ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第十一巻

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正述心緒(正(ただ)に心緒(おもひ)を述ぶ)



2368 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞]正述心緒

垂乳根乃  母之手放  如是許  無為便事者  未為國

たらちねの 母が手離れ かくばかり すべなきことは いまだせなくに 

[たらちねの] ははがてはなれ かくばかり すべなきことは いまだせなくに
・・・・・・・・・
物心がついて

母の手から離れると

これほどどうしようもない

未経験のめにあうのかしら

母を頼らないではいられない
・・・・・・・・・




2369作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

人所寐  味宿不寐  早敷八四  公目尚  欲嘆 [或本歌云 公矣思尓 暁来鴨]

人の寝る 味寐は寝ずて はしきやし 君が目すらを 欲りし嘆かむ [或本歌云 君を思ふに 明けにけるかも] 

ひとのぬる うまいはねずて はしきやし きみがめすらを ほりしなげかむ[きみをおもふに あけにけるかも]
・・・・・・・・・
君を思っているうちに夜が明けてしまう

人並みに寝て熟睡するようには寝ることが出来なくて

せめて夢の中で愛しい貴方の姿を見たいと思い嘆いても

・・・・・・・・・
* 「はしきやし」 いとおしい



2370作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

戀死  戀死耶  玉鉾  路行人  事告<無>

恋ひしなば 恋ひも死ねとや 玉桙の 道行く人の 言も告げなく 

こひしなば こひもしねとや [たまほこの] みちゆくひとの こともつげなく
・・・・・・・・・
恋に苦しんで死ねば

もうその恋も無くなるではないか ですか

路行く人は勝手に焦れ死ねよと

そんな言づても告げてはくれない
・・・・・・・・・



2371作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

心  千遍雖念  人不云  吾戀つ  見依鴨

心には 千重に思へど 人に言はぬ 我が恋妻を 見むよしもがも 

こころには ちへにおもへど ひとにいはぬ あがこひづまを みむよしもがも
・・・・・・・・・
貴女を愛していると

心の中では千遍も思っていても

人には云いません

私の恋妻に逢う機会がないままかよ

なにか方法がないものかなあ
・・・・・・・・・




2372作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

是量  戀物  知者  遠可見  有物

かくばかり 恋ひむものぞと 知らませば 遠くも見べく あらましものを 

かくばかり こひむものぞと しらませば とほくもみべく あらましものを
・・・・・・・・・
このように貴女に恋するものだと知っていたら

初めに貴女の姿を見たとき

遠くからぼんやりと見るべきでした
・・・・・・・・・



2373作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

何時  不戀時  雖不有  夕方<任>  戀無乏

いつはしも 恋ひぬ時とは あらねども 夕かたまけて 恋ひはすべなし 

いつはしも こひぬときとは あらねども ゆふかたまけて こひはすべなし
・・・・・・・・・
いつも貴女を恋い慕わないときはありませんが

夕方が近づくにつれて

恋心はもうどうしようもありません
・・・・・・・・・



2374作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

是耳  戀度  玉切  不知命  歳經管

かくのみし 恋ひやわたらむ たまきはる 命も知らず 年は経につつ 

かくのみし こひやわたらむ [たまきはる] いのちもしらず としはへにつつ
・・・・・・・・・
このように魂の極まる恋をし続けている

命も知らず年を過ごしている

そうとも 死が別つまでさ
・・・・・・・・・



2375作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

吾以後  所生人  如我  戀為道  相与勿湯目

我れゆ後 生まれむ人は 我がごとく 恋する道に あひこすなゆめ 

われゆのち うまれむひとは あがごとく こひするみちに あひこすなゆめ
・・・・・・・・・
後の世の人よ

私のような恋はし給うな

楽しい恋をすることだ

果てしない苦しみの恋には

ゆめ決して遭わないでほしい
・・・・・・・・・



2376作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

健男  現心  吾無  夜晝不云  戀度

ますらをの 現し心も 我れはなし 夜昼といはず 恋ひしわたれば 

ますらをの うつしごころも われはなし よるひるといはず こひしわたれば
・・・・・・・・・
立派な男だてを示す心意気は私にはありません

夜昼と云わずに貴女にべったり恋し続けている私には
・・・・・・・・・



2377作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

何為  命継  吾妹  不戀前  死物

何せむに 命継ぎけむ 我妹子に 恋ひぬ前にも 死なましものを 

なにせむに いのちつぎけむ わぎもこに こひぬさきにも しなましものを
・・・・・・・・・
どのように私の命を永らえましょう

愛しい貴女と恋の行為をする前に

もう苦しみに死んでしまいそうだ
・・・・・・・・・



2378作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

吉恵哉 不来座公 何為 不Q吾 戀乍居

よしゑやし 来まさぬ君を 何せむに いとはず我れは 恋ひつつ居らむ 

よしゑやし きまさぬきみを なにせむに いとはずあれは こひつつをらむ
・・・・・・・・・
いいですよかまいません

いらっしゃらない貴方を

厭わずそれでも私は貴方に恋し続けていますよ
・・・・・・・・・



2379作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

見度  近渡乎  廻  今哉来座  戀居

見わたせば 近き渡りを た廻り 今か来ますと 恋ひつつぞ居る 

みわたせば ちかきわたりを たもとほり いまかきますと こひつつぞをる
・・・・・・・・・
向こう岸まで見渡せば近いその辺を

わざと回り道して 

もうお見えになるかと 

貴方を恋い慕いながら待っています
・・・・・・・・・


2380 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

早敷哉  誰障鴨  玉桙  路見遺  公不来座

はしきやし 誰が障ふれかも 玉桙の 道見忘れて 君が来まさぬ 

はしきやし たがさふれかも [たまほこの] みちみわすれて きみがきまさぬ
・・・・・・・・・
ああ愛おしい

誰かが邪魔をしているのでしょうか

立派な桙の立つ宮かどの道を忘れたのか

貴方がやって来ません
・・・・・・・・・



2381 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

公目 見欲 是二夜 千歳如 吾戀哉

君が目を 見まく欲りして この二夜 千年のごとも 我は恋ふるかも 

きみがめを みまくほりして このふたよ ちとせのごとも あはこふるかも
・・・・・・・・・
貴方の目を見つめようと思って

この二夜

まるで千年のように感じて待ち侘び

私は貴方を慕っているのですよ
・・・・・・・・・



サ2382 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

打日刺  宮道人  雖満行  吾念公  正一人

うち日さす 宮道を人は 満ち行けど 我が思ふ君は ただひとりのみ 

[うちひさす] みやぢをひとは みちゆけど あがおもふきみは ただひとりのみ
・・・・・・・・・
日に照り映える荘厳な宮殿への道を

人は溢れるように歩いて行くが

私のおもう人はただ一人

君 ただ一人のみ
・・・・・・・・・
* 「打日刺」枕詞―うちひさす。 「うちひさす」は「うちひさつ」とも
語義およびかかり方未詳。「宮」「都」にかかる。栄光にして荘厳の意とか。
『角川漢和中辞典』では、「都」は「総・ふさ」と同訓、同義でもあり、語源は「あつまる」。「まとめる、みやびやか〔都雅〕、うつくしい」の意味をもつ。
* 「打日刺」、それにしても痛々しい当て字と私は思う。



2383 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

世中 常如  雖念  半手不<忘>  猶戀在

世の中は 常かくのみと 思へども はたた忘れず なほ恋ひにけり 

よのなかは つねかくのみと おもへども はたたわすれず なほこひにけり
・・・・・・・・・
世の中は常々このようなものかと思いはするが

この恋心はどうしても忘れることが出来ず

なおさらながら想いがつのることよ
・・・・・・・・・
* 「はたたわすれず」・「かつてわすれず」
(半手不<忘>)・(曽不忘) 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#535かつてわすれず(曽不忘)




2384 作者:柿本人麻呂歌集,女歌

[題詞](正述心緒)

我勢古波  幸座  遍来  我告来  人来鴨

我が背子は 幸くいますと 帰り来と 我れに告げ来む 人も来ぬかも 

わがせこは さきくいますと かへりくと あれにつげこむ ひともこぬかも
・・・・・・・・・
大切な貴方が無事で居ますよ

無事にお帰りになりますよと

私に告げに来る人は来ないようですねえ
・・・・・・・・・



2385 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

<麁>玉  五年雖經  吾戀  跡無戀  不止恠

あらたまの 五年経れど 我が恋の 跡なき恋の やまなくあやし 

[あらたまの] いつとせふれど あがこひの あとなきこひの やまなくあやし
・・・・・・・・・
年が新らたまりつつ五年過ごしたが

実際に愛し抱き合うことの出来ないそんな恋

なのに止むことがない恋の不思議さよ
・・・・・・・・・



2386 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

石尚  行應通  建男  戀云事  後悔在

巌すら 行き通るべき ますらをも 恋といふことは 後悔いにけり 

いはほすら ゆきとほるべき ますらをも こひといふことは のちくいにけり
・・・・・・・・・
巌であっても踏破して当然の男児なのに

相手が恋となるとひるんで後になって悔いることよ
・・・・・・・・・



2387 作者:柿本人麻呂歌集,うわさ

[題詞](正述心緒)

日<位>  人可知  今日  如千歳  有与鴨

日並べば 人知りぬべし 今日の日は 千年のごとも ありこせぬかも 

ひならべば ひとしりぬべし けふのひは ちとせのごとも ありこせぬかも
・・・・・・・・・
このような日が続くと人が貴方と私の仲を気づくでしょう

今日の一日は千年のように長くならないでしょうか
・・・・・・・・・



2388 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

立座  <態>不知  雖念  妹不告  間使不来

立ちて居て たづきも知らず 思へども 妹に告げねば 間使も来ず 

たちてゐて たづきもしらず おもへども いもにつげねば まつかひもこず
・・・・・・・・・
居ても立ってもこの恋を表す方法がわからない

いくら貴女を慕っていても

それを告げなくては

貴女からの使いも来ませんね
・・・・・・・・・



2389 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,女歌,後朝

[題詞](正述心緒)

烏玉  是夜莫明  朱引  朝行公  待苦

ぬばたまの この夜な明けそ 赤らひく 朝行く君を 待たば苦しも 

[ぬばたまの] このよなあけそ あからひく あさゆくきみを またばくるしも
・・・・・・・・・
この夜よ明け白むな 

知るや暁の中をゆく君を送るつらさを

朱に染まっている私の体が

次に逢うときまで待つのが辛いと疼く
・・・・・・・・・



2390 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

戀為  死為物  有<者>  我身千遍  死反

恋するに 死するものに あらませば 我が身は千たび 死にかへらまし 

こひするに しにするものに あらませば あがみはちたび しにかへらまし
・・・・・・・・・
抱かれてそのために死ぬのでしたら

私の体は千遍も死んで生き還りましょう
・・・・・・・・・



2391 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

玉響  昨夕  見物  今朝  可戀物

玉かぎる 昨日の夕 見しものを 今日の朝に 恋ふべきものか 

[たまかぎる] きのふのゆふへ みしものを けふのあしたに こふべきものか
・・・・・・・・・
玉がほのかに光り

触れ合うかすかな音

昨夜にお会いした貴方なのに

今朝には面影が棲みついて

もう私は恋におちてしまいました
・・・・・・・・・


2406 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

狛錦  紐解開  夕<谷>  不知有命  戀有

高麗錦 紐解き開けて 夕だに 知らずある命 恋ひつつかあらむ 

こまにしき ひもときあけて ゆふへだに しらずあるいのち こひつつかあらむ
・・・・・・・・・・・
美しい高麗の錦の紐を解き衣を脱いで

今宵だけでも

生きているのか死んでいるのか判らない

そんな夢の中で貴女を抱きしめましょう
・・・・・・・・・・・



2407 作者:柿本人麻呂歌集,女歌,占い

[題詞](正述心緒)

百積  船潜納  八占刺  母雖問  其名不謂

百積の 船隠り入る 八占さし 母は問ふとも その名は告らじ 

ももさかの ふねかくりいる [やうらさし] はははとふとも そのなはのらじ
・・・・・・・・・・・
百尺の大船が入る港で

占いを立てて母が聞いても

決してその人の名は言うまい
・・・・・・・・・・・
* 「ももさか」 百積/百石 「さか」は容積の単位。百石。また、容積の大きいこと。
* 「やうらさし」複数の占いをし、みずからにとって都合のよい結果を探し求めているように見える。(枕詞)。
* 当時は母系であるから、母の許しが必要だった。母は、わが子の相手が、誰なのかに、深く興味を持つ。名前を告げて、母が反対したら大変である。
結婚をして子供が出来ると女の実家で育てることになる。
それは、母親にとっては、重大なことである。
古代は母系、身分でさえ母の血筋が主体となった。



2408 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

眉根削  鼻鳴紐解  待哉  何時見  念<吾>

眉根掻き 鼻ひ紐解け 待つらむか いつかも見むと 思へる我れを 

まよねかき はなひひもとけ まつらむか いつかもみむと おもへるわれを
・・・・・・・・・・・
眉毛に化粧をして小鼻を鳴らし

上着の衣の紐を解いて

貴方を待っていましょう

何時、いらっしゃるのかと

思っています  私は
・・・・・・・・・・・



2409 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

君戀  浦經居  悔  我裏紐  結手徒

君に恋ひ うらぶれ居れば 悔しくも 我が下紐の 結ふ手いたづらに 

きみにこひ うらぶれをれば くやしくも わがしたびもの ゆふていたづらに
・・・・・・・・・・・
恋しい貴方逢えないで寂しく思っていると

悔しいことに夜着を留める

下紐を結ぶ手も空しい
・・・・・・・・・・・



2410 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

璞之  年者竟杼  敷白之  袖易子少  忘而念哉

あらたまの 年は果つれど 敷栲の 袖交へし子を 忘れて思へや 

[あらたまの] としははつれど [しきたへの] そでかへしこを わすれておもへや
・・・・・・・・・・・
年も終わってしまったけれど

夜寝る床で衣を脱いでお互いの体に掛け合った貴女を

忘れてしまったと思っていますか
・・・・・・・・・・・



2411 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](正述心緒)

白細布  袖小端  見柄  如是有戀  吾為鴨

白栲の 袖をはつはつ 見しからに かかる恋をも 我れはするかも 

[しろたへの] そでをはつはつ みしからに かかるこひをも あれはするかも
・・・・・・・・・・・
神事で着る白い栲の貴女の袖を

わずかに見てしまったからでしょうか

それでこのような恋を私はするのでしょう
・・・・・・・・・・・



2412 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

我妹 戀無乏 夢見 吾雖念 不所寐

我妹子に 恋ひすべながり 夢に見むと 我れは思へど 寐ねらえなくに

わぎもこに こひすべながり いめにみむと われはおもへど いねらえなくに
・・・・・・・・・・・
美しい貴女に恋する手立てはありません

夢に貴女の姿を見ようと私は思うのですが

恋が募って寝るどころではありません
・・・・・・・・・・・




2413 作者:柿本人麻呂歌集,うわさ

[題詞](正述心緒)

故無  吾裏紐  令解  人莫知  及正逢

故もなく 我が下紐を 解けしめて 人にな知らせ 直に逢ふまでに 

ゆゑもなく わがしたびもを とけしめて ひとになしらせ ただにあふまでに
・・・・・・・・・・・
逢ってもいないのに

私の下着の紐を貴方は夢の中で解かさせて

そんなことを人には気づかせないで

本当に逢って紐を解くまでは
・・・・・・・・・・・



2414 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](正述心緒)

戀事  意追不得  出行者  山川  不知来

恋ふること 慰めかねて 出でて行けば 山を川をも 知らず来にけり 

こふること なぐさめかねて いでてゆけば やまをかはをも しらずきにけり
・・・・・・・・・・・
貴女とい抱き合うことを忘れかねて

山も川も所も知らずにさまよい歩く恋の切なさ 
・・・・・・・・・・・


2449 作者:柿本人麻呂歌集,飛鳥,奈良,序詞

[題詞](寄物陳思)

香山尓  雲位桁曵  於保々思久  相見子等乎  後戀牟鴨

香具山に 雲居たなびき おほほしく 相見し子らを 後恋ひむかも 

[かぐやまに くもゐたなびき おほほしく] あひみしこらを のちこひむかも
・・・・・・・・・・
雲がたなびく香具山はおぼろ

あの朧な山のようにぼんやりと出会ったあの子を

後になったこれからも恋するのでしょうか

素敵な乙女であったことよ
 ・・・・・・・・・・



2450 作者:柿本人麻呂歌集,序詞

[題詞](寄物陳思)

雲間従  狭や月乃  於保々思久  相見子等乎  見因鴨

雲間より さ渡る月の おほほしく 相見し子らを 見むよしもがも 

[くもまより さわたるつきの おほほしく] あひみしこらを みむよしもがも
・・・・・・・・・・
雲間に渡る月が時より顔を見せるように

ぼんやりと互いに出会った乙女よ

もう一度会う機会が欲しい

もう見ることはできないのだろうか
・・・・・・・・・・



2451 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](寄物陳思)

天雲  依相遠  雖不相  異手枕  吾纒哉

天雲の 寄り合ひ遠み 逢はずとも 異し手枕 我れまかめやも 

あまくもの よりあひとほみ あはずとも あたしたまくら われまかめやも
・・・・・・・・・・
天の雲が寄り合う果てのように遠く離れて

逢うことが出来ないからといって

他の女性の手枕で寝ようなんて

私がどうしできよう
・・・・・・・・・・



2452 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](寄物陳思)

雲谷  灼發  意追  見乍<居>  及直相

雲だにも しるくし立たば 慰めて 見つつも居らむ 直に逢ふまでに 

くもだにも しるくしたたば なぐさめて みつつもをらむ ただにあふまでに
・・・・・・・・・・
あなたの姿に見える雲だけでも湧き立ってくれたら 

見るだけでなぐさめられていられる

直接逢った時を思うほどまでに
・・・・・・・・・・
* なぐさめにみつつもあらむ(意追見乍有) 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#537なぐさめにみつつもあらむ(意追見乍有)





サ2453 作者:柿本人麻呂歌集,序詞,奈良,枕詞

[題詞](寄物陳思)

春楊  葛山  發雲  立座  妹念

春柳 葛城山に 立つ雲の 立ちても居ても 妹をしぞ思ふ 

[はるやなぎ] かづらきやまに たつくもの] たちてもゐても いもをしぞおもふ
・・・・・・・・・・
春柳を鬘(かずら)挿す葛城山の雲ではないが
 
居ても立っても貴女のことだけが偲ばれる
・・・・・・・・・・
* 「楊奈疑」→柳。(春楊 葛山 發雲 立座 妹念(2453)→春柳 葛城山に 立つ雲の 立ちても居ても 妹をしぞ思ふ
 「發」→可須美多都・霞發
 「立つ」「居る(ゐる)」「いも」「思ふ」
 「葛山」→「葛城山」を漢文風に表記。)
* 「表語文字」の歌の代表。10字で表す。お見事。
* 「混成」の一首
人毛奈吉 空家者 草枕 旅尓益而 辛苦有家里(451)
人もなき 空しき家は 草枕 旅にまさりて 苦しくありけり
妻のいない空しい家は
苦しい旅にもまして
耐え難く辛いことだよ

* 「万葉仮名の一例」
多良知祢乃  波々乎和加例弖  麻許等和例  多非乃加里保尓  夜須久祢牟加母 4348
たらちねの 母を別れて まこと吾れ 旅の仮廬に 安く寝むかも
母とも別れて旅の仮小屋
ほんとうに
気安く寝ることができるのかなあ

* 漢字は、1字で1語を表し1音で読まれるものだが、語としての意味は捨てて、音を表す記号と化して元来「表語文字」である漢字を「表音文字」として使っているのが「仮字」(「仮名」)で、後世のひらがなとは別ものだが、これらは、一般には万葉時代に用いられた仮名、すなわち「万葉仮名」と呼ばれる。この「万葉仮名」を草書体に崩したものが「草仮名」。さらに崩して、もはや漢字としての書体を越えたものが「ひらがな」となる。




2454 作者:柿本人麻呂歌集,奈良

[題詞](寄物陳思)

春日山  雲座隠  雖遠  家不念  公念

春日山 雲居隠りて 遠けども 家は思はず 君をしぞ思ふ 

[かすがやま くもゐかくりて とほけども] いへはおもはず きみをしぞおもふ
・・・・・・・・・・
春日山は雲に隠れて遙かに遠いのですが

故郷大和の家のことは思い出さず
 
あの方のことばかり思っているわたしであることよ
・・・・・・・・・・


2455 作者:柿本人麻呂歌集,うわさ

[題詞](寄物陳思)

我故  所云妹  高山之  峯朝霧  過兼鴨

我がゆゑに 言はれし妹は 高山の 嶺の朝霧 過ぎにけむかも 

わがゆゑに いはれしいもは [たかやまの みねのあさぎり] すぎにけむかも
・・・・・・・・・・
私のせいで人に噂されたあの女は

まるで高山の嶺の朝霧が消えて行くように

もうあきらめて

どこかへ去ってしまったのだろうか
・・・・・・・・・・



2456 作者:柿本人麻呂歌集,奈良,枕詞,序詞

[題詞](寄物陳思)

烏玉  黒髪山  山草  小雨零敷  益々所<思>

ぬばたまの 黒髪山の 山菅に 小雨降りしき しくしく思ほゆ 

[ぬばたまの] くろかみやまの やますげに] こさめふりしき しくしくおもほゆ
・・・・・・・・・・
黒髪山の草の上に小雨が降りしきるように

しっとりとした黒髪のあの子を 

しきりに思いだしています
・・・・・・・・・・



2457 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](寄物陳思)

大野  小雨被敷  木本  時依来  我念人

大野らに 小雨降りしく 木の下に 時と寄り来ね 我が思ふ人 

おほのらに こさめふりしく このもとに ときとよりこね わがおもふひと
・・・・・・・・・・
大野に小雨が降りしきる

木の下に雨宿りするように

ちょうどよいと遣って来て下さい

私の愛する貴方
・・・・・・・・・・



2458 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](寄物陳思)

朝霜  消々  念乍  何此夜  明鴨

朝霜の 消なば消ぬべく 思ひつつ いかにこの夜を 明かしてむかも 

[あさしもの] けなばけぬべく おもひつつ いかにこのよを あかしてむかも
・・・・・・・・・・
朝霜は消えるなら消えてしまうが

消えぬ貴方への恋心を抱いて

どのようにこの夜を明かしましょうか
・・・・・・・・・・



2459 作者:柿本人麻呂歌集,序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

吾背兒我  濱行風  弥急  急事  益不相有

我が背子が 浜行く風の いや早に 言を早みか いや逢はずあらむ 

[わがせこが はまゆくかぜの いやはやに] ことをはやみか いやあはずあらむ
・・・・・・・・・・
私の愛しいひとの浜に行こうにも

その浜風がとても早くて

事が起こってそれで逢うことが出来ません
・・・・・・・・・・



2460 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](寄物陳思)

遠妹  振仰見  偲  是月面  雲勿棚引

遠き妹が 振り放け見つつ 偲ふらむ この月の面に 雲なたなびき 

とほきいもが ふりさけみつつ しのふらむ このつきのおもに くもなたなびき
・・・・・・・・・・
遠い所にいる愛しい貴女が  

私のように空を見上げて偲ぶのでしょう

この月に面蔭が見えているもの

この月を隠すなんていけないよ

ね 棚引く雲よ
・・・・・・・・・・


2483 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,髪

[題詞](寄物陳思)

敷栲之  衣手離而  玉藻成  靡可宿濫  和乎待難尓

敷栲の 衣手離れて 玉藻なす 靡きか寝らむ 我を待ちかてに 

[しきたへの] ころもでかれて [たまもなす] なびきかぬらむ わをまちかてに
・・・・・・・・・
互いの衣を体に掛け合うこともない

美しい藻のような黒髪を貴方に着せて共寝をしたい

ただ 待ちわびているしきたへの夜よ
・・・・・・・・・



2484 作者:柿本人麻呂歌集,勧誘

[題詞](寄物陳思)

君不来者  形見為等  我二人  殖松木  君乎待出牟

君来ずは 形見にせむと 我がふたり 植ゑし松の木 君を待ち出でむ 

きみこずは かたみにせむと わがふたり うゑしまつのき きみをまちいでむ
・・・・・・・・・
貴方が訪れないのなら

貴方と思って二人で植えた待合の

その松の木へ貴方を待ちに出かけよう
・・・・・・・・・



2485 作者:柿本人麻呂歌集,女歌,後朝別れ

[題詞](寄物陳思)

袖振  可見限  吾雖有  其松枝  隠在

袖振らば 見ゆべき限り 我れはあれど その松が枝に 隠らひにけり 

そでふらば みゆべきかぎり われはあれど そのまつがえに かくらひにけり
・・・・・・・・・
心を寄せて袖振る貴女を

見える限り私は見つづけているのに

松の木の陰にもう隠れてしまいました
・・・・・・・・・



2486 作者:柿本人麻呂歌集,大阪,序詞,掛詞

[題詞](寄物陳思)

珍海  濱邊小松  根深  吾戀度  人子○

茅渟の海の 浜辺の小松 根深めて 我れ恋ひわたる 人の子ゆゑに 

[ちぬのうみの はまへのこまつ ねふかめて] あれこひわたる ひとのこゆゑに
・・・・・・・・・
茅渟の海の浜辺の小松は

しだいに根を深く拡げるように

わたしの恋も思いが深まるばかり

あの子は出逢えない箱入り娘だから
・・・・・・・・・
  * 茅渟(ちぬ)の海は大阪南部から堺市にかけての海岸。現在は大阪湾全体の美称。



2486S 作者:柿本人麻呂歌集,大阪,序詞

[題詞](寄物陳思)或本歌<曰>

血沼之海之  塩干能小松  根母己呂尓  戀屋度  人兒故尓

茅渟の海の 潮干の小松 ねもころに 恋ひやわたらむ 人の子ゆゑに 

[ちぬのうみの しほひのこまつ ねもころに] こひやわたらむ ひとのこゆゑに
・・・・・・・・・
茅渟の海の浜辺の小松は一面に行き渡るように

わたしの恋も広く深まるばかり

あの子は人の大事な箱入り娘だから
・・・・・・・・・



2487 作者:柿本人麻呂歌集,奈良,序詞

[題詞](寄物陳思)

平山  子松末  有廉叙波  我思妹  不相止<者>

奈良山の 小松が末の うれむぞは 我が思ふ妹に 逢はずやみなむ 

[ならやまの こまつがうれの うれむぞは] あがおもふいもに あはずやみなむ
・・・・・・・・・
奈良山の小松の若芽が芽生えるように
 
日に日に可愛くなるあの子に

どうしてまあ

逢わずにすますことなどできようか
・・・・・・・・・
* 「うれむぞ」どうしてまあ。


2488 作者:柿本人麻呂歌集,序詞

[題詞](寄物陳思)

礒上  立廻香<樹>  心哀  何深目  念始

礒の上に 立てるむろの木 ねもころに 何しか深め 思ひそめけむ 

[いそのうへに たてるむろのき ねもころに] なにしかふかめ おもひそめけむ
・・・・・・・・・
磐の上に立て廻す神の依り代のむろの木に

心を懸け想いを深めて貴女を愛し始めました
・・・・・・・・・



2489 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](寄物陳思)

橘  本我立  下枝取  成哉君  問子等

橘の 本に我を立て 下枝取り ならむや君と 問ひし子らはも 

たちばなの もとにわをたて しづえとり ならむやきみと とひしこらはも
・・・・・・・・・
橘の木の下に私を立たせ

下枝を手にとって 

「実を結ぶでしょうか あなた」と

わたしに聞いたあの娘 

どうしているのかなあ
・・・・・・・・・
* 「はも」は係助詞(終助詞的用法)「は」に終助詞「も」のついたもの。強い詠嘆の意を表す。



2490 作者:柿本人麻呂歌集,序詞

[題詞](寄物陳思)

天雲尓  翼打附而  飛鶴乃  多頭々々思鴨  君不座者

天雲に 翼打ちつけて 飛ぶ鶴の たづたづしかも 君しまさねば 

[あまくもに はねうちつけて とぶたづの] たづたづしかも きみしまさねば
・・・・・・・・・
雲に翼を打ちつけるように飛ぶ鶴がたくさんいるように

千路に乱れて思い悩んでいます

貴方がいらっしゃらないので
・・・・・・・・・



2491 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞](寄物陳思)

妹戀  不寐朝明  男為鳥  従是此度  妹使

妹に恋ひ 寐ねぬ朝明に をし鳥の こゆかく渡る 妹が使か 

いもにこひ いねぬあさけに をしどりの こゆかくわたる いもがつかひか
・・・・・・・・・
あの娘に恋して寝られずいる夜明けに

鴛鴦が仲良くここに渡っているのは

貴女からの使いでしょうか
・・・・・・・・・
鴛鴦(えんおう)の契りとは、オシドリのようにつがいのきずなが固く、死ぬまで変わらないことで、鴛が雄、鴦は雌。
おしどり夫婦ともいうが、実はカモがつがいになるのは繁殖期だけ。生涯雌雄が寄り添うと考えられてきたが、DNA鑑定の結果、ほとんんどのカモの種がつがい相手以外と交尾することがわかった。オシドリもご多分に漏れず、仲むつまじいのは雌が卵を温め始めるまで。雌の抱卵中、オシドリの雄は雄だけの群れを作り、独身の雌が現れると、雄たちは積極的にアプローチするという。



2492 作者:柿本人麻呂歌集,うわさ,枕詞

[題詞](寄物陳思)

念  餘者  丹穂鳥  足<沾>来  人見鴨

思ひにし あまりにしかば にほ鳥の なづさひ来しを 人見けむかも 

おもひにし あまりにしかば [にほどりの] なづさひこしを ひとみけむかも
・・・・・・・・・
思いあまって鳰鳥が水にもぐるのようにして

ずぶぬれになって川を渡って来ましたが

人が見てしまったでしょうか
・・・・・・・・・
におどり‐の〔にほどり‐〕カイツブリ
[枕]
1 鳰鳥が水に潜(かず)き、長くもぐる意から、「葛飾(かづしか)」「息長(おきなが)」に掛かる。
2 鳰鳥が雌雄並んで水に意から、「なづさふ」「二人並びゐ」に掛かる。




2493 作者:柿本人麻呂歌集,序詞,別離

[題詞](寄物陳思)

高山  峯行完  <友>衆  袖不振来  忘念勿

高山の 嶺行くししの 友を多み 袖振らず来ぬ 忘ると思ふな 

[たかやまの みねゆくししの ともをおほみ] そでふらずきぬ わするとおもふな
・・・・・・・・・
高い山の峰を行く鹿や猪のように供が多いので

貴女に別れの袖を振らないで来ました

私が貴女を忘れていると思わないで下さい
・・・・・・・・・

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