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ファーストクラス

 飛行機はいつもエコノミー。自分からファーストクラス(ビジネスクラス)にしようと考えたことは一度もない。
 
 オーバーブッキングのお陰で乗れた中では、エミレーツ航空のビジネスクラス(関空→ドバイ)が強く印象に残っている。アメニティとして、香水などのグッズがぎっしりと詰まった純白のケースが配られたからである。これはどこか高貴なアラブの香りがして、私のお気に入りだった。
 
 だが、やむなくファーストクラスを購入した経験が一度だけある。
 新潟からウラジオストクに飛んだ翌日のこと。2週間後にヤクーツクからウラジオストクへ戻る便の予約をしようと、航空会社のオフィスに足を運んだ。すると、その日はファーストクラスしか空いていないというのである。毎日飛んでいる便ではないし、日程の変更は旅全体の計画を狂わせてしまう。少々高かったが許容範囲と考え、このとき生まれて初めてファーストクラスを購入したのである。
 
 搭乗当日。ヤクーツクの空港はセキュリティーチェックの前に乗客が殺到し、大混乱状態だった。ようやく飛行機のタラップにたどり着くと、スチュワーデスが私のチケットを見てちょっと驚いた顔をした。「あら、ファーストクラス。」
 そのスチュワーデスに先導され、機体前方のファーストクラス席へ。ツボレフの小型機ゆえ総座席数は少なく、ファーストクラスの座席といっても2列ほどしかない。そして見回してみると、どうやらファーストクラスには私しか座っていないようなのだ。
 
 さっそく、「シャンパンはいかがですか?」ときた。そのときは、フライト時間が短いのがちょっと残念だなと思った。
  しかし、本当にびっくりしたのはウラジオストクに着いた後のことである。
 まず私一人が先導され、タラップを降りることになった。ふと振り返ると、沢山のロシア人乗客が飛行機の出口で足止めを食い、私が降りるまでじっと待たされているではないか。「何か悪いなー。」と思いながらも、ひとり悠然とタラップを降りると、そこにはお迎えがいた。空港の職員だろうか。直立不動のまま私を待ち構えていた年配の男性が、うやうやしく挨拶してきた。「ようこそ、ウラジオストクへ」。
 こうして私はまたもやエスコート付きで、空港ターミナルまで移動したのである。
 このときくらい、自分が汚いジーパン姿だったのを後悔したことはない。
 
 ロシアでは、ファーストクラスは真の意味でファーストクラスなのだった。
 
 
  
 
 
 
 

オーバーブッキング

 航空券のチケット。現在ではEチケットが主流であるが、以前は何枚綴りにもなった分厚い冊子を手渡され、よく目を通しておいて下さい、などと言われたものだ。しかし、航空券に記載されているアルファベットなどの記号の意味については、正確に理解している旅行者などほとんどいない。
 2年ほど前、旅行会社に勤めた経験のある人から記号の意味を細々と教えてもらい、「へえ、そうだったのか」と目から鱗の思いがした。その話の中でちょっとショックだったのは、どの航空会社でも日常的にオーバーブッキングを行っているのだ、と知ったときである。
 
 オーバーブッキング。実際の席数より多い予約を受け付けること(いわいる「過剰予約」)。ちなみに、これはもちろん法律違反などではなく、実態はむしろ航空会社の日常業務といったところらしい。
 
 私が実際にオーバーブッキングの被害を受けそうになった体験といえば、タンザニア航空でダルエスサラームからマラウィに飛ぼうとしたときくらいだろう。
 そのときは、リコンファーム(予約再確認)の段階であっさりと「オーバーブッキングですね」と言われた。空港のカウンターでは、別のアフリカ人乗客と私の2人だけが、搭乗時間を過ぎてもずっと待たされた。タンザニア航空のキャッチコピーは‘Wing of Kilimanjaro’である。オーバーブッキングが当たり前だと知らなかった私は、そのときは「何がキリマンジャロの翼だ!」と憤ったものだ。
 
 しかし、逆にオーバーブッキングの恩恵を受けるケースは意外に多い(あなたも、身に覚えがあるかもしれない)。
 
 深夜、バンコクのスワンナビーム国際空港で予約していた帰国便に乗ろうとしたときのこと。「今日はタイ航空は一杯です。シンガポール航空に乗ってください。」と言うのである。これがオーバーブッキングの結果であることはいうまでもない。
 こういうとき、カウンターの職員は決して謝ったり、こちらのミスですなどとは言わない。平然としている。それはしょっちゅう起こることなのだし、そもそも日常業務の一部なのだから当然である。
 それに、私は内心「しめしめ。」と思っている。だってシンガポール航空なら、実質的なアップグレードである!
 
 先日上海から帰国するときは、空港行きのリニアモーターカーに乗車する地下鉄駅を間違えてしまい、おかげでチェックインタイム(「2時間前」)をとうに過ぎてしまった。少々慌てて空港のカウンターに駆けつけると、他の乗客の姿がない。時計を見ると、まあぎりぎり間に合ったかな、というくらいの時間である。
 カウンターの女性は私のパスポートをチェックすると、おもむろにこう言った。「今日は成田行きは満席です。」
きたきた!!それに続く言葉を待つ私は内心はニンマリなのだが、一応表情は変えないでおく。「えー、満席ですか。」カウンターの女性もまた無表情のまま、こう付け加える。
  「ビジネスクラスになります。」
 
 ビジネスクラスへのアップグレード。よくある話…なのである。
 ただし、これを読んだあなたが、意図的にチェックインを遅らせてみよう、などとは決して考えないでもらいたいのだが…。
 

今日は二本立て!!

1.ニューヨークのキャロライン・マス
 
 学生時代にバイトしていたロック喫茶には、レコード会社からたびたび、発売前の新作の見本盤が宣伝用に届いていた。その中に、次代を担うロックスターとしてレコード会社が強力にプッシュしていた新人アーティストがいた。確か、「女性版ブルース・スプリングスティーン」のキャッチコピーが付いていたと思う。
 レコードをかけるのが仕事だった私は何度か店内で流したと思うのだが、結局彼女のレコードは全く売れず、すぐにその存在は忘れられてしまった。
 それから何年もの年月が過ぎた。彼女はその後も何枚かアルバムを出したようだが、話題にのぼることはなかった。
 
 再びその名を発見したのは、ニューヨークのグリニッジビレッジを歩いていたときのことだった。
<本日、夜8時。キャロライン・マス>
 小さなライブハウスのステージで、彼女はバンドを従えて淡々とプレイしていた。悪くはなかった。しかし、空席の目立つ会場に漂うどこか寂しい空気を、私は感じ取っていた。「落ちぶれたロックスターの末路」というと大げさだが、いまさら誰が彼女の名前を覚えているというのだろう?
 
 ファーストセットが終わったときだったと思う。私は彼女に近づいて、確かこんな事を言ったのだ。
 「私は日本から来てるんですが、あなたのデビューアルバムが好きだったんです。」
明らかにリップサービスだった。しかしセカンドセットが始まると、彼女は私をステージに引っ張り上げて、こう言ったのだ。
 「このジャパニーズガイがね、私にリクエストをくれたの。」
 彼女はデビュー盤の中の一曲を、その日一番の力を込めて歌った。そして歌い終えると、ステージ下に再び私を呼び寄せ、両頬に口づけをしてくれた。
 
 それだけの話だ。こんな話、一度も他人にしたことがない(これからもしないだろう)。だって、キャロライン・マスなんて名前、当時の音楽ファンだって覚えていやしないのだから。
 
 しかし、これだけは言える。あの日あの晩、ライブハウスで感じていた空気は、まるで封印された記憶のようにいつまでも心の底で生き続けていくのだろうな、と。
 
 
2.ヤクーツクのインド人
 
 3年生の授業でいまインドを扱っているせいもあって、久しぶりにインド・レストランでランチを食べた。毎日のように食べるものでないが、焼きたてのナンの香ばしさも大好きだし、スパイスのブレンドが醸し出す奥深い世界も実に魅力的だと思う。
 だから、中華料理に負けず劣らず世界各地に進出しているインド・レストラン、旅先で見かけるとつい入ってみたい誘惑に駆られることがある。
 
 しかし、シベリアのヤクーツクを訪れた際、市内に立派なインド・レストランがオープンしているのを見つけたときには驚いた。店名は<タージ・マハル>。
 このときはさすがに、極北のシベリアでインド料理を食べようという気にはならなかった。「身土不二」の原則からすれば、想像しただけで身体が凍えそうである。
 その晩、ヤクーツク市内の別のレストランでインド人のグループに出くわしたときも、やはり不思議だった。声をかけてみると、コルカタ出身だという。
 「なんで極北のシベリアにインド人がいるんだ?」
 
 先日、その謎が解けたような気がした。インドは、世界の研磨ダイヤモンド取引きの一大中心地なのである。ベルギーのアントワープなどではインド人バイヤーが大活躍しているし、日本に入ってくるダイヤの8割はインド経由だといわれている。そして一方、ヤクーツクを首都とするサハ共和国は、有数のダイヤモンド生産地として注目されているのである。
 
 だから、「インド人とシベリア=ダイヤモンド取引き」なのか。…この推測で当たっているかな?
 
 
 
 
 
 
  

こだわりホテル

 1年前、クライストチャーチ(ニュージーランド)で1泊した‘Hotel So’。
http://www.hotelso.co.nz/Home
 街の中心にありながら日本円で3千円台(プロモーション価格)というだけで魅力であったが、このデザイナーズホテル、外観もロビーも何やら怪しげな光のオブラートで包まれている。部屋の内部はというと、どこか近未来的なデザイン、凝りに凝った照明、フラットスクリーン型のテレビと、何ともユニーク。ファンキーと表現すべきか、クールと言うべきか。
 狭い・窓がない・ベッドメイキングがない、その辺で評価は分かれるだろうが、没個性的なシティホテルが多い中、私に強い印象を残したホテルの一つである。

 歴史の街ホイアン(ベトナム)の旧市街に建つ‘Vinh Hung 1’。
 築150年の古い中国式家屋を使ったこのホテルは、室内は暗くて匂いがきつく、床はギシギシいうが、確かに雰囲気たっぷりである(その後リノベーションしたようだ)。
 その他にも、中国の伝統的な四合院建築を利用した北京の下町のホテル、かつて修道院だった建物をそのまま使ったポルトガルの隠れ家的ホテル…。

 こういうホテルは人気があるから(運よく飛び込みで泊まれる事もあるが)、やはり要予約である。
 かといって、いちいちホテルを予約して旅に出たのでは旅の自由度が格段に落ちてしまう。第一、それでは旅のためのホテルなのか、ホテルのための旅なのかわからない。

 なら、旅の初日と最後だけ予約を入れて行くというプランはどうだろうか?

 2年前の中欧旅行のケース→初日のプラハと最後のブダペストだけは予約。この2都市、ホテル代が高い。だから、ロケーション重視で選ぼうと決めた(プラハでは旧市街のど真中。ブダペストでは王宮の丘の上。おかげで観光客がいなくなった後に夜景を一人占めできた)時点で、許容できる価格帯のホテルあるいはペンションを探す必要があったのである。

 去年のマダガスカルのケース→やはり初日の空港近くの安ホテルと、最後のノシベ(アンディラーナビーチ)のゲストハウスだけ予約。マダガスカル到着が深夜になること、ノシベの人気ホテルはヨーロッパ人旅行者ですぐに一杯になること(ロンプラに載っている人気ホテルは2か月前の時点で満室だった)が理由。この場合、現地に着いてから探すのはかなり面倒である。

 昔は、日本からホテルを予約するという発想はなかった。
 ところが、今はネットで部屋の中まで覗ける時代。だから、こうしてホテルを調べだすときりがない。そのうち、何だかんだと「こだわり」が増えてくる。
 私の場合、「テラスやベランダがあって海が見える」なんてシチュエーションに結構弱い。

 ホテルの良し悪しはレストランと同様かなり主観的なものだから、他人の情報を鵜呑みにするのはどんなものだろうか、とも思う。
 しかしきっとあなたにも、自分なりの「こだわり」ホテルがあるのではないだろうか?

 「たかがホテル。されどホテル。」である。

 

 

 

ダーティー・ホテル

 世界最大の旅行口コミサイト、「トリップアドバイザー(trip advisor)」。
 ここで‘2010 Dirtiest Hotels’つまり世界の「最も汚いホテル(!)」トップ10が発表された。
http://www.tripadvisor.jp/DirtyHotels

 口コミ情報いわく、「ここに泊まるな。腐っている。」「話にならない!閉鎖すべき。」「身の毛もよだつホラー映画のようなホテル。」「道で寝転んでいる方が衛生的。」などなど…。
 これはなかなか笑える。

 ちなみに、リスト中に私が知っているホテルはない。(実を言うと、2009年度版では私が実際に泊まったホテルの名前を発見。でも、そんなに汚いホテルじゃなかったぞ。)また、アフリカや中東のホテルは最初から除外されている。だから、もっと汚いホテルはまだまだあるはずだ。

 で、自分の旅を振り返ってみた。
 やはり、トップはグルジア。ゴリとテラヴィで泊まった2軒の旧インツーリスト(国営)系ホテル(うちひとつは本当の意味で「難民ホテル」)で決まりである。
http://blogs.yahoo.co.jp/kamanyan2007/12248789.html
 でも、水もない、電気もないのにあれをホテルと呼べるのか。「かつてホテルだった建物の廃墟」ではないのか。いや、一応は営業していたのだからやっぱりホテルか。
 だとすれば、どう考えても上のリストに載っているホテルなんて足元にも及ぶまい。グルジアのこの2軒のホテルこそ、堂々のナンバーワンだ!

 自慢するわけじゃないが、勝った(笑)。

 タンザニアのダルエスサラームの安宿も汚かった。愛想の悪いインド人が経営していたその宿は日中でもほとんど日が差さず、あるとき部屋の片隅に大きな鳥(野鳥?)がうずくまっていた。何でそこに鳥がいたのか、今もって謎だ。立て付けの悪いベッドのほかには木組みの小さな椅子が置いてあるだけだったが、遊びに来ていたケニア人の女の娘が座った途端、たちまち音を立てて崩れ落ちた。

 さてあなたは、次のどちらにより近いだろう?(ここでいうホテルとは、ホステルやドミトリーなどの安宿、ゲストハウス、B&B、民宿、ペンションを含めた宿全般をさす。)

A.「こだわらない派」…ホテルとは、夜寝るためにあるもの。だから基本的にベッドがあればそれでOKで、安い事が一番大切。

B.「こだわり派」…ホテルは旅の重要な要素の一つ。ホテル次第でその土地の印象も変わる。だから、ホテル選びは慎重になる。

 私はずっと、ホテルは予約するものではなく、現地で探すものだと決め込んでいた。そうなると当然、「汚いホテル」に泊まる可能性も高くなる。実際泊まっていると思うのだが、それをいちいち気にしたことなどなかった。
 そう思って読むと、今回の「トリップアドバイザー」の口コミの内容は逆に興味深い。

 なお、「べスト・ホテル2010」もあわせて発表されているので念のため。

 

 



 




 
 





 

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