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2705 女歌,川渡り [題詞](寄物陳思) 愛八師 不相君故 徒尓 此川瀬尓 玉裳<沾>津 [はしきやし] あはぬきみゆゑ いたづらに このかはのせに たまもぬらしつ ・・・・・・・・・・
愛しいなあ 会ってくれないあなた 意味もなくこの川の瀬を渡って 裳裾を濡らしてしまった ・・・・・・・・・・ 2706 奈良県,長谷,女歌 [題詞](寄物陳思) 泊湍<川> 速見早湍乎 結上而 不飽八妹登 問師公羽裳 [はつせがは] はやみはやせを むすびあげて あかずやいもと とひしきみはも ・・・・・・・・・・
* 泊瀬川・初瀬川。奈良県桜井市を流れる。泊瀬川の流れの速い瀬で 水を手ですくって飲ませてくれた そしてもっとどうかと 尋ねてくれたあなたよ ・・・・・・・・・・ * 「速み」は、「速し」の名詞形とみれば「早瀬」。 * 係助詞「は」に、係助詞「も」で感動・詠嘆を表す。…はまあ。…だなあ。文末にあって、強い詠嘆を表す。「は」「も」を終助詞とする説もある。 * 「掬び」は、両手を合わせて水を掬うこと。 * 「や」は、疑問の係助詞。 * 「はも」は、強調の係助詞「は」に、詠嘆の終助詞「も」が付いて、強い詠嘆を表す。 サ2707 序詞 [題詞](寄物陳思) 青山之 石垣沼間乃 水隠尓 戀哉<将>度 相縁乎無 [あをやまの いはかきぬまの] みごもりに こひやわたらむ あふよしをなみ ・・・・・・・・・・
* 「青山」は、青々と草木の茂った山。草木が青く茂る山の 岩垣で囲んだ沼底のような隠れ里に 私の思う人はいるのだが 人目をはばかってずっと恋し続けるのか あの人に逢いたいと 伝えるすべさえわからない ・・・・・・・・・・ * 「岩垣」は、岩が垣根のようになったところ。 * 「岩垣沼の」は(水)隠りの序詞。人目をはばかる・人知れずなどの意。 * 「恋ひ」は、ハ行四段活用動詞「恋ふ」の連用形。 * 「や」は、疑問の係助詞。 * 「わたら」は、ラ行四段活用動詞「わたる」の未然形。 * 「む」は、推量の助動詞。(ずっと〜し続けるのか)詠嘆的な意味を持つ。結び。 * 「よし」は、「由」(名詞) * 「を」は格助詞。 * 「なみ」は、形容詞「なし」の語幹「な」に、原因理由の接尾語「み」が付いたもの。 手だてもないので。 2708 枕詞,序詞,大阪府,池田市,異伝 [題詞](寄物陳思) 四長鳥 居名山響尓 行水乃 名耳所縁之 内妻波母 [一云 名<耳>所縁而 戀管哉将在] [しながどり] ゐなやまとよに ゆくみづの] なのみよそりし こもりづまはも[なのみよそりて こひつつやあらむ] ・・・・・・・・・・
* 「しなが鳥」 カイツブリ。 猪名山を鳴り響かせて流れる川の水音のように 噂ばかり寄せながら姿もみせてくれない つれない秘蔵の妻よ ・・・・・・・・・・ 2709 異伝 [題詞](寄物陳思) 吾妹子 吾戀樂者 水有者 之賀良三<超>而 應逝衣思 [或本歌發句云 相不思 人乎念久] わぎもこに あがこふらくは みづならば しがらみこして ゆくべくおもほゆ[あひおもはぬ ひとをおもはく] ・・・・・・・・・・
* 「こう‐らく」恋ふらく 《「こ(恋)ふ」のク語法》恋をすること。恋い慕うこと。吾が妻を恋い慕うこの気持ちは どんなしがらみも通りこしてゆく 水の流れのように思える ・・・・・・・・・・ * 「は」と「が」のちがい。「は」はそれが付いている事物を他からはっきり区別する語で、「が」は主語を表したり、連体修飾を表したりする格助詞で、述語・被修飾語と密接に結びつく。 * 「おもほ・ゆ」思ほゆ [動ヤ下二]《動詞「おもふ」の未然形に自発の助動詞「ゆ」の付いた「おもはゆ」の音変化》思うまいとしても、自然に思われる。 2710 滋賀県,彦根市,序詞 [題詞](寄物陳思) 狗上之 鳥籠山尓有 不知也河 不知二五寸許瀬 余名告奈 [いぬかみの とこのやまなる いさやかは] いさとをきこせ わがなのらすな ・・・・・・・・・・
* 不知哉川 滋賀県東部の霊仙(りょうぜん)山が水源。彦根市を流れ琵琶湖に注ぐ芹川(せりがわ=大堀川)の古名。犬上の鳥籠の山付近を流れるいさや川ではないが 恋人が誰かと問われても いさ わからないととぼけてください 決して私の名前は出さないで ・・・・・・・・・・ * 「いさ」は、答えにくいことをぼかすとき、あいまいなときの返事。さあ、そうだなあ、副詞として、下に「知らず」を伴って、さあどうだか(わからない)。 2711 序詞,うわさ [題詞](寄物陳思) 奥山之 木葉隠而 行水乃 音聞従 常不所忘 [おくやまの このはがくりて ゆくみづの] おとききしより つねわすらえず ・・・・・・・・・・
奥山の落ち葉に隠れる水流の音のような 女たちのあなたの噂を耳にしてから 私はあなたが気になって忘れられない ・・・・・・・・・・ 2712 枕詞,うわさ,女歌 [題詞](寄物陳思) 言急者 中波余騰益 水無河 絶跡云事乎 有超名湯目 [こととくは] なかはよどませ [みなしがは] たゆといふことを ありこすなゆめ ・・・・・・・・・・
* 「ことと・し」 言▽疾し (形ク)人の口がやかましくてあうことがためらわれます でも水無川の伏流水のように 決して恋が絶えることはありません ・・・・・・・・・・ うわさがひどい。人の口がやかましい。 * 「淀ませ」は、水が淀む意と、逢えない意の掛詞と解釈する。 2713 奈良県,明日香,序詞 [題詞](寄物陳思) 明日香河 逝湍乎早見 将速登 待良武妹乎 此日晩津 [あすかがは ゆくせをはやみ はやけむと] まつらむいもを このひくらしつ ・・・・・・・・・・
飛鳥川の川瀬の流れが速いように はやく逢いに来てと あの子は待っているだろう 心にかけて思う日々を送っているよ ・・・・・・・・・・ 2714 枕詞,序詞,京都府,異伝 [題詞](寄物陳思) 物部乃 八十氏川之 急瀬 立不得戀毛 吾為鴨 [一云 立而毛君者 忘金津藻] [もののふの] やそうぢがはの はやきせに] たちえぬこひも あれはするかも[たちてもきみは わすれかねつも] ・・・・・・・・・・
* 「宇治川」 琵琶湖から瀬田川(滋賀県大津市)→宇治川(京都府)→淀川(京都・大阪府境)と名前を変えて大阪湾に流れる。宇治川の急流の瀬に挑み立つような激しい恋を 私はやってみようかな ・・・・・・・・・・ 2715 枕詞,序詞,奈良県,明日香 [題詞](寄物陳思) 神名火 打廻前乃 石淵 隠而耳八 吾戀居 [かむなびの うちみのさきの [いはぶちの] こもりてのみや あがこひをらむ
・・・・・・・・・・
甘南備山の辺をめぐる飛鳥川が 打廻の崎で岩に囲まれ淵に隠るように 吾が恋は人目を忍ぶ隠り恋だな ・・・・・・・・・・ |
万葉集索引第十一巻
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2716 序詞 [題詞](寄物陳思) 自高山 出来水 石觸 破衣念 妹不相夕者 [たかやまゆ いでくるみづの いはにふれ] くだけてぞおもふ いもにあはぬよは ・・・・・・・・・・・
心が砕けて 心が千々に乱れて ただ恋しく思う 君が居ない夜は ・・・・・・・・・・・ サ2717 序詞,うわさ [題詞](寄物陳思) 朝東風尓 井<堤超>浪之 世<染>似裳 不相鬼故 瀧毛響動二 [あさごちに ゐでこすなみの よそめにも] あはぬものゆゑ たきもとどろに ・・・・・・・・・・・
* 「朝東風」春の朝に吹く東風。春の朝に吹く強風にあおられた波が 井堤を超えるようなこともあろうが 相手のことは他人の目にもふれないようにしているのに 噂が滝のように轟いていることよ ・・・・・・・・・・・ * 「に」は原因を示す格助詞。 * 「井堤(いで)」川の水を堰き止め、水を汲む場所。 * <よそめにも(世染似裳)・よてふにも(世蝶似裳>) http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#545よそめにも(世染似裳) 川の波のように、限度を越えるような、そのように逢うことはしないのに、滝の音が轟くように噂を立てられる。 * 「ものゆゑ」 順接・逆接・理由の接続助詞。活用語の連体形に付いて、ここでは逆接の意をあらわす。「〜ものなのに」。 * 「とどろ」は、[副] 音が大きく鳴り響くさま。 * 「に」は、動作の帰結。・・だよ。 2718 序詞,うわさ [題詞](寄物陳思) 高山之 石本瀧千 逝水之 音尓者不立 戀而雖死 [たかやまの いはもとたぎち ゆくみづの] おとにはたてじ こひてしぬとも ・・・・・・・・・・・
* 「たぎち」水が激しく流れること。また、その流れ。 高山の岩盤を削るような激しい流れでも 人には知られまいこの恋 たとえそのために死のうとも ・・・・・・・・・・・ 2719 うわさ,枕詞 [題詞](寄物陳思) 隠沼乃 下尓戀者 飽不足 人尓語都 可忌物乎 [こもりぬの] したにこふれば あきだらず ひとにかたりつ いむべきものを ・・・・・・・・・・・
心ふさいで隠り沼 こんな恋に満たされず とうとう人にこぼしてしまった 他人に自分の恋を語るなんて 慎みもない さぞや噂の嵐に見舞われるだろうな ・・・・・・・・・・・ 2720 序詞 [題詞](寄物陳思) 水鳥乃 鴨之住池之 下樋無 欝悒君 今日見鶴鴨 [みづとりの かものすむいけの したびなみ] いぶせききみを けふみつるかも ・・・・・・・・・・・
水鳥の鴨の棲む池に排水の下樋がないように 想いに鬱々としている貴方を 今日見かけてしまった ・・・・・・・・・・・ 2721 枕詞 [題詞](寄物陳思) 玉藻苅 井<堤>乃四賀良美 薄可毛 戀乃余杼女留 吾情可聞 [たまもかる] ゐでのしがらみ うすみかも] こひのよどめる あがこころかも ・・・・・・・・・・・
* 「井堤」は「川の水を堰止めたところ」を意味する普通名詞と思われるが、その後山城国の井手と同一視されたようで、柵(しがらみ)とともに詠まれることが多くなった。<出典・歌枕紀行 井手>川の流れを堰止めた柵(しがらみ)は 二人の恋の邪魔をするつもりか 恋がよどむ吾が心を映すようだなあ ・・・・・・・・・・・ * 「しがらみ」は、より強く引きとどめるもの、後ろ髪をひかれるようなものの例えにも。 * 「うすみかも」は、うす(薄・失)。み(理由)。 か(係助詞)・も(終助詞)に分解解釈。 2722 岐阜県,関ヶ原,序詞,羈旅 [題詞](寄物陳思) 吾妹子之 笠乃借手乃 和射見野尓 吾者入跡 妹尓告乞 [わぎもこが かさのかりての わざみのに] われはいりぬと いもにつげこそ ・・・・・・・・・・・
* 「笠のかりて」は、笠の内側の輪状の部分。和射見の「わ」を導く。旅笠の内輪が被さるように 私の妻にその和射見野に着いたと 連絡をしてくださいな ・・・・・・・・・・・ * 「和射見野」は、笠の内側の頭頂部の輪(台座)。 * 「こそ」は、終助詞で、他にあつらえ望む意を示す。 * 「わざみの(和射見野)」 http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#546わざみの(和射見野) 2723 うわさ,枕詞 [題詞](寄物陳思) 數多不有 名乎霜惜三 埋木之 下<従>其戀 去方不知而 あまたあらぬ なをしもをしみ [うもれぎの] したゆぞこふる ゆくへしらずて ・・・・・・・・・・・
* 埋もれ木は「地下にある」ことから「下」にかかる枕詞。 )、その名を惜しみ 地の底から木の根のように恋う 何処まで伸びるか 何処へ行くのか分からない ・・・・・・・・・・・ (木の)根の・一番の・先端・の (ように何処まで伸びているか分からない状況の) 2724 序詞 [題詞](寄物陳思) 冷風之 千江之浦廻乃 木積成 心者依 後者雖不知 [あきかぜの] ちえのうらみの こつみなす] こころはよりぬ のちはしらねど ・・・・・・・・・・・
* 「秋風の」は「吹く」などの述語が省かれている。長い浜辺の千江の浦に 木屑が打ち寄せられている 吾が心が君に寄るように 恋の行く末は分からないけれど ・・・・・・・・・・・ 秋風の吹く千江の浜辺に 木の屑や貝殻や海藻など さまざまなな塵芥が 波のまにまに打ち寄せられてたまる 私の恋の思いも ちょうど塵芥のようなもので あなたに対する慕情は 絶え間なくつのるばかり でもこの思いがかなえられるかどうか その行く末を知ることは出来ないけれど ・・・・・・・・・・・ * 「浦廻」は海岸の湾曲したところ。 * 「木屑(こつみ)」 木積とも。木の屑。海岸に打ち寄せられる諸々の塵。 2725 大阪府,序詞,うわさ [題詞](寄物陳思) 白細<砂> 三津之黄土 色出而 不云耳衣 我戀樂者 [しらまなご] みつのはにふの いろにいでて] いはなくのみぞ あがこふらくは ・・・・・・・・・・・
* 埴生:埴(はに)。きめの細かい黄赤色の粘土。瓦・陶器の原料。 白砂の続く御津の岸の 黄赤色の鮮やかなように 顔色にだしてはいけないと はっきり告げはしない 君へのこの恋しい心は ・・・・・・・・・・・ 上代には衣にすりつけて色付けに用いた。 2726 序詞,うわさ,異伝 [題詞](寄物陳思) 風不吹 浦尓浪立 無名乎 吾者負香 逢者無二 [一云 女跡念而] [かぜふかぬ うらになみたち なきなをも] われはおへるか あふとはなしに[をみなとおもひて] ・・・・・・・・・・・
風が吹かない入り江に波が立つように いわれない噂を立てられて 私には手に負えない 噂の相手とは一度も会ったことすらないのに ・・・・・・・・・・・ 2727 三重県,菅島,序詞 [題詞](寄物陳思) 酢蛾嶋之 夏身乃浦尓 依浪 間文置 吾不念君 [すがしまの なつみのうらに よするなみ] あひだもおきて わがおもはなくに
・・・・・・・・・・・
酢蛾島の 夏身の浦に 寄する波 そのように 間断なく君をのみ思っているのだよ ・・・・・・・・・・・ |
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2728 滋賀県,序詞,うわさ [題詞](寄物陳思) 淡海之海 奥津嶋山 奥間經而 我念妹之 言繁<苦> [あふみのうみ おきつしまやま おくまへて] あがおもふいもが ことのしげけく ・・・・・・・・・・・
琵琶湖沖島の奥深くにまで 吾がいとしい女(ひと)が 噂の的になってしまった ・・・・・・・・・・・ 2729 序詞,枕詞,滋賀県,西浅井町 [題詞](寄物陳思) 霰零 遠<津>大浦尓 縁浪 縦毛依十万 憎不有君 [あられふり とほつおほうらに よするなみ] よしもよすとも にくくあらなくに ・・・・・・・・・・・
遠くの大浦にまで寄せる波 周囲から何を聞かされようと 私ははあの女を憎めない ・・・・・・・・・・・ 2730 和歌山県,海南市,序詞,うわさ [題詞](寄物陳思) 木海之 名高之浦尓 依浪 音高鳧 不相子故尓 [きのうらの なたかのうらに よするなみ] おとだかきかも あはぬこゆゑに ・・・・・・・・・・・
紀の浦の 名高の浦に 寄する波 そのように 噂ばかり大げさに伝わってくる 逢いたい 逢って確かめたいものよ ・・・・・・・・・・・ 2731 岡山県,牛窓町,うわさ,女歌,序詞 [題詞](寄物陳思) 牛窓之 浪乃塩左猪 嶋響 所依之<君> 不相鴨将有 [うしまどの なみのしほさゐ しまとよみ] よそりしきみは あはずかもあらむ ・・・・・・・・・・・
* 「牛窓」 岡山県瀬戸内市。牛窓の潮騒が島中に響くように 世間の噂がかまびすしい いい仲に寄りそうきみとは 噂が落ちつくまでしばらく 会えないかもしれない ・・・・・・・・・・・ 2732 序詞 [題詞](寄物陳思) 奥波 邊浪之来縁 左太能浦之 此左太過而 後将戀可聞 [おきつなみ へなみのきよる さだのうらの] このさだすぎて のちこひむかも ・・・・・・・・・・・
佐太の浦には沖からの波が押し寄せるけど 辺波になってやってくるのは今だけかも この盛りが過ぎればあとはわたしが 恋い焦がれるばかりのほったらかしじゃないかしら ・・・・・・・・・・・ 2733 [題詞](寄物陳思) 白浪之 来縁嶋乃 荒礒尓毛 有申物尾 戀乍不有者 [しらなみの きよするしまの ありそにも] あらましものを こひつつあらずは ・・・・・・・・・・・
荒磯に寄せる島の白波は 心がなくても打ち寄せる それでもいいからやって来てよ ・・・・・・・・・・・ 2734 [題詞](寄物陳思) 塩満者 水沫尓浮 細砂裳 吾者生鹿 戀者不死而 [しほみてば みなわにうかぶ まなごにも] わはなりてしか こひはしなずて ・・・・・・・・・・・
潮が満ちてくるとみなわ(水泡)に浮かぶ細かい砂のように 私はなってしまったのか 恋いしさに死ぬような思いをすることよ ・・・・・・・・・・・ 2735 大阪府,住吉,序詞 [題詞](寄物陳思) 住吉之 城師乃浦箕尓 布浪之 數妹乎 見因欲得 [すみのえの きしのうらみに しくなみの] しくしくいもを みむよしもがも ・・・・・・・・・・・
住之江の岸の浦辺に 波はしきりにしくしく寄せる そのようにあの子に逢える手だてがないものか ・・・・・・・・・・・ 2736 序詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 風緒痛 甚振浪能 間無 吾念君者 相念濫香 [かぜをいたみ いたぶるなみの あひだなく] あがおもふいもは あひおもふらむか ・・・・・・・・・・・
風が強くて激しい波が常に押し寄せるように 私が想っているあの女(ひと)は 私のことを同じように想ってくれているだろうか ・・・・・・・・・・・ 2737 大阪府,序詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 大伴之 三津乃白浪 間無 我戀良苦乎 人之不知久 [おほともの みつのしらなみ あひだなく] あがこふらくを ひとのしらなく ・・・・・・・・・・・
大伴の御津の浜辺に寄せては返す白波の絶え間ないように わたしは恋い焦がれているのに あの人はまるで知らないでいる ・・・・・・・・・・・ 2738 序詞 [題詞](寄物陳思) 大船乃 絶多經海尓 重石下 何如為鴨 吾戀将止 [おほぶねの] たゆたふうみに いかりおろし] いかにせばかも あがこひやまむ
・・・・・・・・・・・
あちこち揺れ漂い思いも定まらない 大海に碇をおろすように さあどうすれば 吾が恋は成就されるのだろうか それをきめよう ・・・・・・・・・・・ |
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2739 序詞 [題詞](寄物陳思) 水沙兒居 奥<麁>礒尓 縁浪 徃方毛不知 吾戀久波 [みさごゐる おきつありそに よするなみ] ゆくへもしらず 吾がこふらくは ・・・・・・・・・・
* 「おき‐つ」沖つ[連語]。「つ」は「の」の意の格助詞。 沖の。沖にある。みさごが飛ぶ沖の荒礒に 絶えず寄せている波のように 私の激しい恋は 幾重となく砕け散って 跡形も知れないことよ ・・・・・・・・・・ * 「みさご」は、「鶚」。猛禽類で、海浜や河・湖などにすみ、水中の魚をとる」。 * 「恋ふらく」は、「恋うふるあく」→「恋ふらく」。動詞を名詞化する。文末にあれば詠嘆を表す。 〜であることよ。 * 「は」は提示の係助詞。主語を示す。四句目・五句目の倒置法。吾がこふらくは ゆくへもしらず 2740 序詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 大船之 <艫毛舳>毛 依浪 <依>友吾者 君之<任>意 [おほぶねの ともにもへにも よするなみ] よすともわれは きみがまにまに ・・・・・・・・・・
寄せる波のようにおいでなさいな わたしはあなたの 思いどおりになるでしょう ・・・・・・・・・・ 2741 [題詞](寄物陳思) 大海二 立良武浪者 間将有 公二戀等九 止時毛梨 [おほぶねに たつらむなみは あひだあらむ] きみにこふらく やむときもなし ・・・・・・・・・・
大船に立つ波だって間というものがあるでしょう あなたへの恋にはそれすらありません ・・・・・・・・・・ 2742 作者:石川君子,作者異伝,福岡県,志賀島,序詞 [題詞](寄物陳思) <壮>鹿海部乃 火氣焼立而 燎塩乃 辛戀毛 吾為鴨 [しかのあまの けぶりやきたて やくしほの] からきこひをも あれはするかも ・・・・・・・・・・
志賀島の海人が煙をたてて焼く塩のように つらい恋を私はしていることよ ・・・・・・・・・・ 2743 滋賀県,比良 [題詞](寄物陳思) 中々二 君二不戀者 <枚>浦乃 白水郎有申尾 玉藻苅管 なかなかに きみにこひずは ひらのうらの あまならましを たまもかりつつ ・・・・・・・・・・
なまじっかあなたに恋して悩むくらいなら 比良の浦の海女になって 玉藻を刈っていた方が よほど心やすらかでいられたでしょうに ・・・・・・・・・・ 2743S 兵庫県,相生市,異伝 [題詞](寄物陳思)或本歌曰 中々尓 君尓不戀波 留<牛馬>浦之 海部尓有益男 珠藻苅<々> なかなかに きみにこひずは なはのうらの あまにあらましを たまもかるかる ・・・・・・・・・・
なまじっかあなたに恋して悩むくらいなら 縄の浦の海女になって ただ玉藻を刈りながら過ごしたほうがいい ・・・・・・・・・・ 2744 枕詞,序詞 [題詞](寄物陳思) 鈴寸取 海部之燭火 外谷 不見人故 戀比日 [すずきとる あまのともしび よそにだに] みぬひとゆゑに こふるこのころ ・・・・・・・・・・
沖で鱸漁をする漁師の灯火のように 会うことが遠くなってしまった人よ それゆえ余計に恋いしさがつのる今日このごろ ・・・・・・・・・・ 2745 序詞,うわさ,障害 [題詞](寄物陳思) 湊入之 葦別小<舟> 障多見 吾念<公>尓 不相頃者鴨 [みなといりの あしわけをぶね さはりおほみ] あがおもふきみに あはぬころかも ・・・・・・・・・・
水路の門口に密生している葦を分けながら 小船で進むがなにかと障害が多くて もうとっくに吾が思う君と逢えているはずなのになあ ・・・・・・・・・・ 2746 序詞 [題詞](寄物陳思) 庭浄 奥方榜出 海舟乃 執梶間無 戀為鴨 [にはきよみ おきへこぎづる あまぶねの] かぢとるまなき こひもするかも ・・・・・・・・・・
* 「庭」は、ここでは穏やかな海面。穏やかな海面を沖へと漕ぎ出る海人舟の 漕ぐ間もこみあげる君への恋情よ ・・・・・・・・・・ 2747 滋賀県,塩津,序詞,怨み [題詞](寄物陳思) 味鎌之 塩津乎射而 水手船之 名者謂手師乎 不相将有八方 [あぢかまの しほつをさして こぐふねの] なはのりてしを あはざらめやも ・・・・・・・・・・
* 「塩津」の「塩」は、きよめ祓いの縁語。塩津の港を指して一途に漕ぐ舟のように あなたに大事な吾が名をうちあけたのです 逢ってくださらないわけにはいきませんよ ・・・・・・・・・・ * 「を」は、動作の経過する場所。 * 「て」は、活用語の連用形をうけて、その動作・状態がそこで一旦区切れることをあらわす。継起・並列・逆接など、さまざまな意味合いで用いられる。 * 「し」は、種々の語を承け、それを強く指示して強調する。 * 「を」は、(間投助詞)強調を表す。 * 「〜ざらめやも」:「ざら」は、「ざり」の未然形。 「め」は、「む」の已然形。 「やも」は、反語の助詞。 「〜しないことなどあろうか」「〜しないはずはない」の意。 * 初句[あぢかまの]はじめ、枕詞、地名、一途、等 縁語・掛詞が多い。 あぢかまの(味鎌之) http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#547あぢかまの(味鎌之) 2748 序詞 [題詞](寄物陳思) 大<船>尓 葦荷苅積 四美見似裳 妹心尓 乗来鴨 [おほぶねに あしにかりつみ しみみにも] いもはこころに のりにけるかも ・・・・・・・・・・
大きな船に刈り取ったアシを隙間なく 今にも沈みそうなくらい一杯に積み込むように 愛しくてたまらないあの子で私の心はいっぱいになっている ・・・・・・・・・・ 2749 序詞 [題詞](寄物陳思) 驛路尓 引舟渡 直乗尓 妹情尓 乗来鴨 [はゆまぢに ひきふねわたし ただのりに] いもはこころに のりにけるかも ・・・・・・・・・・
* 駅路(はゆまじ)は、宿駅のある街道。わたしは宿場まで渡す引き舟に乗るが 妻は吾が心に相乗りしているようだ ・・・・・・・・・・ 2750 [題詞](寄物陳思) 吾妹子 不相久 馬下乃 阿倍橘乃 蘿生左右 わぎもこに あはずひさしも うましもの あへたちばなの こけむすまでに
・・・・・・・・・・
愛しい女に長い間逢えないでいる 味の良い安倍橘の木に苔が生えるほど ・・・・・・・・・・ |
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2751 序詞 [題詞](寄物陳思) 味乃住 渚沙乃入江之 荒礒松 我乎待兒等波 但一耳 [あぢのすむ すさのいりえの ありそまつ] あをまつこらは ただひとりのみ ・・・・・・・・・・
* 「アヂ」は、アヂガモのことで、シベリア東部に繁殖し、日本・朝鮮半島・中国東部に飛来し越冬する小型の渡り鳥。アジが住んでいる渚沙の入江の荒磯松のように 私を待っている人はただ一人だけだ ・・・・・・・・・・ 雄の羽根は、頭部に淡黄褐色と緑色の巴模様があり美しい。 現在はトモエガモと呼ばれている。主に関西以西で越冬し、数百羽以上の群れをつくり、群れで行動することが多い。 群れは、和歌のでは「あぢむら」として歌われる。 2752 序詞 [題詞](寄物陳思) 吾妹兒乎 聞都賀野邊能 靡合歡木 吾者隠不得 間無念者 [わぎもこを ききつがのへの しなひねぶ] われはしのびず まなくしおもへば ・・・・・・・・・・
* 「しなひ」はしなやかに曲がっている様子。ふっくらと咲いている合歓のようなあの娘を 私は感情を抑えられず いつもいつも恋しく想っていて もう隠すことができません ・・・・・・・・・・ サ2753 序詞 [題詞](寄物陳思) 浪間従 所見小嶋 濱久木 久成奴 君尓不相四手 [なみのまゆ みゆるこしまの はまひさぎ] ひさしくなりぬ きみにあはずして ・・・・・・・・・・
* 「久木」は、(あかめがしわ)の古名。波の間から見える小島の浜久木 その名のように 久しくなってしまった あなたに逢わないまま ・・・・・・・・・・ * 「見ゆる」は、ヤ行下二段活用動詞「見ゆ」の連体形。 * 「浜久木」は、海浜に生えている「ひさぎ・ツバキ科ヒサカキの別名」サ カキの代わりに神事に使う地方もある。庭木。 ここでは『久し』の序詞として用いられている。 * 「なり」は、ラ行四段活用動詞「なる」の連用形。 * 「ぬ」は、完了の助動詞。 なってしまった。 * 「逢は」は、ハ行四段活用動詞「逢ふ」の未然形。 * 「ず」は、打消の助動詞。 * 「して」は、状態の接続助詞。倒置法。 逢わないまま。 <サ>http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/28895022.html <項>http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/folder/1039689.html?m=lc&p=34#28895379 2754 序詞 [題詞](寄物陳思) 朝柏 閏八河邊之 小竹之眼笶 思而宿者 夢所見来 [あさかしは うるやかはへの しののめの] しのひてぬれば いめにみえけり ・・・・・・・・・・
恋しい人のことをひそかに思いつつ寝たら 夢に見ましたよ ・・・・・・・・・・ 2755 うわさ,女歌 [題詞](寄物陳思) 淺茅原 苅標刺而 空事文 所縁之君之 辞鴛鴦将待 あさぢはら かりしめさして むなことも よそりしきみが ことをしまたむ ・・・・・・・・・・
* 「刈(か)り標(しめ)」は、草を刈っている途中で、持ち主のしるしをつけておくことです浅茅原で刈り標をするような空しい約束でも 世間に私とのうわさがたちました 言い寄ったあなたからの お言葉を待っているわたしです ・・・・・・・・・・ 2756 枕詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 月草之 借有命 在人乎 何知而鹿 後毛将相<云> [つきくさの] かれるいのちに あるひとを いかにしりてか のちもあはむといふ ・・・・・・・・・・
露草の花のように 人の姿を借りたような私なのに どういうつもりで 後にも逢うなどというのだろうか ・・・・・・・・・・ 2757 枕詞,序詞,兵庫県,有馬 [題詞](寄物陳思) 王之 御笠尓縫有 在間菅 有管雖看 事無吾妹 [おほきみの みかさにぬへる ありますげ] ありつつみれど ことなきわぎも ・・・・・・・・・・
大王に捧げるきぬがさを織る有馬菅 その名のように脈ありと見たのだが 事もなげに知らんぷりで 薄情だなあ あの子は ・・・・・・・・・・ <旅人>http://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/27190821.html?type=folderlist ♪大君の 御笠に縫へる 有馬菅(すげ) ありつつ見れど 事無き我妹 (万葉集・巻11・2757) (大君の 御笠にと縫い綴っている 有馬の菅 その名ではないが ありつつーずっと続けて見ている けれど 申し分のないあの子だ) 相手をじっくり品定めした歌。 まだかかわりを持たず、ずっと見続けているだけだが、何のさしさわりもなく、自分としっくりいきそうな女の子だ、と詠う。 ♪菅の根の ねもころ妹に 恋ふるにし ますらを心 思ほえぬかも (万葉集・巻11・2758) (菅の根・というではないが、ね・んごろにあの娘に惚れこんでしまった挙句しっかとしたますらお 心さえ 持ち合わせぬことになってしまった) 惚れこんだあまりに、ふやけてしまった我が身を自省する歌。 ますらおたるもの、めめしい恋心にいびられてはならぬ、が、何ともならない。
<ますらお>と<恋>との葛藤の歌は、万葉集に多い。
2758 枕詞[題詞](寄物陳思) 菅根之 懃妹尓 戀西 益卜<男>心 不所念鳧 [すがのねの] ねもころいもに こふるにし ますらをごころ おもほえぬかも ・・・・・・・・・・
* 「ますらを」は万葉の時代、支配する者、武人・古代英雄として誇らしい意識を持つ言葉。何ごとにも動じない「ますらを」が恋の病にかかり「ますらを」の心を失くした歌。心底あの女に思い入れている 剣太刀弓引く武人の気概と誇りはどうしたのか 思いもよらないことだ いや あの女を守るためと一途に思えばいいではないか ・・・・・・・・・・ * 「ますらを心」は、ますらをと呼ぶにふさわし確かな心。 * 「ねもころ」は、心こまやかに、心からの意。 2759 比喩,女歌 [題詞](寄物陳思) 吾屋戸之 穂蓼古幹 採生之 實成左右二 君乎志将待 わがやどの ほたでふるから つみおほし みになるまでに きみをしまたむ ・・・・・・・・・・
私の家の穂蓼の茎から実を採り庭に植えます そして一年経って実をつけるまで あなたのことを待っています その時はわたしたちも必ず実りましょう ・・・・・・・・・・ 2760 枕詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 足桧之 山澤徊具乎 採将去 日谷毛相<為> 母者責十方 [あしひきの] やまさはゑぐを つみにゆかむ ひだにもあはせ はははせむとも ・・・・・・・・・・
* 「回具(ゑぐ)」黒グワイ」とするのが有力で、芹・クワイ・オモダカではないかとする説もある。黒グワイは、池や沼など底が浅く泥になっているところに生える。山沢に生えている回具を採みにいきましょう その日に都合をつけて あなたにお逢いしましょう 母に叱られてもいいからいきましょう ・・・・・・・・・・ 2761 序詞 [題詞](寄物陳思) 奥山之 石本菅乃 根深毛 所思鴨 吾念妻者 [おくやまの いはもとすげの ねふかくも] おもほゆるかも あがおもひづまは ・・・・・・・・・・
奥山の岩根に深く這う菅の 思いはめぐる吾が妻のこと ・・・・・・・・・・ 2762 うわさ,女歌,序詞 [題詞](寄物陳思) 蘆垣之 中之似兒草 尓故余漢 我共咲為而 人尓所知名 [あしかきの なかのにこぐさ にこやかに] われとゑまして ひとにしらゆな ・・・・・・・・・・
* 「似児草」は柔らかい草の意。私と一緒にこうしてにこやかにしていらしゃる それは人に知られますなゆめ ・・・・・・・・・ <旅人>http://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/27190821.html?type=folderlist ♪我がやどの 穂蓼古幹(ほたでふるから)摘み生(おほ)し 実になるまでに 君をし待たむ(2759) (我が家の 穂蓼の古い茎 その実を摘んで蒔いて育て やがてまた実を結ぶようになるまでも 私はずっとあなたを待ちつづけています) 「実になる」は、結婚のこと。 庭の蓼を育てながら、心は男へと走る。 ♪あしひきの 山沢えぐを 摘みに行かむ 日だにも逢はせ 母は責むとも (万葉集・巻11・2760)
(あの山の沢のえぐを 摘みに行く その日だけでも逢って下さいましな 母さんが二人の仲を責め立 てようと) 山沢えぐを摘むのは、若い女の子の仕事として、場所と日時が限定されていたらしい。 母の監視の目から、解放されるチャンスだった。 ♪奥山の 岩本菅の 根深くも 思ほゆるかも 我が思ひ妻は (万葉集・巻11・2761) (奥山の 岩陰に生える山菅が 根を地に深く食い込ませているように 心の底深く食い込んで離れようとはしない いとしくてならぬ我が妻は) 「思ひ妻」は、記歌謡に「思ひ妻あはれ」とあり、心中に常にある妻の意。 ♪葦垣の 中のにこ草 にこやかに 我れと笑まして 人に知らゆな (万葉集・巻11・2762) (葦垣の 中に隠れているにこ草 その名のように にこやかに私にだけほほ笑みかけて まわりの人にそれと知られないようにして下さいね)<転載終了> |



