HKの音楽夜話

在京オーケストラの定期公演を中心に、コンサート、オペラのレビューを掲載します。

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グラズノフ:バレエ「ライモンダ」
2009年2月12日新国立劇場
ザハロワ、マトヴィエンコ、森田健太郎ほか

自分は、作品としてのライモンダがとても好きです。なぜかといえば、まずグラズノフの音楽。チャイコフスキーとはひと味ちがう魅力的な音楽、エクゾティックなハーモニー、色彩豊かなオーケストレーション。そして何よりも、クラシックバレエの中では、ドラマとして大きな可能性を秘めているからです。その鍵を握るのは、もちろんアブデラクマンのキャラクター設定とライモンダの心理です。そのアブデラクマンの役柄設定のコンセプトについて、プティパの振付けを改訂した牧阿佐美さんがプログラムに寄せた文章を少し引用します。

「アブデラクマンの人物像をどのように設定するかが演出の鍵になると思いました。」ここまでは、自分と全く同じ見解で100%賛同します。

「今回の演出ではサラセンの端正な騎士として登場させます。アブデラクマンもジャンと同様にライモンダに恋する一人の男性なのです。ある女性にひたすら憧れ、その女性を心から愛しているのに、彼女には相思相愛の恋人がいるという、いつの時代にも誰の間にも起こる、ある意味での普遍的な男女の恋愛模様として描きたいと思ったのです。」

一人の女を巡る三角関係ですか。率直に言って、それじゃ安っぽいテレビドラマですね。それにしたって、今夜の舞台では、ライモンダは終始明らかにアブデラクマンを嫌悪しています。これじゃあ三角関係でもなくて、単なるストーカー事件です。さらに、アブデラクマンは、いやしくもサラセンの「騎士」であるはずですが、このプロダクションでの彼の衣装は、どうみても十字軍当時南イタリアやシチリアを荒し回っていた海賊の頭目にしか見えません。立居振舞が洗練されていなくて、宝箱から金銀宝石を取り出して裸のままライモンダに渡そうとするとか、ライモンダの頬を両手でいきなり愛撫しようとするとか、「ばらの騎士」のオックス男爵にさえ笑われかねない粗暴な態度じゃないでしょうか。ライモンダに嫌われるのも当たり前です。この役柄設定では、相思相愛の恋人+ストーカーという構図で、だれの心にも緊張がなく、そもそもドラマが成立しないですね。

史実として残っているジャン・ド・プリエンヌが出征したであろう13世紀初頭の第五次十字軍当時、サラセンの騎士がハンガリー王の宮廷にのこのこ顔を出すなんていう設定は荒唐無稽であって、アブデラクマンの設定自体が壮大なフィクションというか、夢というか、シンボリズムなわけで、もっと大胆な性格づけが可能なはずです。男にしても、女にしても必ずあるはずのギャラントでエグゾティックでセダクティヴなものへの憧れ、性愛の誘惑との葛藤、中世カトリックの窮屈な倫理観でがんじがらめに縛られているが故の大胆な夢想、そういうパッションと貞節と戦い、人間がもっと自由だった古典ローマ時代の地中海世界へのあこがれ、来るべきルネサンスの予兆、そういうテーマがこのドラマの底流にあるんじゃないでしょうか。そうであればこそ、グラズノフは2幕のグランパダクシオンからバッカナールにあれほどセクシーな音楽を書いたのだと思います。ひとことでいえば、“cosi fan tutte”です。あるいは、エルヴィーラやドンナ・アンナが倫理観から拒みつつも本能ではジョヴァンニに魅せられてしまう心情といえばいいでしょうか。今回の牧版では、そのバッカナールの高揚感をまったく感じませんでした。

舞台装置は、限られた予算での制作でしょうから、この程度でしょうがないでしょう。

で、ザハロワさん、今夜の立ち上がりは本来の調子ではなかったか、たびたびバランスをくずしていました。終幕でやっと本来の輝き。グラン・パ・クラシックのヴァリアシオン、5番ポジションからポワントに立って、左右交互にルティレに持っていくパは何と言うのでしょうか、あのあたりの立ち姿が何とも美しかった。あいかわらずコールは立派でした。1幕2場、幻想のワルツだったか、コールのマネージュ隊列での連続フェッテ。新国コールの優秀さをアピールする振付けでしょうか。場内大いに湧きました。全般的にコールは、クラシックよりもキャラクターの方が生き生きしている印象を受けました。

新国立劇場は、バレエ団も合唱団も非常に立派です。これで座付きのオケがあれば、世界屈指の立派な劇場。今夜の東京交響楽団も立派な演奏でした。このレベルのオケがずっとピットに入れば、ものすごい劇場になるんですが。。トランペットのトップの人、すごくうまいですね。幕間にマーラー第7シンフォニーのファンファーレの練習をしておられましたが、そういえば来週の定期がこの曲ですね。練習を聴く限りは、トランペットはすごそうです。(笑)


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