HKの音楽夜話

在京オーケストラの定期公演を中心に、コンサート、オペラのレビューを掲載します。

NHK交響楽団

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2009/2/14NHK交響楽団Cプロ

NHK交響楽団第1641回定期公演Cプログラム 
2009年2月14日(土)NHKホール
ドヴォルザーク / チェロ協奏曲 ロ短調 作品104
ドヴォルザーク / 交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」
指揮:カルロ・リッツィ
チェロ:ミクローシュ・ペレーニ

春一番が吹いて暖かい代々木公演。バレンタインデーだからなのか、若いカップルがいつになく多い完売御礼フルハウスのNHKホール。自分も若い頃を思い出しました。はは。。

ペレーニ氏は、そういう甘美なロマンティシズムとはおよそ縁遠い音楽の求道者でした。背中を少し丸めて下を向いて登場、淡々としたステージマナー。音楽も風貌そのままの渋さ。決して大きくなくて、ややくすんだ音色。広大なNHKホールの3階では聴き取りにくいんじゃないでしょうか。このコンチェルトは、数あるチェロコンの中でも最も弾き映えするヒロイックでロマンティックな名曲ですが、大げさな身振りもなく、ただただ淡々と弾き進める名手。しかし、地味ながら、なんともいえない味わいのある演奏です。なぜそう感じるのか、ことばで説明することはできませんが、それが音楽の不思議さなのでしょう。ただ、どちらかというとオペラティックで外向的でメロディを存分に歌わせたいリッツィ氏との相性は必ずしもぴったりとはいえないような気がしました。指揮者がさあここで大見得きってやろうと身構え、オーケストラもよしとばかりに応えようとする瞬間に、ペレーニ氏はそういうトリックに肩すかしをするかのように淡々と弾き進めてしまう。そういうやりとりがまたペレーニ氏の持ち味を引き立たせるような不思議な演奏でした。アダージョの歌に耳を峙たせる自分には、木管がちょっとうるさかったかな。ソロか室内楽でまた聴きたいと思います。アレグロ楽章の56小節で忍び足のように入ってくる松崎さんの第2テーマ、よかったです。アンコールのバッハの方がしみじみと聴けたかな。

シンフォニーはリリックな歌が終始横溢する美しい演奏でした。アレグロ楽章の第2テーマが変イ長調でもどってくるfig.12のあたり、提示部よりもいっそうテンポを落として軽い弓で歌われるメロディーなんか、ああこの人はオペラの人なんだなと感じる瞬間でした。オペラと言えば、管楽器のブレスに対する感性はさすが。Largo冒頭のコラール、3小節目頭、4小節目頭のブレスを表現の一部として使うことによって、4小節目頭変ニ長調主和音につけられたアクセントがとても美しく響きます。池田さんのコールアングレ、美しかったですね。終演後は、今日一番の喝采でした。ラルゴ中間部は、かなり自由にテンポが揺れ動いていました。ラルゴ結尾のコンバス四声のハーモニー、すごい。N響にとっては、隅々まで知り尽くしたレパートリーだろうから、完成度は高かったと思いますが、どうでしょう、終演後のオケの反応を見ると、N響がリッツィ氏に100%共感していたわけではないのかな?

NHK交響楽団第1640回定期公演 Aプログラム 
2月7日(土 ) NHKホール

スメタナ / 交響詩「わが祖国」(全曲)
指揮:ラドミル・エリシュカ

一言でいうと、硬骨漢。感傷的なところがなくて厳しく揺るぎない表現と構成、それを献身的に実現しようとするオーケストラに感銘を受けました。78歳にして若々しい、筋肉質な音楽でした。

ゆったりしたテンポのヴィシェフラト。楽譜に記されたテンポの変わり目が実に自然な呼吸でイデォマティック。ヴルタヴァは、センチメンタルなところがなく、一貫して張りつめた表情。シャルカ冒頭、お約束のルバートやPiu Moderato Assaiのマーチに入るところのテンポ感も堀さんのリードでぴったり。103小節からのヴァイオリンの長いフレーズ、付点のある三連符をむりやり窮屈に合わせない自然な盛り上がり、131小節からのsul Gの歌わせっぷり、そして145小節のファンファーレになだれ込む音楽の運び方はお見事。2回ある磯部さんの長いソロ、感じ出ていましたね。frenticoからテンポを詰めてクライマックス。

ここでいったん休憩。盛り上がった勢いで全曲通して聴きたいところですが、後半3曲はハープの出番がまったくないのにお二人を所在なく座らせておくのも申し訳ないので休憩が入るのでしょうか。

「牧場と森」はクライマックスの前の美しいインターリュードの風情。とくに中間の3拍子のメロディ(130小節以降)でのホルンとクラリネットの美しさが印象的。最後の2曲は大詰めに向かって、一気に緊張が高まりました。ターボル冒頭、ホルンとティンパニのD音をピヴォットにして弦のクロマティック下降音型に従ってハーモニーが変化していく箇所は、大きなクライマックスの前触れのように聴こえました。D音の3拍子ユニゾン音型で結ばれる終曲ブラニークのニ長調マーチの大詰めまで、一気にテンションが高まって、息つく暇もなく終わりました。

マエストロは全曲暗譜でした。若い頃から数えきれないほどこの曲を演奏されたのでしょう。N響は、こういう経験と自信に裏付けられたマエストロには、自分たちも全力で応えようとするようですね。先日のコウト氏の舞台もそうでした。来月のN響アワーでは、マエストロの至芸に感服する池辺さんのお顔を拝見できることでしょう。自分もおそれいりました。

マエストロ・エリシュカが元気なうちに、ルサルカかイェヌーファを聴きたい。新国立劇場、ぜひともよろしくお願いします。

NHK交響楽団第1638回定期公演Cプログラム 
1月17日 ( 土 )NHKホール

ウェーベルン / パッサカリア 作品1
マーラー / 交響曲 第10番から「アダージョ」
R. シュトラウス / 交響詩「ツァラトゥストラはこう語った」作品30
指揮:デーヴィッド・ジンマン


透明、明晰なテクスチュア、決して力尽くにならない響きの美しさを堪能しました。

パッサカリアは、お客さんのざわつきがまだ収まらない中、注意深く耳を峙てないと聴き取れないような、弱音器をつけたピツィカートから240小節あたりの音響的クライマックスまで、透明な響きと自然なリズムの呼吸を楽しみました。第1変奏の沁み入るように美しい弦楽四声とハープの爪音、その上に、幽かに聴こえる津堅さんのトランペット、神田さんのフルートソロが美しい。忍び込むように入るクラリネット。からみつくようなホルンソロ。暗闇から光が立ちのぼるような雰囲気。第3変奏で入ってくる弦は、薄めで透明。八分音符と三連符の衣擦れのようなテクスチュアがきれいに聴き取れます。第7変奏まで次第にテンポを上げて、第8変奏で最初の山を迎えるところ、力ずくにはならず、金管と低弦の複雑なリズムの交錯が美しい。いったん静まって、ニ長調に転じ、音楽の表情ががらっと変わる第12変奏以降、木管とヴィオラソロの室内楽のような親密な絡み合いが印象的。ああ美しい。クライマックスを迎える第23変奏(187小節のF-E)に向かっての金管のパースペクティヴの運びが立派。テクスチュアがいちばん複雑になる230〜240小節のあたりも響きが濁ることはなく、あくまで透明音楽が進みます。山を下って、最後のトロンボーン三声のニ短調主和音まで、まったく濁りのない音楽でした。これ、相当綿密なリハーサルをしたんじゃないでしょうか。

マーラー、シュトラウスも、力強さとか壮大さよりもテクスチュアの透明感とソノリティの美しさをより重視した同じ方向性。ジンマン氏の打点を押し付けない、アンサンブルの呼吸を自然にオーケストラから引き出すバトンがすばらしい。オーケストラのメンバーからも拍手やフロアタップなど、共感の意思表示がありました。ぜひまた聴きたいマエストロです。

「ホログラフィー」という言葉をご存知でしょうか。見る角度によって違った画像が見える立体画像技術で、身近なところでは、1万円札に印刷されています。見る角度によって日本銀行のマークと「10000」という数字が浮き出てきますね。( http://www.bekkoame.ne.jp/~muraoka/shihei_2.html )今週のN響定期Cプロで演奏されるアントン・ヴェーベルンのパッサカリアの楽譜を読んでいて、この「ホログラフィー」という言葉を思い出しました。ホログラフィーとはいっても、この楽譜に違った角度から光を当てると別の音符が見えるというわけではありません。ハーモニー(和声)とトナリティ(調性)のホログラフィーという意味です。

まずは、曲の冒頭に提示され、このパッサカリアの中心主題となるオスティナートバスをご覧ください。( http://www.rr.iij4u.or.jp/~hkamata/ostinato.jpg )調性記号はニ短調。注目すべきは矢印をつけた4小節目のAs(変イ)です。もしこの音がA(イ)なら、単純なニ短調のバス進行です。和声演習のバス課題に出てきそうです。ところが、このAsのせいで、ニ短調の調性感がはっきりと確立されず、聴き手は調性感を見失います。次の5小節目のFも、ニ短調音階の第3音とは直ちに認識しにくいのではないでしょうか。F-E-A-Dと進んで、ようやくこの旋律線が基本的にニ短調であることを確認できます。

さて、このオスティナートに和声をつけると、どうなるでしょうか。第1変奏では、1番トランペットがオスティナート主題を吹奏し、1番フルートが対旋律をつけ、ヴィオラ及びチェロが4部に分かれて4声部の伴奏をつけます。( http://www.rr.iij4u.or.jp/~hkamata/var1.jpg )非常に美しいヴォイシング(声部進行)です。音にするとこうなります。( http://www.rr.iij4u.or.jp/~hkamata/var1.mid )どうでしょうか。ivの和音から始まるのはちょっと意表をつきますが、2小節目までは何となくニ短調に聴こえます。ところが、3小節目でいきなり得体の知れない響きになって、一気に調性感がぐらつきます。しかし、5小節目まで聴くと、何となく変ニ長調の ii - V+5 - vi の和声進行に聴こえます。“V+5”は、属和音の第五音(変ホ)を根音(変イ)に対して増五度に変化(ホ)させた和音です。ジャズなら、Ab+5とか、Ab augと書きますね。

ところが、変ニ長調の調性感が浮かび上がってきたところで、また6小節目で得体の知れない和音になって再び調性感がぐらつきます。この6小節目の和音、変二長調にむりやりあてはめるとvi7--5でしょうか。でもニ短調に当てはめると、VI 7-3-5という和音になり、7小節目のV7に向けてきれいに解決します。実はこれはいわゆる「トリスタン和音」ですね。( http://www.rr.iij4u.or.jp/~hkamata/tristan.jpg )こちらはイ短調ですが、和声の機能としては全く同じです(注参照)。ウェーベルンに話を戻すと、パッサカリアの第1変奏では、3小節目、6小節目と2回調性感が揺らぎ、ニ短調から変ニ長調、そして再びニ短調へと調性がシフトしています。フルートの対旋律が2つの調性の間を渡りながらも実にスムーズに聴こえます。

第2変奏( http://www.rr.iij4u.or.jp/~hkamata/var2.jpg )では、ハープがオスティナートを担当し、クラリネットが対旋律をつけ、弦楽器が伴奏をつけますが、和声進行は基本的に第1変奏と同じです。一番下の小譜表は、その小節につけられた和音を構成する音を拾い出したものです。やはり3小節目での変ニ長調へのシフト、6小節目のトリスタン和声と7小節目でのニ短調属和音への解決によるニ短調の調性感回復がポイントになっています。この変奏では、第2ヴァイオリン及びヴィオラの伴奏音型に経過音が含まれていて、より流れるような表情になっています。最後が完全終止せず、iiの和音に変化して半終止っぽく終わることによって、第3変奏の頭のニ短調主和音にスムーズにつながるように工夫されています。

いかがでしょうか。ニ短調ー変ニ長調ーニ短調、光の具合で見える絵柄が微妙に変化するような、「調性のホログラフィー」です。

この作品をホログラフィーに喩える理由はもう一つあります。変奏が進むにつれ、オスティナートに対するハーモナイゼーションがいろいろと変化していきます。例えば、第13変奏を見ましょう( http://www.rr.iij4u.or.jp/~hkamata/var13.jpg )。この変奏はニ短調ではなく、ニ長調で始まり、変ニ長調ーニ長調と調性がシフトします。基本となる調性が長調になって、表情が一変します。低弦に埋められたオスティナートの上にクラリネットが美しい旋律をつけます。譜例の下に和声記号を書き加えましたが、後半の和声進行が序盤の変奏とは違っています。このように、変奏が進むにつれて、ひとつの変奏の中での和声進行も微妙に変化していきます。こちらは「ハーモナイゼーションのホログラフィー」というべきでしょうか。

ドイツ/オーストリア的な「機能和声」は、ヴァーグナーのトリスタンでその可能性の極限に到達したといわれることがありますが、なかなかどうして、ヴェーベルンは、機能和声的なテクニックである増五度、減五度を利用した和音の変化をブリッジとして、従来の転調とはひと味違う調性感のシフトを実現しています。そして、それが衒学的な技法にとどまらず、まさに光の微妙な角度で絵柄が変化していくホログラフィーのような官能的な美しさをこの作品にもたらしています。トリスタン和音の引用は、機能和声の可能性を極限まで高めたヴァーグナーへのオマージュであるとともに、さらに新たな和声と調性音楽の可能性に挑戦するんだというヴェーベルンの高らかな宣言なのでしょうか。

(注)「トリスタン和音」の記号表記については、いろんな方法がありますが、これを代理コードとテンションノートを組み合わせたドミナントモーションと解釈すれば簡単じゃないか、と一刀両断する面白いエッセーがあります。「芸大和声」に代表されるペダンティックな和声論を勉強していなくても、ジャズの人はこの和声進行を直感的に把握しているのですね。( http://www5.famille.ne.jp/~piano/TALKING/tristan/tristan_2.htm

2009/1/10NHK交響楽団Aプロ

NHK交響楽団第1637回定期公演Aプログラム 
1月10日 (土 )NHKホール

ショスタコーヴィチ / ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 作品77
シューベルト / 交響曲 第8番 ハ長調 D.944「ザ・グレート」
指揮:デーヴィッド・ジンマン
ヴァイオリン:リサ・バティアシュヴィリ

ものすごいヴァイオリニストでした。1昨年ベルリンフィルハーモニーに呼ばれた時のショスタコーヴィチをテレビで見たことがあったので、非常に楽しみにしていたのですが、期待を上回る演奏でした。まず音がすごい。3600人も入るNHKホールでも朗々と響きます。冒頭のG線上でa-moll, d-moll, c-mollと調性を行き来するメロディが印象的。fig.2(Boosey&Hawkes総譜。以下同じ。)からD線、A線と上がっていって、fig.11-1(B&H総譜)B音から入る一番上のオクターブは鈴が鳴り響くような豊穣な音で、B音の四分音符3つが響き渡ったとき、思わずフォアシュピーラーの酒井さんが視線を上げてバティアシュリヴィさんの方を見つめていたのが印象的でした。あの上5線Bは、自分も体に電気が走りました。彼女の楽器は、エングルマンという1709年製ストラディヴァリウスのようです。

音色だけでなく、彼女の音楽をつくろうとする意思の力は大したものだと思います。オーケストラとよく合わせなければならない大事なパッセージでは、常にオーケストラの方を振り向いて、身振りで音楽の方向性をリードして、ジンマン氏がこれに付けていくという風情でした。パッサカリアの後の長大なカデンツァは、場内静まり返り、圧倒的なヴィルティオジティを披露したフィナーレが終わると、NHKホールのお客さんには珍しく、盛大なブラヴォーが出ました。ヘルムヒェン、クーパー、アンスネス、ワトソン、エーベルレ、グローヴス、そして今月のバティアシュヴィリと、このところN響はすばらしいソリストを呼んでくれますね。

後半のシューベルト、1楽章は、指揮者とオーケストラの間でテンポの感じ方がややちぐはぐなところがありましたが、アンダンテ以降は立派な演奏だったと思います。アンダンテは、2/4拍子のリズムの感じ方がよく統一されていて、格調高い表現だったと思います。ちょっと気になったのは、冒頭の主題をオーボエとクラリネットがユニゾンで吹奏する部分は、明らかに音程が合っていなかったですね。この楽章の間ずっと感じたのですが、クラリネットの音程、とくにE音がちょっと低いんじゃないでしょうか。この曲の中でも自分がいちばん美しいと思う部分は、中間部が盛り上がって、イ短調減七でクライマックスを作った後、ピチカートの上にチェロが変ロ長調とイ短調の間を揺れ動くメロディを演奏する部分なんですが、8人に切り詰めたチェロのセクションのひとりひとりのヴィブラートが聴こえてきて、格別な美しさでした。スケルツォも堀さんのリードですばらしいリズム感でした。全体にセクションのバランスがよく、金管が上品に色を添えて、格調高い演奏で、自分は非常に楽しみました。ジンマン氏は、N響にはじめて来演とのことですが、地味ながら、しっかりと様式を押さえたよいマエストロだと思います。

さて来週は、ウェーベルン、マーラー、シュトラウスと重量級を揃えたCプロ。自分はウェーベルンのパッサカリアに注目しています。テーマとなるオスティナートが調性のゆらぎの種子を内包していて、それがその後さまざまなハーモナイゼーションとトナリティの変容につながっていくという実におもしろい音楽です。

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