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I子が家出をしたという。ストリートライブをしている青年のアパートに転がり込んで同棲を始めた。何と言っても帰ろうとしないという。
I子の家は開業医。両親は3つ上の兄とともにI子にも医学部への進学を望んでいた。しかしI子は高校時代は勉強よりも演劇部に夢中になっていた。いつも娘と母との間で言い争いが続いていた。
「I子は中学の時から『貞ちゃんのママは素敵、貞ちゃんのママを尊敬する』と言ってました。私の言うことは聞かなくても利子さんの話なら聞いてくれる筈だから、一緒に行ってください。」としきりに懇願する。
二人で青年のアパートに行く。ところが母親が何と言ってもドアを開けない。そこで、利子は「お母さんは先に帰って下さい。私が話をしてみます。」と言って母親を帰らせた。
母親が帰ったと知り、I子はドアを開ける。「I子さん、困ったわね。どうするつもりなの。」「私は絶対、家には帰りません。」
「ここでは話が出来ないから、何処かへ行きましょう。」I子を連れてタクシーに乗りシティホテルに着くと部屋を取った。「ここなら誰も居ないから、ゆっくり話が出来るわね。」
しばらくするとI子は話し始めた。話し出すと止まらない。泣きながら、怒りながら、激しく、興奮しながら話し続ける。「ママは私が小さい頃からダメダメダメダメそればかり言っていた。何をしてもダメ、何を言ってもダメ、いつもお兄ちゃん、お兄ちゃん、と言ってお兄ちゃんばかり可愛がって、私なんか可愛がってもらったことがない。」
「高校の演劇部だって、ママは大反対。ダメダメってそればかり。私には生まれて初めて見つけた生きがいなのに、何を言っても認めてくれないのよ。」
利子は何も口を挟まない。ひたすら聞いていた。結局、母親の無理解に耐え切れず、好きな道を行く青年に共感し、救いを求めたのだろう。
延々とI子は喋り続けた。さすがに6時間も喋り続けて涙も声も枯れ果て、精も根も尽きた頃、「I子さん、お腹が空いたでしょう、一緒に何か食べようか。」と言ってレストランに行きハンバーグ・ライスを食べた。
ようやくI子に笑顔が見えた。利子は「貴方はもう大人よ。私は貴方にどうしろとは言わないわ。一つ言うとすれば、自分を大切にしなさいということ。後は自分で考えてね。」
1週間後、I子の母親が手に大きな菓子折りを持って利子を訪ねて来た。「何とお礼を言ったらいいか、I子が戻って来ました。私も今回のことですっかり反省させられたわ。これからはもっと仲良くやって行きます。」
*** *** 上卦は雷。
*** *** 活動、行動を表す。
******** 人に配当すると長男。
*** *** 下卦は沢。
******** 喜ぶ、楽しむを表す。
******** 人に配当すると少女。
「雷沢帰妹(きまい)」の卦。帰妹は若い女が道ならぬ恋に走る象である。
易では女が男に嫁ぐ道として、前項の順序正しく進む「風山漸」を吉、この卦を凶とする。
何かに走るというのは、何かから逃れるということもある。
結婚に限らず、逃れた先に幸運が待っていることは無い。
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ある夫婦の物語
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これは易の下経34卦を1卦づつドラマにしたものです。
易の順番には大きな意味と教訓がありますので、連続ドラマに仕立てようと試みました。
しかし作ってみると、力不足で容易ではありませんでした。
無理やり繋げた面もあり、易の解説も稚拙なものです。
それでも一組の夫婦が大きな試練の世の中を懸命に生き抜き、「悔いのない人生」にしようと頑張る姿を感じていただけましたら、幸いです。(猶興)
易の順番には大きな意味と教訓がありますので、連続ドラマに仕立てようと試みました。
しかし作ってみると、力不足で容易ではありませんでした。
無理やり繋げた面もあり、易の解説も稚拙なものです。
それでも一組の夫婦が大きな試練の世の中を懸命に生き抜き、「悔いのない人生」にしようと頑張る姿を感じていただけましたら、幸いです。(猶興)
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半年前に越してきた階下に住む小1のK君だった。(貞が遭うと声をかけていた。)泣きながら「お父さんがお酒を飲んで暴れている。」という。
利子はしばらく預かることにして、一時間ほど経った頃、「お父さんもお母さんも心配してるから。」と言って家族のもとへ連れて行った。「心配していました。申し訳ありませんでした。」出てきた母親はしきりに謝る。
翌日、K君を連れて両親が再び挨拶に来た。「どうぞ、上がって下さい。」と中に招じ入れ話を聞く。亨も利子も驚いたのは、K君の二つ上の娘が2年前に小児ガンで亡くなったという。
そのショックは大きく、今だに立ち直れないという。銀行員の父親は精神科に通うも、時々蘇えってくる強い悲しみを抑えられず、酒を飲んでは周囲にあたってしまうというのだ。
利子も10年前に、最愛の息子を事故で亡くした体験を語る。ショックから立ち直るためにイギリスに行ったことを話した。「少しづつ立ち直ったのよ。だから貴方たちもきっと元気になれるからね。」
貞はK君に自分で描いた絵本を見せてやると、K君は目を輝かして喜んだ。兄を亡くした貞と姉を亡くしたK君は不思議に気が合い、それ以来姉弟のように仲良くなった。
利子の提案で、夏休みに二家族でキャンプに行った。楽しいキャンプとなり貞が高2の夏まで毎年の恒例行事となる。
「このマンションに越して良かった。」そう言うK君の両親は少しづつ明るさを取り戻した。そして泣き虫だったK君は、やがて甲子園を目指す野球少年として活躍していた。
******** 上卦は風。
******** 五行では木を表す。
*** ***
******** 下卦は山。
*** *** 動かぬものを表す。
*** ***
「風山漸」の卦。漸は序々に進むこと。着実に順を追って成長すること。
山の上にある木が少しづつ成長している象である。何事も順序正しく進むならば吉である。
子供は少しづつ着実に成長して行くのが望ましい。
一度つまずいたとしたら、少しづつ立ち直れば良いのだ。
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横浜での出来事のあと、利子は平静を装っていたが内心では平常では居られない。
家族には酔ってしまったので、ホテルで休んでいたということにした。
しかし、日を追って心は動揺する。
(いったいピエルはどういう人?どういう心算なの?何か連絡してくるのかしら?あの時彼は私に催眠術でもかけたのかしら?ただ遊ばれただけ?)次から次と疑問が沸いては消えた。
ひと月ほど経った頃、外務省のキャリア・A子さんと食事を共にする。その時「利子に言って置くけど、スペイン人の外交官にピエルという人がいるけど、気を付けなさいね。」
「その人、歳は40歳位、ゴルフもテニスもプロ並みで、何でも知ってる博学なの。日本語ペラペラ、他に10ヶ国語をこなし、ダンスもマジックも出来て、しかも長身で甘いマスク。とにかく女なら誰でもうっとりするような美男なのよ。」
利子は耳を澄ませた。「ところがそのピエルが女の敵なのよ。」「敵って?」「SEXハンターよ。狙った女は百発百中。それが、若い女より、40代のバリバリに働く女が好みだって。」
「そして、叶姉妹みたいなナイスボディでもバカな女には興味がなくて、医師とか弁護士、大学教授みたいな知的な女が狙いらしい。誰でも知ってる女子アナもいるし、なんと検事もいるみたい。」
「誰も問題にしないの?」「出来ないのよ。恥をかくだけでしょ。レイプされた訳じゃなし、しかも外交官には治外法権もあるからね。」
「関係は1回だけ。2回は絶対しないそうよ。でも、敵は目的を果たせば終わりだろうけど、女はそこから始まるってこともあるから、許せないよね。」
「A子、随分怒っているけど、もしかして、貴方、被害者?」「・・・・恥ずかしいけど、そうなの。ゴルフの帰りに高級料亭に誘われて、マジックなんか見せられて、つい乗せられちゃった。悔しくて、腹が煮え繰り返ってるわ。」
利子は(まさか!)と思ったが、(実は)とは言えずに、「忘れちゃいなよ。私も気をつけるわ。」と言って別れた。
それから、わずか1週間後。利子は成田空港で偶然ピエルと再会した。ピエルは笑顔で近づき挨拶して立ち去ろうとした。
「ピエル、挨拶はそれだけ!これはあの時のお礼よ!」利子は思いっきりピエルの頬を平手打ちした。
驚くピエルに背を向けて、利子は歩き出す。
(私には守るべき家族がある。)凛とした後姿に自信が溢れていた。
******** 上卦は山。
*** ***
*** ***
******** 下卦も山。
*** *** 山は動かないものを表す。
*** *** 自分をしっかり守ること。
「艮為山」の卦。艮(ごん)は泰然として動かぬ山。前項の「震」は動いてやまぬ雷であったが、山は動かないことを表す。沈思黙考して、軽挙妄動を慎むこと。
信じるもの、守るべきものをしっかりと持つことである。
たとえ一時的に揺らぐことがあっても、慌てなくて済むだろう。
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その日は横浜の国際会議場で開かれた、スペインのノーベル賞学者・M博士の講演会が無事終了。控え室に戻ったM博士を嘗ての教え子である外交官・ピエルが訪ねて来た。
ピエルの案内で食事をし、「横浜の素敵な夜景を楽しみましょう。」と3人でランドマークタワー最上階のラウンジへ。ところが、「明日の準備が気になるのでお先に失礼する。」とM博士が去って行った。
眼下に横浜港、ベイ・ブリッジ、東京湾を見降ろす夜景は美しい。カクテルを片手に、ピエルの会話と身のこなしはソフトで心を軽くさせた。
「僕が外交官になる前に、成りたかった職業、解りますか?」「そうね、映画俳優かしら。」「残念、実はマジシャンです。」
利子がじっと見つめるテーブルの上で、コインを右手から左手、グラスの下から、そして消えたコインがいつの間にか利子の手のひらに乗っていたりと不思議な妙技を披露した。利子は神秘的な気分になる。
生バンドのステージの前、小さなフロアでダンスをする。長身でスタイルも良い二人のダンスは絵になった。ピエルのリードは優しく包むようで、一人で踊っているように軽く自由である。
利子はカクテルにも酔ったが、ダンスに酔った。素敵な生演奏に酔った。そしてピエルが耳元でささやく魔法の言葉に酔った。
いつの間にかフロアの隅で若い恋人のようにキスをし抱擁していた。静かにフランス・レイの名曲「男と女」が流れていた。
何もかも忘れていた、妻であり、母であることも・・・・・・・・
目が覚めたのは夜中の2時過ぎ、利子は何処に居るのかしばらく解らなかった。
ベッドから見えるソファに、自分の持ち物、身に着けていた全ての物が綺麗に畳んで、並べられていた。ピエルの姿は何処にも無かった。
*** *** 上卦は雷。
*** ***
********
*** *** 下卦も雷。
*** *** 雷鳴、活動を表す。
******** 二つ重なることは、雷の性質を強調している。
「震為雷」の卦。天地に地震、雷鳴が起こる象である。突然起こり去っていく。沈着冷静であれば、案外実害は少なくて済むものだ。
飛行中に乱気流に遭う事がある。物が飛んでしまうこともある。
人生のエアポケットに遭ったとしても、慌ててはいけない。
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その日、航空機部では大会議室にて業務連絡会が開かれていた。日頃の重苦しい空気に我慢出来なくなった若手社員たちが、エリート課長たちに不満をぶちまけ大論争になった。爆発は容易に収まらず役員たちが駆けつけ、止めに入るという前代未聞の騒ぎに発展した。
帰社した亨が話を聞いていると、「直ぐに役員室に来るように。」と電話が入る。書類を一つ取って出ようとすると、若手社員たちが十数人亨の前へ来て、「部長、申し訳有りませんでした。」と全員頭を下げる。
亨は「心配するな。席に戻って仕事してくれ。」と笑って答える。エレベーターに向う亨の背中には静かなる闘志が溢れていた。
役員会議室にはE社長を始め6人の役員が詰めていた。亨が席に着くや、旧W専務派の一人が「こんな不祥事は今まで聞いたことも無い。部長としての処分は免れませんよ。いったい、どう責任を取る心算ですか。」と迫る。
亨は全く動じない。一呼吸置いて、声色を動かさず、「この度はお騒がせ致し、誠に申し訳ございませんでした。私の責任は航空機部の再生以外には有りません。」続けて、「今回の出来事は正に再生の萌しと受け止めております。ここに用意しました再生案をお話しても宜しいでしょうか。」
役員たちは亨の堂々とした態度と、良く響き渡る声に圧倒された。役員の一人が「では聞こうじゃないか。話して見たまえ。」と促した。
亨は持参したプリントを配ると、「目的は停滞から前進です。マイナス思考からプラス思考への転換です。体制を思い切って刷新いたします。具体的には五つの課を解体し、新たに三つのグループ制とします。各々リーダーを若手から登用しますので、現在の5人の課長は全員部外への移動をお願いいたします。この改革により、航空機部は新たなる躍進が始まるものと確信いたします。」
拍手をしながら立ち上がったE社長。「私は賛成だ!航空機は我社の生命線だ、いつまでも停滞している場合じゃない。」すると他の役員からも拍手が起こる。反対派は機先を制せられ、急転直下、一気に改革の流れが動き出す。
ようやく長い夜が明けた。航空機部は再生に向けてスタートを切る。航空機の再生は会社全体の対立から強調への再生でもあった。
******** 上卦は火。
*** *** 文明、文化を表す。
********
******** 下卦は風。
******** 性質は従順を表す。
*** ***
「火風鼎」の卦。鼎(かなえ)は煮炊きする器。材料を煮炊きすることにより、全く別の料理というものに変化する。改革の結果、新しい世界が出現するようなものだ。鼎の足は3本で支えられ、協力と安定を示す。
どんな改新も、「天の時、地の利、人の和」の三拍子が揃わないと実現するものでは無い。
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