ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第十一巻

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2494 作者:柿本人麻呂歌集,船旅

[題詞](寄物陳思)

大船  真楫繁拔  榜間  極太戀  年在如何

大船に 真楫しじ貫き 漕ぐほとも ここだ恋ふるを 年にあらばいかに 

[おほぶねに まかぢしじぬき こぐほとも] ここだこふるを としにあらばいかに
・・・・・・・・・・
大船に立派な梶を貫き下ろし漕ぐように 

これほどはっきり貴女に恋をしているのに

逢えない年月があたらどうしようか
・・・・・・・・・・



サ2495 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,序詞

[題詞](寄物陳思)

足常  母養子  眉隠  隠在妹  見依鴨

たらつねの 母が養ふ蚕の 繭隠り 隠れる妹を 見むよしもがも 

[たらつねの ははがかふこの まよごもり] こもれるいもを みむよしもがも
・・・・・・・・・・
蚕が繭に籠るように 

母親が家の奥深くに隠している

その子に会う方法はないものか
・・・・・・・・・・
* 「繭隠り」は、蚕が繭の中にこもること。
* 「よしもがも」は、
 「よし」名詞。方法・手段。
 「も」は、係助詞。
 「が」は、願望の終助詞。  
 「も」は、詠嘆の終助詞。




2496 作者:柿本人麻呂歌集,略体,肥前,熊本,序詞

[題詞](寄物陳思)

肥人  額髪結在  染木綿  染心  我忘哉 [一云 所忘目八方]

肥人の 額髪結へる 染木綿の 染みにし心 我れ忘れめや [一云 忘らえめやも]  

[こまひとの ぬかがみゆへる しめゆふの] しみにしこころ われわすれめや[わすらえめやも]
・・・・・・・・・・
肥後の貴人の額の髪に結ぶ朱の染木綿のように

心に染みてしまった私の気持ち

どうしてあなたを忘れるでしょう
・・・・・・・・・・



2497 作者:柿本人麻呂歌集,序詞,薩摩,女歌,名告り

[題詞](寄物陳思)

早人  名負夜音  灼然  吾名謂  ○恃

隼人の 名に負ふ夜声の いちしろく 我が名は告りつ 妻と頼ませ 

[はやひとの なにおふよごゑの いちしろく] わがなはのりつ つまとたのませ
・・・・・・・・・・
宮廷の夜警にあたる隼人の名だたる大声のように

はっきりと

私の名前を貴方に告げます

そして貴方の妻としてお側にいます

妻としてお近くに恃べらせてください
・・・・・・・・・・



2498 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](寄物陳思)

剱刀  諸刃利  足踏  死々  公依

剣大刀 諸刃の利きに 足踏みて 死なば死なむよ 君によりては 

[つるぎたち] もろはのときに あしふみて しなばしなむよ きみによりては
・・・・・・・・・・
貴方が常に身に帯びる太刀の諸刃の鋭い刃に

私が足を踏んで死ぬのなら死にましょう

貴方のお側に寄り添ったためなら
・・・・・・・・・・



2499 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

我妹  戀度  劔刀  名惜  念不得

我妹子に 恋ひしわたれば 剣大刀 名の惜しけくも 思ひかねつも 

わぎもこに こひしわたれば [つるぎたち] なのをしけくも おもひかねつも
・・・・・・・・・・
私の愛しい貴女を抱いていると  

剣や太刀を付けている丈夫の

名を惜しむことも忘れてしまいます
・・・・・・・・・・



2500 作者:柿本人麻呂歌集,序詞,宮崎

[題詞](寄物陳思)

朝月  日向黄楊櫛  雖舊  何然公  見不飽

朝月の 日向黄楊櫛 古りぬれど 何しか君が 見れど飽かざらむ 

[あさづきの] ひむかつげくし ふりぬれど] なにしかきみが みれどあかざらむ
・・・・・・・・・・
随分古い付合いになったけれど

あなたの横顔っていつまでも見飽きないわね
・・・・・・・・・・
* 暦月下旬の月は、夜遅く出て夜が明けても西空に残り、東の空に出た「日と向かい合う」ことから「日向(ひむか)」にかかる枕詞とされる。
《国語篇(その五)<枕詞・続(上)>より記事転載。》
この「あさづきの」、「ひむかふ」は、
「アタ・ツキ・ノ」、「ゆっくりと・(髪に櫛を)あてる・(もの)の」
「ヒ・ムカ・アフ」、(髪を)持ち上げて・(麻の繊維を精錬するように)梳(くしけず)り・整える(櫛)」 




2501 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](寄物陳思)

里遠  眷浦經  真鏡  床重不去  夢所見与

里遠み 恋ひうらぶれぬ まそ鏡 床の辺去らず 夢に見えこそ 

さとどほみ こひうらぶれぬ [まそかがみ] とこのへさらず いめにみえこそ
・・・・・・・・・・
貴方の家が遠いので想えば寂しい

願うと姿を見せるという真澄鏡よ

夜の床を離れないで

私の夢の中にあの人の姿を見せてよ
・・・・・・・・・・



2502 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](寄物陳思)

真鏡  手取以  朝々  雖見君  飽事無

まそ鏡 手に取り持ちて 朝な朝な 見れども君は 飽くこともなし 

[まそかがみ] てにとりもちて あさなさな みれどもきみは あくこともなし
・・・・・・・・・・
思い願えば姿を見せるという真澄鏡を

手に取り持って毎朝毎朝

ただ貴方の姿を思い見つめています

飽きもせずに
・・・・・・・・・・



2503 作者:柿本人麻呂歌集,女歌

[題詞](寄物陳思)

夕去  床重不去  黄楊枕  <何>然汝  主待固

夕されば 床の辺去らぬ 黄楊枕 何しか汝れが 主待ちかたき 

ゆふされば とこのへさらぬ つげまくら なにしかなれが ぬしまちかたき
・・・・・・・・・・
夕方がやってくると 

お前を夜床の傍らから離しはしない

黄楊の枕よ

今宵も遠くの恋人の面影を

心行くまで夢に見させておくれ
・・・・・・・・・・
* なにしかなれのぬしまちかたき(何然汝主待固)・つげ(黄楊) 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#538なにしかなれのぬしまちかたき(何然汝主待固)





2504 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](寄物陳思)

解衣  戀乱乍  浮沙  生吾  <有>度鴨

解き衣の 恋ひ乱れつつ 浮き真砂 生きても我れは ありわたるかも 

[とききぬの] こひみだれつつ [うきまなご] いきてもわれは ありわたるかも
・・・・・・・・・・
脱いだ衣が乱れるような

恋の想いのなかに生きて

水に浮く砂のように

これからも過ごして行くのでしょうか
・・・・・・・・・・
* <有>度鴨・<恋>度鴨
* 「解き衣の」は乱れの枕詞、男の来訪もなく衣を解く女の姿。
  「浮き砂」は乾いて軽くなり、水に浮かんでいる砂。
  儚い生を象徴し恋に乱れる心を形象する、二つの比喩。
* 「ありわたるかも(有度鴨)」 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#539ありわたるかも(有度鴨)





2505 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

梓弓  引不許  有者  此有戀  不相

梓弓 引きてゆるさず あらませば かかる恋には あはざらましを 

[あづさゆみ] ひきてゆるさず あらませば かかるこひには あはざらましを
・・・・・・・・・・
神の御言を告げるという梓弓を引く神事の時に

貴方が私の心を引くことを私が許さなかったら

このような苦しい恋には会うことがなかったでしょう
・・・・・・・・・・


2506 作者:柿本人麻呂歌集,占い

[題詞](寄物陳思)

事霊  八十衢  夕占問  占正謂  妹相依

言霊の 八十の街に 夕占問ふ 占まさに告る 妹は相寄らむ 

[ことだまの やそのちまたに ゆふけとふ] うらまさにのる いもはあひよらむ
・・・・・・・・・・
夕占の辻占いで問うと

占いは本当に云った

貴女も同じように思いあなたに寄り添うと
・・・・・・・・・・
辻占いで、好きな人が靡いてくると言われて、その通りになる。
事代主は言代主ともされていることでわかるように、「コトシロ」とは言柄を知るの意味だが、神の言葉を伝えることと同義でもある。
言霊信仰は古代から現代に至るまで存在する。



2507 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,占い

[題詞](寄物陳思)

玉桙  路徃占  占相  妹逢  我謂

玉桙の 道行き占に 占なへば 妹に逢はむと 我れに告りつも 

[たまほこの] みちゆきうらに うらなへば いもにあはむと われにのりつも
・・・・・・・・・・
美しい立派な道に出て行き辻占を占うと

きっと貴女に逢えると私に告げた
・・・・・・・・・・



問答




2508 作者:柿本人麻呂歌集,[]序詞

[題詞]問答

皇祖乃  神御門乎  懼見等  侍従時尓  相流公鴨

すめろぎの 神の御門を 畏みと さもらふ時に 逢へる君かも 

[すめろぎの かみのみかどを かしこみと] さもらふときに あへるきみかも
・・・・・・・・・・
天皇の神の御殿を 恐れ謹んで お仕えしている折も折、私とこんな契りを結んだあなたは、まあ
皇祖の神の御門を恐れ多いと思いながら
その傍らで侍従しているときに
よくもまあ契り逢えるものですね
・・・・・・・・・・
* 大王から天皇への天武天皇時代の宮人にとって「皇祖乃 神御門乎」とは天武天皇のことですから、女は宮中の奥にいるのです。そして、女は宮中で宮中儀式のときに人麻呂を見ることが出来る立場にあります。また、肥後、隼人の宮中警護の人達の所作を歌に織り込んでいることから宮中の日常行事に親しいことがわかります。



2509 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](問答)

真祖鏡  雖見言哉  玉限  石垣淵乃  隠而在○

まそ鏡 見とも言はめや 玉かぎる 岩垣淵の 隠りたる妻 

[まそかがみ] みともいはめや [たまかぎる] いはがきふちの こもりたるつま
・・・・・・・・・・
見たい姿を見せると云う真澄鏡よ
その姿を見せよとわたしは言っている
(人に漏らすものか)
美しい岩中にこもっている私の妻よ
・・・・・・・・・・
<旅人>http://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/27112187.html?type=folderlist
万葉集巻11の問答歌。
どきどき。
♪すめろきの 神の御門(みかど)を 畏(かしこ)みと さもらふ時に 逢へる君かも(巻11・2508)
(天皇の神の御殿を 恐れ謹んで お仕えしている折も折、私とこんな契りを結んだあなたは、まあ)

♪まそ鏡 見とも言はめや 玉かぎる 岩垣淵の 隠りてある妻           (巻11・2509)
(こんな契りを結んだとて、そんなことを人に洩らしたりするものか。人目を気にしてかたくなにしている、我が妻よ)

問答は、面と向かった人同士が、唱和形式でやりとりする歌。
(贈答は、離れている人のやりとり)

問歌は、妻が、宮中で情事を結んだ夫をたしなめたもの。
夫婦で宮中に仕えていて、人目のないところで夫が情を起こしたらしい。
きわどい情景だが、ままこんなことがあったらしい。
それとも、こんなこともあったらと、想像して詠んだのかも・・・
「さもらふ時に」と、女は恐れ謹んでいるものの、内心は、それほどでもないように思われる。
それでも、表面は、とげとげしく装ったらしい。

答歌で、男は、とりなして答えた。
男は、女の内心を見抜いて、微笑を洩らしながら応じている。

この2首が、皇子への献歌だとしたら、皇子にとっては、瞠目すべき内容だった。
2首とも、提供者は、柿本人麻呂。
こんな歌を提供した人麻呂の茶目っ気が、楽しい。
皇子が、眉をひそめて味わった表情を思うと、もっと、楽しい。
白鳳万葉期の遊びの一こまだったと、思われる。<転載終了>


2510 作者:柿本人麻呂歌集,通い

[題詞](問答)

赤駒之  足我枳速者  雲居尓毛  隠徃序  袖巻吾妹

赤駒が 足掻速けば 雲居にも 隠り行かむぞ 袖まけ我妹 

[あかごまが あがきはやけば くもゐにも] かくりゆかむぞ そでまけわぎも
・・・・・・・・・・
赤駒の歩みが速いので

雲の間からあっという間に現われるように

行きますよ貴女のもとへ

袖まけ床を用意して待っていてください 
・・・・・・・・・・



2511 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,女歌,奈良

[題詞](問答)

隠口乃  豊泊瀬道者  常<滑>乃  恐道曽  戀由眼

こもりくの 豊泊瀬道は 常滑の かしこき道ぞ 恋ふらくはゆめ 

[こもりくの] とよはつせぢは とこなめの かしこきみちぞ こふらくはゆめ
・・・・・・・・・・
谷深く人が亡くなると隠れるという隠口の

立派な泊瀬道は滑りやすい恐ろしい道です

恋する貴方

油断しないでねゆめゆめ
・・・・・・・・・・



2512 作者:柿本人麻呂歌集,女歌,枕詞,三輪山,奈良

[題詞](問答)

味酒之  三毛侶乃山尓  立月之  見我欲君我  馬之<音>曽為

味酒の みもろの山に 立つ月の 見が欲し君が 馬の音ぞする 

[うまさけの みもろのやまに たつつきの] みがほしきみが うまのおとぞする
・・・・・・・・・・
三室の三輪山に光輝いて出る月のように

君が姿を早く見たい

貴方の馬の蹄の音が近づいてくる
・・・・・・・・・・
<[万葉集柿本人麻呂と高市皇子・人麻呂と隠れ妻の恋の行方 その弐]より記事転載。>
集歌2510〜2512で、「味酒の三諸の山に立つ月の見が欲しき」や「隠口の豊泊瀬道は」とあるように男は海石榴(泊瀬・三輪山)方向から「上つ道」を使って通ったようで、恋人から見ると男の住む方向の三輪山に月が出ています。先に見たように恋人の里は、三輪、泊瀬方面の可能性が高いので、「上つ道」は恋人にとって見知った道です。
 集歌2510〜2512の歌が歌われた時、恋人は海石榴から見て西に住んでいます。また、恋人は宮廷の官女です。これらの地理的関知から、この歌の詠われた時代は飛鳥浄御原宮時代(六七三〜六九一年)でしょう。藤原遷都は持統天皇五年(六九一年)であり、二人は近江朝時代からの仲であるから飛鳥浄御原宮の時代の相聞と思われます。



2513 作者:柿本人麻呂歌集,女歌,後朝

[題詞](問答)

雷神  小動  刺雲  雨零耶  君将留

鳴る神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ 

なるかみの すこしとよみて さしくもり あめもふらぬか きみをとどめむ
・・・・・・・・・・
雷神の音がかすかに響いて

空も曇って雨も降ってこないかしら

そうすれば貴方のお帰りを引き留めましょうに
・・・・・・・・・・



2514 作者:柿本人麻呂歌集,後朝

[題詞](問答)

雷神  小動  雖不零  吾将留  妹留者

鳴る神の 少し響みて 降らずとも 吾は留まらむ 妹し留めば 

なるかみの すこしとよみて ふらずとも わはとどまらむ, いもしとどめば
・・・・・・・・・・
雷神の音も雨も降らなくても

私はこのまま留まります

貴女が引き留めるのなら
・・・・・・・・・・
* 「吾」(吾、阿、和、言)は「自分」や「私」を表す名詞で、「我」は助詞。2514では、入道雲が出ているようだが、それは遠くにあり、雷鳴も遠雷である。夕立も近辺では降ってはいない。歌では「貴女が引き止めるなら私は居残ります。」と夕立や遠雷に関係なく詠っている。さらに、キーワードの「留」の字を二度も連続して使っている。 2513の歌の情景は、雷鳴は遠雷でながら、雷雲はこちらに向かって近づく様子が想像され、この状況なら恋人が彼氏に向かって雨が降りそうだから帰らないでとする雰囲気が出る。天候と二人の会話が関連する。2513は2514より歌の深みがまったく違う。




2515 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞

[題詞](問答)

布細布  枕動  夜不寐  思人  後相物

敷栲の 枕響みて 夜も寝ず 思ふ人には 後も逢ふものを 

[しきたへの] まくらとよみて よるもねず おもふひとには のちもあふものを
・・・・・・・・・・
夜に敷く貴方の枕が気になって眠れない

恋いしい貴方には後できっと逢えるのに
・・・・・・・・・・



2516 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,答歌

[題詞](問答)

敷細布  枕人  事問哉  其枕  苔生負為

敷栲の 枕は人に 言とへや その枕には 苔生しにたり 

[しきたへの] まくらはひとに こととへや そのまくらには こけむしにたり
・・・・・・・・・・
夜に敷き添える枕は私に聞くでしょう

貴方が使うその枕には苔が生えていると
・・・・・・・・・・
* 時間の長さを表現するのに「苔生(む)す」という言葉が使わる。

・・・・・・・・・
<番外>
藤花は日本固有の植物で、中国にはありません。つまり、漢字の世界では、「藤」の字には藤花の「花」を中心とするイメージでなく、蔦(つた)や蔓(つる)のイメージなのです。つまり、中国では「葛」は蔓植物の「花」などをイメージしますが、「藤」は蔓(つる)などのからまったり、地を這っている状態をイメージします。このため、中国で古代に日本の藤花に似た花を咲かす紫藤をもって藤花のイメージとしたようで、多花紫藤、日本紫藤と記して日本の藤花を示しています。
 この背景から、古代の日本では中国に日本の「藤花」を示す適当な漢字が無いために、日本で藤花を示す場合、「葛(フヂは当字)」や「風散(フヂ)」と示していました。おおよそ、万葉集の時代にはまだ、「藤花」や「藤」の字は無かったと思われます。この典型が、大阪府藤井寺市の地名の由来です。この地名は、葛井寺(ふじいてら)が由来になっています。葛井寺は神亀二年(七二五年)に聖武天皇の勅願により建立されていますから、天平時代はまだ公文書では「フヂ」を「葛」の字を使用して示していたと思われます。また、日本各地の天平時代以前に、建立されたと思われる由緒ある神社仏閣は、「葛」の字をもって、「フヂ」の漢字にしているようです。

唐の李白の五言詩に
紫藤掛雲木 花蔓宜陽春 密葉隱歌鳥 香風留美人
があります。この詩は、桃源洞和双女伝説から題材を採っていますが、双女伝説の内容からは、紫藤は天女が誘う桃源郷への道なのです。つまり、漢詩世界では紫色の蔦藤の花蔓は、桃源郷で応接する薄衣の美女のイメージになっているのです。この故事を知る懐風藻に代表される漢詩の宴を披く漢字文化圏の世界では、高級官僚に「藤原」姓を下賜したことは、逆の意味で一種の驚きではなかったでしょうか。それとも、藤原氏の何かに因んで「藤」の字を選定したのでしょうか。
 なお、天智天皇時代には、中国や朝鮮半島からの帰化人が多く住む土地の地名に「藤原」なる漢字の地名は無かったと思います。飛鳥藤原は、多くの帰化人や留学僧が住む土地です。そこは、藤原(ふじわら)では無く、葛原(ふぢはら)だったと思います。つまり、「藤原」姓は地名に因るものではないと思います。可能性のあるのは、采女と中臣鎌足に因むのではないでしょうか。
<[万葉集柿本人麻呂と高市皇子]より記事転載。>

万葉集巻第十一 2517

正述心緒




2517 枕詞,障害,母親

[題詞]正述心緒

足千根乃  母尓障良婆  無用  伊麻思毛吾毛  事應成

たらちねの 母に障らば いたづらに 汝も我れも 事なるべしや 

[たらちねの] ははにさはらば いたづらに いましもあれも ことなるべしや
・・・・・・・・・
母親に遠慮して気兼ねして躊躇していたら

お前も私もこの恋を成し遂げることができないではないか
・・・・・・・・・


2552 使者

[題詞](正述心緒)

情者  千遍敷及  雖念  使乎将遣  為便之不知久

心には 千重しくしくに 思へども 使を遣らむ すべの知らなく 

こころには ちへしくしくに おもへども つかひをやらむ すべのしらなく
・・・・・・・・・
君恋しと思いは千重に絶え間ないのだが

使者を頼むにもいろいろあって方法がわからない
・・・・・・・・・
* 「しく‐しく」[副]《動詞「し(頻)く」を重ねたものから》絶え間なく。しきりに。



2553

[題詞](正述心緒)

夢耳  見尚幾許  戀吾者  <寤>見者  益而如何有

夢のみに 見てすらここだ 恋ふる我は うつつに見てば ましていかにあらむ 

いめのみに みてすらここだ こふるあは うつつにみてば ましていかにあらむ
・・・・・・・・・
夢で会ってもこんなに恋心がふくらむのに 

現実に逢ってしまったら一体どうなるんだろう 
・・・・・・・・・
* 「すら」一つの事柄を取り上げて他を類推させる。その受ける語に対して、例外的・逆接的な関係にあることが多い。




2554 女歌

[題詞](正述心緒)

對面者  面隠流  物柄尓  継而見巻能  欲公毳

相見ては 面隠さゆる ものからに 継ぎて見まくの 欲しき君かも 

あひみては おもかくさゆる ものからに つぎてみまくの ほしききみかも
・・・・・・・・・
お目にかかれば恥ずかしくて顔を隠したくなるのに 

それなのにあなたに度々お目にかかりたいのです
・・・・・・・・・
逢うと つい照れくさくて  
顔を伏せてしまうけれど
ずっとずっと 見つめていたい
あなたのことを





2555 女歌

[題詞](正述心緒)

旦<戸>乎  速莫開  味澤相  目之乏流君  今夜来座有

朝戸を 早くな開けそ あぢさはふ 目が欲る君が 今夜来ませる 

あさとを はやくなあけそ [あぢさはふ] めがほるきみが こよひきませる
・・・・・・・・・
朝開ける戸を早く開けないでね

逢いたいと思っていた君が

今宵おいでなのだから
・・・・・・・・・
* めのともしかるきみ(目之乏流君) 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#540めのともしかるきみ(目之乏流君)



サ2556 女歌,母親

[題詞](正述心緒)

玉垂之  小簀之垂簾乎  徃褐  寐者不眠友  君者通速為

玉垂の 小簾の垂簾を 行きかちに 寐は寝さずとも 君は通はせ 

 [たまだれの] をすのたれすを ゆきかちに いはなさずとも きみはかよはせ
・・・・・・・・・
美しく垂らした

かわいい簾を通れずに

おまえを抱いて寝ることは出来なくても

かの君は通わせなさい
・・・・・・・・・
* 「を」は接頭語。「をす」すだれ。
* 「たれす」すだれ。
* 「ゆきかちに」通れずに。
* 「徃褐」<国語篇(その七)>14[11-2556]
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo07.htm#1[1-1]
静かに通って。勇気を奮って。振り払って。 
* 「い寐」ねること。睡眠。




2557 女歌,母親

[題詞](正述心緒)

垂乳根乃  母白者  公毛余毛  相鳥羽梨丹  <年>可經

たらちねの 母に申さば 君もわれも 逢ふとはなしに 年ぞ経ぬべき 

 [たらちねの] ははにまをさば きみもあれも あふとはなしに としぞへぬべき
・・・・・・・・・
母に打ち明けたら

君もわたしも逢うこともなく 

年だけが経つにちがいないでしょう
・・・・・・・・・
* 母の承諾のない結婚は絶望的な万葉びと。最大の難関であった。
しかし、こういった手続きを待てない場合は先に内縁関係を結んでしまう、いわゆる事後承諾を迫るということもあったろう。




2558 女歌

[題詞](正述心緒)

愛等  思篇来師  莫忘登  結之紐乃  解樂念者

愛しと 思へりけらし な忘れと 結びし紐の 解くらく思へば 

うつくしと おもへりけらし なわすれと むすびしひもの とくらくおもへば
・・・・・・・・・
あの時はいとおしいと思ったのね

忘れないでと誓って結んだ紐が自然に解けたのは

まだいとおしく思っているとの報せかしら
・・・・・・・・・
* 紐が自ずから解けると結んでくれた人から想われているという俗信も。



2559

[題詞](正述心緒)

昨日見而  今日社間  吾妹兒之  幾<許>継手  見巻欲毛

昨日見て 今日こそ隔て 我妹子が ここだく継ぎて 見まくし欲しも 

きのふみて けふこそへだて わぎもこが ここだくつぎて みまくしほしも
・・・・・・・・・
昨日逢ったら今日は間を仕切る妻

いくらでも間なく毎日逢いたいものを
・・・・・・・・・
昨日逢って今日たった一日逢わないでいるだけ
愛しいあの子とはずっと逢っていたいと思うよ


2560 女歌

[題詞](正述心緒)

人毛無  古郷尓  有人乎  愍久也君之  戀尓令死

人もなき 古りにし里に ある人を めぐくや君が 恋に死なする 

ひともなき ふりにしさとに あるひとを めぐくやきみが こひにしなする
・・・・・・・・・
人も少なくなり古さびたこの旧都に残っている私に

哀れにも恋死をさせるおつもりですね
・・・・・・・・・
* 「す」  使役・尊敬 上にくる語の活用形 未然(四段・ナ変・ラ変)
未然形せ
連用形せ
終止形す
連体形する
已然形すれ
命令形せよ
他をして何かさせる、あるいは何らかの事態を引き起こさせる――いわゆる使役をあらわす。「〜せる」「〜させる」。


2561 女歌,うわさ

[題詞](正述心緒)

人事之  繁間守而  相十方八  反吾上尓  事之将繁

人言の 繁き間守りて 逢ふともや なほ我が上に 言の繁けむ 

ひとごとの しげきまもりて あふともや なほわがうへに ことのしげけむ
・・・・・・・・・
人のうわさの激しい中なのに人目を伺いながら

たとえ逢ったとしても

ただではすまないことになるだろうなあ
・・・・・・・・・



2562 うわさ

[題詞](正述心緒)

里人之  言縁妻乎  荒垣之  外也吾将見  悪有名國

里人の 言寄せ妻を 荒垣の 外にや我が見む 憎くあらなくに 

さとびとの ことよせづまを [あらかきの] よそにやわがみむ にくくあらなくに
・・・・・・・・・
里人から誰かの妻だとうわさされている彼女を

よそからよそよそしく私は見ている

人に悟られないようにいとおしさを押し隠しながら 
・・・・・・・・・

2597

[題詞](正述心緒)

何為而  忘物  吾妹子丹  戀益跡  所忘莫苦二

いかにして 忘れむものぞ 我妹子に 恋はまされど 忘らえなくに 

いかにして わすれむものぞ わぎもこに こひはまされど わすらえなくに
・・・・・・・・・
どうやってら忘れられるものなのか

あの娘を忘れようとすれば

忘れるどころか余計に恋しくなってしまう
・・・・・・・・・
* 「いかに‐し‐て」[連語]
「いかに」は副詞。
* 「し」は、サ変動詞「す」の連用形。
* 「て」は、接続助詞。
 1 手段・原因・理由についての疑問を表す。どうやって。
 2 願望を表す。どうにかして。何としてでも。
* 「ど」は、接続助詞、逆説の確定条件を表す。〜けれども。
* 「忘ら」は、ラ行四段活用動詞の未然形。
* 「え」は、自発可能上代助動詞「ゆ」の連用形。
* 「なく」は、打消しの助動詞「ず」のク語法。            * 「なくに」で、〜ないのに。〜ないものを。忘れることは出来ません。



2598 枕詞,女歌

[題詞](正述心緒)

遠有跡  公衣戀流  玉桙乃  里人皆尓  吾戀八方

遠くあれど 君にぞ恋ふる 玉桙の 里人皆に 我れ恋ひめやも 

とほくあれど きみにぞこふる [たまほこの] さとひとみなに あれこひめやも
・・・・・・・・・
遠くに居られるあなたが恋しい

里人にどうして恋いすることがあるでしょうか
・・・・・・・・・



2599

[題詞](正述心緒)

驗無  戀毛為<鹿>  <暮>去者  人之手枕而  将寐兒故

験なき 恋をもするか 夕されば 人の手まきて 寝らむ子ゆゑに 

しるしなき こひをもするか ゆふされば ひとのてまきて ぬらむこゆゑに
・・・・・・・・・
甲斐もない恋をしたものか

夕宵になればほかの男の手枕で寝ている

あの娘のためにいらだつことよ
・・・・・・・・・
* 「しるしなき」は、甲斐もない・報われない
* 「人の手枕きて寝らむ」は、現実に置き換えると辛さに堪えられない想像であろう。
* 「恋をもするか」は、自嘲の問いかけであろう。


2600

[題詞](正述心緒)

百世下  千代下生  有目八方  吾念妹乎  置嘆

百代しも 千代しも生きて あらめやも 吾が思ふ妹を 置きて嘆かむ 

ももよしも ちよしもいきて あらめやも あがおもふいもを おきてなげかむ
・・・・・・・・・
いつまでもと永久に生きていいられようようか

吾が心の支え思う妻を

家に置いてこなければならなかった辛さよ
・・・・・・・・・



2601 女歌

[題詞](正述心緒)

現毛  夢毛吾者  不思寸  振有公尓  此間将會十羽

うつつにも 夢にも吾れは 思はずき 古りたる君に ここに逢はむとは 

うつつにも いめにもわれは おもはずき ふりたるきみに ここにあはむとは
・・・・・・・・・
現実にも夢にも私は思わなかった

昔から知っているあなたにここで会えるなんて

現実に会える手だてもなく

せめて夢にでも見えて欲しかったあなた
・・・・・・・・・
* 「ずき」は、 連用形「ず」+過去の助動詞「き」。「〜しなかった」。



2602 女歌,浮気

[題詞](正述心緒)

黒髪  白髪左右跡  結大王  心一乎  今解目八方

黒髪の 白髪までと 結びてし 心ひとつを 今解かめやも 

くろかみの しろかみまでと むすびてし こころひとつを いまとかめやも
・・・・・・・・・
黒髪が白髪になってもと

結んだあの人との心の絆なのに

どうしていま解いたりするでしょうか
・・・・・・・・・
* 橘諸兄の「降る雪の之路髪(シロカミ)までに大君につかへまつればと尊くもあるか」(三九二二)のシロカミという明瞭な仮名書きがある。つまり万葉時代は、シラカミでなくシロカミであったと知れる。

◎ <個別再掲載頁>→http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/32735517.html




2603 女歌

[題詞](正述心緒)

心乎之  君尓奉跡  念有者  縦比来者  戀乍乎将有

心をし 君に奉ると 思へれば よしこのころは 恋ひつつをあらむ 

こころをし きみにまつると おもへれば よしこのころは こひつつをあらむ
・・・・・・・・・
心をあなたに差し上げると思っているので

いいわ 当分の間は

逢えなくても恋続けていましょう
・・・・・・・・・



2604 女歌

[題詞](正述心緒)

念出而  哭者雖泣  灼然  人之可知  嘆為勿謹

思ひ出でて 音には泣くとも いちしろく 人の知るべく 嘆かすなゆめ 

おもひいでて ねにはなくとも [いちしろく] ひとのしるべく なげかすなゆめ
・・・・・・・・・
思ひ出して心に沁みて懐かしくなって

声に出して泣いても

人の噂になるようにはけっして嘆かないわ
・・・・・・・・・
* 「いちしろく」は顕著に、特別に、著しくという意。



サ2605 枕詞,片思い

[題詞](正述心緒)

玉桙之  道去夫利尓  不思  妹乎相見而  戀比鴨

玉桙の 道行きぶりに 思はぬに 妹を相見て 恋ふるころかも 

[たまほこの] みちゆきぶりに おもはぬに いもをあひみて こふるころかも
・・・・・・・・・
男女が道で行き合いすれちがうだけで

思いもかけず片思いの恋にもおちてしまうこの頃であるよ
・・・・・・・・・
* 「みちゆき」 (1)道を行くこと。旅行すること。 (2)旅の途中の光景を描写する詞章。
* 「思はぬに」は、思いもかけずに。 
* 「ぶり」は、名詞、動詞の連用形に付いて、その物事の状態やようすやありかたなどの意を表す。




サ2606 うわさ

[題詞](正述心緒)

人目多  常如是耳志  候者  何時  吾不戀将有

人目多み 常かくのみし さもらはば いづれの時か 我が恋ひずあらむ 

ひとめおほみ つねかくのみし さもらはば いづれのときか あがこひずあらむ
・・・・・・・・・
人目が多いのでいつも逢う機会はないかとうかがいつつも

逢う時は何時とも知れないので

いつも恋しく思はないでは居られません
・・・・・・・・・
* 「さ‐もら・う〔‐もらふ〕」候ふ・侍ふ
[動ハ四]「さ」は接頭語。「もらふ」は動詞「も(守)る」の未然形「もら」に上代の反復継続の助動詞「ふ」の付いたもの。
1 ようすを見守り、よい機会をうかがい待つ。よい風向きや潮時、また逢瀬などのくるのを待つ。
2 主君や貴人のそばに仕えて命令を待つ。伺候する。




2607 枕詞

[題詞](正述心緒)

敷細之  衣手可礼天  吾乎待登  在<濫>子等者  面影尓見

敷栲の 衣手離れて 吾を待つと あるらむ子らは 面影に見ゆ 

[しきたへの] ころもでかれて わをまつと あるらむこらは おもかげにみゆ
・・・・・・・・・
美しい衣の袖を別れ別れにして

私を待っている恋しい人よ

心に思えば面影に見える
・・・・・・・・・



サ2608

[題詞](正述心緒)

妹之袖  別之日従  白細乃  衣片敷  戀管曽寐留

妹が袖 別れし日より 白栲の 衣片敷き 恋ひつつぞ寝る 

いもがそで わかれしひより [しろたへの] ころもかたしき こひつつぞぬる
・・・・・・・・・
妻の袖を敷けなくなった別れの日から

自分の衣の片袖だけを敷いて

想い寂しく独り寝ているよ
・・・・・・・・・
* 「白妙の」は、衣、袖、袂、雲、雪など、衣服や白いものにかかる枕詞。* 「片敷く」は、自分の衣の片袖だけを敷いて一人寂しく寝ることを表す。
* 「つつ」は並行の接続助詞。 〜ながら。
* 「寝る」は、「ぬ寝」の連体形。係助詞「ぞ」の結び。




2609 枕詞

[題詞](正述心緒)

白細之  袖者間結奴  我妹子我  家當乎  不止振四二

白栲の 袖はまゆひぬ 我妹子が 家のあたりを やまず振りしに 

[しろたへの] そではまゆひぬ わぎもこが いへのあたりを やまずふりしに
・・・・・・・・・
袖がからむほど

妻が家のあたりで

手を振り続けている
・・・・・・・・・



2610 枕詞,女歌

[題詞](正述心緒)

夜干玉之  吾黒髪乎  引奴良思  乱而反  戀度鴨

ぬばたまの 我が黒髪を 引きぬらし 乱れてさらに 恋ひわたるかも 

[ぬばたまの] わがくろかみを ひきぬらし みだれてさらに こひわたるかも
・・・・・・・・・
私の黒髪を引きほどいて

心乱れてもなお

あなたを恋い慕いつづけています
・・・・・・・・・

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