HKの音楽夜話

在京オーケストラの定期公演を中心に、コンサート、オペラのレビューを掲載します。

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NHK交響楽団第1632回定期公演 Aプログラム 
11月15日(土 )NHKホール
ワーグナー / 楽劇「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲と愛の死」
同 第2幕(演奏会形式)
指揮:イルジー・コウト
トリスタン: アルフォンス・エーベルツ
イゾルデ: リンダ・ワトソン
マルケ: マグヌス・バルトヴィンソン
ブランゲーネ: クラウディア・マーンケ
メロート: 木村 俊光

今夜もシュターツカペッレ・ドレースデンの前コンサートマスター、ペーターミリング氏をゲストコンマスに招いての公演です。先週のBプロではN響の弦楽からシルキーな響きを引き出したミリング氏がおそらく劇場時代に何百回も弾いたであろうトリスタンでどんなリードを見せるか、そしてバイロイトの現行プロダクションでブリュンヒルでを演じているワトソンさんがどんなイゾルデを聴かせてくれるかなど、聴きどころ満載で、自分としては以前から楽しみにしていたコンサートです。

前半は、前奏曲と愛の死。ミリング氏率いるN響の弦楽陣は自分の期待通り、繊細かつ多彩な音色とイントネーションを聴かせてくれました。一つの音符の中での微妙なニュアンスの変化が積み重なって情感あふれる歌が紡ぎ出されていきます。プレリュードの間、ほとんどずっとミリング氏の弓を見ていましたが、なるほどああいうボウイングをすればああいうフレーズが出てくるんだなと納得することしきりでした。

隣の大宮さん、将来のコンマス候補として嘱望されている若手のエースですが、学ぶところがたくさんあったんじゃないでしょうか。コウト氏は、先週のブルックナーと同様、精緻なバランスの取り方で、乱暴な強奏で音を濁らることなく、控えめながら美しい金管のアコードと弦楽が溶け合うみごとなソノリティを引き出しました。

木管ソロがちょっと控えめすぎるかなと思いましたが、非常に美しいプレリュードだったと思います。

前奏曲のfig.Bあたりでワトソンさんが舞台下手から登場。深みのある胸声で“mild und leise wie er laechelt”が歌い出されました。以前はリリコな役も歌っていた彼女ですが、今や押しも押されぬヴァーグナーソプラノになりました。

豊かな倍音が響き渡る頭声と深い胸声を兼ね備え、ソプラノとメゾソプラノの美質を併せ持つ見事な声。しっかりとした声の輪郭、明瞭なディクション。ブリュンヒルデ、とくに「ジークフリート」3幕での同役ではトップレジスターの発声、音程がやや苦しい印象をかねがね持っていましたが、イゾルデなら問題ありません。威厳ある舞台姿と相俟って、美しく、気品ある歌でした。

休憩後、メインの2幕。前奏曲と愛の死は、N響もオーケストラピースとしてたびたび弾いているでしょうが、日頃シンフォニーオーケストラとして活動しているN響が2幕をどう弾くのか、楽しみでした。コウト氏とミリング氏の老練なリードでまずは無難な演奏。

オーケストラの皆さんも曲をよく知っていらっしゃるようで、歌手のちょっとした破綻にもコウト氏の棒に反応して修復して事なきを得ていました。美しい響きで、歌をマスクしてしまうこともなく、立派な伴奏だったと思います。やはり弦楽器が美しかった。

メロート役の木村さん、慌て過ぎ。“ich zeigt’ ihn dir in offner Tat”で2拍くらい先走ってしまいましたが、コウト氏が「NHKのど自慢」の伴奏みたいにうまく収めました。

マルケ王のバルトヴィンソン氏は終始自信なさそうです。フランクフルトで同役を演じた経験もあるはずなのですが、どうしたことでしょう。まださらっている段階という歌で、マルケ王にふさわしいディグニティも感じられませんでした。“da selber du den Ohm beschworst,”以降、伴奏を見失ってしまって危なかったです。オーケストラも少し動揺してアンサンブルが乱れましたが、ここもコウト氏の巧みなキューイングでなんとか修復しました。

トリスタンのエーベルツ氏、音程が全体にフラット気味、フレーズはブツ切れ、今夜は不調でした。“Niewiedererwachens wahnlos holdbewusster Wunsch”、イゾルデとの美しいハーモニーを聴かせてほしいところですが、音程がはまりませんでした。メロートとの場面、“um Ehr’ und Ruhm mir war er besorgt wie keiner“は、低弦の伴奏音型を数え間違えて、アウフタクトを一拍早くでてしまいました。

まあ、劇場では通常もっといろんなミスが出るわけですが、演奏会形式で譜面を見ながらの演奏にしては、ややミスが多いかなと思います。いずれも劇場経験豊富なコウト氏がちゃんと修復しました。ワトソンさんのイゾルデは実に立派な歌でした。やわらかい弱音からオーケストラを突き抜けるトップまで、表現の幅が広いし、音程、リズムは安定して、強靭で情感もあって、歌詞は明瞭、安心して美しさに浸れる歌唱だったと思います。本日一番の収穫。

いろいろありましたが、N響の立派な伴奏、ワトソンさんの光り輝くイゾルデを聴けたので満足です。

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いつもながらの詳細なコメント、参考になります。メロートの出だしなどアレッと思ったのですが、ご指摘の通りですね。今回の歌手の中では、やはりワトソンが一頭地抜けていたと思います。コウトの指揮は堅実そのものでしたが、N響の力量をきちんと引き出していました。また、こういうチャレンジングなプログラムをやってほしいですね。

2008/11/16(日) 午後 11:35 [ dsch1963 ]

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dsch1963さん、いつもお世話になります。
木村さんですが、出番が少ないので暗譜だったのでしょうが、オケがまったく聴こえていませんでしたね。それなら、愚直に楽譜見ればいいのにと思いました。
ワトソンはすばらしかったですね。新国に呼んでイゾルデやってほしい。。。

2008/11/16(日) 午後 11:48 [ kamata60 ]

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大変、勉強になりました。
仮に同じような評価・感想を持つとしても感性だけで
判断している自分が恥ずかしくなります。

新国のイゾルデ案、賛成ですが
オケの安定度の向上のために
ミリングさんも呼んだ方がよいでしょうか(苦笑)

2008/11/17(月) 午前 5:49 irigomi45

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IRIGOMIさん毎度どうも。
そうですね。ミリングさんみたいな百戦錬磨のコンツェルトマイスターにぜひ新国に客演していただきたいですね。もうドレスデンは退職しておられるので、例えばワンシーズンとかずっと弾いてもらえると、絶対に日本のミュージシャンにとってもすごい勉強になると思うんですよ。やはり何百年も続いてきた伝統を引き継ぐ人の弾き口ってのは、その人と一緒に弾かないと伝わらないと思います。もちろん、ドレスデンがすべてじゃくて、東京のオケには東京のオケなりのよさがあります。同じものを追いかけても、それは単なるパスティッシュですが、いろんな伝統を吸収するというのは、絶対にプラスになると思います。

どうもありがとうございます。

2008/11/17(月) 午前 11:56 [ kamata60 ]

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ああ、やっぱりミリングが一番仕事をしたみたいですねえ。
残念、上洛していて、聴きのがしました。
こういう企画は是非つづけてほしいものです。
失礼いたしました。

2008/11/18(火) 午前 0:31 [ - ]


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