万葉集索引第十一巻
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2774 序詞 [題詞](寄物陳思) 神南備能 淺小竹原乃 美 妾思公之 聲之知家口 [かむなびの あさぢのはらの うるはしみ] あがおもふきみが こゑのしるけく ・・・・・・・・・・
神おわすあさしのはらに 我が思う君の麗しい声が 朗々と響いていることだ ・・・・・・・・・・ 2775 序詞 [題詞](寄物陳思) 山高 谷邊蔓在 玉葛 絶時無 見因毛欲得 [やまたかみ たにへにはへる たまかづら] たゆるときなく みむよしもがも ・・・・・・・・・・
山高く谷に生え延びる玉葛は 蔓が長く強靭で切れにくいので 絶える時なくきみを 見ることができないだろうか ・・・・・・・・・・ 2776 [題詞](寄物陳思) 道邊 草冬野丹 履干 吾立待跡 妹告乞 みちのへの くさをふゆのに ふみからし われたちまつと いもにつげこそ ・・・・・・・・・・
冬の野のように道端の草を踏み枯らして 私が待っているってあの娘に誰か伝えてよ ・・・・・・・・・・ 2777 枕詞 [題詞](寄物陳思) 疊薦 隔編數 通者 道之柴草 不生有申尾 [たたみこも] へだてあむかず かよはさば みちのしばくさ おひずあらましを ・・・・・・・・・・
軽皇子と軽太郎女との相聞歌畳ころもを編むように 道端の草も生えないほど間なく通ってくだされば きみの恋心をお受けもしましょうに ・・・・・・・・・・ 2778 序詞,うわさ [題詞](寄物陳思) 水底尓 生玉藻之 生不出 縦比者 如是而将通 [みなそこに おふるたまもの おひいでず] よしこのころは かくてかよはむ ・・・・・・・・・・
いくら潜って見ても藻は生えてないぞ というように世間を欺いて通おう あの子のもとへ ・・・・・・・・・・ 2779 序詞 [題詞](寄物陳思) 海原之 奥津縄乗 打靡 心裳<四>怒尓 所念鴨 [うなはらの おきつなはのり うちなびき] こころもしのに おもほゆるかも ・・・・・・・・・・
* 「なわ‐のり」縄海苔 縄のように細長い海藻。うみそうめん(アメフラシの卵塊)のことともいう。はるか沖合いの波間に見え隠れする縄海苔ではないが 心がくたくたに千切れそうになりながら君を思い慕っているよ ・・・・・・・・・・ 2780 和歌山県,海南市,枕詞,序詞 [題詞](寄物陳思) 紫之 名高乃浦之 靡藻之 情者妹尓 因西鬼乎 [むらさきの] なたかのうらの なびきもの] こころはいもに よりにしものを ・・・・・・・・・・
紫草で名高い名高の浦の 波のまにまになびく藻のように 心はすっかりあの子になびきさまようことよ ・・・・・・・・・・ 2781 序詞 [題詞](寄物陳思) 海底 奥乎深目手 生藻之 最今社 戀者為便無寸 [わたのそこ] おきをふかめて おふるもの] もともいまこそ こひはすべなき ・・・・・・・・・・
* 「海の底」は「奥(水底)」を導いている。海の底深くに生えてゆらめく藻のように 今がいちばん恋する思いの切ないときです ・・・・・・・・・・ * 「すべ‐な・し」[形ク]どうしてよいかわからず困りはてるさま。どうしようもない。 2782 女歌 [題詞](寄物陳思) 左寐蟹齒 孰共毛宿常 奥藻之 名延之君之 言待吾乎 さぬがには たれともぬめど おきつもの なびきしきみが ことまつわれを ・・・・・・・・・・
* 「さ寝」(自ナ下二)の「さ」は接頭語。寝る。男女が共寝する。一緒に寝るのが嫌だというなら誰とでも寝るのでしょう でも ひとたび靡き寄った二人だから やはり一緒に寝ようか 靡いた藻のように君の言葉を待っているわたし ・・・・・・・・・・ * 「がに」は接助。終止形について、・・するほどに。(程度・状態を表す) 2783 比喩 [題詞](寄物陳思) 吾妹子之 奈何跡裳吾 不思者 含花之 穂應咲 わぎもこが なにともわれを おもはねば ふふめるはなの ほにさきぬべし ・・・・・・・・・・
* 「ふふ・む」〔自四〕ふくらむ。花や葉がまだ開かない状態である。私の愛しいあの子が 私のことをなんとも思わないなんて まだ 花や葉がまだ開かない状態だからだよ そのうちぱあっと咲き映えるはずさ ・・・・・・・・・・ * 「べし」(助動)活用語の終止形、ラ変型活用語は連体形に付く。 1 当然の意を表す。…して当然だ。…のはずだ 2784 序詞 [題詞](寄物陳思) 隠庭 戀而死鞆 三苑原之 鶏冠草花乃 色二出目八<方> こもりには こひてしぬとも みそのふの からあゐのはなの いろにいでめやも
・・・・・・・・・・
人に気づかれないよう恋に死ぬようなことがあっても、 韓藍の花のように目立つようなことはしません ・・・・・・・・・・ |
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2785 [題詞](寄物陳思) 開花者 雖過時有 我戀流 心中者 止時毛梨 さくはなは すぐるときあれど あがこふる こころのうちは やむときもなし ・・・・・・・・・
咲く花は衰えて散り去る時が来るけれど 恋する私の心の内は 止み変わることがありません ・・・・・・・・・ 2786 枕詞 [題詞](寄物陳思) 山振之 尓保敝流妹之 翼酢色乃 赤裳之為形 夢所見管 [やまぶきの] にほへるいもが はねずいろの あかものすがた いめにみえつつ ・・・・・・・・・
* 朱華(はねず)色は、黄みのある淡紅色とされています。山吹のように美しいあの娘の はねず(朱華)色の 赤裳を着た姿を夢で見ていた ・・・・・・・・・ 万葉の時代の女性は、足元まで隠れる巻スカートのような衣を着ていた。 2787 枕詞,望郷 [題詞](寄物陳思) 天地之 依相極 玉緒之 不絶常念 妹之當見津 [あめつちの] よりあひのきはみ たまのをの たえじとおもふ いもがあたりみつ ・・・・・・・・・
天地が寄合うきわみ はるかな果てまでも 命果てるまでも 絶えることなどない そう思うあの人の住んでいる家のあたりを見つめている ・・・・・・・・・ 2788 枕詞,人目 [題詞](寄物陳思) 生緒尓 念者苦 玉緒乃 絶天乱名 知者知友 [いきのをに] おもへばくるし [たまのをの] たえてみだれな しらばしるとも ・・・・・・・・・
* 「息の緒に」命のかぎりの意に用いる。命のかぎりに思う隠り恋の苦しさよ いっそのこと乱心して玉の輪を引きちぎり 宝玉が乱れ飛ぶきらめきを見せようか 世間がどう思おうとも ・・・・・・・・・ * 「玉の緒−絶ゆ」の「絶ゆ」は死ではなく、すっかり・まったく意。 「玉の緒が切れる」と「絶ゆ」は掛詞。 * 「たまのお‐の 」玉の緒の[枕] 1 玉を通す緒の意で、その長短から「長し」「短し」、乱れたり切れたりすることから「思ひ乱る」「絶ゆ」「継ぐ」、玉が並んでいるようすから「間(あひだ)もおかず」などにかかる。 2 魂(たま)の緒の意から、「現(うつ)し」「いのち」にかかる。 2789 枕詞 [題詞](寄物陳思) 玉緒之 絶而有戀之 乱者 死巻耳其 又毛不相為而 [たまのをの] たえたるこひの みだれなば しなまくのみぞ またもあはずして ・・・・・・・・・
つないだ緒がぷっつり切れて 恋の玉が散りじりだね もう死んでしまいたいよ もう逢えないのかなあ 昔のように ・・・・・・・・・ 2790 枕詞,序詞 [題詞](寄物陳思) 玉緒之 久栗縁乍 末終 去者不別 同緒将有 [たまのをの くくりよせつつ すゑつひに] ゆきはわかれず おなじをにあらむ ・・・・・・・・・
玉を連ねる紐を一つに束ねるように 最後まで別れ別れにならないように わたしとあなたの魂を同じ緒で結んでしまいましょう ・・・・・・・・・ 2791 比喩,序詞,人目 [題詞](寄物陳思) 片絲用 貫有玉之 緒乎弱 乱哉為南 人之可知 [かたいともち ぬきたるたまの ををよわみ] みだれやしなむ ひとのしるべく ・・・・・・・・・
* 「しなむ」は、包み隠すこと。よりあわせてもいない糸で 玉を貫きとめても緒がよわいから すぐにほころびて 人目につかないように 包み隠すことができるでしょうか ・・・・・・・・・ サ2792 枕詞 [題詞](寄物陳思) 玉緒之 <寫>意哉 年月乃 行易及 妹尓不逢将有 [たまのをの] うつしごころや としつきの ゆきかはるまで いもにあはずあらむ ・・・・・・・・・
* 「たまのお‐の」[枕]玉を通す緒の意で、「現<寫>し心」、同じ魂の緒にあるあなたでしょうに 年月が代わってまでも逢えないのでしょうか でも どんなにつらくても 確かな心であなたを恋しつづけよう ・・・・・・・・・ その長短から「長し」「短し」、 乱れたり切れたりすることから、「思ひ乱る」「絶ゆ」「継ぐ」、 玉が並んでいるようすから、「間(あひだ)もおかず」などにかかる。 * 「うつし‐ごころ」 現<寫>心〔名〕現実の心。正気。確かな心。ここでは、「乱れ定まらない」意と、縁語・掛詞関係にもあると見る。 * 「や」は、問い・反語を表す。 * 「まで」は、動作・作用・状態の程度・限度の極端なことを示す。・・ほど。 * 「あら・む」の、「あら」はラ変動詞「あり」の未然形。「む」は、未然形に付いて、推量・・だろう。意志・・しよう。 「寫」は、諸本の原文「嶋」とあるのを「寫」の誤字としたもの。 「嶋」として見ると、「(いつも)鍬で掘り崩す(ように定まらない)・心・のように見える」ともある。<[国語篇(その十)『万葉集』難解句]の転載> http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#549うつしごころや(写意哉) 2793 枕詞 [題詞](寄物陳思) 玉緒之 間毛不置 欲見 吾思妹者 家遠在而 [たまのをの] あひだもおかず みまくほり あがおもふいもは いへどほくありて ・・・・・・・・・
いつもいつも見ていたい 吾が思ういとしいきみは 遥かな家郷遠い空の下にいる ・・・・・・・・・ 2794 女歌,人目 [題詞](寄物陳思) 隠津之 澤立見尓有 石根従毛 達而念 君尓相巻者 [こもりづの] さはたつみなる いはねゆも とほしてぞおもふ きみにあはまくは ・・・・・・・・・
隠れ沢の涌水が石根から流れるように ずっと思っています あなたに逢うまではと ・・・・・・・・・ 2795 和歌山県,序詞 [題詞](寄物陳思) 木國之 飽等濱之 礒貝之 我者不忘 <年>者雖歴 [きのくにの あくらのはまの わすれがひ] われはわすれじ としはへぬとも
・・・・・・・・・
紀伊の国のあくらの浜の忘れ貝の その名のように私はあなたをけっして忘れたりはすまい たとえ年は過ぎ去ってゆこうとも ・・・・・・・・・ |
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2796 [題詞](寄物陳思) 水泳 玉尓接有 礒貝之 獨戀耳 <年>者經管 [みづくくる たまにまじれる いそかひの] かたこひのみに としはへにつつ ・・・・・・・・・・
水中の玉に混じって岩にとりつく磯貝のように 片思いのせつない恋にしがみついたまま 年はどんどん過ぎてしまう ・・・・・・・・・・ 2797 大阪府,住吉,序詞 [題詞](寄物陳思) 住吉之 濱尓縁云 打背貝 實無言以 余将戀八方 [すみのえの はまによるといふ うつせがひ] みなきこともち あれこひめやも ・・・・・・・・・・
住之江の浜に寄せる貝殻の 実のない言葉で 私は恋をするでしょうか ・・・・・・・・・・ 2798 三重県,伊勢,序詞 [題詞](寄物陳思) 伊勢乃白水郎之 朝魚夕菜尓 潜云 鰒貝之 獨念荷指天 [いせのあまの あさなゆふなに かづくといふ] あはびのかひの かたもひにして ・・・・・・・・・・
伊勢のあまは 朝も夕べも 海に潜ぐって鮑をとるという 通い続けるわたしは 伊勢の鮑の片思いということだなあ ・・・・・・・・・・ 2799 うわさ,女歌,枕詞 [題詞](寄物陳思) 人事乎 繁跡君乎 鶉鳴 人之古家尓 相<語>而遣都 ひとごとを しげみときみを [うづらなく] ひとのふるへに かたらひてやりつ ・・・・・・・・・・
人の噂がうるさいので 古い空き家で逢ってお帰ししました ・・・・・・・・・・ 2800 女歌,自嘲 [題詞](寄物陳思) 旭時等 鶏鳴成 縦恵也思 獨宿夜者 開者雖明 あかときと かけはなくなり よしゑやし ひとりぬるよは あけばあけぬとも ・・・・・・・・・・
明け方には鶏が時を告げる ままよ 独り寝の夜が 明けようが明けまいが どうでも ・・・・・・・・・・ 2801 女歌,序詞 [題詞](寄物陳思) 大海之 荒礒之渚鳥 朝名旦名 見巻欲乎 不所見公可聞 [おほうみの ありそのすどり あさなさな] みまくほしきを みえぬきみかも ・・・・・・・・・・
大海の波が打ち寄せる荒礒のす鳥ではないが 毎朝毎朝会いたくてもあなたはいない ・・・・・・・・・・ 2802 枕詞,序詞 [題詞](寄物陳思) 念友 念毛金津 足桧之 山鳥尾之 永此夜乎 [おもへども おもひもかねつ あしひきの] やまどりのをの ながきこのよを ・・・・・・・・・・
* 「の」格助詞 主格・修飾格。体言に付いて、それ以前の語句を、あとに続く用言の比喩・例として提示する。和歌の序詞の技法はこれにあたる。「のように」の意。思っても思いに耐えかねる 夫の肌に触れることもできず 山鳥の尾のように長いこの夜を ・・・・・・・・・・ 2802S 枕詞,序詞,女歌,異伝 [題詞](寄物陳思)或本歌<曰> 足日木乃 山鳥之尾乃 四垂尾乃 長永夜乎 一鴨将宿 (柿本人麿) 万葉集2802 / 拾遺和歌集 778 / 小倉百人一首 3 ・・・・・・・・・・・・
[山鳥のながながしいしだれ尾のように] まことに長い秋の夜を [山鳥の雌と雄が谷を隔てて夜を過ごすのに似て] あなたを恋い慕いながらひとり寝するわたしであることよ ・・・・・・・・・・・・・ (夜は一人寝するといわれる)山鳥の 長く垂れ下がっている尾のように 長い長い秋の夜を わたしも一人寝るのだろうかなあ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ <『拾遺集』・巻十三・恋三・に「題知らず、人麿」> * あしひきの; 山鳥の「山」の枕詞。 * 山鳥の尾の; 山鳥はきじ科に属する野鳥。雄は尾が長い。雌雄、夜は谷を隔てて別に寝ると伝えられ、結句の「ひとりかも寝む」と関係がつく。 「の」は、共に連体修飾語をつくる格助詞。 * しだり尾の;「しだり尾」は長く垂れ下がっている尾。 * 「の」は、たとえ(・・のように)を表す格助詞。本来は主格表示。 以上三句で、「ながながし」の序詞。 ながながし夜を ひとりかも寝む; 「ながながし」は、シク活用形容詞終止形(上古における連体形代用) 「ひとり」は名詞。 「か」は疑問の係助詞で、結びは「む」。推量の助動詞「む」の連体形。 「も」は感動・強意の係助詞。 「寝」は下二段活用動詞「ぬ」の未然形。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2803 序詞,異伝 [題詞](寄物陳思) [さとなかに なくなるかけの よびたてて] いたくはなかぬ こもりづまはも[さととよめ なくなるかけの] ・・・・・・・・・・
里中で飼育されている鶏は大声で鳴くが さびしくても声をたてて泣けない隠り妻よ (集落に響く ニワトリの鳴きごえ) ・・・・・・・・・・ 2804 序詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 高山尓 高部左渡 高々尓 余待公乎 待将出可聞 [たかやまに たかべさわたり たかたかに] わがまつきみを まちいでむかも ・・・・・・・・・・
* 「たかべ」コガモの古名。高い山をコガモが渡る 私はあなたを見通しよい小高いところで 今か今かと出て待ってるの ・・・・・・・・・・ 2805 三重県,伊勢,序詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 伊勢能海従 鳴来鶴乃 音杼侶毛 君之所聞者 吾将戀八方 [いせのうみゆ なきくるたづの おとどろも] きみがきこさば あれこひめやも ・・・・・・・・・・
伊勢の海から鶴は鳴きながら飛んでくるという あの声のようにあなたの声が聞こえたら わたしはこんなに不安な思いで 恋いこがれるでしょうか ・・・・・・・・・・ 2806 序詞 [題詞](寄物陳思) 吾妹兒尓 戀尓可有牟 奥尓住 鴨之浮宿之 安雲無 [わぎもこに こふれにかあらむ おきにすむ] かものうきねの やすけくもなし ・・・・・・・・・・
恋しているせいか 沖の鴨が水面にゆれながら眠ているが わたしの心は安らぎもなく 妻を思って揺れている ・・・・・・・・・・ 2807 枕詞,女歌 [題詞](寄物陳思) 可旭 千鳥數鳴 白細乃 君之手枕 未○君 あけぬべく ちとりしばなく [しろたへの] きみがたまくら いまだあかなくに
・・・・・・・・・・
夜が明けるよって千鳥がしきりに鳴いている 君の手枕でもっと寝ていたいのに ・・・・・・・・・・ |
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問答 2808 作者:柿本人麻呂歌集 [題詞]問答 眉根掻 鼻火紐解 待八方 何時毛将見跡 戀来吾乎 まよねかき はなひひもとけ まてりやも いつかもみむと こひこしわれを ・・・・・・・・・・
* 万葉人は、恋人が強く思ってくれると眉が痒くなる、くしゃみが出る、逢いたいと思い続けると相手の下着の紐がほどけるなどと考えていたらしい。眉毛を掻いたり、くしゃみをしたり、ランジェリーの紐がほどけたりしてるかい。(おまえさんに)会いたいな。わし(が来るの)を、待っていておくれ 眉を掻き、くしゃみをして、紐を解いて待っていてくれたんですか、早く逢いたいと恋しく思ってやって来た私を ・・・・・・・・・・ それを逆手にとって、恋人に逢いたいと思うとき、眉を掻き、わざとくしゃみをし、紐をほどく、そんなおまじないをかけていたのだろう。 2809 女歌 [題詞](問答) 今日有者 鼻<火鼻火之> 眉可由見 思之言者 君西在来 けふなれば はなひはなひし まよかゆみ おもひしことは きみにしありけり ・・・・・・・・・・
今日お帰りだったのですね くしゃみが止まらず 眉も痒くなってきて 思い当たることがありましたよ ・・・・・・・・・・ 2810 枕詞 [題詞](問答) 音耳乎 聞而哉戀 犬馬鏡 <直目>相而 戀巻裳太口 おとのみを ききてやこひむ まそかがみ ただめにあひて こひまくもいたく ・・・・・・・・・・
噂だけを聞いては恋してましたが 直接お会いするのにまさることはありません ・・・・・・・・・・ 2811 枕詞 [題詞](問答) 此言乎 聞跡<平> 真十鏡 照月夜裳 闇耳見 このことを きかむとならし まそかがみ てれるつくよも やみのみにみつ ・・・・・・・・・・
そんなつれない言葉を聞くなんて 明るく照らす月夜も闇夜のようです ・・・・・・・・・・ 2812 枕詞 [題詞](問答) 吾妹兒尓 戀而為便無<三> 白細布之 袖反之者 夢所見也 わぎもこに こひてすべなみ しろたへの そでかへししは いめにみえきや ・・・・・・・・・・
あの子にいつも恋してるだけ ねまきの袖を裏返して寝ると 夢に現れるというからそうしよう ・・・・・・・・・・ 2813 女歌 [題詞](問答) 吾背子之 袖反夜之 夢有之 真毛君尓 如相有 わがせこが そでかへすよの いめならし まこともきみに あひたるごとし ・・・・・・・・・・
夫が袖を裏返して眠たので見た夢だったのね 本当に逢っていたように思ったのに ・・・・・・・・・・ 2814 [題詞](問答) 吾戀者 名草目金津 真氣長 夢不所見而 <年>之經去礼者 あがこひは なぐさめかねつ まけながく いめにみえずて としのへぬれば ・・・・・・・・・・
わたしの恋は終わったのね 日々長いこと君は夢にさえ見えないで そして年は経てしまいました ・・・・・・・・・・ 2815 [題詞](問答) 真氣永 夢毛不所見 雖絶 吾之片戀者 止時毛不有 まけながく いめにもみえず たえぬとも あがかたこひは やむときもあらじ ・・・・・・・・・・
日々ただ過ぎて夢にも見えない あなたの思いが絶えてしまっても わたしの片思いが止む時はないでしょう ・・・・・・・・・・ 2816 枕詞 [題詞](問答) 浦觸而 物莫念 天雲之 絶多不心 吾念莫國 うらぶれて ものなおもひそ あまくもの たゆたふこころ わがおもはなくに ・・・・・・・・・・
悲しんで思案にふけるなんて しないでください 雲がさすらうように ためらいの心など 私は思ってもいないのだから ・・・・・・・・・・ 2817 [題詞](問答) 浦觸而 物者不念 水無瀬川 有而毛水者 逝云物乎 うらぶれて ものはおもはじ みなせがは ありてもみづは ゆくといふものを ・・・・・・・・・・
悲しんで思案にふけこむなんてしない 水無瀬川は見える川面に水がなくても ちゃんと底を伏せて流れているんだから ・・・・・・・・・・ 2818 比喩,奈良県,佐紀町 [題詞](問答) 垣津旗 開沼之菅乎 笠尓縫 将著日乎待尓 <年>曽經去来 かきつはた さきぬのすげを かさにぬひ きむひをまつに としぞへにける
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かきつばた佐紀沼の菅を笠に縫いつけて あでやかにかぶる日を待っているうちに いつの間にか随分年が経ってしまった ・・・・・・・・・・ |



