ブログ水族館/中村 元

次回『中村元の超水族館ナイト』は2019年2月24日(日)の開催。前売り発売は1/24です

いい水族館

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索
ごぶさたでした〜!
伊勢志摩で今も理事長してる2つのNPOの新年会のために雪の三重県に行ってました。
片方のNPOは大雪のためにみんなが来られず、延期になっちゃったけれど…。
雪に慣れてない伊勢志摩の住民は、雪が積もるともうこもるしかないのです。

ところで最近ね、新江ノ島水族館の水槽がけっこう活き活きしてきたのですよ。
…ていうか、ボクが展示監督してる限りは、そうこなくちゃ困るのだけど。

このところ、大きく変わったのが、暖流寒流のコーナー。
こちらは寒流系の水槽の一つ。
イメージ 1

う〜ん、背景に壊れたカニ篭入れたのね。…くらいに思われるかもしれないけれど、
生のカニ篭を小さな水槽に入れたらまるでリアル感が失われるので、わざわざ壊して付着物を付け、泥に埋めたのがミソなのだ。
いい具合にエノスイのスタッフには、こういう細工の上手な人が多いのですよ。

さらに、この写真では分からないけれど、実は泥底をうんとかさ上げしてもらってある。
このように低層にいる動物を展示する場合、来館者の8割以上を占める大人には、普通の水槽では低すぎて、見て欲しいものを見てもらえなくなる。(展示者はまるで気づいてないのだけど)
それで、底上げをしてできるだけ大人の目線に近づけてもらったというわけ。

じゃあ、子どもの目線はどうするんだ?とよく言われるのだけど、
子どもつったって水族館に来るような子はみんなかなり大きい。だからこれでちょうど目の真ん前に来ることになる。
すごく小さい子どもは? 大丈夫、見上げるのだ。見上げることによってさらにカニさんが大きく迫力を持って迫ってくるじゃない。

こちらは同じ水槽の左上部。
イメージ 2

底面を上げるだけでは、混雑時に後ろの人から何も見えないことになるので、泥の海底にももしかしたらあり得るギリギリの情景を作ってもらったのだ。
もともと魚の種類とかに興味のない観覧者は、造形物などがアイキャッチとなる。
つまり、水槽が「ココを見て下さいね」と訴えかけるようになるのだ。

おかげで、寒流系の地味な生き物たちのこの水槽、以前はさらりと通り過ぎられていたのだけど、今ではかなりの時間、楽しんでもらえる水槽になった。

コチラは、深海コーナーの最後のちょっと外れた場所にある水槽。
イメージ 3

コシオリエビとかエビスダイとか、けっこう不思議系の生き物たちがいる。
ところが、深海っぽさを出すために、照明がかなり暗いのと、通路みたいな場所にあるので、やっぱりあまりじっくり見てもらえなかった。
それで、コシオリエビがよくいるあたりに、いくつか赤いスポットライトを落としてもらったのね。(後ろがぼーっと赤いでしょ)

たったそれだけのことで、水槽がずいぶん華やかになった。しかも深海のイメージを崩さずに。
そして、やっぱり赤いスポットがアイキャッチとなって、観覧者はなんか見なくちゃいけないみたいな気分になるのだ。


相模の海の大水槽も、近ごろずいぶん変わってきている。
岩にイソギンチャクがいっぱい貼り付いて、水槽が進化し始めたのだ。
その写真はうまく撮れなかったので、最近、大水槽で撮ったお気に入りの写真を…。
イメージ 4

え〜、ミノカサゴくんの尻尾に隠れた向こうの方の岩に、実はイソギンチャクがいっぱい貼り付いて、ゆらゆらと揺れているんだと思ってくだされw。

新江ノ島水族館は、おそらく日本で最も年間パスポートが売れている水族館。
そもそも、周辺人口の多さを狙って、地元のリピーターを増やす戦略にしたから、年間パスポートがよく売れるだけでなく、その利用率もとても高い。
そんな人たちが、「あ、ここ変わったわね!」なんて言いながらご覧になっているのを見かけると、ボクはもうすっごく嬉しくなる。
1年間を満足して、次の年にも年パスを買ってもらうためには、水槽や展示がどんどん進化していることが大切だ…というのが展示監督としてのボクの当然な考え方なのです。

というわけで、最近、えのすいに来てないというかた、ぜひ進化しつつあるえのすいを見に来て下さいねw。


■水族館を選ぶなら→WEB水族館:決定版!!全国水族館ガイド
□携帯版もできた!→水族館ワールド


久しぶりに「いい水族館」の書庫で・・・。

さて、もうすでに2週間も前になってしまった九州の水族館紀行のトリは、前回、水槽前ストリートライブの写真をちらっと載せたマリンワールド海の中道
でも、わずか1時間の滞在で、今回は館長への表敬訪問が主目的だったので、新しくできた場所を案内してもらいながら撮った写真しかない。

そんな中で、カンチョ的にはかなり惹かれた新展示、タッチング水槽。
元々タッチングの水槽はあったのだけど、改装されて、新しいタッチング水槽が新設されていた。

イメージ 1カンチョがいろんな水族館に行って、一番気にして見ているポイントは『観覧者の反応』だ。
もともと水族館素人だけに、顧客起点のプロデュースにはかなりの自信を持っているボクなのだけど、それでもやっぱりどこか供給者起点(水族館起点)になってしまうことが多い。
それを矯正するには、来館者の反応を見るに限る。                                                 
そうやって見ていて、水族館はそろそろ気づかなくちゃいけないな〜と常々思っているのが、このタッチングのコーナーなのだ。
タッチングコーナーで一心に生き物に触っている子は必ずいる。でも、よく見てみれば、ちびっ子だけであったり、さらにちびっ子の中の一部であったりすることが分かる。
ところが、この海の中道のタッチング水槽には、他では見られないくらいの高い割合で、観覧者が立ち止まっていた。
その光景だけで、ボクとしては、その謎を解かなくちゃならない使命が生まれちゃうw。

まず、高さがいい。
わりあい高い高さは、大人も覗きやすく、ちびっ子は岩に乗ればいいようになっている。
さらに、この高さと足下に空洞を造ったことにより、車イスの人だって普通に近くに寄って、生き物を触ることが出来る。伊勢志摩バリアフリーツアーセンター理事長のカンチョとしては、そりゃもういたく感心。

そして、面白いな〜と思ったのが、中央に陣取っているちびっ子。
他の観覧者の方を向いて、まるで水族館のスタッフであるかのように、生き物を得意げに見せたりしているのだ。
車イスのおばあちゃんにも、ナマコを手にとって見せてあげていた。すっかりインストラクター気分。

この子がどこかに行ったら、すかさず今度は女の子が入って、二代目(いや今日だけでもう何十代目なのだろう)インストラクターになっていた。
穴ぼこ一つで、これはなかなか面白い。

そしてさらに、車イスを寄せられる足下の空洞は、裏から見るとこんな風になっている。
 
イメージ 2生き物の裏っかわを見られるのだ。
こういう展示(天井水槽)は、裏を見せたい動物の水槽だとかで時折見られるのだけど、今まで見た天井水槽の中で最も小規模なこの水槽が、その効果としては最も高い水槽であると断言できる。
なぜなら、わざわざ裏から見ようとする行動が楽しいし、さらにすごく近くに見ることができるからだ。                                                
タッチング水槽とかタッチングプールというのは、触って体感するという触察体験だけでなく、観覧者自らの主体的行動が大切だ。自ら行動するという感覚が、タッチングの学習効果を上げるものなのだ。
昨日配信したメルマガにそのあたりのこと詳しく書きました。


さて、もう一つ、こちらも思わずニヤリとしてしまった水槽。
以前にタッチング水槽のあった場所は、スチール製の円柱で周りを囲まれていた。
そして円柱には、小さなスリット穴がいくつも開いている。そのスリットをのぞき込むと・・・・。
イメージ 3
中には干潟の水槽。
これは、本物の干潟の観察を体感する展示。
フィールドでは、葦の間からそっと見なければカニたちが逃げていってしまう。それと同じ効果を出すための円柱とスリットなのね。
なるほどこうすれば、飼育されているカニやトビハゼもおびえることなく活動できる。
そしてここでも、「そっと覗く」という、観覧者の主体的な行動が引き出されるのだ。

マリンワールド海の中道は、いかにも大衆受けするような派手な展示戦略は採っていない。
でも、水槽前ストリートライブといい、この展示といい、しっかりと大衆心理を掴んだ展示を目指しているな〜と感心した。
おそらくそれは、この水族館が学校や企業などさまざまな一般社会とコラボした活動を数多く行っているからじゃないかと思う。

さて、そんな活動を精力的にこなしておられる、海の中道の館長にご著書をいただいた。
「魚のつぶやき:高田浩二著」朝日新聞に毎週3年間連載されたコラムを1冊にまとめたものだ。
釣り欄の掲載で「魚のつぶやき」の題名なくらいだから、魚、魚、魚、ときおりマダコというほどに魚の本だ。それが、その魚からの自己紹介という形でつづられている。

実はカンチョもかつて毎日小学生新聞とかに3年間毎週連載したことがあるから分かるのだけど、毎週ってそりゃ大変。しかもボクは海獣からペンギンや無脊椎動物まで含めてのなんでもありで、それでもこれ以上はもう無理!と何度も思った。
それを魚だけで150回とは・・・。
そして、素人が読んでも十分面白い。 高田館長、さすが!なのである。

こうして人に何かを伝えることを、さまざまな方法で試みる高田館長の姿勢、それがマリンワールド海の中道の展示にもいきづいているからこそ、あのタッチング水槽が誕生したのだろうと思うのです。

■水族館を選ぶなら→WEB水族館:決定版!!全国水族館ガイド
□携帯版もできた!→水族館ワールド


実はカンチョ、今月から滋慶学園グループという専門学校の教育顧問に就任し、毎週1回、東京コミュニケーションアート専門学校(TCA)のドルフィントレーナー専攻のクラスに講義もすることになりました。(この書庫の前ログ、特別講義が縁でそんなことになっちゃった)
水族館職員以前の段階から、展示スタッフづくりに関わろうという魂胆なのねw。
(新江ノ島水族館の仕事は、展示監督という形で継続してます)
で、ちょっと置いていた「いい水族館」の書庫も、その講義と並行して記事載せようと意気込みだけは持ち始めているところw。

さてさてそんなこんなに関係して、下の3つの写真、みなさんはどれ(どの雰囲気)がお好みですか?
イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

これ、すべて八景島シーパラダイスのシロワニの水槽。
ここに来ると、まずほとんどの人たちが「サメ!サメだ〜!!!うぉ〜スゲ〜!」と大はしゃぎ。
シロワニは顔が精悍で図体もデカイから、とても目に付きやすくて、さらにたいていの人たちがこの水槽で立ち止まる。

するとアオリイカを発見するのね。
で「イカ、イカがいた〜〜!あぁきれい〜〜〜ウットリ」となる。
ここまでくるのがだいたい半数の人たち。
でも、イカを発見した半数の人たちの、この水槽での滞留時間はとたんに長くなる。どうやらまったりするらしい。

そして、そんな人たちが、頭上にきらめくイワシの群に気づくわけ。
でも今度は気づいても「イワシ、イワシがいる〜!!」とはならずに、ただただまったり度合いを深めて、すごく長い時間ここにいたり、まあ千人に一人くらいは床に座り込んでしまったりということになる。

だからこの水槽はとてもいい水槽。
単純に、異種を混合飼育することで、海の様子や生態を知らしめるというだけではない。いやむしろそんな結果はあまり期待できなかったりもする。
まず、たった一つの水槽で、水族館に「未知や発見の刺激を求める人」「癒しを求める人」「動物画好きな人」などどのような観覧者にも対応できていること。
さらに、観覧者の期待感を、満足から新たな満足へと移り変わらせることで、期待されてもいなかった知的好奇心を起こしつつ、より大きな満足感を呼び起こすことができるということ。
つまり、カスタマーの満足度を提供という点で、カスタマーズ起点的にすごくいい水槽なわけです。

こういうのって、単なる展示テクニックなのだけど、実はそれをテクニックとして学び、さらにそのテクニックを駆使していい展示を実現するのはとても難しい。
そもそも、この水槽も、テクニック的なことを考えて完成したのではなく、飼育スタッフたちの「あれも見せたい」「自分はこれが好き」というようなのが重なってできたのじゃないだろうか。(テクニックだとしたら八景のみなさん、失礼しました)
だからTCMの講義では、多様な観覧者の観点に立って、展示やインタープリテーションをすることを、一番最初の課題にしているところ。

そんなワケで、上の3枚の写真、みなさんはどの雰囲気が好きなのか尋ねてみたのです。
今後の参考にもしたいので、ぜひ順番つけるなり、どれかを選ぶなりして、教えていただければ幸いです。

えっと、ボクの好みは、イワシ群→イカ→シロワニの順。
多分、シロワニをいろんなところで見過ぎているのと、ボクが水族館に求めているのは、普通の人に最も多いと思われる「癒し」や「水塊」そのものだからですね。
なので、実はこんな感じ↓が一番好きな雰囲気です。
イメージ 4



学芸員の穴を目指せ!

昨日今日の2日間、「TCA=東京コミュニケーションアート専門学校」で、特別講義なるものをしてきました。
1日に90分授業3本をいつもの講演の調子でやったら、もうめちゃくちゃ疲れちゃった。ふ〜。

で、内容は、「学芸員の穴を目指せ!」=ホンマもんのキュレイター(学芸員)になれ!
キュレイター(curator)は、日本語では「学芸員」ということになっている。
学芸員なら、どの水族館にもいるし、実際には学芸員になるためには大学で教員課程に近い履修をした上で資格試験に合格しなくちゃならない。
でも、日本の水族館(博物館や美術館も)の学芸員には、欧米でいうところのキュレイターの仕事をしている人は驚くほど少ないのだ。

ボクはこれを、「学芸員の穴」と呼んでいる。
つまり、学芸員資格などなくても、ホンマもんのキュレイターがいないのだから、誰だってそこに納まることはできるのだ。

用語としての「学芸員」とは、博物館法に基づいた博物館の専門員のことだ。
ざっくり言えば、普及活動や、展示物の管理、調査研究などを専門的に行う知識技能を持った職。
水族館での展示物は生物だから、普及活動に、生物の飼育、生物の研究などのことだ。
そして水族館の本分は「展示」そのものにある。
だから、本来、学芸員なるものは、展示のために、飼育し、研究するべきなのである。

ところが、ほとんどの学芸員は、本分たる展示による「普及活動」がなんたるものかを知らないように思える。(あくまでも「ほとんどの」であって、まっとうな学芸員も何人か知っていますよ)

普及活動の専門職とは、水族館にやってくるごく一般的な大衆に、何を伝え、どうやれば伝えられるかを研究し、それを実行する職だ。
これが、ちゃんと機能していないから、水族館の魅力は半減してしまっている。

この傾向は美術館にとても顕著だ。
例えば、美術館の解説の難解なこと。これはホントに現代日本語か?と思うくらいに、専門用語をちりばめ着飾り、意味不明で滑稽でさえある。
例えば、美術館の敷居の高さ。あまねく人々に、芸術の素晴らしさを広めるのが美術館の大きな使命ではないのか?まるで大衆は来るな!と宣言しているようだ。
芸術を鑑賞するのがとても好きなボクだが、こんなことじゃ、日本に美術文化は根付かないだろうと心配している。
そしてこの責任のかなりの部分が、館長と学芸員にあると思うのだ。

そして、それと同じことが水族館にも起こっている。
たいていの場合において、解説などが学芸員が書くのだけど、たいていの場合において、その解説の面白くないことといったらない。
それは、自然科学のことしか勉強していない学芸員の知識で、大衆の興味を引こうという努力をせずに書かれているからだ。
(何度も言うけれど、全ての学芸員ではないですよ。あくまでも「たいていの」ですから)

水槽の作り方もそうだ。
学芸員の仕事の一つである「展示物の管理」は、水族館では生物の飼育だから、飼育の方法にばかりに目が行く。
すると、その水槽で何を伝えようとするのかが、おろそかになってしまっていることが多い。
調査や研究をしても、数少ない水族館関係者が読む論文を書くことには、たいへんな時間と労力をかけるのに、その成果を大衆に伝える努力は忘れてしまっている。

ボクが(大衆が)学芸員に望むのは、展示の質を高め、展示の手法を開発することだ。
そのために、研究をしてもらいたいのである。

例えば、米国の水族館では、擬岩をつくるのが専門のキュレイターがいてびっくりした。
彼は、水槽が表そうとしている環境や生物の生態を、客にいかにリアルに伝えるかどうかを研究して、それを実現していたのだ。なるほど理にかなっている。
ところが日本では、その水槽の造作を、設計士や擬岩デザイン専門の会社に委託してしまっていることが多い。おかげで、どの水族館のアマゾン水槽も、同じつくりになっている。

ボクの水族館プロデューサーという職は、日本でもそんなことは水族館のスタッフでしようよという気持ちから始まっている。
実は今年から、新江ノ島水族館では肩書きを改め「展示監督」となっているのだが、本来のキュレイターの意味には「監督」という意味合いがとても強い。
(※展示監督の話はまた別の機会に)

このような仕事をする人がいない日本の水族館の現状が「学芸員の穴」なのだ。
あぁそうか、ある意味ボクの仕事は、隙間産業だったんだ・・・・。

そしてこの仕事は、別に学芸員の資格などなくてもできるのだ。
いや、おそらく、学芸員の資格がない方が、いろんな展示手法を考えやすいのかもだ。
現実に、いい展示を行っている水族館の中心人物は、学芸員の資格を持っていないスタッフに多いのだ。ちなみにボクは学芸員の資格を持っていない。

やる気と努力と、ちょっとしたセンスさえあれば、誰にでもなれるホンマもんの学芸員。
学芸員の資格を持っている人も含め、ぜひ水族館のすべてのスタッフに目指してもらいたいものです。

この2日間特別講義をしてきたTCAの卒業生から、そんな未来の水族館スタッフが育てば嬉しいものだと期待しているところです。

ボクがよくお世話になっている温泉旅館がある。まともに支払えば一人ウン万円の高級旅館だけど、ワケあって毎回タダで泊めてもらっているw。
その旅館、部屋も温泉も立派なのだが、食事の内容がまたすごい。味も見た目も一流なだけでなく、品数がめちゃくちゃ多くて和風満漢全席状態。小食のボクなど泣く泣く半分以上残してしまう。

例えばメインになる品だけでも、フグ刺し1皿、●●牛のステーキ、●●ブタの煮込み、イセエビの半割ソテーと、どれか一つだけあれば十分なメインディッシュが4品も次々に出てくるのだ。
もちろん、これにお刺身の盛り合わせや、前菜などがめいっぱい出てくる上での話である。

相撲取りとかでなくてこの料理を全部食えるのは、育ち盛りの男子中高生か、体育会系の大学生くらいだろうが、そんな子どもたちが泊まれるような旅館ではない。
年齢もかなりいって、普通より小食の人たちが、この旅館の主なお客さんなのだ。

仲居さんに聞いてみたら案の定、食べきれないのはボクだけでなく、みなさんそうで、中には量が多すぎると怒る人もいるという。
いつもお世話になっている義理があるので、その旅館の社長と食事をしているときに、量を少なくした方がいいとの提案をした。

すると社長曰く、料理長には常に少なくするように言っているのだが、なかなか言うことを聞かない。とのこと。
一般の方々には、不思議に思われるだろうが、宿泊施設において腕のいい料理人というのは、妙に力を持っているのだ。
たとえ社長に命令されたからと言って、なかなかすんなりと言うことを聞くものではない。

さらに、一流の旅館の料理長には、それなりの自負や見栄がある。
「どれほど手の込んだ料理を何品出しているか」「食材には何を使っているか」「どんな業物の器に料理を載せているか」など、それは同業者との技の競い合いであり、部下や仕入れ業者の尊敬を集める見栄でもある。
そうやって、一流の料理人からは素晴らしい料理が供され、さらに箔が付いていくというわけなのだ。

しかしだ、そうは言っても、料理は食うものであって、眺めるものではない。
いくらスゴイ料理が並んでも、食べきれなかったら、食べられない悲しさと食材の命に対しての申し訳なさが募るばかりだ。
これはもう、料理長の自己満足としか言いようがないではないか。

さてさて、なんでまた「いい水族館」の書庫でこんな話を始めたかというと、実はこれと同じことが、水族館や博物館(美術館)でもよく起こっているからなのだ。

料理長=飼育係や学芸員、出される料理=展示だ。
料理の技の披露や、料理人の世界での勝負にこだわるあまり、客の気持ちのことをすっかり忘れている料理長。
学術的なことやら動物の飼育、他館との立派競争にばかり目が行って、「展示によって客の好奇心を起こす」という最も大切なことを忘れている飼育係(学芸員)。

料理長に悪気があるわけではないし、飼育係や学芸員に悪気があるものでもない。
それどころか、かなり一生懸命にやっているはずなのだ。ただただ、上を目指そうと頑張っているのに違いない。
しかしそのせいで、誰のために旅館や料理があるのか、なんのために水族館があって動物を飼っているのか、という最も大切なところを、客の立場になって考えることができなくなってしまうのである。

そして、どうしてそんなことになってしまうのかも、ボクにはよく理解できる。
自分たちの技術を評価する方法を、自分のいる世界でしか考えられなくなっているのである。
こういうケースは、どんな業界でもあり得る。

ボクは旅館の社長に、料理長のへそを曲げずに言うことを聞かせる方法を提案した。
メインとして通用する4品の料理から、客に2品だけを選ばせるという方法にすればどうかと考えたのだ。

こういった旅館に一人で泊まる客はまずいない。さらに夫婦か家族か恋人か、とにかく仲のいい相手としか泊まるわけがないのだから、一人が2品選ぶことができれば、シェアするという前提で結局4品は選ぶことになるだろう。

客は、まず選べるということで、楽しみができ、お得感を感じる。
ついで、2人いれば全品食べられることに気づいて、ラッキー!と思う。
それでもまだ量は多いはずなのだが、自分で選んだのだから文句を言えない。

料理人にとっては、自分の技であるすべての料理を楽しんでもらうことはできる。
さらに最初に出すお品書きにも選択用に書かれた4つの料理名は残る(料理人にはこれが大切)。

そして社長にとっては、客の満足度は上がるうえに、なんと食材費が下がる!もちろん料金はそのままでいい。

で、1ヶ月後に旅館を訪れたとき、料理はボクが提案した方法に変わっていた。
選ぶのはとても楽しかったし、なんとかすべての料理を楽しむことができて満足だった。
仲居さんに聞いてみたら、客の反応はとてもよく、多すぎるとの文句がなくなったばかりか、選べることに喜ぶ客がとても多いとのことだった。

同じ料理長、同じ料理を、カスタマーズ起点で考えて、ちょっと組み直すとそんな結果が出る。
ボクが水族館でやっている、水族館プロデュースとか展示監督とでも言うべき仕事は、そのようなことを水族館で行うことなのである。

でもカスタマーズ起点、本当は客の様子を見ていれば、客の会話を聞いていれば、あるいは客になってみれば、すぐに客の視点で考えることはできるのです。
もちろん、そこからカスタマーズ起点の展示にするのは、まあちょっとアイデアを出すためのテクニックが必要で、そこがボクの企業秘密というわけなのですけれどねw。


.
kapaguy
kapaguy
男性 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
最大10万円分旅行クーポンが当たる!
≪10月31日まで≫今すぐ応募!
衛生対策製品クレベリンの姉妹ブランド
クレベ&アンドハンドジェルが新登場
今だけ。お試しキャンペーン実施中!
抽選で150,000名様に当たるチャンス!
マツモトキヨシで期間中何度でも使える
100円引きクーポン<Yahoo! JAPAN>

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事