ニキタマの万葉集

当て字の繭玉をほぐそう、枕詞で古代を解明しよう。

万葉集索引第十六巻

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3691遣新羅使,挽歌,雪宅麻呂,作者:葛井子老,枕詞,哀悼,壱岐,長崎

[題詞]


・・・・・・・・・・・・
天地等ー天地とー[あめつちと]ー天地と
登毛尓母我毛等ーともにもがもとー共に長生きしたいと
於毛比都々ー思ひつつーおもひつつー思いながら
安里家牟毛能乎ーありけむものをーありけむものをー生きていただろうに
波之家也思ーはしけやしーいたわしいことよ
伊敝乎波奈礼弖ー家を離れてーいへをはなれてー家を離れて
奈美能宇倍由ー波の上ゆーなみのうへゆー波のうえを
奈豆佐比伎尓弖ーなづさひ来にてーなづさひきにてー水に浮いて(浸かって)漂い来た
安良多麻能ー[あらたまの]ー
月日毛伎倍奴ー月日も来経ぬーつきひもきへぬー月日は経ち
可里我祢母ー雁がねもーかりがねもー雁が
都藝弖伎奈氣婆ー継ぎて来鳴けばーつぎてきなけばー来て鳴く秋になって
多良知祢能ー[たらちねの]ー
波々母都末良母ー母も妻らもーははもつまらもー母も妻も
安<佐>都由尓ー朝露にーあさつゆにー朝露の中で
毛能須蘇比都知ー裳の裾ひづちーものすそひづちー着物の裾を引きずり
由布疑里尓ー夕霧にーゆふぎりにー夕霧の中で
己呂毛弖奴礼弖ー衣手濡れてーころもでぬれてー衣の袖を濡らしながら
左伎久之毛ー幸くしもーさきくしもー君が無事で
安流良牟其登久ーあるらむごとくーいるかとばかりに
伊○見都追ー出で見つつーいでみつつー門を出ては
麻都良牟母能乎ー待つらむものをーまつらむものをー待っていようものを
世間能ー世間のーよのなかのー世の中の
比登<乃>奈氣伎<波>ー人の嘆きはーひとのなげきはー人の嘆きを
安比於毛波奴ー相思はぬーあひおもはぬー思いいたらぬ・思ってもくれない
君尓安礼也母ー君にあれやもーきみにあれやもー君ではないのに
安伎波疑能ー秋萩のーあきはぎのー秋萩の
知良敝流野邊乃ー散らへる野辺のーちらへるのへのー散りしきる野辺に
波都乎花ー初尾花ーはつをばなー初尾花の
可里保尓布<伎>弖ー仮廬に葺きてーかりほにふきてー仮廬を葺いて
久毛婆奈礼ー雲離れー[くもばなれ]ー雲が切れ・遠く離れ
等保伎久尓敝能ー遠き国辺のーとほきくにへのー(故郷を遠く離れた)この壱岐で
都由之毛能ー露霜のー[つゆしもの]ー露霜のおりる
佐武伎山邊尓ー寒き山辺にーさむきやまへにー寒い山辺に
夜杼里世流良牟ー宿りせるらむーやどりせるらむー宿る・屍をさらす君よ
・・・・・・・・・・・・
  

 
 
3692遣新羅使,挽歌,雪宅麻呂,作者:葛井子老,哀悼,壱岐,長崎

[題詞]反歌二首

波之家也思 都麻毛古杼毛母 多可多加尓 麻都良牟伎美也 之麻我久礼奴流

はしけやし 妻も子どもも 高々に 待つらむ君や 島隠れぬる 

はしけやし つまもこどもも たかたかに まつらむきみや しまがくれぬる
・・・・・・・・・・・・
いとおしい妻も子供も

いま帰るかいま帰るかと

首を長くして

待っているだろうに

その君がこんな辺鄙な島に 

隠くれてしまうなんて
・・・・・・・・・・・・
* 「はしけやし」 形容詞「は(愛)し」の連体形+間投助詞「やし」。いとおしい



3693遣新羅使,挽歌,雪宅麻呂,作者:葛井子老,枕詞,哀悼,壱岐,長崎

[題詞](反歌二首)

毛美知葉能 知里奈牟山尓 夜杼里奴流 君乎麻都良牟 比等之可奈之母

黄葉の 散りなむ山に 宿りぬる 君を待つらむ 人し悲しも 

もみちばの ちりなむやまに やどりぬる きみをまつらむ ひとしかなしも
・・・・・・・・・・・・
もみじ葉の散り降る山の土を

宿り場にして逝ってしまった

君の帰りを待っているだろう家人が

哀れに思われることだ
・・・・・・・・・・・・



3694遣新羅使,挽歌,作者:六人部鯖麻呂,哀悼,雪宅麻呂,壱岐,長崎

[題詞]

・・・・・・・・・・・・
和多都美能ー[わたつみの]ー海神のいます
<可>之故伎美知乎ー畏き道をーかしこきみちをー恐ろしい道を
也須家口母ー安けくもーやすけくもー安らかな思いの
奈久奈夜美伎弖ーなく悩み来てーなくなやみきてー何一つなく来て
伊麻太尓母ー今だにもーいまだにもー今からは
毛奈久由可牟登ー喪なく行かむとーもなくゆかむとー禍もなく行こうと
由吉能安末能ー壱岐の海人のーゆきのあまのー壱岐の海人部の
保都手乃宇良敝乎ーほつての占部をーほつてのうらへをー名高い占(うら)で
可多夜伎弖ー肩焼きてーかたやきてー肩骨を焼いての
由加武<等>須流尓ー行かむとするにーゆかむとするにーこれから往こうとする矢先に
伊米能其等ー夢のごとーいめのごとー夢のように
美知能蘇良治尓ー道の空路にーみちのそらぢにー空へ旅立つ
和可礼須流伎美ー別れする君ーわかれするきみー別れをする君よ
・・・・・・・・・・・・
 


3695遣新羅使,挽歌,作者:六人部鯖麻呂,哀悼,雪宅麻呂,序詞,壱岐,長崎

[題詞]反歌二首

牟可之欲里 伊比<祁>流許等乃 可良久尓能 可良久毛己許尓 和可礼須留可聞

昔より 言ひけることの 韓国の からくもここに 別れするかも 

[むかしより いひけることの からくにの] からくもここに わかれするかも
・・・・・・・・・・・・
昔より言われてきたように

からくにのその名のように辛くても

ここで貴方と別れをしよう
・・・・・・・・・・・・



3696遣新羅使,挽歌,作者:六人部鯖麻呂,哀悼,雪宅麻呂,壱岐,長崎

[題詞](反歌二首)

新羅奇敝可 伊敝尓可加反流 由吉能之麻 由加牟多登伎毛 於毛比可祢都母

新羅へか 家にか帰る 壱岐の島 行かむたどきも 思ひかねつも 

しらきへか いへにかかへる ゆきのしま ゆかむたどきも おもひかねつも
・・・・・・・・・・・・
新羅へゆくか

家へに帰るか

ゆきの島

帰るか行くか

方便すら覚束ない
・・・・・・・・・・・・



3697遣新羅使,長崎,対馬,叙景

[題詞]到對馬嶋淺茅浦舶泊之時不得順風經停五箇日於是瞻望物華各陳慟心作歌三首

毛母布祢乃 波都流對馬能 安佐治山 志具礼能安米尓 毛美多比尓家里

百船の 泊つる対馬の 浅茅山 しぐれの雨に もみたひにけり 

ももふねの はつるつしまの あさぢやま しぐれのあめに もみたひにけり
・・・・・・・・・・・・
多くの渡り船が泊まる対馬で

しぐれの雨に黄葉する

浅茅山よ

いつまで停泊させるのか
・・・・・・・・・・・・



3698遣新羅使,長崎,対馬,望郷,枕詞

[題詞](到對馬嶋淺茅浦舶泊之時不得順風經停五箇日於是瞻望物華各陳慟心作歌三首)

安麻射可流 比奈尓毛月波 弖礼々杼母 伊毛曽等保久波 和可礼伎尓家流

天離る 鄙にも月は 照れれども 妹ぞ遠くは 別れ来にける 

[あまざかる] ひなにもつきは てれれども いもぞとほくは わかれきにける
・・・・・・・・・・・・
対馬でも月は照っているが

都にいる妻とは

なんと遠く離れて来たものよ
・・・・・・・・・・・・
妹ぞ=「月は」に対して「妹」取り立てた表現。
作者・・遣新羅使=けんしらぎし。668年から836年まで28回行っているが、ここでは736年の遣新羅使。この頃は日本と新羅国は仲が悪く、遣新羅使はなかなか受け入れてもらえず、大変苦労している。<名歌鑑賞>
https://blogs.yahoo.co.jp/sakuramitih15/40483050.html?vitality

3699遣新羅使,長崎,対馬,望郷

[題詞](到對馬嶋淺茅浦舶泊之時不得順風經停五箇日於是瞻望物華各陳慟心作歌三首)

安伎左礼婆 於久都由之毛尓 安倍受之弖 京師乃山波 伊呂豆伎奴良牟

秋去れば 置く露霜に あへずして 都の山は 色づきぬらむ 

あきされば おくつゆしもに あへずして みやこのやまは いろづきぬらむ
・・・・・・・・・・・・
秋がきてしまった

地に置く露霜にあらがえず

黄葉する対馬の嶺を見れば思う 

京の山の色付いているあの景色を
・・・・・・・・・・・・



3700遣新羅使,長崎,対馬,叙景,作者:阿倍継麻呂

[題詞]竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首

安之比奇能 山下比可流 毛美知葉能 知里能麻河比波 計布仁聞安流香母

あしひきの 山下光る 黄葉の 散りの乱ひは 今日にもあるかも 

[あしひきの] やましたひかる もみちばの ちりのまがひは けふにもあるかも
・・・・・・・・・・・・
山裾が照り輝く黄葉の

その散りまがう景色は

今日も盛りであろうか

京もまた
・・・・・・・・・・・・



3701遣新羅使,長崎,対馬,望郷,作者:大伴三中

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

多可之伎能 母美知乎見礼婆 和藝毛故我 麻多牟等伊比之 等伎曽伎尓家流

竹敷の 黄葉を見れば 吾妹子が 待たむと言ひし 時ぞ来にける 

たかしきの もみちをみれば わぎもこが またむといひし ときぞきにける
・・・・・・・・・・・
竹敷の木の葉が色づくのを見ると

妻が帰りを待っていると言った

その時がもうきてしまったのだ
・・・・・・・・・・・



3702遣新羅使,長崎,対馬,叙景,作者:壬生宇太麻呂

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

多可思吉能 宇良<未>能毛美知 <和>礼由伎弖 可敝里久流末R 知里許須奈由米

竹敷の 浦廻の黄葉 吾れ行きて 帰り来るまで 散りこすなゆめ 

たかしきの うらみのもみち われゆきて かへりくるまで ちりこすなゆめ
・・・・・・・・・・・
竹敷の浦のモミジ葉よ

新羅へ行って還って来るまで

けっして散ってしまうな
・・・・・・・・・・・



3703遣新羅使,長崎,対馬,叙景,作者:大蔵麻呂

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

多可思吉能 宇敝可多山者 久礼奈為能 也之保能伊呂尓 奈里尓家流香聞

竹敷の 宇敝可多山は 紅の 八しほの色に なりにけるかも 

たかしきの うへかたやまは くれなゐの やしほのいろに なりにけるかも
・・・・・・・・・・・
竹敷の 宇敝可多山は

紅花で何度も染めた

八しほの色に色付いたことよ
・・・・・・・・・・・
* 「八しほの色」いく度も繰り返し染め汁に浸して染めた濃い色。
* 「ベニバナ 紅花」を水に浸して「黄」を溶かし出し、アクに浸すと紅色色素(カーサミン)が溶けて出る。
これに酢を加えると、カーサミンが沈殿する。
伝統的な口紅は、この沈殿したカーサミンからつくった。

紅花油を燃やして出る煤から紅花墨ができる。
舶来の呉藍(くれのあい)が訛ってクレナイ。

眉掃(まゆは)きを俤(おもかげ)にして紅粉(べに)の花  芭蕉 




3704遣新羅使,長崎,対馬,遊行女婦,作者:玉槻,女歌

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

毛美知婆能 知良布山邊由 許具布祢能 尓保比尓米R弖 伊R弖伎尓家里

黄葉の 散らふ山辺ゆ 漕ぐ船の にほひにめでて 出でて来にけり 

もみちばの ちらふやまへゆ こぐふねの にほひにめでて いでてきにけり
・・・・・・・・・・・
黄葉が宙を散り流れる

山辺近くを漕ぐ船は

山が黄葉で染まるのを愛でるように

舟出して来たようです
・・・・・・・・・・・



3705遣新羅使,長崎,対馬,地名,遊行女婦,作者:玉槻,女歌

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

多可思吉能 多麻毛奈<婢>可之 己<藝>R奈牟 君我美布祢乎 伊都等可麻多牟

竹敷の 玉藻靡かし 漕ぎ出なむ 君がみ船を いつとか待たむ 

たかしきの たまもなびかし こぎでなむ きみがみふねを いつとかまたむ
・・・・・・・・・・・
竹敷の海の

美しい藻を靡せながら

貴方の乗る御船は漕ぎ出して行く

でも 教えて欲しい

お帰りをいつと思って

お待ちしたらいいかを
・・・・・・・・・・・



3706遣新羅使,土地讃美,長崎,対馬,作者:阿倍継麻呂

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

多麻之家流 伎欲吉奈藝佐乎 之保美弖婆 安可受和礼由久 可反流左尓見牟

玉敷ける 清き渚を 潮満てば 飽かず吾れ行く 帰るさに見む 

[たましける] きよきなぎさを しほみてば あかずわれゆく かへるさにみむ
・・・・・・・・・・・
玉を敷いたような清らかな渚に

潮が満ちて船出のときがきた

愛でて飽きない渚だが

また ここに還って来て見よう
・・・・・・・・・・・
* 



3707遣新羅使,土地讃美,長崎,対馬,作者:壬生宇太麻呂

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

安伎也麻能 毛美知乎可射之 和我乎礼婆 宇良之保美知久 伊麻太安可奈久尓

秋山の 黄葉をかざし 吾が居れば 浦潮満ち来 いまだ飽かなくに 

あきやまの もみちをかざし わがをれば うらしほみちく いまだあかなくに
・・・・・・・・・・・
秋山の黄葉を髪に挿して

私が楽しんで居る間に

浦に潮が満ちて来た

まだ飽きてはいないが

行かなければ
・・・・・・・・・・・



3708遣新羅使,望郷,長崎,対馬,作者:阿倍継麻呂

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

毛能毛布等 比等尓波美要<緇> 之多婢毛能 思多由故布流尓 都<奇>曽倍尓家流

物思ふと 人には見えじ 下紐の 下ゆ恋ふるに 月ぞ経にける 

ものもふと ひとにはみえじ [したびもの] したゆこふるに つきぞへにける
・・・・・・・・・・・
物思いに沈んでいると人には見えまいが

下袴の紐の郷の妻よ

心の中でひそかに恋い焦がれても

苦しく月日は経ていく
・・・・・・・・・・・



3709遣新羅使,長崎,対馬,望郷,みやげ

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

伊敝豆刀尓 可比乎比里布等 於伎敝欲里 与世久流奈美尓 許呂毛弖奴礼奴

家づとに 貝を拾ふと 沖辺より 寄せ来る波に 衣手濡れぬ 

いへづとに かひをひりふと おきへより よせくるなみに ころもでぬれぬ
・・・・・・・・・・・
家への土産に貝を拾おうとして

沖から打ち寄せる波に

私の袖が濡れたよ

きみをしのぶ

こみ上げた涙で濡れたんだ
・・・・・・・・・・・



3710遣新羅使,対馬,長崎

[題詞](竹敷浦舶泊之時<各>陳心緒作歌十八首)

之保非奈<婆> 麻多母和礼許牟 伊射遊賀武 於伎都志保佐為 多可久多知伎奴

潮干なば またも吾れ来む いざ行かむ 沖つ潮騒 高く立ち来ぬ 

しほひなば またもわれこむ いざゆかむ おきつしほさゐ たかくたちきぬ
・・・・・・・・・・・
潮が干いたらまた 来ればいい

さあ 行こうか

沖から潮騒の音が

高く立って来たから

潮が干いたらまた来ればいい
・・・・・・・・・・・


3803 雑歌,歌物語,密会,婚姻,女歌,人目,作者:娘子

[題詞]
昔者有壮士與美女也[姓名未詳] 昔 男と美女がいた(その姓名は未だ詳しからず)。
不告二親竊為交接  両親に告げないまま密かに男女の交わりを行った
於時娘子之意欲親令知 その時、娘は親に二人の関係を知らせようと思った
因作歌詠送與其夫 そこで、歌を作ってその恋人に送り与えた

歌曰

隠耳 戀<者>辛苦 山葉従 出来月之 顕者如何

隠りのみ 恋ふれば苦し 山の端ゆ 出でくる月の 顕さばいかに 

こもりのみ こふればくるし やまのはゆ いでくるつきの あらはさばいかに

・・・・・・・・・・・
親に隠れて貴方に恋しているので苦しい

山の端から出てくる月のように

あからさまに知らせたらどうでしょうか
・・・・・・・・・・・

 

3804 雑歌,歌物語,悲別,兵庫,挽歌,恨

[題詞]
昔者有壮士 昔 男がいた
新成婚礼也 新たに婚礼を行った
未經幾時忽為驛使被遣遠境  未だ幾らも経たない時に、急に駅使に任じられ、遠境に遣わされた
公事有限會期無日 公の仕事には規定があり私事で会う日は無い
於是娘子 そこで娘は
感慟悽愴沈臥疾エ 嘆き悲しみ病の床に伏した
累<年>之後壮士還来覆命既了 年を重ねた後に男が帰り任務完了の報告を既に終えた
乃詣相視而娘子之姿容疲羸甚異言語哽咽 そして娘の処来て互いに姿を見ると、娘の姿 顔形はやつれ果てて言葉はむせぶばかりであった
于時壮士哀嘆流涙裁歌口号  その時男は哀嘆の涙を流し歌を作り口ずさんだ

其歌一首

如是耳尓 有家流物乎 猪名川之 奥乎深目而 吾念有来

かくのみに ありけるものを 猪名川の 沖を深めて 吾が思へりける 

かくのみに ありけるものを ゐながはの おきをふかめて わがもへりける

・・・・・・・・・・・
仕事にかまけていても忘れたことはない
あなたがここにいると思えばこそやれた
猪名川の川底より深い悲しさ 
遠い沖を見るより辛かった
ずっとそばに居たかった
もうどこにも行かないからね
・・・・・・・・・・・



3805 雑歌,枕詞,歌物語,女歌,恋,悲別,作者:娘子

[題詞]娘子臥聞夫君之歌従枕擧頭應聲和歌一首

[原文]烏玉之 黒髪所<沾>而 沫雪之 零也来座 幾許戀者

ぬばたまの 黒髪濡れて 沫雪の 降るにや来ます ここだ恋ふれば 

[ぬばたまの] くろかみぬれて あわゆきの ふるにやきます ここだこふれば

・・・・・・・・・・・
黒髪は濡れて
沫雪が降る
それでも貴方来ました
私がこれほどに慕っていたから
・・・・・・・・・・・



3806 雑歌,歌物語,密会,結婚,墳墓,人目,女歌,恋,伝承,作者:娘子

[題詞]

[原文]事之有者 小泊瀬山乃 石城尓母 隠者共尓 莫思吾背

事しあらば 小泊瀬山の 石城にも 隠らばともに な思ひそ吾が背 

ことしあらば をばつせやまの いはきにも こもらばともに なおもひそわがせ

・・・・・・・・・・・
もし 何かがあって
小泊瀬山のお墓に入ることがあるなら
貴方と二人一緒です
そんなに色々と心配しないで
私の貴方
・・・・・・・・・・・



3807 雑歌,歌物語,伝承,福島県,葛城王,女歌,橘諸兄,恋,序詞,作者:采女

[題詞]
[左注]右の歌は、伝へて云はく、「葛城王、陸奥の国に遣はさえける時に、国司の祇承、緩怠にあること異にはなはだし。時に、王の意悦びずして、怒りの色面に顕れぬ。飲饌を設くといへども、あへて宴楽せず。ここに前の采女あり。風流の娘子なり。左手に觴を捧げ、右手に水を持ち、王の膝を撃ちて、この歌を詠む。すなわち、王の意解け悦びて、楽飲すること終日なり」といふ。


安積香山 影副所見 山井之 淺心乎 吾念莫國

安積山 影さへ見ゆる 山の井の 浅き心を 吾が思はなくに 

[あさかやま かげさへみゆる やまのゐの] あさきこころを わがおもはなくに

・・・・・・・・・・・
安積山の影が写る泉のような浅い心で
貴方ををおもてなししょうとは
私は思わない
国の誰がそう思うとも
・・・・・・・・・・・

* 「安積山」は、福島郡山市の北部にある山。
* 「山の井」は、湧水がたまって、山中に自然にできた井戸。
* 「浅き」は、程度が軽いこと。
* 「吾が思はなくに」は、名詞「吾」、
* 「が」主格の格助詞。 
* 「思は」ハ行四段活用動詞「思ふ」の未然形、
* 「なく」打消の助動詞「ず」のク語法未然形、
 「ク語法」。「〜なく」 連体形の「ぬ」に「あく」を加えて名詞化する、和歌では動詞に付けて助詞「に」を添え、「飽かなくに」「思はなくに」などと遣うことが多い。
* 「に」逆接の接続助詞。 
(参照)http://blogs.yahoo.co.jp/rasa_20/54355559.html




3808 雑歌,歌物語,伝承,歌垣,野遊び,妻讃美,住吉,大阪

[題詞]

[左注]右傳云 昔者鄙人 姓名未詳也 于時郷里男女衆集野遊 是會集之中有鄙人 夫婦 其婦容姿端正秀於衆諸 乃彼鄙人之意弥増愛妻之情 而作斯歌賛嘆美皃也
右は伝えて云うに「昔 (鄙と 人ひと)田舎者がいた。姓名は未だ詳しくは判らない。時に、里の男女が寄り集まって野遊びをした。この集まった人々の中に田舎者の夫婦がいた。その妻の容姿の美しさは衆諸(もろひと)より秀でていた。そこで、その田舎者は、さらに妻を愛でる気持ちが増さり、そこでこの歌を作って、妻の美貌を賛嘆した」という。


墨江之 小集樂尓出而 寤尓毛 己妻尚乎 鏡登見津藻

住吉の 小集楽に出でて うつつにも おの妻すらを 鏡と見つも 

すみのえの をづめにいでて うつつにも おのづますらを かがみとみつも

・・・・・・・・・・・
墨江のちょっとした野良遊び
大勢寄った人の中でさえ
夢にもうつつにも自分の妻が
鏡のように輝いていると思えたよ
・・・・・・・・・・・



3809 雑歌,歌物語,伝承,女歌,恨,失恋

[題詞]

商變 領為跡之御法 有者許曽 吾下衣 反賜米

商返し めすとの御法 あらばこそ 吾が下衣 返し給はめ 

あきかへし めすとのみのり あらばこそ あがしたごろも かへしたまはめ

・・・・・・・・・・・
買った品さえ事情次第で
商売がなかったことを許すという
御法があるのだから
貴方が抱いた下衣に包んだ私の体や思いを
元のようにして返してくださいな
・・・・・・・・・・・

* 「商返し」は、「借金は全部御破算にして、担保は全部持ち主に返すように」という、 「領為(めす・れい)との御法」状況の変化に基づいて大切な品物の返還要求ができるという法令。つまり徳政令。




3810 雑歌,歌物語,伝承,恨,失恋,女歌

[題詞]

味飯乎 水尓醸成 吾待之 代者曽<无> 直尓之不有者

味飯を 水に醸みなし 吾が待ちし かひはかつてなし 直にしあらねば 

うまいひを みづにかみなし わがまちし かひはかつてなし ただにしあらねば

・・・・・・・・・・・
上等な飯を水と共に口醸みして
私が待っていた酒が出来上がる時に
貴方が現れないのでは
私が待っていた甲斐がまったくありませんよ
・・・・・・・・・・・


3811雑歌,枕詞,恋,女歌,歌物語,伝承,作者:車持娘子

[題詞]戀夫君歌一首[并短歌]

[左注](右傳云 時有娘子 姓車持氏也 其夫久逕年序不作徃来 于時娘子係戀傷心 沈臥痾エ 痩羸日異忽臨泉路 於是遣使喚其夫君来 而乃歔欷流な口号斯歌 登時逝歿也)


・・・・・・・・・・・
左耳通良布ーさ丹つらふー[さにつらふ]ー
君之三言等ー君がみ言とーきみがみこととー聞きたかった愛しの言葉
玉梓乃ー玉梓のー[たまづさの]ー
使毛不来者ー使も来ねばーつかひもこねばー伝える使いも来ないので
憶病ー思ひ病むーおもひやむー恋はつのり患う
吾身一曽ー吾が身ひとつぞーあがみひとつぞー私の身はただ独り
千<磐>破ー[ちはやぶる]ー
神尓毛莫負ー神にもな負ほせーかみにもなおほせー神のせいにはしない
卜部座ー占部据ゑー[うらへすゑ]ー
龜毛莫焼曽ー亀もな焼きそーかめもなやきそー亀の甲羅を焼くなどもしない
戀之久尓ー恋ひしくにーこひしくにー片恋するのが
痛吾身曽ー痛き我が身ぞーいたきあがみぞー痛ましい私の身の定め
伊知白苦ー[いちしろく]ー
身尓染<登>保里ー身にしみ通りーみにしみとほりー身に染み透り
村肝乃ー[むらきもの]ー
心砕而ー心砕けてーこころくだけてー心は張り裂けて
将死命ー死なむ命ーしなむいのちー死にいくこの命
尓波可尓成奴ーにはかになりぬー病は悪化していく
今更ー今さらにーいまさらにー今さらに
君可吾乎喚ー君か吾を呼ぶーきみかわをよぶー貴方は私を呼ぶでしょうか
足千根乃ー[たらちねの]ー
母之御事歟ー母のみ言かーははのみことかー母の行いか
百不足ー百足らずー[ももたらず]ー
八十乃衢尓ー八十の衢にーやそのちまたにー多くの辻に
夕占尓毛ー夕占にもー[ゆふけにも]ー
卜尓毛曽問ー占にもぞ問ふーうらにもぞとふー夕占に願を占う
應死吾之故ー死ぬべき吾がゆゑーしぬべきわがゆゑー死に行く私なのに
・・・・・・・・・・・




3812 雑歌,恋情,女歌,歌物語,伝承,作者:車持娘子

[題詞](戀夫君歌一首[并短歌])反歌

卜部乎毛 八十乃衢毛 占雖問 君乎相見 多時不知毛

占部をも 八十の衢も 占問へど 君を相見む たどき知らずも 

うらへをも やそのちまたも うらとへど きみをあひみむ たどきしらずも

・・・・・・・・・・・
卜の斎瓮にも
八十辻占にも問うが
貴方に直逢うことすらの
手段を知ることがない
・・・・・・・・・・・
* 「うら・べ」 【卜部・占部】名詞  律令制で、「神祇官(じんぎくわん)」に属し、占いをつかさどった職。また、その職にある者。



3813 雑歌,歌物語,女歌,枕詞,恋,伝承,作者:車持娘子

[題詞](戀夫君歌一首[并短歌])或本反歌曰

吾命者 惜雲不有 散<追>良布 君尓依而曽 長欲為

吾が命は 惜しくもあらず さ丹つらふ 君によりてぞ 長く欲りせし 

わがいのちは をしくもあらず [さにつらふ] きみによりてぞ ながくほりせし

・・・・・・・・・・・
私の命は惜しくはありません
ただ 貴方に寄り添えてさえいれば
長く居たいと思うだけです
・・・・・・・・・・・

* 「さに‐つらう」[枕]「つらう」は「つら(頬)」の動詞化という。
赤く照り映える意で、「色」「黄葉(もみち)」「君」「妹」などにかかる。




3814 雑歌,求婚,譬喩,歌物語,伝承,恋

[題詞]贈歌一首

真珠者 緒絶為尓伎登 聞之故尓 其緒復貫 吾玉尓将為

白玉は 緒絶えしにきと 聞きしゆゑに その緒また 貫き吾が玉にせむ 

しらたまは をだえしにきと ききしゆゑに そのをまたぬき わがたまにせむ

・・・・・・・・・・・
真珠を繋いでいた緒が切れてしまった
そう聞きました
その切れた緒をまた真珠に通して
改めて私の宝玉にしたいときめました
・・・・・・・・・・・




3815 雑歌,譬喩,歌物語,伝承,恋

[題詞]答歌一首

[左注]右傳云 時有娘子 夫君見棄改適他氏也 于時或有壮士 不知改適此歌贈 遣請誂於女之父母者 於是父母之意壮士未聞委曲之旨 乃作彼歌報送以顕改適之縁也


白玉之 緒絶者信 雖然 其緒又貫 人持去家有

白玉の 緒絶えはまこと しかれども その緒また貫き 人持ち去にけり 

しらたまの をだえはまこと しかれども そのをまたぬき ひともちいにけり

・・・・・・・・・・・
白玉の緒が切れたことは本当です
でも その切れた緒を白玉に通しなおして
他の人がすでに持ち去りました
・・・・・・・・・・・




3816 雑歌,作者:穂積皇子,宴席,伝承,誦詠,戯笑,恋

[題詞]穂積親王御歌一首

[左注]右歌一首穂積親王宴飲之日酒酣之時好誦斯歌以為恒賞也


家尓有之 櫃尓カ刺 蔵而師 戀乃奴之 束見懸而

家にありし 櫃にかぎさし 蔵めてし 恋の奴の つかみかかりて 

いへにありし ひつにかぎさし をさめてし こひのやつこの つかみかかりて

・・・・・・・・・・・
家に置いてある櫃に鍵を掛けて
人目を避けて大切に納めておいた宝玉を
恋の奴が掴みかかってきて奪い去ったのだ
・・・・・・・・・・・

【名歌鑑賞10】森 明著
<万葉集巻二:203歌・(巻八:1513・1514歌)・(巻十六:3816歌)>
http://f-kowbow.com/ron/meika10/meika10.htm




3817 雑歌,作者:河村王,誦詠,伝承,宴席,戯笑,恋

[題詞]

[左注](右歌二首河村王宴居之時弾琴而即先誦此歌以為常行也)


可流羽須波 田廬乃毛等尓 吾兄子者 二布夫尓咲而 立麻為所見 [田廬者多夫世<反>]

かるうすは 田ぶせの本に 吾が背子は にふぶに笑みて 立ちませり見ゆ 
[田廬者多夫世<反>]

かるうすは たぶせのもとに わがせこは にふぶにゑみて たちませりみゆ

・・・・・・・・・・・
二人で搗く唐臼(からうす)は
田圃の伏屋の中にあると
愛しい貴方が
にこにこと微笑みながら
立っておいでになるのが見える
・・・・・・・・・・・





3818 雑歌,作者:河村王,誦詠,伝承,宴席,戯笑,恋

[題詞]

[左注]右歌二首河村王宴居之時弾琴而即先誦此歌以為常行也


朝霞 香火屋之下乃 鳴川津 之努比管有常 将告兒毛欲得

朝霞 鹿火屋が下の 鳴くかはづ 偲ひつつありと 告げむ子もがも 

[あさかすみ] かひやがしたの なくかはづ しのひつつありと つげむこもがも

・・・・・・・・・・・
朝霞の中
鹿火屋の下で鳴く蛙の啼き声のように
しのひつ しのひつと
忍びあう恋を告げてくれる
そんな娘がほしいなあ
・・・・・・・・・・・



3819 雑歌,作者:小鯛王,宴席,奈良,譬喩,恋,伝承,誦詠,置始工,置始多久美,遊行女婦

[題詞]

[左注](右歌二首小鯛王宴居之日取琴 登時必先吟詠此歌也 其小鯛王者更名置始多久美斯人也)

暮立之 雨打零者 春日野之 草花之末乃 白露於母保遊

夕立の 雨うち降れば 春日野の 尾花が末の 白露思ほゆ 

ゆふだちの あめうちふれば かすがのの をばながうれの しらつゆおもほゆ

・・・・・・・・・・・
夕立の雨が打ち降ったあとに
春日の野の尾花の穂先につく白露が
また物を思わせることよ
・・・・・・・・・・・

* 「夕立ち」は、タ行四段活用動詞「夕立つ」の連用形が名詞化したもの。* 「うち」は接頭語。
* 「降れ」は、ラ行四段活用動詞「降る」の已然形。
* 「ば」偶然条件の接続助詞。 
* 「尾花」は、すすきの花穂。
* 「末(うれ)」は、木の枝や草の葉の先端。
* 「思ほゆ」は、ハ行四段活用動詞「思ふ」の未然形。
* 「ゆ」は、(上代語)自発の助動詞。「おもはゆ」の転。 




3820 雑歌,作者:小鯛王,置始工,置始多久美,誦詠,宴席,伝承,遊行女婦,恋

[題詞]

[左注]右歌二首小鯛王宴居之日取琴 登時必先吟詠此歌也 其小鯛王者更名置始多久美斯人也
右の歌二首、小鯛王(こだひのおほきみ)、宴居の日に、 琴を取れば登時(そのとき)必ず先ず、この歌を吟詠す。 その小鯛王は更(また)の名を置始多久美(おきそめの たくみ)といふ、この人なり。


夕附日 指哉河邊尓 構屋之 形乎宜美 諾所因来

夕づく日 さすや川辺に 作る屋の 形をよろしみ うべ寄そりけり 

ゆふづくひ さすやかはへに つくるやの かたをよろしみ うべよそりけり

・・・・・・・・・・・
夕日が射している川辺の
そこにに建っている家の形が美しい
まことに 求めるものがあるのか
自然に引き寄せられることだなあ
・・・・・・・・・・・


3821,雑歌,作者:兒部女王,尺度,大阪,坂門氏,嘲笑,伝承,戯笑,恋

[題詞]兒部女王嗤歌一首(児部女王の嗤ふ歌一首)

[左注]右時有娘子 姓尺度氏也 此娘子不聴高姓美人之所誂應許下姓い士之所誂也 於是兒部女王裁作此歌嗤咲彼愚也(右は、ある時に娘子あり。姓尺度(さかと)氏なり。此の娘子(ほとめ)高き姓(かばね)の美人(うまひと)の誂(あと)ふるを聴(ゆる)さずして、下(ひく)き姓の霏士(しこを)の誂ふるを応許(ゆる)す。そこで児部女王(こべのおおきみ)、此の歌を裁作(つく)りて、その愚かなるを嗤咲(わら)った。)

美麗物 何所不飽矣 坂門等之 角乃布久礼尓 四具比相尓計六

うましもの いづく飽かじを さかとらが 角のふくれに しぐひ合ひにけむ 

うましもの いづくあかじを さかとらが つののふくれに しぐひあひにけむ

・・・・・・・・・・・・
あんなに美女はどんな男でも選べたろうに
尺度の娘は選りにもよってあんな太っちょと
どうした因縁で結婚したんでしようか
・・・・・・・・・・・・

* 美麗物 = うましもの・くはしもの。上代語で、「細やかで美しい」「すぐれて美しい」の意。くはし女(美しい女性)
 「うまし」(形シク)は、立派だ。美しい。
* 何所不飽矣 = 何所飽かじを・いづくか飽かじ<「いづく」は「どちら」の意。>
* 坂門等之 = 尺度らが・さかとらし<「尺度」は「河内国(現在の羽曳野市周辺)」に本拠地を置く氏族。「坂戸物部(さかとののもののべ)」といわれる伴部系豪族である。>「ら」は、「ら」は複数ではなく、親しみの気持ちを表わし、ややそのものを低くみるもの。自称語に付く場合は謙譲の意を表す。
*  角のふくれ = 醜男の形容<「角」は名前。 「ふくれ」は「太ったもの」「デブ」の意。>
* 「しぐひ・あふ」;「し」は接頭語か。男女がくっつきあう。かみあう。
* 「誂(あと)ふ」「誂ふ」は「結婚を申し込む」の意。
* 「けむ」は過去の推量を表す助動詞で「〜ただろう」の意。
身分の高い姿かたちのいい男と結婚できただろうに。
* 「児部女王の嗤ふ」は、人の外面をと、内面をとの、いずれをもみて「嗤ふ」ではなかろうか。[左注]の記事をそのまま受取れば、単に外面からの「嘲笑」歌でしかないが。




3822,雑歌,地名,明日香,奈良,古歌,伝承,誦詠,椎野長年,恋

[題詞]古歌曰

[左注]右歌椎野連長年脉曰 夫寺家之屋者不有俗人寝處 亦稱若冠女曰放髪<丱>矣 然則<腹>句已云放髪<丱>者 尾句不可重云著冠之辞哉


橘 寺之長屋尓 吾率宿之 童女波奈理波 髪上都良武可

橘の 寺の長屋に 吾が率寝し 童女放髪は 髪上げつらむか 

たちばなの てらのながやに わがゐねし うなゐはなりは かみあげつらむか

・・・・・・・・・・・・
橘寺の長屋に引き込んで抱いた女の子は
もう一人前の娘になり
髪を結ひ上げているだらうか
・・・・・・・・・・・・

* 童女 = うなゐ・八歳位の女の子の髪
  放髪 = はなり・十四〜十五歳位の女の子のお下げ髪
  「童女放髪」を一語として女の子
  髪上げ = 成人した女が髪を結い上げること



3823,雑歌,推敲,異伝,伝承,宴席,転用,改作,恋

[題詞]决<曰>

橘之 光有長屋尓 吾率宿之 宇奈為放尓 髪擧都良武香

橘の 照れる長屋に 吾が率ねし 童女放髪に 髪上げつらむか 

たちばなの てれるながやに わがゐねし うなゐはなりに かみあげつらむか

・・・・・・・・・・・・
橘も照れる長屋に引き込んで
抱いたあのお下げ髪の少女は
髪上げしてだれかと結婚しているだろうか
・・・・・・・・・・・・



3824,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,伝承,誦詠

[題詞]長忌寸意吉麻呂歌八首

[左注]右一首傳云 一時衆<集>宴飲也 於<時>夜漏三更所聞狐聲 尓乃衆諸誘 奥麻呂曰 關此饌具雜器狐聲河橋等物但作歌者 即應聲作此歌也


刺名倍尓 湯和可世子等 櫟津乃 桧橋従来許武 狐尓安牟佐武

さし鍋に 湯沸かせ子ども 櫟津の 桧橋より来む 狐に浴むさむ 

さしなべに ゆわかせこども いちひつの ひばしよりこむ きつねにあむさむ

・・・・・・・・・・・・
さし鍋にお湯を沸かせ
みなの者よ
櫟津の桧橋をコンと来る狐に
湯を浴びせかけてやろうぞ
・・・・・・・・・・・・
<chi**kokkk>さん。
https://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/28452515.html?type=folderlist
歌の題材をかけて、即座に詠むことを、楽しむことが、持統朝の頃からあった。
志斐の嫗の「強い語り」を楽しんだのも、持統女帝でした。
即興歌の名人、長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)も、持統朝の人。

ある時、大勢が集まって酒盛りをした。真夜中頃、狐の鳴き声が聞こえた。
皆が、意吉麻呂をけしかけて、こう言った。
「ここにある饌具(せんぐ)・雑器(ぞうき)・狐声(こせい)・河橋(かきょう)にかけて、一首詠め。」と。
そこで、意吉麻呂は、間髪を容れずに、この歌を作った。

♪さし鍋に 湯沸かせ子ども 櫟津(いちひつ)の檜橋より来む 狐に浴むさむ(万葉集・巻16・3824)
(さし鍋の中に 湯を沸かせよ、ご一同。櫟津の 檜橋を渡って、コムコムとやって来る 狐めにあびせてやるのだ)

「さし鍋」は、つぎ口と柄のある鍋。←<饌具>
「櫟津」は、狐の渡って来た橋のある場所の名。←<櫃は、雑器>
「檜橋」は、檜で作った上等な橋←<河橋>
「来む」は、狐の鳴き声コム←<狐声>

立派な檜の橋を、狐めが、大威張りに渡って来るとは、けしからん。
大いに熱湯を沸かして、狐ねにぶっかけろ。とうたう。

専門歌人は、讃歌・挽歌ばかりでなく、こんな裏技も使えてこそ、世間の脚光を浴びるんですね。
意吉麻呂は、宴会部長みたい。
人気者だったでしょう。
意吉麻呂に逢ってみたい。(*^▽゜ *)ゞ^ ヾ☆<了>


3885,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠行騰蔓菁食薦屋梁歌

食薦敷 蔓菁煮将来 屋梁尓 行騰懸而 息此公

食薦敷き 青菜煮て来む 梁に むかばき懸けて 休むこの君 

すごもしき あをなにてこむ うつはりに むかばきかけて やすむこのきみ

・・・・・・・・・・・・
すごもを敷いて青菜を煮て持って来い
梁にむかばきを懸けて
あそこで寝ている奴に
・・・・・・・・・・・・

* 「むかばき」は、山野を歩く時、足に着けるもの。
* ブログ[重陽の節句を祝う]
http://blogs.yahoo.co.jp/mizunoene17/29738263.html?type=folderlist



3826,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠荷葉歌

蓮葉者 如是許曽有物 意吉麻呂之 家在物者 <宇>毛乃葉尓有之

蓮葉は かくこそあるもの 意吉麻呂が 家なるものは 芋の葉にあらし 

はちすばは かくこそあるもの おきまろが いへなるものは うものはにあらし

・・・・・・・・・・・・
蓮の葉に乗る仏像は貴いのでしょう
蓮の葉に乗る料理も立派だ
わが意吉麻呂家にある仏像も上さんも
里芋の葉に乗ったようなものですよ
・・・・・・・・・・・・

* 蓮の葉は宴席の美女、芋の葉は自分の妻の譬。

<chi**kokkk>さん。
https://blogs.yahoo.co.jp/chiyokokkk/28482976.html?type=folderlist
先々週、カンボジアに行った。
ホテル前の池の蓮の花が咲いた。
ピンク。
アンコールワットに出発する朝に咲いた。
水面から、すらりとのびた茎に咲く蓮花に気品がある。
空中に、浮かぶ蓮花は、神秘的でもある。
神様・仏様のお座布団になれたのも、なるほどしかり。
後で思ったことだけど、ツアーの安全を予祝して、咲いてくれたのかも・・・
だって、アンコールワットは、ロマンかと思ってたら、体育系だった。
ぐっしょり、疲れた。(#´ο`#)

さて、蓮葉。
意吉麻呂が、蓮観賞の宴に参加してうたう。
♪蓮葉(はちすば)は かくこそあるもの 意吉麻呂が 家にあるものは 芋(うも)の葉にあるらし                                    (万葉集・巻16・3826)
(蓮の葉というのは、まあ何とこういう姿のものであったのか。してみると、意吉麻呂の家にあるもの  なんかは、どうやら里芋の葉っぱだな)

宴会のおごちそうのお皿に、蓮の葉が使われていたのかも・・・
宴の主人の庭の蓮葉に、自宅の蓮葉と比べて、卑下してうたう。
自分の名を自分で呼ぶのは、謙遜した言い方らしい。
憶良も「憶良らは 今はまからむ・・・」とうたってる。

気高い蓮の葉に、高貴で美しい女性(女主人)を譬え、蓮に似てるけど卑近な芋の葉を、自分の妻に譬えている。
芋(うも)→妹(いも)
自分の妻を、わざと、おとしめて、相手(宴の主人)を褒めたたえている。
やんや、やんや。宴会が盛り上がったこと、間違いなし!<了>


3827,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠雙六頭歌

一二之目 耳不有 五六三 四佐倍有<来> 雙六乃佐叡

一二の目 のみにはあらず 五六三 四さへありけり 双六のさえ 

いちにのめ のみにはあらず ごろくさむ しさへありけり すぐろくのさえ

・・・・・・・・・・・・
一二の目だけではない
五六 三四もある
双六の目の冴えは人には読めん
・・・・・・・・・・・・



3828,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠香塔厠<屎>鮒奴歌

香塗流 塔尓莫依 川隈乃 屎鮒喫有 痛女奴

香塗れる 塔にな寄りそ 川隈の 屎鮒食める いたき女奴 

かうぬれる たふになよりそ かはくまの くそふなはめる いたきめやつこ

・・・・・・・・・・・・
香を塗りつけたように匂う
仏塔に近寄ってはいけない
厠のある川の屎を餌に育った鮒を食べる
汚い女召使がいると思え
・・・・・・・・・・・・




3829,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠酢醤蒜鯛水ク歌

醤酢尓 蒜都伎合而 鯛願 吾尓勿所見 水ク乃煮物

醤酢に 蒜搗きかてて 鯛願ふ 吾れにな見えそ 水葱の羹 

ひしほすに ひるつきかてて たひねがふ われになみえそ なぎのあつもの

・・・・・・・・・・・・
醤と酢でのびるを混ぜ合わせ
鯛に添えて和え物を作って食べようと
ちょうど想っているのに
私にそんなものを見せるな
水葱の煮物など
・・・・・・・・・・・・



3830,雑歌,物名,宴席,作者:長意吉麻呂,戯笑,即興,誦詠

[題詞]詠玉掃鎌天木香棗歌

玉掃 苅来鎌麻呂 室乃樹 與棗本 可吉将掃為

玉掃 刈り来鎌麻呂 むろの木と 棗が本と かき掃かむため 

たまばはき かりこかままろ むろのきと なつめがもとと かきはかむため

・・・・・・・・・・・・
玉掃の草をを刈って来なさい
そこの鎌麻呂さんよ
庭のむろの木と棗の木の下を掃除をしたいから
・・・・・・・・・・・・

* 「鎌麻呂」は鎌の擬人化。

<以下出典[たのしい万葉集]より転載>
* 「玉掃(たまははき/たまばはき)」は、キク科コウヤボウキ属の落葉小高木の高野箒(こうやぼうき)、またそれで作った箒のことです。山野・丘陵地に見られ、10〜11月頃に枝先に白い花を咲かせます。昔は、この枝を束ねて、儀式などに使う箒を作ったようです。

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