閑山子余録

閑山子こと川平敏文のブログです。近世文学・思想研究情報を中心に発信します。

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このところ、なかなか更新ができない。

現在、論文4本分くらいに相当する内容を同時進行で進めている。
気になる本はあれど、なかなかじっくりと読めず、積読状態となっている。

ただ先ごろ創刊された『日本文学研究ジャーナル』については一言しておきたい。

国文学系の商業誌が相次いで廃刊してしまったなか、こうして新たな雑誌を
出そうというのは大きな勇気がいることだったと思う。
まずはその心意気に、大きな拍手を送りたい。

そしてその内容。「日本文学」とし、時代やジャンルを区切らないやり方、これは
正解である(偉そうですが)。
私が以前から望んでいること、それは例えて言えば、両国国技館のような場である。
田舎の神社の片隅にあるような土俵ではなく、日本中から注目される「大きな」土俵。
論文を披露することが名誉になるような、目立つ場。
その意味で、日本文学研究者ならばとりあえずみんなが注目する場を作ってくれた
ことは、とてもありがたいことであった。

問題は中身である。

前に紹介した叢書?と同じく、これも研究者による責任編集制となっている。
出版社の編集者だけでは、企画はなかなか難しいという事情があるのだろう。
その意味でも、昔の「国文学」や「解釈と鑑賞」、「文学」などが、あれだけの
コンテンツを毎月(!)出していたこと、しかも出版社の編集者がそれを企画して
いたことは、本当にすごいことだったのだと思う。
内情はよく知らないけれども。

まあそれはよいとして、どれだけみんなが読みたくなる、あるいは読んどかないと
話についていけない、あるいは持っておかないと恥ずかしい、損をする、
そんな内容の論文を集めたり、特集を組めるか。
そこが問題となってくるだろう。

とくに若手が、ここに論文・文章を出したい、と思えるような「大きな」土俵。
かつては「文学」がその位置にあったと思うが、それに代わるような場に成長して
ほしいと思う。
そのためには、かならずしも読者を研究者に限定せず、一般読者(若年層、外国人)
などまでターゲットに入れた試みも、あってよいのかもしれない。
近年のくずし字に対する関心の高まりなどを、うまく掬い取ることができないだろうか。
あるいは、他学会とのコラボ企画。思想史、美術史、歴史など。
あるいは、むかしの「国文学」などのように、現代作家、評論家などに寄稿してもらったり、
対談してもらったりとか……。

などなど。
そんな簡単じゃないよ、それができないからみんな廃刊しちゃったんだよ、という声も
聞こえそうだが、何とかして知恵を絞り出して、V字回復ができないものかと、妄想のみは
膨らむのである。


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小西甚一の寛政改革評

三月ももう少し。
あれからまた新刊が続々出ているが、今回はまったく新刊の話ではない。
勉強で小西甚一『日本文藝史』第五巻をめくっていて、面白いと思った点を
メモしておくのである(で、ついでに公開するのである)。

本巻は、中世(小西においては江戸時代も中世)から近代への変わり目を論じた
巻である。

小説史を論じて、小西は、秋成・源内・馬琴以後、「ろくな作者が出なかった」と
いう(p20)。18世紀後葉から19世紀前葉にかけては、あたら知識・才能を持ち
ながら、それを戯作に浪費するような者もいたが、馬琴以後はそれすらもいなく
なったと。近世後期小説を研究している人々にとっては異論もあるだろうが、
それが「ろくでもない」かどうかの評価はしばらくおく。

ではなぜ「ろくな作者が出なかった」かといえば、小西はその原因を、寛政の
改革にもとめる。というと、寛政の改革における「文学の弾圧」により、
作者たちの才能が萎縮してしまったのだ、とそういう路線で考えてしまいそう
である。

しかし小西は次のようにいう。
「それは寛政の改革がもつプラス面を無視するものであり、反体制的・
反権力的な立場での批判だけが正当なのだという迷誤に隣りあわせる」。

おや?
で、次のように続ける。

「寛政の改革がもつ最大の特色は、人材の登用であった。…定信は、才能さえ
あれば出身に関わらず社会的に活動できる地位が約束されるような改革を断行
したのである。」

すなわち、

「有能な人材は、戯作などで学才を浪費する餘暇も必要もなくなった。……
かくして、戯作界には、無能無才にしてこの一筋につながる作者たちだけが
残されたのである」。

「この一筋」云々は、むろん芭蕉の言のようなプラスの意味で使われているの
ではない。文字どおりその一芸しかしらず、しかもそれを展開・深化させるだけ
の能力がない者のことを云っている。

ともあれ、寛政の改革と文学との関係を、このような社会的側面から捉える
見方は新鮮であった。

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昨日に引き続き本日もまた、新たに二書を書き加えねば
ならぬのである。

多数の新刊本を前にして、ほとほと困じて了う。
これらの本を、いったいいつ読めるのだろうか。

でもこういう悩みは、ふつふつと嬉しいものである。
嬉しくて困って了うという、さういう類の悩みである。

●勝又基『親孝行の江戸文化』(笠間書院)
 「孝」を江戸幕府や各藩が体制強化のための道具として使用してきた
 というこれまでの研究の論調に対して、「孝」は現代でいう「自由」と
 同じくらいに、江戸文化の中に様々な形で溶け込み、為政者から民衆まで
 すべての江戸人の心の中に、内面化されていたことを論じたもの。
 文字どおり、同じ釜の飯を食ってきた勝又氏の本格的な論文集の刊行を、
 心から祝福したい。

●大石真由香『近世初期『万葉集』の研究』(和泉書院)
 サブタイトルに「北村季吟と藤原惺窩の受容と継承」とある。このような
 論著が出されることは、まったくノーマークで、近刊予告を見て早々に
 予約しておいた。万葉集研究といえば契沖以後というイメージがあるが、
 惺窩が関わっていることが、私の17世紀学芸史観にとってはとても重要
 なのである。それを明らかにしてくれる手がかりを本書から得たい。

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怒濤の刊行ラッシュ

まさしく怒濤なのである。

興味深い本ばかり立て続けに出て、困っているのである。

とても一つ一つを取り上げて書く余裕はない気がするので、
とりあえず書名と寸評だけでも。
あとは暇をみてじっくり紹介したい。

●長坂成行『篠屋宗礀とその周縁』(汲古書院)
 近世初期京都の文人。山岡元隣の師系について、個人的にはうれしい
 新事実が報告されている。それは竜安寺の偏易和尚との関係である。
 元隣と竜安寺との関係をかつて推測したことがあったが、それが証明されたのだ。
 偏易は『徒然草』偏易本といわれる一本をも残した人で、そこともつながる。

●湯浅佳子『近世小説の研究―啓蒙的文芸の展開―』(汲古書院)
 仮名草子、軍書、談義本から読本まで、なんとも幅広い。これだけの
 分野をカバーできる人は、余り居ないのではないか。あらためて氏の
 学問の大きさに気付かされる。

●高橋俊和『堀景山伝考』(和泉書院)
 宣長の漢学の師である堀景山の詳細な伝記研究。『不尽言』は
 日野龍夫先生の注釈で新大系にも入っているが、本当に面白い。
 室鳩巣との関連において興味を持っている。

●高松亮太『秋成論攷―学問・文芸・交流―』(笠間書院)
 気鋭の秋成研究者の第一論文集。端正な考証と文章が、人柄
 をも偲ばせる。一戸渉氏の仕事とともに、秋成およびその周辺の
 和学という分野が鮮明になってきた。

●蘆庵文庫研究会編『小沢蘆庵自筆 六帖詠藻 本文と研究』(和泉書院)
 大谷俊太氏を始めとする蘆庵文庫研究会の編。書誌学大系の一書として
 重厚な目録を刊行しているが、今度は『六帖詠藻』の翻刻と研究である。
 いずれも第一線で活躍されるメンバーたちが、こうした地道な仕事をされて
 いるのが 感動的。このチームの結束の固さは、端から見ていてうらやま
 しくもある。

とりいそぎ。
 

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アプリで学ぶくずし字

飯倉洋一氏編『アプリで学ぶくずし字 くずし字支援アプリKuLAの使い方』
(2017年2月)が出た。

5万回という、ものすごいダウンロード数を記録しているこのアプリの、
いわば公式ガイドブックである。

KuLAを実際の授業で使ってみたという、合山林太郎氏のレポート、
「しみまる」とともにKuLAの顔ともいえる飯倉氏、およびシステム開発の中心
にいらっしゃる橋本雄太氏の「あとがきにかえて アプリ開発裏話」をとくに
面白く読んだ。

合山氏のレポートでは、「文字」の学習とともに、古文のテクストそのものを
読解する力の必要性が指摘されている。この二つが車の両輪のように働く
ことで、高度なくずし字も読めるようになるわけである。
この点は、橋本氏のあとがきにもきちんと自覚されていて、KuLAをそのような、
いわば古文総合学習ツールとして成長させていこうという気構えが示されていて、
心強い。

以前紹介した「みんなで翻刻」とも合わせて、本当に大きな可能性を秘めた
プロジェクト。
微力ながら、私もアイデアを出していきたい。

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