ブログ水族館/中村 元

次回『中村元の超水族館ナイト』は2019年2月24日(日)の開催。前売り発売は1/24です

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ボクがよくお世話になっている温泉旅館がある。まともに支払えば一人ウン万円の高級旅館だけど、ワケあって毎回タダで泊めてもらっているw。
その旅館、部屋も温泉も立派なのだが、食事の内容がまたすごい。味も見た目も一流なだけでなく、品数がめちゃくちゃ多くて和風満漢全席状態。小食のボクなど泣く泣く半分以上残してしまう。

例えばメインになる品だけでも、フグ刺し1皿、●●牛のステーキ、●●ブタの煮込み、イセエビの半割ソテーと、どれか一つだけあれば十分なメインディッシュが4品も次々に出てくるのだ。
もちろん、これにお刺身の盛り合わせや、前菜などがめいっぱい出てくる上での話である。

相撲取りとかでなくてこの料理を全部食えるのは、育ち盛りの男子中高生か、体育会系の大学生くらいだろうが、そんな子どもたちが泊まれるような旅館ではない。
年齢もかなりいって、普通より小食の人たちが、この旅館の主なお客さんなのだ。

仲居さんに聞いてみたら案の定、食べきれないのはボクだけでなく、みなさんそうで、中には量が多すぎると怒る人もいるという。
いつもお世話になっている義理があるので、その旅館の社長と食事をしているときに、量を少なくした方がいいとの提案をした。

すると社長曰く、料理長には常に少なくするように言っているのだが、なかなか言うことを聞かない。とのこと。
一般の方々には、不思議に思われるだろうが、宿泊施設において腕のいい料理人というのは、妙に力を持っているのだ。
たとえ社長に命令されたからと言って、なかなかすんなりと言うことを聞くものではない。

さらに、一流の旅館の料理長には、それなりの自負や見栄がある。
「どれほど手の込んだ料理を何品出しているか」「食材には何を使っているか」「どんな業物の器に料理を載せているか」など、それは同業者との技の競い合いであり、部下や仕入れ業者の尊敬を集める見栄でもある。
そうやって、一流の料理人からは素晴らしい料理が供され、さらに箔が付いていくというわけなのだ。

しかしだ、そうは言っても、料理は食うものであって、眺めるものではない。
いくらスゴイ料理が並んでも、食べきれなかったら、食べられない悲しさと食材の命に対しての申し訳なさが募るばかりだ。
これはもう、料理長の自己満足としか言いようがないではないか。

さてさて、なんでまた「いい水族館」の書庫でこんな話を始めたかというと、実はこれと同じことが、水族館や博物館(美術館)でもよく起こっているからなのだ。

料理長=飼育係や学芸員、出される料理=展示だ。
料理の技の披露や、料理人の世界での勝負にこだわるあまり、客の気持ちのことをすっかり忘れている料理長。
学術的なことやら動物の飼育、他館との立派競争にばかり目が行って、「展示によって客の好奇心を起こす」という最も大切なことを忘れている飼育係(学芸員)。

料理長に悪気があるわけではないし、飼育係や学芸員に悪気があるものでもない。
それどころか、かなり一生懸命にやっているはずなのだ。ただただ、上を目指そうと頑張っているのに違いない。
しかしそのせいで、誰のために旅館や料理があるのか、なんのために水族館があって動物を飼っているのか、という最も大切なところを、客の立場になって考えることができなくなってしまうのである。

そして、どうしてそんなことになってしまうのかも、ボクにはよく理解できる。
自分たちの技術を評価する方法を、自分のいる世界でしか考えられなくなっているのである。
こういうケースは、どんな業界でもあり得る。

ボクは旅館の社長に、料理長のへそを曲げずに言うことを聞かせる方法を提案した。
メインとして通用する4品の料理から、客に2品だけを選ばせるという方法にすればどうかと考えたのだ。

こういった旅館に一人で泊まる客はまずいない。さらに夫婦か家族か恋人か、とにかく仲のいい相手としか泊まるわけがないのだから、一人が2品選ぶことができれば、シェアするという前提で結局4品は選ぶことになるだろう。

客は、まず選べるということで、楽しみができ、お得感を感じる。
ついで、2人いれば全品食べられることに気づいて、ラッキー!と思う。
それでもまだ量は多いはずなのだが、自分で選んだのだから文句を言えない。

料理人にとっては、自分の技であるすべての料理を楽しんでもらうことはできる。
さらに最初に出すお品書きにも選択用に書かれた4つの料理名は残る(料理人にはこれが大切)。

そして社長にとっては、客の満足度は上がるうえに、なんと食材費が下がる!もちろん料金はそのままでいい。

で、1ヶ月後に旅館を訪れたとき、料理はボクが提案した方法に変わっていた。
選ぶのはとても楽しかったし、なんとかすべての料理を楽しむことができて満足だった。
仲居さんに聞いてみたら、客の反応はとてもよく、多すぎるとの文句がなくなったばかりか、選べることに喜ぶ客がとても多いとのことだった。

同じ料理長、同じ料理を、カスタマーズ起点で考えて、ちょっと組み直すとそんな結果が出る。
ボクが水族館でやっている、水族館プロデュースとか展示監督とでも言うべき仕事は、そのようなことを水族館で行うことなのである。

でもカスタマーズ起点、本当は客の様子を見ていれば、客の会話を聞いていれば、あるいは客になってみれば、すぐに客の視点で考えることはできるのです。
もちろん、そこからカスタマーズ起点の展示にするのは、まあちょっとアイデアを出すためのテクニックが必要で、そこがボクの企業秘密というわけなのですけれどねw。

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