HKの音楽夜話

在京オーケストラの定期公演を中心に、コンサート、オペラのレビューを掲載します。

東京都交響楽団

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2008/11/19東京都交響楽団

2008年11月19日(水)
東京都交響楽団第671回定期演奏会 Bシリーズ サントリーホール
指揮:ハンヌ・リントゥ
ピアノ:中村紘子
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 『皇帝』 op.73
マーラー:交響曲第1番 ニ長調『巨人』

いろいろなことを考える演奏会でした。

まず、中村紘子さん。私のような若輩のディレッタントが評釈するのは僭越かもしれませんが、率直に感想を書かせていただきます。轟くようなハードタッチと弱音のコントラスト。いつものねっとりとしたルバート。すべてが予想した通りの表現。ベートーヴェンは懐の深い音楽だから、様々な表現の可能性があると思います。中村さんのこの演奏もその一つの形。おそらく100回弾いても同じ表現をされると思います。迷いが一切ない、自分の音楽はこれだという確信がある。全体の造形もしっかりしている。自分の表現にオーケストラも指揮者も引き寄せてしまうだけのカリスマ性もある。ミスタッチがどうのこうのなんていうのはやめましょう。これが中村紘子のベートーヴェンだといわれれば、なるほどそうなんだ、立派な演奏ですと感服するほかありません。あとは、聴き手の感性、好みの問題なのでしょう。好みに過ぎないのですが、自分の中では、先日聴いたマルティン・ヘルムヒェンのベートーヴェンがあれ以来ずっと心に残っています。

マーラーのシンフォニーでは、指揮者とオーケストラの関係について思いを巡らせました。リントゥ氏はものすごく表現意欲旺盛な方だとお見受けしました。大変失礼ながら、ご経歴を拝見すると、おそらくこれまで指揮をなさったどのオーケストラよりも昨夜の都響は氏にとっては技術的にも優れていて自分が表現したいことをレスポンシブに表現してくれるすばらしいオーケストラだったんじゃないでしょうか。どんな表現を要求してもそれに応えてくれるオーケストラ。だからもっといろんなことがしたくなった。よくいえば彫琢の限りを尽くした渾身の表現。都響もそれに誠実に応えようとしていました。これもまた自分の聴き手としての感性に過ぎないとは思いますが、マーラーのこのナイーヴなシンフォニーにはいささか細工が過ぎていて、音楽の自然な呼吸が損なわれると感じました。リントゥ氏の音楽づくりへの共感という意味ではメンバーの間で微妙な温度差があったんじゃないかと想像します。各セクションはそれぞれ破綻のない立派な演奏をされていたと思いますが、残念ながら自分は細工が耳について感動できませんでした。

しかし、優れた指揮者だと思います。棒の振り方は30年以上前の颯爽した若きクラウディオ・アッバード氏を思い出しました。感性の鋭い方だと思います。今度聴く時には、余計なものをそぎ落とした純粋な彼の美質を聴かせてくれると期待しています。

2008/9/26東京都交響楽団

東京都交響楽団第667回定期演奏会Bシリーズ
2008年9月26日 サントリーホール
指揮:マーク・ストリンガー
ヴァイオリン:オーギュスタン・デュメイ
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61
ブルックナー:交響曲第6番 イ長調 (ハース版)

大曲2つで終演は21時20分頃、都響の皆さんおつかれさまでした。

デュメイ氏のコンチェルト、いろいろな意味で圧倒的でした。まずは圧倒的な体格。舞台下手の山台に載っている都響のヴァイオリニストよりも頭一つくらい出ている巨大な体躯。おそらく2メートルくらいあるんじゃないでしょうか。握力もすごそうです。指板を叩く指の音が私の席(RB)まで聞こえてきます。演奏はというと、これはもう独自の世界、デュメイワールドです。ベートーヴェンの演奏スタイルとして、ベーレンライター新全集以来、ピリオド奏法やオーセンティシズムが主流になりつつある昨今ですが、そんなペダントリー(pedantry:衒学趣味)など糞食らえと言わんばかりの自在な弾きっぷり。例えばアレグロ楽章は、自在に変化するテンポで、再現部A音の長いトリルから第2テーマ、コーダあたりの嫋々たる歌をクライマックスに位置づけ、それまでの音楽をすべてそこに収斂させていきます。多少音程がおかしいところがあっても、何だかそれなりに説得力があるスタイル。ストリンガー氏はデュメイ氏のある意味で奔放な音楽づくりにぴったりと寄り添うサポート。たいへんな喝采、スタイルとか技術とかそんなことは横において、この一夜の1回限りのこの演奏、私も存分に楽しみました。

ブルックナーは一転して微に入り細に入り造り込んだ精緻な演奏。ストリンガー氏の本来のスタイルなのでしょう。精緻なアンサンブル、精緻なバランス。bar.327 langsamerからコーダへの入り方など、ちょっと造り過ぎかなと感じる部分もありましたが、丁寧な音楽だったと思います。第1楽章の金管がやや不安定だったのが気になりました。例えば、fig.M直前では、金管と弦楽の呼吸が乱れてちょっともたついたところがありました。しかし、アダージョ楽章以降は、美しい弦楽を基調として、そこに管楽器が溶け合う音色を楽しみました。アダージョ第2テーマの弦楽の美しさは圧巻だったと思います。すごく細かいことで恐縮ですが、bar.129-130、b-mollのVI和音、1番トロンボーンのBがちょっと高いかなと感じたのですが、いかがでしょうか。

終演後、今日載っておられたある奏者とお話ししました。とても美しい演奏でしたねとたずねたところ、ちょっと首をひねって、指揮者にかなり言いたいことがおありな様子で、今日の演奏は都響の底力ですとおっしゃっていました。私の想像ですが、やや造りすぎで神経質な部分がプレイヤーとしては気になるのでしょうか。聴く側と弾く側ではちょっと意識に差があるものですね。6月のエルガーのことをお話ししたら、あれは弾く側としても楽しかったらしく、笑顔でいろいろとお話しして下さいました。

聴く側として、私は楽しみました。

2009/9/13東京都交響楽団

2008年9月13日 東京都交響楽団
東京芸術劇場シリーズ『作曲家の肖像』 Vol.69 《R.シュトラウス》

指揮:大野和士
クラリネット:三界秀実
ファゴット:岡本正之
ソプラノ:佐々木典子

四つの最後の歌
クラリネットとファゴットのための二重コンチェルティーノ
交響詩『英雄の生涯』

佐々木典子さんは、1980-90年代、ヴィーンで主としてスーブレットな役柄で活躍されました。一度だけですが、バルバリーナを演じた舞台を見たことがあります。さすがレパートリーシステムをとる代表的な劇場で活躍された歌手らしく、ドイツ語のディクションはお見事。少し残念なことに、
「春」「九月」ではまだ喉が暖まっていないのか、あるいは弦楽のアルペジオが少しがさがさと厚いのか、舞台から比較的近い私の席(2RB)でも声がオケにマスクされている印象を受けました。しかし、後半2曲は、少し暗めでしっかりと芯のある声がしっかりと飛んできました。好演。

コンチェルティーノは、センスのいい佳曲ですね。聴きながら思ったのですが、クレメンス・クラウスが台本を書いたシュトラウスの「カプリッチオ」で作曲家フラマンと詩人オリヴィエがオペラにとって音楽と詩のどちらが大事かを延々と議論しつつグレーフィンの寵愛を争う、あの小粋なやりとりがクラリネットとファゴットの間で交わされているような印象を受けました。2人のソリストはいずれもすばらしい美音とセンスのいいイントネーション。終楽章、リピエーノとコンチェルティーノのやりとり、大野さんの間のとり方が光ります。シルキーな弦楽はいつもどおり。

メインは「英雄の生涯」。一言でいえば、颯爽と走って、歌にあふれた明るい演奏でしょうか。fig.24あたり、矢部さんの音色がすばらしい。大野さんは、オーケストラを引っぱるというよりも、こう弾きたいという若い弦楽奏者たちの呼吸を感じ取って、自発的に湧き上がってくる歌をさらに高揚させ、大らかでよく歌う音楽を引き出していました。彼のバトンで弾くのはさぞ心地よいだろうと想像します。fig.101の後、6/8拍子で嫋々と歌われる弦楽合奏の心地よさ。金管のちょっとした瑕はありましたが、瑞々しい弦楽アンサンブルに満足しました。

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すみません。一部修正しようと思ったのですが、禁止文字列がふくまれていると怒られてうまくいかないので、再度全体を投稿します。修正したのは、最後のアナリーゼの部分です。アダージョのあの美しい第二主題について新たな発見がありました。

東京都交響楽団 第664回定期演奏会 Bシリーズ
2008年6月17日 サントリーホール

指揮:ポール・ワトキンス
ピアノ:中野翔太
シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 op.54
エルガー:交響曲第3番 ハ短調 op.88(Anthony Payneによる完成版)

若くして国際舞台で活躍する中野翔太君の演奏を楽しみにしていたが、残念ながら、自分にとっては期待はずれだった。そこそこ無難に弾いているが、飽くまで無難というレベル。何が問題なのか考えてみたが、彼は、オーケストラを聴いていなくて、終始自分のペースで弾く。それにワトキンスが合わせている。例えば、インテルメッツォの中間部、頭に16分休符がついた16分音符の音型、彼の恣意的なアゴーギクでどんどんテンポが重くなって、音楽がフォルムを失う。オーケストラとのインターアクションがなければ、コンチェルトを弾く意味はどこにあるだろう。そして一本調子な音色には感性を感じられない。メロディが再現する箇所では、いかにもレッスンでこう教わったという変化のない歌い回しで音楽の流れを切る。甘美なメロディが続きはするが、音楽が有機的に発展していくわけではなくて、どちらかというと平板な印象のあるこのコンチェルトが、なおさら長く、退屈に感じられた。彼は若く、将来のある人だ。彼には、もっといろんな音楽、とくに歌を聴いて、感性を磨いてもらいたい。先週、まったく同じ世代のヘルムヒェンの輝かしいピアニズム、極上のタッチ、瑞々しい感性に触れた直後だから、ちょっと辛辣になってしまったかもしれないが、今夜の演奏を聴く限り、メジャーオーケストラの定期の舞台に立つような演奏ではないと思う。がんばってね。

さて、メインのエルガー/ペインのシンフォニー。敢えて、「エルガー/ペイン」と書くのは、決してエルガーの偽物だからという意味ではなくて、逆に、エルガーのスケッチをここまでコヒアラントな作品に高めたアンソニー・ペイン氏の労に敬意を表してこう表現したい。成立の経緯がどうであれ、誰の作品であれ、この音楽は立派だと思う。

肝心の演奏だが、まずは、都響の健闘を讃えたい。おそらく、都響は初めて弾く作品だろう。たった数回のリハーサルでここまでの完成度に高めた都響の技量はさすがだとおもう。かつて自分がロンドンで勉強していた頃、若杉弘氏率いる都響がバービカンホールに来演して、ブラームスのシンフォニーを弾いたことがあった。ロンドンにあるメジャーオケと比較してもけっして引けを取らない力演に、その場に立ち会った日本人として、同席した英国の友人たちにも誇らしさを感じたのを思い出す。現時点での都響の実力はさらに格段の飛躍を経ている。いつかまた英国に客演する機会があれば、これをぶつけてほしい。ロンドンのconcert goerたちはびっくりするはずだ。リーダー(コンサートマスターとはいわず、英国風にリーダーと言ってみる)の矢部さんは、エルガーに合っている。bar.48 Largamente、ビッグメロディへのリタルダンドと溜めのある歌い回し。ちょっと大げさなリードが都響の弦楽からエルガーらしさを引き出す。

とはいうものの、エルガーが大好きな自分として、今夜の演奏には不満なところがある。ワトキンス氏は、一言でいうと、BBCプロムスのラストナイト、ユニオンジャックに埋め尽くされたロイヤルアルバートホールでいけいけどんどんの演奏。こんなにすばらしいスコアなのに、ディテールへの細やかな感性やパートの音量バランスへの配慮に欠ける大雑把さ。たとえば、アダージョ楽章bar.62 Piu Lento、いかにもエルガーらしい精妙なアラベスクのテクスチュアは全然整理されいなくて、雑然とした印象。これじゃ、今夜はじめてこの曲を聴いた人は、ここの美しさが絶対に分からない。フィナーレのbar.35 Poco Largamente、トランペットの16分音符三連符のアタックにホルン+トロンボーンが雄渾なメロディを続ける箇所、あんなに弦楽の伴奏をうるさく鳴らすと金管が聴こえない。それから、Lawrence Binyonのアーサー王への付随音楽のバンケットの場面の音楽を流用したスケルツォ(というか、性格的にはメヌエットだと思う)。あのテンポでは、忙しすぎて、精妙なアラベスクが聴こえてこない。16分音符で主旋律を彩るヴァイオリンがバタバタしてしまう。書き始めるといろいろあるが、やはり都響の合奏力が立派なだけに、指揮者にもう少しデリカシーが欲しいという印象だった。

最後に余談。アダージョの不思議な響き、それ以前のエルガーにはない不思議な響きについて考えてみた。

冒頭の3つの譜例、アダージョ冒頭(bar.1-3)、主旋律(bar.11)、経過節(bar.17-19)をご覧いただきたい。減五度+長三度の音程構造モチーフが見えてくる。機能和声でいえばviiという最も調性感から遠い三和音に含まれる音程。冒頭は、ヴァイオリンのg-f旋律に対して、低弦がg-desと合の手を打ち、g-des-fの減五度+長三度。

bar.11二〜四拍目、第二ヴァイオリン+ヴィオラがc-ges-b〜d-ais-c〜e-b-dと、減五度+長三度の構成で長二度(全音)づつ上昇する伴奏。しかも、すべての音が、cを根音とする全音音階(whole tone scale, c-d-e-fis-gis-ais-c)の構成音。

三番目の譜例、bar.17-18は、減五度+長三度の音程を内包する、いわゆる「導七和音」がクロマティックに移動して属九根音省略形に半終止するカデンツァが見られ、初めて三和音(triad)が聴こえてかすかな調性感。この後、bar.22まで、全体を短三度づつ上昇させる半終止シークエンス。

bar.33-38で、はじめて古典機能和声らしいVI7-V7半終止がホルンに現れ、bar.38以降の第二主題に移行する。調性感のあいまいな冒頭から、三和音の出現、bar.33-38の典型的な半終止を経て、bar.45ではっきりした三和音進行が聴き取れる美しいメロディラインに移る。この遷移とコントラストが鮮烈だから、第二主題がとても美しく聴こえる。

さらに凝っていることに、第二主題のこの美しい旋律も、実は、楽章冒頭と同じ音程構造体(「シレファラモチーフ」と呼ぼう)からできている。旋律線は、h-d-(e)-f-cis-e-g-h-(gis)-a。カッコに括った経過音を省くと、h-d-f-aのシレファラモチーフの間にcis-e-g-hという長二度上のシレファラモチーフが挿入されているという構造がはっきりと見て取れる。あの美しい音楽の背後にはこんなに緊密な構造がある。エルガーおそるべし。

ペインは、このシンフォニーを補作したプロセスを回顧した著書 “Elgar's Third Symphony: The Story of the Reconstruction” で、アダージョは残されたスケッチのどれをどの順番でつなぎ合わせればcoherentな全体になるのか、それはまるでジグゾーパズルを解くようだったと述べている。三番目の譜例に見る連続半終止シークエンスは、残されたマテリアルをなんとかつなぐためにペインが知恵を絞った痕跡か。この本はamazonでも売っているので、エルガーファンにはぜひ薦めたい。

なんだかとりとめない感想になってしまったが、総括。エルガーの作品であれ、ペインの作品であれ、この音楽は美しい。都響はがんばった。もう少し繊細な感性を持っている指揮者で聴きたい。でもこの曲をライヴで聴ける東京にいることに幸せを感じる。

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東京都交響楽団 第664回定期演奏会 Bシリーズ
2008年6月17日 サントリーホール

指揮:ポール・ワトキンス
ピアノ:中野翔太
シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 op.54
エルガー:交響曲第3番 ハ短調 op.88(Anthony Payneによる完成版)

若くして国際舞台で活躍する中野翔太君の演奏を楽しみにしていたが、残念ながら、自分にとっては期待はずれだった。ミスタッチもなく無難に弾いているが、飽くまで無難というレベル。何が問題なのか考えてみたが、彼は、オーケストラを聴いていなくて、終始自分のペースで弾く。それにワトキンスが合わせている。例えば、インテルメッツォの中間部、頭に16分休符がついた16分音符の音型、彼の恣意的なアゴーギクでどんどんテンポが重くなって、音楽がフォルムを失う。オーケストラとのインターアクションがなければ、コンチェルトを弾く意味はどこにあるだろう。そして一本調子な音色には感性を感じられない。メロディが再現する箇所では、いかにもレッスンでこう教わったという変化のない歌い回しで音楽の流れを切る。甘美なメロディが続きはするが、音楽が有機的に発展していくわけではなくて、どちらかというと平板な印象のあるこのコンチェルトがなおさら長く、退屈に感じられた。彼は若く、将来のある人だ。彼には、もっといろんな音楽、とくに歌を聴いて、感性を磨いてもらいたい。先週、まったく同じ世代のヘルムヒェンの輝かしいピアニズム、極上のタッチ、瑞々しい感性に触れた直後だから、ちょっと辛辣になってしまったかもしれないが、今夜の演奏を聴く限り、メジャーオーケストラの定期の舞台に立つような演奏ではないと思う。がんばってね。

さて、メインのエルガー/ペインのシンフォニー。敢えて、「エルガー/ペイン」と書くのは、決してエルガーの偽物だからという意味ではなくて、逆に、エルガーのスケッチをここまでコヒアラントな作品に高めたアンソニー・ペイン氏の労に敬意を表してこう表現したい。成立の経緯がどうであれ、誰の作品であれ、この音楽は立派だと思う。

肝心の演奏だが、まずは、都響の健闘を讃えたい。おそらく、都響は初めて弾く作品だろう。たった数回のリハーサルでここまでの完成度に高めた都響の技量はさすがだとおもう。かつて自分がロンドンで勉強していた頃、若杉弘氏率いる都響がバービカンホールに来演して、ブラームスのシンフォニーを弾いたことがあった。ロンドンにあるメジャーオケと比較してもけっして引けを取らない力演に、その場に立ち会った日本人として、同席した英国の友人たちにも誇らしさを感じたのを思い出す。現時点での都響の実力はさらに格段の飛躍を経ている。いつかまた英国に客演する機会があれば、これをぶつけてほしい。ロンドンのconcert goerたちはびっくりするはずだ。リーダー(コンサートマスターとはいわず、英国風にリーダーと言ってみる)の矢部さんは、エルガーに合っている。bar.48 Largamente、ビッグメロディへのリタルダンドと溜めのある歌い回し。ちょっと大げさなリードが都響の弦楽からエルガーらしさを引き出す。

とはいうものの、エルガーが大好きな自分として、今夜の演奏には不満なところがある。ワトキンス氏は、一言でいうと、BBCプロムスのラストナイト、ユニオンジャックに埋め尽くされたロイヤルアルバートホールでいけいけどんどんの演奏。こんなにすばらしいスコアなのに、ディテールへの細やかな感性やパートの音量バランスへの配慮に欠ける大雑把さ。たとえば、アダージョ楽章bar.62 Piu Lento、いかにもエルガーらしい精妙なアラベスクのテクスチュアは全然整理されいなくて、雑然とした印象。これじゃ、今夜はじめてこの曲を聴いた人は、ここの美しさが絶対に分からない。フィナーレのbar.35 Poco Largamente、トランペットの16分音符三連符のアタックにホルン+トロンボーンが雄渾なメロディを続ける箇所、あんなに弦楽の伴奏をうるさく鳴らすと金管が聴こえない。それから、Lawrence Binyonのアーサー王への付随音楽のバンケットの場面の音楽を流用したスケルツォ(というか、性格的にはメヌエットだと思う)。あのテンポでは、忙しすぎて、精妙なアラベスクが聴こえてこない。16分音符で主旋律を彩るヴァイオリンがバタバタしてしまう。書き始めるといろいろあるが、やはり都響の合奏力が立派なだけに、指揮者にもう少しデリカシーが欲しいという印象だった。

最後に余談。アダージョの不思議な響きについて考えてみた。冒頭の3つの譜例、アダージョ冒頭(bar.1-3)、主旋律(bar.11)、経過節(bar.17-19)をご覧いただきたい。増四度+長三度の音程構造が見えてくる。冒頭は、ヴァイオリンのg-f旋律に対して、低弦がg-desと合の手を打ち、g-des-fの増四度+長三度。bar.11二〜四拍目、第二ヴァイオリン+ヴィオラがc-ges-b〜d-ais-c〜e-b-dと、増四度+長三度の構成で長二度(全音)づつ上昇する伴奏。しかも、すべての音が、cを根音とする全音音階(whole note scale, c-d-e-fis-gis-ais-c)の構成音。三番目の譜例、bar.17-18は、根音省略の属九和音がクロマティックに移動しつつ-G9に解決するカデンツァが見られる。この後、bar.22まで、全体を短三度上昇させた同じ和声進行。同様の進行がbar.32まで続いて、bar.33-38で、はじめて伝統的な機能和声らしいVI7-V7がホルンに現れ、bar.38以降の第二主題に移行する。冒頭の全音音階的な調性感のあいまいさが、bar.33-38の典型的なドミナントモーションを経て、bar.39ではっきりした和声進行が聴き取れる美しいメロディラインに移る。このコントラストが鮮烈だから、第二主題がとても美しく聴こえる。アダージョは、大きな枠組みとしては、展開部を欠くソナタ形式で、基本的な和声の枠組みはこれですべて。ペインは、このシンフォニーを補作したプロセスを回顧した著書 “The Story of the Reconstruction” で、アダージョは残されたスケッチのどれをどの順番でつなぎ合わせればcoherentな全体になるのか、それはまるでジグゾーパズルを解くようだったと述べている。自分の印象だが、三番目の譜例に見るシークエンスには、残されたマテリアルをなんとかつなぐためにペインが知恵を絞った痕跡を伺えると思う。この本はamazonでも売っているので、エルガーファンにはぜひ薦めたい。

なんだかとりとめない感想になってしまったが、総括。エルガーの作品であれ、ペインの作品であれ、この音楽は美しい。都響はがんばった。もう少し繊細な感性を持っている指揮者で聴きたい。でもこの曲をライヴで聴ける東京にいることに幸せを感じる。

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