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3268 明日香,奈良,女歌 三諸之ーみ(接頭)もろのー三諸の神が宿る・神の鎮座する「御降(もろ)」
神奈備山従ー神奈備山ゆーかむなびやまゆー神奈備の山から・固有名詞と固定的に見ない。「ゆ動作の起点、経由点を表す格助詞。 登能陰ーとの曇りー次第に曇って来て 「との」は、一面に、ずっと、すっかり。 雨者落来奴ー雨は降り来ぬーとうとう雨は降って来た「ふりきぬ」...自動詞ラ行四段「降る」の連用形、自動詞カ変「来(く)」の連用形「き」それに、完了の助動詞「ぬ」の終止形 雨霧相ー天霧らひー[あまぎらひ]ー霧雨に。自動詞ラ行四段「天霧(あまぎ)る」の未然形「あまぎら」に、上代の反復・継続の助動詞「ふ」、その連用形「ひ」が付いたもので、「吹く」にかかる 風左倍吹奴ー風さへ吹きぬーかぜさへふきぬー風さえも吹きつけてきた。「さへ」は、添加の副助詞、「〜までも」「ふきぬ」自動詞カ行四段「吹く」の連用形「吹き」に、完了の助動詞「ぬ」の終止形 大口乃ー大口のー[おほくちの]ー「大口の」...大きな口の狼の異名「真神」にかかる、畏怖した言い方。 真神之原従ー真神の原ゆーまかみのはらゆーいるという飛鳥真神の原を・から 思管ー思ひつつー昨夜からの私を思いながら。ハ行四段「思ふ」の連用形「思ひ」。回想・願う・恋しく思う・心配・・。「つつ」...反復・継続の接続助詞。 還尓之人ー帰りにし人ー帰っていったあなたは。「かへり」自動詞ラ行四段「帰る」の連用形。「にし」は、「〜た、〜てしまった」完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」、過去の助動詞「き」の連体形「し」。 家尓到伎也ー家に至りきやーいへにいたりきやー無事に家に辿り着いたでしょうか 「き」過去の助動詞「き」の終止形「や」活用語の終止形に付くので、疑問の係助詞ではなく、疑問の終助詞 3269 女歌 [題詞]反歌 還尓之 人乎念等 野干玉之 彼夜者吾毛 宿 毛寐金<手>寸 かへりにし ひとをおもふと [ぬばたまの] そのよはわれも いもねかねてき 共寝してまだ暗い真神の原を
通って帰る想い人 その日の夜はお互いに 寝ることが出来ないでしょう 3270 恋,戯笑,宴席 刺将焼ーさし焼かむーさしやかむーもろ共に焼き払ってやりたい
小屋之四忌屋尓ー小屋の醜屋にーこやのしこやにー夫を奪った女の汚い小屋 掻将棄ーかき棄てむーかきうてむーうち捨ててしまいたい 破薦乎敷而ー破れ薦を敷きてーやれごもをしきてーやぶれ薦に巻いて 所<挌>将折ー打ち折らむーへし折ってやりたい 鬼之四忌手乎ー醜の醜手をーしこのしこてをーあの女共々薄汚い手を 指易而ーさし交へてーさしかへてー交し合って 将宿君故ー寝らむ君ゆゑーぬらむきみゆゑー今頃寝ているだろう君のせいで 赤根刺ー[あかねさす]ー 晝者終尓ー昼はしみらにーひるはしみらにー昼はひねもす 野干玉之ー[ぬばたまの]ー 夜者須柄尓ー夜はすがらにー夜は夜通し 此床乃ーこの床のーこの寝床が 比師跡鳴左右ーひしと鳴るまでーひしとなるまでーぎしぎし鳴るほどに 嘆鶴鴨ー嘆きつるかもー私は恨み心は晴れない 3271 [題詞]反歌 我情 焼毛吾有 愛八師 君尓戀毛 我之心柄 わがこころ やくもわれなり はしきやし きみにこふるも わがこころから 私の心を嫉妬で焼き狂わせるのも私だし
「はしき‐やし」〔連語〕(形容詞「はし(愛)」の連体形「はしき」に助詞「や」「し」が付いたもの)いとしい。愛すべきである。愛惜の意味の嘆息「ああ」にあたる場合もある。はしきよし。ああ あの人に恋い焦がれるのも私の心 自分のせいなのかしら 帰ってきたらどうしよう <タ・テ>http://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/24209873.html?type=folderlist (万葉集・巻13・3270) (焼き払ってしまいたい みすぼらしい家の中でに 焼棄ててしまいたい 破れ薦を敷いて へし折ってしまいたい 醜い手をかわしあって あだし女と寝ているだろうあなたのために 私は 茜色の昼は一日中 ぬばたまの夜は一晩中 この床が ぎしぎしと鳴るまで 嘆いたことだ) 反歌 (万葉集・巻13・3271) (私が嫉妬で心を焼くのも 愛する君に恋いこがれるのも ほかならないわが心からです) 長歌の前半、恋人をののしる部分は、けっさく! ぷっと、ふきだしてしまいました。 磐姫みたいです。 でも、仁徳天皇の皇后、磐姫の痛快な嫉妬とも、違うタイプ。 反歌で、「ああ、私のせいだわ。」としょんぼりしている。 恋敵の手を汚らわしいとか、ぼろくそにけなしても、苦しくて、ごろごろ寝返りうっている。 そして、ため息。 生身の人間の歌ですねえ。ふう・・・ 「はしきやし」は、私のお気に入り。 感動をともなったため息ですかね。 ギャグで使いたいと、うずうずしてるんだけど、なかなか、適当な場面に出会いません。 ヤマトタケルが、クサナギノ剣を手に、東奔西走して、望郷の歌をうたった後、 ♪はしけやし 我家の方よ 雲居立ち来もーーー(ああ、なつかしい) そして、臨死の歌、 ♪媛子の床の辺に 我が置きし 剣の太刀 その太刀はや 悲劇のヒーローですね。ほれぼれ。(#´ο`#) 3272 枕詞 打延而ーうちはへてーずっと、かつてより
思之小野者ー思ひし小野はーおもひしをのはー気になっていた女は 不遠ー遠からぬーとほからぬー近くの 其里人之ーその里人のー里人が 標結等ー標結ふとーしめゆふとー契りを結んだと 聞手師日従ー聞きてし日よりー耳にしたその日から 立良久乃ー立てらくのーたてらくのー立ってもいても 田付毛不知ーたづきも知らずーたづきもしらずー様子を知る手がかりがなく 居久乃ー居らくのーをらくのー 於久鴨不知ー奥処も知らずーおくかもしらず 親<之>ーにきびにしー 己<之>家尚乎ー我が家すらをー吾が家にいても、“草枕”(気持ちは落ち着かず)、物思いに苦しむ 草枕ー]くさまくら]ー 客宿之如久ー旅寝のごとくーたびねのごとくー旅先で寝ているようで 思空ー思ふそらーおもふそらー 不安物乎ー苦しきものをー 嗟空ー嘆くそらーなげくそらー 過之不得物乎ー過ぐしえぬものをーすぐしえぬものをー 天雲之ー天雲のー[あまくもの]ー 行莫々ーゆくらゆくらにー心はゆくらゆくらと揺れ 蘆垣乃ー葦垣のー[あしかきの]ー 思乱而ー思ひ乱れてー思い千々に乱れて 乱麻乃ー乱れ麻のー[みだれをの]ー乱れた麻糸のようにもつれた心を 麻笥乎無登ーをけをなみとー納める桶もない 吾戀流ー吾が恋ふるーあがこふるー 千重乃一重母ー千重の一重もーちへのひとへもー千の一も 人不令知ー人知れずーひとしれずー伝えようもな 本名也戀牟ーもとなや恋ひむーもとなやこひむー分けもなく恋しく思う 氣之緒尓為而ー息の緒にしてーいきのをにしてー命のかぎりに 3273 遊仙窟 [題詞]反歌 二無 戀乎思為者 常帶乎 三重可結 我身者成 ふたつなき こひをしすれば つねのおびを みへむすぶべく あがみはなりぬ 人生に二つとない恋に落ちて
その恋の炎の激しさに 常には一重に結んでいた帯なのに 三重に結ぶほどに痩せ細ったわたし 3274 孤独,枕詞 為須部乃ー為むすべのーせむすべのーどうしてよいか
田付○不知ーたづきを知らにー手立てが分からなくて 石根乃ー岩が根のー[いはがねの]ー岩の根のように 興凝敷道乎ーこごしき道をーこごしきみちをー険しい道を 石床笶ー岩床のー[いはとこの]ー岩の床のように 根延門○ー根延へる門をーねばへるかどをー根の生えている門を 朝庭ー朝にはーあしたにはー朝には 出居而嘆ー出で居て嘆きーいでゐてなげきー出入りをして嘆き 夕庭ー夕にはーゆふへにはー夕べには 入居而思ー入り居て偲ひーいりゐてしのひー門に入って終わった恋を偲びます 白桍乃ー白栲のー[しろたへの]ー 吾衣袖○ー吾が衣手をーわがころもでをー白い私の着物の袖を 折反ー折り返しーをりかへしー折り返して 獨之寐者ーひとりし寝ればーひとりしぬればー一人で寝ていますと 野干玉ー[ぬばたまの]ー 黒髪布而ー黒髪敷きてーくろかみしきてー黒髪を敷いて 人寐ー人の寝るーひとのぬるー寝る人のように 味眠不睡而ー味寐は寝ずてーうまいはねずてー熟睡もできず 大舟乃ー大船のー[おほぶねの]ー 徃良行羅二ーゆくらゆくらにーゆらゆら揺れるように 思乍ー思ひつつーおもひつつー思いながら 吾睡夜等呼ー吾が寝る夜らをーわがぬるよらをーわたしの独り寝る夜を <讀文>将敢鴨ー数みもあへむかもーよみもあへむかもー数え切れません [題詞]反歌 一眠 夜○跡 雖思 戀茂二 情利文梨 ひとりぬる よをかぞへむと おもへども こひのしげきに こころどもなし 一人で寝た夜を数えようと思っても
恋しい思いが強すぎて心が落ち着かず そんなもどかしいことは出来ません 3276 桜井,奈良,女歌,歌劇 百不足ー百足らずーももたらずー九十九(つづら)
山田道乎ー山田の道をーやまたのみちをー山田の曲がりくねった道を 浪雲乃ー波雲のー[なみくもの]ー波や雲が次々に寄せるように 愛妻跡ー愛し妻とーうつくしづまとー何度も愛しい貴方の妻ですと 不語ー語らはずーかたらはずー語らうことなく 別之来者ー別れし来ればーわかれしくればー別れて来たが 速川之ー早川のーはやかはのー速い流れの川の 徃<文>不知ー行きも知らずーゆきもしらずーその行方も知らず 衣袂笶ー衣手のー[ころもでの]ー魂寄せの衣の袖さえ 反裳不知ー帰りも知らずーかへりもしらずー帰りを知らず 馬自物ー馬じものー[うまじもの]ー馬のように 立而爪衝ー立ちてつまづきーたちてつまづきー想いがつまずき 為須部乃ー為むすべのーせむすべのーどのようにしたらよいか 田付乎白粉ーたづきを知らにーたづきをしらにー手立ての思いもつかず 物部乃ー[もののふの]ー 八十乃心○ー八十の心をーやそのこころをーあれこれと行き場をなくした心が 天地二ー天地にー[あめつちに]ー 念足橋ー思ひ足らはしーおもひたらはしー満たされぬままだ 玉相者ー魂合はばーたまあはばー心が通じたら 君来益八跡ー君来ますやとーきみきますやとー貴方が来るでしょうかと 吾嗟ー吾が嘆くーわがなげくー私が嘆く 八尺之嗟ー八尺の嘆きーやさかのなげきー八坂のような長い嘆き 玉<桙>乃ー玉桙のー[たまほこの]ー 道来人乃ー道来る人のーみちくるひとのー道をやって来る人が 立留ー立ち留まりーたちとまりー立ち留まり 何常問者ーいかにと問はばーいかにととはばー「どうしたのか」と問うと 答遣ー答へ遣るーこたへやるーどのように答えて良いか 田付乎不知ーたづきを知らにーたづきをしらにー思いもつかず 散釣相ーさ丹つらふー[さにつらふ]ー美麗容色の素晴らしい 君名日者ー君が名言はばーきみがないはばー貴方の名を云うと 色出ー色に出でてーいろにいでてーはっきりと表に出てしまって 人<可>知ー人知りぬべみーひとしりぬべみー噂になるでしょう 足日木能ーあしひきのー[あしひきの]ー 山従出ー山より出づるーやまよりいづるー峯から出てくる 月待跡ー月待つとーつきまつとー満月を待っていると 人者云而ー人には言ひてーひとにはいひてー人には答え 君待吾乎ー君待つ吾れをーきみまつわれをー貴方が帰って来るのをひたすら待っています [題詞]反歌 [原文]眠不睡 吾思君者 何處邊 今<夜>誰与可 雖待不来 [仮名],いもねずに,あがおもふきみは,いづくへに,こよひたれとか,まてどきまさぬ 寝ても寝られずに
わたしの思うあの人は どこへいかれたのだろう 今夜誰かと逢っているのかしら 待てど待てどこられない |
万葉集索引第十三巻
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3288 神祭り,女歌 [題詞]或本歌曰 ・・・・・・・・・・
大船之ー大船のー[おほぶねの]ー大船を 思憑而ー思ひ頼みてーおもひたのみてー深く信頼するように 木<妨>己ーさな葛ー[さなかづら]ー 弥遠長ーいや遠長くーいやとほながくー貴方との仲が永遠であるように 我念有ー我が思へるーあがおもへるー私が想う 君尓依而者ー君によりてはーきみによりてはー貴方を信じては 言之故毛ー言の故もーことのゆゑもー神の御告げからの障害も 無有欲得ーなくありこそとーないはずと 木綿手次ー木綿たすきーゆふたすきー木綿のタスキを 肩荷取懸ー肩に取り懸けーかたにとりかけー肩に懸け 忌戸乎ー斎瓮をーいはひへをー神に祈りを捧げる斎瓮を 齊穿居ー斎ひ掘り据ゑーいはひほりすゑー謹んで掘り据えて 玄黄之ー天地のーあめつちのー天と地の 神祇二衣吾祈ー神にぞ吾が祷むーかみにぞわがのむー神に私は祈願する 甚毛為便無見ーいたもすべなみーいたもすべなみー恋の障害にどうしようもなくて ・・・・・・・・・・ 3289 奈良,橿原,女歌,序詞,恋 [題詞] ・・・・・・・・・・
御佩乎ーみ佩かしをー[みはかしを]ー 劔池之ー剣の池のーつるぎのいけのー剣の池の 蓮葉尓ー蓮葉にーはちすはにー蓮の葉の上に 渟有水之ー溜まれる水のーたまれるみづのー溜まっている水が 徃方無ーゆくへなみーどちらにあふれていくか分からないように 恋の行方を私は知らない 我為時尓ー我がする時にーわがするときにー貴方が私のことを恋想う時に 應相登ー逢ふべしとーあふべしとー私に逢えるはずと 相有君乎ー逢ひたる君をーあひたるきみをー逢いに来た貴方を 莫寐等ーな寐ねそとーないねそとー共寝をしてはいけないと 母寸巨勢友ー母聞こせどもーははきこせどもー母はおっしゃるけれど 吾情ー吾が心ーあがこころー私の気持は 清隅之池之ー清隅の池のーきよすみのいけのー清隅の池の 池底ー池の底ーいけのそこーその池の底の水が絶えないように 吾者不<忘>ー吾れは忘れじーわれはわすれじー私は耐えることが出来ない 正相左右二ー直に逢ふさへにーただにあふさへにー直接貴方に逢うからには ・・・・・・・・・・ 3290 [題詞]反歌 古之 神乃時従 會計良思 今心<文> 常不所<忘> いにしへの かみのときより あひけらし いまのこころも つねわすらえず ・・・・・・・・・・
神代のむかしから会っていたらしい 恋人同士は会う運命に結ばれている 今も忘れられず あのかたが心にかかる ・・・・・・・・・・ 3291 枕詞,赴任,恋,大君,奈良,吉野 [題詞] ・・・・・・・・・・
三芳野之ーみ吉野のーみよしののー美しい吉野の 真木立山尓ー真木立つ山にーまきたつやまにー立派な樹木が立つ山に<良質な樹木(ヒノキ スギなど)イヌマキ コウヤマキ> 青生ー青く生ふるーあをくおふるー青々と生え延びる 山菅之根乃ー山菅の根のーやますがのねのー藪蘭の根の 慇懃ーねもころにーいとしく秘めやかに懇ろに <、「山菅之根乃慇懃(やますげのねのねもころ)」と「菅根之根毛一伏三向凝呂尓(すがのねのねもころごろ)」>藪蘭・カヤツリ草の「菅」の違い。 吾念君者ー吾が思ふ君はーあがおもふきみはー私が慕う貴方は 天皇之ー大君のーおほきみのー天皇の 遣之万々ー任けのまにまにーまけのまにまにー任命に従って [或本云 王 命恐]ー[或本云 大君の 命かしこみ]ー[おほきみの みことかしこみ]ー或る本に云はく、王のご命令を謹んで 夷離ー鄙離るー[ひなざかる]ー藤原の京から遠く夷に離れた 國治尓登ー国治めにとーくにをさめにとー国を行政しなさいと [或本云 天踈 夷治尓等]ー [或本云 天離る 鄙治めにと]ー[あまざかる ひなをさめにと]ー或る本に云はく、藤原の京から離れた夷を行政しなさいと 群鳥之ー群鳥のー[むらとりの]ー群れた鳥が 朝立行者ー朝立ち去なばーあさだちいなばー朝に巣から飛び立つように 後有ー後れたるーおくれたるー後に残る 我可将戀奈ー我れか恋ひむなーあれかこひむなー私は貴方が恋しいでしょう 客有者ー旅ならばーたびならばー旅の途中ならば 君可将思ー君か偲はむーきみかしのはむー貴方を偲びましょう 言牟為便ー言はむすべーいはむすべー貴方の無事を神に祈る 将為須便不知ー為むすべ知らにーせむすべしらにー作法も知らないのですが [或書有 足日木 山之木末尓 句也]ー[或書有 あしひきの 山の木末に 句也]ー[あしひきの やまのこぬれに]ー葦や桧の生える山の梢に 延津田乃ー延ふ蔦のーはふつたのー野を這う蔦の枝々の 歸之ー行きのーゆきのー行きの [或本無歸之句也] ー[或本無歸之句也]ー或る本に「行きの」句なし 別之數ー別れのあまたーわかれのあまたー別れの生き別れが多い 惜物可聞ー惜しきものかもーをしきものかもーとても心残りです ・・・・・・・・・・ 3292 [題詞]反歌 打蝉之 命乎長 有社等 留吾者 五十羽旱将待 [うつせみの] いのちをながく ありこそと とまれるわれは いはひてまたむ ・・・・・・・・・・
貴方のこの世の命が 無事長く在ってほしいと 藤原の京に留まる私は 神を祭り祈って貴方のご帰宅を待っています ・・・・・・・・・・ サ3293 民謡,恋情,吉野,奈良,伝承 <3291の歌の反歌のような歌> ・・・・・・・・・・
三吉野之ーみ吉野のーみよしののー吉野にあるという 御金高尓ー御金が岳にーみかねがたけにー御金の山岳には 間無序ー間なくぞーまなくぞー絶え間なく 雨者落云ー雨は降るといふーあめはふるといふー雨は降るふるという 不時曽ー時じくぞーときじくぞー時となく 雪者落云ー雪は降るといふーゆきはふるといふー雪は降るという 其雨ーその雨のーそのあめのーその雨が 無間如ー間なきがごとーまなきがごとー絶え間ないように 彼雪ーその雪のーそのゆきのーその雪が 不時如ー時じきがごとーときじきがごとー時となく降るように 間不落ー間もおちずーまもおちずー決して休むことなく間をおかず 吾者曽戀ー吾れはぞ恋ふるーあれはぞこふるー私はただひたすらに恋しく思い続ける 妹之正香尓ー妹が直香にーいもがただかにー貴女のその香しい姿に ・・・・・・・・・・ 三吉野之 御金高尓 間無序、雨者落云 不時曽、雪者落云 其雨、無間如 彼雪、不時如 間不落 吾者曽戀 妹之正香尓 3294 奈良,序詞,恋 [題詞]反歌 三雪落 吉野之高二 居雲之 外丹見子尓 戀度可聞 みゆきふる よしののたけに ゐるくもの よそにみしこに こひわたるかも ・・・・・・・・・・
<再掲載>http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/31214803.htmlみ雪降る吉野嶽を隠して漂う雲を見るように おぼろげに他所ながらその姿を見ていた娘なのに いまは恋し続けることよ ・・・・・・・・・・ 13 3295 奈良,田原本,問答,親子,歌垣,民謡 [題詞] ・・・・・・・・・・
打久津ー[うちひさつ]ー日が射しこむ 三宅乃原従ー三宅の原ゆーみやけのはらゆー三宅の原から 常土ー直土にーひたつちにーいつも土まで 足迹貫ー足踏み貫きーあしふみぬきー足で踏み分けて 夏草乎ー夏草をーなつくさをー夏草に 腰尓魚積ー腰になづみーこしになづみー腰まで没して難儀し婚(よば)いをしているそうだが 如何有哉ーいかなるやーさてどのような 人子故曽ー人の子ゆゑぞーひとのこゆゑぞー人の子のために 通簀<文>吾子ー通はすも吾子ーかよはすもあこー通っておいでなのかね わが子よ 諾々名ーうべなうべなーいかにもごもっとも 母者不知ー母は知らじーはははしらじー母上はご存じありますまい 諾々名ーうべなうべなーそうですとも 父者不知ー父は知らじーちちはしらじー父上はご存じありますまい 蜷腸ー蜷の腸ー[みなのわた]ー蜷貝の中身のようにつややかで 香黒髪丹ーか黒き髪にーかぐろきかみにー黒々とした髪に 真木綿持ー真木綿もちーまゆふもちー神聖な木綿で 阿邪左結垂ーあざさ結ひ垂れーあざさゆひたれー花蓴菜を結わえ垂らし 日本之ー大和のーやまとのー大和の 黄<楊>乃小櫛乎ー黄楊の小櫛をーつげのをぐしをー黄楊の小櫛を 抑刺ー押へ刺すーおさへさすー押さえに刺している <卜>細子ーうらぐはし子ーうらぐはしこー<「うら」は心、「くはし」は美しい意。>心優しい姿の可愛い子 彼曽吾○ーそれぞ吾が妻ーそれぞわがつまーそれが私の相手です ・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 父母尓 不令知子故 三宅道乃 夏野草乎 菜積来鴨 ちちははに しらせぬこゆゑ みやけぢの なつののくさを なづみけるかも ・・・・・・・・・・
父にも母にも知らせないいとしい子だから 三宅への道の 夏野の草いきれややぶ蚊に苦しみながら 踏み分けて 身を隠して通うことですよ ・・・・・・・・・・ <旅人>http://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/28066694.html?type=folderlist 親の問いかけに、息子が打ち明ける、 ♪うちひさつ 三宅の原ゆ 直土(ひたつち)に 足踏み貫き 夏草を 腰になづみ いかなるや 人の子ゆえぞ 通はすも我子 うべなうべな 母は知らじ うべなうべな 父は知らじ 蜷(みな)の 腸(わた) か黒き髪に 真木綿(まゆふ)もち あざさ結ひ垂れ 大和の 黄楊の小櫛を 押へ刺す うらぐはし子 それぞ我が妻 (万葉集・巻13・3295) (うちひさつ 三宅の原を 地べたに 裸足なんかを踏みこんで 夏草に 腰をからませて まあ いったいどこのどんな娘御ゆえに 通っておいでなのだね お前。 ごもっともごもっとも 母さんはご存知ありますまい ごもっともごもっとも 父さんはご存知ありますまい 蜷の腸そっくりの 黒々とした髪に 木綿の緒で あざさを結わえて垂らし 大和の黄楊の小櫛を 押えにさしている 妙とも妙ともいうべき子 それが私の相手なのです)
反歌
♪父母に 知らせぬ子ゆえ 三宅道の 夏野の草を なづみ来るかも (万葉集・巻13・3296)(父や母にも 打ち明けていない子ゆえ 草深い三宅道の 夏野 その野の草に足を取られながら 私は辿って行く。そういうことだったのです) 父母にも打ち明けられなかった相手だったけど、幸いに事情を尋ねてくれたので、夏草に足を取られて通う苦しみも、今は過去のものとなった。 長歌では、父より母が先に出て来る。 男女の仲については、当時母親が監督権を握っていた。 両親は、裸足なんかで草踏み分けて通うとは、相手はとんでもない子ではあるまいなと、詰問している。 息子は、即座に相手は、「うらぐはし子」だから、心配ご無用と応じた。 そして、これでほっとした、という反歌をうたう。 草深い里にいる野趣豊かな女性、だから妙味ある女性なんだから、安心してほしいという。 「あざさ」は、現在あさざと呼ばれるリンドウ科の多年生水草。 夏秋の頃、黄色い花をつける。 髪飾りにその花をつけたらしい。 「大和の」は、異国ではないこの国のといって、相手を身近に感じさせる表現。(了) 3297 [題詞] ・・・・・・・・・・
玉田次ー玉たすきー[たまたすき]ー 不懸時無ー懸けぬ時なくーかけぬときなくー沢山の美しい竹玉を紐に貫いて懸けることをしないことがないように 吾念ー吾が思ふーあがおもふー私は思う 妹西不會波ー妹にし逢はねばーいもにしあはねばー繋がるように私が慕う貴女に逢わないのでは 赤根刺ー[あかねさす]ー 日者之弥良尓ー昼はしみらにーひるはしみらにー日が射す日中は終始 烏玉之ー[ぬばたまの]ー 夜者酢辛二ー夜はすがらにーよるはすがらにー漆黒の夜は夜通し 眠不睡尓ー寐も寝ずにーいもねずにー寝ることもなく 妹戀丹ー妹に恋ふるにーいもにこふるにー貴女に恋焦がれるほかに 生流為便無ー生けるすべなしーいけるすべなしー生きる意味がありません ・・・・・・・・・・ |
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3306 [題詞]反歌 何為而 戀止物序 天地乃 神乎祷迹 吾八思益 いかにして こひやむものぞ あめつちの かみをいのれど われはおもひます どのようにして貴方への恋は止むのか
天地の神に祈るが 貴方を慕う気持ちはいっそう募るばかり 3307 序詞 しかれこそ としのやとせを きりかみの よちこをすぎ たちばなの ほつえをすぎて このかはの したにもながく ながこころまて ようやくの八歳の放髪の幼さを過ぎ
橘の薫り高い末枝の花芽の時を過ぎて この川の下流が広く大きく長いようにと 始めて女として貴方の情けを待っています 3308 [題詞]反歌 天地之 神尾母吾者 祷而寸 戀云物者 都不止来 あめつちの かみをもわれは いのりてき こひといふものは かつてやまずけり ・・・・・・・・・・
天と地の神に私も祈りを捧げています 貴女との恋は未だかつてなく 引き止めることは出来ないことだと ・・・・・・・・・・ 3309 人麻呂歌集,異伝,恋,女歌,歌垣 [題詞]柿本朝臣人麻呂之集歌 ・・・・・・・・・・
物不念ー物思はずーものもはずー物思いもせず 路行去裳ー道行く行くもーみちゆくゆくもー道を行き 青山乎ー青山をーあをやまをー草木が茂る青山を 振酒見者ー振り放け見ればーふりさけみればー仰ぎ見れば 都追慈花ーつつじ花ーつつじばなーツツジの花のような 尓太遥越賣ーにほえ娘子ーにほえをとめー美しい少女 作樂花ー桜花ーさくらばなーサクラの花のような 佐可遥越賣ー栄え娘子ーさかえをとめー娘盛りの少女 汝乎叙母ー汝れをぞもーなれをぞもー君はまあ<「ぞ‐も」係助詞「ぞ」+係助詞「も」。古くは「そも」とも。 文中にあって、その付く語を感動を込めて強く示す意を表す> 吾尓依云ー吾れに寄すといふーわれによすといふー私に関心を寄せているという 吾乎叙物ー吾れをぞもーわれをぞもー私も同じように 汝尓依云ー汝れに寄すといふーなれによすといふー君に好意を寄せている 汝者如何念也ー汝はいかに思ふやーなはいかにおもふやー君はどう思うのだろうか 念社ー思へこそーおもへこそー思えば君に出会ってから 歳八<年>乎ー年の八年をーとしのやとせをー8年もの年月が過ぎた 斬髪ー切り髪のーきりかみのー切り髪だった 与知子乎過ーよち子を過ぎーよちこをすぎー稚児の時代を過ぎ 橘之ー橘のーたちばなのー身長も橘の 末枝乎須具里ーほつ枝をすぐりーほつえをすぐりー薫り高い上の枝を過ぎた 此川之ーこの川のーこのかはのーこの川が 下母長久ー下にも長くーしたにもながくー下流に長く広く続くまで 汝心待ー汝が心待てーながこころまてー始めて女として貴方の情けを待っています ・・・・・・・・・・ [題詞] ・・・・・・・・・・
隠口乃ー隠口のー[こもりくの]ー 泊瀬乃國尓ー泊瀬の国にーはつせのくににー泊瀬の国まで 左結婚丹ーさよばひにー夜這いにきた 吾来者ー吾が来ればーわがきたればー君の家に着いたら 棚雲利ーたな曇りーたなぐもりーすっかり曇って 雪者零来ー雪は降り来ーゆきはふりくー雪が降りだした 左雲理ーさ曇りーさぐもりーさらに曇って 雨者落来ー雨は降り来ーあめはふりくー雪が雨になった 野鳥ー野つ鳥ー[のつとり]ー 雉動ー雉は響むーきぎしはとよむー野鳥のキジが鳴き声をひびかせる 家鳥ー家つ鳥ー[いえつとり] 可鶏毛鳴ー鶏も鳴くーかけもなくー家禽のニワトリも鳴いた 左夜者明ーさ夜は明けーさよはあけー夜が明け 此夜者昶奴ーこの夜は明けぬーこのよはあけぬーしかし私のの夜は明けない 入而<且>将眠ー入りてかつ寝むーいりてかつねむー君の部屋に入って君と抱き合って寝たい 此戸開為ーこの戸開かせーこのとひらかせー早くこの扉を開けておくれ ・・・・・・・・・・ 集歌3310の歌以下四首の歌で、集歌3313の歌には棚機津女(たなはたつめ)と乞巧奠(きつこうてん)の行事が混在した状態と推測されますから、歌が詠われたのは飛鳥時代後半以降でしょうか。そして、泊瀬の地名から推測して、奈良の京時代までは下らずに藤原京時代のものでしょうか。 ただし、人麻呂歌集から推定して、集歌3310の歌の世界が示す屋敷を持つような身分の妻問いでは、事前にお互いの家同士で連絡があり、妻問いを受ける女性の方で訪れる男性の使う寝具と枕を準備します。つまり、この歌の世界と実際の当時の貴族たちの生活とは違います。そこで、これらの歌は藤原京時代の宮中での歌垣の一コマである可能性が、高いと思っています。ちょうど、男側の代表が長歌で情景を詠い、その詠い納めに一呼吸置いて反歌で閉めます、その情景を受けて女側の代表が長歌と反歌で返します。そんな受取で一話が終わると、男女の集団で旋頭歌を交換する。そんな情景でしょうか。 3311 奈良,榛原,枕詞 [題詞]反歌 隠来乃 泊瀬小國丹 妻有者 石者履友 猶来々 [こもりくの] はつせをぐにに つましあれば いしはふめども なほしきにけり ・・・・・・・・・・
隠口の泊瀬の小さな里に 妻が住んでいるので でこぼこ石の道を踏んでも それでも通っていることですよ ・・・・・・・・・・ 3312 枕詞,榛原,奈良,拒否,女歌 [題詞] ・・・・・・・・・・
隠口乃ー隠口のー[こもりくの] 長谷小國ー泊瀬小国にーはつせをぐににー泊瀬小国まで 夜延為ーよばひせすーよばひせすー私を婚ばって来られた 吾天皇寸与ー吾が天皇よーわがすめろきよーわがきみよ 奥床仁ー奥床にーおくとこにー奥の部屋では 母者睡有ー母は寐ねたりーはははいねたりー母が寝ています 外床丹ー外床にーとどこにー玄関そばの部屋では 父者寐有ー父は寐ねたりーちちはいねたりー父が寝ています 起立者ー起き立たばーおきたたばー深夜に目を覚ませば 母可知ー母知りぬべしーははしりぬべしー母は気づくでしょう 出行者ー出でて行かばーいでてゆかばー寝室を抜け出そうとすれば 父可知ー父知りぬべしーちちしりぬべしー父も気づくでしょう 野干<玉>之ー[ぬばたまの] 夜者昶去奴ー夜は明けゆきぬーよはあけゆきぬー夜は明けて行きます 幾許雲ーここだくもーこんなにも 不念如ー思ふごとならぬーおもふごとならぬー思い通りにならない 隠つ香聞ー隠り妻かもーこもりづまかもー日陰の身の隠し妻の私なのか ・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 川瀬之 石迹渡 野干玉之 黒馬之来夜者 常二有沼鴨 かはのせの いしふみわたり [ぬばたまの] くろまくるよは つねにあらぬかも ・・・・・・・・・・
川の浅瀬の石を踏み渡り あの方が乗った黒毛の馬が 私を訪れる夜は毎日ではないものか ・・・・・・・・・・ 3314 女歌,恋 [題詞] ・・・・・・・・・・
次嶺經ー[つぎねふ]ー嶺越えの 山背道乎ー山背道をーやましろぢをー山城への道を 人都末乃ー人夫のーひとづまのーよその夫は 馬従行尓ー馬より行くにーうまよりゆくにー馬に乗って行くのに 己夫之ー己夫しーおのづましーわたしの夫は 歩従行者ー徒歩より行けばーかちよりゆけばーただ歩いて行く 毎見ー見るごとにーみるごとにーその姿を見ながら 哭耳之所泣ー音のみし泣かゆーねのみしなかゆー泣きたくなってしまう 曽許思尓ーそこ思ふにーそこおもふにー夫の心情を思うと 心之痛之ー心し痛しーこころしいたしー同行しながら心が痛い 垂乳根乃ーたらちねのー[たらちねの]ー 母之形見跡ー母が形見とーははがかたみとー母の形見として 吾持有ー吾が持てるーわがもてるー私が持っている 真十見鏡尓ーまそみ鏡にーまそみかがみにー真澄の白銅の鏡に 蜻領巾ー蜻蛉領巾ーあきづひれーあきづひれを 負並持而ー負ひ並め持ちてーおひなめもちてー添え持って行って売り 馬替吾背ー馬買へ吾が背ーうまかへわがせーぜひ馬を買いなさいよ 夫よ ・・・・・・・・・・ * 「蜻蛉領巾」(あきつひれ):薄手で美しい領巾 3315 木津川,女歌,恋 [題詞]反歌 泉<川> 渡瀬深見 吾世古我 旅行衣 蒙沾鴨 いづみがは わたりぜふかみ わがせこが たびゆきごろも ひづちなむかも ・・・・・・・・・・
* 「渡り瀬」:徒歩・馬で渡ることができる浅瀬。泉川は渡り瀬が深いので 馬に乗らず歩いて行くあのひとの旅衣は きっと濡れてしまうのでしょうね ・・・・・・・・・・ 3316 女歌 [題詞]或本反歌曰 清鏡 雖持吾者 記無 君之歩行 名積去見者 まそかがみ もてれどわれは しるしなし きみがかちより なづみゆくみれば ・・・・・・・・・・
白銅のまそ鏡なんて立派な鏡を持っていても わたしには何の甲斐もありません 難儀そうに歩む姿をみていると ・・・・・・・・・・ 3317 [題詞] 馬替者 妹歩行将有 縦恵八子 石者雖履 吾二行 うまかはば いもかちならむ よしゑやし いしはふむとも わはふたりゆかむ
・・・・・・・・・・
* 一つの長歌に対して男女の両方から反歌を歌った例は珍しい。わたしが馬を買ったら 今度はきみだけが歩かねばならなくなるじゃないか かまうものか 川の瀬の石を踏もうと構わしないよ わたしはおまえと二人で歩いて行くのがいいんだよ ・・・・・・・・・・ |
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挽歌 3324 奈良,皇子挽歌,献呈挽歌,枕詞 [題詞]挽歌 ・・・・・・・・・・・
<挂>纒毛ーかけまくもー心に思うのさえ 文恐ーあやに畏しーあやにかしこしー畏れおおいが あえて言葉にして申しあげます 藤原ー藤原のーふぢはらのー藤原の 王都志弥美尓ー都しみみにーみやこしみみにー都には 人下ー人はしもーひとはしもー人は 満雖有ー満ちてあれどもーみちてあれどもー満ちあふれて 君下ー君はしもーきみはしもー君と呼ばれる人は 大座常ー多くいませどーおほくいませどー多くおられるが 徃向ー行き向ふーゆきむかふー廻り来る <年>緒長ー年の緒長くーとしのをながくー長い年月 仕来ー仕へ来しーつかへこしー仕え来た 君之御門乎ー君の御門をーきみのみかどをーわが君の御殿 如天ー天のごとーあめのごとー天のように 仰而見乍ー仰ぎて見つつーあふぎてみつつー仰ぎて見ながら 雖畏ー畏けどーかしこけどー畏れおおくも 思憑而ー思ひ頼みてーおもひたのみてー行く末を頼みに思い 何時可聞ーいつしかもー一刻も早く 日足座而ー日足らしましてーひたらしましてー立派に天皇になられて 十五月之ー望月のーもちづきのー満月のように 多田波思家武登ー満しけむとーたたはしけむとー満ち足りてほしいと 吾思ー吾が思へるーわがもへるーわが思いに思ってきた 皇子命者ー皇子の命はーみこのみことはーその皇子のみことは 春避者ー春さればーはるさればー春になれば 殖槻於之ー植槻が上のーうゑつきがうへのー植槻の岡のほとりの 遠人ー遠つ人ー[とほつひと]ー 待之下道湯ー松の下道ゆーまつのしたぢゆー松林の下道を 登之而ー登らしてーのぼらしてー登って 國見所遊ー国見遊ばしーくにみあそばしー国見をなさり 九月之ー九月のーながつきのー九月の 四具礼<乃>秋者ーしぐれの秋はーしぐれのあきはー時雨れ降る秋には 大殿之ー大殿のーおほとののー御殿の 砌志美弥尓ー砌しみみにーみぎりしみみにー石畳いっばいに 露負而ー露負ひてーつゆおひてー露を受けて 靡<芽>乎ー靡ける萩をーなびけるはぎをー靡いている萩を 珠<手>次ー玉たすきー[たまたすき]ー 懸而所偲ー懸けて偲はしーかけてしのはしーしみじみと愛でられ 三雪零ーみ雪降るーみゆきふるー雪降る 冬朝者ー冬の朝はーふゆのあしたはー冬の朝には 刺楊ー刺し柳ーさしやなぎー刺し柳の 根張梓矣ー根張り梓をーねはりあづさをー根がぴんと張ったような梓弓を 御手二ー大御手にーおほみてにー御手に 所取賜而ー取らし賜ひてーとらしたまひてー取って 所遊ー遊ばししーあそばししー猟りをなさった 我王矣ー我が大君をーわがおほきみをーわが頼りとする大君は 烟立ー霞立つー[かすみたつ]ー霞立つ 春日暮ー春の日暮らしーはるのひくらしー春の日を見暮らしても 喚犬追馬鏡ーまそ鏡ー[まそかがみ]ー 雖見不飽者ー見れど飽かねばーみれどあかねばー見飽きぬほど立派だった 万歳ー万代にーよろづよにーいついつまでも 如是霜欲得常ーかくしもがもとーかくあれかしと願い 大船之ー大船のー[おほぶねの]ー 憑有時尓ー頼める時にーたのめるときにー頼みにしてきたのに 涙言ー泣く我れーなくわれーあまりの知らせに泣きはらすわれ 目鴨迷ー目かも迷へるーめかもまとへるーわが目が狂ったかと 大殿矣ー大殿をーおほとのをー御殿を 振放見者ー振り放け見ればーふりさけみればー仰ぎ見れば 白細布ー白栲にー[しろたへに]ー 餝奉而ー飾りまつりてーかざりまつりてー喪の白栲がはりめぐらされ 内日刺ー[うちひさす]ー 宮舎人方ー宮の舎人もーみやのとねりもー宮の舎人も [一云 者]ー[一云 は]ー[は]ー 雪穂ー栲のほのー[たへのほの]ー 麻衣服者ー麻衣着ればーあさぎぬければー麻衣の喪服を着ている 夢鴨ー夢かもーいめかもー夢か 現前鴨跡ーうつつかもとーうつつかと 雲入夜之ー曇り夜のーくもりよのーやみ夜のように 迷間ー迷へる間にーまとへるほどにー惑っている間に 朝裳吉ー[あさもよし]ー 城於道従ー城上の道ゆーきのへのみちゆーもがりの城上の道より 角障經ー[つのさはふ]ー 石村乎見乍ー磐余を見つつーいはれをみつつー磐余をめざして 神葬ー神葬りー[かむはぶり]ー神として 々奉者ー葬りまつればーはぶりまつればー葬り祀れば 徃道之ー行く道のーゆくみちのー道に立っても 田付○不知ーたづきを知らにーたづきをしらにー方角もわからなく 雖思ー思へどもーおもへどもーどう思っても 印手無見ー験をなみーしるしをなみーかいがなく 雖歎ー嘆けどもーなげけどもー嘆いても 奥香乎無見ー奥処をなみーおくかをなみーきりがなく 御袖ー大御袖ーおほみそでーお袖が 徃觸之松矣ー行き触れし松をーゆきふれしまつをー国見の折に行き触れた松を 言不問ー言問はぬーこととはぬー物言わぬ 木雖在ー木にはありともーきにはありともー木ではあるが 荒玉之ー[あらたまの]ー 立月毎ーたつつきごとにー月がかわるごとに 天原ー天の原ー[あまのはら]ー 振放見管ー振り放け見つつーふりさけみつつー点を仰ぎ見ながら 珠手次ー玉たすきー[たまたすき]ー 懸而思名ー懸けて偲はなーかけてしのはなー偲ぶばかり 雖恐有ー畏くあれどもーかしこくあれどもー畏れおおいながら ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 角障經 石村山丹 白栲 懸有雲者 皇可聞 [つのさはふ] いはれのやまに [しろたへに] かかれるくもは おほきみにかも ・・・・・・・・・・・
磐余の山に 喪の白栲のように 懸っている雲は あれは今は亡き 大君の霊魂なのかもしれない ・・・・・・・・・・・ 3326 奈良,皇子挽歌,枕詞 [題詞] ・・・・・・・・・・・
礒城嶋之ー礒城島のー[しきしまの]ー 日本國尓ー大和の国にーやまとのくににー国の都なるこのヤマト 何方ーいかさまにー何と 御念食可ー思ほしめせかーおもほしめせかー思われたのか 津礼毛無ーつれもなきーゆかりもない 城上宮尓ー城上の宮にーきのへのみやにー城上の宮に 大殿乎ー大殿をーおほとのをーその御殿に 都可倍奉而ー仕へまつりてーつかへまつりてー 殿隠ー殿隠りーとのごもりー殯の宮を 々座者ー隠りいませばーこもりいませばーお隠れになっていらっしゃるので 朝者ー朝にはーあしたにはー 召而使ー召して使ひーめしてつかひー 夕者ー夕にはーゆふへにはー 召而使ー召して使ひーめしてつかひー 遣之ー使はししーつかはししー朝夕召し使っておられた 舎人之子等者ー舎人の子らはーとねりのこらはー舎人達は 行鳥之ー行く鳥のー[ゆくとりの]ー 群而待ー群がりて待ちーむらがりてまちー鳥のように群がって 有雖待ーあり待てどーありまてどーはべっているけれど 不召賜者ー召したまはねばーめしたまはねばーお召しがないので 劔刀ー剣大刀ー[つるぎたち]ー 磨之心乎ー磨ぎし心をーとぎしこころをー張りつめていた気持も 天雲尓ー天雲にー[あまくもに]ー天雲のように 念散之ー思ひはぶらしーおもひはぶらしーちりぢりになってしまって 展轉ー臥いまろびーこいまろびー伏し悶え 土打哭杼母ーひづち哭けどもーひづちなけどもー泣き濡れても 飽不足可聞ー飽き足らぬかもーあきだらぬかもー悲しみは 晴れることがありません ・・・・・・・・・・・ 3327 美努王,譬喩,皇子挽歌 [題詞] ・・・・・・・・・・・
百小竹之ー百小竹のー[ももしのの]ー 三野王ー三野の王ーみののおほきみー美努王が 金厩ー西の馬屋にーにしのうまやにー西の厩に 立而飼駒ー立てて飼ふ駒ーたててかふこまー飼っている馬も 角厩ー東の馬屋にーひむがしのうまやにー東の厩に 立而飼駒ー立てて飼ふ駒ーたててかふこまー飼っている馬も 草社者ー草こそばーくさこそばー草を 取而飼<曰戸>ー取りて飼ふと言へーとりてかふといへー取ってあたえた餌はあるのに 水社者ー水こそばーみづこそばー水は ○而飼<曰戸>ー汲みて飼ふと言へーくみてかふといへー汲んであたえた水があるのに 何然ー何しかもーなにしかもーなぜ 大分青馬之ー葦毛の馬のーあしげのうまのー葦毛の馬は 鳴立鶴ーいなき立てつるーいなきたてつるーいなないているのだろう ・・・・・・・・・・・ [題詞]反歌 衣袖 大分青馬之 嘶音 情有鳧 常従異鳴 [ころもで] あしげのうまの いなくこゑ こころあれかも つねゆけになく
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白毛交じりの葦毛の馬がいななく声は 主人の死を悲しむ心のためか ふだんと違う様子でいなないているよ ・・・・・・・・・・・ |
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3329 枕詞 [題詞] ・・・・・・・・・・・
白雲之ー白雲のーしらくものー白雲が 棚曳國之ーたなびく国のーたなびくくにのー棚引く国の 青雲之ー青雲のーあをくものー青い雲が 向伏國乃ー向伏す国のーむかぶすくにのー地平線に懸かる国の 天雲ー天雲のーあまくものー天雲の 下有人者ー下なる人はーしたなるひとはー下に住む人は 妾耳鴨ー我のみかもーあのみかもー私だけなのでしょうか 君尓戀濫ー君に恋ふらむーきみにこふらむー君に恋した 吾耳鴨ー吾のみかもーあのみかもー私だけが 夫君尓戀礼薄ー君に恋ふればーきみにこふればー君を慕っているからか 天地ー天地にーあめつちにー天と地の 満言ー言を満ててーことをみててー神に誓いを立てて 戀鴨ー恋ふれかもーこふれかもー恋慕っているからか ○之病有ー胸の病みたるーむねのやみたるー胸が病んでいるような 念鴨ー思へかもーおもへかもー重苦しい想いからか 意之痛ー心の痛きーこころのいたきー心が疼く 妾戀叙ー我が恋ぞーあがこひぞーわが恋であることよ 日尓異尓益ー日に異にまさるーひにけにまさるー慕情は日々に益してくる 何時橋物ーいつはしもーいつといって 不戀時等者ー恋ひぬ時とはーこひぬときとはー恋慕わない時 不有友ーあらねどもーあらねどもー はないのだけれど 是九月乎ーこの九月をーこのながつきをーこの九月を 吾背子之ー吾が背子がーわがせこがー愛しい人の 偲丹為与得ー偲ひにせよとーしのひにせよとー思い出にしなさいと 千世尓物ー千代にもーちよにもー千代に渡って 偲渡登ー偲ひわたれとーしのひわたれとー偲びなさい 万代尓ー万代にーよろづよにー万代に 語都我部等ー語り継がへとーかたりつがへとー語り継なぎなさいと 始而之ー始めてしーはじめてしー語らい始めた 此九月之ーこの九月のーこのながつきのーこの九月が 過莫呼ー過ぎまくをーすぎまくをー過ぎようとしているのを 伊多母為便無見ーいたもすべなみーなんとも仕方がない 荒玉之ー[あらたまの]ー 月乃易者ー月の変ればーつきのかはればー月が変わると 将為須部乃ー為むすべのーせむすべのー喪の物忌みをすませ弔うことも出来なくなって どうしたらよいのか 田度伎乎不知ーたどきを知らにーたどきをしらにーなすすべも思いつかず 石根之ー岩が根のー[いはがねの]ー岩山の 許凝敷道之ーこごしき道のーこごしきみちのー荒々しい険しい道を 石床之ー岩床のー[いはとこの]ー 根延門尓ー根延へる門にーねばへるかどにー岩に根が生え延びる門から 朝庭ー朝にはーあしたにはー朝には 出座而嘆ー出で居て嘆きーいでゐてなげきー家から出ては嘆き 夕庭ー夕にはーゆふへにはー夕べには 入座戀乍ー入り居恋ひつつーいりゐこひつつー家に戻って想い出し 烏玉之ー[ぬばたまの]ー 黒髪敷而ー黒髪敷きてーくろかみしきてー黒髪を床に流して 人寐ー人の寝るーひとのぬるー人が寝るように 味寐者不宿尓ー味寐は寝ずにーうまいはねずにー恋人と寝るような楽しく寝ることが出来ずに 大船之ー大船のー[おほぶねの]ー 行良行良尓ーゆくらゆくらにーゆらゆら揺れるように 思乍ー思ひつつーおもひつつー揺れる気持ちで思いながら 吾寐夜等者ー吾が寝る夜らはーわがぬるよらはー私が寝る夜を 數物不敢<鴨>ー数みもあへぬかもーよみもあへぬかもー数えることは出来ないでしょう ・・・・・・・・・・・ 3330 榛原,桜井,奈良,亡妻歌 [題詞] ・・・・・・・・・・・
隠来之ー隠口のー[こもりくの]ー 長谷之川之ー泊瀬の川のーはつせのかはのー泊瀬の川の 上瀬尓ー上つ瀬にーかみつせにー川上の瀬に 鵜矣八頭漬ー鵜を八つ潜けーうをやつかづけー鵜を沢山潜らせて 下瀬尓ー下つ瀬にーしもつせにー川下の瀬でも 鵜矣八頭漬ー鵜を八つ潜けーうをやつかづけー鵜を沢山潜らせて 上瀬之ー上つ瀬のーかみつせのー川上の瀬では <年>魚矣令咋ー鮎を食はしめーあゆをくはしめー上流の<年>魚をくわえさせ 下瀬之ー下つ瀬のーしもつせのー川下の瀬でも 鮎矣令咋ー鮎を食はしめーあゆをくはしめー下流のアユをくわえさせ 麗妹尓ーくはし妹にーくはしいもにー麗しい妻に 鮎遠惜ー鮎を惜しみーあゆををしみー食べさせる鮎を逃すのが惜しく <麗妹尓 鮎矣惜>ーくはし妹に鮎を惜しみーくはしいもにあゆををしみー麗しい妻に食べさせたいあゆなのに 投左乃ー投ぐるさのーなぐるさのー 鮎を逃さないように放った矢は 遠離居而ー遠ざかり居てーとほざかりゐてー水に流れて遠ざかって行ったようにあの世へ遠ざかり 思空ー思ふそらーおもふそらー亡き妻を思う 不安國ー安けなくにーやすけなくにー貴女を想う気持ちは穏やかでなく 嘆空ー嘆くそらーなげくそらー嘆いてみても 不安國ー安けなくにーやすけなくにー気持は穏やかでないので 衣社薄ー衣こそばーきぬこそばーこれが衣ならば 其破者ーそれ破れぬればーそれやれぬればー破けたら <継>乍物ー継ぎつつもーつぎつつもー縫い合わせれば 又母相登言ーまたも合ふといへーまたもあふといへーまた裂け目は合うといい 玉社者ー玉こそばーたまこそばー真珠ならば 緒之絶薄ー緒の絶えぬればーをのたえぬればー紐が切れれば 八十一里喚鶏ーくくりつつー括って結びなおせば 又物逢登曰ーまたも合ふといへーまたもあふといへーまた結び合うと云うのに 又毛不相物者ーまたも逢はぬものはーまたもあはぬものはー再び逢うことがないのは ○尓志有来ー妻にしありけりーつまにしありけりー妻だけなのでしょうか ・・・・・・・・・・・ 3331 桜井,奈良,亡妻歌,歌謡,山讃美 [題詞] ・・・・・・・・・・・
隠来之ー隠口のー[こもりくの]ー 長谷之山ー泊瀬の山ーはつせのやまー泊瀬の山と 青幡之ー青旗のー[あをはたの]ー青い葬旗の 忍坂山者ー忍坂の山はーおさかのやまはー忍坂の山は 走出之ー走出のーはしりでのー稜線がなだらかに続く 宜山之ーよろしき山のーよろしきやまのー流麗なる山 出立之ー出立のーいでたちのー山の外見だけではなく 妙山叙ーくはしき山ぞーくはしきやまぞー美しい山だ 惜ーあたらしきー亡妻の眠るその<「あたら・し」[形シク]それに相当するだけの価値がある、というところから、そのままにしておくには惜しいほどりっぱだ。すばらしい。>あたら惜しい山が 山之ー山のーやまのー墓地には 荒巻惜毛ー荒れまく惜しもーあれまくをしもー人が通わなくなり山が荒れていいくのは惜しいことだ ・・・・・・・・・・・ [題詞] たかやまと うみとこそば やまながら かくもうつしく うみながら しかまことならめ ひとははなものぞ うつせみよひと
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高山と海こそは 山はこのように現実にあり 海としてあるがまま真実に存在する ただ人は花のようにはかない はかないのは世の人間である ・・・・・・・・・・・ |


