ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集(下書き)

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サ19 4197;作者:大伴家持,植物,留女女郎,家持妹,坂上大嬢,代作、天平勝宝2年4月,高岡

[題詞]贈京人歌二首


妹尓似  草等見之欲里  吾標之  野邊之山吹  誰可手乎里之

妹に似る 草と見しより 吾が標し 野辺の山吹 誰れか手折りし 
いもににる くさとみしより わがしめし のへのやまぶき たれかたをりし

[左注](右為贈留女之女郎所誂家婦作也 [女郎者即大伴家持之妹])

きっと想い出させてくれる花だと

そう思って私が標しをつけておいたのです

それを手折って

私を思い出して下さるなら幸せです

形見に残した山吹だもの




サ19 4198;作者:大伴家持,留女女郎,家持妹,坂上大嬢,代作、天平勝宝2年4月,恋情,悲別,高岡

[題詞](贈京人歌二首)

都礼母奈久  可礼尓之毛能登  人者雖云  不相日麻祢美  念曽吾為流

つれもなく 離れにしものと 人は言へど 逢はぬ日まねみ 思ひぞ吾がする 
つれもなく かれにしものと ひとはいへど あはぬひまねみ おもひぞわがする

無情に離れて行かれてと

あなたは人に可哀想だと言われるけれど

逢えない日があまりに長くて

私の方だって辛い思いでいますよ
* 「まね‐み」多─(形容詞「まねし」の語幹に「み」の付いたもの。度数が多いので。たびたびあるので。あまりに多いので。
大伴家持の妹の留女女郎(りうじょのいらつめ)に贈るために、大伴家持の妻、坂上大嬢(さかのうえのだいじょう)に頼まれて詠んだ歌。
大嬢が夫のもとへと、大伴家持の妹の留女女郎と別れて来ている。



サ4199;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月12日,遊覧,氷見,土地讃美

[題詞]十二日遊覧布勢水海船泊於多<I>灣望<見>藤花各述懐作歌四首

藤奈美<乃>  影成海之  底清美  之都久石乎毛  珠等曽吾見流

藤波の 影なす海の 底清み 沈く石をも 玉とぞ吾が見る 

ふぢなみの かげなすうみの そこきよみ しづくいしをも たまとぞわがみる

藤波が影を映す湖水は

底まで澄んで清らかだから

沈んだ小石までも

美しい藤色の珠のように

私には見えるよ


サ19 4200;作者:内蔵縄麻呂天平勝宝2年4月12日,遊覧,氷見、

[題詞](十二日遊覧布勢水海船泊於多<I>灣望<見>藤花各述懐作歌四首)

多○乃浦能  底左倍尓保布  藤奈美乎  加射之*将去  不見人之為

多胡の 浦のさへにほふ 藤波を かざして行かむ 見ぬ人のため 

たこのうらの そこさへにほふ ふぢなみを かざしてゆかむ みぬひとのため

多胡の浦の水底にまでも

美しく映えている藤の花房を

髪に挿して行きましょう

見に来られなかった人たちに
* 「匂ふ」は、美しい色に染まる。あざやかに色づく
* 「藤波」は、藤の花房が風に波打ちなびくさま 
* 「挿頭す」は、草木の花や枝、造花などを髪や冠に飾ること
* 「む」は、意志の助動詞
* 「見」は、マ行上一段活用動詞「見る」の未然形。
* 「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。 見てない人





サ19 4201;作者:久米広縄、天平勝宝2年4月12日,氷見,遊覧,土地讃美

[題詞](十二日遊覧布勢水海船泊於多<I>灣望<見>藤花各述懐作歌四首)

伊佐左可尓 念而来之乎 多I乃浦尓 開流藤見而 一夜可經

いささかに 思ひて来しを 多胡の浦に 咲ける藤見て 一夜経ぬべし 

いささかに おもひてこしを たこのうらに さけるふぢみて ひとよへぬべし

それほどでもないだろうとやって来たが

多胡の浦を巡りみ崎に咲く藤を見ては

心魅せられる美しさに

一夜を明かさず日帰りはできませんね




サ19 4202;作者:久米継麻呂、天平勝宝2年4月12日,遊覧,氷見

[題詞](十二日遊覧布勢水海船泊於多<I>灣望<見>藤花各述懐作歌四首)

藤奈美乎  借廬尓造  灣廻為流  人等波不知尓  海部等可見良牟

藤波を 仮廬に作り 浦廻する 人とは知らに 海人とか見らむ 

ふぢなみを かりいほにつくり うらみする ひととはしらに あまとかみらむ

藤の花房を舟いっぱいにかざして

仮廬に仕立てるような私たちを見て

入江を遊覧する人々とは知らずに

釣りの漁師かと思うことでしょう
* 「借廬」は、当座の宿り。実際に藤蔓で廬を編んだわけでなく、藤の花の下で休んだことを比喩的に言っている。




サ19 4203;作者:久米広縄、天平勝宝2年4月12日,枕詞,氷見,みやげ,遊覧

[題詞]恨霍公鳥不喧歌一首

家尓去而 奈尓乎将語 安之比奇能 山霍公鳥 一音毛奈家

家に行きて 何を語らむ あしひきの 山霍公鳥 一声も鳴け 

いへにゆきて なにをかたらむ [あしひきの] やまほととぎす ひとこゑもなけ

家へ帰ったとき家人に何と語ろう

山ほととぎすよ一声でも鳴いてくれ


サ19 4204;作者:恵行、天平勝宝2年4月12日,氷見,遊覧

[題詞]見攀折保寶葉歌二首

吾勢故我  捧而持流  保寶我之婆  安多可毛似加  青盖

吾が背子が 捧げて持てる ほほがしは あたかも似るか 青き蓋 

わがせこが ささげてもてる ほほがしは あたかもにるか あをききぬがさ

[左注]講師僧恵行■「国師・講師」は、東大寺派の僧侶で、華厳経などの普及のため、任命された地方僧官。
親愛なる貴方が捧げ持つほほがしわの葉は

まことに青いきぬがさのようですよ
* 厚朴(ほほがしわ) 朴の木。モクレン科の落葉高木。山地に自生する。葉は枝先に集まり、長楕円形で長さ20〜30センチ、やや肉厚で裏面は白い。食物を盛り付けたり、包んだり、盃にしたりし、また祭具にも用いられた。初夏、芳香を発する大形の白い花をつける。



サ19 4205;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月12日,遊覧,氷見

[題詞](見攀折保寶葉歌二首)

皇神祖之  遠御代三世波  射布折  酒飲等伊布曽  此保寶我之波

皇祖の 遠御代御代は い重き折り 酒飲みきといふぞ このほほがしは 

すめろきの とほみよみよは いしきをり きのみきといふぞ このほほがしは

遠い天皇の御代御代には

葉を広げて折り

盃の代わりにして

神酒を飲んだという

このほほがしわで


サ19 4206;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月12日,氷見,道行き,遊覧

[題詞]還時濱上仰見月光歌一首

之夫多尓乎  指而吾行  此濱尓  月夜安伎*牟  馬之末時停息

渋谿を さして吾が行く この浜に 月夜飽きてむ 馬しまし止め 

しぶたにを さしてわがゆく このはまに つくよあきてむ うましましとめ

渋谿の崎をめざして行くこの浜で

月夜のすばらしい景色を心ゆくまで味わおう

さあ皆さん 馬をしばらく停めたまえ


<再掲載>


サ19 4189;作者:大伴家持,大伴池主、天平勝宝2年4月9日,年紀,贈答,恋情,高岡,武生

[題詞]贈水烏越前判官大伴宿祢池主歌一首[并短歌]


天離ー天離るー[あまざかる]ー都から遠く離れた
夷等之在者ー鄙としあればーひなとしあればー鄙の地にあるのだから
彼所此間毛ーそこここもーあなたの居る越前も わたしの居る越中も
同許己呂曽ー同じ心ぞーおなじこころぞー心中は同じでしょう
離家ー家離りーいへざかりー都の家族を離れ
等之乃經去者ー年の経ゆけばーとしのへゆけばー年月が経てばたつほど
宇都勢美波ーうつせみはー現世の身は
物念之氣思ー物思ひ繁しーものもひしげしーもの思いが激しくなり
曽許由恵尓ーそこゆゑにーそれだから
情奈具左尓ー心なぐさにーこころなぐさにー気休めにと
霍公鳥ーほととぎすーほととぎすの
喧始音乎ー鳴く初声をーなくはつこゑをー初声を
橘ー橘のーたちばなのー橘の花と
珠尓安倍貫ー玉にあへ貫きーたまにあへぬきー薬玉に交えてぬき
可頭良伎○ーかづらきてー縵にして
遊波之母ー遊ばむはしもーあそばむはしもー遊ぶ境地に
麻須良乎々ー大夫をーますらををー官人たちを 
等毛奈倍立而ー伴なへ立ててーともなへたててー伴なって
叔羅河ー叔羅川ーしくらがはー(今の日野川)あなたの越前の叔羅川を
奈頭左比泝ーなづさひ上りーなづさひのぼりー流れに逆らって上り
平瀬尓波ー平瀬にはーひらせにはー流れ緩やかな浅瀬では
左泥刺渡ー小網さし渡しーさでさしわたしー小網を張り渡し
早湍尓ー早き瀬にーはやきせにー急流の瀬には
水烏乎潜都追ー鵜を潜けつつーうをかづけつつー鵜を潜らせて
月尓日尓ー月に日にーつきにひにー毎月毎日
之可志安蘇婆祢ーしかし遊ばねーしかしあそばねーそうして遊びなさい
波之伎和我勢故ー愛しき我が背子ーはしきわがせこー親愛なる我が友よ

[左注](右九日附使贈之)




サ19 4190;作者:大伴家持,大伴池主、天平勝宝2年4月9日,贈答,武生,高岡

[題詞](贈水烏越前判官大伴宿祢池主歌一首[并短歌])

叔羅河  湍乎尋都追  和我勢故波  宇可波多々佐祢  情奈具左尓

叔羅川 瀬を尋ねつつ 吾が背子は 鵜川立たさね 心なぐさに 

しくらがは せをたづねつつ わがせこは うかはたたさね こころなぐさに

[左注](右九日附使贈之)


叔羅川に浅瀬を求めながら

親愛なる友よ

贈るこの鵜で鵜飼をなさい

心を慰められるよう




サ19 4191;作者:大伴家持,大伴池主、天平勝宝2年4月9日,贈答,戯笑,高岡

[題詞](贈水烏越前判官大伴宿祢池主歌一首[并短歌])

鵜河立  取左牟安由能  之我波多波  吾等尓可伎<无>氣  念之念婆

鵜川立ち 取らさむ鮎の しがはたは 吾れにかき向け 思ひし思はば 
うかはたち とらさむあゆの しがはたは われにかきむけ おもひしおもはば

[左注]右九日附使贈之(右、九日に使に附けて贈る)


鵜飼で鮎を獲ったならば

万歳幡に画かれた鮎と酒瓶ではないが

共に君が画いた幡のもとで

酒を酌み交わそうではないか
* 「しがはたは」;天皇の即位式や朝賀の祝賀式には、五匹の鮎と一個の酒瓶を画いた「万歳幡・バンザイバン」という幡(ハタ)を立てる習慣があり、鮎のことを「くにすうを・国栖魚」と呼ぶようになった歴史的な逸話がある。万歳幡に画かれた鮎と酒瓶ではないが、良い事が起きるようにと、願いを込めて鵜飼の鵜をあなたに送ってあげた私の心配りを思ったならば、獲れたその鮎と共に万歳幡を「画き上げ」私のところへ「画き向け=持ってきて」共に幡のもとで酒を酌み交わそうではないか。(神武天皇の大和平定の時、夢占いの神話、鮎の文字「魚+占」の成立故事。戦わずに勝利したという縁起。)
* 「思いし思はば」は、「私が鵜を何故贈ったかを思うならば、獲れた鮎を持って御礼に来るのは当然のことだよ」と言う意味。


サ19 4192;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月9日,高岡

[題詞]詠霍公鳥并藤花一首[并短歌]
(霍公鳥と藤の花とを詠む一首 并せて短歌)
          
桃花ー桃の花ーもものはなー桃の花の  
紅色尓ー紅色にーくれなゐいろにーそのくれない色に  
々保比多流ーにほひたるー照り映え色づいた  
面輪<乃>宇知尓ー面輪のうちにーおもわのうちにー顔の輝きに際だつ  
青柳乃ー青柳のー[あをやぎの]ー青柳の葉のような  
細眉根乎ー細き眉根をーほそきまよねをー細い眉を  
咲麻我理ー笑み曲がりーゑみまがりー微笑み曲げて  
朝影見都追ー朝影見つつーあさかげみつつー朝の顔を映し見ながら  
*嬬良我ー娘子らがーをとめらがー乙女らが  
手尓取持有ー手に取り持てるーてにとりもてるー手に持つ
真澄鏡ーまそ鏡ー[まそかがみ]ー真澄鏡のような          
二上山ー二上山にーふたがみやまにー二上山で
許能久礼乃ー木の暗のーこのくれのー森の木暮でほととぎすは  
繁谿邊乎ー茂き谷辺をーしげきたにへをー繁る谷を  
呼等<余米>ー呼び響めーよびとよめー鳴き声を響かせて 
旦飛渡ー朝飛び渡りーあさとびわたりー朝早く飛び渡る  
暮月夜ー夕月夜ーゆふづくよー夕月が  
可蘇氣伎野邊ーかそけき野辺にーかそけきのへにーかすかに照らす野辺に  
遥々尓ーはろはろにー遥かに遠く 
喧霍公鳥ー鳴く霍公鳥ーなくほととぎすー鳴く霍公鳥  
立久久等ー立ち潜くとーたちくくとー繁みの間を潜って  
羽觸尓知良須ー羽触れに散らすーはぶれにちらすー羽が触れて散らせる  
藤浪乃ー藤波のーふぢなみのー藤の花の  
花奈都可之美ー花なつかしみーはななつかしみーそんな花がいとおしくて  
引攀而ー引き攀ぢてーひきよぢてー寄せ集めて  
袖尓古伎礼都ー袖に扱入れつーそでにこきれつー袖におし入れた  
染婆染等母ー染まば染むともーしまばしむともー花の色が染みつこうとかまわずに 
* 冒頭から「真澄鏡」までは、「二上山」にかかる序詞。
 
 

サ19 4193;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月9日,高岡,推敲

[題詞](詠霍公鳥并藤花一首[并短歌])

霍公鳥  鳴羽觸尓毛  落尓家利  盛過良志  藤奈美能花
[一云  落奴倍美  袖尓古伎納都  藤浪乃花也]

霍公鳥 鳴く羽触れにも 散りにけり 盛り過ぐらし 藤波の花 
[一云  散りぬべみ 袖に扱入れつ 藤波の花]

ほととぎす なくはぶれにも ちりにけり さかりすぐらし ふぢなみのはな
[ちりぬべみ そでにこきれつ ふぢなみのはな]

鳴きながら飛ぶ霍公鳥の

羽に触れても散ってしまう

もう盛りも過ぎたたらしい藤波の花よ



サ19 4194;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月,恋情,怨恨,高岡

[題詞]更怨霍公鳥哢晩歌三首

霍公鳥  喧渡奴等  告礼騰毛  吾聞都我受  花波須疑都追

霍公鳥 鳴き渡りぬと 告ぐれども 吾れ聞き継がず 花は過ぎつつ 
ほととぎす なきわたりぬと つぐれども われききつがず はなはすぎつつ

ほととぎすが鳴きながら渡って行ったと

人は教えてくれたが

私はその声を聞くことがない

藤の花はもう散り過ぎてゆくというのに




サ19 4195;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月,怨恨,高岡

[題詞](更怨霍公鳥哢晩歌三首)

吾幾許 斯<努>波久不知尓 霍公鳥 伊頭敝能山乎 鳴可将超

吾がここだ 偲はく知らに 霍公鳥 いづへの山を 鳴きか越ゆらむ 
わがここだ しのはくしらに ほととぎす いづへのやまを なきかこゆらむ

私がこれほど深く慕っているのも知らずに

ほととぎすよ

何処の山を鳴いて越えているのだろう




19 4196;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月,怨恨,高岡

[題詞](更怨霍公鳥哢晩歌三首)

月立之  日欲里乎伎都追  敲自努比  麻泥騰伎奈可奴  霍公鳥可母

月立ちし 日より招きつつ うち偲ひ 待てど来鳴かぬ 霍公鳥かも 
つきたちし ひよりをきつつ うちしのひ まてどきなかぬ ほととぎすかも

月が改まった日から

しきりに招き寄せては

慕い待っているというのに

鳴きに来てくれぬほととぎすであるよ


サ19 4180;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月三日と〜日,虚構,懐旧,恋情,高岡

[題詞]不飽感霍公鳥之情述懐作歌一首[并短歌]
(霍公鳥を思いながら作る歌)

・・・・・・・・・
春過而ー春過ぎてーはるすぎてー春が過ぎ  
夏来向者ー夏来向へばーなつきむかへばー夏が近づいて来ると 
足桧木乃ー[あしひきの]ー  
山呼等余米ー山呼び響めーやまよびとよめー山を響かせて  
左夜中尓ーさ夜中にーさよなかにー真夜中に  
鳴霍公鳥ー鳴く霍公鳥ーなくほととぎすーほととぎすが鳴いた  
始音乎ー初声をーはつこゑをーその初音を  
聞婆奈都可之ー聞けばなつかしーきけばなつかしー聞くと心はやすらぐ  
菖蒲ーあやめぐさー菖蒲や  
花橘乎ー花橘をーはなたちばなをー橘の花を  
貫交ー貫き交へーぬきまじへー紐に通して  
可頭良久麻<泥>尓ーかづらくまでにー縵にする日まで  
里響ー里響めーさととよめー里中を響かせて  
喧渡礼騰母ー鳴き渡れどもーなきわたれどもー鳴いて渡たる光景は  
尚之努波由ーなほし偲はゆーなほししのはゆーいつまでも聞き足りずなお慕われる
・・・・・・・・・




サ19 4181;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月三日〜五日,虚構,懐旧,恋情,高岡

[題詞](不飽感霍公鳥之情述懐作歌一首[并短歌])反歌三首

左夜深而  暁月尓  影所見而  鳴霍公鳥  聞者夏借

さ夜更けて 暁月に 影見えて 鳴く霍公鳥 聞けばなつかし 

さよふけて あかときつきに かげみえて なくほととぎす きけばなつかし

夜明け前の月に

姿を見せた鳴くほととぎす

その声は心を和ませてくれたことだ
* 「暁月」 陰暦十七、八日以後にのみ見られる月。




サ19 4182;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月三日〜五日,虚構,高岡

[題詞]((不飽感霍公鳥之情述懐作歌一首[并短歌])反歌三首)

霍公鳥  雖聞不足  網取尓  獲而奈都氣奈  可礼受鳴金

霍公鳥 聞けども飽かず 網捕りに 捕りてなつけな 離れず鳴くがね 
ほととぎす きけどもあかず あみとりに とりてなつけな かれずなくがね

ほととぎすの声はいくら聞いても聞き飽きない

網を張って捕えなつけよう

いつもそばで鳴いてくれるように




サ19 4183;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月三日〜五日,虚構,高岡

[題詞]((不飽感霍公鳥之情述懐作歌一首[并短歌])反歌三首)


霍公鳥  飼通良婆  今年經而  来向夏<波>  麻豆将喧乎

霍公鳥 飼ひ通せらば 今年経て 来向ふ夏は まづ鳴きなむを 

ほととぎす かひとほせらば ことしへて きむかふなつは まづなきなむを

ほととぎすを飼い通したら

今年を過ぎても来年の夏になれば

真っ先に鳴いてくれるはずだよ



サ19 4184;作者:留女女郎,家持妹,大伴家持,坂上大嬢、天平勝宝2年4月5日,贈答,恋情,高岡

[題詞]従京師贈来歌一首


山吹乃 花執持而 都礼毛奈久 可礼尓之妹乎 之努比都流可毛

山吹の 花取り持ちて つれもなく 離れにし妹を 偲ひつるかも 
やまぶきの はなとりもちて つれもなく かれにしいもを しのひつるかも

[左注]右四月五日従留女之女郎所送也
(右、四月五日に留女之女郎(るめのいらつめ)より送らる)

あなたがが好んでいた

山吹の花を手に持って

つれなく去っていった貴女を

偲んだことですよ



サ19 4185;作者:大伴家持,天平勝宝2年4月5日,恋情,高岡

[題詞]詠山振花歌一首[并短歌]

うつせみは  恋を繁みと  春まけて  思ひ繁けば  引き攀ぢて  折りも折らずも  見るごとに  心なぎむと  茂山の  谷辺に生ふる  山吹を  宿に引き植ゑて  朝露に  にほへる花を  見るごとに  思ひはやまず  恋し繁しも 

宇都世美波ーうつせみはーこの世は  
戀乎繁美登ー恋を繁みとーこひをしげみとー恋い焦がれることが多く  
春麻氣*ー春まけてーはるまけてー春になると 
念繁波ー思ひ繁けばーおもひしげけばーいっそう物思いがつのる
引攀而ー引き攀ぢてーひきよぢてー繁げる枝を引き寄せて 
折毛不折毛ー折りも折らずもーをりもをらずもー折るにせよ折らずに眺めるにせよ  
毎見ー見るごとにーみるごとにー見るたびに  
情奈疑牟等ー心なぎむとーこころなぎむとー心が慰められるかと思い  
繁山之ー茂山のーしげやまのー樹々の繁った山の  
谿敝尓生流ー谷辺に生ふるーたにへにおふるー谷に生えていた  
山振乎ー山吹をーやまぶきをー山吹を  
屋戸尓引殖而ー宿に引き植ゑてーやどにひきうゑてー家の庭に移し植えて  
朝露尓ー朝露にーあさつゆにー朝露に  
仁保敝流花乎ーにほへる花をーにほへるはなをー輝く花を  
毎見ー見るごとにーみるごとにー見るたびに  
念者不止ー思ひはやまずーおもひはやまずーかえって思いはつのり
戀志繁母ー恋し繁しもーこひししげしもーいっそう恋しくなるばかりだよ




サ19 4186;作者:大伴家持

[題詞](詠山振花歌一首[并短歌])


山吹乎  屋戸尓殖弖波  見其等尓  念者不止  戀己曽益礼

山吹を 宿に植ゑては 見るごとに 思ひはやまず 恋こそまされ 
やまぶきを やどにうゑては みるごとに おもひはやまず こひこそまされ

天平勝宝2年4月5日,恋情,高岡

山吹をわが家に植え

咲いた花を見るたびに

かえって物思いは止まず

恋心がつのるばかりだ



サ19 4187;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月6日,氷見,遊覧,国見表現,土地讃美

[題詞]六日遊覧布勢水海作歌一首[并短歌]

念度知ー思ふどちーおもふどちー気心の知れた  
大夫能ーますらをのこのー官人どうしが  
許<乃>久礼<能>ー木の暗のーこのくれのー夏の木陰のような 
繁思乎ー繁き思ひをーしげきおもひをー暗い繁みのような物思いを  
見明良米ー見明らめーみあきらめー佳い景色を見て  
情也良牟等ー心遣らむとーこころやらむとー気晴らそうと  
布勢乃海尓ー布勢の海にーふせのうみにー布勢の海に  
小船都良奈米ー小舟つら並めーをぶねつらなめー小船を連ね  
真可伊可氣ーま櫂掛けーまかいかけー櫂を取って  
伊許藝米具礼婆ーい漕ぎ廻ればーいこぎめぐればー漕ぎ巡ると  
乎布能浦尓ー乎布の浦にーをふのうらにー乎布の浦に  
霞多奈妣伎ー霞たなびきーかすみたなびきー霞がたなびき  
垂姫尓ー垂姫にーたるひめにー垂姫み崎に  
藤浪咲而ー藤波咲てーふぢなみさきてー藤が咲きそよぎ  
濱浄久ー浜清くーはまきよくー浜辺は清らかに  
白波左和伎ー白波騒きーしらなみさわきー白波が立ち  
及々尓ーしくしくにー絶え間なく  
戀波末佐礼杼ー恋はまされどーこひはまされどー都恋いしさは募るけれど  
今日耳ー今日のみにーけふのみにーこの楽しみを今日だけに 
飽足米夜母ー飽き足らめやもーあきだらめやもー満足できようか  
如是己曽ーかくしこそーこうして  
祢年<乃>波尓ーいや年のはにーいやとしのはにー来る年も来る年も  
春花之ー春花のーはるはなのー春に花の  
繁盛尓ー茂き盛りにーしげきさかりにー咲きしげる盛りに  
秋葉能ー秋の葉のーあきのはのー秋の葉が  
黄色時尓ーもみたむ時にーもみたむときにー黄葉する時にも  
安里我欲比ーあり通ひーありがよひー通い続け  
見都追思努波米ー見つつ偲はめーみつつしのはめー眺め観賞しよう  
此布勢能海乎ーこの布勢の海をーこのふせのうみをーこの布勢のうみを




19 4188;作者:大伴家持、天平勝宝2年4月6日,年紀,氷見,遊覧,土地讃美

[題詞](六日遊覧布勢水海作歌一首[并短歌])

藤奈美能 花盛尓 如此許曽 浦己藝廻都追 年尓之努波米

藤波の 花の盛りに かくしこそ 浦漕ぎ廻つつ 年に偲はめ 
 
ふぢなみの はなのさかりに かくしこそ うらこぎみつつ としにしのはめ

藤の花の盛りの季節には

こうして布勢の入江を漕ぎ巡りながら

毎年鑑賞するとしよう
サ19 4177;作者:大伴家持,大伴池主、天平勝宝2年4月3日,贈答,恋情,戯笑,懐旧,高岡

[題詞]四月三日贈越前判官大伴宿祢池主霍公鳥歌不勝感舊之意述懐一首[并短歌]
「感舊之意」旧りにしを感(め)づる意(こころ)は、昔のことを愛しく思う心。越中の掾だった池主と親しく交際した年月を指す。


和我勢故等ー吾が背子とーわがせことー親しい貴男と
手携而ー手携はりてーてたづさはりてー連れ立って
暁来者ー明けくればーあけくればー朝が明ければ
出立向ー出で立ち向ひーいでたちむかひー庭に出て立ち
暮去者ー夕さればーゆふさればー日暮れには
授放見都追ー振り放け見つつーふりさけみつつー仰ぎ見ては
念<暢>ー思ひ延べーおもひのべー心を和らげ
見奈疑之山尓ー見なぎし山にーみなぎしやまにー心なごませた二上山は
八峯尓波ー八つ峰にはーやつをにはー峰々に
霞多奈婢伎ー霞たなびきーかすみたなびきー霞がたなびき
谿敝尓波ー谷辺にはーたにへにはー谷間には
海石榴花咲ー椿花咲きーつばきはなさきー椿の花が咲く
宇良悲ーうら悲しーうらがなしー悲しいことに
春之過者ー春し過ぐればーはるしすぐればー春は過ぎ去ったので
霍公鳥ーほととぎすーほととぎすが 
伊也之伎喧奴ーいやしき鳴きぬーいやしきなきぬーいっそう頻りに鳴いている
獨耳ー独りのみーひとりのみー独りだけで
聞婆不怜毛ー聞けば寂しもーきけばさぶしもー聞くと寂しいものだ
君与吾ー君と我れとーきみとあれとー貴男と私を
隔而戀流ー隔てて恋ふるーへだててこふるー隔てて恋しくさせる
利波山ー砺波山ーとなみやまー砺波山を
飛超去而ー飛び越え行きてーとびこえゆきてー飛び越えて行って
明立者ー明け立たばーあけたたばー夜が明ければ
松之狭枝尓ー松のさ枝にーまつのさえだにー松の小枝に止まり
暮去者ー夕さらばーゆふさらばー日暮れには
向月而ー月に向ひてーつきにむかひてー月に向かって
菖蒲ーあやめぐさー菖蒲草を
玉貫麻泥尓ー玉貫くまでにーたまぬくまでにー玉にぬく五月になるまで
鳴等余米ー鳴き響めーなきとよめー鳴き響かせて
安寐不令宿ー安寐寝しめずーやすいねしめずー安眠させぬよう
君乎奈夜麻勢ー君を悩ませーきみをなやませー貴男を悩ませよ



サ19 4178;作者:大伴家持,大伴池主

[題詞](四月三日贈越前判官大伴宿祢池主霍公鳥歌不勝感舊之意述懐一首[并短歌])

吾耳  聞婆不怜毛  霍公鳥  <丹>生之山邊尓  伊去鳴<尓毛>

吾れのみし 聞けば寂しも 霍公鳥 丹生の山辺に い行き鳴かにも 
われのみし きけばさぶしも ほととぎす にふのやまへに いゆきなかにも

天平勝宝2年4月3日,恋情,戯笑,贈答,懐旧,高岡

私一人だけで聞くのは寂しい

ほととぎすよ

あの方がいる丹生の山辺に行って鳴いておくれ
* 「なも」は願望の助詞。(にも→なも)
* 「丹生の山」は、越前国府があった福井県武生市の近郊、現在の鬼が岳(丹生岳)のことという。



サ19 4179;作者:大伴家持,大伴池主、戯笑,贈答,恋情,懐旧,高岡

[題詞](天平勝宝四月三日贈越前判官大伴宿祢池主霍公鳥歌不勝感舊之意述懐一首[并短歌])

霍公鳥 夜喧乎為管 <和>我世兒乎 安宿勿令寐 由米情在

霍公鳥 夜鳴きをしつつ 吾が背子を 安寐な寝しめ ゆめ心あれ 
ほととぎす よなきをしつつ わがせこを やすいなねしめ ゆめこころあれ

ほととぎすよ

夜どおし鳴いて

愛しいあの方を決して安眠させるな

私の気持ちを察してくれるように

サ19 4174;作者:大伴家持、追和,太宰府,梅花宴,依興,高岡

[題詞]追和筑紫<大>宰之時春<苑>梅歌一首
追ひて筑紫の大宰の時の春苑梅歌に和へて作る一首

春裏之  樂終者  梅花  手折乎伎都追  遊尓可有

春のうちの 楽しき終は 梅の花 手折り招きつつ 遊ぶにあるべし 
はるのうちの たのしきをへは うめのはな たをりをきつつ あそぶにあるべし

[左注]右一首廿七日依興作之
(天平勝宝2年3月27日興(こと)に依(つ)けて作る)

春の内で楽しみの極みは

梅の枝を手折り花の精霊を招いて

共に遊宴に耽ることであろう



サ4175;作者:大伴家持、高岡,恋情

[題詞]詠霍公鳥二首

霍公鳥 今来喧曽<无> 菖蒲 可都良久麻泥尓 加流々日安良米也
 [毛能波三箇辞闕之]

霍公鳥 今来鳴きそむ あやめぐさ かづらくまでに 離るる日あらめや  
ほととぎす いまきなきそむ あやめぐさ かづらくまでに かるるひあらめや

ほととぎすは今来て鳴き始めた

菖蒲の花を縵にする日(五月五日)まで

鳴き声が遠ざかる日などあろうか



サ4176;作者:大伴家持、恋情,高岡

[題詞](詠霍公鳥二首)

我門従 喧過度 霍公鳥 伊夜奈都可之久 雖聞飽不足
[毛能波○尓乎六箇辞闕之]

我が門ゆ 鳴き過ぎ渡る 霍公鳥 いやなつかしく 聞けど飽き足らず 
わがかどゆ なきすぎわたる ほととぎす いやなつかしく きけどあきたらず

わが家の門の前を

鳴いて過ぎるほととぎす

ますます慕わしく

聞いて聞き飽きることはない

☆ 左注ではなく、奇妙な脚注が施されている。
4175で助詞「も・の・は」が、
4176で助詞「も・の・は・て・に・を」が使われていないとある。
なぜの脚注なのか。
くわしく説いているサイトがあるので、そちらを参照したい。
http://www.geocities.jp/yasuko8787/0x-t3.htm
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

0085
君がゆき 日長くなりぬ 山尋 ね 迎へか行かむ 待ちに か 待たむ
0090
君がゆき 日長くなりぬ 山たづ の 迎へを行かむ 待つに は 待たじ

助詞を使わない改作の跡が見える。
助詞を「書き変えました」というサインだろうか。
知識階級は漢字漢文が主で「助詞」は要らなかったのでは?
一般人は話し言葉オンリーで漢字漢文とは無関係。
そこへの漢字漢文ドッキング。消化吸収は凄まじい文化形成と思うが。


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