HKの音楽夜話

在京オーケストラの定期公演を中心に、コンサート、オペラのレビューを掲載します。

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新国立劇場 ワーグナー:「ラインの黄金」
スタッフ/キャストはこちら:http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000075_2_opera.html#cast

「トーキョー・リング」をはじめて観ましたが、なかなか立派です。世界各地の様々なリングを観て来たイマドキの聴衆は、もう何が出てきたって驚きません。今やリングは、様々な時代設定、意匠など舞台上の表象と様々な認識の枠組みを媒介として神話の意味を再確認するマスセレモニー(大衆儀式)と化した感があります。ぼくはまだ続く3編を観ていないので、このプロダクションがどういう風に首尾一貫した神話劇として完結するか分かりませんが、今夜の舞台の完成度を見ると、結構期待しています。冒頭、映写機を傍らにスクリーンを凝視するヴォータンの姿、その後の舞台が映画スクリーン状に枠取りされた中で演じられることが、おそらく今後の展開につながる基本的な枠組みなんだろうと想像しますが、謎解きは今後の楽しみとしましょう。

音楽的にも立派だったともいます。遅めのテンポですが、いささかも鈍重にならず、オーケストラは常に抑制気味でテクスチュアはクリア。ホルン、テノールチューバでちょっとしたミスはありましたが、今夜の東京フィルハーモニーは総じて立派な演奏でした。世界各地の劇場関係者も注目する中でエッティンガー氏の明晰で安定した音楽づくりは高く評価されるんじゃないでしょうか。おそらくヨーロッパの大きなハウスからそのうちオファーがかかると思います。声楽陣も総じて上出来。とくに今夜一番の喝采を浴びたアルベリヒのユルゲン・リンの強烈な存在感と自在の演技、フリッカを演じたエレナ・ツィトコーワのきりっとしまった美声と美しいディクション、エルダを演じたシモーネ・シュレーダーの深々とした胸声が印象に残りました。ローゲは、このプロダクションのイメージだともう少しアスレティックで若々しい歌がいいんじゃないかな。ローゲが“keiner kennt ihn; doch einer übt ihn leicht,”(手元のSchirmer版ヴォーカルスコアは小節番号がないので歌詞だけで失礼)でちょっとキューをつかみ損ねたのに気づきましたが、全体としては本当に立派な演奏でした。音楽の流れ、全体のテンポ運びがすばらしく、Bravo!! 次のヴァルキューレは4月。やはり四作続けてみたい。バイロイトみたいに、RheingoldとWalküreを連夜上演後、一日休んでSiegfried、一日休んでGötterdämmerungというスタイルが、歌う側も見る側も理想的なんですが、新国立劇場なんとかしてくれないかな。これだけレヴェルの高い上演なんだから。

演出については、全四作を見終わってからでないとコメントできませんが、テキストに込められた意味をかなり細かく視覚化しているなという印象。今夜の舞台では細かいディテールにしか見えないものが重要な伏線だったんだなと続編で思い出されるのでしょう。とりあえず今夜のメモ。

指揮者はこっそり登場し、開演前の拍手なし。これはバイロイト風。序奏が始まる。舞台には1点の光。やがて薄明かりに映写機の傍らに座るヴォータンの姿。スクリーンを見つめるヴォータン。舞台前方奈落からスクリーンがせり上がり、波打つ水面が投影される。舞台手前には映画館の座席。3人のラインテヒターは赤ん坊のようなかぶり物。アルベリヒは、赤のスーツにドレスシャツで登場。ラインテヒターがラインの黄金に宿る力について語り始めると、スクリーンには金色のジグゾーパズルと代数式。微分、対数、総和、三角関数など。愛を呪う言葉とともにスクリーン手前の奈落に飛び込むと、スクリーンには水面に飛び込み、ジグゾーパズル中央の1ピースを奪い取るアルベリヒの姿がアニメーションで映し出される。暗転。

セット交換の隙間に、アルベリヒが上手から下手へ、ヴォータンが逆方向に舞台を歩き、交差。ここだけがスクリーン形状の枠組みなしに素の舞台上で演じられる。おそらく意味があるんだろう。覚えておこう。

手前からせり上がるヴァルハラ入居前の神々仮住まいは、ミドルクラス向けハイライズフラットの一室。引越荷物の段ボール箱が積まれている。舞台手前にはヴォータンの槍を運搬するためと思われる長い木箱。建設現場の足場に用いる単管、ジョイント、クランプで組まれたバルコニー。先ほどのスクリーンと同じ形に枠取りされたプロセニアム。周囲は、数式で埋め尽くされたパネル。ヴォータンとフリッカは、ガウン姿で登場。ガウンを脱ぐと、ヴォータンはワイシャツ姿、フリッカはテイラードスーツ。どうでもいいが、ツィトコーワさんはスリムでセクシーなプロポーション。思わずオペラグラスを覗き込む。マフィア風ダークスーツ姿の巨人2人は、建設現場の作業用ゴンドラに乗って、強いサーチライトを客席側に照射しながらバルコニーから登場。ローゲは、テイルコートの大正装(ドイツ風に言えばgrosses Abendkleid)。ニーベルハイムに出かけるに際し、ヴォータンも段ボール箱からテイルコートを取り出して着込む。

下手側舞台が主舞台の位置に平行移動して場面転換。前場と同様、枠取りされたプロセニアム。ただし、180度回転移動していて、スクリーン型の枠は上下左右に反転。型抜きされた”NIBELHEIM“の文字も上下が逆。4本の柱で支えられたアルベリヒの執務室。上手側に事務机。金細工の設計図らしい青写真が机上に広げられている。舞台奥にはテラス風の柵があり、その奥にニーベルンク族の作業場。アルベリヒの指環は、ジグゾーパズルのピースの形。

トレンチコートの下に白い水着を着たスタイル抜群のブロンド美女を弄ぶアルベリヒ。かなり露骨な性的描写も。
eure schmucken Frau’n, die mein Frein verschmählt,
sie zwingt zur Lust sich der Zwerg,
lacht Liebe ihm nicht.
テキストにもこのようにあるし、やがてアルベリヒがハーゲンという子を設けるという「愛なき者の奇跡」への伏線か。

隠れ兜でアルベリヒが変身すると、4本の柱が爬虫類恐竜の足のように照明で彩られ、下手天井から恐竜の頭、上手袖から恐竜の尾。ヴォータンがカエルをブリーフケースに捕える。アルベリヒが拉致されたことを知ったミーメがその美女と情事に至る場面は、愛を放棄したアルベリヒの女性との即物的なかかわり方とコントラストをなす。

再び神々の仮住まいフラット。さきほどカエルに変身したアルベリヒを捕えたブリーフケースを床において開くと、手品のように中からアルベリヒが現れる。よく見ると、床のその部分はブリーフケースと同じ形のせり上がりになっていて、アルベリヒは奈落からブリーフケースの枠をくぐって登場したようだ。アルベリヒがニーベルンク族を呼び出すと、小人が多数のブリーフケースを運んでプロセニアム手前に並べる。

巨人再登場。フライアは、おおきなブリーフケースに押し込められている。さきほどのアルベリヒ登場と同じ仕掛けで、ブリーフケースのふたを開けると奈落からピンク色のドレス姿のフライア登場。運び込まれたブリーフケースに収められた黄金がフライアを押し込めていた大型ブリーフケースに次々に流し込まれる。エルダは、プロセニアム外枠の下手側がジグゾーパズルのピースの形に開いて登場。エルダの預言を聞くためにヴォータンは外枠から出て舞台最前面に降りる。そこから指環をファフナーに投げ渡す。フライアはファゾルトに好意を持っている様子。ファゾルトに指環だけを確保しておけとアドバイスした直後、ローゲがファフナーにダガーナイフを手渡す。ファフナーは、このダガーナイフでファゾルトを殺害。フライアが殺されたファゾルトにかけよって悲しむ様子。先ほどのミーメと美女とのからみと同様、のろわれた指環の持ち主(アルベリヒ、ファフナー)の行動とは対照的。ファフナーによるファゾルトの殺害は、 指環にかけられた呪いというよりも、ローゲがファフナーを焚き付けた印象。細かいが、ここらへんの演出は続編への重要な伏線じゃないかと想像。

仮住まいの舞台セットが奈落に沈むと、白壁に七色の風船が散乱するヴァルハラのセットが奥舞台から前方にせり出す。ここは新国立劇場の最新鋭舞台機構を最大限に活用したゴージャスな物量作戦。フリッカは山羊の角、ドンナーは雄牛の角、ヴォータンは鳥の翼など、神々はそれぞれゲルマン神話に沿ったかぶり物。ヴァルハラ入場の場面では、ゲルマン神話の神々の他、ガムランに出てくるヒンドゥーのヴィシュヌ、シヴァ、プラフマー、日本神道のイザナミとイザナギ、エジプトのイシスとオシリスなど世界各地の神々まで登場してにぎやか。トランペットがノートゥンクのモチーフを吹奏するのに合わせ、ローゲがヴォータンに宝剣を手渡す場面が次篇「ヴァルキューレ」につながる。最後のDes-dur主和音が鳴り終わると暗転。

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ご指摘のように、細かいところに第1夜以降への伏線がずいぶん織り込まれているように思います。ヴァルハル(Walhall)のWalは「戦場、戦士」、Halleは「広間」ですから、これが第1夜以降どう扱われるかも注目ですね。

たしかに4作をせめて1カ月程度の間にまとめて観られると嬉しいのですが、ともかくも再演されたことを歓迎したいと思います。ただ、チケットは「タンホイザー」や「アイーダ」のようには完売にならなかったとのことで、経済悪化の影響かもしれません。

2009/3/15(日) 午後 10:55 [ dsch1963 ]


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