神谷光信

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世界美化の思想(6)

前回も述べたとおり、虚構という装置を用いて、世界の真実を開示するのが芸術であるという渡辺二郎先生の存在論美学と、世界の真実を凝縮して強化的に再現するもの、世界の本質をミーメーシスするのが芸術であるという青山昌文先生のミーメーシス美学は、カント以後の近代主観主義美学の対極にあるという点で共通しています。

しかし、世界の真実とはなんでしょうか。世界の本質とは何でしょうか。真実という言葉は、真理という言葉よりは穏やかですが、取扱い注意の言葉であることは確かです。以前、真理という言葉は、括弧にくくらずに用いることは今日ではできないと、知人から言われたことがあります。大文字の真理というものはない。あるのかもしれないが、ないかもしれない、というわけです。

これには一理あって、預言者のように、箴言や警句のような語り口で「真理」を語る人がいますが、彼らを私も信用しません。非常に優秀な、そして人格者でもある批評家が、初期の清新さを喪失し、次第に独善に陥っていくようすを見ることは、残念なことですが、よくあることです。

以下は青山先生の受け売りです。富士山を描くさまざまな画家が、さまざまな富士山を描くとき、そこには作家のオリジナリティーが表現されている。芸術家の自己表現があるというというのが、近代主観主義美学の見解です。これをミーメーシス美学から見たらどう説明されるのでしょうか。

どの作家のどの富士山も、富士山の本質の強化的再現、すなわちミーメーシスである。にもかかわらず、それぞれの画家の富士山が大きく異なるのは、画家が人間であり、神ではないからである。つまり、真実(真理)をすべて明らかにすることは、人間にはできない。芸術作品を通して、一部を示すことができるだけだからである、ということになります。世界の本質を強化的に提示するために、芸術家は自分という歴史的に限界づけられた個を通して表現するしかない。作品に、いわゆる作家の個性が表れるのは当然ということになります。

藤田一美先生は、ポエーシスとミーメーシスについて語るなかで、厳密に言えば、ポエーシスは神にしかできず、人間が行う創造は、すべてミーメーシスにならざるを得ないと指摘しています。傾聴すべき見解といえましょう。

さて、大文字の真理、普遍的な真理は、果たして存在しないのでしょうか。すべての真理は相対的なものなのでしょうか。それとも、実際には存在するのに、あたかも存在しないように見えるということなのでしょうか。

世界美化の思想(5)

美が、単に感性的な快でないことは、現代芸術を考えてみればわかります。美の追求であるはずの芸術作品のなかでも、とりわけ現代芸術は、感性的には、いわゆる美しいものばかりであるとは限らないからです。むしろ、不快を催させるもの、醜悪なものがあります。

これはいったいどういうことなのでしょうか。芸術作品を、作家の自己表現であると、われわれは考えています。一体全体、この作家は何を表現しようとしたのだろうと、われわれは首を傾げます。オリジナリティーを追求した結果、それまでの芸術家たちがやったことのないことをやろうとしてこうなったのかなと考えたりします。

芸術が自己表現であるというわれわれの常識は、しかしカント以後の美学なのであって、ほかの考え方もあることを、私も長い間知りませんでした。自己表現という言葉と対置するために、青山昌文先生は、世界表現という言い方をしています。青山先生の学問上の立場は、西洋古典主義美学、ミーメーシス美学です。

これは、芸術作品は、作家の内面の自己表現ではなく、世界の真実の圧縮された強化的表現であるという考え方です。この反近代主観主義美学は、ハイデッガー研究者である渡辺二郎先生の存在論美学とほぼ同じです。藤田一美先生のお考えも、こちらに近いように私には見えます。また、芸術人類学者の中島智さんの芸術観も、同類に見えます。

さて、そのような美学上の立場から見ると、一見すると不快を感じさせるような現代芸術も、われわれの文脈に置いて考えると、世界戦場化の時代の真実を、凝縮して表現したものとして理解することができます。そして真善美は切り離すことができないものなのでした。

青山先生が主に視覚芸術を扱うのに対して、渡辺先生は文学作品について論じています。渡辺先生は、小説のような虚構とは、世界の真実を表現するための装置であり、作品から真実が放射されることを美と考えています。ここでは真と美とが区別されているように見えますが、カント以後の捉え方から、おそらくそうしているのです。

私はこの存在論美学について、理解するのにずいぶん長い時間がかかりました。抒情詩のような文芸は、自己の内面の表現と思われてならなかったからです。世界表現としての芸術もある、しかし、世界表現でありながら、自己表現でもあるような芸術もあるのではないかと。

しかし、自己表現であり世界表現ということは理論上あり得ません。どちらかなのです。抒情詩における作者、語り手、私、は、固有名を持つ歴史的存在である誰それではないというのが、存在論美学の立場からする回答です。私は、地上に存在する、歴史的一回性を持つ、この私ではないということなのです。

世界美化の思想(4)

世界を美化するとは、しかし、いったいどういうことなのでしょうか。窓辺に花を飾ることも、美服をまとって外出することも、料理を盛り付けることも、世界を美化することということができそうです。

とはいえ、人を惑わせるような美もありますし、悪魔的な美というものもあります。人を転落させるような美もあります。そのように考えると、世界を美しくすることはいいことだと、単純素朴にいうことはできないように思われます。

真・善・美という言葉があります。ずいぶん昔のことですが、美がわからなくとも、真と善さえわかれば、人は社会で立派に生きていくことができるという言葉を聞いたことがありました。真と善は社会において必須の価値であるが、美はそうではないということです。極端なことを言えば、真と善がわからなければ非難されるが、美がわからなくても非難されることはないということです。

この話には一理あると考えた私は、ある知人にこの話をしたことがありました。その人はしばらく考えていましたが、いや、神谷さん、美がわからなくては、真も善もわからないと思いますよ、と言いました。この言葉にも一理あると私は思ったのです。

真・善・美という考え方は、カント以後の捉え方であって、そもそも真善美は分割することができないものであるという考え方があることを、その後、私は知りました。

美が真や善と区別することができないものであるならば、世界を美化するということは、真や善を実現することと同義ということになります。世界美化の思想は、単に感性的な美を追求するということではなく、真や善を追求するものであると捉えるべきなのではないでしょうか。

世界美化の思想(3)

20世紀末以降を、今道友信先生は、世界戦場化の時代と捉えていました。かつて、戦場は、敵対する国の兵士たちが戦いあう空間であって、そのほとんどは、市井の人々が暮らす生活圏とは遠い場所にあって、両者は基本的には切り離されていた。しかし、現在では、爆弾テロなどが世界中の都市でいつ起きるかわからない時代になっている。こうした状況を「世界戦場化の時代」と呼んだのです。

先生が提唱した「世界美化の思想」、すなわち実践美学は、この「世界戦場化の時代」という認識とおそらく無関係ではないと私は思います。いつどこが戦場になるかわからない時代にあって、われわれ一人ひとりが世界を美化するために、日々、ささやかな行為を重ねる。子供から大人までが、それこそ世界中で。そこに、暮らしの足元から世界を変容させるための、大きな可能性を見ていたと思うのです。

世界美化の思想(2)

世界美化の思想、すなわち実践美学という概念が、現在のところ、言論の世界でほとんど市民権を得ていない状況は、インターネット上で、この言葉を検索してみればよくわかります。概念としてではなく、実践女子大学の美学講座しか出てこないからです。

形而上学者として出発した今道友信先生が、最終的にたどり着いたのが実践の学、行為の学であったことには、さまざまな思索に誘うものがあります。美学の理論的探求は、西洋哲学の訓練を受けた、職業的な学者の仕事なわけですが、実践美学は、地上に生きるすべての人々にゆだねられた仕事だといえるからです。職業も年齢も性別も、そこでは一切関係がない。

私が考えるところでは、実践美学は、世直しのスローガンにもならないし、組織的な運動体の理論的支柱になることも、おそらくはないでしょう。せいぜいが、この概念を知ることによって、人々の緩やかなアラインメントを準備するだけです。マニュアル化も、もちろんできない。

個々人が己の信ずるところに従って、それぞれの場所、それぞれの人生のなかで密かに実践するものであるにとどまる。その意味で、きわめて特異なものであると私は思います。


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