水天一碧

史実はもとにしてますが事実ではありません

08年クリスマス企画

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クリスマスまでの24日間、24人の小さな大きな願いをお聞き届けくださいませ。
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〜徳川慶喜の場合〜

 ――もしも一つだけ願いを叶えてもらえるとしたら、あなたは何を望みますか?

 「――ないな。」
 「本当ですか?よく考えてみてください。一つくらいあるでしょう?」
 「今さら何を望むというのか。戦での勝利か?地位か?それとも名誉か?」
 「欲しいものとかやりたいこととかないのですか?」
 「ないな。」
 「なぜです?」
 「欲しかったものなら手に入れた。やりたかったことならやった。そして全てを失ったが、失ったものを再び欲しいとは思わんな。」
 「たとえばあなたをここよりも安全なところに連れて行くことはできますよ?」
 「大坂から江戸へ戻ったときに、余は命を惜しんだと罵られた。さらに命を惜しむような真似をして後世の笑いものになりたくはない。」
 「ならば官軍の江戸への進行を阻むというのはどうでしょう?」
 「そんなことは頼むまでもなく、勝たちが手を打っておるだろう。」
 「では、あなたはこのまま謹慎を続けるおつもりなのですか?」
 「余は徳川宗家の家長である。朝廷が徳川家に対して罪を問うというならば、余がそれを受けなければなるまい。その結果この命を差し出すこととなろうと構いはせぬ。」
 「でも、それではあなたの家臣たちが納得しないでしょう?主をみすみす敵の手にかけさせるなど。」
 「さて、どれほどの者たちが余を主君と思っておるのやら。余は彼らを見捨てたようなものだからな。彼らが余が謹慎している今も戦おうとしているのは、余を主君と思っていないからではないのか?」
 「でも、彼らが勝手に戦を続ければあなたのお立場は悪くなるばかりでは?」
 「今以上悪い立場になることなどなかろうよ。」
 「彼らを止めたくはないのですか?」
 「止めて止まるようなら、とっくの昔に止まっている。善悪理非が問題なのではない。彼らは己の正しいと思う道を進み、そのために滅ぶことすら厭わないのだ。今までずっとそうしたかったのだ、彼らは――誰だって譲れない一線というものはあるものだ。それを止める資格は余にはない。」
 「あなたにもあるのですか、その一線は。」
 「そんなもの、とっくの昔に超えてしまった。もはや何がどうなろうと気にはならんよ。」
 「諦めていらっしゃるのですか?」
 「それは少し違うな。余は死ぬまでは生きることをやめない。どんな屈辱がこの身の上に降りかかろうとも、死が訪れるその日まで余は生き続ける。それだけのことだ。」
 「――もう一度お聞きしてもよろしいですか?」
 「なんだ?」
 「この世に何も望むことはありませんか?」
 「………………ひとつだけ。」
 「なんでしょう?」
 「徳川家が後の世まで続いていくことを。」
 「――それがあなたの望みですか?」
 「余一人の命運はどうなろうと構わない。だが、どんな罪があろうとも徳川家が三百年に及ぶ泰平の世を支えていたのは間違いない。それを大罪人として家名までも奪われるのは権現様に対してのみではなく歴代の将軍に申し訳が立たない。どんな形でも構わぬ。徳川の名が絶えることだけはあってはならない。」
 「――わかりました。」

 明治元年五月――
 「朝廷より徳川家達様を駿府七十万石に封ずるとの知らせが。」
 「七十万石か……ずいぶんと少なくなったものだ。それでは不満を持つものも多かろう。」
 「旗本や御家人たち全てを養うにはあまりにも少ない石高でございます。」
 「それでも宗家は残った……。余もようやく肩の荷が下りたような気がする。」
 「殿――」
 「幼い頃より利発よ優れた子よと大事に育てられ、長じては御三卿の一橋家へ養子になり、やがては次期将軍よとおだてられ望まぬ後継者争いに巻き込まれた。あの時はたいそう不愉快な思いをしたものだ。それゆえ宗家に対してあまりよい思いはない。そのせいだろうな、余は将軍にはなった。だが、本当の意味で徳川宗家の主にはなれなかった。」
 「そんなことは……」
 「見よ、残された女どものなんと逞しいことか。家達殿を宗家の主に立て、新しい徳川家を作ろうとしているではないか。彼女らは余のことなどもう振り向きもしない。だが、それでいいのだ。あれは余にとっては昭徳院様からの預かり物であって余のものではなかったからな。昭徳院様が継がせたいと思っていたものが継いでいくのが一番よい。」
 「慶喜様、これからどうなさいますか?」
 「どうもこうもない。生きていくだけだ。死が訪れるその日まで、何からも目を逸らすことなく何からも逃げることなく、ただ己を生きていく。それだけのことよ――」

〜孝明天皇の場合〜

 ――もし一つだけ願いを叶えてもらえるとしたら、あなたは何を望みますか?

 「静かな生活を返して欲しい。」
 「………………。」
 「もう、ペルリなんかが来なかったらこんなことにならなかったのに!朕の静かな宮中ライフを返して欲しいって感じ?」
 「えー、起こっちゃったことをなかったことにするのはできないので、ペルリさんが来ちゃったことを前提にお願いを考えてもらえますか?」
 「じゃあ、もうペルリが来ないようにしてくれ。そうだ、神風吹かせて神風!」
 「おそれながら、今はペルリではなくハリスさんが亜米利加の総領事です。ちなみに日本へやってくる外国人はハリスさんだけじゃなくてプチャーチンさんとかパークスさんとかもいるんですけど。」
 「もー、全部神風で追い返しちゃってよ!」
 「いや〜、無茶言うな〜。でも、よーく考えてくださいよ。外国の脅威がなくなるということは、幕府が京都にいろいろ気を使わなくてよくなるってことで、たぶん京都守護職なんて真っ先に会津に帰っちゃいますよ?」
 「えっ、まことか?」
 「あちらも財政的にきっつい状況での上洛ですからね。京都は大丈夫ってことになったら、そりゃあ国許にかえりたいでしょう。」
 「容保が朕の傍らからいなくなるのは嫌じゃのお……」
 「それとたぶんお食事事情も前に戻るかもしれませんよ?」
 「えっ?夕餉に焼鮭がでなくなるのかっ?!」
 「お酒も薄くなっちゃうかも。」
 「なにっ!朕の唯一の贅沢だというのにっ!それはいかん!」
 「――というわけで、神風は考え直しませんか?」
 「う〜ん。」

 「ど、どうしてこういうことになったのだろう?」
 「江戸にも長崎にも箱館にも、外国船が近づくと暴風雨が起こるのだが、どういうわけかこの摂津湾にはそれがない。おかげですべての外国船がこちらにやってくるのだ。巷では神風が吹いているという噂だ。その割にはこちらでは一向に吹かんな。主上のお膝元だというのに。」
 「冷静に言わんでください!そんなことはわかってますっ!私たちが言いたいのは、この飽和状態の京都の人口密度のことですっ!」
 「慶喜様、私は京都守護職としてやっていける自信がありません……」
 「そうですよ!今までだって尊攘倒幕派の抑え込みが大変だったってのに、最近では都の近くに異人がうろうろしてるから街の者も落ち着かない。あっちこっちで異人斬りの事件が起きる、事件を起こした浪士たちを新選組や見廻組が追いかけまわす、長州がまた出張りだす、それを抑えるために幕府からも人を出す、異人たちは大砲を撃つだのと騒ぎ出すで収集がつかなくなってますよ!」
 「物事が全部京都周辺で起こってくれるから、いっそ楽になったじゃないか。江戸と京都を行ったりきたりするのは大変だな〜って思ってたとこだし。事件は京都で起きてるんだっ――てか?」
 「ええ、ええ、そうでしょうとも。ここでは毎日が事件現場ですよ。この間うちの連中が『羅生門封鎖できませんっ!!』って叫んでおりましたっけ……」
 「肥後、しっかりせんか。残念ながらそなたの守護職罷免は『絶対』ありえんから。ほれ、主上がお呼びだ。ご機嫌をとって参れ。」
 「私の存在意義って……?」
 「そりゃあ主上のご機嫌をとることにあるんだろうが。」
 「それが本音だとしてもそこまで正直に言うことないじゃないかっ!兄上がかわいそうだ!!」
 「定敬、おまえもそんな風に思ってたのか……」
 「――あ。」

 静かな日々を望んだはずだが、より一層の混沌をもたらした当の本人は、わりとご機嫌であった。
 「京都はこんなに大変なのだ。守護職には朕の側で一層職務に励んでもらわねばな。そうそう、心細いから将軍家にもまたこちらに来てもらえぬかの。我が義弟殿にも会いたいしの♪」
 「む、無論、小職は身命を懸けて主上をお守りいたす所存でございます。しかし、将軍家はまだ和宮様と婚礼を挙げて間もない身、上様が上洛されたら宮様がさぞお心細い思いをされるかと存じますが……」
 「なら、宮も連れてくればよい。朕は義弟夫婦が同じ屋根の下に暮らしておっても構わぬぞ。」
 「いえ、問題はそこでは……」
 異人は嫌いだが、その異人の脅威のおかげでお気に入りを側に侍らすことができ、なおかつ生活のレベルも上げることができて差し引きしても結果上々。意外にも策士な孝明天皇であった。

〜井伊直弼の場合〜

 ――もし一つだけ願いを叶えてもらえるとしたら、あなたは何を望みますか?

 「とにかく部屋住みの身から脱出したい。」
 「いや〜、彦根藩三十五万石の若様のお邸とは思えない質素さですね〜。」
 「正直にド貧乏と言ってもらってかまわんぞ。ま、大名家の若様も十四男ともなると生活もこんなもんだ。」
 「障子貼りの手つきも職人並みに慣れていらっしゃって……」
 「この着物も自分で継ぎ接ぎしながらかれこれ五年着続けている。」
 「お針子さんもびっくりの腕前ですね……」
 「裏の畑では野菜も育てている。」
 「自給自足ですか。」
 「いや、それもあるがあれを売って米を買う。」
 「うわー。なんかそこらへんの下士の話聞いてるみたいだ……」
 「刀の目利きもやるぞ。金になるからな。」
 「たしか茶道とかもやってましたよね。」
 「いずれは一派を立てちゃうくらいの腕前だ。」
 「なんか一人でも生きていけそうですね……」
 「生きていくだけならな。やはり男子たるもの一家の主となって世の役に立ちたいではないか。」
 「そうですね。生きていくだけが人生じゃありませんからね。」

 「残り物には福がある、とはいいますが、ずいぶん大きなものが転がってきましたね。」
 「さすがに弟に先に養子に行かれたときには凹んだが、よもや跡継ぎがいなくなって兄上の養子に入ることになろうとは夢にも思わなかったぞ。」
 「かつては年三百俵の部屋住みが今や三十五万石の藩主ですからね。これから何をなさいますか?」
 「もちろん井伊家の人間として幕政を支えていくのが私の使命と心得ておる。」
 「では外国に対してはどうするべきとお考えでしょうか?」
 「先年ペルリが来航した時にその艦隊の偉容を見た。悔しいことだが、わが国の現状ではとても外国船を打ち払うなど不可能であろう。」
 「……殿、その、何をなさっているので?」
 「うむ。昨日足袋のつま先に穴が開いてしまったので繕っておるのだ。」
 「…………あの障子の桜は?」
 「ああ、破けてしまったところに桜の花の形に切った色紙を貼ってみたのだ。なかなか風情があろう?」
 「殿が領主になられたとき、先代様のご遺産があったはずですが、それはいかがなさいました?」
 「あれは家臣どもに分配してやった。どうも手元に余分に金がありすぎると落ち着かんのだ。」
 「どんだけ貧乏性なんですか!だからって、裏庭に畑を作って城下で売るのはどうかとおもいますが?」
 「しかたなかろう。私の作る野菜は『鉄っちゃんじるしの有機無農薬野菜』といって、それと知られた料理人からひっぱりだこなのだ。うっかりやめることなど出来ぬ。」(注:直弼の通称は鉄三郎)
 「譜代大名としての勤めも忙しくなります。そろそろそちらは控えられたほうが……」
 「伊達に部屋住み生活十五年してきたわけではないぞ。どこぞのぼんぼんじゃあるまいし、このくらいどうってことないわ。」
 「いや問題はそっちじゃなくて、体面のほうなんですが……」

 そして七年後――
 「殿、今日は水戸様はじめ一橋殿、尾張殿らが不時登城をなされたとか。」
 「ああ。これだから我がままいっぱいに育ってきた人間は嫌なのだ。自分が正しいと思ったらなんでも通ると思っている。時には我慢も必要だということを教えてやらねばならぬ。今日はせいぜいひもじい思いをさせてやったわ。」
 「ひもじい?」
 「彼奴らに出す弁当はない、と言ってやったわ。なに、一食くらい抜いたところで死ぬわけではない。わしだって若い頃はいつも腹を減らしておった。」
 「……殿のお若い頃と他の方々を較べるのはちと酷かと思いますが。」

 井伊直弼、絶対領主になるのは不可能と思われた部屋住みの立場から苦節十五年、タナボタで三十五万石の藩主となり今や天下の大老である。この苦労と努力の人は、他人の怠慢と傲慢と増上慢に絶対屈しない不屈のファイターとなって尊皇攘夷派の前に立ちはだかったのであった。

〜近藤勇の場合〜

 ――もしも一つだけ願いを叶えてもらえるとしたら、あなたは何を望みますか?

 「我が流派の名を挙げるような武功を立て、一国一城の主になりたい。」
 「城っていうとやっぱり天守閣のあるヤツですか?」
 「そう。やっぱりどーんとでっかいヤツがいいね!」
 「場所はどの辺がいいですか?」
 「できれば多摩から近いほうがいいな。故郷の人たちを呼んでやりたいからな。」
 「わかりました。ご希望に添えるようがんばります!」

 「近藤さん、大名就任おめでとう!」
 「ああ、ありがとう、歳。おめえも今日からご家老様だ。これからもよろしく城のことを取り仕切ってくれ。」
 「……まあ、あんたの頼みならきかねえこともねえが。」
 「近藤さーん、理心流御一行様がお見えですけど、どうしますぅ?」
 「総司、一応万石とはいえ大名になったんだ。俺のことは“殿”と呼べ。それから、客のほうは天守閣にでも登らせてやってくれ。あ、入り口で入場料を取るのを忘れるなよ!」
 「はぁ〜い!」
 「なあ、近藤さん……いや、殿。なんだってこんな領地をもらっちまったんだ?」
 「いや、やっぱり武州から近いほうが里帰りとかするとき何かと楽だろう?」
 「あんた、里帰りするつもりだったのか?!」
 「いや、ほらうちの実家の親戚とかも近くなら気軽に遊びに来れるし――」
 「だが、米もろくに作れねえ、領地のほとんどが山地で特産品もせいぜいが木材くらいだぜ?どうやって家臣を食わせていくんだ?」
 「だから、ほら。庶民にとって城ってのはそうそう簡単に入れる場所じゃねえだろ?こんだけ立派な城なら、ちょっとくらい銭をはたいても中に入ってみたいじゃないか。」
 「だからか!どうりで城だけはやたらに立派だと思った。じゃあ奥女中や小姓やらを雇って中身ばっかり充実させてたのは……」
 「おまえ、昔会津様のお屋敷で何に感動した?」
 「は?まあ、建物の広さや取り澄ました小姓やら奥女中やらには確かに感動したが……」
 「そう!庶民はそういったものを見たいんだよ!」
 「だからって大奥まで作るこたねえだろ?京都から妾たち呼び寄せて!ツネさんの機嫌はこっちに来てからずっと地を這うような悪さだぜ?」
 「まあまあ。あれも武家の女。そのうち慣れてくるって!」
 「――で、俺が主席家老で総司が次席家老、他の助勤たちも奉行に任命してるが、あいつらがちゃんと仕事できるか怪しいぞ?」
 「大丈夫、大丈夫。なんとかなるって!それより歳。我が藩の家訓はアレそのまま使うのか?」
 「いいじゃねえか。『局中法度』のどこが悪いってんだ?!」

 「なあ、土方さん。俺は御家人の出だからよくわからんのだが、城って金とって見せるもんなのか?」
 「聞くな、斎藤。これには俺たちの給料がかかってるんだ、文句を言わずにもぎりに戻れ。」
 「私たち、一応攘夷派なんでしたよね?」
 「開国派ではなかったな。」
 「あれ、英吉利人ですよね?」
 「日本人には見えないな。」
 「――いいんですか?」
 「通常の倍入場料とってやれ。」
 「いや、そういう問題ではなく。」
 「いいんだよ!『イサミンランド』は来るものは拒まん!勘定奉行が奴らが天守閣から出てくるまでに連中の懐から搾り取れるだけ金を搾り取ってくることになってる!」
 「勘定奉行……尾形君が中島君になんか描かせてたけど、もしかしてアレお土産だったりして……。」
 「尾形はよくやってくれてるよ。絵葉書に始まり、根付、新選組時代に使っていた佩刀の模造刀やダンダラの羽織なんかを安く仕入れて高額で売り捌いてくれている。外国人はああいうの好きだからな。」
 「大名家の勘定奉行ってこういうことやるんですか?」
 「うるさいっ!うちではそうなんだよ!」
 「で、なんで俺が寺社奉行なんですか?」
 「天の神様の言うとおり、だ!」
 「…………。」

 幕末の日本に忽然と現れた『新選藩』は、その立地の悪さにも関わらず他藩に類を見ない斬新な領地経営のおかげで、なんと明治維新後の廃藩置県まで生き延びてしまう。しかし、そこがちゃんとした藩であることを知っているのはそこに住んでいるごく一部の住人だけである。江戸の人々にとって『新選藩』は『大江戸サムライランド』という新しく出来た遊園地だと思われているし、海外からやってくるVIPたちにはサムライ気分を味わえる人気の体験型テーマパークと思われている。
 ちなみに<大名行列>は<パレード>として朝と夕方の二回行われ、一日に4回(朝2回、昼2回)現役家老や奉行たちによる真剣での稽古が<チャンバラ>というアトラクションとして披露されている。

〜中岡慎太郎の場合〜

 ――もしも一つだけ願いを叶えてもらえるとしたら、あなたは何を望みますか?

 「カリスマ仲人。」
 「は?」
 「かつて三条さんと岩倉さんを仲直りさせ、薩長同盟を成立させたりして気づいたんじゃ。」
 「何に?」
 「わしは敵対している者同士を仲直りさせるという行為に“萌え”を感じるということに!!」
 「――それは奇特な、というか大きなお世話な、というか……。」
 「友達の友達はみな友達じゃっ!!」
 「ちょっと待ってください、世界にまで広げるつもりですかっ?!」
 「最終目標はハリスと主上の仲を取り持つ!」
 「そりゃあ凄い……で、私はカリスマ仲人のために何をすればいいんでしょう?」
 「ちょっと小耳に挟んだ噂なんじゃが、ある帳面に名前を書くとぽっくり逝ってしまうっちゅうシロモノがあるという。」
 「それってデ●・ノートじゃ……って死んじゃうじゃないですか、それじゃ。」
 「いやそうじゃなくて、逆にその帳面に名前を書くと仲良くなっちゃうようなやつが欲しいんじゃ。」
 「――それってずるくないですか?しかもなんかすごく面倒なことになるような気がしますけどねえ?じゃあ、願いは叶えますけど段取りくらいは自分でやってくださいね?」

 「桂さん、今は倒幕だとか佐幕だとか言うとる時じゃない。この日本国のためにあんた方が手を携えることが大事なんじゃ!」
 「……中岡君、キミこの間私と西郷さんの時にもそんなこと言わなかったか?」
 「まあ、これがわしの基本方針じゃからな。ってことで、桂さんには新選組の土方君と仲直りをしてもらおうと思うとるんじゃ。」
 「なぜ、新選組なぞと手を組まなければならん?!西郷と手を組んだのは薩摩ならば倒幕のための武器を手に入れられるからだ。新選組の奴らと組んで長州になんの利益があるというんだ!!」
 「桂さん、そんな狭い了見ではいかんぜよ。あんたと土方君は『好敵手』と書いて『ライバル』と読む関係。会って話せば仲間よりもお互いのことがきっと分かり合えるはず!」
 「百歩譲って土方と分かり合うくらいなら会津と仲直りしたほうがマシだ!!」
 「なんだ、そっちもありだったんだ。ならそっちにすればよかった……」
 「なんの話だ、中岡君!」
 「――いやいやこっちの話で。しかし、もうここに土方君を呼んでしまったので、とりあえず会うだけでも会ってくださいよ。薩長同盟の時坂本君と一緒に走り回ったわしの顔を立てると思って。」
 「それとこれでは話が違う。あの男は私を見ればひっ捕らえるか斬り殺すことしか考えてないんだぞ、私は帰るぞ!」
 「まあまあ、ちょっと待ってくださいよ……あ、来たようですよ。」
 「こちらに土佐の中岡殿が見えていると伺ったのだが……」
 「あ、中岡はわしじゃ。そんでこちらは――」
 「貴様、桂小五郎っ――……!!」
 「ほら、言ったじゃないか――……!!」
 「二人ともどうしたんじゃ?」
 「いや、その、立ち話もなんだから、土方君、座ったらどうかね?」
 「ああ、そうだな。じゃあお言葉に甘えて――」
 「酒は……あまり飲まないのだったか。じゃあ、お茶でも。」
 「悪いな、あんたは酒でもなんでも飲んでくれ。」
 「おお〜。おそるべき効果じゃ、この『らぶ・のーと』は……」

 「なあ、歳さんどうしちまったんだ?」
 「噂じゃ長州の桂と文通してるって話なんだが。」
 「それってうち的にマズイんじゃないのか?」
 「べつに隊の機密を漏らしているとか、会津の動向を漏らしているとか、そういうことはしていないんだけど……」
 「してないからこそ怖いんだ。」
 「近藤さんが頭抱えてるよ。」
 「そりゃあ頭も抱えるだろうさ。あの歳さんの口から『桂と付き合いたい』とか言われて、向こうからも『おたくの土方君との交際を許してください、お父さん!』とか申し込みを受けたら……」
 「長州でも大混乱らしいぞ。俺、この間通りすがりの長州藩士に『うちの桂さんとの交際なんて許さんぞ!』って胸倉つかまれたぜ。」
 「なんだかな〜」

 「ああ、桂さん!あんたはどうして桂さんなんだ?!どうかその名を捨ててくれ!そうすれば俺も新選組の名を捨てよう!」
 「捨てましょう!君がこの名を気に入らないというのなら、私はもう桂小五郎とう名前ではなくただの一介の素浪人、なんとでも好きなように呼んでくれたまえ!」
 「あんたなんだって屯所の塀の上なんかに!隊士たちに見られたら長州人だってことで殺されてしまうじゃないか!」
 「彼らの刀よりも君の三白眼の方が私には恐ろしい。もし君が見守ってくれるなら彼らの敵意など関係ない。憎しみで殺されるほうが君の愛なしで生きながらえるよりよっぽどマシだ!」
 「桂さん!」
 「土方君っ!」

 「…………お望みどおり殺しちゃっていいですかね?」
 「よせよ、総司。俺はあんなのに関わりたくないよ。」
 「真昼間の屯所であんな大声で叫びあってるなんて普通じゃないですよ。」
 「あ、長州の桂回収部隊が駆けつけてきたぞ。」
 「桂さ〜ん、何してるんですかそんなとこで!!高杉さんがキレちゃってるじゃないですか!!」
 「だまれ!私と土方君との愛を邪魔するんじゃないっ!!」
 「桂さんっ!」
 「歳っ、おまえもいいかげんこっ恥ずかしいからやめんかっ!!」

 「…………中岡。おんし何をしよった?」
 「すまんが話はあとにしてくれんか。今大事な取説を読んどる最中じゃき。――しもうたな。ただ名前だけ書くと『一目会ったその日から恋の花が咲いて』しまうんじゃったか。いちいち細かいシチュエーションを設定してやらんと望んだような効果が得られんのじゃな、これは。仇同士じゃとどうやっても『ろみじゅり』パターンになってしまうのか。困ったのう……」
 「おんしホントに何がしたいんじゃ?」
 「坂本君、あんた仲直りしたいけどなかなかできないでいる人っていないか?」
 「いや、遠慮しておく。」
 「まだ何も言うとらんじゃろうが。」
 「アレを見ればなんとなくわかる。」
 「おんしは武力倒幕は避けたいんじゃろ?わしと一緒に日本国のために働こうじゃないか!」
 「だから、その帳面はなんなんだ?!そんな爽やかな笑顔で言ってもわしはごまかされんからな!!」

 中岡慎太郎、薩長同盟締結の際には坂本竜馬よりも働いた幕末一笑顔が爽やかな超熱い男である。生きていたなら坂本竜馬は政商になったかもしれないが、中岡慎太郎は新政府の重鎮になれただろうと言われていた人物でもあった。

 「次は西郷さんと島津三郎殿を仲直りさせてみるか!」
 「やめい、慎太郎!!日本が混乱するわ!」

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