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2年目からは知客(しか)という役職にもついていた。賓客の接待係りである。特に外国のお客様の担当は亨に任せられた。商社での海外経験が役に立ち、解り易い説明と落ち着いた応対は評判が良かった。又、雲水入門者への説明も知客の役目である。
生まれ変わった様な清清しい心境で、3年間お世話になった永平寺の山門を後にする。福井空港までのバス、窓から見える町並み、行き交う人々、皆新鮮に美しく見える。
空港には利子が迎えに来ていた。3年ぶりの再会である。利子はすっかり痩身になった亨に驚いた。「お帰りなさい。」と言った利子に亨は「ただいま、帰りました。」と自然に手を合わせて頭を下げる。
東京のマンションに戻ると、懐かしい人から留守番電話が入っていた。E元社長である。E元社長はガンのため、2度目の入院をしていた。あちこちに転移しており、余命半年と言われていた。亨に話をしたいことがあり、是非会いに来て欲しいというのであった。
病院で会ったE元社長は余命半年とは思えぬほど、顔色が良かった。
「良く来て呉れた、嬉しいよ。実はな、君は私を超える大社長になると思っていた。ところが、君は4年前に突然辞めると言った。私はショックだった。しかし、君の一言で私も考え直した。仕事の外にも世界があると気付いたのだ。その後、私は社長を退いて相談役になった。」
「そして君が雲水修行を始めたと聞いて、1本取られたと思った。私も仏教の勉強を始めた。良寛の魅力に嵌まった君の気持ちが良く解った。私も何度も良寛の足跡を訪ねて新潟へ行ったり、永平寺にも行ったりしたんだ。」
「雲水の真似は私には出来ない。君はかつては私の愛する部下だったが、今は私の尊敬する心の友だと思っている。」E元社長は軽く頭を下げた。「勿体無い。私は昔と少しも変わっていませんよ。」「実は君に是非お願いしたいことがあるんだ。」「私に出来ることでしょうか。」
「私は君も知ってる通り、仕事人間だった。君の協力も大きかったが、それなりに実績を揚げて来た。財産も築いた。今、それを整理している。家族には保険もあるし、それなりに分配が出来た。」
「私は親の教えで節の一文字を貫いて来たのだ。贅沢をする気は無かった。入社以来コツコツと続けて来た持ち株会で貯めた自社株があるのだ。これを何かに役立ててくれないか。条件は付けない、君に任せたいんだ。引き受けてくれないか。」
「それは大役ですね。いったいどの位の額なんですか。」「仕事人間が50年かかって貯めた結晶だ。ざっと10億円位かな。」「えっ」亨は絶句した。
E元社長は嬉しそうに笑った。「ハハハハ、少しは驚いたか。これで4年前の借りを返せる。1本取り返すことが出来たよ。思い残すことがなくなる。吾が人生に悔いは無しだ。」
*** *** 上卦は水。
******** 問題、悩み、苦労を表す。
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*** *** 下卦は沢。
******** 悦ぶ、楽しむを現す。
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「水沢節」の卦。節度を守ることである。個人の健康から、対人関係、政治も経済も節があってこそ、順調に行われる。しかし、節に固執するのは良くない。
無理をしない。無駄をしない。そんな節度を守るだけで、一生の間には偉大なことが出来るものである。
そんな、簡単なことが出来ないのも人間なのである。
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