HKの音楽夜話

在京オーケストラの定期公演を中心に、コンサート、オペラのレビューを掲載します。

NHK交響楽団

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NHK交響楽団第1649回定期公演Aプログラム 
2009年6月6日(土)NHKホール

ストラヴィンスキー / 管楽器のための交響曲
プロコフィエフ / ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品19
ラヴェル / 優雅で感傷的なワルツ
ドビュッシー / 交響詩「海」

ヴァイオリン:庄司 紗矢香
指揮:ジョナサン・ノット

ガラスの精密な細工物のような音楽。繊細でありながら、触ると手を切りそうな鋭いエッジがある。オーケストラの女性プレイヤーよりも一回り小さい華奢な舞台姿で、音もそんなに大きくない。ブラームスに霊感を与えたという、かのヨアヒムが弾いていた楽器だが、耳を峙て、神経を集中しなければ、繊細なニュアンスを聞き逃してしまう。曲がプロコフィエフの1番でよかった。刻一刻変化するオーケストラの音色の上にそおっとラストタッチの筆を走らせていくような曲で、今の彼女の音楽性にしっかりとはまる。しかも何という落ち着きよう、小さくても堂々たるステージマナー。けだるそうなメッツァヴォーチェ、力をすっと抜いたボウイングで最初のメロディを弾き始めたかと思うと、いつの間にか彼女の世界に引き込まれていく。庄司さんの音に集中していたからなのか、伴奏については、ソロをかき消さなかったこと以外、印象が残っていない。きっと、気にならないくらい、よい伴奏だったのだろう。普段のステージセッティングよりも庄司さんは奥に立ち、指揮者とコンマスとセコバイトップに囲まれるような位置。これらのプレイヤーがしっかりアイコンタクトをとり、音をよく聴き合いながら演奏できる位置取りで、出てきたのもそういう音だった。かなり集中して聴いたので疲れた。このスタイルは、NHKホールのような大きなハコではちょっとつらいか。

休憩後はフル編成で一気に音圧が高くなる。ノット氏の印象をひとことでいうと、絶妙のリズム感、それをバトンだけでなくて、体全体でオーケストラに伝えるすばらしいセンスかな。ラヴェルの譜面には、“Cédez...”と“...au Mouvement”という一対の表記で、楽節の変わり目にワルツ特有のテンポの変化がたくさん記されているが、これらの箇所でノット氏のちょっと踊りのような美しい体の動きとオーケストラのリルトが生き物のように一体になるのがとても楽しく、心地よかった。

「海」では、「波の戯れ」の章でのスパンの長いテンポの動きが自然で、同楽章の終盤、トゥッティが終息して、ハープの三重音グリサンドのあたりから楽章のおしまいまで、木管の上行音型、3プルトに絞り込んだヴァイオリンの高いディヴィジやフラジオレット、さまざまな部分品がいずれもセンス豊かで、それらを組み合わせた音の姿も美しかった。終楽章の終盤、“Plus calme et tres expressif”、フルート+オーボエユニゾンを先導するストバイのフラジオレットAsの響きは、何だかこの世ならぬ音色だったし、2回繰り返される金管コラールの1回目と2回目の遠近感、おそらく、タンギングや音の立ち上がりのスピードを意識的にコントロールしていらっしゃるのだろうと思うが、かーっと海が明るくなるような、実に生き生きした表情だった。ここだけじゃなく、今夜の金管はいつになく美しかった。

今夜のN響、最近では出色の美しさだったと思う。いやいや、ジョナサン・ノット氏、いいなあ。このところ関山さん絶好調。茂木さん、磯部さんも光っていました。ところで、募集中の1番フルート、今夜のお嬢さんもテストでしょうか。ちょっと小さめの音でしたが、なかなか涼やかで、フランスものにはお似合いの音色だったんじゃないでしょうか。

N響5月Cプロ

NHK交響楽団第1647回定期公演Cプログラム 
2009年5月16日(土)NHKホール

エルガー / チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
エルガー / 交響曲 第2番 変ホ長調 作品63
指揮:尾高忠明
チェロ:ロバート・コーエン

よく言えば緻密で隙がない。正直なところを言えば、エルガーの盆栽...というのが自分の主観的な印象。とにかく地味。

立派なアンサンブル。いわゆる「お国もの」的な"performing convention"(演奏慣習)を全部捨てて、ゼロから楽譜をきちんと読み直し、尾高さんなりに再解釈した演奏。Novelloの出版譜にカッコつきで書いてある細かいテンポ指示を一旦白紙にしたのかな。英国ではエルガーの最も偉大な作品とされているこのシンフォニー。作曲者自身が1927年に録音した演奏がレファレンスとしてあって、それがどんどんデフォルメされて、ハンドレイ、トムソン、ヒコックス、ダウンズと次第に表現が大げさになって、一言で言えば“pomp and circumstances”な演奏スタイルでお客さんを興奮させるのが伝統になっている状況。それに背を向けて、これが自分のエルガーの演奏スタイルだと主張するこの潔さ。そこまでやるんだったら、いっそのこととことん楽譜通りにやってもいいんじゃないかな。アーネスト・ホール以来の演奏慣習になっているフィナーレfig.149のH音は、習慣通り2小節吹き伸ばしだった。

自分の耳がおかしいのかもしれない。エルガーの第2シンフォニーに期待するものが先入観としてあって、尾高さんの精密、リリック、清澄で内省的な演奏スタイルに違和感を感じている。ベートーヴェンにたくさんのスタイルがあるように、エルガーにもいろいろなスタイルがあっていいはずだ。しかし、尾高さんがBBCウェールズとやった第1シンフォニーはこうじゃなかった。もしかしたら、N響がきれいすぎるのかもしれない。ラルゲットのfig.74、32分音符が連続する複雑なテクスチュアなど、これだけ精密な演奏はなかなかないのだが。

美しいアンサンブルだったが、バランスはどうかな。金管楽器は立派だったが、弦楽パートでやりとりされる細かいテクスチュアがマスキングされてしまって、エルガー独特のアラベスクが十分に楽しめない瞬間がところどころあった。しかし、息を呑む美しい瞬間はたくさんあった。ラルゲットでの楽器群の音のブレンドやフィナーレ大詰め(fig.170以降)の弦楽の浮遊間。

前半のチェロコンチェルトも同様の印象。コーエン氏はとても粒立ちの細かい美音でデリケートな演奏。その小さな音をかき消さないように、オーケストラもかなり抑え気味。ソリストの一番いいところを引き立たせようという尾高さんのお人柄そのままの控えめなサポート。もう少しパッションが欲しいが、これは自分の好みに過ぎない。スケルツォはコーエン氏がちょっともたついた感じで、何回か出てくるフラジオレットの発音は抜けきらず、高い音域のメカニックにちょっと難があった。これも小さくてきれいで地味な演奏。

N響5月Aプロ

NHK交響楽団第1646回定期公演 Aプログラム 
2009年5月9日(土)NHKホール
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ムストネン / 3つの神秘(2002)
ベートーヴェン / ピアノ協奏曲 ニ長調(ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61の作曲者自身による編曲)
シベリウス / 交響曲 第6番 ニ短調 作品104
シベリウス / 交響詩「フィンランディア」作品26
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指揮/ピアノ:オリ・ムストネン


ベートーヴェンのコンチェルト、そもそもこれをピアノでやるというのはかなり無理があると思いますが、この曲から肉を全部そぎ落としてしまって骨格だけで聴かせるような音楽になっていて、それなりに楽しみました。とくにラルゲットの主題が弦のピツィカートを伴奏に戻ってくるところは美しかった。ピアニストが弾き振りなので、マロさんががんばっていましたが、ピシッとしまったアンサンブルでした。何と言うか、ピアノクァルテットを拡大したような雰囲気がそれなりによかったかな。

シベリウスは、ムストネン氏の迸るような清冽な表現意欲に応えてN響が溌剌とした演奏を聴かせ、たいへん充実した演奏でした。非常に速いテンポ。最近のシベリウス演奏はヴァンスカやこのムストネンのように、虚飾をそぎ落として構造をしっかり見せるこういうスタイルが主流になってきているのかな。よどみのないクリアな演奏で、とくにフィナーレなど、N響の合奏力が光りました。ところどころバランスの悪いところがありました。例えば、アレグロ中間部(今夜指揮者の譜面台に載っていたHansen版総譜だとfig.Fのあたり)、Vn/Vaの分散和音がちょっとうるさくてVcの美しいメロディが聴こえにくい。元気よいのはいいが、ここは、Vcにmezza voceの指示があるんだから、もう少し伴奏をコントロールしないと作曲者がほしかっただろう効果、ふわっとVcが立ち上ってくるような雰囲気がでないんじゃないかな。アレグレット楽章のちょっと寂寥感漂う雰囲気はよく出ていて美しかったと思います。ただ、fig.Gでテンポが早くなってト長調の属九に木管の断片的なパッセージが載るところ、上の指摘と同様に伴奏に埋もれてしまう。3楽章のリズムは切れがよくて、非常に楽しめました。フィナーレのfig.Oのちょっと後、Doppio piu lentoあたりからのモメンタムが失われていって静かに大詰めを迎える辺りの弦楽合奏はとても雰囲気のある表現でした。全体としては、とても楽しめました。

シベリウスのこの曲、不思議な響きで、非常に独特な音楽語法です。ベートーヴェンやモーツァルトから音楽に親しみ始めた自分は、正直なところ、若い頃はこの独特な音楽語法になじめないでいました。モティーフやセルが機能和声の枠組みの中で多様な発展を見せて、再び収束するというパラダイムがまずあって、そういう書法が時代を下るにつれて怪物のようにどんどんと巨大になっていくというドイツ音楽とは全然違って聴こえます。今日配られたプログラムノートでは、神部さんがドリア旋法の多用という特徴を指摘していますが、少なくともDドリアン、Fリディアン、Dフリージアンというモーダルスケールがはっきりと見えます。主調らしいDドリアンに対してDフリージアン(d-es-f-g-a-b-c)がナポリ六のような機能に立っている箇所(例えばフィナーレのfig.Eあたり)、第1楽章のfig.Dでは、弦楽にでてくるアルペジオのシークエンスがC-durとGes-dur (Fis-dur)という最も遠い調性の間を行き来していて、その上に載る木管のメロディが全音音階的な動きを見せるような箇所など、1914年という作曲開始時期を考えると、非常に先進的な音楽だと思います。これ以前にいわゆる「クラシック音楽」の世界でモーダルを書いた作曲家はいるのでしょうか?きっとはじめてこの曲を聴いた人は、ちょうどバップ主流のジャズ界でマイルス・デイヴィスがモーダルを始めたときのような新鮮な響きに驚いたんじゃないでしょうか。シマノフスキやルトスワフスキにも同じようなテイストがありますが、20世紀前半の東欧、北欧ではこういうはやりがあったのか、その影響関係がどうなっているのか、興味のあるところです。

2009/4/4NHK交響楽団

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NHK交響楽団第1643回定期公演Aプログラム 
2009年4月4日(土)NHKホール
R. シュトラウス / 4つの最後の歌
ワーグナー(ヘンク・デ・フリーハー編) / 楽劇「ニーベルングの指環」―オーケストラル・アドベンチャー(1991)
指揮:エド・デ・ワールト
ソプラノ:スーザン・バロック

今夜はスーザン・バロックさんの立派な歌を存分に聴かせていただきました。シュトラウスが約24分、後半のリングは、“Starke Scheite schichtet mir dort!”から大詰めまで約15分だから、オペラのひと幕ぶん以上歌ったでしょう。コヴェントガーデンや新国立劇場でのブリュンヒルデは高く評価されていますが、さすがにこなれた歌唱でした。やや暗い音色で質感はたっぷり、歌詞はしっかり聴き取れます。ちょっと華やかさがないのは、即物的に分析すれば、高次倍音成分が少ない声で、ここという所での通りがやや足りないからなのか。しかし長いフレーズを自在に繰り出す情感のこもった歌唱に感じ入りました。

「九月」の最後の部分は、出版譜とは違う歌詞の符割りでした。上の譜例をクリックすると拡大します。B&W総譜fig.Fのところ、上段が出版譜の割り付け、下段は今夜バロックさんが歌った割り付け、“V”印は、私が確認した彼女のブレス位置です。シュヴァルツコップもこの符割りで歌っていましたね。“Four Last Songs”という名称をつけたのは当時のBoosie&Hawkes編集長だったエルンスト・ロスであり、原稿出版譜もB&Wが唯一ですが、ここは歌手によって符割りが違うようです。どうでしょう。たしかに下段の符割の方が、Augen(「眼」)のアクセントが自然だし、Langsam(「ゆっくりと」)のニュアンスが一層引き立つ気がします。また、楽譜通りだと“müdgewordnen Augen”をワンブレスで歌うのはほぼ不可能で、どうしても形容詞“müdgewordnen”の後にブレスが入りますが、ことばのつながりとしては、下段の符割でここを一息にした方がより自然です。ただ、フェリシティ・ロットのように、楽譜通りの符割でのすばらしい歌唱の例もあります。

後半のリング、N響の演奏はすばらしかったと思います。乱暴なところがなく、美しい響きのヴァーグナーでした。ジークフリート2幕2場、森の場面の木管はうまかった。テノールチューバ、トロンボーン、バスチューバの和声がどこをとっても濁りのない響きで見事。弦も泡立つように豊かに響いていたように思います。デ・ワールト氏はN響初登場ですが、なかなかのヴァグネリアンのようです。

非常に楽しい演奏会でした。

上野でハーガー+N響の「天地創造」を聴いてきました。
どうも投稿がうまくいかないので、こちらをご覧ください。
ご迷惑をおかけします。

http://www.rr.iij4u.or.jp/~hkamata/schopfung.htm

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