さわやか易

いらっしゃいませ。名画を鑑賞するとき、その背景である歴史を考えてみたい。(猶興)

ある夫婦の物語

[ リスト | 詳細 ]

これは易の下経34卦を1卦づつドラマにしたものです。
易の順番には大きな意味と教訓がありますので、連続ドラマに仕立てようと試みました。
しかし作ってみると、力不足で容易ではありませんでした。
無理やり繋げた面もあり、易の解説も稚拙なものです。
それでも一組の夫婦が大きな試練の世の中を懸命に生き抜き、「悔いのない人生」にしようと頑張る姿を感じていただけましたら、幸いです。(猶興)
記事検索
検索

全7ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]

[ 前のページ | 次のページ ]

イメージ 1


亨の左遷先は最も小さな子会社である「ハイエナ社」の社長であった。

「ハイエナ社」というのは正式な社名ではない。本社の外国事業部が扱いかねる厄介な仕事が回ってくるので、ライオンの食べ残しを漁るハイエナに例えて何時しか社員の間で呼ぶ様になったのだ。

挨拶に行った亨にE常務は言った。「人の採用も新規事業も君に任せるから、やりたい様にやって見ろ。案外面白いかも知れんぞ。」

「ハイエナ社」の社員は20人。殆どが本社で問題を起こした出向社員たちで、陰で「ならず者軍団」とも「問題児集団」とも言われている。

旧ビルの2階に在り、殺気だった空気の中で男たちが仕事をしている。亨は黙って一人一人を観察し口を挟まなかった。時々喧嘩腰で言い合いが始まるので、そんな時は両者の話をじっくり聞く。

亨は気付いた。ここの社員は能力が高い。信念が強い。妥協が嫌いだ。問題を起こしたのはその為で、信頼関係を築くことさえ出来れば変わる。

そこで出来るだけ社員のやり方を尊重し、バックアップに努めた。すると、徐々に殺気だった空気は改まり笑い声に変わって来た。お互いの協力体制まで自然に出来上がる。

居酒屋に誘うと社員の中から「社長が居てくれるなら僕は何でもやりますよ。」「入社以来こんなに仕事が楽しくなったのは始めてです。」

亨も言った。「人間と人間の付き合いで行こうよ。」「仕事は慎重に、そして大胆に、そして楽しくだ。」

ある日、利子の留学時代の親友で外務省のキャリアであるA子さんから電話があった。「明日、そちらに私からの紹介と言って美人が行くけど話を聞いて上げて。」と言って来た。

翌日、その美しいお客様はやって来た。後に亨の人生に大きな影響を与えることになる、元ハリウッド女優・紅蘭である。

******** 上卦は天。
******** 大きなエネルギーを表す。
********
******** 下卦は風。 
******** 人間に配当すると長女。
***  *** 長女は従順、大人の女を意味する。

「天風姤」の卦。姤は邂逅の逅と同意であり、偶然の出会いを表す。
陽ばかりのところへ始めて陰が現れる象であり、男の集団に忽然と一人の女が現れるとも見る。

良いことも悪いことも、全てはバランスの変化から発する。

人間のドラマは全てが出会いからである。

その13ー捨石ー

イメージ 1


貞の小学校入学と同時に利子は通訳の仕事に復帰することになる。

ケイトの小説「星からの声」は日本でも爆発的な大ヒットとなり、その出版権売却をもとに亨の家族は都内のマンションを購入、引越した。

亨は2年前から、エリートの集まりと呼ばれる「航空機部」の課長としてその腕を奮っている。ここで、亨にとって重大な局面を迎えていた。この航空機部の利益の半分は、戦闘機とその部品であり防衛省との取引である。

防衛省幹部との密接な人脈を握っているのが、この部を統括している次期社長と目されているW専務だ。
ところがW専務と防衛省幹部の間には、年間にして10億の裏金が使われている。触れてはならないタブーとして20年もの間続いていた。

亨は内密に親しいE常務に相談したが、「君が触れることではない。くれぐれも早まったことをするな。」と諭された。(誰かが猫に鈴をかけねばいけない。)その後もずっと亨を悩まし続けた。(社会正義が大事か、サラリーマン生命が大事か。信念に生きるか。妥協の道を生きるか。馬鹿を貫くか。賢く生きるか。)

ついに、亨は重大な決心をした。W専務に誠心誠意、話をしてみよう。自分の為ではない。会社の為である。「内密に相談したいことが有ります。」会議の後、亨はW専務にそっと告げた。亨の目を見たW専務は「解った。時間を取ろう、後で連絡する。」席に戻るとW専務から直に電話が来た。「明日20時にTホテルに来い。」

亨は真剣に話をした。「専務の長年の努力と功績には敬意を表します。しかし、法令順守は時代の要求です。この問題はいつか公になるリスクが有ります。そのリスクは余りにも大きい。その前に手を引くべきです。」

W専務は暫らく聞いていたが、静かに低い声で言った。「馬鹿なことを言うな。商社にリスクは付き物だろう。そのリスクに一つ一つ対策を立てるのが仕事じゃないのか。」

亨は専務の前に膝を付き、手を付いた。「専務、思い切って手を引くこともお考え下さい。火が付いてからでは遅いのです。」
「それ以上言うな。奇麗事だけで商売は出来ないんだ。この会社に居たいのなら、その話はお仕舞いだ。」

1週間後に、E常務から食事に誘われた。行って見ると、「君は左遷になるぞ。思い当たることがあるだろう。」「あれほど私が釘を刺して置いたのに。」

「悔いてはいません。初めから捨石になる覚悟でした。」

***  *** 上卦は沢。
******** 切り裂くという意味がある。
********
******** 下卦は天。
******** 大きなエネルギーを意味する。
********

「沢天夬」の卦。夬(かい)とは決断、決裂、決壊の決にあたる意味。重大事を決行する意味でもある。一番上だけが陰爻になっており、独裁者が上にいる象とも言える。

自ら反みて縮(なお)くんば 千万人と雖も吾れ往かん。(孟子)

一生に一度くらい、こんな勝負をしてみるのが男というものだ。

イメージ 1


利子とケイトの1年半の共同生活。お互いに水を得た魚のように充実し、まるで夢のように過ぎていった。

自然に二人の役割が出来た。掃除と洗濯は夫々別にしたが、買い物と食事の用意は専ら利子が担当した。翻訳も割りと楽にこなせた。

利子が英語を苦にしないのが幸いした。貞とジュードは仲良く遊んでくれ、二人への読み聞かせも利子の楽しみだった。貞は自然と英語で話すようになっている。

ケイトは小説執筆にフル回転で専念した。頭が疲れた時にはジョギングをする時間も出来た。

亨は3月に一度はカッスルクームを訪問した。妻、貞、ケイト、ジュードそれぞれに吟味したお土産を持参することも忘れなかった。

ケイトも亨の訪問は大歓迎だった。そして亨が泊まる時は貞を預かり、二人をホテルに送った。利子の耳もとで「しっかり愛を確かめ合うのよ。」利子は(解ってる。有り難う、ケイト。)目で答えた。

ついに、ケイトの小説「星からの声」が完成。ロンドンの出版社から発売されることになる。すると、たちまちベストセラーとなりケイトは急に忙しくなって、ロンドンのマンションに引っ越すことになる。

ケイトは「トシコ、有り難う。みんな貴方のお陰よ。」そして言った。「日本の出版社から話があると思うけど、日本での出版権はトシコにしてあるからその時は売ってくれたらいいわ。私のお礼だからね。」(後で解ったことだが、その出版権には2000万円の値がついた。)

別れの日は来た。利子とケイトは熱い気持ちで感謝の抱擁をする。
そして、利子も思い出深いカッスルクームと別れることにした。

荷物を片付けながら、何気なく山々に沈む夕陽を眺めていると、夕陽の空から「お母〜〜さ〜〜ん。」と呼ぶ龍の声が聞こえた。

利子は全てを理解した。このカッスルクームの出来事はみんな龍からのプレゼントだったということを。

利子は夕陽に向かって手を合わせた。

(有り難う、龍。  有り難う、ケイト。  有り難う、コッツウォルズ。)

******** 上卦は風。
******** 見守るという意味を表す。
***  ***
***  *** 下卦は雷。
***  *** 活動を表す。
********

「風雷益」の卦。利益の益であるが、下のものに活力があり何事にも上手く運ぶことである。前項の「山沢損」の精神があれば、次に益があるのは必然である。

損得を忘れて、奉仕した結果はこうして報われる。

人生にはこうして祝福されることもあるものだ。

イメージ 1


(ここに住もう。)利子の思いは俄かに現実のものになって来た。

早速、利子はカッスルクームの不動産屋を訪ね、家具つきのアパートを借りることにした。

そのアパートで利子は思いも寄らない幸運に巡り合う。
新しい生きがいを共に掴むことになるケイト・ライフックとの出会いである。

ケイトは女優時代に結婚したがその後夫とは離婚した。女優も辞め、4歳の息子・ジュードと半年前にこのアパートに移って来た。相当の美人であり、相当のインテリでもある。利子が留学していたK大学の一年先輩でもあった。

ジュードが全く人見知りしない性格だったので、利子にも貞にも平気で声を掛けてきたことからお互いに親しくなる。

ケイトは小説を書いていた。利子は読ませて貰らった時、その図抜けた才能にびっくりさせられた。

小説の内容は、人類より文明の進んだ宇宙人が、迫り来る地球の危機を人間に知らせようとして、一人の少女を教育しようとするドラマだった。ケイトは「どうせ売れない小説よ」と笑っていた。

滅多に人に気を許さないケイトだったが、利子とは気が合った。時には二人でワインを飲んだ。

利子はケイトに「貴方のライフックという名前は、日本では来福といって幸運がやって来るという意味なのよ。」と言うと「トシコに会えたのが私の幸運よ。」「私こそよ。」「二人の出会いに乾杯!」二人は意気投合して抱き合って喜んだ。

一旦、必要なものを準備するため日本に帰り、亨にケイトの話をした。亨は見違えるように元気になった利子を見て「それは良かったじゃないか。当分そっちに居ればいいさ。」と言ってくれた。

カッスルクームの利子は貞とジュードの世話をしたり、忙しいケイトの分まで買い物をしたり毎日が楽しくなってきた。そして一銭にもならない仕事だがケイトの小説を翻訳することにもなった。

ともに挫折から這い上がろうとする、女二人の共同生活は開き直りの底抜けの明るさがあった。

******** 上卦は山。
***  *** 動かないもの。聳え立つものを表す。
***  ***
***  *** 下卦は沢。
******** 喜ぶ性質を表す。
********

「山沢損」の卦。損とは損失、損害の損ではあるが、易でいう損とは一文の得にもならないことを喜んで奉仕するという意味がある。愛するものの為に自己を犠牲にすることもそうである。
誠意をもってすれば、大いに吉である。

人にはある時期には損得を忘れて、何かに没頭することもある。

良いことであれば、いつか大きな成果や成長があるのではないだろうか。

イメージ 1


「しばらくの間、ハワイにでも行っていたら良いよ。」亨が話を切り出した。

「この際だから、住宅計画を先延ばししよう。」「君が元気に成れるのが一番だから、貯めたお金を使っても良いじゃないか。」

利子の心も少しづつ動き始めた。「でも知らないところは行きたくない。もし行くとしたら私はロンドンがいいわ。」

そんな会話から2週間後には利子と貞はロンドンにいた。利子には8年ぶりの街である。ここは東京と違い同じ大都会でありながら、古い建物が多いせいか落ち着いた雰囲気がある。

利子はレンタカーで、留学時代仲良しのA子とドライブで訪れたことがあるコッツウォルズに向かった。

コッツウォルズの地名は「羊小屋のある丘」という意味で、13〜15世紀頃には羊の大牧場があった。ここから出荷される羊毛やウール製品はヨーロッパ中に行き渡り繁栄したそうだ。

今ではその長閑な丘陵地帯は、イギリスでも最も美しい田園風景と言われている。広さは東京都くらいあり、沢山の小さな村が18〜19世紀の建物とともに静寂を保って横たわっている。

利子はその中でも美しい村として名高いカッスルクームに来た。そしてある昔の貴族屋敷を改造してホテルにしてあるマナーハウスに宿をとった。風格のある落ち着いた雰囲気は、19世紀の大英帝国を偲ばせる。

2日目のことだった。散歩に出ていた利子と貞は並んで山の端に沈む夕陽を眺めていた。

山々に広がる夕焼けが、一段と真赤に染まり始めた時である。利子の胸が急に熱くなった。その瞬間、夕陽の空から「お母〜〜さ〜〜ん。」まさしく龍の声が聞こえた。

利子は思わず「龍〜〜。」と叫んだ。涙がどっとあふれて来た。

翌朝、目を覚ました利子は不思議なさわやかな気持ちだった。ふと、心に(私はここに住む。)と感じていた。

***  *** 上卦は雷
***  *** 活動を表す。
********
***  *** 下卦は水 
******** 悩み、困難、問題を表す。
***  ***

「雷水解」の卦。凍結していた天地に春雷がとどろき、春雨が降り注ぐ象である。
困難な問題が解消する時である。

どうしようもない辛い情況から、次の一歩が始まる。

ここまで、辛抱するこが難しい。しかし、待つしか無かった。

全7ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]

[ 前のページ | 次のページ ]


.
kan*u*uuk*u
kan*u*uuk*u
男性 / AB型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について

幕末の歴史。

ファン登録

標準グループ

ブログ作成

1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事