概説
子宮は内側から、粘膜、筋肉、漿膜(しょうまく)で構成されています。
粘膜は子宮体部では子宮内膜と呼ばれ、受精卵が着床する場所(胎児のベッド)です。
妊娠しなければ毎月はげ落ちて子宮外に出てきます。
これが月経(生理)です。
女性ホルモン(エストラジオールとプロゲステロンの2つがあり、その内のエストラジオール)の影響を受けて、筋肉細胞が増加・腫大する病気が筋腫です。
原因は、筋肉細胞のエストラジオールに対する感受性 が強いか、エストラジオールの量が過剰か、またはその両方かです。
筋肉の増大の仕方は、子宮全体が大きくなる場合、局所 的に筋肉が増大する場合など様々です。
厳密に診断すると、30代女性の3人に1人は筋腫があります。
いずれにしても体内のエストラジオールが原因ですから、閉経(卵巣内の卵からエストラジオール分泌がなくなる)すれば、筋腫は自然に縮小します(治ります)。
症状
症状は、子宮筋腫のできている場所に依存します。
[1]過多月経
月経血量が増えます。
とくに粘膜下筋腫にみられます。
当然、月経も遷延 (せんえん)します。
[2]貧血
過多月経、月経遷延 の結果、貧血になります。
症状としては、立ちくらみです。Gn-RHアゴニスト(リュープリン、スプレキュア、ゾラデックス、ナサニールなど)により閉経させるか、低用量ピルで月経血量を減少させることができれば貧血は改善します。
ただし、粘膜下筋腫の状態によっては、Gn-RHアゴニストや低用量ピルで管理不可能な場合もあります。
いずれにしても、鉄剤の補強は必須です。
貧血が続くと、血が薄くなった分血液を多く送り出さなければいけないため心臓に負担がかかり、次第に心臓が肥大してきます。
Gn-RHアゴニストや低用量ピル量で出血量を管理できない場合は手術(筋腫核出術)が適応 となります。
[3]月経痛、下腹部痛、腰痛
筋層内筋腫で4cm以上、漿膜下筋腫で7cm以上の場合、頸部筋腫などで、これらのいずれかの症状が出る場合もあります。
また、月経時にこのような症状がある場合は、子宮内膜症が合併していると考えたほうがよいでしょう。
[4]頻尿(ひんにょう)
子宮筋腫が前方に発育すると膀胱を圧迫し、頻尿になります。
後方に発育した場合は、便秘になることもあります。
[5]腫瘤(しゅりゅう)を触れる
子宮筋腫が前方に発育した場合、あるいは筋腫を含めた子宮全体が巨大化した場合、自分でさわれますし、また見ただけでもわかるようになります。
診断
婦人科の外来で「子宮筋腫」と診断された場合、重要な点は2つあります。
1つは、本当に子宮筋腫なのか、子宮肉腫 ではないのかという点です。
病気(とくに腫瘍〈しゅよう〉性疾患)は、病気が存在する臓器のすべてまたは一部を摘出(切除)し、ホルマリン固定して作成された病理組織標本を顕微鏡で観察して確定されます。
外来の診察の範囲(経膣超音波、内診、MRI など)では、子宮の筋層の一部を切除(生検)し、病理診断するわけではないので、「子宮筋腫」と確定診断 することは不可能です。
外来で子宮筋腫と推定される腫瘍を見つけた場合、正しい診断は「子宮腫瘍」、あるいは「子宮筋腫の可能性があります」とすべきです。
子宮の筋層に発生する腫瘍には、良性の「筋腫」とガンより悪性 度の高い「肉腫 」の2つがあります。
肉腫 の大半が筋腫と誤診されているのが現状です。
もし婦人科の外来で「筋腫」と診断されたら、患者さんは「肉腫 ではないのですね」と担当医に確認することが重要です。
肉腫 を子宮筋腫と誤診されたら、生命予後 は不良で、術後平均生存期間は1〜2年です。
第2に、筋腫と仮定した場合、子宮内膜との位置関係が重要です。子宮筋腫の因子 として、「大きさ」「筋腫の数」「場所」の3点があります。
これらの因子 の中で最も重要な点は筋腫のできている「場所」です。
子宮は妊娠し、胎児を育てる臓器ですから、胎児が着床するベッドである子宮内膜と子宮筋腫との位置関係(筋腫が子宮内膜に及んでいるかどうか)が重要となります。
子宮筋腫が子宮内膜に及んでいなければ、月経に関する異常(過多月経、月経遷延 、過多月経による貧血など)や妊娠に関する異常は起こりません。
ただし、大きさによっては、妊娠、出産の経過に影響を及ぼす場合があります。
しかしながら、筋腫が原因で妊娠しないということはまずありません。
一般的には筋腫の発生部位により、以下の4つに分類されす。
[1]漿膜下(しょうまくか)筋腫
子宮の外側に発育する筋腫です。
大きさが10cm以上に達する場合でも外向きに発育しているので、子宮内膜に無関係ですから貧血や月経に関する異常(過多月経、月経痛等)は認められません。
ただし、10cm以上に巨大化した筋腫は茎を有している場合があり、捻転(ねんてん)が起こり、激しい腹痛を伴う(急性腹症 )こともあり注意が必要です。
この場合は緊急手術になります。
[2]筋層内(きんそうない)筋腫
子宮の筋層内にある筋腫です。
小さい(3cm以下)と無症状です。
筋層内でも発育して大きくなる(4cm以上)と月経血量が増量し貧血になります。
これが内側へ成長してくると、粘膜下筋腫となります。
[3]粘膜下(ねんまくか)筋腫
子宮内膜を筋腫が下から持ち上げている状態です。
子宮内膜に影響しますから、月経に関する異常(過多月経、月経遷延 〈せんえん〉、過多月経による貧血、月経痛など)が出現します。
内腔へ飛び出した筋腫が伸びてきて膣へ顔を出してくると、筋腫分娩と呼ぶことがあります。
これをポリープと間違えて、外来で切除すると大出血する場合がありますので、取り扱いには注意が必要です。
[4]頸部筋腫
子宮の頸部にこぶができる筋腫です。
頸管(出口)が狭くなり、生理痛の原因になる場合もあります。
また、前方に発育すると膀胱を圧迫して頻尿になります。
子宮内膜と筋腫との位置関係から、粘膜下筋腫が一番困る筋腫で、大きさにかかわらず治療が必要です。
次いで筋層内筋腫と頸部筋腫が問題になります。
漿膜下筋腫は5cm以下であれば、通常の月経、妊娠、出産など、まず何も影響しません。
標準治療
1)保存治療
子宮筋腫で「症状」の項で述べた症状がある場合、乳ガンや子宮内膜症で使用するGn-RHアゴニスト(リュープリン、スプレキュア、ゾラデック)で約6カ月(必要なら6カ月以上1〜2年くらい)閉経させれば症状は多くの場合改善します。
子宮筋腫の縮小効果は様々で、7cmの筋腫が3cmくらいになることもありますが、消失することはありません。多くの場合ひと回り程度縮小します。
4〜5cmくらいまで縮小したら、低用量ピルを(妊娠を望む時期まで)継続し、縮小した子宮筋腫が大きくならないよう維持します。
また、もともと小さい筋腫の場合、妊娠可能な時期まで低用量ピルを服用すれば、増大を抑えることができます。
無症状の筋腫であっても、45歳以下で将来筋腫が増大すると症状が出現する可能性があると判断したら、同様に治療します。
2)手術
薬物療法で管理不可能な筋腫、または妊娠、出産の経過に影響すると判断された筋腫、および肉腫 の可能性を否定できない場合、手術(原則として筋腫核出術)が適応 となります。
[1]内服薬で月経過多が管理できず貧血も改善しない場合(多くは粘膜下筋腫)。
[2]Gn-RHアゴニストで縮小したものの、妊娠、出産の経過に影響を与える可能性が高い子宮筋腫(7cm以上、および頸部筋腫)の場合。
[3]35歳以上で妊娠を早期に望む症例で、筋腫が7cm以上の場合:患者さんとの相談の上、手術適応 を決めます。
この場合もGn-RHアゴニストを手術前に(短期間でも)行ったほうが手術の出血量が少なくなります。
[4]疼痛 (とうつう)を伴う筋腫の場合:卵巣嚢腫(のうしゅ)の茎捻転(けいねんてん)と同様に急性腹症 を起こす場合は緊急手術となります。
[5]更年期前後から増大した筋腫の場合:この時期に大きくなる筋腫(子宮が大きくなる場合)は子宮筋腫ではなく、子宮肉腫 の可能性がありますから、直ちに手術をしたほうがよいでしょう。
※「標準治療」は診療活動をする専門医により行われている一般標準的な治療法の解説です。
厚生労働省や学会で作成した「ガイドライン」そのものではありません。
生活上の注意
[1]子宮筋腫と診断された場合、エストラジオール様作用のあるサプリメントは控えましょう。
筋腫が増大します。
[2]乳ガン検診を受けること:乳ガンも子宮内膜症も子宮筋腫もエストラジオール依存性です。
乳ガン患者の多くは子宮筋腫を合併しています。
筋腫があると乳ガンのリスクも高まりますから、マンモグラフィと超音波(触診 は不要)による乳ガン検診を年に一度は受けて下さい。
[3]筋腫と診断されたら、子宮の周囲の病気の見落としがないか確認すること:医師が気をつけることですが、大きな筋腫に気をとられて、その付近にあるかも知れない重大な病気(卵巣ガン、大腸ガン等)が見落とされる場合があります。
筋腫になった人は、卵巣ガン、大腸ガンにならないという決まりはありません。
子宮筋腫と診断された場合、卵巣腫瘍や子宮ガン(できれば大腸も)について説明をしてくれる医師であれば大丈夫です。
[4]肉腫 ではないことを明確にすること:繰り返しになりますが、本当に子宮筋腫かどうかということです。
子宮筋腫と診断されたら、「肉腫 ではないこと」「LDH(肉腫 で高くなる血液中の酵素)が高くないか」を確認して下さい。
子宮筋腫で婦人科にかかっている場合、診療のやりとりの中で、「肉腫 」と「LDH」という2つのキーワードが出ていれば、その医師が信頼できると考えていいでしょう。
自分の健康を管理するためには、何でも医師任せにしないで自分である程度勉強する必要があるのです。