ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第四巻

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万葉集4 579  4 580

4 579;相聞,作者:余明軍,大伴家持

[題詞]<余>明軍(よのみやうぐん)、與大伴宿祢家持歌二首
[明軍者大納言卿之資人也]


奉見而  未時太尓  不更者  如年月  所念君

見まつりて いまだ時だに 変らねば 年月のごと 思ほゆる君 

みまつりて いまだときだに かはらねば としつきのごと おもほゆるきみ
・・・・・・・・・・・・・・・・・
お仕えして いまだ時も浅いのに 

長い年月を経たように思う君であられる
・・・・・・・・・・・・・・・・・


4 580;相聞,作者:余明軍,大伴家持、序詞

[題詞](<余>明軍與大伴宿祢家持歌二首 [明軍者大納言卿之資人也])


足引乃  尓生有 菅根乃  懃見巻 欲君可聞

あしひきの 山に生ひたる 菅の根の ねもころ見まく 欲しき君かも 

[あしひきの] やまにおひたる すがのねの] ねもころみまく ほしききみかも
・・・・・・・・・・・・・・
山に生える菅の根のように 

ねんごろに

心を尽くしてお仕えしたい君であることよ
・・・・・・・・・・・・・・
4 581;相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持、夢,恋情,贈答

[題詞]大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首
大伴坂上家の大娘が、大伴宿祢家持に報いて贈った歌四首


生而有者  見巻毛不知  何如毛  将死与妹常  夢所見鶴

生きてあらば 見まくも知らず 何しかも 死なむよ妹と 夢に見えつる 

いきてあらば みまくもしらず なにしかも しなむよいもと いめにみえつる
・・・・・・・・・・・・・
生きていてまた逢えるのに

どうして「死にそうだよ 妻よ」と

貴方は夢に現れたのでしょう
・・・・・・・・・・・・・


4 582;相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持、贈答

[題詞](大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首)


大夫毛  如此戀家流乎  幼婦之  戀情尓  比有目八方

ますらをも かく恋ひけるを たわやめの 恋ふる心に たぐひあらめやも 

ますらをも かくこひけるを たわやめの こふるこころに たぐひあらめやも
・・・・・・・・・・・・・
立派な勇士の貴方でさえ

こんなに恋焦れる でも

かよわい女の私の恋心の方が

比べようもありませんことよ
・・・・・・・・・・・・・


4 583;相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持、枕詞,贈答

[題詞](大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首)


月草之  徙安久  念可母  我念人之  事毛告不来

月草の うつろひやすく 思へかも 我が思ふ人の 言も告げ来ぬ 

[つきくさの] うつろひやすく おもへかも わがおもふひとの こともつげこぬ
・・・・・・・・・
露草の色のように

移り気なお心なのかしら

想うあの人は

言葉さえかげてきません
・・・・・・・・・


4 584;相聞,作者:坂上大嬢,大伴家持、恋情,奈良,序詞,贈答

[題詞](大伴坂上家之大娘報<贈>大伴宿祢家持歌四首)


春日山  朝立雲之  不居日無  見巻之欲寸  君毛有鴨

春日山 朝立つ雲の 居ぬ日なく 見まくの欲しき 君にもあるかも 

[かすがやま] あさたつくもの ゐぬひなく] みまくのほしき きみにもあるかも
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
[春日山に朝雲がかからない日がないように]

いつも見たい会いたいと思う貴方です
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4 585;相聞,作者:坂上郎女、恋愛

[題詞]大伴坂上郎女歌一首


出而将去  時之波将有乎  故  妻戀為乍  立而可去哉

出でていなむ 時しはあらむを ことさらに 妻恋しつつ 立ちていぬべしや 

いでていなむ ときしはあらむを ことさらに つまごひしつつ たちていぬべしや
・・・・・・・・・・・・・・・
帰えるのは何も今でなくてもよろしいのに

ことさら妻を恋しがりながら

立ち去ってよいものでしょうか
・・・・・・・・・・・・・・・



4 586;相聞,作者:大伴稲公,坂上郎女,田村大嬢、代作,恋情,贈答

[題詞]大伴宿祢稲公贈田村大嬢歌一首 [大伴<宿>奈麻呂卿<之>女也]
[左注]右一首姉坂上郎女作(右の一首は、姉坂上郎女の作なり)

不相見者  不戀有益乎  妹乎見而  本名如此耳  戀者奈何将為

相見ずは 恋ひずあらましを 妹を見て もとなかくのみ 恋ひばいかにせむ 

あひみずは こひずあらましを いもをみて もとなかくのみ こひばいかにせむ

・・・・・・・・・・・・・・・・・
お会いすることがなかったら

こんなに恋することもなかったのに

あなたを見て無上に焦れるこの恋心を

一体どうしたら良いものか
・・・・・・・・・・・・・・・・・
。 * 「あら」は「あり」の未然形
* 「もとな」は、みだりに・やたらに・いたずらに・無上に。(副詞)
* 「まし」は、助動詞特殊型で、事実に反することを、仮に想像する意を表し、その仮定の上に立って推量・意向を表す。不満や希望などの意を込めてつかうことが多い。 もし・・だったら・・だろうに。 


4 587・588・589・590・591

4 587;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,贈答,枕詞

[題詞]笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首
(笠女郎が大伴宿祢家持に贈った歌廿四首)


吾形見 々管之努波世 荒珠 年之緒長 吾毛将思

我が形見 見つつ偲はせ [あらたまの] 年の緒長く 我れも偲はむ 

わがかたみ みつつしのはせ あらたまの としのをながく われもしのはむ

以下<笠女郎の歌二十四首>の、意訳・解説は[家持と人々 女たち(4)水垣 久著]より<全記事転載> 
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/column11.html

・・・・・・・・・・・
さしあげた形見の品

これを見るたびに私のことを想い出してくださいね

たとえ逢えなくとも

何年も何年も

私も貴方のことをお慕いしていますから
・・・・・・・・・・・
冒頭にいきなり別れの歌が来ます。

「形見」は思い出のよすがとなる品。別れ別れになる恋人同士の間で手渡されるものもこう言いました。衣服など、身につけていた品の場合が多かったようです。
「年の緒ながく」――これから何年も会えない、という傷心が、歌の調子を沈んだものにしているようです。
二十代以前の家持が都を遠く離れたのは二度だけ。
父に随い大宰府に下向した神亀四年(727)頃と、越中守として任地に赴いた天平十八年(746)です。
神亀四年は家持わずか十歳ですから、笠女郎がこの歌を贈ったのは越中守任命時になるはずです。
国守の任期は、ふつう五年ほどでした。この年家持は二十九歳。笠女郎もほぼ同世代でしょうが、全体的な歌の印象からは、家持より年下のような気がします。 


4 588;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,贈答,枕詞,奈良,序詞

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

白鳥能  飛羽山松之  待乍曽  吾戀度  此月比乎

白鳥の 飛羽山松の 待ちつつぞ 我が恋ひわたる この月ごろを 

しらとりの とばやままつの まちつつぞ あがこひわたる このつきごろを
・・・・・・・・・・・・・・・・
白鳥の飛ぶ飛羽山の松ではありませんが

貴方のおいでを待ちながら

私はずっと慕い続けておりました

この何カ月の間というもの
・・・・・・・・・・・・・・・・
「飛羽山」の比定地は定説がありません。東大寺近くの山とする説などがありましたが、最近、国語学者の吉田金彦氏が、福井県鯖江市に鳥羽という地名が残り、そのあたりの街道沿いの低山ではないか、と新見を出しました(『秋田城木簡に秘めた万葉集』)。吉田氏は、北陸への旅に出た笠女郎が、実際に飛羽山を見たのではないか、と推察しています。
吉田氏の新著は、これまでの定説に挑む、驚くべき知見に満ちています。特に、笠女郎の越中下向説には納得させられる部分が多かったので、私もさっそく乗せてもらうことにしました(ただ、吉田氏は歌の順序を大幅に入れ替えて解釈しているのですが、私はあくまでも巻四の排列どおりに読んでみるつもりです。従って、氏の解釈とはきわめて異なるものになるでしょう)。

何カ月も待ったけれど、家持が帰京する様子はなく(国司は一年に何度か都へ出向く機会がありました)、待ちきれなくなった彼女は、ついに彼を追って越中へと旅立った、というわけです。 


4 589;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、待つ,恋情,枕詞,奈良,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

衣手乎  打廻乃里尓  有吾乎  不知曽人者  待跡不来家留

衣手を 打廻の里に ある我れを 知らにぞ人は 待てど来ずける 

[ころもでを] うちみのさとに

あるわれを しらにぞひとは まてどこずける
・・・・・・・・・・・・・
打廻の里にいる私を知らなくて

あの人は

いくら待っても来てくれなかったのだ
・・・・・・・・・・・・・
「打廻」は従来ウチミと訓まれることが多かったのですが、所在はやはり不詳でした。
吉田氏はこれをウチワと訓み、石川県の河北潟沿岸の土地だろうとしています。
私には真偽の程は分かりませんが、氏の仮説に拠った方が、笠女郎の一連の歌のつながりがより納得できるので、ここでも吉田氏の説を借りたいと思います。
越中国府(いまの富山県高岡市)のすぐ近くまで彼女はやって来ていたことになります。
しかし、まだ家持はそれを知りません。
旅の途次、その都度手紙を贈ったとしても、家持には彼女の現在地を知りようがないのです。 


4 590;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、うわさ,贈答,枕詞

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

荒玉  年之經去者  今師波登  勤与吾背子  吾<名>告為莫

あらたまの 年の経ぬれば 今しはと ゆめよ我が背子 我が名告らすな 

[あらたまの] としのへぬれば いましはと ゆめよわがせこ わがなのらすな
・・・・・・・・・・・・・・
お逢いしてから何年も経ったからといって

「今はもう」と

私の名を人に洩らすようなことは努々なさらないで下さいね

愛しいあなた
・・・・・・・・・・・・・・
「我が名告らすな」こういう言い方は、逢瀬を遂げた恋人同士の間で交わされた、決まり文句みたいなものです。遥かな越の地で、とうとう彼女は家持と再会することができたと判ります。しかし、次の歌でも、597番の歌でも、笠女郎が人目を気にする度合いには、いささか尋常ならざるものがあるようです。上記著書で吉田氏は、彼女を家持の「隠(こも)り妻」であったと見なしています。
いずれにせよ、家持との関係は大っぴらにできるようなものではなかったのでしょう。あるいは、これも吉田氏が指摘する通り、越中国府には正妻である坂上大嬢がすでに来ていて、笠女郎は遠慮せざるを得ない立場にあった、ということなのかも知れません。


4 591;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、うわさ,贈答,枕詞

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

吾念乎  人尓令知哉  玉匣  開阿氣津跡  夢西所見

我が思ひを 人に知るれか 玉櫛笥 開きあけつと 夢にし見ゆる 

わがおもひを ひとにしるれか [たまくしげ] ひらきあけつと いめにしみゆる
・・・・・・・・・・・・・
あなたへのひそかな想いが他人に知られてしまったのでしょうか

開けてはならぬ玉手箱の蓋を開けてしまった夢を見ました
・・・・・・・・・・・・・
玉手箱を開ける夢は、秘密が他人に知られてしまったことの徴と広く信じられていたらしい。
露見を恐れつつ、彼女は越中をあとにしたと思えます。 
以下<笠女郎の歌二十四首>の意訳・解説は[家持と人々 女たち(4)水垣 久著]より<全記事転載> 
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/column11.html
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4 592;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恨み,贈答,序詞

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

闇夜尓  鳴奈流鶴之  外耳  聞乍可将有  相跡羽奈之尓

闇の夜に 鳴くなる鶴の 外のみに 聞きつつかあらむ 逢ふとはなしに 

やみのよに なくなるたづの よそのみに ききつつかあらむ あふとはなしに
・・・・・・・・・・・
闇夜に鳴く鶴の声を聞くように

遠くからお噂ばかりを聞いて過ごすのでしょうか

お逢いすることもできないまま
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
都に帰った彼女は、再び恋人と引き離された哀しみを歌います。

「闇の夜に鳴くなる鶴」とは、暗闇の中でお互いの所在が分からなくなった鶴のカップルを言っているのでしょう。

鳴き声でそこにいると知ることは出来ても、姿は見えず、逢うことは出来ない、ということです。
・・・・・・・・・・・ 
* 「のみ」 副助詞。種々の語に付き、そのことだけに限定する意をあらわす。「〜だけ」「〜ばかり」。強調の意ともなる。語源は「の身」で、「それ以外の何物でもない」ことを示すのが原義。古くは「のみ-を」「のみ-に」などと格助詞の上に付いたが、平安時代以降は「を-のみ」「に-のみ」などと格助詞の下に付くようになった。



4 593;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,待つ,奈良,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

君尓戀  痛毛為便無見  楢山之  小松之下尓  立嘆鴨

君に恋ひ いたもすべなみ 奈良山の 小松が下に 立ち嘆くかも 

きみにこひ いたもすべなみ ならやまの こまつがしたに たちなげくかも
・・・・・・・・・・
あなたへの恋心が募って

もうどうしようもなくなり

奈良山の小松の下に佇んで嘆くばかりです
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
奈良山からは、家持の邸のある佐保の里を眺めることができたでしょう。

しかし、彼はまだ越中にいました。
せめてなにか寄り添うものが欲しいとでもいうように、笠女郎は「小松が下に」佇み、嘆くばかりでした。

この歌は笠女郎の名歌のなかでも、いや万葉集の全恋歌のなかでも、とびきりの秀詠です。
やり場のない深い悲しみを歌いながら、まるで一本の細く清潔な樹木のように、健気で凜とした姿をしています。 
・・・・・・・・・・・・


4 594;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,序詞,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

吾屋戸之  暮陰草乃  白露之  消蟹本名  所念鴨

我がやどの 夕蔭草の 白露の 消ぬがにもとな 思ほゆるかも 

わがやどの ゆふかげくさの しらつゆの けぬがに おもほゆるかも
・・・・・・・・・・・・・
庭にあるの夕陰草の葉に置く白露のように

今にも消えてしまいそうなほど

無闇に恋い焦がれているのです
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
夕方、家の庭で物思いに耽る女のようすが、ありありと浮びます。

「夕陰草」は夕方の光の中にほのかに浮かび上がって見える草の意で、彼女の造語であろうと言われています。
なんと情趣ある言葉でしょう。 
・・・・・・・・・・・・・
* 「がに」 接続助詞 比況。動詞・助動詞の終止形を承け、「〜しそうに」「〜するばかりに」「〜するかのように」などの意をあらわす。完了の助動詞「ぬ」に付き「ぬがに」の形をとることが多い。疑問の助詞「か」と格助詞「に」が結び付いたものかという。
* 「もと‐な」[副]「もと」は根本の意。「な」は形容詞「無し」の語》1 わけもなく。みだりに。




4 595;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

吾命之  将全<牟>限  忘目八  弥日異者  念益十方

我が命の 全けむ限り 忘れめや いや日に異には 思ひ増すとも 

わがいのちの またけむかぎり わすれめや いやひにけには おもひますとも
・・・・・・・・・・・・・
私の命が損なわれない限り

貴方のことを忘れるものですか

たとえ日に日に恋心が増すことはあっても

忘れるなんて
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
ここで再び転調です。
恋を遂げようとのつよい意志が復活します。

彼女はもう一度越中への旅に出ました。

続く二首は、彼女が家持のそばにもどったことを暗示しています。
・・・・・・・・・・・・・ 


596;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,贈答,掛詞

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)


八百日徃  濱之沙毛  吾戀二  豈不益歟  奥嶋守

八百日行く 浜の真砂も 我が恋に あにまさらじか 沖つ島守 

やほかゆく はまのまなごも あがこひに あにまさらじか おきつしまもり
・・・・・・・・・・・・
歩き尽くすのに八百日もかかるような長い長い浜―そんな浜の真砂(まさご)を全部合わせたって

私の恋心の果てしなさには敵いますまい

そうでしょう

沖の島の島守さん
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
吉田金彦氏が指摘している通り、「八百日ゆく浜」は、越中か能登のどこかの海岸を言っていると思えます。

「沖つ島」は、能登半島沖の舳倉島(へくらじま)のことで、「沖つ島守」が越中守家持を暗示していることは、明らかでしょう。

因みに家持には越中時代に詠んだ次のような歌があります。

 越の海の 信濃の浜を ゆき暮らし 長き春日も 忘れて思へや
 (17-4020)<「や」已然形に付き、反語「〜だろうか、いやそんなことはない」の意をあらわす。>


この歌など、笠女郎に応答したような気がしなくもありません。

普通、「忘れて思へや」は都の家族のことを言うと解釈されているのですが、遥々都から訪ねてくる旨手紙を寄越した、恋人への思いだったのかも知れません。 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・




4 597;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,枕詞,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)


宇都蝉之  人目乎繁見  石走  間近<君>尓  戀度可聞

うつせみの 人目を繁み 石橋の 間近き君に 恋ひわたるかも 

うつせみの ひとめをしげみ いしはしの まちかききみに こひわたるかも
・・・・・・・・・・・・・
世間の人目がうるさいので

飛石のように間近にいる貴方に逢うことも出来ず

ただ恋い焦がれながら過ごしているのです
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
再度恋人のそばまでやって来ながら、やはり逢うことはままならない。

国守館に住む家持は、常に下僚に取り巻かれ、気ままな行動など許されなかったでしょう。

彼女は恋しさに痩せ、死にそうになる、と訴えます。
・・・・・・・・・・・・・ 
以下<笠女郎の歌二十四首>の意訳・解説は[家持と人々 女たち(4)水垣 久著]より<全記事転載> 
http://www.asahi-net.or.jp/~sg2h-ymst/yamatouta/column11.html
・・・・・・・・・・・・・・
4 598;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋病,恋情,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

戀尓毛曽 人者死為 水<無>瀬河  下従吾痩  月日異

恋にもぞ 人は死にする 水無瀬川 下ゆ我れ痩す 月に日に異に 

こひにもぞ  ひとはしにする  みなせがは  したゆわれやす  つきにひにけに

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
恋のためにだって人は死んでしまうのです

伏流水のように目には見えず

ひそかに慕う恋心から

私は痩せてゆくのです

日毎に月毎に。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



4 599;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

朝霧之 欝相見之 人故尓 命可死 戀渡鴨

朝霧の おほに相見し 人故に 命死ぬべく 恋ひわたるかも 

[あさぎりの] おほにあひみし ひとゆゑに いのちしぬべく こひわたるかも

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
朝霧のようにほのかに逢っただけの人のために

私は死にそうなほどの思いで

ずっと恋をし続けるのですねえ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これはようやく逢瀬を遂げた、後朝(きぬぎぬ)の歌でしょう。

「相見し」は、単に顔を合わせたということでなく、ともに夜を過ごしたことを言っています。
「朝霧の」は、「欝」に掛けた枕詞的な用法ですが、霧の中を帰って行く恋人の姿をも暗示しているような気がします。

これも素晴らしい歌です。 



4 600;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,三重,序詞,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

伊勢海之 礒毛動尓 因流波 恐人尓 戀渡鴨

伊勢の海の 礒もとどろに 寄する波 畏き人に 恋ひわたるかも 

[いせのうみの いそもとどろに よするなみ] かしこきひとに こひわたるかも

・・・・・・・・・・・・・・・・・
伊勢の海の磯に轟々と音立てて寄せる波

そんな身も竦むほどの勿体ないお方に

私はずっと恋し続けているのですねえ
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「かしこき」に恐ろしい意と畏れ多い意と両意を掛けています。
「かしこき人」は、越中守という然るべき地位にあった家持を言っています。

吉田氏はこの歌を、家持が伊勢守だった頃(宝亀七年任官、家持五十九歳)に贈った作だろうとしています。
これまた魅力的な解釈ですが、私は一連の歌をもう少し時間的に連続したものとして読みたい気持の方が強いので、ここでは、神風の吹く伊勢という畏き土地を比喩として借りたものだろうと考えておきます。 



4 601;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

従情毛 吾者不念寸 山河毛 隔莫國 如是戀常羽

心ゆも 我は思はずき 山川も 隔たらなくに かく恋ひむとは 

こころゆも わはおもはずき やまかはも へだたらなくに かくこひむとは

・・・・・・・・・・・・・・・・
思いもよりませんでした

もう山川を隔てているわけではないのに

これほど恋い焦がれようとは。
・・・・・・・・・・・・・・・・
家持はようやく帰京したようです。
奈良山のそばに住んでいたらしい笠女郎にとって、佐保の邸に落ち着いた家持は、再び近隣の人となりました。
彼女はこうなることをずっと願っていたはずです。

ところが、「山河を隔て」なくなった今も、やはり恋しさに苛まれる。
思いもしなかった、と言うのです。
このように、彼女の願望はつねに現実によって裏切られます。
しかし、それが恋する者の宿命でしょう。
それでもなお彼女は傷つくことを恐れず、恋の成就を願い続けずにはいません。

この後家持は、因幡守に左遷されるまでの七年ほどを都で過ごすことになります。
笠女郎の恋は、時に鎮静し、時に炎を上げます。 
* 「ずき」 連用形「ず」+過去の助動詞「き」。「〜しなかった」。



4 602;相聞,作者:笠女郎,大伴家持、恋情,贈答

[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌廿四首)

暮去者  物念益  見之人乃  言問為形  面景尓而

夕されば 物思ひまさる 見し人の 言とふ姿 面影にして 

ゆふされば ものもひまさる みしひとの こととふすがた おもかげにして

・・・・・・・・・・・・・・・・・
夕暮れになると物思いがいっそう募ります

お会いした方の

話しかける時の姿が

面影に浮かんで来て
・・・・・・・・・・・・・・・・・

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