ブログ水族館/中村 元

次回『中村元の超水族館ナイト』は2019年2月24日(日)の開催。前売り発売は1/24です

いい水族館

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魚名板、普通は、生物の写真に、
・和名(カタカナかひらがなで書かれている日本の標準和名)
・英名(英語での種名)
・学名(ラテン語で書かれた、世界共通の種名)
となっている。

じゃあ、みなさんの知りたいのは?
とりあえず興味を持った生物の名前を知りたいでしょう。それが和名。
でも、この和名というのがまた、カタカナやひらがなで読みにくいし意味がわかりにくい。
(新江ノ島水族館では、漢字表記を大きく出したら、けっこう読まれてる)

英名は英語圏の人のための表記なので、カタカナよりもさらに意味が分からない
学名は、一応博物館として必要なだけで、これを読もうとする観客は、ほとんどいない。
いや、実は、学名を正しく読める飼育係も、ほとんどいないのだけど。。。

そんなわけだから、魚名板を見ると、なんだかちょっと冷たい感じがするし、
特に興味を持った生物がいない限り、名前を確かめることもないのですね

ところが、魚名板だけでも読みたくなるという水族館があるのです。
高知県の桂浜水族館
こちらの魚名板は、すべて手作り。
しかも、このコンピューター印字時代に、なんと手描き!

表記は、和名に小さく学名で、英名はなし。
そのかわり、「いごっそうオヤジ」という似顔絵のおじさんが、
図鑑などに載っていることとはほど遠いことばかり、
地元での名前や、食べ方、どこでよく釣れるなんてことについて、教えてくれている。

さらに、動物写真はいっさい使わず、切り絵が添えられている。
これ、描いた絵ではなく、新聞や包装紙を重ね貼りした、切り絵なのですよ!もう芸術。
ここではどちらかといえば、まず魚名板を見てから、その魚を探す、という感じ。
感触でいえば、日本一暖かみを感じる魚名板でしょう。

すべての水族館で、こうした方がいいというわけではないのだけれど、
魚名板、まあ普通はこうだろう、というのではなく、
ここまで気合いを入れて作ってくれているという感覚が、とても嬉しくはありませんか?

●photo下は、桂浜水族館名物アカメ。絵はがきにもなっている。

河童の棲む水槽

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妖怪大戦争にも色濃く現れているアニミズム。
アニミズムとは、すべてのモノや事象には霊魂(アニマ)が宿っているという考え方。
朝日や滝に手を合わせることや「一寸の虫にも五分の魂」これ、アニミズムだ。
古事記には、おしっこの神様や砂利の神様も登場する。これもアニミズム。
だから日本には、八百万の神様と、妖怪大戦争のスクリーンからはみ出すほどの物の怪がいる。

西洋の宗教学者に言わせれば、宗教は多神教から一神教へと"進化"するとのことで、
先住民は、原始的な思考を持っていると言いたいらしい。
もちろん、妖怪の映画つくって喜んでいる日本人も原始的と言いたいのだろう。
でも、こんな風に、いにしえのことや、先住民のやっていることはすべて進化しておらず、
自分たちだけ進化と考えたがる西洋の学問は、すいぶん乱暴な話しで、理解しがたい。
サメのような、早くに完成された生物に対して、「生きている化石」という失礼さに似ている。

だいたいにおいて、アニミズムは宗教じゃない。
世界観であり、自然への信仰心なのだ。
日本は、先進国(←これもすごい言い回しだが)なんて仲間に入れられた国としては、
唯一、国民のほとんど誰もが、アニミズムの精神を持ちあわせている類い希な国だ。
一昨日も、新幹線の中で、富士山に向かって手を合わせるおばあちゃんがいた。
というか、みなさんだって、初日の出に手を合わせているだろう。

このすごい世界を、ボクたちは誇り忘れないようにしたいものだと思う。
だからボクは、水族館の水槽には、常にこの感覚をよみがえらせようとする。
かつての超水族館の川の水槽には、毎日念じて、ついに自分の河童を住まわせた。
新江ノ島水族館では、磯女が潜んでいそうと誰もが感じる岩礁演出に努力した。

ボクが日本の海や川に抱くイメージは、
海の恵みを与えてくれると同時に、人命や大切なものを奪いもする、底知れぬ力。
少し深く潜ると、物の怪か何か出てきそうな怖さ。
深みの暗さや、どこまで広いのか深いのかも分からない凄み。

たぶんカンチョ、顔は濃い系だし、縄文人の血が流れているのだと思う。
アニミズムが地球を救うと思っているくらいだしね。
だから、西洋から伝わってきた水族館の仕事をしながら、西洋科学に収まるのが好きじゃない。
むしろ、新しい時代の水族館は、日本でしかできないだろうと思っているくらいなのだ。

いや、ボクだけでなく、日本の水族館の水槽(特に川の水槽)の多くは、
当初の出来映えいかんにかかわらず、アニミズム世界観に"進化"していることが多い。
担当者が、それとは気づかないまでも、ボクと同じ気持ちになっているのだろう。
「一寸の虫にも魂」と教えられて育ってきた人なのだから、実に自然なことだと思う。

実は、アメリカの環境運動活動家や、環境学者たちの中でも、10年ほど前から、
ネイティブアメリカン(先住民=インディアン)のアニミズムに学べという考えが主流になった。
環境活動はアメリカが進んでいると信じちゃっている日本の活動家は、けっこう多いのだが、
彼らまでもが、ネイティブアメリカンに学べと言っているのは、ちょっといじましい。
そんなアメリカ向いて回りくどいことしなくたって、学びの相手は、そこにいるよ!そこに。
日本人がそうなんですって。

実は、水族館の人たちも、アニミズムや世界観なんて、あまり意識していないのだろうと思う。
アニミズムなんて知らないとおっしゃる現役の館長さんもいるくらいだし(これは勉強して下さい)。
でも、日本の水族館の、担当者が頑張っている環境水槽には必ずその精神を見つけられる。
ぜひ、探してみてください。

写真は、カンチョが河童を住まわせてきた水槽。きっとまだ棲んでいると思う。

週刊朝日の「掘り出し水族館」で紹介した水族館は、もちろん「いい水族館」だ。
どれも失礼ながらマイナーな水族館ではあるけれど、入館者から不満の声は聞こえてこない。
それどころか、入館者の目はきらきらと輝き、満足感あふれる反応が見て取れる。
ただし、その反応は、「きゃーすごーい!」と歓声が多い水族館もあれば、
静かにひとときを楽しむ人が多い水族館もあって、それぞれでマチマチだ。

この「よそと反応が違う」というのが、いい水族館の特徴でもある。
なぜ、それぞれの反応が違うかと言えば、それぞれ大切にしているスタイルが違うからだ。
総合力では大型水族館に負けても、「スタイル=生き方」に、特徴的な魅力があるのだ。
金も地位もなくても、生きるスタイルの格好いい奴がモテるのに似ている。

水族館は、新しくオープンした直後というのは、どこでも間違いなくモテモテだ。
最新のファッションに身を包み、最新のモノを持った、ミステリアスな転校生みたいなものだから、
誰もが興味を持つのは当たり前なのだ。
でも、底が浅ければ、すぐに飽きられてしまう運命でもある。

そこで、しっかり自分のスタイルを持っている水族館が生き残る。
別にクラスの全員にモテなくたっていい、
自分のスタイルを気に入ってくれる相手が、何人かいてくれればいいだろう。
ただし、スタイルには魅力がなくては誰も振り向いてはくれない。
スタイルに対するセンスとこだわり、それを具現化できる行動力と努力。
それが、カッコいいスタイルを表現するのだ。

逆に言えば、
スタイルのはっきりしない水族館は、新しくても大きくても魅力はない。
○○水族館の魅力はこれだ!これだけは他の水族館に負けない。
そう言えるものを持っているかどうかで、その後のモテぶりがどうなるか予想できる。
みなさんのお気に入りの水族館は、どんなスタイルを持っているだろう?

いい水族館の最低条件として、「水槽がきれいな水族館」は外せない。
そんなこと、水族館として当たり前なのだが、それがなかなかそうではなくてがっかりする。
壁面に付いた藻はもちろんのこと、ガラス面に藻が付いているのがどうしても許せない。
一カ所見つけてしまったときには、いちおうボクも大人だから「見なかった、見なかった」と記憶から消し去ることにしているが、2つめの汚れに遭遇するともう帰りたくなる。
だいたい、一つ見つけると、またさらに汚れがあるのを見てしまうのじゃないかと心配で、水槽を真剣に見ることができなくなる。

確かに、水槽の掃除はタイヘンなのは知っている。
特に潜水しての水槽掃除は、疲れるし、単調だし、時間はかかるし、飼育係にとっても辛い。
運営者(経営者)にとっては、このコストダウンの時代に人件費がかかるのはイヤなことだろう。
その上最近は、サンゴや海藻など、明るい光が必要な展示が増えているから、けい藻も生えやすいし、それが巨大化しているのだから、かつてよりますますタイヘンなのも分かる。
でも、きれいにできないのなら、最初からきれいに保てる規模の水槽づくりをすればいいのだ。

水槽は、古くなればなるほど傷がついて、傷の中にけい藻が根を張り、取れにくくなるのだけれど、それでもとてもきれいにしている水族館もある。
それはひとえに、来館者に不快な思いをさせたくない、中にいる生物をすっきりと見せたい、という思いがあるかないか。
だから、古くても水槽がきれいな水族館に行き当たると、それだけでとても得をした気分になれる。
もちろん、新しくて巨大な水槽がきれいに掃除されていると、実に気持ちがいい。

しかし、問題は、水族館側では、来館者がそんなこと思っているなんて、気づいてもいないことが多いということなのです。
みなさん、水槽が汚れている水族館では、帰りがけのアンケートとかメールにて、「水槽の汚れが気になった」と教えてあげて下さい。
それが、何通もあれば、水族館側もきっと気づくはず。
そしたら、次に行くときには、いい水族館の一丁上がりです。

いい水族館

本物の水族館の館長になったこともないから言えるのだけれど、
全国に100も水族館があれば、おのずと、特別いいと思える水族館というのがある。
それは、大きさの問題でも、新しさの問題でも、展示生物の問題でもない。
どれほど立派な水族館でも、利用者に対して尊大だとしか映らないこともあるし、
どれほど新しくても、水槽が汚れていたり、水が濁っていれば、げんなりだ。
珍しい生物が、哀れにしか見えなかったら、もう二度と見たくなくなる。

特別いいと思える水族館は、「いい水族館時間を過ごした」と思える水族館。
そしてそれは、水族館の運営が、あるいは建設時に、利用者に対してどのていど気をつかっているかによって決まるように思う。

ところが、それがあまり重要視されていないというのが、日本の博物館界の現状なのですね。
今や、カスタマーズ起点(顧客起点=利用者起点)というのは、経済界の一大テーマなのに。
なので、利用者起点に立ったいい水族館というのはいったいどんな水族館なのか、ちょっと書き留めておこうと思う。

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