ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第十一巻

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2705 女歌,川渡り

[題詞](寄物陳思)

愛八師  不相君故  徒尓  此川瀬尓  玉裳<沾>津

はしきやし 逢はぬ君ゆゑ いたづらに この川の瀬に 玉裳濡らしつ 

[はしきやし] あはぬきみゆゑ いたづらに このかはのせに たまもぬらしつ
・・・・・・・・・・
愛しいなあ

会ってくれないあなた

意味もなくこの川の瀬を渡って

裳裾を濡らしてしまった
・・・・・・・・・・



2706 奈良県,長谷,女歌

[題詞](寄物陳思)

泊湍<川>  速見早湍乎  結上而  不飽八妹登  問師公羽裳

泊瀬川 早み早瀬を むすび上げて 飽かずや妹と 問ひし君はも 

[はつせがは] はやみはやせを むすびあげて あかずやいもと とひしきみはも
・・・・・・・・・・
泊瀬川の流れの速い瀬で

水を手ですくって飲ませてくれた

そしてもっとどうかと

尋ねてくれたあなたよ
・・・・・・・・・・
* 泊瀬川・初瀬川。奈良県桜井市を流れる。
* 「速み」は、「速し」の名詞形とみれば「早瀬」。
* 係助詞「は」に、係助詞「も」で感動・詠嘆を表す。…はまあ。…だなあ。文末にあって、強い詠嘆を表す。「は」「も」を終助詞とする説もある。
* 「掬び」は、両手を合わせて水を掬うこと。
* 「や」は、疑問の係助詞。
* 「はも」は、強調の係助詞「は」に、詠嘆の終助詞「も」が付いて、強い詠嘆を表す。




サ2707 序詞

[題詞](寄物陳思)

青山之  石垣沼間乃  水隠尓  戀哉<将>度  相縁乎無

青山の 岩垣沼の 水隠りに 恋ひやわたらむ 逢ふよしをなみ 

[あをやまの いはかきぬまの] みごもりに こひやわたらむ あふよしをなみ
・・・・・・・・・・
草木が青く茂る山の

岩垣で囲んだ沼底のような隠れ里に

私の思う人はいるのだが

人目をはばかってずっと恋し続けるのか

あの人に逢いたいと

伝えるすべさえわからない
・・・・・・・・・・
* 「青山」は、青々と草木の茂った山。
* 「岩垣」は、岩が垣根のようになったところ。
* 「岩垣沼の」は(水)隠りの序詞。人目をはばかる・人知れずなどの意。
* 「恋ひ」は、ハ行四段活用動詞「恋ふ」の連用形。
* 「や」は、疑問の係助詞。
* 「わたら」は、ラ行四段活用動詞「わたる」の未然形。
* 「む」は、推量の助動詞。(ずっと〜し続けるのか)詠嘆的な意味を持つ。結び。
* 「よし」は、「由」(名詞)
* 「を」は格助詞。
* 「なみ」は、形容詞「なし」の語幹「な」に、原因理由の接尾語「み」が付いたもの。 手だてもないので。




2708 枕詞,序詞,大阪府,池田市,異伝

[題詞](寄物陳思)

四長鳥  居名山響尓  行水乃  名耳所縁之  内妻波母 [一云 名<耳>所縁而  戀管哉将在]

しなが鳥 猪名山響に 行く水の 名のみ寄そりし 隠り妻はも [一云 名のみ寄そりて 恋ひつつやあらむ]  

[しながどり] ゐなやまとよに ゆくみづの] なのみよそりし こもりづまはも[なのみよそりて こひつつやあらむ]
・・・・・・・・・・
猪名山を鳴り響かせて流れる川の水音のように
 
噂ばかり寄せながら姿もみせてくれない 

つれない秘蔵の妻よ
・・・・・・・・・・
* 「しなが鳥」 カイツブリ。




2709 異伝

[題詞](寄物陳思)

吾妹子  吾戀樂者  水有者  之賀良三<超>而  應逝衣思 [或本歌發句云 相不思  人乎念久]

我妹子に 我が恋ふらくは 水ならば しがらみ越して 行くべく思ほゆ [或本歌發句云  相思はぬ 人を思はく]  

わぎもこに あがこふらくは みづならば しがらみこして ゆくべくおもほゆ[あひおもはぬ ひとをおもはく]
・・・・・・・・・・
吾が妻を恋い慕うこの気持ちは

どんなしがらみも通りこしてゆく

水の流れのように思える
・・・・・・・・・・
* 「こう‐らく」恋ふらく 《「こ(恋)ふ」のク語法》恋をすること。恋い慕うこと。
* 「は」と「が」のちがい。「は」はそれが付いている事物を他からはっきり区別する語で、「が」は主語を表したり、連体修飾を表したりする格助詞で、述語・被修飾語と密接に結びつく。
* 「おもほ・ゆ」思ほゆ [動ヤ下二]《動詞「おもふ」の未然形に自発の助動詞「ゆ」の付いた「おもはゆ」の音変化》思うまいとしても、自然に思われる。



2710 滋賀県,彦根市,序詞

[題詞](寄物陳思)

狗上之  鳥籠山尓有  不知也河  不知二五寸許瀬  余名告奈

犬上の 鳥籠の山なる 不知哉川 いさとを聞こせ 我が名告らすな 

[いぬかみの とこのやまなる いさやかは] いさとをきこせ わがなのらすな
・・・・・・・・・・
犬上の鳥籠の山付近を流れるいさや川ではないが

恋人が誰かと問われても

いさ わからないととぼけてください

決して私の名前は出さないで 
・・・・・・・・・・
* 不知哉川  滋賀県東部の霊仙(りょうぜん)山が水源。彦根市を流れ琵琶湖に注ぐ芹川(せりがわ=大堀川)の古名。
* 「いさ」は、答えにくいことをぼかすとき、あいまいなときの返事。さあ、そうだなあ、副詞として、下に「知らず」を伴って、さあどうだか(わからない)。




2711 序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

奥山之  木葉隠而  行水乃  音聞従  常不所忘

奥山の 木の葉隠りて 行く水の 音聞きしより 常忘らえず 

[おくやまの このはがくりて ゆくみづの] おとききしより つねわすらえず
・・・・・・・・・・
奥山の落ち葉に隠れる水流の音のような

女たちのあなたの噂を耳にしてから

私はあなたが気になって忘れられない
・・・・・・・・・・



2712 枕詞,うわさ,女歌

[題詞](寄物陳思)

言急者  中波余騰益  水無河  絶跡云事乎  有超名湯目

言急くは 中は淀ませ 水無川 絶ゆといふことを ありこすなゆめ 

[こととくは] なかはよどませ [みなしがは] たゆといふことを ありこすなゆめ
・・・・・・・・・・
人の口がやかましくてあうことがためらわれます

でも水無川の伏流水のように

決して恋が絶えることはありません
・・・・・・・・・・
* 「ことと・し」 言▽疾し (形ク)
うわさがひどい。人の口がやかましい。
* 「淀ませ」は、水が淀む意と、逢えない意の掛詞と解釈する。



2713 奈良県,明日香,序詞

[題詞](寄物陳思)

明日香河  逝湍乎早見  将速登  待良武妹乎  此日晩津

明日香川 行く瀬を早み 早けむと 待つらむ妹を この日暮らしつ 

[あすかがは ゆくせをはやみ はやけむと] まつらむいもを このひくらしつ
・・・・・・・・・・
飛鳥川の川瀬の流れが速いように

はやく逢いに来てと 

あの子は待っているだろう

心にかけて思う日々を送っているよ
・・・・・・・・・・



2714 枕詞,序詞,京都府,異伝

[題詞](寄物陳思)

物部乃  八十氏川之  急瀬  立不得戀毛  吾為鴨 [一云 立而毛君者  忘金津藻]

もののふの 八十宇治川の 早き瀬に 立ちえぬ恋も 吾れはするかも [一云 立ちても君は 忘れかねつも]  

[もののふの] やそうぢがはの はやきせに] たちえぬこひも あれはするかも[たちてもきみは わすれかねつも]
・・・・・・・・・・
宇治川の急流の瀬に挑み立つような激しい恋を

私はやってみようかな
・・・・・・・・・・
* 「宇治川」 琵琶湖から瀬田川(滋賀県大津市)→宇治川(京都府)→淀川(京都・大阪府境)と名前を変えて大阪湾に流れる。



2715 枕詞,序詞,奈良県,明日香

[題詞](寄物陳思)

神名火  打廻前乃  石淵  隠而耳八  吾戀居

神なびの 打廻の崎の 岩淵の 隠りてのみや 吾が恋ひ居らむ 

[かむなびの うちみのさきの [いはぶちの] こもりてのみや あがこひをらむ
・・・・・・・・・・
甘南備山の辺をめぐる飛鳥川が

打廻の崎で岩に囲まれ淵に隠るように

吾が恋は人目を忍ぶ隠り恋だな
・・・・・・・・・・


2716 序詞

[題詞](寄物陳思)

自高山  出来水  石觸  破衣念  妹不相夕者

高山ゆ 出で来る水の 岩に触れ 砕けてぞ思ふ 妹に逢はぬ夜は 

[たかやまゆ いでくるみづの いはにふれ] くだけてぞおもふ いもにあはぬよは
・・・・・・・・・・・
心が砕けて 心が千々に乱れて

ただ恋しく思う

君が居ない夜は
・・・・・・・・・・・



サ2717 序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

朝東風尓  井<堤超>浪之  世<染>似裳  不相鬼故  瀧毛響動二

朝東風に ゐで越す波の 外目にも 逢はぬものゆゑ 瀧もとどろに 

[あさごちに ゐでこすなみの よそめにも] あはぬものゆゑ たきもとどろに
・・・・・・・・・・・
春の朝に吹く強風にあおられた波が

井堤を超えるようなこともあろうが

相手のことは他人の目にもふれないようにしているのに

噂が滝のように轟いていることよ
・・・・・・・・・・・
* 「朝東風」春の朝に吹く東風。
* 「に」は原因を示す格助詞。
* 「井堤(いで)」川の水を堰き止め、水を汲む場所。
* <よそめにも(世染似裳)・よてふにも(世蝶似裳>) 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#545よそめにも(世染似裳)

川の波のように、限度を越えるような、そのように逢うことはしないのに、滝の音が轟くように噂を立てられる。
* 「ものゆゑ」 順接・逆接・理由の接続助詞。活用語の連体形に付いて、ここでは逆接の意をあらわす。「〜ものなのに」。
* 「とどろ」は、[副]  音が大きく鳴り響くさま。 
* 「に」は、動作の帰結。・・だよ。




2718 序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

高山之  石本瀧千  逝水之  音尓者不立  戀而雖死

高山の 岩もとたぎち 行く水の 音には立てじ 恋ひて死ぬとも 

[たかやまの いはもとたぎち ゆくみづの] おとにはたてじ こひてしぬとも
・・・・・・・・・・・
高山の岩盤を削るような激しい流れでも

人には知られまいこの恋

たとえそのために死のうとも
・・・・・・・・・・・
* 「たぎち」水が激しく流れること。また、その流れ。 


2719 うわさ,枕詞

[題詞](寄物陳思)

隠沼乃  下尓戀者  飽不足  人尓語都  可忌物乎

隠り沼の 下に恋ふれば 飽き足らず 人に語りつ 忌むべきものを 

[こもりぬの] したにこふれば あきだらず ひとにかたりつ いむべきものを
・・・・・・・・・・・
心ふさいで隠り沼

こんな恋に満たされず

とうとう人にこぼしてしまった

他人に自分の恋を語るなんて

慎みもない

さぞや噂の嵐に見舞われるだろうな
・・・・・・・・・・・



2720 序詞

[題詞](寄物陳思)

水鳥乃  鴨之住池之  下樋無  欝悒君  今日見鶴鴨

水鳥の 鴨の棲む池の 下樋なみ いぶせき君を 今日見つるかも 

[みづとりの かものすむいけの したびなみ] いぶせききみを けふみつるかも
・・・・・・・・・・・
水鳥の鴨の棲む池に排水の下樋がないように

想いに鬱々としている貴方を

今日見かけてしまった
・・・・・・・・・・・



2721 枕詞

[題詞](寄物陳思)

玉藻苅  井<堤>乃四賀良美  薄可毛  戀乃余杼女留  吾情可聞

玉藻刈る ゐでのしがらみ 薄みかも 恋の淀める 吾が心かも 

[たまもかる] ゐでのしがらみ うすみかも] こひのよどめる あがこころかも
・・・・・・・・・・・
川の流れを堰止めた柵(しがらみ)は

二人の恋の邪魔をするつもりか

恋がよどむ吾が心を映すようだなあ
・・・・・・・・・・・
* 「井堤」は「川の水を堰止めたところ」を意味する普通名詞と思われるが、その後山城国の井手と同一視されたようで、柵(しがらみ)とともに詠まれることが多くなった。<出典・歌枕紀行 井手>
* 「しがらみ」は、より強く引きとどめるもの、後ろ髪をひかれるようなものの例えにも。
* 「うすみかも」は、うす(薄・失)。み(理由)。 か(係助詞)・も(終助詞)に分解解釈。



2722 岐阜県,関ヶ原,序詞,羈旅

[題詞](寄物陳思)

吾妹子之  笠乃借手乃  和射見野尓  吾者入跡  妹尓告乞

吾妹子が 笠のかりての 和射見野に 我れは入りぬと 妹に告げこそ 

[わぎもこが かさのかりての わざみのに] われはいりぬと いもにつげこそ
・・・・・・・・・・・
旅笠の内輪が被さるように

私の妻にその和射見野に着いたと

連絡をしてくださいな
・・・・・・・・・・・
* 「笠のかりて」は、笠の内側の輪状の部分。和射見の「わ」を導く。
* 「和射見野」は、笠の内側の頭頂部の輪(台座)。
* 「こそ」は、終助詞で、他にあつらえ望む意を示す。
* 「わざみの(和射見野)」 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#546わざみの(和射見野)




2723 うわさ,枕詞

[題詞](寄物陳思)

數多不有  名乎霜惜三  埋木之  下<従>其戀  去方不知而

あまたあらぬ 名をしも惜しみ 埋れ木の 下ゆぞ恋ふる ゆくへ知らずて 

あまたあらぬ なをしもをしみ [うもれぎの] したゆぞこふる ゆくへしらずて
・・・・・・・・・・・
その名を惜しみ

地の底から木の根のように恋う

何処まで伸びるか

何処へ行くのか分からない
・・・・・・・・・・・
* 埋もれ木は「地下にある」ことから「下」にかかる枕詞。 )、
(木の)根の・一番の・先端・の
(ように何処まで伸びているか分からない状況の)




2724 序詞

[題詞](寄物陳思)

冷風之  千江之浦廻乃  木積成  心者依  後者雖不知

秋風の 千江の浦廻の 木屑なす 心は寄りぬ 後は知らねど 

[あきかぜの] ちえのうらみの こつみなす] こころはよりぬ のちはしらねど
・・・・・・・・・・・
長い浜辺の千江の浦に

木屑が打ち寄せられている

吾が心が君に寄るように

恋の行く末は分からないけれど
・・・・・・・・・・・
秋風の吹く千江の浜辺に
木の屑や貝殻や海藻など
さまざまなな塵芥が
波のまにまに打ち寄せられてたまる
私の恋の思いも
ちょうど塵芥のようなもので
あなたに対する慕情は
絶え間なくつのるばかり
でもこの思いがかなえられるかどうか
その行く末を知ることは出来ないけれど
・・・・・・・・・・・
* 「秋風の」は「吹く」などの述語が省かれている。
* 「浦廻」は海岸の湾曲したところ。
* 「木屑(こつみ)」 木積とも。木の屑。海岸に打ち寄せられる諸々の塵。


2725 大阪府,序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

白細<砂>  三津之黄土  色出而  不云耳衣  我戀樂者

白真砂 御津の埴生の 色に出でて 言はなくのみぞ 我が恋ふらくは 

[しらまなご] みつのはにふの いろにいでて] いはなくのみぞ あがこふらくは
・・・・・・・・・・・
白砂の続く御津の岸の

黄赤色の鮮やかなように

顔色にだしてはいけないと

はっきり告げはしない

君へのこの恋しい心は
・・・・・・・・・・・
* 埴生:埴(はに)。きめの細かい黄赤色の粘土。瓦・陶器の原料。 
 上代には衣にすりつけて色付けに用いた。



2726 序詞,うわさ,異伝

[題詞](寄物陳思)

風不吹  浦尓浪立  無名乎  吾者負香  逢者無二 [一云 女跡念而]

風吹かぬ 浦に波立ち なき名をも 我れは負へるか 逢ふとはなしに [一云 女と思ひて]  

[かぜふかぬ うらになみたち なきなをも] われはおへるか あふとはなしに[をみなとおもひて]
・・・・・・・・・・・
風が吹かない入り江に波が立つように

いわれない噂を立てられて

私には手に負えない

噂の相手とは一度も会ったことすらないのに
・・・・・・・・・・・




2727 三重県,菅島,序詞

[題詞](寄物陳思)

酢蛾嶋之  夏身乃浦尓  依浪  間文置  吾不念君

酢蛾島の 夏身の浦に 寄する波 間も置きて 我が思はなくに 

[すがしまの なつみのうらに よするなみ] あひだもおきて わがおもはなくに
・・・・・・・・・・・
酢蛾島の 夏身の浦に 寄する波

そのように

間断なく君をのみ思っているのだよ
・・・・・・・・・・・


2728 滋賀県,序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

淡海之海  奥津嶋山  奥間經而  我念妹之  言繁<苦>

近江の海 沖つ島山 奥まへて 吾が思ふ妹が 言の繁けく 

[あふみのうみ おきつしまやま おくまへて] あがおもふいもが ことのしげけく
・・・・・・・・・・・
琵琶湖沖島の奥深くにまで

吾がいとしい女(ひと)が

噂の的になってしまった
・・・・・・・・・・・



2729 序詞,枕詞,滋賀県,西浅井町

[題詞](寄物陳思)

霰零  遠<津>大浦尓  縁浪  縦毛依十万  憎不有君

霰降り 遠つ大浦に 寄する波 よしも寄すとも 憎くあらなくに 

[あられふり とほつおほうらに よするなみ] よしもよすとも にくくあらなくに
・・・・・・・・・・・
遠くの大浦にまで寄せる波

周囲から何を聞かされようと

私ははあの女を憎めない
・・・・・・・・・・・



2730 和歌山県,海南市,序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

木海之  名高之浦尓  依浪  音高鳧  不相子故尓

紀の浦の 名高の浦に 寄する波 音高きかも 逢はぬ子ゆゑに 

[きのうらの なたかのうらに よするなみ] おとだかきかも あはぬこゆゑに
・・・・・・・・・・・
紀の浦の 名高の浦に 寄する波

そのように

噂ばかり大げさに伝わってくる

逢いたい 逢って確かめたいものよ
・・・・・・・・・・・



2731 岡山県,牛窓町,うわさ,女歌,序詞

[題詞](寄物陳思)

牛窓之  浪乃塩左猪  嶋響  所依之<君>  不相鴨将有

牛窓の 波の潮騒 島響み 寄そりし君は 逢はずかもあらむ 

[うしまどの なみのしほさゐ しまとよみ] よそりしきみは あはずかもあらむ
・・・・・・・・・・・
牛窓の潮騒が島中に響くように

世間の噂がかまびすしい

いい仲に寄りそうきみとは

噂が落ちつくまでしばらく

会えないかもしれない  
・・・・・・・・・・・
* 「牛窓」 岡山県瀬戸内市。




2732 序詞

[題詞](寄物陳思)

奥波  邊浪之来縁  左太能浦之  此左太過而  後将戀可聞

沖つ波 辺波の来寄る 佐太の浦の このさだ過ぎて 後恋ひむかも 

[おきつなみ へなみのきよる さだのうらの] このさだすぎて のちこひむかも
・・・・・・・・・・・
佐太の浦には沖からの波が押し寄せるけど
 
辺波になってやってくるのは今だけかも

この盛りが過ぎればあとはわたしが

恋い焦がれるばかりのほったらかしじゃないかしら
・・・・・・・・・・・



2733

[題詞](寄物陳思)

白浪之  来縁嶋乃  荒礒尓毛  有申物尾  戀乍不有者

白波の 来寄する島の 荒礒にも あらましものを 恋ひつつあらずは 

[しらなみの きよするしまの ありそにも] あらましものを こひつつあらずは
・・・・・・・・・・・
荒磯に寄せる島の白波は

心がなくても打ち寄せる

それでもいいからやって来てよ 
・・・・・・・・・・・



2734

[題詞](寄物陳思)

塩満者  水沫尓浮  細砂裳  吾者生鹿  戀者不死而

潮満てば 水泡に浮かぶ 真砂にも 吾はなりてしか 恋ひは死なずて 

[しほみてば みなわにうかぶ まなごにも] わはなりてしか こひはしなずて
・・・・・・・・・・・
潮が満ちてくるとみなわ(水泡)に浮かぶ細かい砂のように

私はなってしまったのか

恋いしさに死ぬような思いをすることよ
・・・・・・・・・・・



2735 大阪府,住吉,序詞

[題詞](寄物陳思)

住吉之  城師乃浦箕尓  布浪之  數妹乎  見因欲得

住吉の 岸の浦廻に しく波の しくしく妹を 見むよしもがも 

[すみのえの きしのうらみに しくなみの] しくしくいもを みむよしもがも
・・・・・・・・・・・
住之江の岸の浦辺に 波はしきりにしくしく寄せる

そのようにあの子に逢える手だてがないものか
・・・・・・・・・・・



2736 序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

風緒痛  甚振浪能  間無  吾念君者  相念濫香

風をいたみ いたぶる波の 間なく 吾が思ふ妹は 相思ふらむか 

[かぜをいたみ いたぶるなみの あひだなく] あがおもふいもは あひおもふらむか
・・・・・・・・・・・
風が強くて激しい波が常に押し寄せるように

私が想っているあの女(ひと)は

私のことを同じように想ってくれているだろうか
・・・・・・・・・・・



2737 大阪府,序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

大伴之  三津乃白浪  間無  我戀良苦乎  人之不知久

大伴の 御津の白波 間なく 我が恋ふらくを 人の知らなく 

[おほともの みつのしらなみ あひだなく] あがこふらくを ひとのしらなく
・・・・・・・・・・・
大伴の御津の浜辺に寄せては返す白波の絶え間ないように

わたしは恋い焦がれているのに

あの人はまるで知らないでいる
・・・・・・・・・・・



2738 序詞

[題詞](寄物陳思)

大船乃  絶多經海尓  重石下  何如為鴨  吾戀将止

大船の たゆたふ海に いかり下ろし いかにせばかも 吾が恋やまむ 

[おほぶねの] たゆたふうみに いかりおろし] いかにせばかも あがこひやまむ
・・・・・・・・・・・
あちこち揺れ漂い思いも定まらない

大海に碇をおろすように

さあどうすれば

吾が恋は成就されるのだろうか

それをきめよう
・・・・・・・・・・・


2739 序詞

[題詞](寄物陳思)

水沙兒居  奥<麁>礒尓  縁浪  徃方毛不知  吾戀久波

みさご居る 沖つ荒礒に 寄する波 ゆくへも知らず 吾が恋ふらくは 

[みさごゐる おきつありそに よするなみ] ゆくへもしらず 吾がこふらくは
・・・・・・・・・・
みさごが飛ぶ沖の荒礒に

絶えず寄せている波のように

私の激しい恋は

幾重となく砕け散って

跡形も知れないことよ
・・・・・・・・・・
* 「おき‐つ」沖つ[連語]。「つ」は「の」の意の格助詞。 沖の。沖にある。
* 「みさご」は、「鶚」。猛禽類で、海浜や河・湖などにすみ、水中の魚をとる」。
* 「恋ふらく」は、「恋うふるあく」→「恋ふらく」。動詞を名詞化する。文末にあれば詠嘆を表す。  〜であることよ。
* 「は」は提示の係助詞。主語を示す。四句目・五句目の倒置法。吾がこふらくは ゆくへもしらず




2740 序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

大船之  <艫毛舳>毛  依浪  <依>友吾者  君之<任>意

大船の 艫にも舳にも 寄する波 寄すとも吾れは 君がまにまに 

[おほぶねの ともにもへにも よするなみ] よすともわれは きみがまにまに
・・・・・・・・・・
寄せる波のようにおいでなさいな

わたしはあなたの

思いどおりになるでしょう
・・・・・・・・・・



2741

[題詞](寄物陳思)

大海二  立良武浪者  間将有  公二戀等九  止時毛梨

大船に 立つらむ波は 間あらむ 君に恋ふらく やむ時もなし 

[おほぶねに たつらむなみは あひだあらむ] きみにこふらく やむときもなし
・・・・・・・・・・
大船に立つ波だって間というものがあるでしょう

あなたへの恋にはそれすらありません
・・・・・・・・・・



2742 作者:石川君子,作者異伝,福岡県,志賀島,序詞

[題詞](寄物陳思)

<壮>鹿海部乃  火氣焼立而  燎塩乃  辛戀毛  吾為鴨

志賀の海人の 煙焼き立て 焼く塩の 辛き恋をも 我れはするかも 

[しかのあまの けぶりやきたて やくしほの] からきこひをも あれはするかも
・・・・・・・・・・
志賀島の海人が煙をたてて焼く塩のように

つらい恋を私はしていることよ
・・・・・・・・・・



2743 滋賀県,比良

[題詞](寄物陳思)

中々二  君二不戀者  <枚>浦乃  白水郎有申尾  玉藻苅管

なかなかに 君に恋ひずは 比良の浦の 海人ならましを 玉藻刈りつつ 

なかなかに きみにこひずは ひらのうらの あまならましを たまもかりつつ
・・・・・・・・・・
なまじっかあなたに恋して悩むくらいなら

比良の浦の海女になって

玉藻を刈っていた方が

よほど心やすらかでいられたでしょうに
・・・・・・・・・・



2743S 兵庫県,相生市,異伝

[題詞](寄物陳思)或本歌曰

中々尓  君尓不戀波  留<牛馬>浦之  海部尓有益男  珠藻苅<々>

なかなかに 君に恋ひずは 縄の浦の 海人にあらましを 玉藻刈る刈る 

なかなかに きみにこひずは なはのうらの あまにあらましを たまもかるかる
・・・・・・・・・・
なまじっかあなたに恋して悩むくらいなら

縄の浦の海女になって

ただ玉藻を刈りながら過ごしたほうがいい
・・・・・・・・・・



2744 枕詞,序詞

[題詞](寄物陳思)

鈴寸取  海部之燭火  外谷  不見人故  戀比日

鱸取る 海人の燈火 外にだに 見ぬ人ゆゑに 恋ふるこのころ 

[すずきとる あまのともしび よそにだに] みぬひとゆゑに こふるこのころ
・・・・・・・・・・
沖で鱸漁をする漁師の灯火のように

会うことが遠くなってしまった人よ

それゆえ余計に恋いしさがつのる今日このごろ
・・・・・・・・・・



2745 序詞,うわさ,障害

[題詞](寄物陳思)

湊入之  葦別小<舟>  障多見  吾念<公>尓  不相頃者鴨

港入りの 葦別け小舟 障り多み 我が思ふ君に 逢はぬころかも 

[みなといりの あしわけをぶね さはりおほみ] あがおもふきみに あはぬころかも
・・・・・・・・・・
水路の門口に密生している葦を分けながら

小船で進むがなにかと障害が多くて

もうとっくに吾が思う君と逢えているはずなのになあ
・・・・・・・・・・



2746 序詞

[題詞](寄物陳思)

庭浄  奥方榜出  海舟乃  執梶間無  戀為鴨

庭清み 沖へ漕ぎ出る 海人舟の 楫取る間なき 恋もするかも 

[にはきよみ おきへこぎづる あまぶねの] かぢとるまなき こひもするかも
・・・・・・・・・・
穏やかな海面を沖へと漕ぎ出る海人舟の

漕ぐ間もこみあげる君への恋情よ
・・・・・・・・・・
* 「庭」は、ここでは穏やかな海面。



2747 滋賀県,塩津,序詞,怨み

[題詞](寄物陳思)

味鎌之  塩津乎射而  水手船之  名者謂手師乎  不相将有八方

あぢかまの 塩津をさして 漕ぐ船の 名は告りてしを 逢はざらめやも 

[あぢかまの しほつをさして こぐふねの] なはのりてしを あはざらめやも
・・・・・・・・・・
塩津の港を指して一途に漕ぐ舟のように

あなたに大事な吾が名をうちあけたのです

逢ってくださらないわけにはいきませんよ
・・・・・・・・・・
* 「塩津」の「塩」は、きよめ祓いの縁語。
* 「を」は、動作の経過する場所。
* 「て」は、活用語の連用形をうけて、その動作・状態がそこで一旦区切れることをあらわす。継起・並列・逆接など、さまざまな意味合いで用いられる。
* 「し」は、種々の語を承け、それを強く指示して強調する。
* 「を」は、(間投助詞)強調を表す。
* 「〜ざらめやも」:「ざら」は、「ざり」の未然形。     
  「め」は、「む」の已然形。  
  「やも」は、反語の助詞。
「〜しないことなどあろうか」「〜しないはずはない」の意。
* 初句[あぢかまの]はじめ、枕詞、地名、一途、等 縁語・掛詞が多い。
あぢかまの(味鎌之) 
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#547あぢかまの(味鎌之)





2748 序詞

[題詞](寄物陳思)

大<船>尓  葦荷苅積  四美見似裳  妹心尓  乗来鴨

大船に 葦荷刈り積み しみみにも 妹は心に 乗りにけるかも 

[おほぶねに あしにかりつみ しみみにも] いもはこころに のりにけるかも
・・・・・・・・・・
大きな船に刈り取ったアシを隙間なく

今にも沈みそうなくらい一杯に積み込むように

愛しくてたまらないあの子で私の心はいっぱいになっている
・・・・・・・・・・



2749 序詞

[題詞](寄物陳思)

驛路尓  引舟渡  直乗尓  妹情尓  乗来鴨

駅路に 引き舟渡し 直乗りに 妹は心に 乗りにけるかも 

[はゆまぢに ひきふねわたし ただのりに] いもはこころに のりにけるかも
・・・・・・・・・・
わたしは宿場まで渡す引き舟に乗るが

妻は吾が心に相乗りしているようだ
・・・・・・・・・・
* 駅路(はゆまじ)は、宿駅のある街道。



2750

[題詞](寄物陳思)

吾妹子  不相久  馬下乃  阿倍橘乃  蘿生左右

我妹子に 逢はず久しも うましもの 安倍橘の 苔生すまでに 

わぎもこに あはずひさしも うましもの あへたちばなの こけむすまでに
・・・・・・・・・・
愛しい女に長い間逢えないでいる

味の良い安倍橘の木に苔が生えるほど
・・・・・・・・・・


2751 序詞

[題詞](寄物陳思)

味乃住  渚沙乃入江之  荒礒松  我乎待兒等波  但一耳

あぢの住む  渚沙の入江の  荒礒松  吾を待つ子らは  ただ独りのみ 

[あぢのすむ すさのいりえの ありそまつ] あをまつこらは ただひとりのみ
・・・・・・・・・・
アジが住んでいる渚沙の入江の荒磯松のように  

私を待っている人はただ一人だけだ
・・・・・・・・・・
* 「アヂ」は、アヂガモのことで、シベリア東部に繁殖し、日本・朝鮮半島・中国東部に飛来し越冬する小型の渡り鳥。
雄の羽根は、頭部に淡黄褐色と緑色の巴模様があり美しい。
現在はトモエガモと呼ばれている。主に関西以西で越冬し、数百羽以上の群れをつくり、群れで行動することが多い。
群れは、和歌のでは「あぢむら」として歌われる。




2752 序詞

[題詞](寄物陳思)

吾妹兒乎  聞都賀野邊能  靡合歡木  吾者隠不得 間無念者

我妹子を 聞き都賀野辺の しなひ合歓木 吾れは忍びず 間なくし思へば 

[わぎもこを ききつがのへの しなひねぶ] われはしのびず まなくしおもへば
・・・・・・・・・・
ふっくらと咲いている合歓のようなあの娘を

私は感情を抑えられず

いつもいつも恋しく想っていて

もう隠すことができません
・・・・・・・・・・
* 「しなひ」はしなやかに曲がっている様子。




サ2753 序詞

[題詞](寄物陳思)

浪間従  所見小嶋  濱久木  久成奴  君尓不相四手

波の間ゆ 見ゆる小島の 浜久木 久しくなりぬ 君に逢はずして 

[なみのまゆ みゆるこしまの はまひさぎ] ひさしくなりぬ きみにあはずして
・・・・・・・・・・
波の間から見える小島の浜久木

その名のように

久しくなってしまった

あなたに逢わないまま
・・・・・・・・・・
* 「久木」は、(あかめがしわ)の古名。
* 「見ゆる」は、ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連体形。
* 「浜久木」は、海浜に生えている「ひさぎ・ツバキ科ヒサカキの別名」サ  カキの代わりに神事に使う地方もある。庭木。  
  ここでは『久し』の序詞として用いられている。
* 「なり」は、ラ行四段活用動詞「なる」の連用形。
* 「ぬ」は、完了の助動詞。 なってしまった。
* 「逢は」は、ハ行四段活用動詞「逢ふ」の未然形。
* 「ず」は、打消の助動詞。
* 「して」は、状態の接続助詞。倒置法。  逢わないまま。




2754 序詞

[題詞](寄物陳思)

朝柏  閏八河邊之  小竹之眼笶  思而宿者  夢所見来

朝柏 潤八川辺の 小竹の芽の 偲ひて寝れば 夢に見えけり 

[あさかしは うるやかはへの しののめの] しのひてぬれば いめにみえけり
・・・・・・・・・・
恋しい人のことをひそかに思いつつ寝たら

夢に見ましたよ
・・・・・・・・・・



2755 うわさ,女歌

[題詞](寄物陳思)

淺茅原  苅標刺而  空事文  所縁之君之  辞鴛鴦将待

浅茅原 刈り標さして 空言も 寄そりし君が 言をし待たむ 

あさぢはら かりしめさして むなことも よそりしきみが ことをしまたむ
・・・・・・・・・・
浅茅原で刈り標をするような空しい約束でも

世間に私とのうわさがたちました

言い寄ったあなたからの

お言葉を待っているわたしです
・・・・・・・・・・
* 「刈(か)り標(しめ)」は、草を刈っている途中で、持ち主のしるしをつけておくことです


2756 枕詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

月草之  借有命  在人乎  何知而鹿  後毛将相<云>

月草の 借れる命に ある人を いかに知りてか 後も逢はむと言ふ 

[つきくさの] かれるいのちに あるひとを いかにしりてか のちもあはむといふ
・・・・・・・・・・
露草の花のように

人の姿を借りたような私なのに

どういうつもりで

後にも逢うなどというのだろうか 
・・・・・・・・・・



2757 枕詞,序詞,兵庫県,有馬

[題詞](寄物陳思)

王之  御笠尓縫有  在間菅  有管雖看  事無吾妹

大君の 御笠に縫へる 有間菅 ありつつ見れど 事なき我妹 

[おほきみの みかさにぬへる ありますげ] ありつつみれど ことなきわぎも
・・・・・・・・・・
大王に捧げるきぬがさを織る有馬菅
その名のように脈ありと見たのだが
事もなげに知らんぷりで
薄情だなあ あの子は
・・・・・・・・・・

<旅人>http://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/27190821.html?type=folderlist
♪大君の 御笠に縫へる 有馬菅(すげ) ありつつ見れど 事無き我妹  (万葉集・巻11・2757)
(大君の 御笠にと縫い綴っている 有馬の菅 その名ではないが ありつつーずっと続けて見ている  けれど 申し分のないあの子だ)
相手をじっくり品定めした歌。
まだかかわりを持たず、ずっと見続けているだけだが、何のさしさわりもなく、自分としっくりいきそうな女の子だ、と詠う。

♪菅の根の ねもころ妹に 恋ふるにし ますらを心 思ほえぬかも     (万葉集・巻11・2758)
(菅の根・というではないが、ね・んごろにあの娘に惚れこんでしまった挙句しっかとしたますらお 心さえ 持ち合わせぬことになってしまった)
惚れこんだあまりに、ふやけてしまった我が身を自省する歌。
ますらおたるもの、めめしい恋心にいびられてはならぬ、が、何ともならない。
<ますらお>と<恋>との葛藤の歌は、万葉集に多い。

2758 枕詞

[題詞](寄物陳思)

菅根之  懃妹尓  戀西  益卜<男>心  不所念鳧

菅の根の ねもころ妹に 恋ふるにし 大夫心 思ほえぬかも 

[すがのねの] ねもころいもに こふるにし ますらをごころ おもほえぬかも
・・・・・・・・・・
心底あの女に思い入れている
剣太刀弓引く武人の気概と誇りはどうしたのか
思いもよらないことだ
いや あの女を守るためと一途に思えばいいではないか
・・・・・・・・・・
* 「ますらを」は万葉の時代、支配する者、武人・古代英雄として誇らしい意識を持つ言葉。何ごとにも動じない「ますらを」が恋の病にかかり「ますらを」の心を失くした歌。
* 「ますらを心」は、ますらをと呼ぶにふさわし確かな心。
* 「ねもころ」は、心こまやかに、心からの意。

2759 比喩,女歌

[題詞](寄物陳思)

吾屋戸之  穂蓼古幹  採生之  實成左右二  君乎志将待

我が宿の 穂蓼古幹 摘み生し 実になるまでに 君をし待たむ 

わがやどの ほたでふるから つみおほし みになるまでに きみをしまたむ
・・・・・・・・・・
私の家の穂蓼の茎から実を採り庭に植えます
そして一年経って実をつけるまで
あなたのことを待っています
その時はわたしたちも必ず実りましょう
・・・・・・・・・・

2760 枕詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

足桧之  山澤徊具乎  採将去  日谷毛相<為>  母者責十方

あしひきの 山沢ゑぐを 摘みに行かむ 日だにも逢はせ 母は責むとも 

[あしひきの] やまさはゑぐを つみにゆかむ ひだにもあはせ はははせむとも
・・・・・・・・・・
山沢に生えている回具を採みにいきましょう
その日に都合をつけて
あなたにお逢いしましょう
母に叱られてもいいからいきましょう
・・・・・・・・・・
* 「回具(ゑぐ)」黒グワイ」とするのが有力で、芹・クワイ・オモダカではないかとする説もある。黒グワイは、池や沼など底が浅く泥になっているところに生える。

2761 序詞

[題詞](寄物陳思)

奥山之  石本菅乃  根深毛  所思鴨  吾念妻者

奥山の 岩本菅の 根深くも 思ほゆるかも 吾が思ひ妻は 

[おくやまの いはもとすげの ねふかくも] おもほゆるかも あがおもひづまは
・・・・・・・・・・
奥山の岩根に深く這う菅の
思いはめぐる吾が妻のこと
・・・・・・・・・・

2762 うわさ,女歌,序詞

[題詞](寄物陳思)

蘆垣之 中之似兒草  尓故余漢  我共咲為而  人尓所知名

葦垣の 中の和草 にこやかに 我れと笑まして 人に知らゆな 

[あしかきの なかのにこぐさ にこやかに] われとゑまして ひとにしらゆな
・・・・・・・・・・
私と一緒にこうしてにこやかにしていらしゃる
それは人に知られますなゆめ
・・・・・・・・・
* 「似児草」は柔らかい草の意。

<旅人>http://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/27190821.html?type=folderlist
♪我がやどの 穂蓼古幹(ほたでふるから)摘み生(おほ)し 実になるまでに 君をし待たむ(2759)
(我が家の 穂蓼の古い茎 その実を摘んで蒔いて育て やがてまた実を結ぶようになるまでも 私はずっとあなたを待ちつづけています)
「実になる」は、結婚のこと。
庭の蓼を育てながら、心は男へと走る。

♪あしひきの 山沢えぐを 摘みに行かむ 日だにも逢はせ 母は責むとも  (万葉集・巻11・2760)
(あの山の沢のえぐを 摘みに行く その日だけでも逢って下さいましな 母さんが二人の仲を責め立 てようと)
山沢えぐを摘むのは、若い女の子の仕事として、場所と日時が限定されていたらしい。
母の監視の目から、解放されるチャンスだった。
♪奥山の 岩本菅の 根深くも 思ほゆるかも 我が思ひ妻は        (万葉集・巻11・2761)
(奥山の 岩陰に生える山菅が 根を地に深く食い込ませているように 心の底深く食い込んで離れようとはしない いとしくてならぬ我が妻は)
「思ひ妻」は、記歌謡に「思ひ妻あはれ」とあり、心中に常にある妻の意。
♪葦垣の 中のにこ草 にこやかに 我れと笑まして 人に知らゆな     (万葉集・巻11・2762)
(葦垣の 中に隠れているにこ草 その名のように にこやかに私にだけほほ笑みかけて まわりの人にそれと知られないようにして下さいね)<転載終了>

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