Gladius Dei

落ち着いたら、能登半島に旅行しようとおもう。大したお金は落とせないけど。

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ドイツの響き

11月24日(金) 19時開演


チョン・ミョンフン指揮 シュターツカペレ・ドレスデン

ブラームス《ヴァイオリン協奏曲》 ヴァイオリン:樫本大進
ベートーヴェン《交響曲第五番》

ザ・シンフォニーホール 二階LEブロック


ブラームスの最初の音が鳴った途端にため息が出てしまった。なんとやわらかく充実した響きだろう。演奏会の最初から、あんな悠然とした広がりを見せることができるなんて、やはり、このオーケストラは別格というしかない。

オーケストラで演奏している友だちが口をそろえていう。「シュターツカペレ・ドレスデンはドイツ一の楽団だ」と。日本には CD の数で演奏家を評価してしまう人が多いから、この意見は一般にはみとめられないだろう。それに、私は、友だちの気もちもわかるけれど、内心、「順位をつけたって仕方ないじゃん」とおもっている。しかし、ひさしぶりにドレスデンの響きに接して、ただただ、このオーケストラを礼賛するしかなかった。

以前、たしか、 IRIGOMI さんのブログで、「いぶし銀」という常套句がいかに胡散臭いか議論になったことがある。シュターツカペレ・ドレスデンの響きは、冷たくもないし、くすんでもいない。どちらかといえば、夕陽のように、あたたかく輝いている。「いぶし銀の響き」という表現は、"Wie Glanz von altem Gold"を訳したもので、これは、このオーケストラの四百五十周年を記念して出版された本のタイトルにもなっているが、直訳すれば「古くなった金」という意味。つまり、真新しい金のようにピカピカしていないということ。時間の経過によって、人の目を射るような派手さがなくなり、やわらかく光っている様子を表している。そんなわけで、「いぶし銀」という常套句が安易につかわれているのを見ると、疑問を感じてしまう。

ブラームスの第二楽章冒頭、管楽器があれほどの存在感をもって合奏したことがあっただろうか。清冽にして芯のある響き。実にみずみずしく輝かしい。それらが一体となったときの幸福感。一流のオーケストラはどこも管がうまい。だが、あれだけのくっきりとした存在感をもつ管はなかなかない。

ベートーヴェンの第二楽章、第三楽章の弦。これまたなんともいえない深さを見せつけてくれた。年代物の赤ワインのような色かとおもうと、さわやかな白ワインのような色になったりする。肌理のこまかい、やわらかな織物のよう。

極上の管と弦が融合し、一緒になりながら、立体的に聴こえてくる。コントラバスが揺るぎのない土台をつくり、ヴァイオリンが歌い、木管が奏でる。大音量になってもうるさく感じることはないし、無機質な響きになることもない。「これこそドイツのオーケストラだ」といいたくなる瞬間。

うれしい誤算だったのが、樫本大進。若い演奏家が一流の楽団と共演して霞んでしまうという状況になんどか接しているので、今回も心配していたら、そんなことはなかった。シュターツカペレ・ドレスデンと堂々とわたりあっていた。しかも、あの難曲で。樫本のヴァイオリンは音に力があった。若葉におちた朝露のような響きから、悲痛な叫び声まで、全身をつかってしぼりだしていく。そして、切々とした憧れや束の間の安寧が見事に表現されていく。

ゆったりと歌わせたブラームス、猛烈に駆け抜けたベートーヴェン。チョン・ミョンフンという指揮者は、オーケストラを制御するのに長けているし、作品のメッセージを聴衆につたえるのが上手だとおもう。その核心には、よくいわれるように、「熱さ」がある。ただ、その「熱さ」のせいで、作品のほかの美点が掻き消されてしまうきらいがなくはない。「《第五交響曲》といえばこう」という先入観を増幅したら、ああなるだろうか。もちろん、そういう「熱い」演奏を聴くと、熱狂する。だから、不満はないのだけれど、なにか作品のふくらみを感じさせるような面がほしい気もする。

例によって、ただただ響きに引き込まれたり、演奏の意味を考えながら音楽を聴いたりしていたが、アンコールのヴェーバーには完全にやられた。だいたい、このオーケストラの演奏するヴァーグナーやR・シュトラウス、それにヴェーバーは、ちょっと比類がない。伝統を過大評価しても仕方ないにしても、伝統の力というものはたしかに存在する。「これこそまさにウェーバー」、「これこそまさにドイツの音楽」といった演奏を見せつけられて、もう、ただ鳥肌を立てているしかなかった。

* * * * *

演奏がおわって、興奮をしずめるべく、コンビニエンス・ストアでお茶を買って飲んでいたら、目の前に数人の白人がやってきた。「そこでなにか食べられるだろうか」、「入ってみよう」、「ダメだ、英語が通じなかった」、・・・。ドイツ語で話しているし、楽器のケースをもっているし、どう考えても、シュターツカペレ・ドレスデンの団員たちだろう。すこし困っている様子だったので、おもいきって話しかけてみた。

「そこはヌードルのレストラン(ラーメン屋)ですよ」
「あ、そうですか。このあたりに、シャブシャブのお店はありませんか。あまり高くないところで」
「残念ながら、シャブシャブは高いです。日本はなんでも高い。それに、このあたり・・・。ご覧のとおり、オフィス街ですから。居酒屋ならあるかもしれませんが」
「居酒屋ですか。ところで、あなた、なぜドイツ語を」
「ミュンヘンに住んでいました。あなた方の演奏会は、なんどか聴いているし、ゼンパー・オーパーにも三回いったことがありますよ」(われながら、かなり恩着せがましい)
「それはありがとう。では今日も・・・」
「もちろんです!」
「来年はオペラの公演でまた日本にきますよ」
「ええ、楽しみです。でも、できれば、ドレスデンにもいきたいですね」

そんな話しをしながら、居酒屋らしきお店まで案内した。興奮をしずめようとしていたのに、あの音楽をつくりだしていた人たちと話してしまって(ひさしぶりのドイツ語だったし)、ますます興奮してしまった。

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