HKの音楽夜話

在京オーケストラの定期公演を中心に、コンサート、オペラのレビューを掲載します。

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読売日本交響楽団 第483回定期演奏会
2009年6月15日(月)サントリーホール
指揮:秋山 和慶
ピアノ:三浦友理枝
シュトラウス:組曲「町人貴族」、家庭交響曲

泣けてくるような選曲。さすが秋山大先生。オケとしてもこういう自分たちの腕を試され、お客さんに見えてしまうようなプログラムは闘志が湧くのでしょう。完璧というわけではありませんが、本当に一生懸命さらってきました、全力でリハーサルしましたという出来でした。お見事。

「家庭交響曲」って、シュトラウスの作品の中では演奏機会が少ないですが、どうしてでしょう。ネーミングがイケてないのでしょうか。今夜もサントリーホールは7割弱の入り、しかも開演前に招待受付に長蛇の列、ということは、売れなくて招待券をかなり撒いたのでしょう。たしかに、自分のまわりのおなじみさんの席に知らない人たちが。。私見では、ソロ楽器の対話から100人以上を大編成が鳴りまくるトゥッティまで、音響のヴァリエーションの広さ、インストゥルメンテーションの巧みさ、音色の豊かさ、緊密な構成、職人芸的なカウンターポイントの技法まで、シュトラウスの名人芸がてんこもりに詰まったものすごい名曲で、聴けば聴くほど、譜面も読めば読むほど、味が出てくる作品だと思うのですが、残念。やはりネーミングかな?いっそのこと、ヒンデミットのセレナみたいに、「シンフォニア・ドメスティカ」と原題の方が何となく粋なイメージになるのかな。

そういえば、秋にくるヴィーナー・フィルハーモニカーも、シュトラウスの「ドン・キホーテ」の夜が最後まで売れ残っているし、4月のシュターツカペッレ・ドレスデンもシュトラウスの日は空席だらけでした。一方で、メジャーなオーケストラがマーラーやブルックナーを乗せると大概は完売。シュトラウス、そんなに人気がないのかな。オーケストラ曲もオペラもゴージャスかつデリケートなサウンドですごく楽しめると思うんだが。。

まあ、それはおいといて、読響みごとに本気モードで楽しみました。管楽器で技量が及ばなくてああ残念と思う箇所とか、ホルンがいちばんいいムードになる所(アダージョfig.65の手前、3/2の小節の直前※)で音程が怪しかったりといった問題もありましたが、コンマスの藤原さんは本当に入魂の演奏だったし、100人を超える大編成の威力を存分に楽しみました。秋山さん、これが40年ぶりの読響登場。やや安全運転でスリリングな所はないのですが、いつみても美しく、明瞭そのもののバトンでオーケストラも安心できるのか、勘所で大見得をキメながらもよどみなく流れる美しい、しかも力感あふれる演奏になりました。昔ヴィーンによく登場していた頃のプレヴィンの流麗さをちょっと彷彿とさせるスタイルかな。ぼくは、この方の演奏が好きです。

前半の「ブルジョア・ジョンティヨーム」も柔軟に伸び縮みするリズムと洗練されたスタイルのよい演奏だったと思います。とくに印象に残ったのは、クレオントが舞台に出てくる場面の弦楽合奏。ノンヴィブラートの古風なスタイルが新鮮な美しさ。小さな編成で難しいソロがいろいろとあって、こういう曲は難しい。かなりうまいオーケストラでも、室内楽になるとええっと思うことがありますが、なかなかよくリハーサルされていたんじゃないでしょうか。

秋山さん、ぜひとも近い機会に再登場を期待します。

※ 手元の楽譜はかなり古いので、練習番号は現在の全集版とは違うかもしれません。扉に出版社のクレジットとして、“EDITION BOTE & G.BOCK, BERLIN. Hofmusikalienhändler, Seiner Majestät des Kaisers und Königs und Seiner Kaiseriche Hoheit des Prinzen Albrecht von Preussen“ (皇帝陛下、国王陛下、アルプレヒト王子殿下御用達王室楽譜商ボーテ・ボック出版)なんてイカツイことが書いてあるので、ホーエンツォレルン家がまだプロイセン王だった頃に出版されたものでしょう。

N響6月Cプロ

NHK交響楽団 第1650回定期公演 Cプログラム 
2009年6月13日(土)NHKホール
ベートーヴェン / ピアノ協奏曲 第1番 ハ長調 作品15
メンデルスゾーン / 劇音楽「夏の夜の夢」作品61
指揮:準・メルクル
ピアノ:ジャン・フレデリック・ヌーブルジェ
ソプラノ:半田美和子
メゾ・ソプラノ:加納悦子
合唱:東京音楽大学
語り:中井貴惠

プロフィールによると23歳。ステージマナーが少したどたどしい。凝り性で、何かを始めるととことんやるタイプらしい。出てくる音もそのとおりで、確固たる自分のスタイルを持っている。メルクル氏やソロを吹くプレイヤーとたびたび視線を交わすが、メルクル氏もオーケストラも彼のやりたいことに共感する姿勢で、密度の高い音楽表現がつくりあげられていく。遅めのラルゴはテンポをかなり自由に動かす濃厚な表現。同時期に書かれた悲愴ソナタもそうだが、ギャラントでロマンティックなこの音楽には、こういう表現も似合っていて、自分は好きだ。小さい編成のオーケストラとのバランスはいいが、後半に合唱が入るのでいつもよりステージの奥行きが広いせいか、音が散って細かい部分がよく聴こえてこないのが残念。若手ピアニストといえば、昨年来演したヘルムヒェンのどこまでも端正で美しくスキのない完成度ではないが、ヌーブルジェも新鮮な感性が魅力的なピアニストだ。

後半のメンデルスゾーンも小編成、合唱付きの割にはステージの奥行きが深く、やはり細部がよく聴こえない。ソロは舞台奥の合唱手前に配置。ソロも合唱も遠すぎて歌詞が聴き取れない。とくに合唱はa,oなどの母音の発声が浅く、子音も弱いので、少年少女合唱のように聴こえてしまう。楽譜にはセリフと音楽をシンクロさせるタイミングについてこまかい指示がたくさんあるが、そこはよく揃っていたし、中井さんの語りは、さすが舞台経験豊富な俳優らしく、声色の使い分けが見事だったが、そういうタイミングの揃え方にリハーサルの時間をかなり費やしたのだろうか、肝心の音楽は、いつものN響水準に達していないように感じた。これも音が遠いせいでそう感じるのだろうか?ノットゥルノのホルン、もうちょっと長い息で深々とした歌を聴かせてほしい。

この日は,ステージのセッティングにちょっと問題があるんじゃないだろうか。広い空間、深いステージ、小編成で、2階最前列の自分の席でも音が遠いと感じた。

メルクル氏は毎年来演していて、楽しみにしている。昨年の「ペレアストメリザンド」も立派な演奏だった。この日はちょっと残念だった。

ロッシーニ:チェネレントラ
2009年6月10日(火)新国立劇場

ロッシーニは理屈抜きに楽しい。今夜はすごい歌手が揃って、歌唱については満足。とくにシラグーザの柔らかく暖かい音色と正確な音程、技術は圧倒的。2幕の大アリア“Se fosse in grembo a Giove”、完璧なアジリタと4回の輝かしいトップCをきっちり決め、満場のブラーヴォに応えて “Dolce speranza”からカバレッタの最後までをアンコールの大サービスで再度満場のブラーヴォ。こんなサービスができるのもロッシーニならでは。カサロヴァは、低域のハスキーな音色にちょっとクセがあるが、豊麗な胸声がびんびん来て、ちょっと乾いたアジリタが小気味よい。演技が上手なアンサンブルの中でも特にマニフィコのシモーネは出色。ブッフォな声じゃなく、むしろ音色自体はプレーンだが、声色(こわいろ)の変化、スピードの変化、豊かな音量と正確な発声で変幻自在な表現の幅がすごい。そうした中で、ダンディーニを演じたカンディアは、ちょっとアジリタが滑り気味で、歌唱全体にアバウトな印象を受けた。クロリンダの幸田さん、なかなかの美声で、ほかのスーブレットを見てみたい。言葉のキレが小気味よい14番の六重唱など、アンサンブルは美しかった。合唱も好演。

オーケストラは、重い。ロッシーニ独特のシャンパンの泡がパチパチはじけるような軽妙なリズム感がなく、ガスが抜けてべとっとした発泡酒。シンフォニアから冒頭の二重唱は、どうにも重ったるく、一体この先どうなることかと心配したが、劇が進行するにつれて、そこそこにまとめてきた。2幕は重いながらもそこそこ聴けた。指揮者にブーイングが出たのもしょうがないだろう。

ところでこのプロダクション、「新制作」なんて麗々しく書いてあるが、30年近く前にミュンヒェンのナツィオナルテアターで初演されたものの再演出。べつにいいじゃないですか。借りてきて制作費を安くして、その分豪華な歌手を揃えたのもひとつの見識。

とにかく、楽しかった。こんなにすばらしい歌手陣でロッシーニを聴けて、最高。

出演者等は、以下の通り。
【指 揮】デイヴィッド・サイラス
【演出・美術・衣裳】ジャン=ピエール・ポネル
【再演演出】グリシャ・アサガロフ
【演技指導】グリシャ・アサガロフ/グレゴリー・A.フォートナー
【ドン・ラミーロ】アントニーノ・シラグーザ
【ダンディーニ】ロベルト・デ・カンディア
【ドン・マニフィコ】ブルーノ・デ・シモーネ
【アンジェリーナ】ヴェッセリーナ・カサロヴァ
【アリドーロ】ギュンター・グロイスベック
【クロリンダ】幸田 浩子
【ティーズベ】清水 華澄
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

読売日本交響楽団第515回名曲シリーズ
6月8日(月) サントリーホール
指揮:下野 竜也
クラリネット:ザビーネ・マイヤー
ウェーバー:
歌劇〈オイリアンテ〉序曲
クラリネット協奏曲第1番
ドヴォルザーク:交響曲第1番〈ズロニツェの鐘〉

「ゲテモノ担当」って、ぼくが決めたわけじゃないですよ。下野さんご自身が昨年5月の定期、山根明季子さんの読響委嘱作品初演での舞台あいさつでそう発言されました。名曲はスクロヴァチェフスキ先生がいらっしゃるから、自分はゲテモノ担当ですと。作曲者のいる前で「ゲテモノ」ってのは、さすがにちょっと失礼じゃないかと思いましたが、すっかりゲテモノ担当になられたらしく、先月、今月と演奏会場で配布されるプログラム冊子でもゲテモノ担当として紹介されています。ぼくにとっては、ヒンデミットもシュニトケも偉大な“20th Century Classics”で、下野さんが演奏したライラック・レクイエムも、シンフォニア・セレナも、マティス・シンフォニーも極上のセンスに満ちた愛すべき佳品です。まあ、彼一流の洒落なんでしょう。お話をうかがった時もよほどヒンデミットを愛しておられるらしく、いつもより多くのリハーサルセッションを持ったとおっしゃっていましたから。

で、今夜のドヴォルザークの1番シンフォニー、これは正真正銘のゲテモノだとぼくは昔から思っています。さまざまな模倣スタイルが混淆したパスティッチョ。例えば、スケルツォはメンデルスゾーンだし、フィナーレは和声法、楽器法からコーダの複合リズムまで何から何までまごうことなきシューマンスタイル。で、自分の持ちネタを全部吐き出したような楽想の横溢で冗長になり、とってつけたような冒頭主題の回帰がそこらじゅうにあって、どうも整理がつかない。作曲者自身が出版を許さなかった事実、さもありなんと頷けます。しかし、さすがゲテモノ担当の下野さん。彼の手にかかると、ゲテモノがそれなりのB級グルメに仕上がっています。牛肉、鶏肉、豚肉、白身魚、漬け物、海苔の佃煮、トマト、ゴーヤ、全部使ってうまい鍋を作ってみろといわれ、悶絶しながらあるものをメインに、あるものを隠し味にと工夫の限りを尽くしたら、何となくうまい料理に仕上がったという感じ。まさにゲテモノ食材のカリスマシェフです。たしかに、1楽章なんか、暴力的なリズムと音響の中に「真昼の魔女」など後年の傑作で作曲者がたどりついたマジカルサウンドの片鱗が窺えます。アダージョは、自分の好みとしてはちょっと元気よすぎ。もっと静謐な美しさがあるはずだと思う。スケルツォのリズム感はさすが下野さん。フィナーレはあれだけがんがん鳴らすとちょっと痛快でもあります。

ザビーネ・マイヤーさんは圧倒的な存在感で舞台を支配しました。クラリネットという楽器にこれほどの表現力と表現の幅があるのに驚きました。彼女、なんと指揮をしているではありませんか。重要なパートの方に向かって、片手を振って合図をしている。で、それを見て下野さんは場内整理、彼女のやりたい放題にしっかり食らいつこうとオケも必死という構図。指揮台とセコバイの間をバレエで言うとシャッセのようなステップで幅2メートルくらい動き回る彼女。ソロクラリネットのアルペジオにフルートやオーボエがメロディを乗せるような場面でもマイヤーさんはおかまいなしにずっと主役。これはこれで痛快。やはり、カラヤン大先生くらいの格じゃないと、全身表現意欲のかたまりのようなこの美しきじゃじゃ馬のプロテジェにはなれないのかな?

と、好き放題書きましたが、やはり下野さんが立つ時の読響の溌剌と弾むサウンドは、ぼくには魅力的に聴こえます。

ところで、来年の定期はカンブルラン氏がかなり意欲的なプログラムを考えているようです。4月のシェーンベルクに始まり、オネゲル、ヴァレーズ、メシアン、デュティユー、ハイドン、シューマンと来るそうで、20世紀の音楽が大好きなぼくは大歓迎ですが、営業は頭を抱えているでしょう。まあ、プログラム冊子では、名曲路線の某オケに対し、シェフとともに新レパートリーの開拓に努める読響、みたいな調子で書いているわけだから、行動で示すというのはすばらしいことだと思います。シェフまでゲテモノ担当になって、ゲテモノ担当が2人です。これは凄いゲテモノパワーだ。

ゲテモノ好きのぼくとしては、読響万歳!!

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