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有名なアマエビ(甘エビ)を、図鑑で探しても出てこない。
なぜなら、標準和名において、アマエビというエビは存在せず、その本名はホッコクアカエビだからだ。
ホッコクアカエビは北国の赤いエビの意味で、よく説明の行き届いた種名であるとは言える。
とは思うのだけれど、やっぱり「甘エビ」がぴったりくる。
お刺身にして食べる甲殻類というのは、あんがい少ないのだが、このアマエビだけは、生で食べてこそ、コクがあり、甘さがあり、とろけるような触感がまた素晴らしいのだ。
以前テレビでやっていたのだが、甘さの秘密は、エサを消化するための分解酵素が多いからなのだそうだ。
そして、その理由がなかなか興味深かった。
ホッコクアカエビが住んでいるのは、冷水域のさらに深海(水深200〜500m)。水温が低いのでタンパク質の分解がなかなか進まないから、分解酵素が多いということなのである。
なんかすごく科学的ではないか。
近頃、テレビ局の納豆事件があって、テレビの言うことはなかなか信じられなくなっているけれど、これにはなんとなく納得できる。
北海道でたくさん獲れるのだけど、どうしてだか生息地南限の富山湾のが有名で、最も美味しいなんて言われる。
それは、日本海側の漁法が、生かして捕る方法だからなのだそうだが、おそらくそれにも分解酵素が多いことが関わっているのではないかと思う。
というのも、分解酵素が多いと、死んだとたんに自分の身まで分解してしまうからだ。つまり痛むのが早いということ。(サバも分解酵素が多いために生き腐れと称される)
初めてお頭付きの「甘エビ」なるものをいただいたのは、20代の頃、金沢の旅館でだった。
頭をちぎっては、尻尾を「うまいうまい」といただいている、太平洋側文化のボクたちに、仲居さんがみかねて言った。
ちぎって捨てた頭の中の味噌をチューと吸ってみなさい、と。
ウソでしょ!と思いながらやってみたら、これがなんとも美味しいこと美味しいこと。
しかし、これ、やっぱりさっきまで生きていた新鮮な甘エビだったから美味かったのだ。
その後、太平洋側で同じコトをやっても、美味いどころか生臭いばかりだった。きっとこれも分解酵素のせいだと思う。
もちろん、北信越の水族館取材に訪れたときには、超新鮮な「甘エビ」を毎晩いただいた。
それはそれは甘くて大きかった、しかもお腹に青い卵を抱いていた。
青い色というのは、どうにも食欲をそそらないのだけれど、色とは関係なくこれがまた絶品のお味。
実は卵を抱いている甘エビは、みんな大きい。
生まれてから5,6年の間は全てオスなのだ。それが交尾するとメスに性転換する。
ボクたちからは見えない深海底で、そんな楽しそうなこと、いや不思議なことが行われていたのだ。
分解酵素のことといい、性転換のことといい、深海で生きる生き物は、実に興味深い。
そうそう、食用になっているエビの中で、このホッコクアカエビは最も深海に住むエビなんですって。
つくづく我々は、いろんなところに住んでいらっしゃる命をいただいているものなのですね。
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