ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第十五巻

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3671遣新羅使,福岡,韓亭,望郷,枕詞

[題詞](到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)

奴婆多麻乃 欲和多流月尓 安良麻世婆 伊敝奈流伊毛尓 安比弖許麻之乎

ぬばたまの 夜渡る月に あらませば 家なる妹に 逢ひて来ましを 

[ぬばたまの] よわたるつきに あらませば いへなるいもに あひてこましを
・・・・・・・・・・・
夜空を明るく照らして渡る月になれるものなら 

わが家にいる妻に逢いに行き

顔を照らして来れるものを
・・・・・・・・・・・



3672遣新羅使,枕詞,羈旅,福岡,韓亭,叙景

[題詞](到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)

比左可多能 月者弖利多里 伊刀麻奈久 安麻能伊射里波 等毛之安敝里見由

ひさかたの 月は照りたり 暇なく 海人の漁りは 灯し合へり見ゆ 

[ひさかたの] つきはてりたり いとまなく あまのいざりは ともしあへりみゆ
・・・・・・・・・・・
大空に月は照りわたり

海には海人の漁火が

灯り行き交う

いい眺めよ
・・・・・・・・・・・



3673遣新羅使,福岡,韓亭,能許島,漂泊,波待ち


[題詞](到筑前國志麻郡之韓亭舶泊經三日於時夜月之光皎々流照奄對此<華>旅情悽噎各陳心緒聊以裁歌六首)

可是布氣婆 於吉都思良奈美 可之故美等 能許能等麻里尓 安麻多欲曽奴流

風吹けば 沖つ白波 畏みと 能許の亭に あまた夜ぞ寝る 

かぜふけば おきつしらなみ かしこみと のこのとまりに あまたよぞぬる
・・・・・・・・・・・
風が吹くと沖の白波を畏れて

能古の浦の韓亭(からとまり)に

もう幾晩も過ごしている
・・・・・・・・・・・



3674遣新羅使,福岡,可也山,引津亭,望郷,漂泊,作者:壬生宇太麻呂

[題詞]引津亭舶泊之作歌七首

久左麻久良 多婢乎久流之美 故非乎礼婆 可也能山邊尓 草乎思香奈久毛

草枕 旅を苦しみ 恋ひ居れば 可也の山辺に さを鹿鳴くも 

[くさまくら] たびをくるしみ こひをれば かやのやまへに さをしかなくも
・・・・・・・・・・・
草を枕の旅がつらくて

家を恋しく思っていると

可也山の麓の牡鹿も

妻を求めて鳴いているようだ
・・・・・・・・・・・



3675遣新羅使,作者:壬生宇太麻呂,望郷,福岡,可也山,引津亭

[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)

於吉都奈美 多可久多都日尓 安敝利伎等 美夜古能比等波 伎吉弖家牟可母

沖つ波 高く立つ日に あへりきと 都の人は 聞きてけむかも 

おきつなみ たかくたつひに あへりきと みやこのひとは ききてけむかも
・・・・・・・・・・・
沖の荒波が高く立つこの怖ろしさを

奈良の都の人は噂にも聞くだろうか
・・・・・・・・・・・



3676遣新羅使,望郷,枕詞,福岡,引津亭

[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)

安麻等夫也 可里乎都可比尓 衣弖之可母 奈良能弥夜故尓 許登都ん夜良武

天飛ぶや 雁を使に 得てしかも 奈良の都に 言告げ遣らむ 

[あまとぶや] かりをつかひに えてしかも ならのみやこに ことつげやらむ
・・・・・・・・・・・
空を飛び使いをするという雁を

手に入れたいものだ

奈良の都への遣いにしてやろうものを
・・・・・・・・・・・



3677遣新羅使,漂泊,旅情,望郷,福岡,引津亭

[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)

秋野乎 尓保波須波疑波 佐家礼杼母 見流之留思奈之 多婢尓師安礼婆

秋の野を にほはす萩は 咲けれども 見る験なし 旅にしあれば 

あきののを にほはすはぎは さけれども みるしるしなし たびにしあれば
・・・・・・・・・・・
秋の野一面を

飾る萩の花は咲いているが

見ても感じないなあ

旅の途中で妻がいないからか
・・・・・・・・・・・



3678遣新羅使,望郷,福岡,引津亭

[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)

伊毛乎於毛比 伊能祢良延奴尓 安伎乃野尓 草乎思香奈伎都 追麻於毛比可祢弖

妹を思ひ 寐の寝らえぬに 秋の野に さを鹿鳴きつ 妻思ひかねて 

いもをおもひ いのねらえぬに あきののに さをしかなきつ つまおもひかねて
・・・・・・・・・・・
妻を想い眠れぬ夜なのに

秋の野は牡鹿も鳴く

妻恋しさに堪えかねるように
・・・・・・・・・・・



3679遣新羅使,福岡,引津亭

[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)

於保夫祢尓 真可治之自奴伎 等吉麻都等 和礼波於毛倍杼 月曽倍尓家流

大船に 真楫しじ貫き 時待つと 吾れは思へど 月ぞ経にける 

おほぶねに まかぢしじぬき ときまつと われはおもへど つきぞへにける
・・・・・・・・・・・
大船の官船に櫂を並べて

漕ぎ出す時を待ち続けているが

月日だけが過ぎていく

壱岐 対馬 新羅  遥か
・・・・・・・・・・・



3680遣新羅使,福岡,引津亭,枕詞,望郷

[題詞](引津亭舶泊之作歌七首)

欲乎奈我美 伊能年良延奴尓 安之比奇能 山妣故等余米 佐乎思賀奈君母

夜を長み 寐の寝らえぬに あしひきの 山彦響め さを鹿鳴くも 

よをながみ いのねらえぬに [あしひきの] やまびことよめ さをしかなくも
・・・・・・・・・・・
夜は長く

寝るにも寝られない

いっそもっと響かせよ山彦

妻恋しさに鳴く牡鹿の叫びを
・・・・・・・・・・・


3681遣新羅使,天平8年,羈旅,佐賀県,唐津市,神集島,望郷,作者:秦田麻呂

[題詞]肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首

可敝里伎弖 見牟等於毛比之 和我夜度能 安伎波疑須々伎 知里尓家武可聞

帰り来て 見むと思ひし 吾が宿の 秋萩すすき 散りにけむかも 

かへりきて みむとおもひし わがやどの あきはぎすすき ちりにけむかも
・・・・・・・・・・・
都に帰って来た時には 

見られると思っていたわが家の庭の

秋萩やススキはもう散ってしまうだろうか
・・・・・・・・・・・



3682遣新羅使,佐賀県,唐津市,神集島,遊行女婦,宴席,女歌,作者:娘子

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

安米都知能 可未乎許比都々 安礼麻多武 波夜伎万世伎美 麻多婆久流思母

天地の 神を祈ひつつ 吾れ待たむ 早来ませ君 待たば苦しも 

あめつちの かみをこひつつ あれまたむ はやきませきみ またばくるしも
・・・・・・・・・・・
天地の神に祈りながら

私は待ちましょう

早く帰って来て下さい

待つという

辛い気持ちでいますから
・・・・・・・・・・・



3683遣新羅使,天平8年,佐賀県,唐津市,神集島,女歌,恋

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

伎美乎於毛比 安我古非万久波 安良多麻乃 多都追奇其等尓 与久流日毛安良自

君を思ひ 吾が恋ひまくは あらたまの 立つ月ごとに 避くる日もあらじ 

きみをおもひ あがこひまくは [あらたまの] たつつきごとに よくるひもあらじ
・・・・・・・・・・・
あなたを想い恋いし続けることは

月日が経つたびごとの

物忌み避ける日すらありません
・・・・・・・・・・・



3684遣新羅使,天平8年,佐賀県,唐津市,神集島,孤独,恋

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

秋夜乎 奈我美尓可安良武 奈曽許々波 伊能祢良要奴毛 比等里奴礼婆可

秋の夜を 長みにかあらむ なぞここば 寐の寝らえぬも ひとり寝ればか 

あきのよを ながみにかあらむ なぞここば いのねらえぬも ひとりぬればか
・・・・・・・・・・・
秋の夜長のためか

なぜもこんなに寝るのに寝られないのだろう

独りで寝るからか
・・・・・・・・・・・



3685遣新羅使,天平8年,佐賀県,唐津市,神集島,伝説,神功皇后,望郷

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

多良思比賣 御舶波弖家牟 松浦乃宇美 伊母我麻都<倍>伎 月者倍尓都々

足日女 御船泊てけむ 松浦の海 妹が待つべき 月は経につつ 

[たらしひめ みふねはてけむ まつらのうみ] いもがまつべき つきはへにつつ
・・・・・・・・・・・
神功皇后の御船が泊ったという

松浦の海にいて

妻が待つ約束の月は

ただいたづらに過ぎてゆく
・・・・・・・・・・・
* 「足日女」は「息長足日女尊すなわち神功皇后」。
* 「けむ」は過去の推量助動詞。「〜たのであろう」。
* 「べき」は推量の助動詞、「にちがいない。〜だろう」。
* 「つつ」は反復動作継続の接続助詞、「〜つづけて」。



3686遣新羅使,佐賀県,唐津市,神集島,望郷

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

多婢奈礼婆 於毛比多要弖毛 安里都礼杼 伊敝尓安流伊毛之 於母比我奈思母

旅なれば 思ひ絶えても ありつれど 家にある妹し 思ひ悲しも 

たびなれば おもひたえても ありつれど いへにあるいもし おもひがなしも
・・・・・・・・・・・
旅の途中なので

恋心は絶ちきっているが

家にいる妻を想うとかなしくなる
・・・・・・・・・・・



3687遣新羅使,佐賀県,唐津市,神集島,枕詞,望郷

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

安思必奇能 山等妣古<由>留 可里我祢波 美也故尓由加波 伊毛尓安比弖許祢

あしひきの 山飛び越ゆる 鴈がねは 都に行かば 妹に逢ひて来ね 

[あしひきの] やまとびこゆる かりがねは みやこにゆかば いもにあひてこね
・・・・・・・・・・・
山々の空を飛んで渡る鴈よ

奈良の都に行ったなら

私の妻にきっと逢って来い
・・・・・・・・・・・



3688遣新羅使,天平8年,壱岐,挽歌,雪宅麻呂,枕詞,行路死人,長崎

[題詞]到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌]

[左注]右三首挽歌

・・・・・・・・・・・
須賣呂伎能ー天皇のーすめろきのー大王の
等保能朝庭等ー遠の朝廷とーとほのみかどとー遠の朝廷から
可良國尓ー韓国にーからくににー韓国に
和多流和我世波ー渡る吾が背はーわたるわがせはー渡るあなたは
伊敝妣等能ー家人のーいへびとのー家族が
伊波比麻多祢可ー斎ひ待たねかーいはひまたねかー神を斎ひ待たないからか
多太<未>可母ー正身かもーただみかもー自分でも 
安夜麻知之家牟ー過ちしけむーあやまちしけむー過ちをしたからか
安吉佐良婆ー秋去らば ーあきさらばー秋が来たら
可敝里麻左牟等ー帰りまさむとーかへりまさむとー還って来るでしょうと
多良知祢能ー[たらちねの]ー
波々尓麻乎之弖ー母に申してーははにまをしてー母に告げ
等伎毛須疑ー時も過ぎーときもすぎーその秋も過ぎ
都奇母倍奴礼婆ー月も経ぬればーつきもへぬればー月日も経ったので
今日可許牟ー今日か来むーけふかこむー今日は帰るか
明日可蒙許武登ー明日かも来むとーあすかもこむとー明日には帰るかと
伊敝<妣>等波ー家人はーいへびとはー家の人は
麻知故布良牟尓ー待ち恋ふらむにーまちこふらむにー待ちわびているだろうに
等保能久尓ー遠の国ーとほのくにー遠い国に
伊麻太毛都可受ーいまだも着かずーいまだもつかずー未だ着かず
也麻等乎毛ー大和をもーやまとをもー大和をも
登保久左可里弖ー遠く離りてーとほくさかりてー遠く離れて
伊波我祢乃ー岩が根のーいはがねのー岩のごつごつした
安良伎之麻祢尓ー荒き島根にーあらきしまねにー荒涼とした島の陰を
夜杼理須流君ー宿りする君ーやどりするきみー宿にして身を休めている貴方
・・・・・・・・・・・




3689遣新羅使,挽歌,壱岐,雪宅麻呂,行路死人,長崎

[題詞](到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌])反歌二首

伊波多野尓 夜杼里須流伎美 伊敝妣等乃 伊豆良等和礼乎 等<波婆>伊可尓伊波牟

岩田野に 宿りする君 家人の いづらと吾れを 問はばいかに言はむ 

いはたのに やどりするきみ いへびとの いづらとわれを とはばいかにいはむ
・・・・・・・・・・・
壱岐の石田の野を宿として永眠についた君よ

故郷の人が君のことを

どうしていますと私に尋ねたら

何と言ったらいいのだろうか
・・・・・・・・・・・



3690遣新羅使,挽歌,壱岐,雪宅麻呂,恋,長崎

[題詞]((到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌])反歌二首)

与能奈可波 都祢可久能未等 和可礼奴流 君尓也毛登奈 安我孤悲由加牟

世間は 常かくのみと 別れぬる 君にやもとな 吾が恋ひ行かむ 

よのなかは つねかくのみと わかれぬる きみにやもとな あがこひゆかむ
・・・・・・・・・・・
世の中はいつもこのように儚いものと言わんばかりに

別れていった君を

私は偲びながら行きましょう
・・・・・・・・・・・
* 「きみにやもとな」 あなたに、ただわけもなく
* 「あがこひゆかむ」 私は貴方のことを忘れず旅を続けてゆくのだろうか


3681遣新羅使,天平8年,羈旅,佐賀県,唐津市,神集島,望郷,作者:秦田麻呂

[題詞]肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首

可敝里伎弖 見牟等於毛比之 和我夜度能 安伎波疑須々伎 知里尓家武可聞

帰り来て 見むと思ひし 吾が宿の 秋萩すすき 散りにけむかも 

かへりきて みむとおもひし わがやどの あきはぎすすき ちりにけむかも
・・・・・・・・・・・
都に帰って来た時には 

見られると思っていたわが家の庭の

秋萩やススキはもう散ってしまうだろうか
・・・・・・・・・・・



3682遣新羅使,佐賀県,唐津市,神集島,遊行女婦,宴席,女歌,作者:娘子

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

安米都知能 可未乎許比都々 安礼麻多武 波夜伎万世伎美 麻多婆久流思母

天地の 神を祈ひつつ 吾れ待たむ 早来ませ君 待たば苦しも 

あめつちの かみをこひつつ あれまたむ はやきませきみ またばくるしも
・・・・・・・・・・・
天地の神に祈りながら

私は待ちましょう

早く帰って来て下さい

待つという

辛い気持ちでいますから
・・・・・・・・・・・



3683遣新羅使,天平8年,佐賀県,唐津市,神集島,女歌,恋

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

伎美乎於毛比 安我古非万久波 安良多麻乃 多都追奇其等尓 与久流日毛安良自

君を思ひ 吾が恋ひまくは あらたまの 立つ月ごとに 避くる日もあらじ 

きみをおもひ あがこひまくは [あらたまの] たつつきごとに よくるひもあらじ
・・・・・・・・・・・
あなたを想い恋いし続けることは

月日が経つたびごとの

物忌み避ける日すらありません
・・・・・・・・・・・



3684遣新羅使,天平8年,佐賀県,唐津市,神集島,孤独,恋

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

秋夜乎 奈我美尓可安良武 奈曽許々波 伊能祢良要奴毛 比等里奴礼婆可

秋の夜を 長みにかあらむ なぞここば 寐の寝らえぬも ひとり寝ればか 

あきのよを ながみにかあらむ なぞここば いのねらえぬも ひとりぬればか
・・・・・・・・・・・
秋の夜長のためか

なぜもこんなに寝るのに寝られないのだろう

独りで寝るからか
・・・・・・・・・・・



3685遣新羅使,天平8年,佐賀県,唐津市,神集島,伝説,神功皇后,望郷

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

多良思比賣 御舶波弖家牟 松浦乃宇美 伊母我麻都<倍>伎 月者倍尓都々

足日女 御船泊てけむ 松浦の海 妹が待つべき 月は経につつ 

[たらしひめ みふねはてけむ まつらのうみ] いもがまつべき つきはへにつつ
・・・・・・・・・・・
神功皇后の御船が泊ったという

松浦の海にいて

妻が待つ約束の月は

ただいたづらに過ぎてゆく
・・・・・・・・・・・
* 「足日女」は「息長足日女尊すなわち神功皇后」。
* 「けむ」は過去の推量助動詞。「〜たのであろう」。
* 「べき」は推量の助動詞、「にちがいない。〜だろう」。
* 「つつ」は反復動作継続の接続助詞、「〜つづけて」。



3686遣新羅使,佐賀県,唐津市,神集島,望郷

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

多婢奈礼婆 於毛比多要弖毛 安里都礼杼 伊敝尓安流伊毛之 於母比我奈思母

旅なれば 思ひ絶えても ありつれど 家にある妹し 思ひ悲しも 

たびなれば おもひたえても ありつれど いへにあるいもし おもひがなしも
・・・・・・・・・・・
旅の途中なので

恋心は絶ちきっているが

家にいる妻を想うとかなしくなる
・・・・・・・・・・・



3687遣新羅使,佐賀県,唐津市,神集島,枕詞,望郷

[題詞](肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜遥望海浪各慟旅心作歌七首)

安思必奇能 山等妣古<由>留 可里我祢波 美也故尓由加波 伊毛尓安比弖許祢

あしひきの 山飛び越ゆる 鴈がねは 都に行かば 妹に逢ひて来ね 

[あしひきの] やまとびこゆる かりがねは みやこにゆかば いもにあひてこね
・・・・・・・・・・・
山々の空を飛んで渡る鴈よ

奈良の都に行ったなら

私の妻にきっと逢って来い
・・・・・・・・・・・



3688遣新羅使,天平8年,壱岐,挽歌,雪宅麻呂,枕詞,行路死人,長崎

[題詞]到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌]

[左注]右三首挽歌

・・・・・・・・・・・
須賣呂伎能ー天皇のーすめろきのー大王の
等保能朝庭等ー遠の朝廷とーとほのみかどとー遠の朝廷から
可良國尓ー韓国にーからくににー韓国に
和多流和我世波ー渡る吾が背はーわたるわがせはー渡るあなたは
伊敝妣等能ー家人のーいへびとのー家族が
伊波比麻多祢可ー斎ひ待たねかーいはひまたねかー神を斎ひ待たないからか
多太<未>可母ー正身かもーただみかもー自分でも 
安夜麻知之家牟ー過ちしけむーあやまちしけむー過ちをしたからか
安吉佐良婆ー秋去らば ーあきさらばー秋が来たら
可敝里麻左牟等ー帰りまさむとーかへりまさむとー還って来るでしょうと
多良知祢能ー[たらちねの]ー
波々尓麻乎之弖ー母に申してーははにまをしてー母に告げ
等伎毛須疑ー時も過ぎーときもすぎーその秋も過ぎ
都奇母倍奴礼婆ー月も経ぬればーつきもへぬればー月日も経ったので
今日可許牟ー今日か来むーけふかこむー今日は帰るか
明日可蒙許武登ー明日かも来むとーあすかもこむとー明日には帰るかと
伊敝<妣>等波ー家人はーいへびとはー家の人は
麻知故布良牟尓ー待ち恋ふらむにーまちこふらむにー待ちわびているだろうに
等保能久尓ー遠の国ーとほのくにー遠い国に
伊麻太毛都可受ーいまだも着かずーいまだもつかずー未だ着かず
也麻等乎毛ー大和をもーやまとをもー大和をも
登保久左可里弖ー遠く離りてーとほくさかりてー遠く離れて
伊波我祢乃ー岩が根のーいはがねのー岩のごつごつした
安良伎之麻祢尓ー荒き島根にーあらきしまねにー荒涼とした島の陰を
夜杼理須流君ー宿りする君ーやどりするきみー宿にして身を休めている貴方
・・・・・・・・・・・




3689遣新羅使,挽歌,壱岐,雪宅麻呂,行路死人,長崎

[題詞](到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌])反歌二首

伊波多野尓 夜杼里須流伎美 伊敝妣等乃 伊豆良等和礼乎 等<波婆>伊可尓伊波牟

岩田野に 宿りする君 家人の いづらと吾れを 問はばいかに言はむ 

いはたのに やどりするきみ いへびとの いづらとわれを とはばいかにいはむ
・・・・・・・・・・・
壱岐の石田の野を宿として永眠についた君よ

故郷の人が君のことを

どうしていますと私に尋ねたら

何と言ったらいいのだろうか
・・・・・・・・・・・



3690遣新羅使,挽歌,壱岐,雪宅麻呂,恋,長崎

[題詞]((到壹岐嶋雪連宅満忽遇鬼病死去之時作歌一首[并短歌])反歌二首)

与能奈可波 都祢可久能未等 和可礼奴流 君尓也毛登奈 安我孤悲由加牟

世間は 常かくのみと 別れぬる 君にやもとな 吾が恋ひ行かむ 

よのなかは つねかくのみと わかれぬる きみにやもとな あがこひゆかむ
・・・・・・・・・・・
世の中はいつもこのように儚いものと言わんばかりに

別れていった君を

私は偲びながら行きましょう
・・・・・・・・・・・
* 「きみにやもとな」 あなたに、ただわけもなく
* 「あがこひゆかむ」 私は貴方のことを忘れず旅を続けてゆくのだろうか


3721遣新羅使,枕詞,大阪,難波,兵庫,姫路,帰途

[題詞](廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)

奴婆多麻能 欲安可之母布<祢>波 許藝由可奈 美都能波麻末都 麻知故非奴良武

ぬばたまの 夜明かしも船は 漕ぎ行かな 御津の浜松 待ち恋ひぬらむ 

[ぬばたまの] よあかしもふねは こぎゆかな みつのはままつ まちこひぬらむ
・・・・・・・・・・・
夜を明かしても船を漕いで行こう

御津の浜松はその名のとおり

私たちを待ち焦がれているだろう
・・・・・・・・・・・



3722遣新羅使,兵庫,姫路,大阪,難波,奈良,帰途

[題詞](廻来筑紫海路入京到播磨國家嶋之時作歌五首)

大伴乃 美津能等麻里尓 布祢波弖々 多都多能山乎 伊都可故延伊加武

大伴の 御津の泊りに 船泊てて 龍田の山を いつか越え行かむ 

[おほともの] みつのとまりに ふねはてて たつたのやまを いつかこえいかむ
・・・・・・・・・・・
難波大伴の御津の港に船を泊め

朝廷への帰国報告に龍田の山を越えて 

近く家にも帰りつけるだろう
・・・・・・・・・・・



(中臣宅守・狭野茅上娘子贈答歌)




3723作者:狭野弟上娘子,贈答,枕詞,悲別,恋,女歌,中臣宅守

[題詞]中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌

安之比奇能 夜麻治古延牟等 須流君乎 許々呂尓毛知弖 夜須家久母奈之

あしひきの 山道越えむと する君を 心に持ちて 安けくもなし 

[あしひきの] やまぢこえむと するきみを こころにもちて やすけくもなし
・・・・・・・・・・・
あなたを思って

心の休まることはありません

越の嶮しい山道を

越えて行こうとするあなた 
・・・・・・・・・・・



サ3724作者:狭野弟上娘子,贈答,悲別,恋,女歌,中臣宅守

さののちがみのおとめ【狭野茅上娘子】
《万葉集》第4期(733‐759)の歌人。生没年不詳。狭野弟上娘子(さののおとがみのおとめ)と伝える本もある。《万葉集》の目録によれば蔵部の女嬬(によじゆ)であったというが,後宮蔵司の下級女官か。中臣宅守(なかとみのやかもり)の妻となったとき,宅守が勅断されて越前に流され,離別して暮らす二人の間で贈答した63首が巻十五に収められている。そのうちの娘子の23首以外には,娘子に関して伝えるところはない。<世界大百科事典 第2版>
・・・・・・・・・・

* <出典・以下[竹取翁と万葉集のお勉強]より転載。>
中臣宅守は天平十一年(739)三月頃に皇后の病気治癒を願う物忌みの時期に犯した姦淫の罪で罰を受け、越前国への近国流刑を受けたとみなされています。翌十二年六月の大赦では同じ姦淫の罪で遠流刑を受けた石上朝臣乙麻呂と同様に特別に詔があって大赦の放免リストから外されていますが、天平十三年九月の恭仁京(くにのみや)遷都に伴う大赦で、やっと許されて京に戻ってきたようです。その後に、天平宝字七年(763)正月に従六位上から従五位下に昇任し、神祇大副の官位相当の大夫の格の身分となっています。その後は、中臣氏系図によると天平宝字八年(764)の恵美押勝の乱に連座して、除名されたことになっているようです。一方、本家の大中臣系図では最終官位が天平宝字七年の従五位下から二階級ほど順調に昇階して、孝謙天皇の侍従で正五位下への叙任となっているようです。ここに、すこし、伝承に乱れがあるようです。つまり、歴史的には判ったような、判らないような人物です。しかし、和歌の歴史では中臣宅守は重要な位置を占めていて、後の伊勢物語に通じる位置にあります。
万葉集の中臣宅守は、万葉集巻十五に載る狭野弟上娘女との贈答歌六十三首におよぶ膨大な相聞歌で有名な人物です。そして、普段の解説では、古今和歌集の仮名序の一節の「いろごのみのいへにむもれきの人しれぬこととなりて」を「色好みの家に、埋れ木の人知れぬこととなりて、」と読み下して、中臣宅守と贈答歌六十三首を解釈するのが正統な和歌の解釈の基本です。
・・・・・・・・・

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

君我由久 道乃奈我弖乎 久里多々祢 也伎保呂煩散牟 安米能火毛我母

君が行く 道の長手を 繰り畳ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも 

きみがゆく みちのながてを くりたたね やきほろぼさむ あめのひもがも
君が流刑で行く
越への遠い道をたぐり寄せて
折り畳んで焼き滅ぼしてしまいたい
そんな天界の火が欲しい


が(格助詞)
行く(カ行四段活用・連体形)

の(格助詞)
長手
を(格助詞)
繰り畳ね(ナ行下二段活用・連用形)
焼き滅ぼさ(サ行四段活用・未然形)
む(婉曲の助動詞・連体形)

の(格助詞)

もがも(願望の終助詞)
* 「長手」長い道のり。
* 「繰り畳ね」折り畳んで。
* 「焼き滅ぼさ・む」焼き滅ぼしてしまう。
* 「む」未来推量・意志の助動詞。上にくる語の活用形は未然形。
話し手自身の能動的な行為に関する場合、「〜しよう」「〜したい」との話し手の意志・希望をあらわす。
* 「もがも」は「もが」願望の終助詞。と詠嘆の助詞「も」が合わさって、願望の意を表す上代語。「…あればいいなあ」など。




3725作者:狭野弟上娘子,贈答,悲別,恋,女歌,中臣宅守

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

和我世故之 氣太之麻可良<婆> 思漏多倍乃 蘇R乎布良左祢 見都追志努波牟

吾が背子し けだし罷らば 白栲の 袖を振らさね 見つつ偲はむ 

わがせこし けだしまからば [しろたへの] そでをふらさね みつつしのはむ
・・・・・・・・・・・
愛しい君よ

どうしても行かれるのなら

お着せするこの白妙の袖を振って

み魂をお鎮めください

越への峠の上で
・・・・・・・・・・・



3726作者:狭野弟上娘子,贈答,枕詞,悲別,恋,女歌,中臣宅守

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

己能許呂波 古非都追母安良牟 多麻久之氣 安氣弖乎知欲利 須辨奈可流倍思

このころは 恋ひつつもあらむ 玉櫛笥 明けてをちより すべなかるべし 

このころは こひつつもあらむ [たまくしげ] あけてをちより すべなかるべし
・・・・・・・・・・・
今のうちは
 
恋い焦がれながらいられるけれど
  
夜が明けたら君は去るのね  もう

どうしようもなくなるでしょう
・・・・・・・・・・・



3727作者:中臣宅守,贈答,悲別,恋,配流,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

知里比治能 可受尓母安良奴 和礼由恵尓 於毛比和夫良牟 伊母我可奈思佐

塵泥の 数にもあらぬ 吾れゆゑに 思ひわぶらむ 妹がかなしさ 

ちりひぢの かずにもあらぬ われゆゑに おもひわぶらむ いもがかなしさ
・・・・・・・・・・・
塵や泥のように 

物の数にもはいらない私のために

今ごろはさぞ辛い思いをしているだろうな

妻よ悲しかろう  すまん
・・・・・・・・・・・



3728作者:中臣宅守,贈答,配流,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

安乎尓与之 奈良能於保知波 由<吉>余家杼 許能山道波 由伎安之可里家利

あをによし 奈良の大道は 行きよけど この山道は 行き悪しかりけり 

[あをによし] ならのおほぢは ゆきよけど このやまみちは ゆきあしかりけり
・・・・・・・・・・・
麗しの奈良の都大路は歩きやすいが

さすがにこの山道は 

何とも行きづらいことよ

流罪の旅も罰のうちか 
・・・・・・・・・・・



3729作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

宇流波之等 安我毛布伊毛乎 於毛比都追 由氣婆可母等奈 由伎安思可流良武

愛しと 吾が思ふ妹を 思ひつつ 行けばかもとな 行き悪しかるらむ 

うるはしと あがもふいもを おもひつつ ゆけばかもとな ゆきあしかるらむ
・・・・・・・・・・・
愛しいとわが思う妻を

なおも思い続けながら行くからか 

みだりやたらに 行くのが辛いことよ
・・・・・・・・・・・



3730作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,手向け,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

加思故美等 能良受安里思乎 美故之治能 多武氣尓多知弖 伊毛我名能里都

畏みと 告らずありしを み越道の 手向けに立ちて 妹が名告りつ 

かしこみと のらずありしを みこしぢの たむけにたちて いもがなのりつ
・・・・・・・・・・・
名を口にするのは畏れ多いと

だまって来たのに

越路の峠に立ったら

こみあげるように

あなたの名を叫んでしまったよ

峠(たむけ)の神を恐れもせずに
・・・・・・・・・・・


3731作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

於毛布恵尓 安布毛能奈良婆 之末思久毛 伊母我目可礼弖 安礼乎良米也母

思ふゑに 逢ふものならば しましくも 妹が目離れて 吾れ居らめやも 

おもふゑに あふものならば しましくも いもがめかれて あれをらめやも
・・・・・・・・・・・・・
思い慕いあえば逢えるものなら

どうして逢えないのだろう

嫁さまの目から離れて

私はどこにいることが出来るだろう

片時の間も忘れない貴女なのに
・・・・・・・・・・・・・
* 「しまし‐く」暫  〔副〕「く」は副詞語尾。多く下に助詞「も」を伴って用いる。  しばらく。少しの間。しまし。



3732作者:中臣宅守,贈答,恋情,枕詞,恋,配流,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

安可祢佐須 比流波毛能母比 奴婆多麻乃 欲流波須我良尓 祢能<未>之奈加由

あかねさす 昼は物思ひ ぬばたまの 夜はすがらに 音のみし泣かゆ 

[あかねさす] ひるはものもひ [ぬばたまの] よるはすがらに ねのみしなかゆ
・・・・・・・・・・・・・
昼はあなたを偲んで物思いに沈み

夜は一晩中声をあげて忍び泣いているんだ
・・・・・・・・・・・・・
* 「すがらに」 (副) ずっと通して。始めから終わりまで。




3733作者:中臣宅守,贈答,恋,配流,孤独,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

和伎毛故我 可多美能許呂母 奈可里世婆 奈尓毛能母弖加 伊能知都我麻之

吾妹子が 形見の衣 なかりせば 何物もてか 命継がまし 

わぎもこが かたみのころも なかりせば なにものもてか いのちつがまし
・・・・・・・・・・・・・
愛しい貴女がくれたこの形見の衣 

もしこれがなかったら

私の命は何のためにあるのか 

分からなくなったろう
・・・・・・・・・・・・・



3734作者:中臣宅守,配流,恋情,異伝,贈答,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

等保伎山 世伎毛故要伎奴 伊麻左良尓 安布倍伎与之能 奈伎我佐夫之佐 [一云 左必之佐]

遠き山 関も越え来ぬ 今さらに 逢ふべきよしの なきが寂しさ 
[一云 さびしさ]

とほきやま せきもこえきぬ いまさらに あふべきよしの なきがさぶしさ,[さびしさ]
・・・・・・・・・・・・・
遠い山も関所も越えて来た

もう今となっては

あなたに逢う手だてがないのが寂しい
・・・・・・・・・・・・・
* 詞書によれば、狹野茅上娘子は後宮の蔵部に属していた女官であったらしい。その女と結婚したときに、男が罪を得たと書いてある。文面からは即重婚とは受け取れぬので、重婚ではなく、たまたま結婚の時期に別の罪に問われたのだとする見解もある。



3735作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

於毛波受母 麻許等安里衣牟也 左奴流欲能 伊米尓毛伊母我 美延射良奈久尓

思はずも まことあり得むや さ寝る夜の 夢にも妹が 見えざらなくに 

おもはずも まことありえむや さぬるよの いめにもいもが みえざらなくに
・・・・・・・・・・・・・
貴女を思わないでいることが

本当にありうることか

寝る夜の夢にさえ貴女が 

現れない事はないのに
・・・・・・・・・・・・・




3736作者:中臣宅守,贈答,恋,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

等保久安礼婆 一日一夜毛 於<母>波受弖 安流良牟母能等 於毛保之賣須奈

遠くあれば 一日一夜も 思はずて あるらむものと 思ほしめすな 

とほくあれば ひとひひとよも おもはずて あるらむものと おもほしめすな
・・・・・・・・・・・・・
遠く離れているからと 

私が貴女の事を

一日一夜のうちの僅かな間でも
 
忘れることがあろうなどと

ゆめにもお思いにならないでください
・・・・・・・・・・・・・



3737作者:中臣宅守,配流,贈答,恋,悲別,恨,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

比等余里波 伊毛曽母安之伎 故非毛奈久 安良末<思>毛能乎 於毛波之米都追

人よりは 妹ぞも悪しき 恋もなく あらましものを 思はしめつつ 

ひとよりは いもぞもあしき こひもなく あらましものを おもはしめつつ
・・・・・・・・・・・・・
私より貴女の方が悪いのです

恋などなければ

このように貴女のことばかり

思いはしないのに
・・・・・・・・・・・・・



3738作者:贈答,配流,恋,悲別,枕詞,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

於毛比都追 奴礼婆可毛<等>奈 奴婆多麻能 比等欲毛意知受 伊米尓之見由流

思ひつつ 寝ればかもとな ぬばたまの 一夜もおちず 夢にし見ゆ 

おもひつつ ぬればかもとな [ぬばたまの] ひとよもおちず いめにしみゆる
・・・・・・・・・・・・・
あなたを思いながら寝るからか

一夜も欠けることなく

あなたを夢に見る
・・・・・・・・・・・・・



3739作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,悲別,後悔,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

可久婆可里 古非牟等可祢弖 之良末世婆 伊毛乎婆美受曽 安流倍久安里家留

かくばかり 恋ひむとかねて 知らませば 妹をば見ずぞ あるべくありける 

かくばかり こひむとかねて しらませば いもをばみずぞ あるべくありける
・・・・・・・・・・・・・
こんなにも恋しくなるなら 

あなたと出逢わなければ良かった
・・・・・・・・・・・・・



3740作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

安米都知能 可未奈伎毛能尓 安良婆許曽 安我毛布伊毛尓 安波受思仁世米

天地の 神なきものに あらばこそ 吾が思ふ妹に 逢はず死にせめ  

[あめつちの] かみなきものに あらばこそ あがもふいもに あはずしにせめ
・・・・・・・・・・・・・
世の中に神々がおられないのなら 

恋しい貴女に逢わずに死ぬだろうが

神々いてくださるから

きっと逢えますとも
・・・・・・・・・・・・・
* 「あら ば こそ」(条件句を構成して、これを受ける句に推量の助動詞を伴うのが普通)もしあれば。…であれば。全体で、「ないのだから(…ではないのだから)…しない」という反語的な気持を表わす。


3751作者:狭野弟上娘子,贈答,恋,悲別,女歌,枕詞,中臣宅守

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

之呂多倍能 安我之多其呂母 宇思奈波受 毛弖礼和我世故 多太尓安布麻弖尓

白栲の 吾下衣 失はず 持てれ吾が背子 直に逢ふまでに 

[しろたへの] あがしたごろも うしなはず もてれわがせこ ただにあふまでに
・・・・・・・・・・・
私の下衣をなくさずに

持っていて下さい あなた

直にお逢いする時まで
・・・・・・・・・・・
* 「れ」は完了存続の助動詞「り」の命令形
「り」完了・存続。
未然形ら
連用形り
終止形り
連体形る
已然形れ
命令形れ
【接続】
四段動詞・サ変動詞の命令形に付く。



3752作者:狭野弟上娘子,贈答,恋,悲別,女歌,中臣宅守

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

波流乃日能 宇良我奈之伎尓 於久礼為弖 君尓古非都々 宇都之家米也母

春の日の うら悲しきに 後れ居て 君に恋ひつつ うつしけめやも 

はるのひの うらがなしきに おくれゐて きみにこひつつ うつしけめやも
・・・・・・・・・・・
春の日の

このもの悲しさのなかに

残されて独りいる

貴方を恋しく思って

気が変になりそうよ
・・・・・・・・・・・



3753作者:狭野弟上娘子,贈答,恋,悲別,女歌,中臣宅守

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

安波牟日能 可多美尓世与等 多和也女能 於毛比美太礼弖 奴敝流許呂母曽

逢はむ日の 形見にせよと たわや女の 思ひ乱れて 縫へる衣ぞ 

あはむひの かたみにせよと たわやめの おもひみだれて ぬへるころもぞ
・・・・・・・・・・・
再び逢う日までの形見にして下さいと

かよわい女の身で

思い乱れながら縫ったものです

あはむひの かたみにせよと たわやめの 

おもひみだれて ぬへるころもぞ
・・・・・・・・・・・
* 「たわや女」 もともと「たおやかな女」「若々しくしなやかな女」などの讃め詞だが、のち「手弱(たよわ)き」「た童(わらは)」等と音が似ていることから「手弱女」すなわち力の弱い女の意にも用いられた。



サ3754作者:中臣宅守,贈答,恋,悲別,女歌,難訓,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

過所奈之尓 世伎等婢古由流 保等登藝須 多我子尓毛 夜麻受可欲波牟

過所なしに 関飛び越ゆる 霍公鳥 多我子尓毛 止まず通はむ 

[くゎそなしに せきとびこゆる ほととぎす] ******* やまずかよはむ
・・・・・・・・・・・
通行手形もなしに

関所を飛び越えるほととぎすのように

私も愛しいあの子の許には

誰が止めようとしても絶えず通いつめよう
・・・・・・・・・・・
* 「過所(かしょ)」 官人の関所の律令制時通行許可証。

* 以下<国語篇(その七)より転載>
『「多我子尓毛」を7音の句と考え、通常の万葉仮名の読み方に従い、
「おほわがしにも」と訓むこととします。

「おほわがしにも」「オホ・ワ(ン)ガ・チニ・モ」
OHO-WHANGA-TINI-MO
(oho=arise,begin;whanga=wait;tini=very many,host;mo=for,against)
「(飛んで行くほととぎすを止めようと)突然起こる・(関所)役人達の・待てとの制止(の声)・に反して」
(「ワ(ン)ガ」のNG音がG音に変化して「ワガ」となった) の転訛と解します。
 したがつてこの歌は、
「手形なしに関所を飛び越えるホトトギスは、まき起こる関所の役人達の制止を無視して通うことだろう
(私も周囲の反対をものともせずに娘子の所に通つて行こう)」の意と解します。』



3755作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

宇流波之等 安我毛布伊毛乎 山川乎 奈可尓敝奈里弖 夜須家久毛奈之

愛しと 吾が思ふ妹を 山川を 中にへなりて 安けくもなし 

うるはしと あがもふいもを やまかはを なかにへなりて やすけくもなし
・・・・・・・・・・・
うるわしいと思う貴女を 

山や川が目隠しするようにさえぎるので

私の心は安らかではいられないのですよ
・・・・・・・・・・・



3756作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

牟可比為弖 一日毛於知受 見之可杼母 伊等波奴伊毛乎 都奇和多流麻弖

向ひ居て 一日もおちず 見しかども 厭はぬ妹を 月わたるまで 

むかひゐて ひとひもおちず みしかども いとはぬいもを つきわたるまで
・・・・・・・・・・・
向かい合い一日も欠かさず見ていても 

飽きることのない貴女だったのに

お逢いできないでもう幾月もたちました 
・・・・・・・・・・・



3757作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

安我<未>許曽 世伎夜麻<故>要弖 許己尓安良米 許己呂波伊毛尓 与里尓之母能乎

吾が身こそ 関山越えて ここにあらめ 心は妹に 寄りにしものを 

あがみこそ せきやまこえて ここにあらめ こころはいもに よりにしものを
・・・・・・・・・・・
私の身体こそ関所の山を越えて 

こんな所に居るが
    
心はいつでも貴女に寄り添って居るよ
・・・・・・・・・・・



3758作者:中臣宅守,枕詞,贈答,配流,恨,異伝,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

佐須太氣能 大宮人者 伊麻毛可母 比等奈夫理能<未> 許能美多流良武 [一云 伊麻左倍也]

さす竹の 大宮人は 今もかも 人なぶりのみ 好みたるらむ 
[一云 今さへや]

[さすだけの] おほみやひとは いまもかも ひとなぶりのみ このみたるらむ[いまさへや]
・・・・・・・・・・・
大宮人は今も昔も 

人をなぶりものにするのが 

好きであろうか
・・・・・・・・・・・
* 「たるらむ」 完了の助動詞「たり」の連体形「たる」+推量の助動詞「らむ」。「〜しているだろう」の意。




3759作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,孤独,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

多知可敝里 奈氣杼毛安礼波 之流思奈美 於毛比和夫礼弖 奴流欲之曽於保伎

たちかへり 泣けども吾れは 験なみ 思ひわぶれて 寝る夜しぞ多き 

たちかへり なけどもあれは しるしなみ おもひわぶれて ぬるよしぞおほき
・・・・・・・・・・・
繰り返し泣いている私だが

これという心休まる実感がなくて

ただ思い悲しんで寝る夜が多いことです
・・・・・・・・・・・



3760作者:中臣宅守,贈答,配流,恋,悲別,狭野弟上娘子

[題詞](中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌)

左奴流欲波 於保久安礼杼母 毛能毛波受 夜須久奴流欲波 佐祢奈伎母能乎

さ寝る夜は 多くあれども 物思はず 安く寝る夜は さねなきものを 

さぬるよは おほくあれども ものもはず やすくぬるよは さねなきものを
・・・・・・・・・・・
寝る夜は幾夜もありますが

物思いせずに心安らかに寝る夜は

まったくありません
・・・・・・・・・・・

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