HKの音楽夜話

在京オーケストラの定期公演を中心に、コンサート、オペラのレビューを掲載します。

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読売日本交響楽団第482回定期演奏会
2009年5月28日(木)サントリーホール
指揮:オラリー・エルツ
ヴァイオリン:バーナバス・ケレマン
シベリウス:  トゥオネラの白鳥、 レンミンカイネンの帰郷
プロコフィエフ: ヴァイオリン協奏曲第2番
ラフマニノフ: 交響的舞曲

白鳥にもいろんな表現があります。例えば、先日新国立劇場で上演された「白鳥の湖」2幕でオデットのソロの伴奏として演奏される音楽は、近景としてくっきりはっきり優雅な白鳥を表現しますが、「トゥオネラの白鳥」は、靄にかすみ色彩を失った川面におぼろな輪郭で動くシルエットなのでしょう。コールアングレがくっきり浮かび上がるのではなく、弱音器をつけた弦楽のアコードに溶け合うような今夜のコールアングレは絶妙のブレンドでした。「レンミンカイネンの帰郷」で見せた鮮やかな音色とのコントラストが美しく、色彩感覚が鋭い、音色のパレットが豊富な指揮者と見ました。

長身の堂々たるケレマン氏が弾く「グアルネリ・デル・ジェス」(1742)は、独特なくすんだ音色の楽器。ちょっと鼻にかかったようなG線の音がそのまま上に伸びていくような音色でした。もしNHKホールだったら後ろじゃ聴こえにくいと思います。この1年間いろんな若手ヴァイオリニストの演奏を聴きましたが、今時の若手はみんな達者ですね。大柄な表現ではなく、緻密な音楽づくりがストバイを6プルトに刈り込んだ小編成のオーケストラとよく溶け合っていました。プロコフィエフ独特の半音で隣り合った調への一時的な転調にともなってぱっと視界が開いたり閉じたりするような微妙な音色の変化、例えばアレグロの第2テーマがB-durからH-durへと揺らぐ辺り(B&H fig.6)の洗練された表現が印象に残りました。ロンドのスペイン風リズム感は華やかだし、7/4, 3/4, 5/4とめまぐるしく変化するリズムの躍動感も見事。アンコールに弾いたバルトーク無伴奏ソナタのロンドプレストはおそれいりました。ダブルストップで1-3=>2-4と指を動かし、そのままポジションチェンジして三度のクロマティック上昇下降をずっと繰り返すパッセージ、どうやったらあんなに弾けるんでしょうね。病的な超絶技巧です。読響の皆さんも顔を見合わせて驚いた様子。プロフェッショナルでもこの曲を堂々と弾く人はそんなにいませんからね。

メインのシンフォニック・ダンスは、エッジのたったリズムとわざとぼやかした輪郭の対照で幅の広い表現をめざした意図はよく分かるのですが、アンサンブルが十分に練り上げられていないように聴こえました。正直なところ、この演奏、よく分かりませんでした。悪くないんだけど、ああすごいとも思わなかった。

お客さんもやや少なめ、同じラフマニノフでもポピュラーなピアノコンチェルトがプログラムに載った名曲シリーズに振り替える会員さんが多かったのかな?弦楽器の学生さんらしき人はかなりいました。彼らはソリスト目当てでしょう。こういう渋いプログラム、いいんですけどね。

東京都交響楽団 第681回定期演奏会 Bシリーズ
2009年5月26日(火)サントリーホール
指揮:小林研一郎
スメタナ:「わが祖国」

(まずは七五調で口上)
忘れはしねえ1年前。遺恨のダブルブッキング。
思い返すもにっくきは、NBSにあのイタ公。
上野のブンカンのっとられ、涙に流したあの定期。
シュターツオパーに恨みはねえが、
男コバケンころんでも、ただじゃあ起きねえ、イワキッ子。
あの因縁の「わが祖国」。今年はABブチ抜きで、いわくの定期は倍返し。
サントリーのお客さん、1年越しのこの思い、
耳かっぽじって、聞いてくれ。
はるかボヘミア高い城、ヴィシェフラドにお住まいの、
リブシェの女神も腰抜かす、聞けコバケンのこの唸り。
やべっち、エンカナ、ぬかりはねえか。テラモト、タカハシついてこい。
切符は売り切れフルハウス、親衛隊も準備万端。
あせってフラブラするんじゃねえぞ。(ヨッ!日本一!)

ということで、戦前の予想通り、こってり脂ののった大トロを10カンくらい食べた気分。もうスタイルがどったらこったらという次元ではなく、これはこれで至芸、魂の歌、巨匠の域です。オーケストラのみなさんも楽しんで弾いていた様子。

ブラボー屋さんの声も今夜はいつにもまして濃かったですね。いつもは歌舞伎座の3階から大向こうをかける寿会、弥生会あたりがうちそろってサントリーホールにつめかけた風情でした。

2009年5月21日
新国立劇場「白鳥の湖」
出演者等は http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000086_2_ballet.html

「白鳥の湖」という演目は、新国立劇場のお客さんの層ががらっと華やかになります。ヴァーグナーをやる日の、あのヲタク風のむさくるしい雰囲気とは大違いで同じ劇場とは思えない。高校生の女の子たち、おそらく駆け出しのバレエダンサーであろう恐ろしくスタイルのいい女性たち、小さな女の子を連れたおしゃれなお母さんたち。何だか、ヒゲおじさんの自分が一人でうろうろしているのが場違いに思えます。

表現がやや淡白で大柄なザハロワさん、オデットに似合っているんじゃないでしょうか。この演目で自分の一番好きな箇所、2幕のソロ、ロン・ド・ジャンブ・アン・レールからポワントでワーキングレッグを180度に直立させるところなど、何とも格調高い、香り立つような踊りです。その前のパ・ド・ドゥでの腕を支えられたアラベスクからの深いプリエも、長い手足がさらにすーっと伸びていくようで、この人ならではの美しさがある。一方、オディールはややクィックネスが足りない感じで、2つの役の表現の違いが際立たない印象を受けました。しかし、格調高いオデットで十分満足です。

コール・ド・バレエは立派。よくもここまで脚、肩、腕、首の角度、タイミングまでビシッと揃えられるもんだと感心します。パ・ド・ドゥの中間部に入るところ、木管がシンコペーションのリズムを刻み始める所ですが、そこまで上手下手に分かれてじっとしていたコールが一斉に後ろ向きのタンルベで動き出すその直前、24人のするどい衣擦れの音とともに舞台から空気が動く。ソロダンサーもコールもすばらしい時のあの瞬間は、ぞくっとする。

東フィルはいただけなかった。とりあえず合わせたという感じで表現が平板、ソロは弱いし音程も悪い。ヴァルキューレではなかなかの好演でしたが、先日のライモンダで健闘した東響との出来映えの差がはっきりしてきたような気がします。がんばってほしい。

大詰めの解釈は昔から議論があるところです。この舞台の下敷きとなったマリンスキーの現行演出(プティパ/イワノフ/セルゲーエフ版)では、ロートバルトが翼をもぎ取られ、オデットとジークフリートはめでたく結ばますが、今回の牧改訂版は、ロートバルトの消え方をややマイルドにするも、ハッピーエンドは同じ扱い。自分の好みに過ぎませんが、ドラマとして軽い気がします。音楽が最後の木管の刻みとハープのアルペジオが入ってくるところで長調に変わり、はっきりと異次元にトランスフォームしているのと齟齬するような気がします。ここは来世にしてほしい。どうだろう?

N響5月Cプロ

NHK交響楽団第1647回定期公演Cプログラム 
2009年5月16日(土)NHKホール

エルガー / チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
エルガー / 交響曲 第2番 変ホ長調 作品63
指揮:尾高忠明
チェロ:ロバート・コーエン

よく言えば緻密で隙がない。正直なところを言えば、エルガーの盆栽...というのが自分の主観的な印象。とにかく地味。

立派なアンサンブル。いわゆる「お国もの」的な"performing convention"(演奏慣習)を全部捨てて、ゼロから楽譜をきちんと読み直し、尾高さんなりに再解釈した演奏。Novelloの出版譜にカッコつきで書いてある細かいテンポ指示を一旦白紙にしたのかな。英国ではエルガーの最も偉大な作品とされているこのシンフォニー。作曲者自身が1927年に録音した演奏がレファレンスとしてあって、それがどんどんデフォルメされて、ハンドレイ、トムソン、ヒコックス、ダウンズと次第に表現が大げさになって、一言で言えば“pomp and circumstances”な演奏スタイルでお客さんを興奮させるのが伝統になっている状況。それに背を向けて、これが自分のエルガーの演奏スタイルだと主張するこの潔さ。そこまでやるんだったら、いっそのこととことん楽譜通りにやってもいいんじゃないかな。アーネスト・ホール以来の演奏慣習になっているフィナーレfig.149のH音は、習慣通り2小節吹き伸ばしだった。

自分の耳がおかしいのかもしれない。エルガーの第2シンフォニーに期待するものが先入観としてあって、尾高さんの精密、リリック、清澄で内省的な演奏スタイルに違和感を感じている。ベートーヴェンにたくさんのスタイルがあるように、エルガーにもいろいろなスタイルがあっていいはずだ。しかし、尾高さんがBBCウェールズとやった第1シンフォニーはこうじゃなかった。もしかしたら、N響がきれいすぎるのかもしれない。ラルゲットのfig.74、32分音符が連続する複雑なテクスチュアなど、これだけ精密な演奏はなかなかないのだが。

美しいアンサンブルだったが、バランスはどうかな。金管楽器は立派だったが、弦楽パートでやりとりされる細かいテクスチュアがマスキングされてしまって、エルガー独特のアラベスクが十分に楽しめない瞬間がところどころあった。しかし、息を呑む美しい瞬間はたくさんあった。ラルゲットでの楽器群の音のブレンドやフィナーレ大詰め(fig.170以降)の弦楽の浮遊間。

前半のチェロコンチェルトも同様の印象。コーエン氏はとても粒立ちの細かい美音でデリケートな演奏。その小さな音をかき消さないように、オーケストラもかなり抑え気味。ソリストの一番いいところを引き立たせようという尾高さんのお人柄そのままの控えめなサポート。もう少しパッションが欲しいが、これは自分の好みに過ぎない。スケルツォはコーエン氏がちょっともたついた感じで、何回か出てくるフラジオレットの発音は抜けきらず、高い音域のメカニックにちょっと難があった。これも小さくてきれいで地味な演奏。

N響5月Aプロ

NHK交響楽団第1646回定期公演 Aプログラム 
2009年5月9日(土)NHKホール
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ムストネン / 3つの神秘(2002)
ベートーヴェン / ピアノ協奏曲 ニ長調(ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61の作曲者自身による編曲)
シベリウス / 交響曲 第6番 ニ短調 作品104
シベリウス / 交響詩「フィンランディア」作品26
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指揮/ピアノ:オリ・ムストネン


ベートーヴェンのコンチェルト、そもそもこれをピアノでやるというのはかなり無理があると思いますが、この曲から肉を全部そぎ落としてしまって骨格だけで聴かせるような音楽になっていて、それなりに楽しみました。とくにラルゲットの主題が弦のピツィカートを伴奏に戻ってくるところは美しかった。ピアニストが弾き振りなので、マロさんががんばっていましたが、ピシッとしまったアンサンブルでした。何と言うか、ピアノクァルテットを拡大したような雰囲気がそれなりによかったかな。

シベリウスは、ムストネン氏の迸るような清冽な表現意欲に応えてN響が溌剌とした演奏を聴かせ、たいへん充実した演奏でした。非常に速いテンポ。最近のシベリウス演奏はヴァンスカやこのムストネンのように、虚飾をそぎ落として構造をしっかり見せるこういうスタイルが主流になってきているのかな。よどみのないクリアな演奏で、とくにフィナーレなど、N響の合奏力が光りました。ところどころバランスの悪いところがありました。例えば、アレグロ中間部(今夜指揮者の譜面台に載っていたHansen版総譜だとfig.Fのあたり)、Vn/Vaの分散和音がちょっとうるさくてVcの美しいメロディが聴こえにくい。元気よいのはいいが、ここは、Vcにmezza voceの指示があるんだから、もう少し伴奏をコントロールしないと作曲者がほしかっただろう効果、ふわっとVcが立ち上ってくるような雰囲気がでないんじゃないかな。アレグレット楽章のちょっと寂寥感漂う雰囲気はよく出ていて美しかったと思います。ただ、fig.Gでテンポが早くなってト長調の属九に木管の断片的なパッセージが載るところ、上の指摘と同様に伴奏に埋もれてしまう。3楽章のリズムは切れがよくて、非常に楽しめました。フィナーレのfig.Oのちょっと後、Doppio piu lentoあたりからのモメンタムが失われていって静かに大詰めを迎える辺りの弦楽合奏はとても雰囲気のある表現でした。全体としては、とても楽しめました。

シベリウスのこの曲、不思議な響きで、非常に独特な音楽語法です。ベートーヴェンやモーツァルトから音楽に親しみ始めた自分は、正直なところ、若い頃はこの独特な音楽語法になじめないでいました。モティーフやセルが機能和声の枠組みの中で多様な発展を見せて、再び収束するというパラダイムがまずあって、そういう書法が時代を下るにつれて怪物のようにどんどんと巨大になっていくというドイツ音楽とは全然違って聴こえます。今日配られたプログラムノートでは、神部さんがドリア旋法の多用という特徴を指摘していますが、少なくともDドリアン、Fリディアン、Dフリージアンというモーダルスケールがはっきりと見えます。主調らしいDドリアンに対してDフリージアン(d-es-f-g-a-b-c)がナポリ六のような機能に立っている箇所(例えばフィナーレのfig.Eあたり)、第1楽章のfig.Dでは、弦楽にでてくるアルペジオのシークエンスがC-durとGes-dur (Fis-dur)という最も遠い調性の間を行き来していて、その上に載る木管のメロディが全音音階的な動きを見せるような箇所など、1914年という作曲開始時期を考えると、非常に先進的な音楽だと思います。これ以前にいわゆる「クラシック音楽」の世界でモーダルを書いた作曲家はいるのでしょうか?きっとはじめてこの曲を聴いた人は、ちょうどバップ主流のジャズ界でマイルス・デイヴィスがモーダルを始めたときのような新鮮な響きに驚いたんじゃないでしょうか。シマノフスキやルトスワフスキにも同じようなテイストがありますが、20世紀前半の東欧、北欧ではこういうはやりがあったのか、その影響関係がどうなっているのか、興味のあるところです。


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