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古代ローマ時代の碑文は断片で見つかることが多い。そうした断片を、独自の知識と経験によって、現代人に解読可能なものとして「再生」していくのは碑文学者の専門領域である。 そうした、我々にとっては「スーパーマン!」のような碑文学者の一人にイタリアのミラノ大学教授のアントニオ・サルトーリ氏がいる。サルトーリ氏と日本の古代ローマ史学界との結び付きは相応に深いものがあり、現在、日本における古代ローマ史学界で活躍している研究者の中にも、日本国内(サルトーリ氏の来日時にて。)もしくはミラノ大学へ留学し、一度は、サルトーリ氏の碑文学の講義を受けた者や師事した者も少なからず存在している。 そのサルトーリ氏の「碑文学」に関するテキストを利用して、ブログ管理者が所属する大学院のゼミでも「碑文学」の授業を恩師より受けたのだが、その事例を今回、紹介してみよう! 尚、テキストに用いられている「碑文に関する写真」は著作権の関係で公表できないので、文字テキストのみになる点、ご了承頂けると幸いである。 (*「碑文訳」はサルトーリ氏のイタリア語訳を参照した。また、【解説】は、サルトーリの解説をブログ管理者が邦訳化したものである。) A.0.9.11022 botticino製(大理石の種類:Bresia県のBotticinoで取れる。)で、おそらくは祭壇から切り離され、19世紀までS. Maria di Fulcorina教会で再利用されていた額面(現在は84 x 46 x 12 cm)。 紀元後1世紀の碑文。 【碑文テキスト】 [-] Atilius Li[---?] [-] f(ilius) Exoratus [---] [(sex)]vir iun(ior) decur(io) [---] sibi et [---]ae Vrsae uxor(i) [---] optimae [et] Venustae L(uci) l(ibertae) et Ca[---] Chresimo Campano [---] [..]men(o) et omn(ibus) libertis [libertbus(que)?] Rufinae lib(ertae)[---] 【碑文(訳)】 [-] アティリウス・リ[---?] / [-](の)息子・エクソラトゥス [---] / 自由人による6人委員(*sexvir iunior [1] )にして都市参事会員 [---]が / 自分の為に、そして / [---]ア・ウルサ 妻 [---] / 最良なる者の為に / (そして)ウェヌスタ・ルキウスの被解放自由人の為に、そして / カ[---] の為に / クレシムス・カムパヌス [---(被解放自由人?)の為に、そして] / [. .]メヌスに、そして、全ての被解放自由人(男子)及び / [被解放自由人(女)?]の為に / ルフィナ・被解放自由人の為に [---](石碑を設置した。) (邦訳者注:[1]尚、sexvir seniorとなる場合は、「被解放自由人からなる6人委員」であることを示す。 【解説(訳)】
おそらくは…Atilius Exoratus…息子なる、ある主要な人物についての碑文であるが、Liと言う文字の解読が不確かなままとなっている。:ただ、(Liの)置かれている位置や欠落部分があまりに短すぎることを考えると、別の氏族名である可能性はないだろうし、また、石碑からEと言う文字を見出すことが出来ない為、Lem(onia)と言う選挙区の部族単位を示したものであると言う可能性もないだろう。 彼(Atilius)は自分の一族全員の為に墓碑を用意したが、その中では、親族の名前及び非常に親密な関係にある被解放自由人の名前を示す一方、他の集団に所属する者達をも含んでいる。彼は都市の名士であった。始めに権力の中枢を支える6人委員となり、その後、公的生活を管理する特権的な集団である都市参事会員の中に受け入れられていった。従って、彼が確かな財力基盤を有し、彼の資質に関する都市参事会のメンバーによる厳しい調査を通過していったことは間違いないであろう。 (解説:A・サルトーリ、訳:ブログ管理者。) 【コメント】(ブログ管理者による。) 「碑文」を用いて「歴史」を構築していく際、碑文学者と歴史学者との間には絶妙な信頼関係が必要である。碑文学者が、「碑文」に「生命」を吹き込むのだとすれば、歴史学者はその「生命」ある「碑文」の「声」に耳を傾ける必要がある。 A.0.9.11022の碑文に対するサルトーリ氏による【解説】を見ても分かるように、碑文学者は、「碑文製作の解釈」、「碑文表現の解釈」を行っている。−これは、歴史学者にとって、重要な情報となる。一方、歴史学者は、その「碑文」「歴史的意味の解読」を行う必要がある。碑文学者が碑文の「内容」を解読するのであれば、歴史学者はその「碑文」の「意味」を究明するのだとも言える。 追記 アントニオ・サルトーリ氏の日本語で読むことの出来る論文として、一点挙げておく。 ・アントニオ・サルトーリ、小林雅夫(共同執筆)「ローマの医師と碑文:実態とその表現」 (『早大文研紀要(第4分冊)』45、2000年、33−44頁。) 特に、39−44頁がサルトーリ氏の論文となっているが、古代ローマ時代の「医師」に関する「碑文」を碑文学者が如何なる視点で解読しているのかが端的に示されていて興味深い。
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古代ローマの碑文
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