宇宙とブラックホールのQ&A

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マンダラの天文神

目次
 0.はじめに
 1.密教と曼荼羅
 2.胎蔵曼荼羅最外院の天文神
 3.七曜・九曜
 4.二十八宿と十二宮
 5.十二天の日天・月天


 0.はじめに
10連休なので、東京上野の東京国立博物館でやっている特別展「国宝 東寺−空海と仏像曼荼羅」を見に行き、カタログの他にマンダラに関する本を2冊買いました。
・縮刷版 曼荼羅図典(大法輪閣)
・カラー版 図解・曼荼羅の見方(大法輪閣)
マンダラには天文神という尊格が登場するので、カタログを含む3冊の書籍を基にして天文神の紹介をしたいと思います。
図画を言葉で解説しようとするかなり無理な試みではありますが、このブログではよくあることです(^^;


 1.密教と曼荼羅
密教とは秘密仏教の略であり、インドで7世紀初め以降に体系化された後期大乗仏教を意味します。
中国に伝えられた密教は、空海(774〜835)によって日本にもたらされ、真言宗として広められました。
密教の教えはとても深い(甚深じんじん)ため、経や論という言語による表現の解釈だけでは表面的な理解に留まってしまいます。
このため、多数の仏たちを視覚的に図示して密教の教えを「いろと形」で表現したマンダラと呼ばれる図画が不可欠とされます。

マンダラ(mandala)はもともとはサンスクリット語で、サンスクリット語のアルファベット表記としてはnとdの下に点を打ちます。
曼荼羅などと漢語に音写されています。
元来は「円形の」という意味の形容詞で、名詞にも使われて「円盤、環、車輪;群、集団、全体;地域、領域」などの意味をもちます。
以後は、漢字の曼荼羅を使うことにします。

空海は、中国・唐から多数の経典などとともに、曼荼羅も招来しました。
空海の招来した曼荼羅を現図(げんず)曼荼羅といいますが、それには胎蔵(たいぞう)曼荼羅と金剛界(こんごうかい)曼荼羅の2種類あり、合わせて両部曼荼羅あるいは両界曼荼羅といいます。
真言宗では、『大日経(だいにちきょう)』(詳しくは『大毘盧遮那成仏神変加持経(だいびるしゃなじょうぶつじんぺんかじきょう)』)と『金剛頂経(こんごうちょうきょう)』(18種の経典の総称)を根本経典と位置付けます。
簡単にいうと、大日経を図画化したものが胎蔵曼荼羅、金剛頂経を図画化したものが金剛界曼荼羅です。
どちらも最中心には大日如来が座しています。
大日如来は、密教で宇宙一切を司るとされる宗教的人格です。
サンスクリット語では「マハー・ヴァイローチャナ・タターガタ」といい、マハーは大、ヴァイローチャナは光、タターガタは仏・如来を意味します。
大毘盧遮那如来(だいびるしゃなにょらい)あるいは大毘盧遮那仏という別訳は、ヴァイローチャナを音写したものです。

曼荼羅は図画なので、見てもらわないことには始まらないのですが、胎蔵曼荼羅にしろ金剛界曼荼羅にしろ、全体は正方形でその中に多数の仏たちがびっしりと描き込まれています。
このため、本の1ページあるいはパソコンの画面に全体を表示すると、仏たちの一々は小さくなりすぎてはっきり見て取れとれず、拡大図が必要です。

胎蔵曼荼羅は、中央の中台八葉院(ちゅうだいはちよういん)と呼ばれる部分を仏たちが幾重にも取り囲んでいる構図となっています。
一方、金剛界曼荼羅は、会(え)と呼ばれる9つの正方形部分から構成されているため、九会曼荼羅(くえまんだら)とも呼ばれます。


 2.胎蔵曼荼羅最外院の天文神
これまで曼荼羅に描かれている尊格を仏たちと一括して呼んできましたが、細かくみると次のような区別があります。
如来(にょらい) : 悟りを開いた後の姿。質素な身なりであり、互いによく似ている。男女の別なし。狭義の仏。
菩薩(ぼさつ) : 如来になるため修行中の姿。装身具を身に付けている。男女の別あり。
明王(みょうおう) : 仏法の敵(欲望の化身など)と戦うため、恐ろしい憤怒の姿をとった仏。
天(てん) : もともとヒンドゥー教の神格だったが、仏法に帰依(きえ)して仏法の守護者となったもの。男女の別あり。
如来や菩薩には頭を中心とする後光である頭光(ずこう)と体を中心とする後光である身光(しんこう)の両方がありますが、天には頭光しかありません。

この記事で紹介する天文神も、天の一部です。
多数の天文神が描かれているのは胎蔵曼荼羅であるため、本稿では胎蔵曼荼羅の天文神をご紹介します。

胎蔵曼荼羅の一番外側を取り囲んでいる4辺を最外院(さいげいん)あるいは外金剛部院(げこんごうぶいん)といいます。
最外院に描かれている尊格は200強で、より内側に描かれている尊格が200弱であるのと比べ数が多いのですが、その分大きさの小さいものも多くなっています。
曼荼羅の4辺は東西南北に対応していて、上辺−東、右辺−南、下辺−西、左辺−北となっています。
4辺とも真ん中にある門によって2分されます。

天文神とは、七曜(しちよう)・九曜(くよう)・二十八宿(しゅく)・十二宮(くう)などをいいます。
主に、密教の経典の一つである宿曜経(しゅくようぎょう、すくようぎょう)に基づいているようです。
(宿曜経は日本に入って、宿曜道(すくようどう)の基となりました。)
七曜とは、日曜、月曜、火曜、水曜、木曜、金曜、土曜ですが、現代的な一週間の曜日の意味ではなく、太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星という各天体のことです。
九曜とは、七曜に羅睺(らご)星、計都(けいと)星を加えたものです。
二十八宿とは、天空における月の通り道にある星たちを28分割したもので、月が星を宿として天空を進むと考えた詩的な名称です。
中国で使われていたのは知っていましたが、もともとインド起源だったのですね。
十二宮は、太陽の1年間の運行を12分して12の星座に相応させたもので、古代ギリシアから現代にいたるまで占星術で使われている黄道十二宮と同じですが、名称はやや異なります。


 3.七曜・九曜
七曜・九曜などの方角は次の通りです。
東方(上辺右側) ・・・ 日曜、計都(彗星)、流星
南方(右辺上側) ・・・ 火曜、木曜、羅睺星
西方(下辺右側) ・・・ 月曜、水曜、土曜
北方(左辺上側) ・・・ 金曜

日曜 : 赤肉色で、右手に日輪をもち、左手は腰に伏せ、天衣を着け、三頭の白馬に乗る、というより座っています。日曜の右側には、日曜眷属がいます。
月曜 : 肉色で、右手を挙げ、ウサギを乗せた半月をかかげる、左手は拳にして胸に当てて、円座に座っています。
火曜 : 肉色で、秘儀手は股に当て、左手は戟(げき)を執(と)って構え、円座に座っています。
水曜 : 肉色で、合掌し、星月のある冠をかぶり、円座に座っています。
木曜 : 白肉色で、右掌を上にして中指と薬指を親指と合わせ、左手は拳にして腰に置き、円座に座っています。
金曜 : 肉色で、天衣を着け、右手は胸に当て、左掌を上に向け四指を曲げて、円座に座っています。
土曜 : 肉色の老仙人で、上半身は裸体、豹皮の裙(くん、スカートのようなもの)を着て、右手に仙杖をもち、歩く姿。土曜を含め、立ち姿の天には頭光はありません。

天衣(てんね)というのは、肩掛け(ストール)です。
七曜の中で土曜だけが違う姿ですが、惑星の中で公転周期が一番長いので、ゆっくり歩く老仙人の姿をとっているのでしょう。

羅睺星はサンスクリット語ではラーフといい、日食、月食を引き起こすと考えられた架空の天体です。
曼荼羅では頭だけで表現されます。
白肉色で、忿怒の顔、頭髪は逆立ち、両手を耳に当てています。
ヒンドゥー教神話によると、神とアスラの戦いで不死の霊薬アムリタが神の手に入る前にラーフが一口なめてしまい、日・月がそれに気づき報告を受けたヴィシュヌ神がその首をはねたが、口の中にあった霊薬の力により頭だけが生き残り、告げ口をした日・月を恨んで日・月食を起こすといいます。

一方、計都星の方は、異なる解釈があります。
一つは、インド天文学で、黄道(太陽の通り道)と白道(月の通り道)の交点のうち、昇交点を羅睺、降交点を計都としたというものです。
九曜というまとめ方は、計都と羅睺が同種だとすれば、納得いきます。
もう一つは、彗星つまりほうき星だとするものです。
曼荼羅に描かれている姿は、肉色で、雲の間から半身を現し、右手を胸にあて、左手をかかげています。
人魚の下半身を魚ではなく雲にしたようにも見えます。
明らかに彗星という解釈で描かれていますね。
曼荼羅では彗星のすぐ右側には、流星が描かれています。
こちらも肉色で、頭上で合掌し、素早く飛ぶ童子形です。
曼荼羅を見る限り、彗星と流星は同種のものとして一緒に描かれています。
(もちろん、現代天文学からすると両者に共通点がないことは中学生でも知っていますが。)
ただ、計都が彗星だとすると、彗星を九曜に入れながら、流星を外す理由が分かりません。


 4.二十八宿と十二宮
二十八宿は次の通りです。
東方(上辺右側)・・・
 昴(ぼう)宿、畢(ひつ)宿、觜(し)宿、参(しん)宿、井(せい)宿、鬼(き)宿、柳(りゅう)宿
南方(右辺上側)・・・
 星(せい)宿、張(ちょう)宿、翼(よく)宿、軫(しん)宿、角(かく)宿、亢(こう)宿、氐(てい)宿
西方(下辺右側)・・・
 房(ぼう)宿、心(しん)宿、尾(び)宿、箕(き)宿、斗(と)宿、牛(ご)宿、女(じょ)宿
北方(左辺上方)・・・
 虚(きょ)宿、危宿、室宿、壁宿、奎(けい)宿、婁(ろう)宿、胃宿

二十八宿は数が多いのですが、頭の向きや手の形、持っているものは異なるものの、いずれも頭光があり円座に座っているので、個々の紹介は省略します。
二十八宿が現代のどの星座に対応するのか、この機会に合わせて紹介しようかとも思ったのですが、面倒なので、これまた省きます。
なお、wikiに載っている日本で使われていた二十八宿の分類と比べると、方位が必ずしも一致しません。

十二宮は次の通りです。
参考までに、右側に対応する西洋占星術由来の名称と星座名を載せます。
東方(上辺右側):
 牛密(ごみつ)宮 ・・・ 金牛宮 ・・・ おうし座
 白羊(はくよう)宮 ・・・ 白羊宮 ・・・ おひつじ座
 夫婦宮 ・・・ 双児宮
南方(右辺上側):
 賢瓶(けんびょう)宮 ・・・ 宝瓶(ほうへい)宮 ・・・ みずがめ座
 双魚(そうぎょ)宮 ・・・ 双魚宮 ・・・ うお座
 摩竭(まかつ)宮 ・・・ 磨羯(まかつ)宮 ・・・ やぎ座
西方(下辺右側):
 秤(ひょう)宮  ・・・ 天秤(てんびん)宮 ・・・ てんびん座
 蝎虫(かっちゅう)宮 ・・・ 天蝎(てんかつ)宮 ・・・ さそり座
 弓(きゅう)宮  ・・・ 人馬宮 ・・・ いて座
北方(左辺上方):
 師子(しし)宮 ・・・ 獅子宮 ・・・ しし座
 少女宮 ・・・ 処女宮 ・・・ おとめ座
 蟹(かい)宮  ・・・ 巨蟹(きょかい)宮 ・・・ かに座

訳語としては、二文字で揃えている方が統一感を感じますね。
曼荼羅と西洋占星術で、まったく同じ漢字と読みは双魚宮と白羊宮の2つだけです。
もっとも、同じ「宮」でも左側では「くう」、右側では「きゅう」と読みます。
牛密宮は赤黄色の牛、白羊宮は白色の羊がそれぞれ足を曲げてすわった姿、蝎虫宮はサソリの姿、師子宮は金色のライオンが跳躍する姿、蟹宮はカニの姿、賢瓶宮は宝瓶に蓮華のささった姿です。
人間以外の場合は、頭光がありません。
摩竭宮は海の怪物で、口を張り尾をあげた大魚として描かれ、シャチかサメらしいということですが、星図に描かれるやぎ座はギリシア神話に基づき上半身が山羊、下半身が魚の姿です。
秤宮は肉色、裸体の老仙人で、左手は胸に当て、右手の秤を目の高さに挙げて、歩行する姿です。
弓宮は肉色で、右手に矢をもち、左手で弓を抱えもち、歩く天人の姿です。
二本足なので、人馬宮のケンタウロスとは異なりますが、ケンタウロスの姿のものも伝わっているとのことです。
夫婦宮と双児宮も、全然違いますね。
夫婦宮は、男女二人が別々に円座に座っている姿が描かれています。
秤宮と弓宮は立っているので頭光がありませんが、夫婦宮の二人にはいずれも頭光があります。

同じ辺にいる天文神たちが並ぶ順序も紹介しようかと思ったのですが、面倒なのでやめておきます。
お知りになりたい方がもしいれば、リクエストしてください。


 5.十二天の日天・月天
以上で紹介した天文神たちとは少し異なるのですが、日天と月天も紹介しておきます。
天文神と同じく最外院に属す尊格として十二天という神々がいます。
十二天とは八方天に四天を加えたもので、それぞれの方角に配され仏法を守護します。
(八方天)
 北東 − 伊舎那(いしゃな)天
 東方 − 帝釈(たいしゃく)天
 東南 − 火(か)天
 南方 − 焔摩(えんま)天
 南西 − 羅刹(らせつ)天
 西方 − 水(すい)天
 西北 − 風(ふう)天
 北方 − 毘沙門(びしゃもん)天
(四天)
 上方 − 梵(ぼん)天
 下方 − 地(ち)天
 天空東 − 日天(にってん)
 天空西 − 月天(がってん)
ただ、四天は現図曼荼羅に立体的に描くことはできないので、地天・日天は東方(上辺左側)、梵天は東方(上辺右側)、月天は西方(下辺左側)に配されています。
帝釈天のように人気のある神は数個所に描かれています。
焔摩天は、もともとヤマというインドの神で、中国に入って閻魔(えんま)大王となりました。
焔摩も閻魔も、ヤマの音写です。

日天は赤肉色で、天衣を着て、左右の手に蓮華をもち、五頭の馬がひく車に乗っています。
太陽を神格化した尊格です。
日天の両側には、左に惹耶(じゃや)、右に微惹耶(びじゃや)という姉妹の妃がいます。
両者は太陽の徳を神格化したものとされます。
月天は白肉色で、右手を腰に当て杖をもちますが、その先に半月があります。左手は胸に当てています。三羽のガチョウに乗っています。
月の光は暑さを忘れさせる清涼の輝きをもっていて、煩悩の熱を冷ます如来の慈光にたとえられます。
月天の左にも月天妃がいて、月天の徳を受けもちます。(こちらの妃は一人だけ)

日天と日曜、月天と月曜の関係は、水天と水曜、火天と火曜の関係と同じだと書いてあるのですが、今のところ私にはよく理解できていません。
日天も日曜も数頭の馬に乗っていますが、日天の方が馬の数が多いです。
日天には妃が二人いますが、日曜にも眷属が一人います。
どうやら日曜より日天の方が偉そうに見えます。
また、月曜には眷属がいないのに、月天には妃がいるので、こちらも月曜より月天の方が偉そうです。
なお、日天、月天は男性ですが、日曜、月曜は性別なしなのだと思います。

最外院より内側には地蔵院に日光菩薩、文殊院に月光(がっこう)菩薩もいますが、薬師如来の脇侍として有名なので、説明は省略します。


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