ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第六巻

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6 989;雑歌,作者:湯原王、謝酒,宴席

[題詞]湯原王打酒歌一首

焼刀之 加度打放 大夫之 祷豊御酒尓 吾酔尓家里

焼太刀の かど打ち放ち 大夫の 寿く豊御酒に 我れ酔ひにけり 

[やきたちの] かどうちはなち ますらをの ほくとよみきに われゑひにけり

焼き鍛えた大刀の
かどを打ち合わせるような
勇士が祝うこの美酒に
私はすっかり酔ってしまった

* 「打酒(だしゅ/ちょうしゅ)」は酒を酌んで飲むこと。
* 太刀は刀と異なり、刃を下にして腰から釣り下げるようにして携帯します。これを太刀を佩く(はく)と言います。刀の場合は刃を上にして帯の間に差して携帯しますが、これを刀を指す(さす)と言います。普通、刀剣類は腰につけた状態で外側が表になりますから、銘は刀と太刀では反対側に切る事になります。例外は有ります。
・・・・・・・・・・・・・・・
湯原王 ゆはらのおおきみ 生没年未詳

志貴皇子の子。兄弟に光仁天皇・春日王・海上女王らがいる。
壱志濃王の父。
叙位・任官の記事は史書に見えない。
万葉集に十九首あり、天平初年〜八年頃の作と見られる。
天平前期の代表的な歌人の一人。

* 「焼太刀の」[枕]
太刀を身辺に添える意から、「辺(へ)付かふ」にかかる。
焼き鍛えた太刀は鋭い意から、「利(と)」にかかる。
* 「かど」刀剣の、峰に沿って小高くなっている部分。しのぎ。また一説に、切っ先。
* 「打ち放ち」「打ち放つ」の[動タ五(四)連用形]刀などを勢いよく一気に抜く。抜きはなつ。
6 990;雑歌,作者:紀鹿人(きのしかひと)、桜井,土地讃美,大伴荘園

[題詞]紀朝臣鹿人<跡>見茂岡之松樹歌一首

茂岡尓 神佐備立而 榮有 千代松樹乃 歳之不知久

茂岡に 神さび立ちて 栄えたる 千代松の木の 年の知らなく 

しげをかに かむさびたちて さかえたる ちよまつのきの としのしらなく

跡見の茂岡(鳥見山)に神々しいまでに栄え
千歳とも見える松の木は樹齢も分からないことである

* 跡見は今の外山のことで、当時は今より広い地域、鳥見山北麓一帯をさしていた。鳥見山は等弥神社の背後の山で、ここの山中霊時の跡は神武天皇が大嘗祭に当たる即位の式典が行われた聖蹟地とされる。

* 松は古来「神を待つ」といって正月の門松には必ず立てているめでたいもの。謡曲の「高砂」一名「相生松」や「老松」は常磐津などにもとりいれられ、祝い事には決まって謡われてきている。

* 桜井市・天理市(山辺の道)
http://www1.ocn.ne.jp/~noriyo/kahib.htm
6 991;雑歌,作者:紀鹿人、桜井,土地讃美,大伴荘園

[題詞]同鹿人至泊瀬河邊作歌一首

石走 多藝千流留 泊瀬河 絶事無 亦毛来而将見

石走り たぎち流るる 泊瀬川 絶ゆることなく またも来て見む 

いはばしり たぎちながるる はつせがは たゆることなく またもきてみむ

水が岩にぶつかって
しぶきをあげながら流れくだる
いつまでも絶えることのない泊瀬川
またやってきて見てみたいものだ

* 初瀬川は都祁村(つげむら)の付近の大和高原から、三輪山のそばを通って奈良盆地へ流れ、万葉集には「泊瀬川」と書かれている。
* 「いわばしる」 (動ラ四) 水が岩にぶつかってしぶきをあげながら流れ下る。
* 「なく」〔打ち消しの助動詞「ず」のク語法。上代語〕
「…ないこと」の意を表す。
文末に用いられて,上の事柄を詠嘆的に打ち消す。…ないことだなあ。


紀鹿人 きのかひと 生没年未詳
紀小鹿女郎の父。
天平九年(737)九月、外従五位下。天平十三年(741)八月、大炊頭。
また万葉集08/1549題詞には「典鑄正(いものしのかみ)紀朝臣鹿人」とある。大伴稲公の友人であったらしい。
万葉集には三首(6-990・991、8-1549)。紀氏系図などによれば、
養老三年(719)閏七月に朝臣を賜姓された紀臣広前の従弟に夏人があり、或いは鹿人と同一人かといわれる。
6 992;雑歌,作者:坂上郎女、飛鳥,土地讃美,望郷

[題詞]大伴坂上郎女詠元興寺之里歌一首
(元興寺(がんこうじ)の故郷を詠んだ歌とある)

古郷之 飛鳥者雖有 青丹吉 平城之明日香乎 見樂思好裳

故郷の 飛鳥はあれど あをによし 奈良の明日香を 見らくしよしも 

ふるさとの あすかはあれど [あをによし] ならのあすかを みらくしよしも

ふるさと飛鳥にある元の元興寺もいいけれど
華やかな奈良平城京の
この明日香の新しい元興寺を見るのもいいものだわ

* 和銅3年(710)都が平城に遷されたのに伴って、飛鳥という地名も共に平城の地に移ってきたようだ。
 元興寺(がんこうじ)も、平城京遷都に伴って飛鳥にある飛鳥寺の別院として建てられたもの。
* 「見・らく・し・よし・も」
* 「らく」〔完了の助動詞「り」のク語法。上代語〕
…ていること。…てあること。
* (接尾)の場合。 〔上代語〕
上一段動詞の未然形,上二段・下二段・カ変・サ変・ナ変の動詞および助動詞「つ」「ぬ」「しむ」「ゆ」などの終止形に付く。
上の活用語を体言化し,「…こと」の意を表す。
* 「告ぐ」「申しつ」などに付いて,引用文を導き,「…ことには」「…のには」の意を表す。
* 文末にあって詠嘆の意を表す。助詞「も」や「に」を伴うこともある。
* 「し」[副助詞] 語調を整えたり、強意を表する。
* 「も」終助詞 詠嘆
主として活用語の終止形に付き、詠嘆をあらわす。「かも」「はも」などの「も」も詠嘆の終助詞である。
6 993;雑歌,作者:坂上郎女、相聞

[題詞]同坂上郎女初月歌一首

月立而 直三日月之 眉根掻 氣長戀之 君尓相有鴨

月立ちて ただ三日月の 眉根掻き 日長く恋ひし 君に逢へるかも 

つきたちて ただみかづきの まよねかき けながくこひし きみにあへるかも

若い月が生まれ出てくる時の
三日月のように眉を掻いたので
長い間恋しく思うばかりのあなたに
こうして会えたのですね

* 眉(を掻くと、会いたい人に会えるという迷信みたいな。
* 「三日月」 陰暦で3日の夜に出る細い弓形の月。また、その前後の、月齢の若い月。《季 秋》
* つき‐た・つ【月立つ】 [動タ四] 月がのぼる。
* 「恋ひ・し・君」恋しく思うばかりのあなた、心待ちにしている君
* 「し」し  [助動詞] [過去・連体形] 〜た・〜ていた 連用形につく
* 「し」は、ある状態にある意を表すサ変動詞「す」の連用形。
* 「あ・ふ」 【会ふ・逢ふ】自動詞ハ行四段活用。活用{は/ひ/ふ/ふ/へ/へ}
出会う。巡り合う。
結婚する。
対する。向かう。
* 「る」は存続の助動詞「り」の連体形。
* 「かも」終助詞「か」に、詠嘆の終助詞「も」のついたもの。
疑問を含んだ詠嘆・感動に意を表す。体言または活用語の連体形を承ける。
 「〜だろうか」「〜なのかなあ」。


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