ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第十一巻

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2574 女歌

[題詞](正述心緒)

面忘  太尓毛得為也登  手握而  雖打不寒  戀<云>奴

面忘れ だにもえすやと 手握りて 打てども懲りず 恋といふ奴 

おもわすれ だにもえすやと たにぎりて うてどもこりず こひといふやつこ
・・・・・・・・・
顔だけでも忘れることができるかと

拳を握りしめて打っても懲りもしない

恋というやつめ
・・・・・・・・・
* 「だに・も・え・すや・と」
恋を擬人化して歌う。
* 「手握りて」に、忘れようとする強い意志を示す。
* 「奴」と「恋」をおとしめる。大げさ、切実さと滑稽さを漂わせる。



2575 女歌

[題詞](正述心緒)

希将見  君乎見常衣  左手之  執弓方之  眉根掻礼

めづらしき 君を見むとこそ 左手の 弓取る方の 眉根掻きつれ 

めづらしき きみをみむとこそ ひだりての ゆみとるかたの まよねかきつれ
・・・・・・・・・
なかなか逢えないあなたに逢えるかと

左手の弓を執る手でかゆい眉をかいた
・・・・・・・・・
* 「取る方(かた) 」弓を取る方。左。ゆんで。
* 眉がかゆくなるのは、恋人に会える前兆と古代では考えられていたらしい。



2576 垣間見,うわさ

[題詞](正述心緒)

人間守  蘆垣越尓  吾妹子乎  相見之柄二  事曽左太多寸

人間守り 葦垣越しに 吾妹子を 相見しからに 言ぞさだ多き 

ひとまもり あしかきごしに わぎもこを あひみしからに ことぞさだおほき
・・・・・・・・・
人目をはばかって気付かれないよう

葦の垣ね越しに吾が妻を見ただけで

もう評判が立ってしまった
・・・・・・・・・
* 「さだ」(副)たしかに。実に。(名)評判・うわさ。



2577 女歌

[題詞](正述心緒)

今谷毛  目莫令乏  不相見而  将戀<年>月  久家真國

今だにも 目な乏しめそ 相見ずて 恋ひむ年月 久しけまくに 

いまだにも めなともしめそ あひみずて こひむとしつき ひさしけまくに
・・・・・・・・・
今だけでもこちらを向いて 

そのお顔をよくみせてください

逢えぬまま恋に苦しむ月日は

また長くなるでしょうから
・・・・・・・・・
* 「まく」推量の助動詞「む」のク語法。・・だろうこと。




サ2578 女歌,後朝

[題詞](正述心緒)

朝宿髪  吾者不梳  愛  君之手枕  觸義之鬼尾

朝寝髪 吾れは梳らじ うるはしき 君が手枕 触れてしものを 

あさねがみ われはけづらじ [うるはしき] きみがたまくら ふれてしものを
・・・・・・・・・
今朝の寝みだれ髪に

私は櫛を通すまい

いとしいあの人の腕が枕になって

触れたものだもの
・・・・・・・・・
* 「梳らじ」は、くしけずるまい。
* 「うるはし」(形シク)は、いとしい。根本に「おごそか・端正」意。
* 「き」は助動特殊型、諸説あり。
* 「が」は、格助詞「の」に同じ。
* 「手枕」は、腕まくらのこと。
* 「触れ」は、ラ行下二段活用動詞「触る」の連用形。
* 「て」は、完了の助動詞「つ」の連用形。
* 「し」は、過去動詞「き」の連体形。
* 「もの」は、形式名詞。
* 「を」は、詠嘆の間投助詞。 




2579 女歌,逢会

[題詞](正述心緒)

早去而  何時君乎  相見等  念之情  今曽水葱少熱

早行きて いつしか君を 相見むと 思ひし心 今ぞなぎぬる 

はやゆきて いつしかきみを あひみむと おもひしこころ いまぞなぎぬる
・・・・・・・・・
急いで行って少しでも早く君に逢いたい

と はやっていた心が

こうして逢い 目を見つめて

やっと落ちつきましたよ
・・・・・・・・・
この時代、女の人は常に「待たされる」存在。
当時「待つ」ことはもはや当たり前だったわけで、
そういうことに慣れていた節もあるから「待つ歌」を全て悲壮感で読み取る必要は無い。幅広く感じよう。



2580

[題詞](正述心緒)

面形之  忘戸在者  小豆鳴  男士物屋  戀乍将居

面形の 忘るとあらば あづきなく 男じものや 恋ひつつ居らむ 

おもかたの わするとあらば あづきなく をとこじものや こひつつをらむ
・・・・・・・・・
あなたの面影が忘れられるようなものならば

やるせなく恋で放心などしていましょうか

男たるものがこんなに女々しくも
・・・・・・・・・



2581

[題詞](正述心緒)

言云者  三々二田八酢四  小九毛  心中二  我念羽奈九二

言に言へば 耳にたやすし 少なくも 心のうちに 吾が思はなくに 

ことにいへば みみにたやすし すくなくも こころのうちに わがもはなくに
・・・・・・・・・
言葉にしてしまえば

大したことには聞こえないでしょう

心の中の愛は計り知れないのだ

数字で勝負しようぜ 
・・・・・・・・・



2582 自嘲

[題詞](正述心緒)

小豆奈九  何<狂>言  今更  小童言為流  老人二四手

あづきなく 何のたはこと 今さらに 童言する 老人にして 

あづきなく なにのたはこと いまさらに わらはごとする おいひとにして
・・・・・・・・・
何という愚かなことを言ったものか

この歳になって少年のような真似をするとは
・・・・・・・・・



2583

[題詞](正述心緒)

相見而  幾久毛  不有尓  如<年>月  所思可聞

相見ては 幾久さにも あらなくに 年月のごと 思ほゆるかも 

あひみては いくびささにも あらなくに としつきのごと おもほゆるかも
・・・・・・・・・
会わない期間がそれほどの間でもないのに

長い年月が経ったように思う

私は恋におちてしてしまったのか
・・・・・・・・・



2584

[題詞](正述心緒)

大夫登  念有吾乎  如是許  令戀波  小可者在来

ますらをと 思へる我れを かくばかり 恋せしむるは 悪しくはありけり 

ますらをと おもへるわれを かくばかり こひせしむるは あしくはありけり
・・・・・・・・・
男の中の男と自負する吾を

これほど恋狂いさせて

苦しめるとは  許せーん
・・・・・・・・・
* 「せしむ」サ変動詞「す」の未然形に、使役の助動詞「しむ」のついたもの。・・させる。
* 「あしくはありけり(小可者在来)」 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#541あしくはありけり(小可者在来)


2585 女歌

[題詞](正述心緒)

如是為乍  吾待印  有鴨  世人皆乃  常不在國

かくしつつ 我が待つ験 あらぬかも 世の人皆の 常にあらなくに 

かくしつつ わがまつしるし あらぬかも よのひとみなの つねにあらなくに
・・・・・・・・
こんなにも思い詰めて待っているよと

そんな霊になれらいいのに

世の中の人はだれだって

そんなないつまでも生きてはいないことよ
・・・・・・・・



2586 うわさ

[題詞](正述心緒)

人事  茂君  玉梓之  使不遣  忘跡思名

人言を 繁みと君に 玉梓の 使も遣らず 忘ると思ふな 

ひとごとを しげみときみに [たまづさの] つかひもやらず わするとおもふな
・・・・・・・・
人の噂がひどいので

恋の使者も送れないが

忘れているなどとは

けっして思わないで欲しい
・・・・・・・・



2587 飛鳥

[題詞](正述心緒)

大原 <古>郷 妹置 吾稲金津 夢所見乞

大原の 古りにし里に 妹を置きて 我れ寐ねかねつ 夢に見えこそ 

おほはらの ふりにしさとに いもをおきて われいねかねつ いめにみえこそ
・・・・・・・・
奈良の都から遠く離れ

古くうらぶれた大原の里に

可愛いあの子を置いてきた

寂しくて気になって寝付けない

せめて夢でもいいから会わせてくれ
・・・・・・・・
* いめにみえつつ(夢所見乍) 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#542いめにみえつつ(夢所見乍)



2588 待つ,女歌

[題詞](正述心緒)

夕去者  公来座跡  待夜之  名凝衣今  宿不勝為

夕されば 君来まさむと 待ちし夜の なごりぞ今も 寐ねかてにする 

ゆふされば きみきまさむと まちしよの なごりぞいまも いねかてにする
・・・・・・・・
夕方になればきっと君が来ると

待ちつづけた夜の名残です

今もなかなか寝られないでいるのは
・・・・・・・・



2589 女歌

[題詞](正述心緒)

不相思  公者在良思  黒玉  夢不見  受旱宿跡

相思はず 君はあるらし ぬばたまの 夢にも見えず うけひて寝れど 

あひおもはず きみはあるらし [ぬばたまの] いめにもみえず うけひてぬれど
・・・・・・・・
あなたは私を想ってはいないらしい

せめて夢でもとおまじないに祈っても

夢にさえ現れてはくれないから
・・・・・・・・



2590

[題詞](正述心緒)

石根踏  夜道不行  念跡  妹依者  忍金津毛

岩根踏み 夜道は行かじと 思へれど 妹によりては 忍びかねつも 

いはねふみ よみちはゆかじと おもへれど いもによりては しのびかねつも
・・・・・・・・
石を踏む険しい山を踏破して夜道は行き難いが

恋人によって我慢できなくなってしまった
・・・・・・・・
* 「岩根」は、どっしりと根を据えた大きな岩。いわがね。いわお。 



2591 うわさ

[題詞](正述心緒)

人事  茂間守跡  不相在  終八子等  面忘南

人言の 繁き間守ると 逢はずあらば つひにや子らが 面忘れなむ 

ひとごとの しげきまもると あはずあらば つひにやこらが おもわすれなむ
・・・・・・・・
人の噂のひどさを気にして逢わずにいたら

恋人の面影さえ忘れてしまうのでは
・・・・・・・・



2592

[題詞](正述心緒)

戀死  後何為  吾命  生日社  見幕欲為礼

恋死なむ 後は何せむ 我が命 生ける日にこそ 見まく欲りすれ 

こひしなむ のちはなにせむ わがいのち いけるひにこそ みまくほりすれ
・・・・・・・・
恋に死ぬなんて何になろう

この生ける吾がいのちこそ 

あなたと逢いたいのだ
・・・・・・・・
* 
<4 560;相聞,作者:大伴百代、恋情

[題詞](<大>宰大監大伴宿祢百代戀歌四首)

孤悲死牟 後者何為牟 生日之 為社妹乎 欲見為礼

恋ひ死なむ 後は何せむ 生ける日の ためこそ妹を 見まく欲りすれ 

こひしなむ のちはなにせむ いけるひの ためこそいもを みまくほりすれ
・・・・・・・・・・・
恋に死ぬなんて何になろう

この生ける日にこそ 

あなたと逢いたいのだ
・・・・・・・・・・・>




2593

[題詞](正述心緒)

敷細  枕動而  宿不所寝  物念此夕  急明鴨

敷栲の 枕響みて 寐ねらえず 物思ふ今夜 早も明けぬかも 

[しきたへの] まくらとよみて いねらえず ものもふこよひ はやもあけぬかも
・・・・・・・・
あなたの枕が音を立てるのですよ

うるさくってつい物思いにふけってしまった

もうじき朝になるわねえ
・・・・・・・・



2594

[題詞](正述心緒)

不徃吾  来跡可夜  門不閇  ○怜吾妹子  待筒在

行かぬ吾れを 来むとか夜も 門閉さず あはれ我妹子 待ちつつあるらむ 

ゆかぬわれを こむとかよるも かどささず あはれわぎもこ まちつつあるらむ
・・・・・・・・
行くことがない私を

来るかもしれないと

門も閉じずに

しみじみあのこは

今も待っているのだなあ
・・・・・・・・
* 「と‐か」[連語]《格助詞「と」+副助詞「か」》はっきりしない事柄を指示する意を表す。



2595

[題詞](正述心緒)

夢谷 何鴨不所見 雖所見 吾鴨迷 戀茂尓

夢にだに 何かも見えぬ 見ゆれども 我れかも惑ふ 恋の繁きに 

いめにだに なにかもみえぬ みゆれども われかもまとふ こひのしげきに
・・・・・・・・
君を見たのは夢なのか 手を伸ばし

われにかえればうつつには見えない 

どうかしてしまったわたし

募るばかりの恋の惑ひか
・・・・・・・・



2596

[題詞](正述心緒)

名草漏  心莫二  如是耳  戀也度  月日殊 [或本歌<曰> 奥津浪  敷而耳八方  戀度奈牟]

慰もる 心はなしに かくのみし 恋ひやわたらむ 月に日に異に [或本歌曰 沖つ波 しきてのみやも 恋ひわたりなむ]  

なぐさもる こころはなしに かくのみし こひやわたらむ つきにひにけに[おきつなみ しきてのみやも こひわたりなむ]
・・・・・・・・
心が鎮まることなどなくて

なぜこんな風に

恋焦がれ続けているのだろうか

月も日も変わり経つのに
・・・・・・・・


2611 女歌

[題詞](正述心緒)

今更  君之手枕  巻宿米也  吾紐緒乃  解都追本名

今さらに 君が手枕 まき寝めや 我が紐の緒の 解けつつもとな 

いまさらに きみがたまくら まきぬめや わがひものをの とけつつもとな
・・・・・・・・・
今重ねてあなたの手枕で寝るからなのでしょうか

私の下着の紐がわけもなくほどけてしまうなんて 
・・・・・・・・・
* 「さら‐に」【更に】[副]
1 同じことが重なったり加わったりするさま。重ねて。加えて。その上に。
2 今までよりも程度が増すさま。前にも増して。いっそう。ますます。
* 「め‐や」[連語]推量の助動詞「む」の已然形に係助詞「や」
 …であろうか、いや、そうではない。
* 「もと‐な」[副]「もと」は根本の意。「な」は形容詞「無し」の語幹
1 わけもなく。みだりに。2 しきりに。むやみに。



2612 枕詞,女歌

[題詞](正述心緒)

白細布<乃>  袖觸而夜  吾背子尓  吾戀落波  止時裳無

白栲の 袖触れてし夜 我が背子に 我が恋ふらくは やむ時もなし 

[しろたへの] そでふれてしよ わがせこに あがこふらくは やむときもなし
・・・・・・・・・
ふたりの袖が触れた夜は

夫にせがむ恋は止むことがないのです
・・・・・・・・・



2613 占い,女歌

[題詞](正述心緒)

夕卜尓毛  占尓毛告有  今夜谷  不来君乎  何時将待

夕占にも 占にも告れる 今夜だに 来まさぬ君を いつとか待たむ 

ゆふけにも うらにものれる こよひだに きまさぬきみを いつとかまたむ
・・・・・・・・・
昨夜の占いでも告げられたのに

その今夜にまだあなたが来ない

占を信じていつまでも待とう
・・・・・・・・・



2614 女歌

[題詞](正述心緒)

眉根掻  下言借見  思有尓  去家人乎  相見鶴鴨

眉根掻き 下いふかしみ 思へるに いにしへ人を 相見つるかも 

まよねかき したいふかしみ おもへるに いにしへひとを あひみつるかも
・・・・・・・・・
眉が痒い

眉毛をかいていたら好きな男に会えるというけれど

本当かしら

いぶかしく思っていたら

なんと 昔の彼に会ってしまったよ
・・・・・・・・・
[左注]或本歌<曰> 眉根掻 誰乎香将見跡 思乍 氣長戀之 妹尓相鴨 / 一書歌曰 眉根掻 下伊布可之美 念有之 妹之容儀乎 今日見都流香裳
* 「眉根掻き」眉が痒いのは、恋しい人に会える前兆であると信じられていた。



2614S1 異伝

[題詞](正述心緒)或本歌<曰>

眉根掻  誰乎香将見跡  思乍  氣長戀之  妹尓相鴨

眉根掻き 誰をか見むと 思ひつつ 日長く恋ひし 妹に逢へるかも 

まよねかき たれをかみむと おもひつつ けながくこひし いもにあへるかも
・・・・・・・・・
眉毛を掻いていたら

長いあいだ思っている

あの娘に会えないかなあ
・・・・・・・・・



2614S2 異伝

[題詞](正述心緒)一書歌曰

眉根掻  下伊布可之美  念有之  妹之容儀乎  今日見都流香裳

眉根掻き 下いふかしみ 思へりし 妹が姿を 今日見つるかも 

まよねかき したいふかしみ おもへりし いもがすがたを けふみつるかも
・・・・・・・・・
眉毛を掻いていたら会えるなんてことを

いぶかしく思いつつも

あの娘の姿を今日は見かけるかもと

また眉を掻いてみることよ
・・・・・・・・・



サ2615 枕詞

[題詞](正述心緒)

敷栲乃  枕巻而  妹与吾  寐夜者無而  <年>曽經来

敷栲の 枕をまきて 妹と我れと 寝る夜はなくて 年ぞ経にける 

[しきたへの] まくらをまきて いもとあれと ぬるよはなくて としぞへにける
・・・・・・・・・
枕たもとをともにして

あの娘と私が結ばれる夜はなくて

年ばかりが過ぎていったよ
・・・・・・・・・
* 「敷栲の」は、「枕」「床」「袖」「衣」「黒髪」などにかかる。
* 「枕をまきて」は、枕をして寝る意。「枕枕(まま)く」とも。
* 「経」は、ハ行下二段活用動詞「経(ふ)」の連用形。
* 「に」は、完了の助動詞・完了「ぬ」の連用形。
* 「ける」は、過去の助動詞「けり」の連体形。「ぞ」の結び。        時は過去ってしまった




2616

[題詞](正述心緒)

奥山之  真木<乃>板戸乎  音速見  妹之當乃  <霜>上尓宿奴

奥山の 真木の板戸を 音早み 妹があたりの 霜の上に寝ぬ 

[おくやまの] まきのいたとを おとはやみ いもがあたりの しものうへにねぬ
・・・・・・・・・
彼女の家の板戸をたたいたら

その音があまりに響くので

人に気づかれるのを怖れて

近くの霜の上に寝てしまったよ
・・・・・・・・・



2617 枕詞,女歌

[題詞](正述心緒)

足日木能  山櫻戸乎  開置而  吾待君乎  誰留流

あしひきの 山桜戸を 開け置きて 吾が待つ君を 誰れか留むる 

[あしひきの] やまさくらとを あけおきて わがまつきみを たれかとどむる
・・・・・・・・・
山桜の板戸を開けたまま

私が待っているあの方を

誰かが止めているのかしら
・・・・・・・・・



2618

[題詞](正述心緒)

月夜好三  妹二相跡  直道柄  吾者雖来  夜其深去来

月夜よみ 妹に逢はむと 直道から 吾れは来つれど 夜ぞ更けにける 

つくよよみ いもにあはむと ただちから われはきつれど よぞふけにける
・・・・・・・・・
月が照らす夜道を妻に会おうと

まっしぐらに道を急ぐが

夜は無情にも更けてゆく

待ちかねている妻よ もうすぐだ
・・・・・・・・・




寄物陳思



2619 序詞,衣

[題詞]寄物陳思

朝影尓  吾身者成  辛衣  襴之不相而  久成者

朝影に 我が身はなりぬ 韓衣 裾のあはずて 久しくなれば 

[あさかげに あがみはなりぬ からころも] すそのあはずて ひさしくなれば
・・・・・・・・・
朝の影法師のように

私は痩せてしまいましたよ

あなたに逢わなくなって

ずいぶん久しくなりましたので
・・・・・・・・・
「韓衣」は中国風の衣服で、和風の衣のように前あわせの部分や裾が重ならないため、「あわない」から「あはず」を引き出す序詞となる。



2620 女歌,衣

[題詞](寄物陳思)

解衣之  思乱而  雖戀  何如汝之故跡  問人毛無

解き衣の 思ひ乱れて 恋ふれども なぞ汝がゆゑと 問ふ人もなき 

[とききぬの] おもひみだれて こふれども なぞながゆゑと とふひともなき
・・・・・・・・・
あなたへの思いに乱れて

なお恋うけれど

なぜあなたのためなのかと

尋ねる人はいない
・・・・・・・・・



2621 衣,うわさ

[題詞](寄物陳思)

摺衣  著有跡夢見津  <寤>者  孰人之  言可将繁

摺り衣 着りと夢に見つ うつつには いづれの人の 言か繁けむ 

すりころも けりといめにみつ うつつには いづれのひとの ことかしげけむ
・・・・・・・・・
私の摺り衣を着たあなたを夢に見た

目覚めてみれば人々の

いろんな噂が飛び交っていやな世間だな
・・・・・・・・・


2622 福岡,衣,序詞

[題詞](寄物陳思)

志賀乃白水<郎>之  塩焼衣  雖穢  戀云物者  忘金津毛

志賀の海人の 塩焼き衣 なれぬれど 恋といふものは忘 れかねつも 

[しかのあまの しほやきころも なれぬれど] こひといふものは わすれかねつも
・・・・・・・・・
志賀島の漁師の塩焼き衣のように

肌に馴染んだものだな

恋というものは忘れられないものよ
・・・・・・・・・



サ2623 染色,衣,女歌

[題詞](寄物陳思)

呉藍之  八塩乃衣  朝旦  穢者雖為  益希将見裳

紅の 八しほの衣 朝な朝な 馴れはすれども いやめづらしも 

[くれなゐの] やしほのころも あさなさな なれはすれども いやめづらしも
・・・・・・・・・
染料に何度も浸して染めている衣

毎朝毎朝着ていれば

皺にもなるけれど

それがまた身について

ますます大切に思えているのですよ

あなた
・・・・・・・・・
* 「八しほ」は、布を染め汁に浸す回数の多いことを示す。「八入」とも。
* 「朝な朝な」は「毎朝」。
* 「馴る」は「萎(な)る」と縁語。「着慣れる」・「衣服がよれよれになる」。あなたが好きになる。
* 「いや」は、接頭、いよいよ・ますます。
* 「めづらし」は、賞美・すばらしい・ほめるなどの意。
* 「も」は詠嘆終助詞。




2624 染色,衣,女歌

[題詞](寄物陳思)

紅之  深染衣  色深  染西鹿齒蚊  遺不得鶴

紅の 深染めの衣 色深く 染みにしかばか 忘れかねつる 

くれなゐの こそめのころも いろふかく しみにしかばか わすれかねつる
・・・・・・・・・
紅の濃染めの衣のように 

色濃く心にしみ込んで 

忘れられなくなってしまった
・・・・・・・・・



2625 衣,待つ

[題詞](寄物陳思)

不相尓  夕卜乎問常  幣尓置尓  吾衣手者  又曽可續

逢はなくに 夕占を問ふと 幣に置くに 我が衣手は またぞ継ぐべき 

あはなくに ゆふけをとふと ぬさにおくに わがころもでは またぞつぐべき
・・・・・・・・・
今夜も逢えないのかと思うものの

とにかく占ってみようと夕方の辻に立ってみた

袖をこまかく切って幣にして散らした

袖は継ぎ当てようがなくなってしまった
・・・・・・・・・



2626 衣,比喩

[題詞](寄物陳思)

古衣  打棄人者  秋風之  立来時尓  物念物其

古衣 打棄つる人は 秋風の 立ちくる時に 物思ふものぞ 

ふるころも うつつるひとは [あきかぜの] たちくるときに ものもふものぞ
・・・・・・・・・
古着を捨てるように私を棄てたあの人も

枯葉が舞う時期には思いに沈むでしょう

消えてしまったわたしのぬくもりのことで
・・・・・・・・・



2627

[題詞](寄物陳思)

波祢蘰  今為妹之  浦若見  咲見慍見  著四紐解

はねかづら 今する妹が うら若み 笑みみ怒りみ 付けし紐解く 

はねかづら いまするいもが うらわかみ ゑみみいかりみ つけしひもとく
・・・・・・・・・
今まさに新しくはねかづらを着けた娘は

初々しくはにかんだりじれたりしながら

身につけた紐を解いていくことよ
・・・・・・・・・
* 男の歌なら、脱がそうと苦心していることになる。
* 新婚初夜の儀式に、「はねかづら」をつけた娘が、初々しく顔を朱に染めながら馴れない下紐を苦労して解いている姿。
* 年頃になった女性がつける髪飾り。カズラは一般に蔓性植物の茎を輪状にした髪飾りであるが、ハネカヅラの材料については、鳥の羽根を髪にさしたとも、「花かつら」と同じとも、菖蒲の葉や根を5月5日の節供につけたともいわれる。成年に達したばかりの若い女性が髪にさし、神女へと変身するためのものであることが知られる。




2628 衣,序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

去家之  倭文旗帶乎  結垂  孰云人毛  君者不益

いにしへの 倭文機帯を 結び垂れ 誰れといふ人も 君にはまさじ 

[いにしへの しつはたおびを むすびたれ] たれといふひとも きみにはまさじ
・・・・・・・・・
素敵な倭文機帯を垂らしている人は多いけど

あなたに勝る素敵な人はいらっしゃいませんよ
・・・・・・・・・
* しづ[倭文] (名)上代の織物の名。栲・麻・苧などの緯を青・赤などに染めて、乱れ模様に織り出したもの。しづおり。しづはた。



2628S 異伝,衣,序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)一書歌<曰>

古之  狭織之帶乎  結垂  誰之能人毛  君尓波不益

[いにしへの 狭織の紐を 結び垂れ] 誰れしの人も 君にはまさじ 

いにしへの さおりのひもを むすびたれ たれしのひとも きみにはまさじ
・・・・・・・・・
どこのどんな誰であろうと

あなたよりも勝る人はいません

だってあなたが一番素敵なのですから
・・・・・・・・・



2629 女歌

[題詞](寄物陳思)

不相友  吾波不怨  此枕  吾等念而  枕手左宿座

逢はずとも 我れは恨みじ この枕 我れと思ひて まきてさ寝ませ 

あはずとも われはうらみじ このまくら われとおもひて まきてさねませ
・・・・・・・・・
二人会うことが叶わなくても

私は恨みますまい

せめてこの枕を私と思って

抱いてお寝みください
・・・・・・・・・



2630 枕詞,女歌,閨怨

[題詞](寄物陳思)

結紐  解日遠  敷細  吾木枕  蘿生来

結へる紐 解かむ日遠み 敷栲の 我が木枕は 苔生しにけり 

ゆへるひも とかむひとほみ [しきたへの] わがこまくらは こけむしにけり
・・・・・・・・・
結んだ紐を解かないまま日が過ぎるから

私の箱枕にはコケが生えてしまいそうよ
・・・・・・・・・
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2631 枕詞

[題詞](寄物陳思)

夜干玉之 黒髪色天  長夜○  手枕之上尓  妹待覧蚊

ぬばたまの 黒髪敷きて 長き夜を 手枕の上に 妹待つらむか 

[ぬばたまの] くろかみしきて ながきよを たまくらのうへに いもまつらむか
・・・・・・・・・
君の黒髪を床いっぱいに広げて

長い秋の夜を自分の手枕で

妻は待っているのか わたしを
・・・・・・・・・



2632 枕詞

[題詞](寄物陳思)

真素鏡  直二四妹乎  不相見者  我戀不止  年者雖經

まそ鏡 直にし妹を 相見ずは 吾が恋やまじ 年は経ぬとも 

[まそかがみ] ただにしいもを あひみずは あがこひやまじ としはへぬとも
・・・・・・・・・
直接君に会わなければ

吾が恋は無期限に苦しいだけだ
・・・・・・・・・


2633 枕詞

[題詞](寄物陳思)

真十鏡  手取持手  朝旦  将見時禁屋  戀之将繁

まそ鏡 手に取り持ちて 朝な朝な 見む時さへや 恋の繁けむ 
[まそかがみ] てにとりもちて あさなさな みむときさへや こひのしげけむ
・・・・・・・・
真澄の鏡を手に取り眺めるように

毎朝あなたと顔を合わせたとしても

この恋心は益々募るばかりでしょう
・・・・・・・・



2634 作者:柿本人麻呂,枕詞

[題詞](寄物陳思)

里遠  戀和備尓家里  真十鏡  面影不去  夢所見社

里遠み 恋わびにけり まそ鏡 面影去らず 夢に見えこそ 

さとどほみ こひわびにけり [まそかがみ] おもかげさらず いめにみえこそ
・・・・・・・・
古里は遠く

恋しさわびしさが心を覆う

夢にも鏡にも映る姿よ
・・・・・・・・



2635 枕詞

[題詞](寄物陳思)

剱刀  身尓佩副流  大夫也  戀云物乎  忍金手武

剣大刀 身に佩き添ふる 大夫や 恋といふものを 忍びかねてむ 

[つるぎたち] みにはきそふる ますらをや こひといふものを しのびかねてむ
・・・・・・・・
武装した勇者であっても

恋を我慢することは難しいことよ
・・・・・・・・



2636 枕詞

[題詞](寄物陳思)

剱刀  諸刃之於荷  去觸而  所○鴨将死  戀管不有者

剣大刀 諸刃の上に 行き触れて 死にかもしなむ 恋ひつつあらずは 

[つるぎたち] もろはのうへに ゆきふれて しにかもしなむ こひつつあらずは
・・・・・・・・
この恋がなくて

太刀の刃に切られれば

死んでもいいと

すぐあきらめるだろう
・・・・・・・・



2637 枕詞

[題詞](寄物陳思)

<○> 鼻乎曽嚏鶴  劔刀  身副妹之  思来下

うち鼻ひ 鼻をぞひつる 剣大刀 身に添ふ妹し 思ひけらしも 

うちはなひ はなをぞひつる [つるぎたち] みにそふいもし おもひけらしも
・・・・・・・・
やたらとくしゃみが出る

私が身に佩く太刀のように傍にいるあの女は

私に夢中だと知られているのだな
・・・・・・・・
古代では、くしゃみをすると、恋愛関係の噂が立っているといわれた。




2638 比喩,枕詞,大阪府

[題詞](寄物陳思)

梓弓  末之腹野尓  鷹田為  君之弓食之  将絶跡念甕屋

梓弓 末のはら野に 鳥狩する 君が弓弦の 絶えむと思へや 

[あづさゆみ] すゑのはらのに とがりする きみがゆづるの たえむとおもへや
・・・・・・・・
末の原野で鳥狩りをしている

あなたの弓に張る弦のように

君との仲が切れるなんて思えません
・・・・・・・・



2639 序詞,女歌,うわさ

[題詞](寄物陳思)

葛木之  其津彦真弓  荒木尓毛  憑也君之  吾之名告兼

葛城の 襲津彦真弓 新木にも 頼めや君が 我が名告りけむ 

[かづらきの そつびこまゆみ あらきにも] たのめやきみが わがなのりけむ
・・・・・・・・
葛城襲津彦が檀のあら木で強弓を作ったように

頼みのあなたは私に求婚するために

私の名を人に告げたのでしょうか
・・・・・・・・





2640 枕詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

梓弓  引見<弛>見  不来者<不来>  来者<来其>乎奈何  不来者来者其乎

梓弓 引きみ緩へみ 来ずは来ず 来ば来そをなぞ 来ずは来ばそを 

[あづさゆみ] ひきみゆるへみ こずはこず こばこそをなぞ こずはこばそを
・・・・・・・・
弓を引いたり緩めたりしてるみたい

来ないなら来ない 

来るなら来る

来るか来ないかなぜ言えないなかしら 

ただそれだけが聞きたいのに 
・・・・・・・・
*優柔不断。



2641 女歌,時報

[題詞](寄物陳思)

時守之  打鳴鼓  數見者  辰尓波成  不相毛恠

時守の 打ち鳴す鼓 数みみれば 時にはなりぬ 逢はなくもあやし 

ときもりの うちなすつづみ よみみれば ときにはなりぬ あはなくもあやし
・・・・・・・・
時守が鼓を打ち鳴らす数を数えてみたら

逢う時が来ているのに

あなたは来ない

どうしてなのかしらへんだわ
・・・・・・・・
* あやしい・うたがわしい
「怪しい」は、何であるか、どうであるかがはっきりせず、不気味であったり、信用できなかったりという、受け取り手の気持ちを表す。
「疑わしい」は何らかの根拠があって、確かではない、疑わざるをえないという判断を示す。



2642

[題詞](寄物陳思)

燈之  陰尓蚊蛾欲布  虚蝉之  妹蛾咲状思  面影尓所見

燈火の 影にかがよふ うつせみの 妹が笑まひし 面影に見ゆ 

ともしびの かげにかがよふ うつせみの いもがゑまひし おもかげにみゆ
・・・・・・・・
燈火の光りのようなあの娘の笑顔

それがはっきりと炎のなかに見えるじゃないか

あの娘の笑顔の面影が呼んでいるんだ 
・・・・・・・・
* 「うつせみ」はこの世に生を持つ生身の人間のこと。魅力的な女性の微笑みは、男の心を虜にしてしまった。もう逃れることはできない。
原文「蚊蛾欲布」(かがよぶ)「虚蝉」(うつせみ) 「妹蛾」(いもが)は、夏の虫が灯火に引き寄せられてゆく情景を歌の表現に重ねる。



2643 枕詞,序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

玉戈之  道行疲  伊奈武思侶  敷而毛君乎  将見因<母>鴨
 
玉桙の 道行き疲れ 稲席 しきても君を 見むよしもがも 

[たまほこの] みちゆきつかれ いなむしろ しきてもきみを みむよしもがも
・・・・・・・・
道を行き疲れて稲筵を敷きつめて休むというのではないが

しきりに重ねて君にお逢いできる方法きっかけが欲しいなあ
・・・・・・・・



2644 奈良県,明日香

[題詞](寄物陳思)

小墾田之  板田乃橋之  壊者  従桁将去  莫戀吾妹

小治田の 板田の橋の 壊れなば 桁より行かむ な恋ひそ我妹 

をはりだの いただのはしの こほれなば けたよりゆかむ なこひそわぎも
・・・・・・・・
小治田の板田の橋が壊れても

橋桁を伝ってでも逢いにゆくよ

だからそんなに恋しがるな 妻よ
・・・・・・・・



2645 京都府,序詞

[題詞](寄物陳思)

宮材引  泉之追馬喚犬二  立民乃  息時無  戀<渡>可聞

宮材引く 泉の杣に 立つ民の やむ時もなく 恋ひわたるかも 

みやぎひく いづみのそまに たつたみの やむときもなく こひわたるかも
・・・・・・・・
宮殿を作る材木を引き出す泉の杣山で

働く民のように休む時もなく

わたしは君に恋しつづけるのだ
・・・・・・・・

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