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3981 天平19年3月20日,作者:大伴家持,枕詞,望郷,恋情,悲別,高岡 [題詞](述戀緒歌一首[并短歌]) 安之比奇能 夜麻伎敝奈里○ 等保家騰母 許己呂之遊氣婆 伊米尓美要家里 [あしひきの] やまきへなりて とほけども こころしゆけば いめにみえけり ・・・・・・・・・・・
山が隔てて遠いけれども 心が行き通じ合ったので 夢で逢えたのだ ・・・・・・・・・・・ * 「へなり」は「隔て」の意であるが、「き」の意味するところは不詳。 3982 天平19年3月20日,作者:大伴家持,望郷,恋情,悲別,高岡 [題詞](述戀緒歌一首[并短歌]) 春花能 宇都路布麻泥尓 相見祢<婆> 月日餘美都追 伊母麻都良牟曽 はるはなの うつろふまでに あひみねば つきひよみつつ いもまつらむぞ ・・・・・・・・・・・
春の花が散ってしまうまで逢わなかったので 月日を数えながら妻は私を待っていることだろう ・・・・・・・・・・・ * 「つつ」は、接続助詞。動詞の連用形に付き、動作の反復・継続を表す。「繰り返し〜して」「そのたびに〜して」。 3983 天平19年3月29日,作者:大伴家持,枕詞,恨,高岡 [題詞]立夏四月既經累日而由未聞霍公鳥喧因作恨歌二首 (立夏四月既に累日を経ぬれども未だ霍公鳥の鳴くを聞かず因りて作る恨みの歌二首) 安思比奇能 夜麻毛知可吉乎 保登等藝須 都奇多都麻泥尓 奈仁加吉奈可奴 [あしひきの] やまもちかきを ほととぎす つきたつまでに なにかきなかぬ ・・・・・・・・・・・
ここは山も近いのに ほととぎすよ 立夏を過ぎて四月になっても 何故鳴きに来てくれないのか ・・・・・・・・・・・ 3984 天平19年3月29日,作者:大伴家持,恨,高岡 [題詞](立夏四月既經累日而由未聞霍公鳥喧因作恨歌二首) 多麻尓奴久 波奈多知<婆>奈乎 等毛之美思 己能和我佐刀尓 伎奈可受安流良之 たまにぬく はなたちばなを ともしみし このわがさとに きなかずあるらし ・・・・・・・・・・・
糸に通してくす玉にする花橘が 乏しいと見てか 霍公鳥はこの私の里に 来て鳴かないらしい ・・・・・・・・・・・ 3985 天平19年3月30日,作者:大伴家持,高岡,山讃美,寿歌,枕詞,依興,儀礼歌,土地讃美 [題詞]二上山賦一首 [此山者有射水郡也] ・・・・・・・・・・・
伊美都河泊ー射水川ーいみづがはーいみずがわ(射水川=小矢部川)が 伊由伎米具礼流ーい行き廻れるーいゆきめぐれるー麓を廻って流れる 多麻久之氣ー玉櫛笥ー[たまくしげ]ー 布多我美山者ー二上山はーふたがみやまはー二上山は 波流波奈乃ー春花のーはるはなのー春は花の 佐家流左加利尓ー咲ける盛りにーさけるさかりにー咲く盛りに 安吉<能>葉乃ー秋の葉のーあきのはのー秋は黄葉の 尓保敝流等伎尓ーにほへる時にーにほへるときにー鮮やかに色づく時に 出立○ー出で立ちてーいでたちてー外に出て 布里佐氣見礼婆ー振り放け見ればーふりさけみればー仰ぎ見れば 可牟加良夜ー神からやーかむからやー国神の神々しさからか 曽許婆多敷刀伎ーそこば貴きーそこばたふときーかくも貴く感じ 夜麻可良夜ー山からやーやまからやー山の品格からか 見我保之加良武ー見が欲しからむーみがほしからむーかくも目を惹かれるのか 須賣可未能ー統め神のーすめかみのー神を尊敬していう語 須蘇未乃夜麻能ー裾廻の山のーすそみのやまのー山の裾まわりの 之夫多尓能ー渋谿のーしぶたにのー富山県氷見市渋谷、いま雨晴(あまはらし)海岸と呼ばれるあたりを 言った 佐吉乃安里蘇尓ー崎の荒礒にーさきのありそにー海に入る渋谿の崎の荒磯に 阿佐奈藝尓ー朝なぎにーあさなぎにー朝なぎに 餘須流之良奈美ー寄する白波ーよするしらなみー寄せる白波 由敷奈藝尓ー夕なぎにーゆふなぎにー夕なぎに 美知久流之保能ー満ち来る潮のーみちくるしほのー満ちて来る潮 伊夜麻之尓ーいや増しにーいやましにーいよいよますます 多由流許登奈久ー絶ゆることなくーたゆることなくー絶えることなく 伊尓之敝由ーいにしへゆー遠い過去から 伊麻乃乎都豆尓ー今のをつつにーいまのをつつにー今現在に至るまで(今(いま)の現(おつつ)に) 可久之許曽ーかくしこそー「かくこそ」に強調の副助詞「し」が入ったもの。 このように 見流比登其等尓ー見る人ごとにーみるひとごとにー見る人すべてが 加氣○之努波米ー懸けて偲はめーかけてしのはめー心にかけて誉めしのぶことであろう ・・・・・・・・・・・ 3986 天平19年3月30日,作者:大伴家持,高岡,序詞,寿歌,儀礼歌,土地讃美,依興 [題詞](二上山賦一首 [此山者有射水郡也]) 之夫多尓能 佐伎能安里蘇尓 与須流奈美 伊夜思久思久尓 伊尓之敝於母保由 しぶたにの さきのありそに よするなみ いやしくしくに いにしへおもほゆ ・・・・・・・・・・・
渋谿の先の荒磯に 次々と寄せる波のように しきりに昔のことが思い起こされる ・・・・・・・・・・ ・ 3987 天平19年3月30日,作者:大伴家持,土地讃美,枕詞,高岡,寿歌,儀礼歌 [題詞](二上山賦一首 [此山者有射水郡也]) 多麻久之氣 敷多我美也麻尓 鳴鳥能 許恵乃孤悲思吉 登岐波伎尓家里 [たまくしげ] ふたがみやまに なくとりの こゑのこひしき ときはきにけり ・・・・・・・・・・・
二上山に鳴く鶯の 声に恋親しむ時が 今年もやってきた ・・・・・・・・・・・ 3988 天平19年4月16日,作者:大伴家持,枕詞,叙景 [題詞]四月十六日夜裏遥聞霍公鳥喧述懐歌一首 奴婆多麻<乃> 都奇尓牟加比C 保登等藝須 奈久於登波流氣之 佐刀騰保美可聞 [ぬばたまの] つきにむかひて ほととぎす なくおとはるけし さとどほみかも ・・・・・・・・・・・
春浅い月の夜に ほととぎすの鳴く声が 遥かに聞こえたようだ まだ里からは遠くにいるらしい ・・・・・・・・・・・ 3989 天平19年4月20日,作者:大伴家持,宴席,恋情,羈旅,出発,悲別,序詞,秦八千島,高岡 [題詞]大目秦忌寸八千嶋之舘餞守大伴宿祢家持宴歌二首 奈呉能宇美能 意吉都之良奈美 志苦思苦尓 於毛保要武可母 多知和可礼奈<婆> なごのうみの おきつしらなみ しくしくに おもほえむかも たちわかれなば ・・・・・・・・・・・
奈呉の海の沖に立っている白波のように 絶え間なく 思うことでしょう お別れして都に行けば ・・・・・・・・・・・ 3990 天平19年4月20日,作者:大伴家持,宴席,恋情,羈旅,悲別,秦八千島,高岡 [題詞](大目秦忌寸八千嶋之舘餞守大伴宿祢家持宴歌二首) 和<我>勢故波 多麻尓母我毛奈 手尓麻伎C 見都追由可牟乎 於吉C伊加婆乎思 わがせこは たまにもがもな てにまきて みつつゆかむを おきていかばをし ・・・・・・・・・・・
あなたが玉ででもあってほしい 玉なら手首に巻いて 見ながら行けるのに 別れて置いて行くのは 何とも残念に思う ・・・・・・・・・・・ |
万葉集索引第十七巻
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3991天平19年4月24日,作者:大伴家持,遊覧,土地讃美,氷見,枕詞,道行き,高岡,寿歌 [題詞]遊覧布勢水海賦一首[并短歌] [此海者有射水郡舊江村也] 布勢の内海を遊覧するの賦 ・・・・・・・・・・・・
物能乃敷能ー[もののふの]ー 夜蘇等母乃乎能ー八十伴の男のーやそとものをのー大勢の大伴の 於毛布度知ー思ふどちーおもふどちー仲の良い者が 許己呂也良武等ー心遣らむとーこころやらむとー気を晴らそうと 宇麻奈米○ー馬並めてーうまなめてー馬を並らべて 宇知久知夫利乃ーうちくちぶりのー(くちぶり)は、言葉つき 越中訛り 之良奈美能ー白波のーしらなみのー白波の 安里蘇尓与須流ー荒礒に寄するーありそによするー荒礒に寄せる 之夫多尓能ー渋谿のーしぶたにのー渋谿の 佐吉多母登保理ー崎た廻りーさきたもとほりー崎を行き巡り 麻都太要能ー松田江のーまつだえのー松田江の 奈我波麻須義○ー長浜過ぎてーながはますぎてー長浜を過ぎて 宇奈比河波ー宇奈比川ーうなひがはー宇奈比川の 伎欲吉勢其等尓ー清き瀬ごとにーきよきせごとにー清い瀬ごとに 宇加波多知ー鵜川立ちーうかはたちー鵜飼を楽しみ 可由吉加久遊岐ーか行きかく行きーかゆきかくゆきーあちらへ行きこちらへ行き 見都礼騰母ー見つれどもーみつれどもー風景を楽しんだが 曽許母安加尓等ーそこも飽かにとーそこもあかにとーそれでもまだ足りないとばかりに 布勢能宇弥尓ー布施の海にーふせのうみにー氷見市の地にあった広大な淡水湖 布祢宇氣須恵○ー舟浮け据ゑてーふねうけすゑてー舟を浮べて 於伎敝許藝ー沖辺漕ぎーおきへこぎー沖へ漕いだり 邊尓己伎見礼婆ー辺に漕ぎ見ればーへにこぎみればー海辺へ漕いだりして見ると 奈藝左尓波ー渚にはーなぎさにはー渚には 安遅牟良佐和伎ーあぢ群騒きーあぢむらさわきー鴨の群れが騒ぎ 之麻<未>尓波ー島廻にはーしまみにはー島の周りでは 許奴礼波奈左吉ー木末花咲きーこぬれはなさきー梢に花が咲き 許己婆久毛ーここばくもー副詞「ここば」に副詞語尾「く」の付いたもの。たいそうな意。これは何とまあ 見乃佐夜氣吉加ー見のさやけきかーみのさやけきかー眺めのあざやかであることよ 多麻久之氣ー玉櫛笥ー[たまくしげ]ー 布多我弥夜麻尓ー二上山にーふたがみやまにー二上山に 波布都多能ー延ふ蔦のーはふつたのー延ふ蔦のように 由伎波和可礼受ー行きは別れずーゆきはわかれずー先行きも別れることなく 安里我欲比ーあり通ひーありがよひー「あり」は、常に反復する等の意。 伊夜登之能波尓ーいや年のはにーいやとしのはにー毎年毎年 於母布度知ー思ふどちーおもふどちー気の合った同士 可久思安蘇婆牟ーかくし遊ばむーかくしあそばむーこうして遊ぼうではないか 異麻母見流其等ー今も見るごとーいまもみるごとー今この時のように ・・・・・・・・・・・・ |
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3992天平19年4月24日,作者:大伴家持,遊覧,土地讃美,氷見,寿歌 [題詞](遊覧布勢水海賦一首[并短歌] [此海者有射水郡舊江村也]) 布勢能宇美能 意枳都之良奈美 安利我欲比 伊夜登偲能波尓 見都追思<努>播牟 ふせのうみの おきつしらなみ ありがよひ いやとしのはに みつつしのはむ ・・・・・・・・・・・・
布勢の海の沖の白波よ 年毎にずっと通いつづけ この眺めを賞美しよう ・・・・・・・・・・・・ 3993 天平19年4月26日,作者:大伴池主,追和,大伴家持,遊覧,枕詞,氷見,高岡,寿歌,儀礼歌,土地讃美 [題詞]敬和遊覧布勢水海賦一首并一絶 ・・・・・・・・・・・・
布治奈美波ー藤波はーふぢなみはー藤の花は 佐岐弖知理尓伎ー咲きて散りにきーさきてちりにきー咲いて散ってしまった 宇能波奈波ー卯の花はーうのはなはー卯の花は 伊麻曽佐可理等ー今ぞ盛りとーいまぞさかりとー今が盛りだと 安之比奇能ー[あしひきの]ー 夜麻尓毛野尓毛ー山にも野にもーやまにものにもー山にも野にも 保登等藝須ー霍公鳥ーほととぎすー霍公鳥が 奈伎之等与米婆ー鳴きし響めばーなきしとよめばー鳴き声がひびくので 宇知奈妣久ーうち靡くーうちなびくー草木が靡くように 許己呂毛之努尓ー心もしのにーこころもしのにーこころも撓うばかりに 曽己乎之母ーそこをしもーそちらの方が 宇良胡非之美等ーうら恋しみとーうらごひしみとー恋しくてならないので 於毛布度知ー思ふどちーおもふどちー気の合う仲間同士 宇麻宇知牟礼弖ー馬打ち群れてーうまうちむれてー馬に鞭打ち 多豆佐波理ー携はりーたづさはりー連れ立って 伊泥多知美礼婆ー出で立ち見ればーいでたちみればー出かけてみると 伊美豆河泊ー射水川ーいみづがはー射水川の 美奈刀能須登利ー港の渚鳥ーみなとのすどりー河口の干潟にいる鳥たちは 安佐奈藝尓ー朝なぎにーあさなぎにー朝なぎ時には 可多尓安佐里之ー潟にあさりしーかたにあさりしー干潟に餌を漁り 思保美弖婆ー潮満てばーしほみてばー満ち潮時には 都麻欲<妣>可波須ー夫呼び交すーつまよびかはすー連れ合いと鳴き交わす 等母之伎尓ー羨しきにーともしきにー羨ましく思う 美都追須疑由伎ー見つつ過ぎ行きーみつつすぎゆきー見ながらそこを過ぎて行き 之夫多尓能ー渋谿のーしぶたにのー渋谿の 安利蘇乃佐伎尓ー荒礒の崎にーありそのさきにー荒礒の崎では 於枳追奈美ー沖つ波ーおきつなみー沖の波が 余勢久流多麻母ー寄せ来る玉藻ーよせくるたまもー寄せて来る美しい藻 可多与理尓ー片縒りにーかたよりにー片撚りにひねって 可都良尓都久理ー蘰に作りーかづらにつくりー縵に作り 伊毛我多米ー妹がためーいもがためー妻のために ○尓麻吉母知弖ー手に巻き持ちてーてにまきもちてー手に巻いて持って行き 宇良具波之ーうらぐはしー見て美しい。見た目にりっぱである。 布<勢>能美豆宇弥尓ー布勢の水海にーふせのみづうみにー富山県氷見市にあった海跡淡水湖、布勢の水海 阿麻夫祢尓ー海人船にーあまぶねにー海人の船に 麻可治加伊奴吉ーま楫掻い貫きーまかぢかいぬきー櫓を取りつけ 之路多倍能ー白栲のー[しろたへの]ー 蘇泥布<理>可邊之ー袖振り返しーそでふりかへしー真っ白な袖をひるがえし 阿登毛比弖ーあどもひてー仲間を率ひて 声を合わせて 和賀己藝由氣婆ー吾が漕ぎ行けばーわがこぎゆけばー私が漕いで行くと 乎布能佐伎ー乎布の崎ーをふのさきー乎布の崎には <波>奈知利麻我比ー花散りまがひーはなちりまがひー花が散り乱れ 奈伎佐尓波ー渚にはーなぎさにはー渚には 阿之賀毛佐和伎ー葦鴨騒きーあしがもさわきー葦鴨が賑やかに集まり 佐射礼奈美ーさざれ波ーさざれなみーさざ波が 多知弖毛為弖母ー立ちても居てもーたちてもゐてもー立つように立ったり、また座ったりしながら 己藝米具利ー漕ぎ廻りーこぎめぐりー漕ぎ巡りながら 美礼登母安可受ー見れども飽かずーみれどもあかずーいくら眺めても見飽かず 安伎佐良婆ー秋さらばーあきさらばー秋になれば 毛美知能等伎尓ー黄葉の時にーもみちのときにー紅葉の時に 波流佐良婆ー春さらばーはるさらばー春になれば 波奈能佐可利尓ー花の盛りにーはなのさかりにー花の盛りに 可毛加久母ーかもかくもーどちらにしても 伎美我麻尓麻等ー君がまにまとーきみがまにまとー貴方の思いのままに 可久之許曽ーかくしこそーこうして 美母安吉良米々ー見も明らめめーみもあきらめめー景色を眺め心を晴らしましょう 多由流比安良米也ー絶ゆる日あらめやーたゆるひあらめやー絶える日などあるでしょうか。 ・・・・・・・・・・・・ 3994 天平19年4月26日,作者:大伴池主,追和,大伴家持,遊覧,枕詞,氷見,高岡,寿歌,儀礼歌,土地讃美 [題詞](敬和遊覧布勢水海賦一首并一絶) 之良奈美能 与世久流多麻毛 余能安比太母 都藝弖民仁許武 吉欲伎波麻備乎 しらなみの よせくるたまも よのあひだも つぎてみにこむ きよきはまびを ・・・・・・・・・・・・
白波が打ち寄せる美しい玉藻よ 生きて世にあるかぎり いつも見に来よう この清い浜辺を ・・・・・・・・・・・・ 3995 天平19年4月26日,作者:大伴家持,宴席,餞別,羈旅,出発,大伴池主,恋情,悲別,枕詞,推敲,高岡 [題詞]四月廿六日掾大伴宿祢池主之舘餞税帳使守大伴宿祢家持宴歌并古歌四首 多麻保許乃 美知尓伊泥多知 和可礼奈婆 見奴日佐麻祢美 孤悲思家武可母 [一云 不見日久弥 戀之家牟加母] [たまほこの] みちにいでたち わかれなば みぬひさまねみ こひしけむかも[みぬひひさしみ こひしけむかも] ・・・・・・・・・・・・
旅路につき別れてのちは 会わない日が多くなり恋しいことであろう ・・・・・・・・・・・・ * 「さまねみ」は、形容詞「さまねし」の語幹に接尾語「み」の付いたもの)数が多いので。 3996 天平19年4月26日,作者:内蔵縄麻呂,宴席,餞別,羈旅,出発,大伴家持,大伴池主,恋情,悲別,高岡 [題詞](四月廿六日掾大伴宿祢池主之舘餞税帳使守大伴宿祢家持宴歌并古歌四首) 和我勢古我 久尓敝麻之奈婆 保等登藝須 奈可牟佐都奇波 佐夫之家牟可母 わがせこが くにへましなば ほととぎす なかむさつきは さぶしけむかも ・・・・・・・・・・・・
親愛なるあなたが 故国奈良へおいでになってしまったら 霍公鳥が鳴く五月は寂しいものでしょう ・・・・・・・・・・・・ 3997 天平19年4月26日,作者:大伴家持,唱和,宴席,餞別,羈旅,出発,大伴池主,内蔵縄麻呂,慰撫,高岡 [題詞](四月廿六日掾大伴宿祢池主之舘餞税帳使守大伴宿祢家持宴歌并古歌四首) 安礼奈之等 奈和備和我勢故 保登等藝須 奈可牟佐都奇波 多麻乎奴香佐祢 あれなしと なわびわがせこ ほととぎす なかむさつきは たまをぬかさね ・・・・・・・・・・・・
私がいないからと気落ちなさるな 霍公鳥が鳴く五月には 橘の花を緒に抜いて薬玉をお作りなさい ・・・・・・・・・・・・ 3998 天平19年4月26日,大伴池主,伝誦,古歌,石川水通,宴席,餞別,出発,高岡 [題詞]石<川>朝臣水通橘歌一首 和我夜度能 花橘乎 波奈其米尓 多麻尓曽安我奴久 麻多婆苦流之美 わがやどの はなたちばなを はなごめに たまにぞあがぬく またばくるしみ ・・・・・・・・・・・・
吾が家の庭の花橘を 花ごと緒に通して玉としましょう 実になるのを待っていたら 苦しいでしょうから ・・・・・・・・・・・・ * 「花ごめに」ーごめ【込め】[接尾]《動詞「こ(込)む」の連用形から》名詞に付いて、それを含めていっしょに、の意を表す。…ごと。…ぐるみ。 3999 天平19年4月26日,作者:大伴家持,羈旅,出発,餞別,宴席,恋情,高岡 [題詞]守大伴宿祢家持舘飲宴歌一首[四月廿六日] 美夜故敝尓 多都日知可豆久 安久麻弖尓 安比見而由可奈 故布流比於保家牟 みやこへに たつひちかづく あくまでに あひみてゆかな こふるひおほけむ ・・・・・・・・・・・・
都へと出発する日が近づきました 心行くまで皆さんのお顔を見て行きましょう 恋しい日が多いでしょうから ・・・・・・・・・・・・ |
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4006 天平19年4月30日,作者:大伴家持,贈答,大伴池主,高岡,羈旅,出発,悲別,恋情 [題詞]入京漸近悲情難撥述懐一首并一絶 ・・・・・・・・・・・・
可伎加蘇布ーかき数ふーかきかぞふーひとつふたつと数える 敷多我美夜麻尓ー二上山にーふたがみやまにー二上山に 可牟佐備弖ー神さびてーかむさびてー神々しく 多○流都我能奇ー立てる栂の木ーたてるつがのきー茂る栂の木は 毛等母延毛ー本も枝もーもともえもー幹も枝葉も 於夜自得伎波尓ー同じときはにーおやじときはにー同じように青々と茂って 波之伎与之ー[はしきよし]ー 和我世乃伎美乎ー吾が背の君をーわがせのきみをーあなたと 安佐左良受ー朝去らずーあささらずー朝ごとに 安比弖許登騰比ー逢ひて言どひーあひてことどひー逢って言葉を交わし 由布佐礼婆ー夕さればーゆふさればー夕べになれば 手多豆佐波利弖ー手携はりてーてたづさはりてー誘い合って 伊美豆河波ー射水川ーいみづがはー射水川の 吉欲伎可布知尓ー清き河内にーきよきかふちにー清き河淵に 伊泥多知弖ー出で立ちてーいでたちてー佇んで 和我多知弥礼婆ー吾が立ち見ればーわがたちみればー見渡せば 安由能加是ー東風の風ーあゆのかぜー東風が 伊多久之布氣婆ーいたくし吹けばーいたくしふけばー激しく吹くので 美奈刀尓波ー港にはーみなとにはー河口には 之良奈美多可弥ー白波高みーしらなみたかみー白波が高く立ち 都麻欲夫等ー妻呼ぶとーつまよぶとー連れ合いを呼びあい 須騰理波佐和久ー渚鳥は騒くーすどりはさわくーなぎさの海鳥は鳴き騒いでいる 安之可流等ー葦刈るとーあしかるとー葦を刈る 安麻乃乎夫祢波ー海人の小舟はーあまのをぶねはー海人の小舟は 伊里延許具ー入江漕ぐーいりえこぐー入江を漕ぐ おくれたる,加遅能於等多可之ー楫の音高しーかぢのおとたかしー櫓の音が高く聞こえる 曽己乎之毛ーそこをしもーそんな景色に 安夜尓登母志美ーあやに羨しみーあやにともしみー「あやに」[副]感動詞「あや」に、下の動詞を状態的に修飾する格助詞「に」が付いて副詞化した語。言葉に表せないほど。なんとも不思議に。むやみに。心引かれ 之努比都追ー偲ひつつーしのひつつー人知れず 過ぎ去った物事や遠く離れている人・所などを懐かしい気持 安蘇夫佐香理乎ー遊ぶ盛りをーあそぶさかりをー眺めを楽しみ遊ぶ盛りなのに 須賣呂伎能ー天皇のーすめろきのー天皇の 乎須久尓奈礼婆ー食す国なればーをすくになればー治めたまう國であるから 美許登母知ー御言持ちーみこともちー都へ出向くべしとの貴い仰せに 多知和可礼奈婆ー立ち別れなばーたちわかれなばーお別れすれば 於久礼多流ー後れたるーおくれたるー後に残る 吉民婆安礼騰母ー君はあれどもーきみはあれどもー大丈夫でしょうが 多麻保許乃ー玉桙のー[たまほこの]ー 美知由久和礼播ー道行く吾れはーみちゆくわれはー都への道を行くわたしは 之良久毛能ー白雲のー[しらくもの]ー 多奈妣久夜麻乎ーたなびく山をーたなびくやまをー白雲がたなびく山を 伊波祢布美ー岩根踏みーいはねふみー岩を踏み越え 古要敝奈利奈<婆>ー越えへなりなばーこえへなりなばー遠く隔たってしまったら 孤悲之家久ー恋しけくーこひしけくーあなたが恋しく思う 氣乃奈我家牟曽ー日の長けむぞーけのながけむぞー日々が重なるでしょう 則許母倍婆ーそこ思へばーそこもへばーそう思うと 許己呂志伊多思ー心し痛しーこころしいたしー心が痛みます 保等登藝須ー霍公鳥ーほととぎすー 許恵尓安倍奴久ー声にあへ貫くーこゑにあへぬくー霍公鳥とあなたの声を緒に抜いて 多麻尓母我ー玉にもがーたまにもがー玉にしたい 手尓麻吉毛知弖ー手に巻き持ちてーてにまきもちてー手首に巻きつけて持っていけるなら 安佐欲比尓ー朝夕にーあさよひにー朝夕に 見都追由可牟乎ー見つつ行かむをーみつつゆかむをー見つつ行こうものを 於伎弖伊加<婆>乎<思>ー置きて行かば惜しーおきていかばをしー置いて行くのは心残りです ・・・・・・・・・・・・ [題詞](入京漸近悲情難撥述懐一首并一絶) 和我勢故<波> 多麻尓母我毛奈 保登等伎須 許恵尓安倍奴吉 手尓麻伎弖由可牟 わがせこは たまにもがもな ほととぎす こゑにあへぬき てにまきてゆかむ ・・・・・・・・・・・・
親愛なるあなた ホトトギスの鳴き声とも 玉があって欲しいものです すればともに紐に通して 手首に巻き持っていようものを ・・・・・・・・・・・・ 4008 天平19年5月2日,作者:大伴池主,贈答,大伴家持,枕詞,地名,高岡,砺波,恋情,悲別,羈旅,出発 [題詞]忽見入京述懐之作生別悲<兮>断腸万廻怨緒難禁聊奉所心一首并二絶 ・・・・・・・・・・・・
安遠邇与之ー[あをによし]ー 奈良乎伎波奈礼ー奈良を来離れーならをきはなれー奈良の都から遠く離れた 阿麻射可流ー天離るー[あまざかる]ー 比奈尓波安礼登ー鄙にはあれどーひなにはあれどー鄙ではあるが 和賀勢故乎ー吾が背子をーわがせこをー親愛なる貴方を 見都追志乎礼婆ー見つつし居ればーみつつしをればー見ておれば 於毛比夜流ー思ひ遣るーおもひやるー故郷への想いも 許等母安利之乎ーこともありしをー晴れることもありましたが 於保伎美乃ー大君のーおほきみのー大君の 美許等可之古美ー命畏みーみことかしこみー任命のままに 乎須久尓能ー食す国のーをすくにのー治め給う 許等登理毛知弖ー事取り持ちてーこととりもちてー大切な任務を受けて 和可久佐能ー若草のー[わかくさの]ー 安由比多豆久利ー足結ひ手作りーあゆひたづくりー旅装脚帯をはいて 無良等理能ー群鳥のーむらとりのー群鳥の 安佐太知伊奈婆ー朝立ち去なばーあさだちいなばー飛び立つように朝立ちなさったので 於久礼多流ー後れたるーおくれたるー後に残された 阿礼也可奈之伎ー吾れや悲しきーあれやかなしきー私が寂しいでしょうか 多妣尓由久ー旅に行くーたびにゆくー旅行く 伎美可母孤悲無ー君かも恋ひむーきみかもこひむー貴方が恋しがられるでしょうか 於毛布蘇良ー思ふそらーおもふそらーあれこれと思うだに 夜須久安良祢婆ー安くあらねばーやすくあらねばー不安が先に立って 奈氣可久乎ー嘆かくをーなげかくをー嘆く溜め息も 等騰米毛可祢○ー留めもかねてーとどめもかねてーとめかねて 見和多勢婆ー見わたせばーみわたせばーあたりの景色を見渡すと 宇能婆奈夜麻乃ー卯の花山のーうのはなやまのー卯の花山の 保等登藝須ー霍公鳥ーほととぎすー霍公鳥よ <祢>能未之奈可由ー音のみし泣かゆーねのみしなかゆー声を上げて泣くようにおまえがが鳴いている 安佐疑理能ー朝霧のー[あさぎりの]ー朝霧の 美太流々許己呂ー乱るる心ーみだるるこころー風に乱れるような心を 許登尓伊泥弖ー言に出でてーことにいでてー口に出して 伊<波><婆>由遊思美ー言はばゆゆしみーいはばゆゆしみー言霊の不吉を怖れ 刀奈美夜麻ー砺波山ーとなみやまー難所砺波山の 多牟氣能可味尓ー手向けの神にーたむけのかみにー道祖神にお祀し 奴佐麻都里ー幣奉りーぬさまつりー幣を捧げて 安我許比能麻久ー吾が祈ひ祷まくーあがこひのまくー祈願しております 波之家夜之ー[はしけやし]ー親愛なる 吉美賀多太可乎ー君が直香をーきみがただかをー貴方のお姿を 麻佐吉久毛ーま幸くもーまさきくもー万事つつがなく 安里多母等保利ーありた廻りーありたもとほりー巡り行き 都奇多々婆ー月立たばーつきたたばー来月になったら 等伎毛可波佐受ー時もかはさずーときもかはさずーすぐさま 奈泥之故我ーなでしこがー撫子の 波奈乃佐可里尓ー花の盛りにーはなのさかりにー花の盛りの時に 阿比見之米等曽ー相見しめとぞーあひみしめとぞー貴方のまさ身に逢わせてくださいと ・・・・・・・・・・・・ [題詞](忽見入京述懐之作生別悲<兮>断腸万廻怨緒難禁聊奉所心一首并二絶) 多麻保許<乃> 美知能可<未>多知 麻比波勢牟 安賀於毛布伎美乎 奈都可之美勢余 [たまほこの] みちのかみたち まひはせむ あがおもふきみを なつかしみせよ ・・・・・・・・・・・・
都への峠にいます道の神たちよ まいないを捧げましょう 私の大切な方を どうか親しく守ってあげて下さい ・・・・・・・・・・・・ 4010 天平19年5月2日,作者:大伴池主,贈答,大伴家持,羈旅,出発,悲別,恋情,高岡 [題詞](忽見入京述懐之作生別悲<兮>断腸万廻怨緒難禁聊奉所心一首并二絶) 宇良故非之 和賀勢能伎美波 奈泥之故我 波奈尓毛我母奈 安佐奈々々見牟 うらごひし わがせのきみは なでしこが はなにもがもな あさなさなみむ ・・・・・・・・・・・・
* はぎのはな おばな くずはな なでしこのはな おみなえし また心より慕わしい親愛なる貴方が 撫子の花であったらよいのに 毎朝毎朝その花を見ましょうものを ・・・・・・・・・・・・ ふじばかま あさがおのはな 萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 女郎花 また 藤袴 朝貌の花 * 大伴池主,,大伴家持の【恋】を【古典上】的にさばいてみたい。 * 「らちもない思いでありますよ」 「宴席座興です」 「酔狂な仲を比喩しています」 「氏族派閥間の因縁の物騒な阿吽などかけらもありません。」
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私には命がけの作為が見えて仕方がない。 |
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4011天平19年9月26日,作者:大伴家持,高岡,神祭り,託宣,山田君麻呂,枕詞,狩猟 [題詞]思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌] (放逸された鷹を思い、夢に見て感悦して作る歌一首)[並びに短歌] [左注] (右射水郡古江村取獲蒼鷹ー 右、射水郡の古江村に蒼鷹を取り獲たり 形<容>美麗鷙雉秀群也ー 形容美麗にして、雉を鷙(と)ること群に秀れたり 於時養吏山田史君麻呂調試失節野猟乖候ー 時に、養吏山田史君麿、調試(てうし)節(とき)を失ひ野獵候(とき)に乖く 摶風之翅高翔匿雲ー 搏風の翅(つばさ)は高く翔りて雲に匿(かく)り 腐鼠之<餌>呼留靡驗ー 腐鼠の餌は呼び留むるに験(しるし)靡し 於是<張>設羅網窺乎非常奉幣神祇恃乎不虞也ー ここに羅網を張り設(ま)けて非常を窺ひ神祇に奉幣して不虞を恃む <粤>以夢裏有娘子喩曰ー ここに夢の裏に娘子(をとめ)あり喩(さと)して曰はく 使君勿作苦念空費<精><神>ー 使君苦念を作(な)して空しく精神を費やすこと勿れ 放逸彼鷹獲得未幾矣哉ー 放逸せる彼(そ)の鷹獲り得むこと幾(いくば)くもあらじといふ 須叟覺<寤>有悦於懐ー 須臾に覚き寤め懐(こころ)に悦びあり 因作却恨之歌式旌感信ー 因りて恨を却(のぞ)く歌を作りて式ちて感信を旌(あら)はす 守大伴宿祢家持 [九月廾六日作也]ー 守大伴宿禰家持 九月二十六日) ・・・・・・・・・・・・・・
大王乃ー[大君の]ー 等保能美可度曽ー遠の朝廷ぞー[とほのみかどぞ]ー統治される遠い辺境の政庁だが 美雪落ー[み雪降る]ー美しい雪が降ると(いう) 越登名尓於敝流ー越と名に追へるーこしとなにおへるー越という名を負っている <境界を越える意の動詞「越し」と同意> 安麻射可流ー天離るー[あまざかる]ー空遠く隔たった 比奈尓之安礼婆ー鄙にしあればーひなにしあればー鄙びた地であるので 山高美ー山高みー山は高く 河登保之呂思ー川とほしろしー川は雄大である 野乎比呂美ー野を広みー野は広々と 久佐許曽之既吉ー草こそ茂きー草は深く繁る 安由波之流ー鮎走るー川面には鮎が走り泳ぐ 奈都能左<加>利等ー夏の盛りとー夏の盛りになると 之麻都等里ー[島つ鳥]ー 鵜養我登母波ー鵜養が伴はーうかひがともはー鵜飼に従事する民は 由久加波乃ー[行く川の]ー流れ行く川の 伎欲吉瀬其<等>尓ー清き瀬ごとにー清らかな川の瀬ごとに 可賀里左之ー篝さしーかがりさしー篝火を灯し 奈豆左比能保流ーなづさひ上るー水流に浸かって川をのぼって行く 露霜乃ー[露霜の]ー霜の降る 安伎尓伊多礼<婆>ー秋に至ればー秋になると 野毛佐波尓ー野も多にーのもさはにー野のあちこちに 等里須太家里等ー鳥すだけりとー多くの鳥が集まっているというので 麻須良乎能ー大夫のー[ますらをの]ー 登母伊射奈比弖ー友誘ひてーともいざなひてー仲間を誘い集めて 多加波之母ー鷹はしもー鷹狩をする 安麻多安礼等母ーあまたあれどもー鷹はあまたいる中で 矢形尾乃ー矢形尾のーやかたをのー矢形尾の 安我大黒尓ー吾が大黒にーあがおほぐろにー吾が大黒に(蒼鷹)に [大黒者蒼鷹之名也]ーおほぐろは蒼鷹の名である 之良奴里<能>ー白塗のーしらぬりのー銀を塗った 鈴登里都氣弖ー鈴取り付けてーすずとりつけてー鈴をつけて 朝猟尓ー朝猟にーあさがりにー朝狩に 伊保都登里多○ー五百つ鳥立てーいほつとりたてー五百もの鳥を追い立て 暮猟尓ー夕猟にーゆふがりにー夕狩に 知登理布美多○ー千鳥踏み立てーちとりふみたてー千もの鳥を踏み追い立てて 於敷其等邇ー追ふ毎にーおふごとにー獲物を追うごとに 由流須許等奈久ー許すことなくーゆるすことなくー決して逃すことなく 手放毛ー手放れもーたばなれもー手離れも 乎知母可夜須伎ーをちもかやすきー戻りも易々とするのは 許礼乎於伎○ーこれをおきてーこの大黒をおいて 麻多波安里我多之ーまたはありがたしー他にあり難い 左奈良敝流ーさ慣らへるーさならへるー匹敵する 多可波奈家牟等ー鷹はなけむとー鷹はないであろうと 情尓波ー心にはー心のうちで 於毛比保許里弖ー思ひほこりてー誇らしく思い 恵麻比都追ー笑まひつつーゑまひつつー笑みを浮かべつつ 和多流安比太尓ー渡る間にーわたるあひだにー過ごす間に、過ごすある時 多夫礼多流ー狂れたるーたぶれたるー頓狂な、気がふれたか、化け物か 之許都於吉奈乃ー醜つ翁のーしこつおきなのー醜い老いぼれ爺が(山田君麻呂) <醜>の<シコ>は、<鬼>という字をあて、<物>や<魔>と同じ意味に使われている。 許等太尓母ー言だにもーことだにもー一言のことわりさえ 吾尓波都氣受ー吾れには告げずー私に告げずに 等乃具母利ーとの曇りーとのくもりー空一面曇って 安米能布流日乎ー雨の降る日をー雨の降る日だというのに 等我理須等ー鳥猟すとーとがりすとー狩をすると 名乃未乎能里弖ー名のみを告りてーなのみをのりてー名前だけは届け出て(大黒を連れ出してしまい) 三嶋野乎ー三島野をーみしまのをー三嶋野を 曽我比尓見都追ーそがひに見つつー背後に見つつ 二上ー二上のーふたがみのー二上山を 山登妣古要○ー山飛び越えてー飛び越え 久母我久理ー雲隠りーくもがくりー雲に隠れて 可氣理伊尓伎等ー翔り去にきとーかけりいにきとー飛び去ってしまいましたと 可敝理伎弖ー帰り来てー戻って来て 之波夫礼都具礼ーしはぶれ告ぐれー咳き込みながら告げるではないか 呼久餘思乃ー招くよしのーをくよしのーけれども招き寄せるすべが 曽許尓奈家礼婆ーそこになければー見当たらず 伊敷須敝能ー言ふすべのーいふすべのー何とまじないごとを言っていいのか 多騰伎乎之良尓ーたどきを知らにー手立ても知らずに 心尓波ー心にはー心中は 火佐倍毛要都追ー火さへ燃えつつー火のように燃えながら 於母比孤悲ー思ひ恋ひーおもひこひー恋しく思い 伊<伎>豆吉安麻利ー息づきあまりーいきづきあまりー嘆息しながらも 氣太之久毛ーけだしくもーもしや 安布許等安里也等ー逢ふことありやとー逢うこともあろうかと 安之比奇能ー[あしひきの]ー 乎○母許乃毛尓ーをてもこのもにー山のあちらこちらに 等奈美波里ー鳥網張りーとなみはりー鳥網を張り 母利敝乎須恵○ー守部を据ゑてーもりへをすゑてー番人を置いて 知波夜夫流ー[ちはやぶる]ー 神社尓ー神の社にーかみのやしろにー霊威ある神の降臨する社(やしろ)には ○流鏡ー照る鏡ー曇りなく照り輝く鏡を 之都尓等里蘇倍ー倭文に取り添へーしつにとりそへー倭文(しづ)織りの幣に添え 己比能美弖ー祈ひ祷みてーこひのみてー願をかけて 安我麻都等吉尓ー吾が待つ時にー私が待っていたところ 乎登賣良我ー娘子らがーをとめらがー乙女がやさしく 伊米尓都具良久ー夢に告ぐらくーいめにつぐらくー夢に現れて告げることには 奈我古敷流ー汝が恋ふるーながこふるーあなたが逢いたがっている 曽能保追多加波ーその秀つ鷹はーそのほつたかはーその秀鷹(しゅうよう)は 麻追太要乃ー松田江のーまつだえのー松田江の 波麻由伎具良之ー浜行き暮らしーはまゆきくらしー浜を飛び暮らし 都奈之等流ーつなし捕るーつなしとるーつなし(コノシロ)を獲り 比美乃江過弖ー氷見の江過ぎてーひみのえすぎてー氷見の江を過ぎて 多古能之麻ー多古の島ーたこのしまー多胡の島 等<妣>多毛登保里ー飛びた廻りーとびたもとほりーを飛び巡り 安之我母<乃>ー葦鴨のーあしがものー葦鴨が 須太久舊江尓ーすだく古江にーすだくふるえにー群れる舊江に 乎等都日毛ー一昨日もーをとつひもーおとといも 伎能敷母安里追ー昨日もありつーきのふもありつー昨日もいました 知加久安良婆ー近くあらばー早ければ 伊麻布都可太未ーいま二日だみーいまふつかだみーあと二日ほど 等保久安良婆ー遠くあらばー遅くとも 奈奴可乃<乎>知<波>ー七日のをちはーなぬかのをちはー七日以上は 須疑米也母ー過ぎめやもー過ぎることはなく 伎奈牟和我勢故ー来なむ吾が背子ーきなむわがせこーあなたのもとへ 帰って来るでしょう 祢毛許呂尓ーねもころにー心を砕いて 奈孤悲曽余等曽ーな恋ひそよとぞーなこひそよとぞー恋しがりなさるな 伊麻尓都氣都流ーいまに告げつるーそう夢に告げたのであった ・・・・・・・・・・・・・・ 4012 天平19年9月26日,作者:大伴家持,高岡,狩猟 [題詞](思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌]) 矢形尾能 多加乎手尓須恵 美之麻野尓 可良奴日麻祢久 都奇曽倍尓家流 やかたをの たかをてにすゑ みしまのに からぬひまねく つきぞへにける ・・・・・・・・・・・・・・
矢形尾の鷹を手に据えて 三嶋野に狩をすることもなく 何日も過ぎて もう月が変わってしまった ・・・・・・・・・・・・・・ 4013 天平19年9月26日,作者:大伴家持,高岡,託宣,神祭り [題詞](思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌]) 二上能 乎弖母許能母尓 安美佐之弖 安我麻都多可乎 伊米尓都氣追母 ふたがみの をてもこのもに あみさして あがまつたかを いめにつげつも ・・・・・・・・・・・・・・
二上山のあちらこちらに網を張って 私が待ち侘びている鷹の帰る日を 夢に告げてくれたことだ ・・・・・・・・・・・・・・ 4014 天平19年9月26日,作者:大伴家持,枕詞,難解,山田君麻呂,恨 [題詞](思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌]) 麻追我敝里 之比尓弖安礼可母 佐夜麻太乃 乎治我其日尓 母等米安波受家牟 まつがへり しひにてあれかも さやまだの をぢがそのひに もとめあはずけむ ・・・・・・・・・・・・・・
松反り耄碌しているからであろうか 山田の爺さんが鷹を逃がしたその日 探しても見つからなかったのは ・・・・・・・・・・・・・・ 4015 天平19年9月26日,作者:大伴家持,高岡,恋情 [題詞](思放逸鷹夢見感悦作歌一首[并短歌]) 情尓波 由流布許等奈久 須加能夜麻 須加奈久能未也 孤悲和多利奈牟 こころには ゆるふことなく [すかのやま] すかなくのみや こひわたりなむ ・・・・・・・・・・・・・・
心はゆったりと寛ぐことなく くよくよと嘆いてばかり こうしていつまでも恋しがるのであろうか ・・・・・・・・・・・・・・ |



