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ウェーバー / 歌劇「オイリアンテ」序曲
エルガー / チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
ショスタコーヴィチ / 交響曲 第5番 ニ短調 作品47
指揮|イオン・マリン
チェロ|アントニオ・メネゼス
今夜は、何と言ってもメネゼスでしょう。私にとっては、長く記憶に残るであろう名演でした。
彼の音はそんなに大きくありません。自分がいつも聴いているRBは、音の分離が良い席なので
ソロがオーケストラに埋もれることはありませんでしたが、おそらくセンターブロックの
後方ではチェロがよく聴こえない部分があったのではと想像します。彼の一番の美質は、
シルクタッチの美しい音色と歌心でしょう。しかも、C線の下からA線の一番上まで、
心地よい倍音構成の木目細かい音が揃っています。いかにもカラヤン好みの音色。
すばらしい技巧でスケルツォの難しいパッセージ、fig.29+1の一番高いA音も楽々こなし
ます。この音、弦長の1/4の所を押さえるわけですが、指板のほとんど端っこです。
終楽章、fig.50以降、十六分音符のクロマティック進行と跳躍が延々と続く難所も、まるで
歌うがごとく、美しく聴かせます。隣でチェロを少し弾く息子が楽譜を見ながら聴いて
いましたが、目の前で繰り広げられる異次元の技に、目が点になっていました。
アダージョとフィナーレのストレッタ直前の美しい歌は本当に夢見る気分でした。美しいが、
決してプリマドンナの華やかさではなくて、内省的な、密やかな歌。マリンの合わせ方
もまた絶妙。この人オペラの指揮者だなと思って演奏経歴を調べたら、案の定、アバドが
シェフを勤めていた当時のWiener Staatsoperでレペルトワール(PremierやNeustudierung
ではない日常の公演)をたくさん経験していました。アダージョからフィナーレにかけては、
まるでカヴァティーナ+カヴァレッタ形式のアリアを聴かされているような印象。とくに、
ストレッタ直前の歌う部分(fig.66〜71、掲載したパート譜参照)では、
バトンの打点を敢えて曖昧にして、オーケストラの各奏者がソロの歌をよく
聴きながら微妙なフレージングの伸縮をサポートするように仕向けるあたりの
芸は、歌の伴奏そのものだなと思いました。
5月12日の下野+ハーゲン+読響の同曲は、三者が緊密なアンサンブルを聴かせる
室内楽的な演奏でしたが、今夜の演奏はメネゼスの控えめだが美しい歌と、それに誠実に
合わせるオーケストラでした。
後半のショスタコーヴィチも立派な演奏でしたが、輝かしいトゥッティの響きよりも、
マリンがしみじみと歌わせる瞬間が印象に残りました。特にクラリネットが光って
いたように思います。ラルゴ81小節目、上行音型で始まるソロは、A管独特の美しい
シャリュモー音域と空中に漂うような高音がすばらしかった。一方、ホルンはやはり
楽器自体が難しいのでしょうか。。
ところで、演奏評からは少し離れますが、この曲は、パートライティングがシンプルで、
トゥッティの部分でも比較的音が薄く、例えばエルガーなど細かいアラベスクで構成され、
ヴォイシングが密集したオーケストレーションとは全く対照的です。ごく例外的な部分を
除いて、4声よりも厚くなることはありません。つまり、オクターブ重複を除けば、
4声でパーカッション以外のほとんどすべての音を拾えます。
例えば、第1楽章で一番音が厚い部分は、マーチの後半、204−210小節あたり、
stringendoでテンポが速くなる部分ですが、木管+ヴァイオリンのA音オスティナート、
ホルン+トランペットの3声の和音、トロンボーン+チューバ+低弦のメロディ、
全部でこれだけです。管楽器ソロの部分は、さらに薄く薄く書かれています。3楽章に
出てくる、ハープだけが伴奏するフルートソロ、ヴァイオリンのcisのトレモロだけを
伴うクラリネットのソロなど。しかもこれらは、弦楽合奏がフェイドアウトして現れる
から非常に印象的。こういう独特のオーケストレーションの工夫が、透明で、肌触りが
クールな感じの、ショスタコーヴィチ特有の響きを作り出しているのですね。
それにしても、メネゼスの美しい演奏とマリンのすばらしいサポート。すばらしかった。
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同じ21日に行ってきました。忙しくしていたので拙ブログの記事が遅れましたが、やりくりをつけて当日券で聴いた甲斐がありました。ご教示に心から感謝します。
2008/5/24(土) 午前 8:30 [ dsch1963 ]
dschさん、よかったですね。ちなみに、事務局では、「当日券」とは言わないです。前売りの残席がある場合に当日出すのが、当日券で、Bプロの場合は、完売だけど、当日、「非売分」を売ります、とN響ガイドではいわれました。どうでもいいけど、おそらく、「当日券」というと、前売りで完売と言われたのになんで当日券が出るんだ、とかみつく人がいるんじゃないかと想像します。
ところで、Bプロって、お客さんの平均年齢がすごく高いと思いませんか。自分も社会全体の平均年齢よりは上になりましたが、Bプロに行くといつも、大先輩ばっかりで、ちょっといつもと勝手が違うなと思います。
2008/5/24(土) 午前 10:44 [ kamata60 ]