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読売日本交響楽団 第474回定期演奏会
2008年9月10日(水)サントリーホール
指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
ヴァイオリン:アリョーナ・バーエワ
ブラームス/交響曲第3番
シマノフスキ/ヴァイオリン協奏曲第1番
ショスタコーヴィチ/交響曲第1番
シーズン再開。いきなり重量級3曲でお腹一杯になるプログラム。
まずブラームスの第3シンフォニー。第1楽章提示部はリピートあり。全楽章がほとんどインターヴァルなしに続けて演奏される。かなり遅めのテンポ。第1楽章は6/4拍子の四分音符=120くらいか。ずっしりと質感がある弦楽は期待通りだが、楽譜上のスタッカート指示をかなり忠実に守ったイントネーションで淡々と弾き進められるので、テンポが遅い割には重く引きずる印象はない。やや控えめの管楽に対して弦楽がリードするバランスで渋めの音色。ただ、いくら控えめといっても、例えばfig.Gの1番ホルンのソロ、弦のシンコペーションに支えられて陶然とした歌を期待したいところなど、ここという見せ場はもっと前に出てきてほしい。第2楽章Andanteもかなり遅いテンポ。ちょっと小粋なinterludeという雰囲気ではなくて、重厚なアダージョ。読響はマエストロのゆっくりとした足取りに付き従って、彼が意図する詳細なイントネーションを誠実に再現しようとするが、主部が戻ってくるfig.Dへの入りでアンサンブルがもたつくなど、さすがに間延びしてやや音楽の流れを欠く。第3楽章Poco Allegrettoも悠然とした歩み。中間部の美しい弦楽、主旋律が戻るfig.Fでのホルンソロの美しさが際立った。終楽章にいたって、ようやく音楽はモーメントを得る。それまでの3つの楽章がすべてこのフィナーレのための序奏であり予感であったかのようなエネルギーの充溢と高揚感。こういうスタイル、このマエストロだからこそ許されるのだろうか。
休憩後、椅子がたくさん運び込まれて、シマノフスキ。コンチェルトとしては異例の3管編成大オーケストラ。佳曲である割に演奏機会が少ない原因のひとつは、この編成の大きさか。アリョーナ・バーエワさんが深紅のドレスで登場。若くて美貌で長身、舞台映えする見事なヴィジュアル。肝心の音楽もすばらしい。fig.40からのG線上で弾かれる美しいメロディの最高音変ホ(fig.42)の音程が決まらなかったのと、fig.83フラジオレットの発音が少し不安定だったこと以外、この難曲の隅から隅まで非の打ち所のない技巧。やや線の細い音色だが、豊かな倍音で華やかな音が飛んでくる。表現主義的で濃厚な音楽だが、バーエワさんはどちらかというと薄味に淡々と弾き進める。よくいえば上品なリリシズム。もう少し濃厚な表現がほしいところもある。例えば、fig.78からのハバネラ風ダンスリズムの同音反復メロディーはもう少しねっとりと弾いてほしいと思うが、これは趣味の問題。マエストロはトゥッティの音量を抑え気味にして彼女の美音をお客さんにしっかり味わってもらおうと配慮している様子。コハンスキが書いた超絶技巧カデンツァは圧倒的。息の音さえない静寂がホールを支配する。フィニッシュのフラジオレット上行音型の幽かな残響がホールを満たす。アップボウの弓が宙を漂い、俯いてその余韻を確かめるマエストロ。大喝采。
今夜の最後はショスタコーヴィチの第1シンフォニー。第1楽章序奏fig.3のヴィオラが香ばしい音色で優美なフレージング。ソナタ主部に至るまで、stringendo -> piu mosso -> allegrettoと微妙なテンポの動きがあるが、これがピタッと決まって爽快。大きな流れとしては、ネオクラシカルでちょっとシニカルな性格の前半2楽章からドラマティックでシリアスな後半2楽章への推移と展開がすばらしい。今夜のチューバは次田さんだっただろうか、Lento楽章のモットーになっているトリプレットリズムをしっかりした芯のある音で印象づけてコントラバスに渡すところ、巧い。中間部の葬送行進曲風のテーマをオーボエから渡されたトランペット、B管とF管のオクターブユニゾンでメロディが進むに連れてtragicな雰囲気を高めていく見事な音色のグラデーション。OBになっても圧倒的な存在感のティンパニ菅原さんのソロ。読響、巧い。最初に演奏されたブラームスを聴いて、マエストロは少しお疲れなのかなと思ったが、ショスタコーヴィチでは以前と変わらない颯爽とした音楽運びで健在ぶりに安心。フィナーレでいよいよリズムは躍動し、読響は自在のヴィルティオジティを発揮する。
余談。ショスタコーヴィチ第1シンフォニーのLento楽章fig.3からのチェロはトリスタンとイゾルデの冒頭そのままじゃないだろうか。上行飛躍のピッチインタヴァルこそ微妙に違う(トリスタン:短六度<ー>ショスタコーヴィチ:長七度)が、上行飛躍ー>クロマティック下降ー>クロマティック上行は全くの相似形。同じ楽章で頻繁に現れる短二度下降+短三度上行のモティーフは、ジークフリートや神々の黄昏の印象的な場面で度々出てくる音型。例えば、黄昏序幕から1幕に推移するところの夜明けの間奏や3幕の葬送行進曲冒頭など。20世紀初頭の若手作曲家は、色々な意味でヴァーグナーの影響を受け、そこからいかにして自分自身のスタイルを見つけるかということに苦心しただろうか。例えば、ドビュッシー「牧神の午後」の冒頭和音も、いわゆる「トリスタン和声」(f-h-dis-gis)の転回形だ。
参考楽譜:
ブラームス Breitkopf & Hartels Partiturbibliothek 3640
シマノフスキ Universal Edition, Wien UE6624
ショスタコーヴィチ Edition Sikorski Taschenpartitur 2224
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