|
1859 春雑歌,京都府,枕詞 [題詞](詠花) 馬並而 高山<部>乎 白妙丹 令艶色有者 梅花鴨 うまなめて たかのやまへを [しろたへに] にほはしたるは うめのはなかも ・・・・・・・・・・・
馬を並べて多賀の山辺を行けば 真っ白にあたりを染めあげているのは 梅の花ではないか ・・・・・・・・・・・ 1860 春雑歌,比喩 [題詞](詠花) 花咲而 實者不成登裳 長氣 所念鴨 山振之花 はなさきて みはならねども ながきけに おもほゆるかも やまぶきのはな ・・・・・・・・・・・
* 太田道灌(どうかん)に田舎娘が貸す蓑のない断りに、後拾遺和歌集の兼明親王の歌、「七重八重 花は咲けども山吹の みの一つだに 無きぞ悲しき」を援用した故事が有名。花が咲くだけで実はならないと知っていても ずっと前から気に掛かってしかたがない この八重山吹の花よ 我が恋よ ・・・・・・・・・・・ 1861 春雑歌,奈良 [題詞](詠花) 能登河之 水底并尓 光及尓 三笠乃山者 咲来鴨 のとがはの みなそこさへに てるまでに みかさのやまは さきにけるかも ・・・・・・・・・・・
高円三笠をめぐる能登川の 水底までが照り映えるほどに 三笠の山の桜が咲き満ちみちていることよ ・・・・・・・・・・・ 1862 春雑歌 [題詞](詠花) 見雪者 未冬有 然為蟹 春霞立 梅者散乍 ゆきみれば いまだふゆなり しかすがに はるかすみたち うめはちりつつ ・・・・・・・・・・・
残雪を見ればまだ冬だが とはいえ春霞が立って しきりに梅の花が散っている ・・・・・・・・・・・ 1863 春雑歌 [題詞](詠花) 去年咲之 久木今開 徒 土哉将堕 見人名四二 こぞさきし ひさぎいまさく いたづらに つちにかおちむ みるひとなしに ・・・・・・・・・・・
馬酔木(あしび)が今年も咲いたが むなしく地に散ってしまうのか 去年見たあの人は再び訪れず ・・・・・・・・・・・ 1864 春雑歌,枕詞 [題詞](詠花) 足日木之 山間照 櫻花 是春雨尓 散去鴨 [あしひきの] やまのまてらす さくらばな このはるさめに ちりゆかむかも ・・・・・・・・・・・
裾を引く山の やまあいに照り映えている桜花は この春雨に打たれて散ってゆくのだなあ ・・・・・・・・・・・ 1865 春雑歌 [題詞](詠花) 打靡 春避来之 山際 最木末乃 咲徃見者 [うちなびく] はるさりくらし やまのまの とほきこぬれの さきゆくみれば ・・・・・・・・・・・
<タ>http://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/24019239.html?type=folderlist待ちかねた春がやっと来たらしい 遠く山間の梢の花がつぎつぎと 咲いてゆくのを見ると ・・・・・・・・・・・ ♪うちなびく 春さる来らし 山の際(ま)の 遠き木末(こぬれ)の 咲き行く見れば(巻10・1865) (春が来たらしい 山の端の 遠い梢が 咲いて行くのを見ると)
万葉集では、桜は名前をあげずに「咲く」、「花」とだけ詠われている。
そもそも、「サク・ラ」という名前そのものが、基本の花だった。(ラは、接尾語)
遠い山ぎわをいろどる桜の花によって、春の到来を知り、新しい暦を始めたようです。
1866 春雑歌,奈良[題詞](詠花) 春雉鳴 高圓邊丹 櫻花 散流歴 見人毛我<母> きぎしなく たかまとのへに さくらばな ちりてながらふ みむひともがも ・・・・・・・・・・・
高圓山の野辺に雉は妻を呼んで鳴き 桜の花は風にのって散り漂う だれか一緒に見る人がいて欲しいことよ ・・・・・・・・・・・ 1867 春雑歌 [題詞](詠花) 阿保山之 佐宿木花者 今日毛鴨 散乱 見人無二 あほやまの さくらのはなは けふもかも ちりまがふらむ みるひとなしに ・・・・・・・・・・・
古都明日香の阿保山の 桜の花は今日には散り乱れていることだろう 賞めでる人もなくただいたずらに ・・・・・・・・・・・ 1868 春雑歌,吉野 [題詞](詠花) 川津鳴 吉野河之 瀧上乃 馬酔之花會 置末勿動 [かはづなく] よしののかはの たきのうへの あしびのはなぞ はしにおくなゆめ ・・・・・・・・・・・
カジカ鳴く吉野川の滝の上で あなたの為に手折ったもの 馬酔木の花ですよ 大事に見てやっでおくれ ・・・・・・・・・・・ 1869 春雑歌 [題詞](詠花) 春雨尓 相争不勝而 吾屋前之 櫻花者 開始尓家里 はるさめに あらそひかねて わがやどの さくらのはなは さきそめにけり ・・・・・・・・・・・
降る春雨に逆らいかねて 我が家の桜の花も咲きそめました あなたも咲きそめてくださればいいのに ・・・・・・・・・・・ 1870 春雑歌 [題詞](詠花) 春雨者 甚勿零 櫻花 未見尓 散巻惜裳 はるさめは いたくなふりそ さくらばな いまだみなくに ちらまくをしも
・・・・・・・・・・・
春雨よそんなにひどく降らないでおくれ 桜の花をまだ十分には見ていないのに 散ってしまうのは惜しいから ・・・・・・・・・・・ |
万葉集索引第十巻
[ リスト | 詳細 ]
|
1871 春雑歌 [題詞](詠花) 春去者 散巻惜 梅花 片時者不咲 含而毛欲得 はるされば ちらまくをしき うめのはな しましはさかず ふふみてもがも ・・・・・・・・・・・
* 「まく」は推量の助動詞「む」のク語法。・・だろうこと。・・たりすること。活用語の未然形につく。体言化接尾語「く」がついたものとする説もある。春になると花が咲くことよりも 散ることが惜しまれる梅よ しばらくは咲かないで蕾のままでいてほしい 可愛いあの子よ ・・・・・・・・・・・ 1872 春雑歌,奈良 [題詞](詠花) 見渡者 春日之野邊尓 霞立 開艶者 櫻花鴨 みわたせば かすがののへに かすみたち さきにほへるは さくらばなかも ・・・・・・・・・・・
はるかに見渡せば 春日の野辺に霞が立つように 美しい色に咲き誇っているのは あれは桜の花であるなあ ・・・・・・・・・・・ ♪見渡せば 春日の野辺に 霞立ち 咲きにほへるは 桜花かな (万葉集・巻10・1872) (見渡すと 春日の野辺に 霞が立ち 咲き輝いているあれは 桜花だろうなあ)
桜〜、桜〜、やよいに匂う、見渡すかぎり〜、霞か〜、雲か〜♪(*^▽゜ *)ゞ^ ヾ☆
1873 春雑歌[題詞](詠花) 何時鴨 此夜乃将明 鴬之 木傳落 <梅>花将見 いつしかも このよのあけむ うぐひすの こづたひちらす うめのはなみむ ・・・・・・・・・・・
いつになったらこの夜は明けるのであろうか 鴬が枝から枝へと飛び交っては散らしている 梅の花のありさまを早く見たいものだ ・・・・・・・・・・・ 1874 春雑歌,奈良,高円 [題詞]詠月 春霞 田菜引今日之 暮三伏一向夜 不穢照良武 高松之野尓 はるかすみ たなびくけふの ゆふづくよ きよくてるらむ たかまつののに ・・・・・・・・・・・
春霞がたなびいて今宵の月ははっきり見えないが 清らかに照らしているだろう高松の野の辺りでは ・・・・・・・・・・・ 1875 春雑歌,異伝 [題詞](詠月) 春去者 紀之許能暮之 夕月夜 欝束無裳 山陰尓指天 [一云 春去者 木陰多 暮月夜] はるされば このくれおほみ ゆふづくよ おほつかなしも やまかげにして[はるされば こかげをおほみ ゆふづくよ] ・・・・・・・・・・・
* 「おほつかなし」(形)[文]ク おぼつかな・し春の夕月夜なのに木蔭が多くて暗い はっきりしない山かげの道であることよ ・・・・・ 春になると木の下闇が多くなるので せっかくの宵の月も すっきりと姿を現してくれない こんな山蔭にいると ・・・・・・・・・・・ 確かでなくはっきりしない。ぼんやりしている。 1876 春雑歌 [題詞](詠月) 朝霞 春日之晩者 従木間 移歴月乎 何時可将待 [あさかすみ] はるひのくれは このまより うつろふつきを いつとかまたむ ・・・・・・・・・・・
春の一日がようやく暮れて 木の間から姿を現す月が 待ち遠しことであるよ ・・・・・・・・・・・ 1877 春雑歌 [題詞]詠雨 春之雨尓 有来物乎 立隠 妹之家道尓 此日晩都 はるのあめに ありけるものを たちかくり いもがいへぢに このひくらしつ ・・・・・・・・・・・
春のやさしい雨なのに雨宿りして あの娘の家に行く途中で日が暮れてしまった ・・・・・・・・・・・ 1878 春雑歌,飛鳥 [題詞]詠河 今徃而 聞物尓毛我 明日香川 春雨零而 瀧津湍音乎 いまゆきて きくものにもが あすかがは はるさめふりて たぎつせのおとを ・・・・・・・・・・・
* 「もが」は、仮想的な願望をあらわす終助詞。今(今日)行って聞きたいものだ (明日)香川に春雨が降って たぎり高鳴る瀬音を ・・・・・・・・・・・ この陰鬱な気分が吹き飛ぶことだろうなあ。 1879 春雑歌,奈良,野遊び [題詞]詠煙 春日野尓 煙立所見 ○嬬等四 春野之菟芽子 採而煮良思文 かすがのに けぶりたつみゆ をとめらし はるののうはぎ つみてにらしも ・・・・・・・・・・・
* 「ウハギ」はヨメナのこと。若葉をゆでて食べる、美味な食用野菜。春日野にすっと立ち昇る煙が見える 春の野遊びに娘達がヨメナを摘んで 煮ている煙だろうよ ・・・・・・・・・・・ * 「の‐あそび」【野遊び】 1 野に出て、草を摘んだり会食をしたりして遊ぶこと。《季 春》 2 貴族や武士が野に出て狩猟をすること。 1880 春雑歌,奈良,野遊び [題詞]野遊 春日野之 淺茅之上尓 念共 遊今日 忘目八方 かすがのの あさぢがうへに おもふどち あそぶけふのひ わすらえめやも ・・・・・・・・・・・
春日野の春浅いちがやの上で 親しい仲間がつどって 野遊びする今日の楽しさは いつまでも忘れられないだろう ・・・・・・・・・・・ 1881 春雑歌,奈良,宴席,野遊び [題詞](野遊) 春霞 立春日野乎 徃還 吾者相見 弥年之黄土 はるかすみ たつかすがのを ゆきかへり われはあひみむ いやとしのはに
・・・・・・・・・・・
春霞立つこの春日野を みなさんと一緒に逍遙しましょう くる年もいついつまでも ・・・・・・・・・・・ |
|
1882 春雑歌,野遊び [題詞](野遊) 春野尓 意将述跡 <念>共 来之今日者 不晩毛荒粳 はるののに こころのべむと おもふどち こしけふのひは くれずもあらぬか ・・・・・・・・・・・・・
春の野でのんびりしようと 仲間どうしでやってきた 今日のこの楽しい日は いつまでも暮れないままであれ ・・・・・・・・・・・・・ サ1883 春雑歌,野遊び,枕詞 [題詞](野遊) 百礒城之 大宮人者 暇有也 梅乎挿頭而 此間集有 [ももしきの] おほみやひとは いとまあれや うめをかざして ここにつどへる ・・・・・・・・・・・・・
* 『新古今集』に山部赤人の歌として、下の句を変えて、宮仕えの大宮人は 今日は暇であるらしい 楽しげに梅の髪飾をりして 春日の野に集っている ・・・・・・・・・・・・・ 「ももしきの 大宮人は暇あれや 桜かざして 今日も暮らしつ」(104)。 * 「百敷の」は「都」や「大宮」を言い出す枕詞。「大宮人」は「宮中にお仕えする人」。 * 「暇あるや」は、暇があると、暇があれば。 サ1884 春雑歌,移ろい,問答 [題詞]歎舊 寒過 暖来者 年月者 雖新有 人者舊去 ふゆすぎて はるしきたれば としつきは あらたなれども ひとはふりゆく ・・・・・・・・・・・・・
* 「来ぬれば」;来ると。冬が過ぎて春がやってくると 年月は新しくなるけれども 人は古くなっていく ・・・・・・・・・・・・・ 「来」カ行変格活用動詞連用形。 「ぬれ」完了助動詞「ぬ」の已然形。 「ば」恒常条件の接続助詞。 *「ども」は接続助詞・逆接(〜けれども)。 1885 春雑歌,移ろい,問答 [題詞](歎舊) 物皆者 新吉 唯 人者舊之 應宜 ものみなは あらたしきよし ただしくも ひとはふりにし よろしかるべし ・・・・・・・・・・・・・
* 「ただしく」【但しく】 (副) 「ただ」を強めた語。物はみな新しいものがよいが ただ人は古くなるのがよろしかろうぞ ・・・・・・・・・・・・・ 1886 春雑歌,大阪,枕詞 [題詞]懽逢 佐吉之 里<行>之鹿歯 春花乃 益希見 君相有香開 すみのえの さとゆきしかば はるはなの いやめづらしき きみにあへるかも ・・・・・・・・・・・・・
住吉の里にでかけたら 春の花が思いかけず咲いていたように 心惹かれるあなたに逢ったことだ ・・・・・・・・・・・・・ 1887 春雑歌,奈良 [題詞]旋頭歌 春日在 三笠乃山尓 月母出奴可母 佐紀山尓 開有櫻之 花乃可見 かすがなる みかさのやまに つきもいでぬかも さきやまに さけるさくらの はなのみゆべく ・・・・・・・・・・・・・
* 佐保山と佐紀山の裾は、かつて平城山(ならやま)と呼ばれ 大宮人の憩いの丘だった。東の春日にある三笠の山に早く月が出てくれないものか 佐紀山の辺に咲く桜の花が 夕影に映えてはっきりと見えるように ・・・・・・・・・・・・・ 1888 春雑歌 [題詞](旋頭歌) 白雪之 常敷冬者 過去家良霜 春霞 田菜引野邊之 鴬鳴焉 しらゆきの つねしくふゆは すぎにけらしも はるかすみ たなびくのへの うぐひすなくも ・・・・・・・・・・・・・
* 「しく」【敷く】 敷き詰める 白雪を敷き詰めた冬は過ぎ去ったようだ 春霞がたなびく野辺に鶯の声が聞こえることよ ・・・・・・・・・・・・・ * 「けらし」 [連語]《過去の助動詞「けり」の連体形に推量の助動詞「らし」の付いた「けるらし」の音変化》確実な根拠に基づいて過去の動作・状態を推量する意を表す。 1889 春雑歌,比喩 [題詞]譬喩歌 吾屋前之 毛桃之下尓 月夜指 下心吉 菟楯項者 わがやどの けもものしたに つくよさし したこころよし うたてこのころ ・・・・・・・・・・・・・
* 「け‐もも」【毛桃】 桃の一品種。日本在来のもので、果実は小さくて堅く、毛深い。観賞用。家の庭先の毛桃の下に月の光がさしこんで そこがとても心地良いこの頃です ・・・・・・・・・・・・・ * 「した‐ごころ」【下心】 心の奥深く思っていること。心底。 * 「うたて」いつもと違って、普通じゃない、 [副] ますます。 春相聞 1890 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集,序詞 [題詞]春相聞 春<山> <友>鴬 鳴別 <眷>益間 思御吾 [はるやまの ともうぐひすの なきわかれ] かへりますまも おもほせわれを ・・・・・・・・・・・・・
春日野の鴬が別れを惜しんで 鳴きながら別れるように つらい別れです 私のことをずっと思っていてください お帰りになる道中でも ・・・・・・・・・・・・・ 1891 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞] 冬隠 春開花 手折以 千遍限 戀渡鴨 [ふゆこもり] はるさくはなを たをりもち ちたびのかぎり こひわたるかも
・・・・・・・・・・・・・
春咲く花を手折り持ち 幾たびも恋慕う 冬こもっていた春に その春咲く花を手折っては 限りなく恋し続けることだよ ・・・・・・・・・・・・・ |
|
《重複》 1882 春雑歌,野遊び [題詞](野遊) 春野尓 意将述跡 <念>共 来之今日者 不晩毛荒粳 はるののに こころのべむと おもふどち こしけふのひは くれずもあらぬか ・・・・・・・・・・・・・
春の野でのんびりしようと 仲間どうしでやってきた 今日のこの楽しい日は いつまでも暮れないままであれ ・・・・・・・・・・・・・ サ1883 春雑歌,野遊び,枕詞 [題詞](野遊) 百礒城之 大宮人者 暇有也 梅乎挿頭而 此間集有 [ももしきの] おほみやひとは いとまあれや うめをかざして ここにつどへる ・・・・・・・・・・・・・
* 『新古今集』に山部赤人の歌として、下の句を変えて、宮仕えの大宮人は 今日は暇であるらしい 楽しげに梅の髪飾をりして 春日の野に集っている ・・・・・・・・・・・・・ 「ももしきの 大宮人は暇あれや 桜かざして 今日も暮らしつ」(104)。 * 「百敷の」は「都」や「大宮」を言い出す枕詞。「大宮人」は「宮中にお仕えする人」。 * 「暇あるや」は、暇があると、暇があれば。 サ1884 春雑歌,移ろい,問答 [題詞]歎舊 寒過 暖来者 年月者 雖新有 人者舊去 ふゆすぎて はるしきたれば としつきは あらたなれども ひとはふりゆく ・・・・・・・・・・・・・
* 「来ぬれば」;来ると。冬が過ぎて春がやってくると 年月は新しくなるけれども 人は古くなっていく ・・・・・・・・・・・・・ 「来」カ行変格活用動詞連用形。 「ぬれ」完了助動詞「ぬ」の已然形。 「ば」恒常条件の接続助詞。 *「ども」は接続助詞・逆接(〜けれども)。 1885 春雑歌,移ろい,問答 [題詞](歎舊) 物皆者 新吉 唯 人者舊之 應宜 ものみなは あらたしきよし ただしくも ひとはふりにし よろしかるべし ・・・・・・・・・・・・・
* 「ただしく」【但しく】 (副) 「ただ」を強めた語。物はみな新しいものがよいが ただ人は古くなるのがよろしかろうぞ ・・・・・・・・・・・・・ 1886 春雑歌,大阪,枕詞 [題詞]懽逢 佐吉之 里<行>之鹿歯 春花乃 益希見 君相有香開 すみのえの さとゆきしかば はるはなの いやめづらしき きみにあへるかも ・・・・・・・・・・・・・
住吉の里にでかけたら 春の花が思いかけず咲いていたように 心惹かれるあなたに逢ったことだ ・・・・・・・・・・・・・ 1887 春雑歌,奈良 [題詞]旋頭歌 春日在 三笠乃山尓 月母出奴可母 佐紀山尓 開有櫻之 花乃可見 かすがなる みかさのやまに つきもいでぬかも さきやまに さけるさくらの はなのみゆべく ・・・・・・・・・・・・・
* 佐保山と佐紀山の裾は、かつて平城山(ならやま)と呼ばれ 大宮人の憩いの丘だった。東の春日にある三笠の山に早く月が出てくれないものか 佐紀山の辺に咲く桜の花が 夕影に映えてはっきりと見えるように ・・・・・・・・・・・・・ 1888 春雑歌 [題詞](旋頭歌) 白雪之 常敷冬者 過去家良霜 春霞 田菜引野邊之 鴬鳴焉 しらゆきの つねしくふゆは すぎにけらしも はるかすみ たなびくのへの うぐひすなくも ・・・・・・・・・・・・・
* 「しく」【敷く】 敷き詰める 白雪を敷き詰めた冬は過ぎ去ったようだ 春霞がたなびく野辺に鶯の声が聞こえることよ ・・・・・・・・・・・・・ * 「けらし」 [連語]《過去の助動詞「けり」の連体形に推量の助動詞「らし」の付いた「けるらし」の音変化》確実な根拠に基づいて過去の動作・状態を推量する意を表す。 1889 春雑歌,比喩 [題詞]譬喩歌 吾屋前之 毛桃之下尓 月夜指 下心吉 菟楯項者 わがやどの けもものしたに つくよさし したこころよし うたてこのころ ・・・・・・・・・・・・・
* 「け‐もも」【毛桃】 桃の一品種。日本在来のもので、果実は小さくて堅く、毛深い。観賞用。家の庭先の毛桃の下に月の光がさしこんで そこがとても心地良いこの頃です ・・・・・・・・・・・・・ * 「した‐ごころ」【下心】 心の奥深く思っていること。心底。 * 「うたて」いつもと違って、普通じゃない、 [副] ますます。 春相聞 1890 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集,序詞 [題詞]春相聞 春<山> <友>鴬 鳴別 <眷>益間 思御吾 [はるやまの ともうぐひすの なきわかれ] かへりますまも おもほせわれを ・・・・・・・・・・・・・
春日野の鴬が別れを惜しんで 鳴きながら別れるように つらい別れです 私のことをずっと思っていてください お帰りになる道中でも ・・・・・・・・・・・・・ 1891 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞] 冬隠 春開花 手折以 千遍限 戀渡鴨 [ふゆこもり] はるさくはなを たをりもち ちたびのかぎり こひわたるかも ・・・・・・・・・・・・・
春咲く花を手折り持ち 幾たびも恋慕う 冬こもっていた春に その春咲く花を手折っては 限りなく恋し続けることだよ ・・・・・・・・・・・・・ 1892 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞] 春山 霧惑在 鴬 我益 物念哉 はるやまの きりにまとへる うぐひすも われにまさりて ものもはめやも ・・・・・・・・・・
* 「まど・う」惑う [動ワ五(ハ四)]上代は「まとう」春山の深い霧に包まれて行き先にまよう鶯も われにもまして物思いにふけるだろうか ・・・・・・・・・・ 1 どうしたらよいか判断に苦しむ。 2 道や方向がわからなくなる。まよう。 * 「もの‐も・う」物思ふ [動ハ四]物を思う。物思いにふける。 * 「めや‐も 」は、反語の意の「めや」に、詠嘆の終助詞「も」を添えたもの。 …だろうか、いや、そうではないなあ。 [題詞] 出見 向岡 本繁 開在花 不成不止 いでてみる むかひのをかに もとしげく さきたるはなの ならずはやまじ ・・・・・・・・・・
門を出れば見る向かいの丘に咲く花乙女 しげく言葉をかけて この恋を成就させねばすまぬぞ ・・・・・・・・・・ 1894 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞] 霞發 春永日 戀暮 夜深去 妹相鴨 かすみたつ はるのながひを こひくらし よもふけゆくに いももあはぬかも ・・・・・・・・・・
霞立つ春の長い一日を恋しく思いながら暮らし そしてまた夜が更ける なんとかあの娘と逢えないものかなあ ・・・・・ 昼間は春霞のようにぼうっと戀思いで暮らし 夜になったら妹にあえるぞ ・・・・・・・・・・ サ1895 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞] 春去 先三枝 幸命在 後相 莫戀吾妹 [はるされば まづさきくさの] さきくあらば のちにもあはむ なこひそわぎも ・・・・・・・・・・
<以下転載記事>春が来るとまず咲き出す三枝(さきくさ)のように 無事でいたなら後に逢えるのだから そんなに恋しがらないでおくれ わが妻よ ・・・・・・・・・・ 万葉集と東歌や防人の歌 http://blogs.yahoo.co.jp/dokatakayo/13491555.html * 人麻呂の初期の歌に次のような歌があります。これは、おおむね天智九年から十年頃の作品と思われます。 集歌1895 春去 先三枝 幸命在 後相 莫戀吾妹 春さればまづ三枝の幸くあらば後にも逢はむな恋ひそ吾妹 何の変哲の無い歌のように思えますが、「三枝」とは何でしょうか。三椏(みつまた)のことではないかとする解説もありますが、人麻呂は飛鳥時代の大和の氏族階級の人間であることを前提に考えると、「三枝」は「三枝(さいくさ)」であって、「三椏(みつまた)」ではありません。そして、「三枝」を「三枝(さいくさ)」と詠むと、「後相」の詠みは一義的「後相(ゆりに逢はむ)」と決まります。つまり、集歌1895の書き下し文は次のようにも詠めるのです。 <サ>http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/29009452.html <項>http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/folder/1039689.html?m=lc&p=31 春去(ゆ)けばまづ三枝(さいくさ)の幸く命(みこと)あらば後(ゆり)にも逢はむな恋ひそ吾妹 1896 春相聞,作者:柿本人麻呂歌集 [題詞] 春去 為垂柳 十緒 妹心 乗在鴨 [はるされば しだりやなぎの とををにも] いもはこころに のりにけるかも ・・・・・・・・・・
* 春が来て芽吹いたしだれ柳が たわわに枝を垂らすように 愛しいあの娘が私の心に生えこんで 心がいっぱいなんだよ ・・・・・・・・・・ 「とをを」(形動ナリ)は、「たわわ」の転。しなうさま、たわむさま。 サ1897 春相聞 [題詞]寄鳥 春之在者 伯勞鳥之草具吉 雖不所見 吾者見<将遣> 君之當<乎>婆 はるされば もずのくさぐき みえずとも われはみやらむ きみがあたりをば ・・・・・・・・・・
* 「もずの草ぐき」とは、もずが草の茂みに隠れること。春になると山に戻って人目に触れにくくなる。 春になってもずが草の中に隠れてしまって見えなくなっても 私はあなたの家の方を見てますよ ・・・・・・・・・・ * 「去れ」は季節や時が近づく・来る意。(春に)なると。 * 「去れ」は、ラ行四段活用動詞「去る」の已然形。 * 「ば」は、順接確定条件の続助詞・=。 * 「百舌」は鳥の名。 * 「草くき」は「草潜き」で、「鳥などが草の中に隠れて見えないこと」。* 「む」は意志の助動詞。 * 「が」は所有の格助詞(「の」)。 * 「君が辺りをば」は倒置法。 1898 春相聞 [題詞](寄鳥) 容鳥之 間無數鳴 春野之 草根乃繁 戀毛為鴨 かほどりの まなくしばなく はるののの くさねのしげき こひもするかも ・・・・・・・・・・
* 「かほどり」は「カッコウ」に対して呼ばれたらしいが、後に美しい姿の鳥、即ち、「カヲヨドリ」までもカホドリと呼ぶようになりカワセミや雉などもカホドリの仲間入りをした。何を指したのか不可解な鳥名となっている。貎鳥がしきりに鳴いている春の野は 草もびっしりと茂っています 私もその草のように そして貌鳥のように絶え間なく あなたを呼び続け 恋い慕い続けているのです ・・・・・・・・・・ 1899 春相聞 [題詞]寄花 春去者 宇乃花具多思 吾越之 妹我垣間者 荒来鴨 はるされば うのはなぐたし わがこえし いもがかきまは あれにけるかも ・・・・・・・・・・
* 「に」→「ける」春がめぐりくれば思い出す 垣根の卯の花を傷めながら越えて逢った あの娘が居た家 今ではすっかり荒れ果ててしまったなあ ・・・・・・・・・・ * 「かも」は終助詞「か」に、終助詞「も」のついたもの。詠嘆・感動の意を表す。 * 「ける」は助動詞「けり」の連体形。回想していう。・・・・たのであった。 1900 春相聞 [題詞](寄花) 梅花 咲散苑尓 吾将去 君之使乎 片待香花光 うめのはな さきちるそのに われゆかむ きみがつかひを かたまちがてり ・・・・・・・・・・
* 「片待つ」(他タ四)「かた」は一部分、一事の意。それだけを待つ意。梅の花が咲いては散る園に私はまいります あなたからの使いをお待ちして ・・・・・・・・・・ ひたすら待つ、一方がその相手を待つ意とも。 * 「がてり」は、(接助)他の動作をかねて行う意を表す。・・しつつ。 1901 春相聞,忍び恋 [題詞](寄花) 藤浪 咲春野尓 蔓葛 下夜之戀者 久雲在 ふぢなみの さくはるののに はふくずの したよしこひば ひさしくもあらむ ・・・・・・・・・・
* 「下よし恋ひば」密かに恋していたら藤が豊かに咲く春の野に 這うように延びる葛のように 人目をさけて密かに恋していたら 想いが伝わるにはずいぶん時が経つだろう ・・・・・・・・・・ * 「ば」は(接助)順接の仮定条件を表す。・・たら、・・なら。 (順接の確定条件の場合は、原因・理由を表す。)・・ので。 1902 春相聞 [題詞](寄花) 春野尓 霞棚引 咲花乃 如是成二手尓 不逢君可母 はるののに かすみたなびき さくはなの かくなるまでに あはぬきみかも
・・・・・・・・・・
春の野に霞がたなびいて 咲いている花がこんなになるまでも 逢ってくださらない あなた ・・・・・・・・・・ |
|
1949 夏雑歌,問いかけ [題詞](詠鳥) 霍公鳥 今朝之旦明尓 鳴都流波 君将聞可 朝宿疑将寐 ほととぎす けさのあさけに なきつるは きみききけむか あさいかねけむ ・・・・・・・・
ホトトギスが今朝の明け方に鳴いたのを あの方はお聞きになったでしょうか それともぐっすりと寝ていらっしゃったかしら ・・・・・・・・ 1950 夏雑歌,叙景 [題詞](詠鳥) 霍公鳥 花橘之 枝尓居而 鳴響者 花波散乍 ほととぎす はなたちばなの えだにゐて なきとよもせば はなはちりつつ ・・・・・・・・
ホトトギスが咲き匂う花橘の枝にとまって 鳴きたてるたびに花が散りゆく ・・・・・・・・ 1951 夏雑歌 [題詞](詠鳥) 慨哉 四去霍公鳥 今社者 音之干蟹 来喧響目 うれたきや しこほととぎす いまこそば こゑのかるがに きなきとよめめ ・・・・・・・・
にくたらしいぞ ろくでなしのホトトギスめ みんなが待っているこんな時にこそ 声もかれてしまうほど 来て鳴き響けばいいのに ・・・・・・・・ 1952 夏雑歌,叙景 [題詞](詠鳥) 今夜乃 於保束無荷 霍公鳥 喧奈流聲之 音乃遥左 こよひの おほつかなきに ほととぎす なくなるこゑの おとのはるけさ ・・・・・・・・
月がなくあたりのおぼつかない今宵 闇をとおしてホトトギスの鳴く声であろうか 遥か彼方から聞こえてくる ・・・・・・・・ 1953 夏雑歌 [題詞](詠鳥) 五月山 宇能花月夜 霍公鳥 雖聞不飽 又鳴鴨 さつきやま うのはなづくよ ほととぎす きけどもあかず またなかぬかも ・・・・・・・・
五月の山を月が照らして 卯の花を浮かび上がらせている今宵 こんな夜のホトトギスの声は いくら聞いても聞き飽きることがない もういちどまた鳴かないものか ・・・・・・・・ 1954 夏雑歌 [題詞](詠鳥) 霍公鳥 来居裳鳴香 吾屋前乃 花橘乃 地二落六見牟 ほととぎす きゐもなかぬか わがやどの はなたちばなの つちにおちむみむ ・・・・・・・・
ほととぎすよ わが家に来て何故鳴かないのか おまえの鳴声を待ちかねた花橘が ただ地に地に落ちているではないか ・・・・・・・・ 1955 夏雑歌 [題詞](詠鳥) 霍公鳥 厭時無 菖蒲 蘰将為日 従此鳴度礼 ほととぎす いとふときなし あやめぐさ かづらにせむひ こゆなきわたれ ・・・・・・・・
霍公鳥よ いとう時など無いから あやめぐさをかづらにする日には かならず鳴き渡って来なさい ・・・・・・・・ 1956 夏雑歌,奈良,懐古 [題詞](詠鳥) 山跡庭 啼而香将来 霍公鳥 汝鳴毎 無人所念 やまとには なきてかくらむ ほととぎす ながなくごとに なきひとおもほゆ ・・・・・・・・
* 「啼きてか来らむ」は、大和の方へ行くだろうで、大和の方へ親しんで啼いて行く意となる。大和の方へ親しんで啼き渡って行くほととぎす おまえが鳴くと亡き人が偲ばれることであるよ ・・・・・・・・ 1957 夏雑歌,叙景 [題詞](詠鳥) 宇能花乃 散巻惜 霍公鳥 野出山入 来鳴令動 うのはなの ちらまくをしみ ほととぎす のにいでやまにいり きなきとよもす ・・・・・・・・
* とよもす【▽響もす】[動サ五(四)]声や音をひびかせる。卯の花の花が散るのが惜しいと ほととぎすが野山を飛び回って 山彦のように鳴いているよ ・・・・・・・・ 1958 夏雑歌 [題詞](詠鳥) 橘之 林乎殖 霍公鳥 常尓冬及 住度金 たちばなの はやしをうゑむ ほととぎす つねにふゆまで すみわたるがね ・・・・・・・・
* 「がね」[接助・終助・接尾]動詞の連体形に付く。願望・命令・意志などの表現を受けて、目的・理由を表す。…するように。…するために。橘を沢山植えて林を造ろう ほととぎすが年中住み着けるように ・・・・・・・・ 1959 夏雑歌,奈良,叙景 [題詞](詠鳥) 雨へ之 雲尓副而 霍公鳥 指春日而 従此鳴度 あまばれの くもにたぐひて ほととぎす かすがをさして こゆなきわたる ・・・・・・・・
降りしきっていた雨が上がり 流れる雲を追いかけるかのように ホトトギスが春日を目指して この上を鳴きながら飛んで行く ・・・・・・・・ 1960 夏雑歌 [題詞](詠鳥) 物念登 不宿旦開尓 霍公鳥 鳴而左度 為便無左右二 ものもふと いねぬあさけに ほととぎす なきてさわたる すべなきまでに
・・・・・・・・
* 「寐ねぬ」寝られずいる物思いで寝られずいる朝明に ほととぎすが広い空を渡って行く 何ともどうしようもないということだなあ ・・・・・・・・ * 「さわたる」(自ラ四)は、「さ」(接頭)、広い時間・空間を越えて移って行く感じ。 |






