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アトランタから始めたディープサウスの旅は、ジョージア州を越えてアラバマ州へ。このとき私の脳裏にあったのは、この映画のワンシーンであった。
☆「ドライビングMissデイジー」(1989年、監督ブルース・べレスフォード)=写真=
ユダヤ人で元教師のミス・デイジー(72歳)、男やもめの黒人運転手のホーク(60歳)。この二人が心を通わすようになるまでの過程を、心優しく描いたアカデミー受賞作である。
南部ではともに差別の対象であった「ユダヤ人」と「黒人」という設定。「見え透いている」との評もあったが、とにかくデイジー役の故ジェシカ・タンディ(主演女優賞受賞)、ホーク役のモーガン・フリーマン(上映中の「インビクタス」ではネルソン・マンデラを演じている名優)、この二人の演技が実に素晴らしい!
で、伯父の誕生祝いのため、ホークの運転で二人がジョージアからアラバマへと向かうシーン。このときスクリーンには、「ここよりアラバマ。」の道路標識が映し出される。
これ一つで、緊張感がぐっと高まるシーンなのである。二人の行く手に、暗雲が漂うことを暗示している。
同じ南部とはいえ、アラバマ州はジョージア州と比較しても、明らかに黒人差別が露骨で激しかった。アラバマ州知事を4度務めたジョージ・ウォーレスは、筋金入りの人種差別主義者として有名だった人である。
かつてニール・ヤングは、「アラバマ」「サザン・マン」という曲を書いて、南部人の人種差別を厳しく糾弾した。これに対するアンサーソングとして作られたのが、サザンロックの人気バンド、レイナード・スキナードのアラバマ賛歌「スウィート・ホーム・アラバマ」である。能天気な歌のように聴こえるが、ヒット曲として悪くはない。
アラバマには、公民権運動の「聖地」がいくつもある。
1.州都モンゴメリー…公民権運動が盛り上がるきっかけとなった、有名な「バスボイコット運動」が始まった場所。公民権運動で命を落とした人々の名を刻んだ記念碑もある。ちなみに、その近くにある州議事堂はなぜかまぶしいほど真っ白。
2.セルマ…モンゴメリーから1時間の小さな町であるが、アラバマ川にかかるベッタス橋に注目。キング牧師率いる平和的なデモ隊「自由の行進」が州兵と衝突、多数の死傷者を出した「セルマの悲劇」の現場である。
3.バーミングハム…アラバマ州最大の都市。広場には、警察が黒人のデモ隊に犬をけしかけるシーンなどを再現した銅像が多数ある。この公園から見えるバプティスト教会では過激派の白人による爆破テロが発生、この町は‘Bombingham’の異名をもつ。その向かいは充実した内容の公民権記念館。
初めてニューヨークへ行ったとき、タワーレコードの第1号店に入った。黒人音楽のコーナーを見ようと2階に上がると、恰幅のいい黒人のおばさんがアレサ・フランクリンのBGMにあわせて腰を振っていた。ふと見渡すと、フロアには黒人しかいない。
1階は白人だけ、2階は黒人だけ。
この光景に、軽いショックを覚えたことを思い出す。
先日日本でも放送された、BBC制作のソウル・ミュージックの歴史を描いたシリーズ「Soul Deep」。これを見て,改めて強く認識した。
黒人音楽が人種を問わず聴かれるようになるヒップホップ時代のソウル・ミュージックに至るまでには、長い長い「レイス・ミュージック」(人種別音楽)としての歴史があったのだということを…。
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