ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第十一巻

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全8ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]

[ 前のページ | 次のページ ]



2763 序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

紅之  淺葉乃野良尓  苅草乃  束之間毛  吾忘渚菜

紅の 浅葉の野らに 刈る草の 束の間も 我を忘らすな 

[くれなゐの あさはののらに かるかやの] つかのあひだも あをわすらすな
・・・・・・・・・・
浅葉野に生える草は

すぐに刈り取られてしまうけれど

そのつかの間も私を忘れないで下さい
・・・・・・・・・・



2764 枕詞

[題詞](寄物陳思)

為妹  壽遺在  苅<薦>之  思乱而  應死物乎

妹がため 命残せり 刈り薦の 思ひ乱れて 死ぬべきものを 

いもがため いのちのこせり [かりこもの] おもひみだれて しぬべきものを
・・・・・・・・・・
君のためにいのちを残せた 

君が好きで思い乱れて狂い死にしそう

でも君のために生きている
・・・・・・・・・・



2765 枕詞

[題詞](寄物陳思)

吾妹子尓  戀乍不有者  苅薦之  思乱而  可死鬼乎

我妹子に 恋つつあらずは 刈り薦の 思ひ乱れて 死ぬべきものを 

わぎもこに こひつつあらずは [かりこもの] おもひみだれて しぬべきものを

・・・・・・・・・・
君へのこの恋の狂おしさ

思い乱れて本来死んで当然だよ

それなのに死なないと思うんだなあ
・・・・・・・・・・
* 「死なましものを」なら「死んでしまえばよかった」




2766 大阪府,大阪市,序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

三嶋江之  入江之薦乎  苅尓社  吾乎婆公者  念有来

三島江の 入江の薦を 刈りにこそ 我れをば君は 思ひたりけれ 

[みしまえの いりえのこもを かりにこそ] われをばきみは おもひたりけれ
・・・・・・・・・・
淀川の三島の入江の薦を刈りとるだけに

あなたはわたしのことを思っていたのね

刈ったあとは放ったらかしなの
・・・・・・・・・・



サ2767 枕詞,序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

足引乃  山橘之  色出而  吾戀南雄  <人>目難為名

あしひきの 山橘の 色に出でて 吾は恋なむを 人目難みすな 
[あしひきの] やまたちばなの] いろにいでて あはこひなむを ひとめかたみすな
・・・・・・・・・・
山橘の実が赤く色付くように

わたしはきっと恋する

その恋をきっと

最後まで成し遂げてみせるわ

人目なんか気にしないで
・・・・・・・・・・
* 「なむ」は、完了の助動詞「ぬ」の未然形に、推量の助動詞「む」のついたもの。意志を表す場合、「きっと・・しよう」。
* 「を」は、強意。
* 「<人>目難為名」か「<八・や>目難為名」かはっきりしない。「合」または「会」の誤字とされている。
* 「かたみ・す」[動サ変]困難に思う。
* 「な」は禁止の意。




2768 序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

葦多頭乃  颯入江乃  白菅乃  知為等  乞痛鴨

葦鶴の 騒く入江の 白菅の 知らせむためと 言痛かるかも 

[あしたづの さわくいりえの しらすげの] しらせむためと こちたかるかも
・・・・・・・・・・
白菅の入江の葦辺に騒ぐ鶴は

吾が思いをあの人に知らせてやろうと

世間に大声で噂しているのだなぁ

契りもしていないのに
・・・・・・・・・・



2769 女歌,自嘲

[題詞](寄物陳思)

吾背子尓  吾戀良久者  夏草之  苅除十方  生及如
 
我が背子に 吾が恋ふらくは 夏草の 刈り除くれども 生ひしくごとし 

わがせこに あがこふらくは [なつくさの] かりそくれども おひしくごとし
・・・・・・・・・・
あの人にこんなに夢中になるなんて

いくら刈っても茂ってくる夏草みたい

もうどうしようもないよ
・・・・・・・・・・



2770 序詞

[題詞](寄物陳思)

道邊乃  五柴原能  何時毛々々々  人之将縦  言乎思将待

道の辺の いつ柴原の いつもいつも 人の許さむ 言をし待たむ 

[みちのへの いつしばはらの いつもいつも] ひとのゆるさむ ことをしまたむ
・・・・・・・・・・
五柴原のしばではないが

いつかいつかとあなたの合図を待っています

来ていいという許しの使者を
・・・・・・・・・・



2771 兵庫県,神戸市,うわさ

[題詞](寄物陳思)

吾妹子之  袖乎憑而  真野浦之  小菅乃笠乎  不著而来二来有

我妹子が 袖を頼みて 真野の浦の 小菅の笠を 着ずて来にけり 

わぎもこが そでをたのみて [まののうらの] こすげのかさを きずてきにけり
・・・・・・・・・・
雨が降ったらおまえの袖を頼ろうと

真野の小菅笠を着ずにやって来たのさ

衣の袖に入れておくれとさ
・・・・・・・・・・



2772 兵庫県,神戸市,うわさ

[題詞](寄物陳思)

真野池之  小菅乎笠尓  不縫為<而>  人之遠名乎  可立物可

真野の池の 小菅を笠に 縫はずして 人の遠名を 立つべきものか 

まののいけの こすげをかさに ぬはずして ひとのとほなを たつべきものか
・・・・・・・・・・
真野の小菅を笠に縫ったというみたい

契りもしていないのに

世間の人は見てきたようなうそを

他人の浮き名を立てるものだ
・・・・・・・・・・



2773 枕詞

[題詞](寄物陳思)

刺竹  齒隠有  吾背子之  吾許不来者  吾将戀八方

さす竹の 世隠りてあれ 我が背子が 吾がりし来ずは 我れ恋めやも 

[さすたけの] よごもりてあれ わがせこが わがりしこずは あれこひめやも
・・・・・・・・・・
竹の根の節に隠もるように

どこか世間知らずに満足していてください

あなたが私の許に来なければ

私はあなを恋しく思ったりするでしょうか
・・・・・・・・・・


2774 序詞

[題詞](寄物陳思)

神南備能  淺小竹原乃  美  妾思公之  聲之知家口

神奈備の 浅小竹原の うるはしみ 我が思ふ君が 声のしるけく 

[かむなびの あさぢのはらの うるはしみ] あがおもふきみが こゑのしるけく
・・・・・・・・・・
神おわすあさしのはらに

我が思う君の麗しい声が

朗々と響いていることだ
・・・・・・・・・・



2775 序詞

[題詞](寄物陳思)

山高  谷邊蔓在  玉葛  絶時無  見因毛欲得

山高み 谷辺に延へる 玉葛 絶ゆる時なく 見むよしもがも 

[やまたかみ たにへにはへる たまかづら] たゆるときなく みむよしもがも
・・・・・・・・・・
山高く谷に生え延びる玉葛は

蔓が長く強靭で切れにくいので

絶える時なくきみを

見ることができないだろうか
・・・・・・・・・・



2776

[題詞](寄物陳思)

道邊  草冬野丹  履干  吾立待跡  妹告乞

道の辺の 草を冬野に 踏み枯らし 我れ立ち待つと 妹に告げこそ 

みちのへの くさをふゆのに ふみからし われたちまつと いもにつげこそ
・・・・・・・・・・
冬の野のように道端の草を踏み枯らして

私が待っているってあの娘に誰か伝えてよ
・・・・・・・・・・



2777 枕詞

[題詞](寄物陳思)

疊薦  隔編數  通者  道之柴草  不生有申尾

畳薦 へだて編む数 通はさば 道の芝草 生ひずあらましを 

[たたみこも] へだてあむかず かよはさば みちのしばくさ おひずあらましを
・・・・・・・・・・
畳ころもを編むように

道端の草も生えないほど間なく通ってくだされば

きみの恋心をお受けもしましょうに
・・・・・・・・・・
軽皇子と軽太郎女との相聞歌



2778 序詞,うわさ

[題詞](寄物陳思)

水底尓  生玉藻之  生不出  縦比者  如是而将通

水底に 生ふる玉藻の 生ひ出でず よしこのころは かくて通はむ 

[みなそこに おふるたまもの おひいでず] よしこのころは かくてかよはむ
・・・・・・・・・・
いくら潜って見ても藻は生えてないぞ

というように世間を欺いて通おう

あの子のもとへ
・・・・・・・・・・



2779 序詞

[題詞](寄物陳思)

海原之  奥津縄乗  打靡  心裳<四>怒尓  所念鴨

海原の 沖つ縄海苔 うち靡き 心もしのに 思ほゆるかも 

[うなはらの おきつなはのり うちなびき] こころもしのに おもほゆるかも
・・・・・・・・・・
はるか沖合いの波間に見え隠れする縄海苔ではないが

心がくたくたに千切れそうになりながら君を思い慕っているよ
・・・・・・・・・・
* 「なわ‐のり」縄海苔  縄のように細長い海藻。うみそうめん(アメフラシの卵塊)のことともいう。





2780 和歌山県,海南市,枕詞,序詞

[題詞](寄物陳思)

紫之  名高乃浦之  靡藻之  情者妹尓  因西鬼乎

紫の 名高の浦の 靡き藻の 心は妹に 寄りにしものを 

[むらさきの] なたかのうらの なびきもの] こころはいもに よりにしものを
・・・・・・・・・・
紫草で名高い名高の浦の

波のまにまになびく藻のように

心はすっかりあの子になびきさまようことよ
・・・・・・・・・・



2781 序詞

[題詞](寄物陳思)

海底  奥乎深目手  生藻之  最今社  戀者為便無寸

海の底 奥を深めて 生ふる藻の もとも今こそ 恋はすべなき 

[わたのそこ] おきをふかめて おふるもの] もともいまこそ こひはすべなき
・・・・・・・・・・
海の底深くに生えてゆらめく藻のように

今がいちばん恋する思いの切ないときです
・・・・・・・・・・
* 「海の底」は「奥(水底)」を導いている。
* 「すべ‐な・し」[形ク]どうしてよいかわからず困りはてるさま。どうしようもない。



2782 女歌

[題詞](寄物陳思)

左寐蟹齒  孰共毛宿常  奥藻之  名延之君之  言待吾乎

さ寝がには 誰れとも寝めど 沖つ藻の 靡きし君が 言待つ我れを 

さぬがには たれともぬめど おきつもの なびきしきみが ことまつわれを
・・・・・・・・・・
一緒に寝るのが嫌だというなら誰とでも寝るのでしょう

でも ひとたび靡き寄った二人だから

やはり一緒に寝ようか

靡いた藻のように君の言葉を待っているわたし
・・・・・・・・・・
* 「さ寝」(自ナ下二)の「さ」は接頭語。寝る。男女が共寝する。
* 「がに」は接助。終止形について、・・するほどに。(程度・状態を表す)



2783 比喩

[題詞](寄物陳思)

吾妹子之  奈何跡裳吾  不思者  含花之  穂應咲

吾妹子が 何とも吾れを 思はねば ふふめる花の 穂に咲きぬべし 

わぎもこが なにともわれを おもはねば ふふめるはなの ほにさきぬべし
・・・・・・・・・・
私の愛しいあの子が

私のことをなんとも思わないなんて

まだ 花や葉がまだ開かない状態だからだよ

そのうちぱあっと咲き映えるはずさ
・・・・・・・・・・
* 「ふふ・む」〔自四〕ふくらむ。花や葉がまだ開かない状態である。
* 「べし」(助動)活用語の終止形、ラ変型活用語は連体形に付く。
  1 当然の意を表す。…して当然だ。…のはずだ


2784 序詞

[題詞](寄物陳思)

隠庭  戀而死鞆  三苑原之  鶏冠草花乃  色二出目八<方>

隠りには 恋ひて死ぬとも み園生の 韓藍の花の 色に出でめやも 

こもりには こひてしぬとも みそのふの からあゐのはなの いろにいでめやも
・・・・・・・・・・
人に気づかれないよう恋に死ぬようなことがあっても、

韓藍の花のように目立つようなことはしません
・・・・・・・・・・


2785

[題詞](寄物陳思)

開花者  雖過時有  我戀流  心中者  止時毛梨

咲く花は 過ぐる時あれど 我が恋ふる 心のうちは やむ時もなし 

さくはなは すぐるときあれど あがこふる こころのうちは やむときもなし
・・・・・・・・・
咲く花は衰えて散り去る時が来るけれど

恋する私の心の内は

止み変わることがありません
・・・・・・・・・



2786 枕詞

[題詞](寄物陳思)

山振之  尓保敝流妹之  翼酢色乃  赤裳之為形  夢所見管

山吹の にほへる妹が はねず色の 赤裳の姿 夢に見えつつ 

[やまぶきの] にほへるいもが はねずいろの あかものすがた いめにみえつつ
・・・・・・・・・
山吹のように美しいあの娘の

はねず(朱華)色の

赤裳を着た姿を夢で見ていた
・・・・・・・・・
* 朱華(はねず)色は、黄みのある淡紅色とされています。
 万葉の時代の女性は、足元まで隠れる巻スカートのような衣を着ていた。



2787 枕詞,望郷

[題詞](寄物陳思)

天地之  依相極  玉緒之  不絶常念  妹之當見津

天地の 寄り合ひの極み 玉の緒の 絶えじと思ふ 妹があたり見つ 

[あめつちの] よりあひのきはみ たまのをの たえじとおもふ いもがあたりみつ
・・・・・・・・・
天地が寄合うきわみ はるかな果てまでも

命果てるまでも 絶えることなどない

そう思うあの人の住んでいる家のあたりを見つめている
・・・・・・・・・



2788 枕詞,人目

[題詞](寄物陳思)

生緒尓  念者苦  玉緒乃  絶天乱名  知者知友

息の緒に 思へば苦し 玉の緒の 絶えて乱れな 知らば知るとも 

[いきのをに] おもへばくるし [たまのをの] たえてみだれな しらばしるとも
・・・・・・・・・
命のかぎりに思う隠り恋の苦しさよ

いっそのこと乱心して玉の輪を引きちぎり

宝玉が乱れ飛ぶきらめきを見せようか

世間がどう思おうとも
・・・・・・・・・
* 「息の緒に」命のかぎりの意に用いる。
* 「玉の緒−絶ゆ」の「絶ゆ」は死ではなく、すっかり・まったく意。
  「玉の緒が切れる」と「絶ゆ」は掛詞。
* 「たまのお‐の 」玉の緒の[枕]
1 玉を通す緒の意で、その長短から「長し」「短し」、乱れたり切れたりすることから「思ひ乱る」「絶ゆ」「継ぐ」、玉が並んでいるようすから「間(あひだ)もおかず」などにかかる。
2 魂(たま)の緒の意から、「現(うつ)し」「いのち」にかかる。



2789 枕詞

[題詞](寄物陳思)

玉緒之  絶而有戀之  乱者  死巻耳其  又毛不相為而

玉の緒の 絶えたる恋の 乱れなば 死なまくのみぞ またも逢はずして 

[たまのをの] たえたるこひの みだれなば しなまくのみぞ またもあはずして
・・・・・・・・・
つないだ緒がぷっつり切れて

恋の玉が散りじりだね

もう死んでしまいたいよ

もう逢えないのかなあ

昔のように
・・・・・・・・・



2790 枕詞,序詞

[題詞](寄物陳思)

玉緒之  久栗縁乍  末終  去者不別  同緒将有

玉の緒の くくり寄せつつ 末つひに 行きは別れず 同じ緒にあらむ 

[たまのをの くくりよせつつ すゑつひに] ゆきはわかれず おなじをにあらむ
・・・・・・・・・
玉を連ねる紐を一つに束ねるように

最後まで別れ別れにならないように

わたしとあなたの魂を同じ緒で結んでしまいましょう
・・・・・・・・・



2791 比喩,序詞,人目

[題詞](寄物陳思)

片絲用  貫有玉之  緒乎弱  乱哉為南  人之可知

片糸もち 貫きたる玉の 緒を弱み 乱れやしなむ 人の知るべく 

[かたいともち ぬきたるたまの ををよわみ] みだれやしなむ ひとのしるべく
・・・・・・・・・
よりあわせてもいない糸で

玉を貫きとめても緒がよわいから

すぐにほころびて

人目につかないように

包み隠すことができるでしょうか
・・・・・・・・・
* 「しなむ」は、包み隠すこと。



サ2792 枕詞

[題詞](寄物陳思)

玉緒之  <寫>意哉  年月乃  行易及  妹尓不逢将有

玉の緒の 現し心や 年月の 行きかはるまで 妹に逢はずあらむ 

[たまのをの] うつしごころや としつきの ゆきかはるまで いもにあはずあらむ

・・・・・・・・・
同じ魂の緒にあるあなたでしょうに

年月が代わってまでも逢えないのでしょうか

でも どんなにつらくても

確かな心であなたを恋しつづけよう
・・・・・・・・・
* 「たまのお‐の」[枕]玉を通す緒の意で、「現<寫>し心」、
その長短から「長し」「短し」、
乱れたり切れたりすることから、「思ひ乱る」「絶ゆ」「継ぐ」、
玉が並んでいるようすから、「間(あひだ)もおかず」などにかかる。
* 「うつし‐ごころ」 現<寫>心〔名〕現実の心。正気。確かな心。ここでは、「乱れ定まらない」意と、縁語・掛詞関係にもあると見る。
* 「や」は、問い・反語を表す。
* 「まで」は、動作・作用・状態の程度・限度の極端なことを示す。・・ほど。
* 「あら・む」の、「あら」はラ変動詞「あり」の未然形。「む」は、未然形に付いて、推量・・だろう。意志・・しよう。
「寫」は、諸本の原文「嶋」とあるのを「寫」の誤字としたもの。
「嶋」として見ると、「(いつも)鍬で掘り崩す(ように定まらない)・心・のように見える」ともある。<[国語篇(その十)『万葉集』難解句]の転載>
http://www.iris.dti.ne.jp/~muken/kokugo10.htm#549うつしごころや(写意哉)




2793 枕詞

[題詞](寄物陳思)

玉緒之  間毛不置  欲見  吾思妹者  家遠在而

玉の緒の 間も置かず 見まく欲り 吾が思ふ妹は 家遠くありて 

[たまのをの] あひだもおかず みまくほり あがおもふいもは いへどほくありて
・・・・・・・・・
いつもいつも見ていたい

吾が思ういとしいきみは

遥かな家郷遠い空の下にいる
・・・・・・・・・



2794 女歌,人目

[題詞](寄物陳思)

隠津之  澤立見尓有  石根従毛  達而念  君尓相巻者

隠り津の 沢たつみなる 岩根ゆも 通してぞ思ふ 君に逢はまくは 

[こもりづの] さはたつみなる いはねゆも とほしてぞおもふ きみにあはまくは
・・・・・・・・・
隠れ沢の涌水が石根から流れるように

ずっと思っています

あなたに逢うまではと
・・・・・・・・・



2795 和歌山県,序詞

[題詞](寄物陳思)

木國之  飽等濱之  礒貝之  我者不忘  <年>者雖歴

紀の国の 飽等の浜の 忘れ貝 我れは忘れじ 年は経ぬとも 

[きのくにの あくらのはまの わすれがひ] われはわすれじ としはへぬとも
・・・・・・・・・
紀伊の国のあくらの浜の忘れ貝の

その名のように私はあなたをけっして忘れたりはすまい

たとえ年は過ぎ去ってゆこうとも
・・・・・・・・・


2796

[題詞](寄物陳思)

水泳  玉尓接有  礒貝之  獨戀耳  <年>者經管

水くくる 玉に交じれる 磯貝の 片恋ひのみに 年は経につつ 

[みづくくる たまにまじれる いそかひの] かたこひのみに としはへにつつ
・・・・・・・・・・
水中の玉に混じって岩にとりつく磯貝のように
 
片思いのせつない恋にしがみついたまま

年はどんどん過ぎてしまう
・・・・・・・・・・



2797 大阪府,住吉,序詞

[題詞](寄物陳思)

住吉之  濱尓縁云  打背貝  實無言以  余将戀八方

住吉の 浜に寄るといふ うつせ貝 実なき言もち 我れ恋ひめやも 

[すみのえの はまによるといふ うつせがひ] みなきこともち あれこひめやも
・・・・・・・・・・
住之江の浜に寄せる貝殻の

実のない言葉で

私は恋をするでしょうか
・・・・・・・・・・



2798 三重県,伊勢,序詞

[題詞](寄物陳思)

伊勢乃白水郎之  朝魚夕菜尓  潜云  鰒貝之  獨念荷指天

伊勢の海人の 朝な夕なに 潜くといふ 鰒の貝の 片思にして 

[いせのあまの あさなゆふなに かづくといふ] あはびのかひの かたもひにして
・・・・・・・・・・
伊勢のあまは 朝も夕べも

海に潜ぐって鮑をとるという

通い続けるわたしは

伊勢の鮑の片思いということだなあ
・・・・・・・・・・




2799 うわさ,女歌,枕詞

[題詞](寄物陳思)

人事乎  繁跡君乎  鶉鳴  人之古家尓  相<語>而遣都

人言を 繁みと君を 鶉鳴く 人の古家に 語らひて遣りつ 

ひとごとを しげみときみを [うづらなく] ひとのふるへに かたらひてやりつ
・・・・・・・・・・
人の噂がうるさいので

古い空き家で逢ってお帰ししました
・・・・・・・・・・



2800 女歌,自嘲

[題詞](寄物陳思)

旭時等  鶏鳴成  縦恵也思  獨宿夜者  開者雖明

暁と 鶏は鳴くなり よしゑやし ひとり寝る夜は 明けば明けぬとも 

あかときと かけはなくなり よしゑやし ひとりぬるよは あけばあけぬとも
・・・・・・・・・・
明け方には鶏が時を告げる

ままよ 独り寝の夜が

明けようが明けまいが どうでも
・・・・・・・・・・



2801 女歌,序詞

[題詞](寄物陳思)

大海之  荒礒之渚鳥  朝名旦名  見巻欲乎  不所見公可聞

大海の 荒礒の洲鳥 朝な朝な 見まく欲しきを 見えぬ君かも 

[おほうみの ありそのすどり あさなさな] みまくほしきを みえぬきみかも
・・・・・・・・・・
大海の波が打ち寄せる荒礒のす鳥ではないが

毎朝毎朝会いたくてもあなたはいない
・・・・・・・・・・



2802 枕詞,序詞

[題詞](寄物陳思)

念友  念毛金津  足桧之  山鳥尾之  永此夜乎

思へども 思ひもかねつ あしひきの 山鳥の尾の 長きこの夜を 

[おもへども おもひもかねつ あしひきの] やまどりのをの ながきこのよを
・・・・・・・・・・
思っても思いに耐えかねる

夫の肌に触れることもできず

山鳥の尾のように長いこの夜を
・・・・・・・・・・
* 「の」格助詞 主格・修飾格。体言に付いて、それ以前の語句を、あとに続く用言の比喩・例として提示する。和歌の序詞の技法はこれにあたる。「のように」の意。



2802S 枕詞,序詞,女歌,異伝

[題詞](寄物陳思)或本歌<曰>

足日木乃  山鳥之尾乃  四垂尾乃  長永夜乎  一鴨将宿

あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝む 

(柿本人麿) 万葉集2802 / 拾遺和歌集 778 / 小倉百人一首 3
・・・・・・・・・・・・
[山鳥のながながしいしだれ尾のように]

まことに長い秋の夜を

[山鳥の雌と雄が谷を隔てて夜を過ごすのに似て]

あなたを恋い慕いながらひとり寝するわたしであることよ
・・・・・・・・・・・・・

(夜は一人寝するといわれる)山鳥の
長く垂れ下がっている尾のように
長い長い秋の夜を
わたしも一人寝るのだろうかなあ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<『拾遺集』・巻十三・恋三・に「題知らず、人麿」>

* あしひきの; 山鳥の「山」の枕詞。
* 山鳥の尾の; 山鳥はきじ科に属する野鳥。雄は尾が長い。雌雄、夜は谷を隔てて別に寝ると伝えられ、結句の「ひとりかも寝む」と関係がつく。
「の」は、共に連体修飾語をつくる格助詞。
* しだり尾の;「しだり尾」は長く垂れ下がっている尾。
* 「の」は、たとえ(・・のように)を表す格助詞。本来は主格表示。
以上三句で、「ながながし」の序詞。

ながながし夜を ひとりかも寝む;
「ながながし」は、シク活用形容詞終止形(上古における連体形代用)
「ひとり」は名詞。
「か」は疑問の係助詞で、結びは「む」。推量の助動詞「む」の連体形。
「も」は感動・強意の係助詞。
「寝」は下二段活用動詞「ぬ」の未然形。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2803 序詞,異伝

[題詞](寄物陳思)

里中尓  鳴奈流鶏之  喚立而  甚者不鳴  隠妻羽毛 [一云 里動  鳴成鶏]

里中に 鳴くなる鶏の 呼び立てて いたくは泣かぬ 隠り妻はも [一云 里響め 鳴くなる鶏の] 

[さとなかに なくなるかけの よびたてて] いたくはなかぬ こもりづまはも[さととよめ なくなるかけの]
・・・・・・・・・・
里中で飼育されている鶏は大声で鳴くが

さびしくても声をたてて泣けない隠り妻よ

(集落に響く ニワトリの鳴きごえ)
・・・・・・・・・・



2804 序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

高山尓  高部左渡  高々尓  余待公乎  待将出可聞

高山に たかべさ渡り 高々に 我が待つ君を 待ち出でむかも 

[たかやまに たかべさわたり たかたかに] わがまつきみを まちいでむかも
・・・・・・・・・・
高い山をコガモが渡る

私はあなたを見通しよい小高いところで

今か今かと出て待ってるの
・・・・・・・・・・
* 「たかべ」コガモの古名。




2805 三重県,伊勢,序詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

伊勢能海従  鳴来鶴乃  音杼侶毛  君之所聞者  吾将戀八方

伊勢の海ゆ 鳴き来る鶴の 音どろも 君が聞こさば 我れ恋ひめやも 

[いせのうみゆ なきくるたづの おとどろも] きみがきこさば あれこひめやも
・・・・・・・・・・
伊勢の海から鶴は鳴きながら飛んでくるという

あの声のようにあなたの声が聞こえたら

わたしはこんなに不安な思いで

恋いこがれるでしょうか
・・・・・・・・・・



2806 序詞

[題詞](寄物陳思)

吾妹兒尓  戀尓可有牟  奥尓住  鴨之浮宿之  安雲無

吾妹子に 恋ふれにかあらむ 沖に棲む 鴨の浮寝の 安けくもなし 

[わぎもこに こふれにかあらむ おきにすむ] かものうきねの やすけくもなし
・・・・・・・・・・
恋しているせいか

沖の鴨が水面にゆれながら眠ているが

わたしの心は安らぎもなく

妻を思って揺れている
・・・・・・・・・・



2807 枕詞,女歌

[題詞](寄物陳思)

可旭  千鳥數鳴  白細乃  君之手枕  未○君

明けぬべく 千鳥しば鳴く 白栲の 君が手枕いまだ 飽かなくに 

あけぬべく ちとりしばなく [しろたへの] きみがたまくら いまだあかなくに
・・・・・・・・・・
夜が明けるよって千鳥がしきりに鳴いている

君の手枕でもっと寝ていたいのに
・・・・・・・・・・


問答




2808 作者:柿本人麻呂歌集

[題詞]問答

眉根掻  鼻火紐解  待八方  何時毛将見跡  戀来吾乎

眉根掻き 鼻ひ紐解け 待てりやも いつかも見むと 恋ひ来し我れを 

まよねかき はなひひもとけ まてりやも いつかもみむと こひこしわれを
・・・・・・・・・・
眉毛を掻いたり、くしゃみをしたり、ランジェリーの紐がほどけたりしてるかい。(おまえさんに)会いたいな。わし(が来るの)を、待っていておくれ
眉を掻き、くしゃみをして、紐を解いて待っていてくれたんですか、早く逢いたいと恋しく思ってやって来た私を
・・・・・・・・・・
* 万葉人は、恋人が強く思ってくれると眉が痒くなる、くしゃみが出る、逢いたいと思い続けると相手の下着の紐がほどけるなどと考えていたらしい。
それを逆手にとって、恋人に逢いたいと思うとき、眉を掻き、わざとくしゃみをし、紐をほどく、そんなおまじないをかけていたのだろう。



2809 女歌

[題詞](問答)

今日有者  鼻<火鼻火之>  眉可由見  思之言者  君西在来

今日なれば 鼻ひ鼻ひし 眉かゆみ 思ひしことは 君にしありけり 

けふなれば はなひはなひし まよかゆみ おもひしことは きみにしありけり
・・・・・・・・・・
今日お帰りだったのですね

くしゃみが止まらず

眉も痒くなってきて

思い当たることがありましたよ
・・・・・・・・・・



2810 枕詞

[題詞](問答)

音耳乎  聞而哉戀  犬馬鏡  <直目>相而  戀巻裳太口

音のみを 聞きてや恋ひむ まそ鏡 直目に逢ひて 恋ひまくもいたく 

おとのみを ききてやこひむ まそかがみ ただめにあひて こひまくもいたく
・・・・・・・・・・
噂だけを聞いては恋してましたが

直接お会いするのにまさることはありません
・・・・・・・・・・



2811 枕詞

[題詞](問答)

此言乎  聞跡<平>  真十鏡  照月夜裳  闇耳見

この言を 聞かむとならし まそ鏡 照れる月夜も 闇のみに見つ 

このことを きかむとならし まそかがみ てれるつくよも やみのみにみつ
・・・・・・・・・・
そんなつれない言葉を聞くなんて

明るく照らす月夜も闇夜のようです
・・・・・・・・・・



2812 枕詞

[題詞](問答)

吾妹兒尓  戀而為便無<三>  白細布之  袖反之者  夢所見也

我妹子に 恋ひてすべなみ 白栲の 袖返ししは 夢に見えきや 

わぎもこに こひてすべなみ しろたへの そでかへししは いめにみえきや
・・・・・・・・・・
あの子にいつも恋してるだけ

ねまきの袖を裏返して寝ると

夢に現れるというからそうしよう
・・・・・・・・・・



2813 女歌

[題詞](問答)

吾背子之  袖反夜之  夢有之  真毛君尓  如相有

我が背子が 袖返す夜の 夢ならし まことも君に 逢ひたるごとし 

わがせこが そでかへすよの いめならし まこともきみに あひたるごとし
・・・・・・・・・・
夫が袖を裏返して眠たので見た夢だったのね

本当に逢っていたように思ったのに
・・・・・・・・・・



2814

[題詞](問答)

吾戀者  名草目金津  真氣長  夢不所見而  <年>之經去礼者

吾が恋は 慰めかねつ ま日長く 夢に見えずて 年の経ぬれば 

あがこひは なぐさめかねつ まけながく いめにみえずて としのへぬれば
・・・・・・・・・・
わたしの恋は終わったのね

日々長いこと君は夢にさえ見えないで

そして年は経てしまいました
・・・・・・・・・・



2815

[題詞](問答)

真氣永  夢毛不所見  雖絶  吾之片戀者  止時毛不有

ま日長く 夢にも見えず 絶えぬとも 我が片恋は やむ時もあらじ 

まけながく いめにもみえず たえぬとも あがかたこひは やむときもあらじ
・・・・・・・・・・
日々ただ過ぎて夢にも見えない

あなたの思いが絶えてしまっても

わたしの片思いが止む時はないでしょう
・・・・・・・・・・



2816 枕詞

[題詞](問答)

浦觸而  物莫念  天雲之  絶多不心  吾念莫國

うらぶれて 物な思ひそ 天雲の たゆたふ心 我が思はなくに 

うらぶれて ものなおもひそ あまくもの たゆたふこころ わがおもはなくに
・・・・・・・・・・
悲しんで思案にふけるなんて

しないでください

雲がさすらうように

ためらいの心など

私は思ってもいないのだから
・・・・・・・・・・



2817

[題詞](問答)

浦觸而  物者不念  水無瀬川  有而毛水者  逝云物乎

うらぶれて 物は思はじ 水無瀬川 ありても水は 行くといふものを 

うらぶれて ものはおもはじ みなせがは ありてもみづは ゆくといふものを
・・・・・・・・・・
悲しんで思案にふけこむなんてしない

水無瀬川は見える川面に水がなくても

ちゃんと底を伏せて流れているんだから
・・・・・・・・・・



2818 比喩,奈良県,佐紀町

[題詞](問答)

垣津旗  開沼之菅乎  笠尓縫  将著日乎待尓  <年>曽經去来

かきつはた 佐紀沼の菅を 笠に縫ひ 着む日を待つに 年ぞ経にける 

かきつはた さきぬのすげを かさにぬひ きむひをまつに としぞへにける
・・・・・・・・・・
かきつばた佐紀沼の菅を笠に縫いつけて

あでやかにかぶる日を待っているうちに

いつの間にか随分年が経ってしまった
・・・・・・・・・・

全8ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]

[ 前のページ | 次のページ ]


.
ニキタマの万葉集
ニキタマの万葉集
男性 / A型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事