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2907 [題詞](正述心緒) 大夫之 <聡>神毛 今者無 戀之奴尓 吾者可死 ますらをの さときこころも いまはなし こひのやつこに われはしぬべし ・・・・・・・・・・・
おとこの中の漢たるその聡明な心も 今はその跡形もない情欲の奴僕になったか 俺は骨なしとして死んだも当然さ ・・・・・・・・・・・ 2908 [題詞](正述心緒) 常如是 戀者辛苦 ○毛 心安目六 事計為与 つねかくし こふればくるし しましくも こころやすめむ ことはかりせよ ・・・・・・・・・・・
巡る日々いつも眺めていたいが 恋は募るほど苦しいものよ 暫しでも忘れるはからいをたてて 心身を打ち込み砕け ・・・・・・・・・・・ 2909 [題詞](正述心緒) 凡尓 吾之念者 人妻尓 有云妹尓 戀管有米也 おほろかに われしおもはば ひとづまに ありといふいもに こひつつあらめや ・・・・・・・・・・・
いい加減な気持ちなど私にはないのだ かりにも人妻と知りつつ思い続けている この気持ちがどうして止められようか ・・・・・・・・・・・ 2910人目,うわさ [題詞](正述心緒) 心者 千重百重 思有杼 人目乎多見 妹尓不相可母 こころには ちへにももへに おもへれど ひとめをおほみ いもにあはぬかも ・・・・・・・・・・・
心では百重にも恋しく思っているのに 人目が千重にも多くてあの娘に逢えない ・・・・・・・・・・・ 2911人目,うわさ [題詞](正述心緒) 人目多見 眼社忍礼 小毛 心中尓 吾念莫國 ひとめおほみ めこそしのぶれ すくなくも こころのうちに わがおもはなくに ・・・・・・・・・・・
人目が多すぎて避けても近づけず 心の内に忍んでなどではなく 逢いたいんだよ本当に ・・・・・・・・・・・ 2912人目,うわさ [題詞](正述心緒) 人見而 事害目不為 夢尓吾 今夜将至 屋戸閇勿勤 ひとのみて こととがめせぬ いめにわれ こよひいたらむ やどさすなゆめ ・・・・・・・・・・・
人目には見えないから咎められない 夢で今夜行くから 戸をけっして閉めてはいけないよ ・・・・・・・・・・・ 2913 [題詞](正述心緒) 何時左右二 将生命曽 凡者 戀乍不有者 死上有 いつまでに いかむいのちぞ おほかたは こひつつあらずは しなましものを ・・・・・・・・・・・
だいたい命には限りがあるのだから こんな辛い片恋を続けるよりは いいところで早めにさ 死んだほうがましだよまったく ・・・・・・・・・・・ 2914遊仙窟 [題詞](正述心緒) <愛>等 念吾妹乎 夢見而 起而探尓 無之不怜 うつくしと おもふわぎもを いめにみて おきてさぐるに なきがさぶしさ ・・・・・・・・・・・
可愛くてたまらないで いつも思うあの子の夢に見ていた ふと目覚めて 思わずそのぬくもりを 傍らに手探りする寂しさよ ・・・・・・・・・・・ 2915 [題詞](正述心緒) 妹登曰者 無礼恐 然為蟹 懸巻欲 言尓有鴨 いもといはば なめしかしこし しかすがに かけまくほしき ことにあるかも ・・・・・・・・・・・
* 「いも」妹彼女を恋人と呼んだら 無作法であるしもったいない そうはいうもの 言葉に出してそう言ってみたいことよ ・・・・・・・・・・・ 1 男が女を親しんでいう語。主として妻・恋人をさす。⇔兄(せ)。 2 男の側から姉または妹をよぶ語。 * 「なめ・し」無礼し [形ク] 無礼である。無作法である。 * 「しか‐す‐がに」然すがに; そうはいうものの。そうではあるが。 「しか」副詞。 「す」サ変動詞。 「がに」接続助詞。 2916 [題詞](正述心緒) 玉勝間 相登云者 誰有香 相有時左倍 面隠為 [たまかつま] あはむといふは たれなるか あへるときさへ おもかくしする ・・・・・・・・・・・
逢おうといったのは一体誰す せっかく逢ったのに顔を隠したりして ・・・・・・・・・・・ 2917 [題詞](正述心緒) 寤香 妹之来座有 夢可毛 吾香惑流 戀之繁尓 うつつにか いもがきませる いめにかも われかまとへる こひのしげきに ・・・・・・・・・・・
うつつのはず 妻が来たのは夢だったってか 激しい恋の衝撃に私は戸惑うばかり ・・・・・・・・・・・ 2918 [題詞](正述心緒) 大方者 何鴨将戀 言擧不為 妹尓依宿牟 年者近<綬> おほかたは なにかもこひむ ことあげせず いもによりねむ としはちかきを
・・・・・・・・・・・
いつも恋心を感じれば それと語らなくとも添い寝する 今のうちみたいな気もして ・・・・・・・・・・・ |
万葉集索引第十二巻
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2942 女歌 [題詞](正述心緒) 吾兄子尓 戀跡二四有四 小兒之 夜哭乎為乍 宿不勝苦者 わがせこに こふとにしあらし みどりこの よなきをしつつ いねかてなくは ・・・・・・・・・・
父親に甘えられたらと 赤子が夜泣きして 眠れないみたい 居てあやして欲しい わたしも眠りに就けません ・・・・・・・・・・ 2943 怨,戯歌 [題詞](正述心緒) 吾命之 長欲家口 偽乎 好為人乎 執許乎 わがいのちの ながくほしけく いつはりを よくするひとを とらふばかりを ・・・・・・・・・・
吾が命が長くあって欲しいと願い求める そんな偽り上手ないい人を捕まえられればなあ ・・・・・・・・・・ 2944 うわさ [題詞](正述心緒) 人言 繁跡妹 不相 情裏 戀比日 ひとごとを しげみといもに あはずして こころのうちに こふるこのころ ・・・・・・・・・・
中傷が鬱陶しいので 妻とは会わずにいるが 心の中で思わない時はない ・・・・・・・・・・ 2945 枕詞,女歌 [題詞](正述心緒) 玉<梓>之 君之使乎 待之夜乃 名凝其今毛 不宿夜乃大寸 [たまづさの] きみがつかひを まちしよの なごりぞいまも いねぬよのおほき ・・・・・・・・・・
あなたからの便りを待つ夜の その使者の気配を心待ちしながら いつまでも眠れない そんな夜がとても多い ・・・・・・・・・・ 2946 枕詞 [題詞](正述心緒) 玉桙之 道尓行相而 外目耳毛 見者吉子乎 何時鹿将待 たまほこの みちにゆきあひて よそめにも みればよきこを いつとかまたむ ・・・・・・・・・・
通う道でよく出会う 見るほどによい子 妻となる日はいつになるのだろう 待っていられないなあ ・・・・・・・・・・ 2947 作者:柿本人麻呂歌集,異伝,うわさ [題詞](正述心緒) 念西 餘西鹿齒 為便乎無美 吾者五十日手寸 應忌鬼尾 おもひにし あまりにしかば すべをなみ われはいひてき いむべきものを ・・・・・・・・・・
* 「忌むべきもの」:言ってはならないこと。ここでは相手の名を言うこと。思いにあまって堪えかねて どうしようもなく 言ってしまった 口にしてはならない相手の名を ・・・・・・・・・・ 2947S1 異伝,うわさ,人目 [題詞](正述心緒)或本歌曰 門出而 吾反側乎 人見<監>可毛 [一云 無乏 出行 家當見] かどにいでて わがこいふすを ひとみけむかも [すべをなみ いでてぞゆきし いへのあたりみに] ・・・・・・・・・・
門前に臥い伏す私を 人はなんと見るだろう ・・・・・・・・・・ 2947S2 作者:柿本人麻呂歌集,枕詞,人目,異伝 [題詞](正述心緒)柿本朝臣人麻呂歌集云 にほどりの なづさひこしを ひとみけむかも ・・・・・・・・・・
冬の池にすむにほ鳥が 慣れ親しんで来たのだなあと 人は見るだろうか ・・・・・・・・・・ 2948 [題詞](正述心緒) 明日者 其門将去 出而見与 戀有容儀 數知兼 あすのひは そのかどゆかむ いでてみよ こひたるすがた あまたしるけむ ・・・・・・・・・・
明日はあなたの家の門に行く 出て見たらわかるはずだよ 恋いやつれた姿の私の思いが 世間にも知れ渡るなあ きっと ・・・・・・・・・・ 2949 女歌 [題詞](正述心緒) 得田價異 心欝悒 事計 吉為吾兄子 相有時谷 うたてけに こころいぶせし ことはかり よくせわがせこ あへるときだに ・・・・・・・・・・
ほんとうに心がなごみませんわ なにか楽しい計画でも立てられないのかしら せめ逢えるその時だけでも ・・・・・・・・・・ 2950 [題詞](正述心緒) 吾妹子之 夜戸出乃光儀 見而之従 情空有 地者雖踐 わぎもこが よとでのすがた みてしより こころそらなり つちはふめども ・・・・・・・・・・
妻がこそこそと夜に外出する姿を 偶然見てしまった それからというもの私の気持ちは上の空で 足は地につかなくない ・・・・・・・・・・ 2951 桜井,奈良県,歌垣 [題詞](正述心緒) 海石榴市之 八十衢尓 立平之 結紐乎 解巻惜毛 つばいちの やそのちまたに たちならし むすびしひもを とかまくをしも ・・・・・・・・・・
<海石榴(つばき)は山茶花(さざんか)のこと。海石榴市の幾つもに別れ交わる辻道に立って 夜通し踊った歌垣で 契って結びあった紐を解くのはとても惜しい 腕に結んだあの人だけの紐だから ・・・・・・・・・・ 市は山人たちが、山茶花の杖をついて来て鎮魂していく所でもあり、昔は市で結婚が行われたと伝えられている。他国の男女どうしが一夜を共にし、別れるときに結んでくれた紐を、解くのが惜しいと歌っている。> * 海石榴市(つばいち):奈良県桜井市金屋付近にあった古代の大規模な市場。主な街道がこの地で交わっていた。 * 「ま‐く」推量の助動詞「む」のク語法。上代語》…だろうこと。…しようとすること。 2952 枕詞,女歌 [題詞](正述心緒) 吾<齡>之 衰去者 白細布之 袖乃<狎>尓思 君乎母准其念 わがいのちの おとろへぬれば [しろたへの] そでのなれにし きみをしぞおもふ
・・・・・・・・・・
歳を重ねて衰えても むかし交わした袖をみて 長年なれ親しんだあなたを 今も思い出されてなりません ・・・・・・・・・・ |
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2953 枕詞,不安 [題詞](正述心緒) 戀君 吾哭<涕> 白妙 袖兼所漬 為便母奈之 きみにこひ わがなくなみた [しろたへの] そでさへひちて せむすべもなし ・・・・・・・・・・・
あなたに恋い焦がれて泣く涙は 袖さえぐっしょりと濡れ通って どうしようもありません ・・・・・・・・・・・ 2954 枕詞,不安 [題詞](正述心緒) 従今者 不相跡為也 白妙之 我衣袖之 干時毛奈吉 いまよりは あはじとすれや [しろたへの] わがころもでの ひるときもなき ・・・・・・・・・・・
今からは一切逢わないと 決めているわけでもないのでしょうが 逢えないと不安で 着物の袖はあなた恋しの涙で 乾くひまもありません ・・・・・・・・・・・ 2955 女歌 [題詞](正述心緒) 夢可登 情班 月數<多> 干西君之 事之通者 いめかと こころまどひぬ つきまねく かれにしきみが ことのかよへば ・・・・・・・・・・・
夢でないかと心が戸惑いました 幾月も離れて通ってこないあなたの便りに ・・・・・・・・・・・ 2956 枕詞,女歌 [題詞](正述心緒) 未玉之 年月兼而 烏玉乃 夢尓所見 君之容儀者 [あらたまの] としつきかねて [ぬばたまの] いめにみえけり きみがすがたは ・・・・・・・・・・・
新年を迎えて新たに思うの 恋に生きた長い年月 望みが続くように祈ったら 夢に見えましたあなたのお姿 ・・・・・・・・・・・ 2957 [題詞](正述心緒) 従今者 雖戀妹尓 将相<哉>母 床邊不離 夢<尓>所見乞 いまよりは こふともいもに あはめやも とこのへさらず いめにみえこそ ・・・・・・・・・・・
今からはいくら恋いしくても おまえに逢えはしない せめてわたしの枕辺にいつもいてくれ 思うだけの愛しい恋人よ ・・・・・・・・・・・ 2958 異伝,人目,うわさ [題詞](正述心緒) 人見而 言害目不為 夢谷 不止見与 我戀将息 ひとのみて こととがめせぬ いめにだに やまずみえこそ あがこひやまむ ・・・・・・・・・・・
人が見ても咎め立てはされない 夢のなかに 絶えず姿を見せてくれ わたしの恋の苦しみも それで少しはおさまるだろうから ・・・・・・・・・・・ 2958S 異伝,人目,うわさ [題詞](正述心緒)或本歌頭云 人目多 直者不相 ひとめおほみ ただにはあはず,,, ・・・・・・・・・・・
人目が多すぎる いまは逢いには行けない ・・・・・・・・・・・ 2959 [題詞](正述心緒) 現者 言絶有 夢谷 嗣而所見与 直相左右二 うつつには こともたえたり いめにだに つぎてみえこそ ただにあふまでに ・・・・・・・・・・・
現実には連絡も途絶えて噂さえ聞かない 夢にだけでも絶えずお顔を見せてよ じかに逢うまで ・・・・・・・・・・・ 2960 [題詞](正述心緒) 虚蝉之 宇都思情毛 吾者無 妹乎不相見而 年之經去者 うつせみの うつしごころも われはなし いもをあひみずて としのへぬれば ・・・・・・・・・・・
自分がこの世に生きているという気がしない 妻と会えぬままこんなに年月が経ってしまっては ・・・・・・・・・・・ サ2961 [題詞](正述心緒) 虚蝉之 常辞登 雖念 継而之聞者 心遮焉 [うつせみの] つねのことばと おもへども つぎてしきけば こころまどひぬ ・・・・・・・・・・・
* 「ことば」は、万葉時代「こと」と云う方が多い。空蝉言とわかっていても 好きです・愛してますなんて 何度も聞かされると 変に心がとまどう ・・・・・・・・・・・ * 「空蝉の言葉」は、ありきたりの内容の無い言葉。=「つねのことば」。 * 「つねの」は、並みの。 * 「と」引用。決まり文句。 * 「ども」「ど・ども」 接続助詞 逆接既定条件。活用語の已然形に付いて、逆接の既定条件を示す。「〜けれど」「〜けれども」「〜であっても」などの意。「ど」と「ども」の意味は全く同じ。 * 「継ぎて」何度も何度も。 * 「し」 副助詞。種々の語を承け、それを強く指示して強調する。 * 「聞け」動詞「聞く」の已然形。 * 「ば」は仮定条件(もし〜ならば)・既定条件(すでに〜なので)の両方に用いられる。 * 「遮」は、「まどひぬ」惑う。いぶせ・し=いとわしい、うっとうしい。 * 「焉・ぬ」は強調の助辞。 2962 枕詞 [題詞](正述心緒) 白<細>之 袖不數而<宿> 烏玉之 今夜者<早毛> 明<者>将開 [しろたへの] そでかれてぬる [ぬばたまの] こよひははやも あけばあけなむ ・・・・・・・・・・・
袖を交わして寝られない 独り寝の夜など 早く明けてしまえばいい 恋しいあの子と離れて独り寝する夜は ・・・・・・・・・・・ 2963 枕詞 [題詞](正述心緒) 白細之 手本寛久 人之宿 味宿者不寐哉 戀将渡 [しろたへの] たもとゆたけく ひとのぬる うまいはねずや こひわたりなむ
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人は手枕を交わしあって幸せに寝ているのに わたしは独り寝の恋に悩みながら過ごすのか ・・・・・・・・・・・ |
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寄物陳思 2964 女歌,衣 [題詞]寄物陳思 如是耳 在家流君乎 衣尓有者 下毛将著跡 <吾>念有家留 かくのみに ありけるきみを きぬにあらば したにもきむと わがおもへりける ・・・・・・・・・・・
このようにお慕いするあなた 好きで好きでたまらないから 人目につかないように あなたを いつも大事な赤絹下着にして 着ているでしょう わたしは ・・・・・・・・・・・ 2965 女歌,怨,序詞,衣 [題詞](寄物陳思) 橡之 袷衣 裏尓為者 吾将強八方 君之不来座 [つるはみの あはせのころも うらにせば] われしひめやも きみがきまさぬ ・・・・・・・・・・・
橡染めの袷の着物を裏返すようですね もう無理に逢いたいとは言いません 愛情が失せて来ないのなら ・・・・・・・・・・・ サ2966 衣,序詞 [題詞](寄物陳思) 紅 薄染衣 淺尓 相見之人尓 戀比日可聞 [くれなゐの うすそめころも あさらかに] あひみしひとに こふるころかも ・・・・・・・・・・・
* 「薄染め」は、染め色の名。紅に染めた衣の色が薄いように ほんの行きずりに遊んだ女だが なぜか恋しく思われる今日このごろであるよ ・・・・・・・・・・・ * 「浅らか」は、形容動詞連用形。 薄いさま。浅いさま。 * 「し」は過去の助動詞「き」の連体形。 * 「かも」は詠嘆の終助詞。 2967 形見,衣 [題詞](寄物陳思) 年之經者 見管偲登 妹之言思 衣乃<縫>目 見者哀裳 としのへば みつつしのへと いもがいひし ころものぬひめ みればかなしも ・・・・・・・・・・・
年を経て再び見れば懐かしいでしょうと言った妻 古着の縫い目を見れば亡き妻が偲ばれて悲しい ・・・・・・・・・・・ 2968 衣,序詞 [題詞](寄物陳思) 橡之 一重衣 裏毛無 将有兒故 戀渡可聞 [つるはみの ひとへのころも うらもなく] あるらむこゆゑ こひわたるかも ・・・・・・・・・・・
橡染の一重の衣に裏地がないように あの娘の心も純真だから よけいに恋しい ・・・・・・・・・・・ 2969 衣,枕詞 [題詞](寄物陳思) 解衣之 念乱而 雖戀 何之故其跡 問人毛無 [とききぬの] おもひみだれて こふれども なにのゆゑぞと とふひともなし ・・・・・・・・・・・
解き衣のように私の心は思いに乱れる 恋しても恋しても どうしても私の元に通う人はいない ・・・・・・・・・・・ サ2970 衣,序詞 [題詞](寄物陳思) 桃花褐 淺等乃衣 淺尓 念而妹尓 将相物香裳 [ももそめの あさらのころも あさらかに] おもひていもに あはむものかも ・・・・・・・・・・・
* 「桃染め」は、うすい紅色。桃色に染めた淡色の衣のような そんな軽い気持ちだけで あなたに逢っているのではありません ・・・・・・・・・・・ * 「浅ら」は名詞。色の淡いさま。 * 「浅らかに」は、形容動詞で思慮の足りないさま。 * 「む」は意志の助動詞。 * 「ものかも」は、形式名詞「もの」に詠嘆の終助詞「かも」付いたもので、疑問ないし反語の意味を表す。 サ2971 枕詞,序詞,衣 [題詞](寄物陳思) 大王之 塩焼海部乃 藤衣 穢者雖為 弥希将見毛 [おほきみの しほやくあまの [ふぢころも] なれはすれども いやめづらしも ・・・・・・・・・・・
* 「ふぢ‐ごろも」藤衣天皇に献上する塩を焼く海女の藤布の衣 着慣れればよいものなのだろう ・・・・・ 着慣れた藤衣のような古女房は 少し強いけれども良いものなのさ ・・・・・・・・・・・ ・藤づるの皮の繊維で織った粗末な衣服。 ・序詞として用いて、織り目が粗い意から「間遠に」に、衣のなれる意から「馴れる」に、衣を織るの同音から「折れる」にそれぞれかかる。 * 「いやめづらしも」ひとしお心ひかれる、面白い。 2972 衣,序詞,女歌,不安 [題詞](寄物陳思) 赤帛之 純裏衣 長欲 我念君之 不所見比者鴨 [あかきぬの ひたうらのきぬ ながくほり] あがおもふきみが みえぬころかも ・・・・・・・・・・・
光沢豊かな赤絹(モミ)のついた胴裏の衣みたいに 長い間いつも欲しいと願う そのように思い慕うあなた様はいらっしゃいません この頃 ・・・・・・・・・・・ 2973 枕詞,後朝,紐 [題詞](寄物陳思) 真玉就 越乞兼而 結鶴 言下紐之 <所>解日有米也 [またまつく] をちこちかねて むすびつる わがしたびもの とくるひあらめや ・・・・・・・・・・・
将来と現在を結びつけるように 私の下着の紐が解ける日があるのでしょうか こうして今朝は結び合っても ・・・・・・・・・・・ 2974 帯 [題詞](寄物陳思) 紫 帶之結毛 解毛不見 本名也妹尓 戀度南 むらさきの おびのむすびも ときもみず もとなやいもに こひわたりなむ ・・・・・・・・・・・
紫染めの帯の結び目を解くこともなく みだりにあの娘に片思いするだけだなあ ・・・・・ むらさき染めの帯の結び目さえ解くこともなく ただ いたずらにあの子に恋ひ焦がれることになるのか ・・・・・・・・・・・ サ2975 紐 [題詞](寄物陳思) 高麗錦 紐之結毛 解不放 齊而待杼 驗無可聞 [こまにしき] ひものむすびも ときさけず いはひてまてど しるしなきかも ・・・・・・・・・・・
* 「高麗錦」 高麗の錦で作った紐。高麗風の高級で美しい紐。貞操を守り紐の結び目を解かずに 斎って待っているのに 夫が私の元に来る験はない どうなっているのかしら あなた ・・・・・・・・・・・ 紐の結び目を解かずに固く操を守り待っているのに「験なきかも」と、その効果が無いことを悲しんでいる女の歌。 |





