HKの音楽夜話

在京オーケストラの定期公演を中心に、コンサート、オペラのレビューを掲載します。

NHK交響楽団

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NHK交響楽団第1635回定期公演Cプログラム 
2月12日(金)HKホール
フランク / 交響詩「アイオリスの人々」
ドビュッシー / 夜想曲*
ホルスト / 組曲「惑星」作品32*
指揮|シャルル・デュトワ
女声合唱|二期会合唱団*

前半2曲が非常に美しい演奏でした。

「アイオリス」は譜面を見るのも聴くのも初めての曲ですが、すばらしい曲です。序奏のイ長調の主和音と主音上の増三和音のゆらめきからクロマティック上行音型のテーマとともに3/8の軽やかな拍節感とシンコペーションのリズムが造形されていき、最初の増五度の音程から曲全体を支配する上下三度の調性の移ろいが形作られて、後は、緻密でありながら筆の勢いにまかせて書いたような天衣無縫さで、次々と楽想が湧いてくる自然な美しさ。本当にアイオロス(風の神)が書いたようなインスピレーショナルな曲です。いっぺんで大好きになりました。

かなり丹念にリハーサルをされたのでしょうか、デリケートなニュアンスあふれる演奏だったと思います。序奏の弦と木管、半音上行フレーズに様々な表情の変化がつけられるところですっかり心を捉えられました。柔らかくスピードのあるボウイングで弦をやさしく撫でて、それこそ風が吹いてくるような弦の音色。N響はこんな音も出せるんだと感心しました。fig.Kのun peu plus lent以降の第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの愛撫するようなやさしい歌い回しもぐっと来ました。これがデュトワ氏のマジックでしょうか?

ただ、非常にデリケートな表現で、音量は抑えめ、自分の席(2階1列)でも、息を殺してじっと聴いていないと微妙なニュアンスが聴き取れないような具合でした。この曲は、サントリーホールでやった方がいいかもしれません。

「夜想曲」も同様によく作り込まれたデリケートな演奏。とくに印象に残ったのは、「雲」のfig.8、テンポプリモから繰り返されるコールアングレとホルンとの対話。1回ごとにダイナミクス、息づかいなどのニュアンスが変化して、秘め事から微睡みに落ちていくような印象を受けました。池田さんgreat jobでした。前週、BPOのジョナサン・ケリー氏がhakujuホールでブリテンをやった演奏会でお見かけしましたが、勉強熱心でどんどんと表現の深みを増しておられますね。「祭」の軽いリズム感、木管のドリアンスケールのテーマの色彩感もすばらしかったです。

「シレーヌ」のfig.6-7あたり、多分この曲のエモーショナルなクライマックスですが、ここのオクターブの弦の歌いっぷりも美しかったですね。細かい譜割りですが、デュトワ氏は無理に細かいところを合わせようとしないで、弾く人の呼吸と勢いを大切にするようなリードで、その結果、沸き上がるようなふくよかな歌になっていたように思います。二期会の皆さん、美しい演奏でしたが、高いgisに上がっていく音型の音程がちょっと不安だったのと、ヴィブラートがやや大きいかなという印象を持ちました。ここまでは大満足です。

前半の2曲があまりに美しかったので、率直なところメインの「惑星」は、あまり印象に残っていません。デリケートな前菜に夢見心地になっているところにいきなりジャンボとんかつを出されたような気分でした。すみません。

第2ヴァイオリンの根津さんが定年のため、この日最後の定期公演を迎えられました。根津さんのウェブサイトは、リハーサルの様子を日記に書いておられ、毎回興味深く拝見していました。また、PCはMac、オーディオの趣味、乗っている愛車が同じ、など、自分と共通するところが多く、密かにファンだったので残念です。来月以降もエキストラで載って下さるそうなので、今後も日記を楽しみに拝見したいと思います。おつかれさまでした。

2008/12/6NHK交響楽団Aプロ

NHK交響楽団第1634回定期公演 Aプログラム
12月6日 | 土 | 開演 6:00 PM NHKホール

ストラヴィンスキー / バレエ音楽「ミューズの神を率いるアポロ」
ストラヴィンスキー / オペラ・オラトリオ「エディプス王」

指揮|シャルル・デュトワ
出演|エディプス王: ポール・グローヴズ
出演|ヨカスタ: ペトラ・ラング
出演|クレオン/伝令: ロベルト・ギェルラフ
出演|ティレシアス: デーヴィッド・ウィルソン・ジョンソン
出演|羊飼い: 大槻 孝志
出演|語り: 平 幹二朗
合唱|東京混声合唱団

今年のAプロは聴き応えある重量級が揃っていますが、中でも楽しみにしていたのがこれです。決してポピュラーなレパートリーではないので、営業的には大変だろうによく載せてくれたと思います。さすがNHK。超人気演目のCプロに振り替えた会員も多いのか、少し空席がありました。

「アポロ」は、やや薄いかと思うくらい透明感あるテクスチュア、抑制気味の表現で、上品な演奏だったと思います。神話が題材のバレエなので、ごてごてと濃厚なスタイルよりも、新古典的な様式美の中に、ところどころ美しい歌い回しにはっとするようなこういう演奏が自分は好きです。カリオペのヴァリアシオンでの木越さんのソロ(Boosey&Hawkes総譜のfig.41-42)が少しトゥッティとずれた他は、非常に精緻なアンサンブルでした。

第二景(アポロンのヴァリアシオン)、篠崎さんの気品あるカデンツァの後、大宮さんとのデュオ(fig.21-22)、二度音程とその解決がつくりだす衣擦れのようなサウンドが美しかったです。全体にやや速めのテンポの中で、テルプシコレとのパ・ド・ドゥの嫋々とした歌が静かなクライマックスでした。こういう、こけおどしが一切なくて清楚に上品に聴かせる演奏、いいですね。

「エディプス」は、グローヴズの立派な歌に圧倒されました。正確な音程、正確なイントネーション、折り目正しい表現といった様式美の中から悲劇性が巧まずして立ち上ってくるすばらしい歌唱でした。”Liberi, vos liberabo“ (B&H fig.16) での自信あふれる王の威厳と、”Natus sum quo nefastum est,“(fig.168)、そして”Lux facta est!“(fig.169)の静かな悲しみとのコントラストが見事。

ちょっと能楽の様式美を思いました。仮面の表情は変わらない。変わらないが故に、鑑賞する者のファンタジーの中で自由にその表情を変えていく。そういう逆説的な表現方法がここにあります。ひとつだけ気になったのは、ここでの弦楽三連符と木管二つ割りとの音価の違いが曖昧だったこと。あえて慟哭を避けて、端正な様式の中でドラマを表現しようとするのなら、ここは正確に弾いてほしいと思いました。

ヨカスタのラングさんは、"Nonn' erubeascite, reges,"のしっとりした深い音色はさすがですね。fig.103の"Oracula, Oracula,"は、オーケストラとちょっとずれましたが、禍々しい雰囲気は出ていました。fig.121 アジタートの"Oracla mentitur"はややもたつきましたか。ここは難しいですね。津堅さんチームの上行パッセージ、ぴたっと決まっていました。

クレオンのギェルラフさんは、もう少し声が通ればと思います。ティレシアスのウィルソン・ジョンソンさん、さすがですね。ドラマが大きく展開する場面での重みのある歌唱でした。大槻さんのシェファードは立派。はじめて聴きましたが、あとほんの少し母音と次の子音のつながりをスムーズにしてレガートに歌えれば、ものすごく立派な歌になると思います。大槻さんのお名前はよくよく覚えておきます。

全体的に歌を聴かせるために、デュトワ氏は、オーケストラをかなり抑えていたようですが、最後の”Ecce! Regem Oedipoda,“(fig.197)の合唱ではしっかりとクライマックスをつくるのはさすが。東京混声合唱団は、終始立派な歌でした。

みなさんBraviでした。

細かいところですが、エディプスの"Clarissimus Oedipus, polliceor divinabo"の後、コントラバスがes音を伸ばし続ける上にかぶさるナレーション、ジャン・コクトーのオリジナルでは、"L'assassin du roi est un roi"の最後の4つのシラブル"roi est un roi"が9/8拍子八分音符4つにリズムを割り当てられていて、語りのリズムがそのまま次のコントラバス上行音型のリズムにつながって劇的緊張を高めますが、さすがに日本語訳ではシラブルを合わせられないようですね。平幹二朗さんの語りはとても雰囲気がありました。

ところで、今月の「フィルハーモニー」で永野純子さんが述べておられますが、 ストラヴィンスキーは、聴衆はラテン語の歌詞を理解できないことを前提にこの曲を書いているようです。反対に、ドラマの進行を説明する語り手は、上演される場所の現地語で話すのが演奏慣習(performing convention)になっているようです。確かに、昔ロンドンで聴いた時には英語でした。Boosey&Hawkesの総譜でも、冒頭にフランス語、英語、ドイツ語の3つの言語で語り手のセリフが印刷されています。 ストラヴィンスキーは、語りで物語の進行を聴衆に理解させつつ、歌詞をラテン語にすることによって、聴衆が歌詞よりも音楽の力に集中してくれることを希望したようです。

私は、歌詞をラテン語にしたもうひとつの理由として、非常にグロテスクな内容を描写をラテン語という非日常化された言語で語ることで、古典の様式美を守り、ヴェリズモ的な扇情に墜することを避ける意図もあったんじゃないかと想像します。

ということは、舞台両袖の字幕電光掲示は、作曲者の意図には反するのでしょうか?歌っている内容が詳細に理解できた方がいいというお客さんもたくさんいらっしゃるだろうから一概には言えませんね。

コクトーの語りの中に、次のようなセリフがあります。
"Laius a e'te' assassine' par des voleurs au carrefour des trois routes de Daulie
et de Delphes. Trivium! Carrefour! Retenez bien ce mot. "
「ライウスは、ドーリスからデルフィに至る道の三叉路で盗賊に殺されました。
トリヴィウム、三叉路。この言葉をよく心に留めて下さい。」(私訳)

このようにTrivium(三叉路)というラテン語の単語がキーワードになることについて、聴衆に注意を喚起しています。そして続く音楽では、エディプスがもしやと不安に駆られていく歌のバックでコーラスが"Trivium, Trivium"と印象的なこの言葉を繰り返します。こういう風に、語りが音楽を聴く上でのポイントも解説してくれているので、もしかしたら、字幕に気を取られるよりも、わけのわからない言葉で歌う声を含めた音楽で悲劇の雰囲気を味わうのが作曲者の意図に沿っているのかもしれません。

2008/11/22NHK交響楽団

NHK交響楽団第1633回定期公演Cプログラム 
11月22日 (土) NHKホール
ドヴォルザーク / 交響詩「真昼の魔女」作品108
ドヴォルザーク / ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品53
ショスタコーヴィチ / 交響曲 第9番 変ホ長調 作品70
指揮:イルジー・コウト
ヴァイオリン:ヴェロニカ・エーベルレ

様々な意味で充実し、また気持ちのよい演奏会でした。

まずアントレは、ぼくのお気に入りの「真昼の魔女」。ドヴォルザークのシンフォニーは、シンフォニーといいながらシンフォニックな発展がなくて、ぼくは苦手ですが、この曲は文句なく美しくて、霊感にあふれた曲です。美しい演奏でした。

今月は、Aプロのトリスタン、Bプロのブルックナーと聴いて、ゲストコンマスのミリング氏の絶妙のリードに感心し、この音色は彼のリードだから出るのかなと思っていましたが、今日は堀さん。ミリング氏とはひと味違う音色やイントネーションでしたが、いつになくフェザータッチの弦楽が印象的です。やはりコウト氏がポディウムに立つからこういう音色になるんでしょうか。

軽くてよく弾むリズム、繊細なグラデーションがついた楽器の混ざり具合など、ぼくが大好きなこの曲をとてもチャーミングに仕上げてもらい、まずは幸先よしです。

よい演奏を聴かせてもらうとまたまた贅沢になってしまうのですが、エルベンの原詩の8節以降、ポレドニツェが踊る場面、楽譜でいうとfig.10のallegro、3/8と2/8が交錯する部分なんですが、ここのリズムが乗り切れていなかったです。ここは、楽譜通り八分音符を正確に等価にとらないとリズムがはずまないと思います。あとは文句ありません。

さて、エーベルレさんの演奏には仰天しました。19歳ですよ。何だろう、この音色、このリズム、この自信。何も怖くないんでしょうか。プロフェッショナルとして一家を成す人には、人生の一瞬、こういう時間があるのかもしれません。指揮者も、オーケストラも、聴衆も、すべてが彼女の下僕となるこの時間。フィナーレのフリアント(6/8拍子を2つ割、3つ割の交互に感じるリズム)の迷いのなさ。伴奏する大人たちは、ついていくのに精一杯です。

次に聴く時は、何を聴きたいだろう?バルトーク、プロコフィエフ、ベルク?どうか急がないでゆっくりと音楽を楽しんでキャリアを積んでいただきたい。それほど大切にしたい演奏家です。

アンコールはユジェーヌ・オーギュスト・イザイのソナタ#2からプレリュード。今月の「フィルハーモニー」で数々の名曲に埋め込まれたグレゴリオ聖歌のディエス・イレの話題がありましたが、この曲にもアルペジオの一番下のG線上でディエス・イレの定旋律がはっきりと聴き取れますね。brava!

休憩中、ロビーで何人かプロのヴァイオリニストの方をお見かけしました。みなさん、情報が早いのか、やはりエーベルレさんに注目しているようです。売店で飲み物の行列に並んだら、すぐそばに都響の遠藤加奈子さんがいましたが、何か感じ入るものがあるような表情だったので、邪魔してはいけないと思い、今日は声をかけませんでした。

新星の日本デビューに興奮冷めやらぬ中、メインのショスタコーヴィチ。allegroはやや遅めのテンポ。Moderato楽章の木管ソロは秀逸。今日フルートのソロに客演した女性奏者はどなたでしょうか。ゆっくりしたヴィブラートで弱音が美しい。Presto楽章のクラリネットは立派でした。トリオの関山さんのソロ、ぴーんと響いていました。ファゴット岡崎さんのカデンツァも美しい。

フィナーレfig.94 a tempoのトゥッティでは、感極まったのか、指揮棒を脇におろすコウト氏。この1ヶ月でオーケストラとの間に全幅の信頼関係を築いたのでしょう。

終演後、舞台に呼び出されたコウト氏、遠目にはよく見えませんでしたが、顔を抑えて泣いておられたでしょうか。今月のA,B,Cプロ、6回にわたっての記憶に残る名演、満場の聴衆からの拍手、美しいブルックナー、ワトソンさんのイゾルデ、そして今日のエーベルレさん、オーケストラのモティヴェーションが高まった今日のショスタコーヴィチ。聴き手にとっても、マエストロにとっても充実した1ヶ月でした。オーケストラのメンバーも、弓で譜面立てを叩く通り一遍のオベーションではなく、楽器を椅子におろしての拍手。堀さんの満面笑顔の表情。来年は何を聴かせてもらえるのでしょうか。

NHK交響楽団第1632回定期公演 Aプログラム 
11月15日(土 )NHKホール
ワーグナー / 楽劇「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲と愛の死」
同 第2幕(演奏会形式)
指揮:イルジー・コウト
トリスタン: アルフォンス・エーベルツ
イゾルデ: リンダ・ワトソン
マルケ: マグヌス・バルトヴィンソン
ブランゲーネ: クラウディア・マーンケ
メロート: 木村 俊光

今夜もシュターツカペッレ・ドレースデンの前コンサートマスター、ペーターミリング氏をゲストコンマスに招いての公演です。先週のBプロではN響の弦楽からシルキーな響きを引き出したミリング氏がおそらく劇場時代に何百回も弾いたであろうトリスタンでどんなリードを見せるか、そしてバイロイトの現行プロダクションでブリュンヒルでを演じているワトソンさんがどんなイゾルデを聴かせてくれるかなど、聴きどころ満載で、自分としては以前から楽しみにしていたコンサートです。

前半は、前奏曲と愛の死。ミリング氏率いるN響の弦楽陣は自分の期待通り、繊細かつ多彩な音色とイントネーションを聴かせてくれました。一つの音符の中での微妙なニュアンスの変化が積み重なって情感あふれる歌が紡ぎ出されていきます。プレリュードの間、ほとんどずっとミリング氏の弓を見ていましたが、なるほどああいうボウイングをすればああいうフレーズが出てくるんだなと納得することしきりでした。

隣の大宮さん、将来のコンマス候補として嘱望されている若手のエースですが、学ぶところがたくさんあったんじゃないでしょうか。コウト氏は、先週のブルックナーと同様、精緻なバランスの取り方で、乱暴な強奏で音を濁らることなく、控えめながら美しい金管のアコードと弦楽が溶け合うみごとなソノリティを引き出しました。

木管ソロがちょっと控えめすぎるかなと思いましたが、非常に美しいプレリュードだったと思います。

前奏曲のfig.Bあたりでワトソンさんが舞台下手から登場。深みのある胸声で“mild und leise wie er laechelt”が歌い出されました。以前はリリコな役も歌っていた彼女ですが、今や押しも押されぬヴァーグナーソプラノになりました。

豊かな倍音が響き渡る頭声と深い胸声を兼ね備え、ソプラノとメゾソプラノの美質を併せ持つ見事な声。しっかりとした声の輪郭、明瞭なディクション。ブリュンヒルデ、とくに「ジークフリート」3幕での同役ではトップレジスターの発声、音程がやや苦しい印象をかねがね持っていましたが、イゾルデなら問題ありません。威厳ある舞台姿と相俟って、美しく、気品ある歌でした。

休憩後、メインの2幕。前奏曲と愛の死は、N響もオーケストラピースとしてたびたび弾いているでしょうが、日頃シンフォニーオーケストラとして活動しているN響が2幕をどう弾くのか、楽しみでした。コウト氏とミリング氏の老練なリードでまずは無難な演奏。

オーケストラの皆さんも曲をよく知っていらっしゃるようで、歌手のちょっとした破綻にもコウト氏の棒に反応して修復して事なきを得ていました。美しい響きで、歌をマスクしてしまうこともなく、立派な伴奏だったと思います。やはり弦楽器が美しかった。

メロート役の木村さん、慌て過ぎ。“ich zeigt’ ihn dir in offner Tat”で2拍くらい先走ってしまいましたが、コウト氏が「NHKのど自慢」の伴奏みたいにうまく収めました。

マルケ王のバルトヴィンソン氏は終始自信なさそうです。フランクフルトで同役を演じた経験もあるはずなのですが、どうしたことでしょう。まださらっている段階という歌で、マルケ王にふさわしいディグニティも感じられませんでした。“da selber du den Ohm beschworst,”以降、伴奏を見失ってしまって危なかったです。オーケストラも少し動揺してアンサンブルが乱れましたが、ここもコウト氏の巧みなキューイングでなんとか修復しました。

トリスタンのエーベルツ氏、音程が全体にフラット気味、フレーズはブツ切れ、今夜は不調でした。“Niewiedererwachens wahnlos holdbewusster Wunsch”、イゾルデとの美しいハーモニーを聴かせてほしいところですが、音程がはまりませんでした。メロートとの場面、“um Ehr’ und Ruhm mir war er besorgt wie keiner“は、低弦の伴奏音型を数え間違えて、アウフタクトを一拍早くでてしまいました。

まあ、劇場では通常もっといろんなミスが出るわけですが、演奏会形式で譜面を見ながらの演奏にしては、ややミスが多いかなと思います。いずれも劇場経験豊富なコウト氏がちゃんと修復しました。ワトソンさんのイゾルデは実に立派な歌でした。やわらかい弱音からオーケストラを突き抜けるトップまで、表現の幅が広いし、音程、リズムは安定して、強靭で情感もあって、歌詞は明瞭、安心して美しさに浸れる歌唱だったと思います。本日一番の収穫。

いろいろありましたが、N響の立派な伴奏、ワトソンさんの光り輝くイゾルデを聴けたので満足です。

2008/11/5NHK交響楽団Bプロ

NHK交響楽団第1631回定期公演Bプログラム 
2008年11月5日(水)サントリーホール

イルジー・パウエル / ファゴット協奏曲(1949)
ブルックナー / 交響曲 第4番 変ホ長調「ロマンチック」(ノヴァーク版 1878/80年)
指揮:イルジー・コウト
ファゴット:岡崎 耕治

今夜のN響は、実に渋くてまとまりのある音色だったと思います。指揮者の力でしょうか、それともゲストコンマスのミリング教授のリードでしょうか。

シュターツカペッレ・ドレースデンの前コンマス、ミリング教授は定期的にゲストコンマスとして客演し、そのたびにいつものN響とは違うサウンドを聴かせてくれるので楽しみにしていましたが、今夜も期待通りでした。自分の印象ですが、彼の運弓は弓幅が大きく、運弓の速度、弓圧などの多彩な変化でイントネーションの幅がとても広いと思います。また節回しやリズムに独特のリルトというかコブシのような味わいがあって、それが弦楽全体に行き渡って、表情豊かな音になっていたんじゃないでしょうか。バックデスクの方で、いつもと同じ弓幅で醒めて弾いている人が若干いたのは、ちょっと残念です。

もう一つ、今夜は金管が近頃まれに見る出色の出来でした。ライブだから、小さなミスはそこここにありましたが、弦とのバランス、アコードの響き、遠近感、音色の変化、微妙な音程操作(例えば、3度をちょい低めにとって、少し暗めのカデンツをつくってみたりとか)など、非常に美しかったと思います。ホルンのトップ、今井さんだったでしょうか、ブラヴォーです。関山さん、こんなことを申し上げては失礼ですが、今夜のようにロータリーバルブの楽器の時の方がアンサンブル全体とよく溶け合って美しいと感じます。(そりゃロータリーの方が音色がやわらかいんだから当たり前か。。)

コウト氏は、ゆっくり目のテンポで丁寧な音楽づくりでした。奇抜であっと驚くような表現はなく、常套的ですが安心して美しい響きに身を任せられるような演奏だったと思います。満足しました。

ところで、実際にこの曲を演奏されたことがある方に伺いたいことがあります。今夜演奏されたのは、第二稿(1878/1889)ノヴァーク校訂版で、手元の国際ブルックナー協会全集版では、フィナーレ247小節のストバイはダウンボウ5連発の指示がありますが、ミリング教授はここをアップから初めてアップ/ダウン交互に弓幅一杯にテヌートで弾いておられました。こういう弾き方を経験された方いらっしゃいますか?

最後に悲しいお知らせをひとつ。来週のAプロ、楽しみにしていたトリスタン2幕ですが、例のカットがあるそうです。682-1002小節、イゾルデの“bot ich dem Tage Trutz!”の直後から“Doch es raechte sich der verscheuchte Tag;”の直前までがカットされ、682-683小節のC-dur V-Iのカデンツが1003小節のAs-dur Iにブリッジされます。この間って、2人が昼と夜についてとても味わいのある一種メタフィジカルな会話を聴かせる場面、音楽的にもドミナントモーションとエンハルモニックが延々と連続する聴かせ処で、カットは本当に惜しいですね。昔はいざしらず、最近では劇場でカットされることはほとんどありません。直近では、昨年のベルリン州立オペラ+バレンボイムの来日公演でカットされていました。演奏会形式でしかも2幕だけ。歌手への負担が理由とは思えません。本当に残念です。

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