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月明かりに照らされる公園の池のほとりで
私たちは出会った
薄暗くなった公園では
もう絵は売れない
あの向こうからやってくる仕事帰りのOLさんが私の前を素通りしたら
今日はもう終わりにしようと決める
案の定 私の存在をまったく無視してハイヒールの足がカツカツと通り過ぎたので
地面に広げた葉っぱのついたポストカードをさっさと片付けて
ゆっくりと立ち上がる
一日中 座っていたので腰が痛い
売り上げを入れたポシェットには4500円ほど
平日にしては売れた方だ
春が近いと言っても
夜の公園はまだ寒い
今夜は何か暖かいものが食べたいなーおなかがすいたな
そんなことを思いながら
キャリーの中に 土の湿気がついたビニールシートと
折りたたみの椅子をいつも通りギューギュー詰め込んでいると
どこからともなく
太鼓のリズムが聞こえてきた
太陽が沈んだ
薄い紫色に包まれた公園に響き渡る
ドゥンドゥン カ!! ドゥンドゥン カ!!というジャンベの鼓動
その鼓動がどんどん近づいてきて
チャックの閉まらないキャリーに必死になってる私の前でぴたりと止まった
上半身裸のもじゃもじゃ頭の日本人ではないアジア系の男が
ジャンベを肩からぶら下げて仁王様のように立っていた
「ハーイ 元気ー??僕はネパール人の○○。今からそこでみんなでジャムするから
キミも来てねー!!」
ダブルピースをかましながら彼はぴかぴかの笑顔でそう言い放つと
またジャンベを叩きながら池のほとりへと消えていった
「あ、ありがとー」
のりのいいネパール人の笑顔とジャンベのパワーに圧倒されながら
私はしばし呆然とし
吹き荒れる春一番の風に我に還ると
キャリーに馬乗りになって無理やりチャックを閉めた
月明かりに照らされた夜の公園が
なんだか急に寂しく思えて 早く帰ろうと急ぎ足になる
彼の消えていった池のほとりの前は丁度帰る方向だったので
何をしてるのかだけちょっとのぞいて見ようと
ゴロゴロとキャリーを引きながら歩きだした
風に乗って耳に届く音は
ネパール人の叩くジャンベに加え
気がつけば笛にギターにパチカにディジュにと
さまざまな音が重なって
素敵な音楽に変わっていて
そんな素敵な音楽に釣られるかの様に
私は池のほとりのその茂みの中に
草むらを掻き分け
足を踏み入れていた
のぞくだけのはずだったのに
「来たネ〜!!おいでおいで。じゃあキミはこれね」
私を見つけたさっきのやたらと元気なネパール人が
彼の目の前に転がっていたおもちゃの鉄琴のような楽器を私に渡してきた
私はそれを受け取ると
大事な売りものの入ったキャリーをほったらかしにして
その音楽の渦に巻き込まれていった
その音のカオスは
さっきまでの寂しいはずだった夜の公園を
宝の地図を拾ったかのようなワクワクさせる夜へと変えていった
鉄琴を自分なりに音に合わせ叩きながらあたりを見回すと
不思議な人種が集まっていることに気がついた
ここは確かに日本なのだけど
日本ではないどこか違う国なのではないかという錯覚に襲われるような
そんな人たち
日本人だなってわかる人は3人
あとの四人はみんな日本人ではなかった
私はこのとき初めて
夜の公園の池のほとりが
こんなにも美しかったのだということに気がついた
彼らの生み出す即興の音楽と
静かな池の揺れる模様と
もうすぐ満月であろう月明かりが妙にマッチして
二本で焚かれたインドのお香がこの夜に絡み付いて
どこまでも深く私を連れて行こうとするのを
流れるままに
受け入れてる自分がいた
「What your name?」
隣にいた 体格のいい長いカールした栗色の髪の外国人の女の子が
私の手を取り声を掛けてきた
「I’m kamyu and you?」
すると彼女はとても優しい笑顔を浮かべて単調な日本語で話し出した
「ワタシは○○。ハジメテね。カミュ?めずらしい名前ダネ。日本人?
ワタシはカナダからキタよ。でもオトウサンとオカアサンはインド人ヨ」
彼女は月明かりを自分の瞳に集めてることに
気がついてるのだろうか
いやきっとそのことに 彼女自身は気がついていないんだろうな
彼女の中に流れるインドの血
彼女の眉毛の間ににビンディを付けたら
とっても似合うだろうなーと想像する
「カミュってのはニックネームだよ。よろしくね。いつもここにいるの?」
「ハイ。いつもココニ集まるヨ。あーあたしアナタ見たことがアル。
いつもあそこで 絵を売ってるデショ?」
「そうそう。あの木の下辺りでね。最近天気がいいときに来てるの」
そのとき私も彼女を見たことがあるかもと思ったけど
なんとなーくのことだったので口にはしなかった
「彼 ワタシのコイビト。」
彼女の指差す方向に
ジャンベを叩くさっきのネパール人の男の背中があった
かわいらしいカップルだなって素直に思った
「そうなんだね。あとの人は?」
「みんなちかくのゲストハウスに住んでるフレンズダヨ」
今夜だけ
彼らの音のカオスにお邪魔しよう
そんな気持ちで茂みの中に入っていったのに
この夜の
彼らとの出会いが
砂漠でオアシスを見つけてしまったような
解けない魔法にかけられてしまったような
そんな大きな出会いになってしまうなんて
Inokashira rainbow traive。。。
ワタシの今じゃ懐かしい思い出の場所
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