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図書館に行くと杉浦日向子の本があったので借りてきた。 実は彼女の作品を読むのは初めてなのだ。 彼女については何度か見たNHKの「コメディーお江戸でござる」で解説をやってたこと、 近年亡くなられたことぐらいの知識ぐらいしかなかった。 借りてきたのはちくま文庫の「ゑひもせす」と「東のエデン」である。 主に江戸・明治に題材をとった短編を収録したものだが、読んでみて驚くやら、感心するやら。 大店の放蕩息子と太鼓持ちの交流を描いたもの(「ヤ・ケ・ク・ソ」)、忠臣蔵を絵草紙風(?)に描いたもの(「本朝大義考・吉良供養」)、明治初期の囲碁屋に下宿する、出身が旗本、下級武士、商家、農家と全て違う4人組みのエピソードを描いたもの(「閑中忙あり」)、等々いずれも趣向を凝らし味わい深い。 漫画に限らず、一般に読み物というものはストーリーがあり、読者を納得させるオチがあるものだが、そういった常識にとらわれず、あるがままの江戸の日常の断片を切りとってそのまま紙に写し取ったという感じを受けるものもある。 絵柄については作品によりかなりばらつきが見られるが、これは発表年の違いによるものだろう。 浮世絵を下地にした絵柄ものといえば「もず」という作品が1番か。 雪の積もった日、役者絵から浮き出たような色男が純情そうな女を伴って三味線の師匠の家の前までやってくる。 男は女の手を引き、一緒に家へ入ろうとするが、女は腰を引き手を合わせて堪忍の仕草をする。 あっさり男はあきらめ羽織っていた襟巻きを女に投げ与え、一人家へ向かう。 女は反対の板塀の方へ後ずさる。 この間セリフは一切ない。 女のアップの表情、男、女、それぞれの雪に残る下駄の跡を俯瞰した構図などで現しており見事というほかない。 さてこの師匠がまたぞくっとするほど色っぽい女だ。 男はこの師匠と好いた仲であったのだが、連れて来た女と一緒になる為荷物を取りにやってきたのだと、読み取れる。 師匠は一端絶ちきった男への思いを向かいのほおの木を根城にするもずの習性のなぞらえる…。 余韻が長く跡を引く名作である。 「袖もぎ様」という作品も目を引いた。 商家の娘が学問所に通う若侍に恋をした。 彼が店の前を通りかかるのを二階の格子の隙間から手鏡を差し出して盗み見る。 ある日その若侍が店の前で転び、鼻緒を店のものにすげ替えてもらう。 彼女は若侍を追いかけ、転んだ場所に片袖をちぎって置いてこぬと厄災があるという「袖もぎ様」の風習にかこつけ袖を交換する。 実は彼女はその日が嫁入りの日で、最後の思い出にと行動に出たのだった…。 彼女はいろんな表情を見せていて、未通女らしい情感と共に、大事に育てられた商家の娘らしい、明るさ、勝気さ、人のよさといったものが覗えた。 杉浦日向子は日本橋の老舗呉服屋のお嬢さんだと聞くが、彼女の何代か前にはきっとこんなことがあったんだろうなあ、と思わせるものがある。 図書館のホームページで検索すると彼女の本はまだ他にもあるようだ。 しばらくははまりそうである。
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2007年06月01日
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