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ザ・コーブは、イルカショーやイルカ展示へも猛烈な批判を重ねた。 前述したように、主人公は『わんぱくフリッパー』のトレーナー。 彼が、フリッパー役のイルカがストレスのために目の前で死んでみせたことをきっかけに、イルカを自由にする活動を始めたというフレーズで、この映画は始まる。 彼の活動は過激で、水族館や研究所のイルカを、畜養所から逃がすのだ。 人々が子どもの頃から、イルカが水族館などでショーをしているのがあたりまえだと思って育つのが、イルカたちの悲劇に繋がるからだという。 しかしよく考えてみて欲しい。 『わんぱくフリッパー』のおかげで、どれほど多くの人たちがイルカを愛するようになり、どれほどの人たちが、ヒトだけが知性をもった者ではないのだということを知ったのか。 何を隠そうボクだってその一人だ。 そしてなんと、映画の中で、監督だったかフリーダイバーだったか正義の戦士団の誰かでさえそう話していた。 わんぱくフリッパーは、確実に人々の心を変えたのだ。 そして、わんぱくフリッパーがいなくなった今、水族館のイルカたちがその役割を果たしているのだ。 正義の戦士として加わるフリーダイバーが、自然の海で野生のイルカと戯れる様子が流される。 さも、イルカたちとは、このように付き合うのが正しいやり方だと言わんばかりに。 しかし、いったいどれだけの人がそんなことができるのだろう? そもそも、水族館でイルカと会わなかったら、そうしたいと思う人がどれほど生まれるのだろうか? かつて、ジャック・マイヨール氏と公開対談をさせてもらったとき、水族館へ来てもらうように誘ったら、「私は閉じ込められているイルカは可哀想で見ていられないので行きません。ただ、一般の人たちがイルカと会う機会は水族館しかないので、水族館でイルカを飼っているのは肯定しています。」と答えられた。 その言葉は、ボクのその後の水族館の考え方に、大きな影響を与えた。 太地くじらの博物館のバンドウイルカ この映画が公開されると、おそらく日本国内にも「正義のイルカ開放団」が現れることだろう。 水族館は、いくらかの攻撃にさらされることも覚悟しておかなくてはならない。 その時に、動物園水族館の目的とされている「リクリエーション」「環境教育」「種の保存」「調査・研究」のために必要だから…などと答えても埒は空かない。 正義のイルカ開放団も、同じ理想のために戦おうとしているのだから、理想の言い合い合戦なら自然のフィールドでやろうとしている方に歩がある。 しかも、水族館でできている「種の保存」と「調査・研究」は、イルカ開放団のできることとたいして変わらない。いや正直なところは、負けている水族館の方が多いかもしれない。 だからもっと水族館にしかできない、ストレートなことを主張した方がいい。 『命を愛する心を育むために、生き物を展示』しているのであり、 『イルカを好きになる人を増やすために、イルカに仕事をしてもらっている』のだ。 パンダは、本人たちの暮らしには関係のない実に政治的な親善大使だが、イルカたちは彼らの国である海の未来を変える力が本当にある。 彼らがいなかったら、今頃野生のイルカたちの運命はどうなっていたことだろう? そして、もし今の水族館からイルカたちが消えたら、これからの人々の心に、イルカの存在はどのような形で残っていくのか? もちろん水族館のイルカたちは、自ら志願したわけではないし、いつか放免されることもない。 それはたいへん気の毒なことではあるのだが、そのために施設もトレーナーの意識も、わんぱくフリッパー時代よりは格段によくなっている。 そしてだからこそ、なおのこと思うのだ。 嫌々ながら、水族館に来てくれているイルカたちに応えるために、 水族館にできる「種の保存」は、人々に種の多様性の意識と知識を与えることであり、 水族館に期待されている「調査・研究」とは、より効果的な展示方法の研究なのである。 つまり、展示による、生き物たちのためのプロパガンダこそが、水族館の使命であると思うのだ。 水族館にも、ザ・コーヴほどのプロパガンダの力があれば…。 水族館にアメリカ映画を凌駕するほどのプロパガンダ力を付ける。 それが、わんぱくフリッパーで育ったボクの目標である。 いつになく長文になってしまいました。 映画を観て、あまりに巧妙にできているものだから、これはちょっとヤバイな〜と思ってしまったのです。 もちろん、みんなでザ・コーヴをボイコットしようという話ではありません。 興味を持たれた方は、ぜひご覧になって下さい。 ただ、せめてボクのブログを見ていただいてるみなさんにだけでも、数々仕掛けられているトラップには充分気を付けてご覧いただければと思い、長い記事を書いてしまったようなしだいです。 ザ・コーヴを観て、うっかり映画に洗脳されちゃったお友だちがいたら、せひ、この記事に引っ張ってきてあげていただきたく思っています。 ※この記事は後編です。主要部はコチラです⇒ザ・コーヴ その1衝撃のプロパガンダ映画 ●太地町立くじらの博物館のこれまでの記事はコチラ→関西の水族館の記事リスト News:次回トークライブ『中村元の超水族館ナイト2010夏』は6月19日⇒東京カルチャーカルチャー(お台場) |

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