・・・・・・・・ * 「こつ」木屑。 流れにたまった木のくず。こつみ。 * 「いと のきて」(「のきて」は動詞「のく(除・退)」の連用形に助詞「て」が付いたもの)通常的、一般的なものから、それだけを、格別な特色があるとして区別し強調する意味で用いる。ことのほか。いやがうえに。普通以上に。 3549 東歌,相聞,福井県,恋,女歌,妻問い [題詞] 多由比我多 志保弥知和多流 伊豆由可母 加奈之伎世呂我 和賀利可欲波牟 たゆひがた しほみちわたる いづゆかも かなしきせろが わがりかよはむ ・・・・・・・・・・・
* 「せろ」夫ろ/兄ろ 「せこ(夫子)」の上代東国方言。多由比潟に潮は満ちて どこを通って 吾が家にくるのかしら 愛しい夫は ・・・・・・・・・・・ 3550 東歌,相聞,恋,作業歌,歌謡,孤独 [題詞] 於志弖伊奈等 伊祢波都可祢杼 奈美乃保能 伊多夫良思毛与 伎曽比登里宿而 おしていなと いねはつかねど なみのほの いたぶらしもよ きぞひとりねて ・・・・・・・・・・・
* 「おして」無理に、しいて。しいていやだと想って稲を搗いていたわけではないのよ でも 昨夜はひとりで寝ることになってしまったので 今も稲の穂が揺れるように心が揺れて落ち着きません ・・・・・・・・・・・ * 「いたぶらし」は、心が落ち着かない。 |


