ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第十四巻

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3551東歌,相聞,恋,女歌,序詞,浮気

[題詞]

阿遅可麻能 可多尓左久奈美 比良湍尓母 比毛登久毛能可 加奈思家乎於吉弖

阿遅可麻の 潟にさく波 平瀬にも 紐解くものか 愛しけを置きて 

[あぢかまの かたにさくなみ ひらせにも] ひもとくものか かなしけをおきて
・・・・・・・
川の流れがゆるやかで
波がたたない水面の平らな瀬で 
愛しい者を家に置いているのに
紐を解くことがあろうか
・・・・・・・
(あじかまの潟に咲く波の花 深い義理でもない相手に 紐を解くことよ いとしい人をさておいて)<旅人>
* 「かなしけ」愛。〔形〕「かなし」の連体形「かなしき」の上代東国方言。いとしい(こと・もの)。




サ3552東歌,相聞,宮城県,福島県,うわさ,恋,女歌

[題詞]

麻都我宇良尓 佐和恵宇良太知 麻比<登>其等 於毛抱須奈母呂 和賀母抱乃須 

まつが浦に さわゑうら立ち ま人言 思ほすなもろ 吾が思ほのすも 

[まつがうらに さわゑうらだち] まひとごと おもほすなもろ わがもほのすも
・・・・・・
松が浦に潮騒が群がり騒ぐように

人の噂はうるさいけれど

きっとあの方は私のことを

かわらずお思いになってくださっている

私があなたを愛しく思うように
・・・・・・
* 「さわ・は」低地の沢・渓谷・谷川。
* 「ゑ」(間助)上代語。嘆息を表す。・・よ。
* 「さわゑ」騒いで。
* 「うらだち」群がり立って。
* 「うら」には、「群」・「末」・「浦」・「占」などの意がある。
* 「ま」接頭語。
* 「人言」は、人の言う言葉・うわさ・世間の評判など。
* 「おもほす」他サ四「思ふ」の未然形に上代の尊敬の助動詞「す」の付いた「おもはす」の転。「思う」の尊敬語。お思いになる。
* 「なも」推量の助動詞。(係助)上代語。強く指示する意を表す。他に対してのあつらえの意を表す・・して欲しい。
* 「ろ」上代間助として感動を表す。・・よ。
* 「なも‐ろ」 [連語]推量の助動詞「なも」+間投助詞「ろ」。上代東国方言》…ているだろうよ。
* 「吾が思ほのすも」
* 「のす」(接尾)上代東国方言。「似る」と同源。・・のように。
* 「も」詠嘆。




3553東歌,相聞,愛知県,序詞,うわさ,恋

[題詞]

安治可麻能 可家能水奈刀尓 伊流思保乃 許弖多受久毛可 伊里弖祢麻久母

あじかまの 可家の港に 入る潮の こてたずくもが 入りて寝まくも 

[あぢかまの かけのみなとに いるしほの] こてたずくもが いりてねまくも
あぢ鴨の棲む可家川の

入江に入る潮が緩やかなように

ひとの噂がおさまったら 

あの子の寝床を訪れてかき抱こうものを
http://blogs.yahoo.co.jp/kairouwait08/29762332.html


3554東歌,相聞,恋

[題詞]

伊毛我奴流 等許<能>安多理尓 伊波具久留 水都尓母我毛与 伊里弖祢末久母

妹が寝る 床のあたりに 岩ぐくる 水にもがもよ 入りて寝まくも 

いもがぬる とこのあたりに [いはぐくる] みづにもがもよ いりてねまくも
あの娘が寝る床の周りは堅城鉄壁だが

岩をくぐる水になれれば部屋に潜り込めるだろう

さっそく布団の中に入って大願成就なりさ

みづにもがもよ みづにもがもよ



3555東歌,相聞,茨城県,古河,序詞,うわさ,恋

[題詞]

麻久良我乃 許我能和多利乃 可良加治乃 於<登>太可思母奈 宿莫敝兒由恵尓

麻久良我の 許我の渡りの 韓楫の 音高しもな 寝なへ子ゆゑに 

[まくらがの] こがのわたりの からかぢの] おとだかしもな ねなへこゆゑに
麻久良我の許我の渡し場に響き渡る

韓楫の音の高さよ 

そのように噂が高い訳がわからない 

だってそうだろ 相手の女性とは

なんの関わりもないのだから




3556東歌,相聞,枕詞,恋,うわさ

[題詞]

思保夫祢能 於可礼婆可奈之 左宿都礼婆 比登其等思氣志 那乎杼可母思武

潮船の 置かれば愛し さ寝つれば 人言繁し 汝をどかもしむ 

[しほぶねの] おかればかなし さねつれば ひとごとしげし なをどかもしむ
潮船に乗らねばわが恥 きみは悲しむ

潮船に乗られねば君の恥 わが苦しみ

潮船に二人で乗れば二人の恥 世間の餌食

君をなんとしよう



3557東歌,相聞,序詞,恋

[題詞]

奈夜麻思家 比登都麻可母与 許具布祢能 和須礼波勢奈那 伊夜母比麻須尓

悩ましけ 人妻かもよ 漕ぐ舟の 忘れはせなな いや思ひ増すに 

[なやましけ ひとづまかもよ こぐふねの] わすれはせなな いやもひますに
悩ましげにするあの娘は人妻

人妻との恋は禁忌なんだ

いけないんだよ

漕ぐ舟が去るように消えてくれ

思いをつのらせる困った女よ
* 「悩ましけ」は「悩ましき」の東国訛り。
* 「かもよ」は、助詞「かも」・「よ」が結び付き、詠嘆の意をあらわす。
* 「よ」は強調の終助詞 「や」と同じく元来は掛け声に由来する語であろうか。のち間投助詞としてはたらくようになり、文末にも用いられるようになった。意を強めるはたらきをする。
 聞き手に対し、同意を求めたり念を押したりする気持をあらわす。のち、詠嘆的な用法にも使われる。現代口語で「〜だよ」などと言う時の「よ」、女言葉の「〜よ」に繋がっている。
* 「よ」は、格助詞、上代語。動作・作用の時間的・空間的な起点を表す。・・から。 経過する場所を示して、・・を通って。 比較の基準、・・より。 手段・方法、・・で。
 体言・活用語の連体形につく。
1.詠嘆・感動。
2.呼びかけ。
3.命令の意志を確かめる。
4.強く指示する。
5.告示の気持ちを表す。



3558東歌,相聞,茨城県,古河,遊行女婦,女歌

[題詞]

安波受之弖 由加婆乎思家牟 麻久良我能 許賀己具布祢尓 伎美毛安波奴可毛

逢はずして 行かば惜しけむ 麻久良我の 許我漕ぐ船に 君も逢はぬかも 

あはずして ゆかばをしけむ [まくらがの] こがこぐふねに きみもあはぬかも
会わないまま都に行かせるのは惜しい

古河を漕ぐ船の中ででも会えないものか




3559東歌,相聞,序詞,うわさ,恋

[題詞]

於保夫祢乎 倍由毛登母由毛 可多米提之 許曽能左刀妣等 阿良波左米可母

大船を 舳ゆも艫ゆも 堅めてし 許曽の里人 あらはさめかも 

[おほぶねを へゆもともゆも かためてし] こそのさとびと あらはさめかも
大船を舳先も艫も綱で固く結んだように

固く契った二人のことは

許曽の里人も顕にすることはないでしょう




3560東歌,相聞,奈良,吉野,岐阜,序詞,うわさ,恋

[題詞]

麻可祢布久 尓布能麻曽保乃 伊呂尓R<弖> 伊波奈久能未曽 安我古布良久波

ま金ふく 丹生のま朱の 色に出て 言はなくのみぞ 吾が恋ふらくは 

まかねふく にふのまそほの いろにでて いはなくのみぞ あがこふらくは
鉄を精錬する炎のように

水銀の湧く赤土のように

顔色に出して言わないだけだ

私の恋する思いは




3561東歌,相聞,序詞,恋,女歌

[題詞]

可奈刀田乎 安良我伎麻由美 比賀刀礼婆 阿米乎万刀能須 伎美乎等麻刀母

金門田を 荒垣ま斎み 日が照れば 雨を待とのす 君をと待とも 

[かなとだを あらがきまゆみ] ひがとれば あめをまとのす きみをとまとも
門のそばの田の荒垣を慎み清めて

日が照れば雨を待つように

貴方をお待ちしていますとも
* 「かなと‐だ」金門田〔名〕金門(かなと)の近くにある田。門のそばの田。門田(かどた)。
* 「のす」(接尾) 上代東国方言。・・のように。



3562東歌,相聞,序詞,恋,孤独

[題詞]

安里蘇夜尓 於布流多麻母乃 宇知奈婢伎 比登里夜宿良牟 安乎麻知可祢弖

荒礒やに 生ふる玉藻の うち靡き ひとりや寝らむ 吾を待ちかねて 

[ありそやに おふるたまもの うちなびき] ひとりやぬらむ あをまちかねて
荒礒に生える藻が波に靡くように

黒髪を床に靡かせて独り寝しているだろうなあ

私を待ちかねながら



3563東歌,相聞,茨城県,序詞,恋

[題詞]

比多我多能 伊蘇乃和可米乃 多知美太要 和乎可麻都那毛 伎曽毛己余必母

比多潟の 礒のわかめの 立ち乱え 吾をか待つなも 昨夜も今夜も 

[ひたがたの いそのわかめの たちみだえ] わをかまつなも きぞもこよひも
比多潟の磯のわかめが立ち揺らぐように

思い乱れて私を待っているだろうか

ゆうべも今夜も




3564東歌,相聞,東京都,小菅町,恋

[題詞]

古須氣呂乃 宇良布久可是能 安騰須酒香 可奈之家兒呂乎 於毛比須吾左牟

古須気ろの 浦吹く風の あどすすか 愛しけ子ろを 思ひ過ごさむ 

こすげろの うらふくかぜの あどすすか かなしけころを おもひすごさむ
古須気の

浦吹く風でも

なんとしても

わが愛しい娘への思いを  

吹き流せはしない
* 「あど」上代東国方言。なんと・如何に。
* 「すす」上代東国方言。しつつ、しながら。(サ変「す」の終止形を重ねたもの。)
* 「こ‐ろ」子等。 「ろ」は接尾語。上代東国方言。「こら(子等)」に同じ。



3565東歌,相聞,長野県,恋

[題詞]

可能古呂等 宿受夜奈里奈牟 波太須酒伎 宇良野乃夜麻尓 都久可多与留母

かの子ろと 寝ずやなりなむ はだすすき 宇良野の山に 月片寄るも 

かのころと ねずやなりなむ はだすすき うらののやまに つくかたよるも
あの娘と今夜は寝られないかも

はだ薄の揺れている宇良野の山に

もう月が傾いてしまった




3566東歌,相聞,恋

[題詞]

和伎毛古尓 安我古非思奈婆 曽和敝可毛 加未尓於保世牟 己許呂思良受弖

吾妹子に 吾が恋ひ死なば そわへかも 神に負ほせむ 心知らずて 

わぎもこに あがこひしなば そわへかも かみにおほせむ こころしらずて
妻に恋い焦がれておれが死んだら

死神は運命だと言うだろう

そのむくいを心なしな

神様におわそう

だれもおれの心は知らない


14 3567;東歌,相聞,恋,出発

[題詞]防人歌

[左注](右二首<問>答)

於伎弖伊可婆  伊毛婆麻可奈之  母知弖由久  安都佐能由美乃  由都可尓母我毛

置きて行かば 妹はま愛し 持ちて行く 梓の弓の 弓束にもがも

おきていかば いもはまかなし もちてゆく あづさのゆみの ゆづかにもがも

・・・・・・・・・
おいてゆくには妻はしんから愛しい
持ってゆく梓弓の弓束であればいいのに
・・・・・・・・・
* 「ば」は、未然形に接続し、順接の仮定条件を示す。「(もし)〜ならば」。




3568東歌,相聞,女歌,恋,出発

[題詞]

於久礼為弖  古非波久流思母  安佐我里能  伎美我由美尓母  奈良麻思物能乎

後れ居て 恋ひば苦しも 朝猟の 君が弓にも ならましものを 

おくれゐて こひばくるしも あさがりの きみがゆみにも ならましものを
・・・・・・・・・
残されてどうすればいいのかつらい
朝狩のあなたの弓にでもなれないものか
・・・・・・・・・



3569東歌,相聞,防人,出発,旅,望郷,恋

[題詞]

佐伎母理尓  多知之安佐氣乃  可奈刀○尓  手婆奈礼乎思美  奈吉思兒良<波>母

防人に 立ちし朝開の 金門出に たばなれ惜しみ 泣きし子らはも 

さきもりに たちしあさけの かなとでに たばなれをしみ なきしこらはも

・・・・・・・・・
防人にたつ夜明けのかどでで
別れを惜しみ門で泣いた妻よ
私の心は今も張り裂けそうだよ
・・・・・・・・・

* 「子ら」はここでは単数。
* 「かなとで」は かどで。
* 「たばなれ」は手離れ、別れること。
* 「はも」は終助詞「は」に終助詞「も」がついて強い詠嘆を表す。




14 3570;東歌,相聞,望郷,恋

[題詞]

安之能葉尓  由布宜里多知弖  可母我鳴乃  左牟伎由布敝思  奈乎波思努波牟

葦の葉に 夕霧立ちて 鴨が音の 寒き夕し 汝をば偲はむ

あしのはに ゆふぎりたちて かもがねの さむきゆふへし なをばしのはむ

・・・・・・・・・
夕暮れの霧で葦の葉もかすむ難波
どこからか聞こえる鴨の声も寒々しい
遠いおまえのことをまた思い出しては
寂しさを耐え忍ぶ自分であることよ
・・・・・・・・・

* 「し」間助、語調・強意。
* 防人は、663年に百済救済のために出兵した白村江の戦いで唐・新羅連合軍に敗れたのを機に、北九州沿岸の防衛のため、軍防令が発せられて設置された。大宰府に防人司(さきもりのつかさ)が置かれ、諸国の軍団の兵士の中から選抜、難波に集結後、各地に配属された。定員は約1000名、勤務期間は3年とされた。





3571東歌,相聞,防人,望郷,不安,恋

[題詞]

於能豆麻乎  比登乃左刀尓於吉  於保々思久  見都々曽伎奴流  許能美知乃安比太

己妻を 人の里に置き おほほしく 見つつぞ来ぬる この道の間 

おのづまを ひとのさとにおき おほほしく みつつぞきぬる このみちのあひだ

・・・・・・・・・・
自分の妻なのに
よその里に置き去りにして来た
気がかりで振返っても
ただ隔たるばかり
防人としての別れも告げず
この道は果てしのない
非情の道になってしまうのだろうか
・・・・・・・・・・
* 「を」逆接条件を示す。「〜のに」。
* 「おほほし」は形容詞シク活用、心が晴れない、おぼろげである、憂鬱である意。
おほほ・し  形容詞シク活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}
ぼんやりしている。おぼろげだ。
心が晴れない。うっとうしい。
聡明(そうめい)でない。◆「おぼほし」「おぼぼし」とも。上代語。
* 「おき」他動詞カ行四段活用{か/き/く/く/け/け}
「置く」の連用形。
(そのままにして)ほうっておく。
「うち」が付けばそれは接頭語。
* 「ぬ」助動詞ナ変型《接続》活用語の連用形に付く。
〔完了〕…てしまった。…てしまう。…た。
〔確述〕きっと…だろう。間違いなく…はずだ。
▽多く、「む」「らむ」「べし」など推量の意を表す語とともに用いられて、その事態が確実に起こることを予想し強調する。
〔並列〕…たり…たり。▽「…ぬ…ぬ」の形で、動作が並行する意を表す。
///
ぬ 【寝】自動詞ナ行下二段活用{ね/ね/ぬ/ぬる/ぬれ/ねよ}
寝る。眠る。横になる。
* 「来ぬ・る」に強意「ぞ」を受けて連体止。
///
* 「む」の基本的な意味は推量(〜だろう)または意志(〜しよう、 〜するつもりだ)、「来るだろう」または「来るつもりだ」。
○推量
物事の状態・程度や他人の心中などをおしはかること。
○推定
ある事実を手がかりにしておしはかって決めること。
○推測
ある事柄をもとにして物事の状態・程度や他人の心中などをおしはかること。
///
<chi**kokkk>さんのところより。
https://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/28215987.html?type=folderlist
この5首は、巻20の防人歌→天平勝宝 7(755)より、一時代早い歌。
♪置きて行かば 妹ばま愛(かな)し 持ちて行く 梓の弓の 弓束(ゆづか)にもがも             (万葉集・巻14・3567)
(家に残して行ったら、お前さんのことはこの先かわいくってたまらないだろう。せめて握り締めて行く、この梓の弓の弓束であってくれたらなあ)
♪後れ居て 恋ひば苦しも 朝猟(あさがり)の 君が弓にも ならましものを      (万葉集・巻14・3568)
(あとに残されていて 恋い焦がれるのは苦しくてたまりません。毎朝猟にお出かけの あなたがお持ちの弓にでもなりたいものです)
防人夫婦の悲別歌。
夫は、弓を妻そのものとして、握って行けたらなあ、と詠う。
巻20の防人歌にも、花だったら捧げ持って行こうとか、玉だったら髪に巻いて行こうという歌がある。
妻は、「持ちて行く弓」ではなく、夫が毎朝握り持つ猟の弓「朝猟の弓」になりたい、と詠う。
夫が遠い筑紫に行くのは、やんやん!朝猟の弓がいい!と、引き止めている。
♪防人に 立ちし朝明(あさけ)の かな門出(とで)に 手離れ惜しみ 泣きし子らばも   (万葉集・巻14・3569)
(防人に 出で立った夜明けの 門出の時に、この私から離れるのをせつながって 泣いた子、ああ)
♪葦の葉に 夕霧立ちて 鴨が音(ね)の 寒き夕(ゆふへ)し 汝(な)をば偲はむ      (万葉集・巻14・3570)
(葦の葉群れ 一面に夕霧が立ちこめ、鴨の鳴き声が 寒々と聞こえてくる夕べ、そんな夕暮れ時には  あなたのことがひとしお偲ばれることだろう)
防人は、いったん難波に集合し、そこから海路で任地に向かった。
この歌は、その難波の夕景を、先取りして別れの歌を詠んだもの。
難波は、葦の名所で、先輩防人から、難波の様子を聞いていたのかも。
歌いっぷりから、ヒラの防人ではなく、「国造丁」(くにのみやつこのちやう)かも。
大化改新以前の世襲の地方族長を、「国造」という。
改新後は、ほとんど「郡司」に任じられた。
地方豪族の家から出た防人が、「国造丁」だった。
♪己妻(おのづま)を 人の里に置き おほほしく 見つつぞ来むる この道の間         (万葉集・巻14・3571)
(この俺の妻なのに、その妻を、よその村里に置き去りにしたまま、うつうつと見返り見返り俺はやって来た。この道中を、ずっと。)
妻はよその村の人だったらしい。
だから、お別れがいえなかったらしい。(/_;)
防人の各人各様の別れが・・・むむう・・・<了>




譬喩歌
(心情を表に出さず、隠喩(いんゆ)的に詠んだ歌。多くは恋愛感情を詠む。)




3572東歌,譬喩歌,茨城県,子飼山,婚姻

[題詞]譬喩歌

安杼毛敝可 阿自久麻<夜>末乃 由豆流波乃 布敷麻留等伎尓 可是布可受可母

あど思へか 阿自久麻山の 弓絃葉の ふふまる時に 風吹かずかも 

あどもへか あじくまやまの ゆづるはの ふふまるときに かぜふかずかも

・・・・・・・・・・・
どう思っているのかな
阿自久麻山のゆずりはの莢(さや)が
これから美しく開く頃だが
いつ風が吹くか分からない
いつどこの誰かに言い寄られるかもしれないぞ
心配はないのかい
・・・・・・・・・・・

*「弓弦葉ゆづるは」は「譲葉ゆずりは」のこと。



3573東歌,譬喩歌,植物,婚姻

[題詞]

安之比奇能 夜麻可都良加氣 麻之波尓母 衣我多奇可氣乎 於吉夜可良佐武

あしひきの 山かづらかげ ましばにも 得がたきかげを 置きや枯らさむ 

[あしひきの] やまかづらかげ ましばにも えがたきかげを おきやからさむ

・・・・・・・・・・・
めったに得られない日陰葛を
そのまま大事にして枯らすのか
深窓の麗人も
年月を経れば老婆になってしまうのに
ご両親よ
・・・・・・・・・・・



3574東歌,譬喩歌,婚姻

[題詞]

乎佐刀奈流 波奈多知波奈乎 比伎余治弖 乎良無登須礼杼 宇良和可美許曽

小里なる 花橘を 引き攀ぢて 折らむとすれど うら若みこそ 

をさとなる はなたちばなを ひきよぢて をらむとすれど うらわかみこそ

・・・・・・・・・・・
里にある花橘をつかんで引っ張り
折るつもりが
こずえがあまりにも若々しくなよやかなので
だれかにその気にさせてもらいたいものだ
・・・・・・・・・・・

* 「お‐さと」[を:]小里。〔名〕(「お」は接頭語)里。
* 「うら」植物の葉や枝の先。こずえ。うれ。
* 「うら若み」若々しいので。若々しくなよやかなので。



3575東歌,譬喩歌,恋

[題詞]

美夜自呂乃 <須>可敝尓多弖流 可保我波奈 莫佐吉伊<R>曽祢 許米弖思努波武

美夜自呂の すかへに立てる かほが花 な咲き出でそね こめて偲はむ 

みやじろの すかへにたてる かほがはな なさきいでそね こめてしのはむ

・・・・・・・・・・・
美夜自呂の砂地に立っている顔花のように
目立って咲いたりはしないよ
偲ぶようにして思っているからね
・・・・・・・・・・・



14 3576東歌,譬喩歌,植物,恋

[題詞]

奈波之呂乃 <古>奈宜我波奈乎 伎奴尓須里 奈流留麻尓末仁 安是可加奈思家

苗代の 小水葱が花を 衣に摺り なるるまにまに あぜか愛しけ 

なはしろの こなぎがはなを きぬにすり なるるまにまに あぜかかなしけ

・・・・・・・・・・・
苗代田で育てている
小水葱の花を
衣にこすり付けたら
着慣れるにつれて
愛しくなってくる
・・・・・
大切に育てられた娘さんを妻にした
新婚当時は気恥ずかしかったが
月日を経るにつれ
愛しくてたまらない
・・・・・・・・・・・






挽歌




3577東歌,挽歌,恋,後悔

[題詞]挽歌

可奈思伊毛乎 伊都知由可米等 夜麻須氣乃 曽我比尓宿思久 伊麻之久夜思母

愛し妹を いづち行かめと 山菅の 背向に寝しく 今し悔しも 

かなしいもを いづちゆかめと [やますげの] そがひにねしく いましくやしも

・・・・・・・・・・・
愛しい妻が何処へ行くことがあろうかと
山菅の葉のように
背中合わせで寝てしまったこともあった
つまらない事で喧嘩して
今は後悔がつのって辛いばかりだよ
・・・・・・・・・・・


<巻14完>
14 3576 東歌,譬喩歌,植物,恋情

[題詞]

[左注]

[原文]
奈波之呂乃 <古>奈宜我波奈乎 伎奴尓須里 奈流留麻尓末仁 安是可加奈思家

[訓読]
苗代の 小水葱が花を 衣に摺り なるるまにまに あぜか愛しけ 

なはしろの こなぎがはなを きぬにすり なるるまにま にあぜかかなしけ

苗代田で育てている
小水葱の花を
衣にこすり付けたら
着慣れるにつれて
愛しくなってくる
・・・・・
大切に育てられた娘さんを妻にした
新婚当時は気恥ずかしかったが
月日を経るにつれ
愛しくてたまらない

* 「苗代(なわしろ)」は、稲の籾(もみ)を発芽させて、田植えができるようになるまで苗(なえ)を育てるところのこと。豊富な水が必要で、湧き水や、川の水を引いて苗代にした。
* 「こ‐なぎ」 【小▽水×葱/小菜×葱】 ミズアオイ科の一年草。水田や池に生え、ミズアオイに似るが全体に小さい。夏から秋、青紫色の花を開く。花を染料に用いた。みずなぎ。ささなぎ。《季 春 花=秋》
イメージ 1

* 「なる・る」生む・成長する・・に、自然、自発動作の「る」。慣れる」に掛ける。
* 「まにま‐に」【随に】[連語]《「に」は格助詞》
1 他人の意志や事態の成り行きに任せて行動するさま。ままに。まにま。「波の―漂う」
2 ある事柄が、他の事柄の進行とともに行われるさま。…につれて。…とともに。
* 「あぜか」上代東国方言。何か、どうしてなのか。
* 「かなしけ」上代東国方言。「かなし」の連体形「かなしき」の転。かわいい、いとしい、恋しい。
[訓読]
苗代の 小水葱が花を 衣に摺り なるるまにまに あぜか愛しけ 

・・・・・・・・・・・
苗代田で育てている
小水葱の花を
衣にこすり付けたら
着慣れるにつれて
愛しくなってくる
・・・・・
大切に育てられた娘さんを妻にした
新婚当時は気恥ずかしかったが
月日を経るにつれ
愛しくてたまらない
・・・・・・・・・・・

* 「苗代(なわしろ)」は、稲の籾(もみ)を発芽させて、田植えができるようになるまで苗(なえ)を育てるところのこと。豊富な水が必要で、湧き水や、川の水を引いて苗代にした。
* 「こ‐なぎ」 【小▽水×葱/小菜×葱】 ミズアオイ科の一年草。水田や池に生え、ミズアオイに似るが全体に小さい。夏から秋、青紫色の花を開く。花を染料に用いた。みずなぎ。ささなぎ。《季 春 花=秋》
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* 「なる・る」生む・成長する・・に、自然、自発動作の「る」。慣れる」に掛ける。
* 「まにま‐に」【随に】[連語]《「に」は格助詞》
1 他人の意志や事態の成り行きに任せて行動するさま。ままに。まにま。「波の―漂う」
2 ある事柄が、他の事柄の進行とともに行われるさま。…につれて。…とともに。
* 「あぜか」上代東国方言。何か、どうしてなのか。
* 「かなしけ」上代東国方言。「かなし」の連体形「かなしき」の転。かわいい、いとしい、恋しい。

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