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自分自身の人生を作品化する、という言葉を、今道先生は本の中で書いたことがあります。この言葉に私は強い印象を受けたのでした。
自分の人生の作品化とは、どういうことでしょうか。芸術化と言い換えてもいいのではないでしょうか。なぜなら、誰でも自分の人生を美しい作品にしたいと思うに違いないからです。そして、美しい作品とは芸術にほかならないからです。
人生は、自分で支配することができません。人間的な努力だけで人生が思うようになるものでないことは、誰でも知っています。何かそこには運命的なものが関与しています。人生は謎めいています。芸術のように!
芸術が、作家の自己表現ではないように、人生という作品もまた、もしかすると、「私」の自己表現ではないのかもしれません。
トーマス・マンが、「ヨゼフとその兄弟たち」などを通して、われわれ個人が、つまり、一人一人の誰でもが、先人たち、すなわち死者たち、祖先たちの生の軌跡を辿っていくと語ったのは、含蓄のあることです。
私たちは、物語の中の誰かに良く似ています。絵画の中に、私たちは自分を発見することもあります。崇高な愛の悲劇が世俗化した姿を、私たちは新聞の三面記事に見出します。
人生の作品化と、社会の芸術化とは、どういう関係にあるのでしょうか。人間的努力だけで、社会は芸術化することができるのでしょうか。
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